竜の里親2

    

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「と、父さんには何かいい思い出はないの?」
父さん・・・物心ついたときから、僕はドラゴンのことをそう呼んでいる。
もちろん本当の父親が他にいるであろうことは知っているが、僕にとってはこれまで僕を育ててくれたこのドラゴンこそが父親だった。
「ワシか・・・寝ているお前の体を舐めくすぐって日頃の鬱憤を晴らしたことかな・・・ふふふ・・・」
「な・・・そんなことしてたのかよ・・・」
「なんだ、今まで気がつかなかったのか?ふふ・・・鈍い奴だな・・・どれ・・・」
そう言うと、ドラゴンは青色の巨体を揺すりながら横たわったままの僕のところへとやってきた。
そして、そのまま僕の両手を寝床の上に押さえつける。
「な、何をするんだ?」
「ふふふ・・・なに、お前が寝ている間どんなことをされているのか、ちょっと体験させてやろうと思ってな」
「わっ・・・ちょ、ちょっとやめひゃあっ!」
ペロッという音と共に、唾液に湿ったドラゴンの舌が乳首を撫で上げた。
「さすがに寝ているときとは反応が違うな・・・ふふふふ・・・それっ」
ペロペロペロッ
「はう・・・く、くすぐった・・・ふああっ!?」
脇の下や脇腹をチロチロと舌先でくすぐられ、僕はこそばゆさに何度も体を捩った。
だが両手が動かせず、どうやってもドラゴンの舌から逃れることができない。
ペロペロッペロンペロッペロペロペロ・・・
「あ、ひぃ~・・・や、やめてぇ~・・・わ、わかったから・・・わかったからもうやめてぇぇ・・・」
僕は体中の敏感なところを舐め尽くされ、ドラゴンがようやく手を離してくれたときにはあまりのくすぐったさに全身ぐっしょりと汗をかいていた。

「はぁ、はぁ・・・」
「ふう・・・すっきりしたわ・・・ふふふ・・・」
散々に悶えまくった僕の様子を満足げに見下ろしながら、ドラゴンが呟く。
「い、いつもこんなことしてたのか・・・」
くすぐったさにロクに体も動かせないまま、僕は荒い息をつきながらドラゴンに言った。
「ふふ・・・週に1度くらい、お前がぐっすり眠ったときにな」
「ひどいよ父さん!」
「どうせお前は何も覚えていないのだろうが?それに、ワシの子供を名乗るならワシに逆らうでない」
フフンと鼻を鳴らしながら、ドラゴンが得意げに言い放つ。

確かに、育てられた恩がある以上僕もドラゴンに強くは反発できなかった。
せいぜい僕にできるのは、ささやかな抵抗にドラゴンの顔をキッと睨み返すことくらいだ。
「なんだ、ワシにもこの程度の楽しみがあってもよかろう?お前を育てるのにワシがどれほど苦労したことか」
どうやら、ドラゴンにはまだ苦労話があるらしい。
「た、例えば何さ?」
「お前が1人で排泄できるようになるまで、ワシがどうしていたか知っているか?」
そう言われれば、排泄は3歳くらいの頃にかなり厳しくドラゴンに躾られたような気がする。
洞窟の中で漏らせば食い殺すぞって脅されて・・・
まあ、その後1度ドラゴンの寝床に夜尿してしまって死ぬほど恐ろしい目に遭わされたのだが。
それからというもの、僕は催す度に必死で外に走っていってたな。
じゃあ、その前は一体どうしていたんだろう?
「ど、どうしてたの?」
「汚れたお前の体を洗うために土砂降りの雨の中に野晒しにしていた」
「そ、そんなことしたら風邪ひいちゃうじゃないか」
その言葉に、ドラゴンが僕を睨み付ける。
「だから病を患わぬようにその後1日中お前の体を温め続けたのだ。それも雨が降った日は毎日だぞ?」
ブツブツと、ドラゴンが愚痴を垂れ始めた。
「洞窟の前を美味そうな鹿が通ってもそれをみすみす逃す悔しさが・・・お前にわかるか?」
「結局腹が減ってただけじゃないか」
「ええい悪いかッ!1度などあまりの空腹にお前に噛みついたこともあったのだぞ!」
ドラゴンが僕に噛みついた・・・その状況を想像して、思わずぞっとする。

だが子育ての苦労を語るドラゴンは、どことなく楽しそうにも見えた。
もっとも、そうでなければ僕はきっと今まで生かされてはいなかっただろう。
「わ、わかったよ。でも、せめてくすぐるのは寝てるときだけにしてくれよ?」
「フン、もう途中で目覚めても朝まで止めはせぬからな」
そう言うと、ドラゴンが再び外へと出かけていく。ここ最近、ドラゴンは妙に外出が多かった。
まあ、僕にあまり手がかからなくなったから、単に自由な時間を楽しんでいるだけなのかもしれない。
僕は元通り寝床の上に寝転がると、日課の昼寝を始めた。

昼下がりの森の中を歩きながら、ワシは正直迷っていた。
さすがに、あの人間は1人でも十分に生きていくことができるようになっただろう。
それはつまり、もうワシのもとにいる必要はなくなったということだった。まあ、それはしかたない。
だが二十余年もの間成長の過程を目の当たりにしてきて、ワシはあの人間に愛着のようなものを感じていた。
いや、もしかしたらそれはまだ赤子だったあ奴を人間の国へ帰そうとして止めた時から、もうすでにワシの中に根付いていたのかもしれない。
1度、あの人間の本心を確かめてみる必要があるだろう。
ここまで育ててくれたという恩義でも感じているのか、きっとあ奴はワシのもとを離れることに何か抵抗があるだけなのだ。
ブツブツと独り言を呟きながら、ワシはもう何度も通った散歩の道を引き返し始めた。

夕方になって、ワシは洞窟に帰り着いた。
人間はもう昼寝からは目覚めていたようだったが、相変わらずワシの寝床の上でゴロゴロしている。
なぜ逃げぬのだ?ワシを信用しきっているのか?人間が、ドラゴンのワシを?
いや、そんなことは有り得ぬ。きっと・・・本当はワシのもとを離れて自由に生きたいと思っているはずなのだ。
「・・・帰ったぞ」
「あ、お帰り」
いつもと変わらぬ調子で、人間が答える。
「少し、お前に話がある」
「な、なんだよ急に・・・」
切迫した様子のワシの声を不審に思ったのか、人間は寝床から起き上がってワシをまっすぐに見つめた。
もう、言うしかない。だが、それを言えばどうなるかを想像して思わず声が震えてしまう。
「お、お前を・・・」
どうした、散々考えた末に出した結論であろうが。さあ言え、言ってしまえ!
ワシは覚悟を決めると、一気に声を絞り出した。
「お前をこれ以上ここに置いておくことはできぬ」
「・・・え?」
「すでにお前は1人で生きていけるであろう?ワシの手など借りずともな」
明らかに困惑の色を深めた人間に、ワシは更に追い討ちをかけた。
「もうここにいる理由はないはずだ。さっさと出ていくがいい」
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・」
「ええい黙れっ!今すぐに消えぬならお前をこの場で食い殺すぞ!」
そんなつもりは毛頭なかったが、ワシは遠慮がちに人間に向かって牙を剥いた。
「そ、そんな・・・・・・わかったよ・・・」
ワシの脅迫に怯える様子もなく、人間はそう言って落胆した様子で立ち上がるととぼとぼと洞窟の外に向かって歩いていった。

完全に人間の姿が見えなくなると、ワシは寝床の上に泣き崩れた。
「ぐ、ぐぅ・・・お前のためだ・・・わかってくれ・・・ううぅ・・・」
本当は、ワシだってあの人間を手放したくはなかった。
だが、もしワシに遠慮してずっとこの洞窟の住人のままでいたとしたら、あの人間の存在価値など全くなくなってしまうではないか。
途端に寂しくなった寝床の上で丸まりながら、ワシは夕闇に暮れていく空をじっと見つめ続けていた。

ドラゴンに突然洞窟を追い出されてから早1時間、すでに辺りは大分暗くなってきていた。
僕は何かドラゴンを怒らせるようなことをしたのだろうか・・・?
いや、そんなことをいったら僕の人生はまさにドラゴンに迷惑をかけっぱなしの人生だったじゃないか。
今まで一緒に住まわせてくれていただけでも、感謝しなければならないだろう。
こっぴどく叱られたこともあったけど、今までドラゴンは決して僕を見捨てたりはしなかった。
危険な目に遭った時だって助けてくれた。具合が悪い時はずっとそばについて僕の身を案じてくれた。
寒い夜はお互いに体を暖め合ったし、空腹に喘ぐ僕のために深夜に食べ物を獲ってきてくれたこともあった。
でも・・・さすがにもう面倒は見きれなくなったということなのだろう。

日の落ちた森の中を歩きながら、僕はこれからどうしようか考えていた。
僕の生まれた国へ行こうにも、すでに政権は倒れ国に住んでいた人々は各地へと移っていってしまったそうだ。
もう、この辺りには人間など誰一人として住んではいないのだ。
深い森の真ん中にたった1人放り出され、僕は行き場のない己の境遇に途方に暮れた。
「寒いな・・・」
僕は当然、服など着ていない。
いつもはぽかぽかと暖かい寝床の上で寝ていたからあまり気にならなかったけれど、外に出ればさすがに夜風が身にしみる。
今頃、ドラゴンはどうしているのだろうか・・・?
厄介者の僕がいなくなってせいせいしているのだろうか・・・?
冷たい風を避けるようにして大きな木の根元に寄りかかると、僕は膝を抱えて震えていた。

「・・・本当に・・・お前はどこかへ行ってしまったのだな・・・」
洞窟近くの大木の根元であの人間を見つけてから、この22年間で初めて迎えた独りの夜。
ワシは有り得ないこととは知りつつも、ひょっこりとあの人間が戻ってくるのではないかという淡い期待を抱いたまま真っ暗になった外を見つめていた。
もしかしたら、夜の寒さに震えているのではないだろうか・・・?
裸のまま外をうろつき歩いて、他の獣どもに襲われたりはしていないだろうか・・・?
独立できるようになったからといって自分で洞窟を追い出しておきながら、ワシはだんだんと心配になってきた。
やはり、種族は違えど親にとって子供はどこまでいっても子供らしい。

深夜になっても、ワシはついに眠ることができなかった。
どんなに忘れようとしてみても、あの人間のことが頭から離れない。
何1つ明かりになるようなもののない完全な暗闇の中で、ワシはあの人間との生活を思い起こしていた。
あ奴にはワシを困らせた記憶しかないようだったが、ワシにだって楽しかった思い出はたくさんある。
毎日洞窟へ帰ってくる度にワシを迎えてくれた声。自分で仕留めた獲物を得意気にワシに見せびらかしにきた時。
そしてなにより、人間でもないこのワシのことを父さんと呼んでくれたこと・・・
特別なことはなくても、日常の営みの中であの人間の存在はワシにとってなくてはならないものになっていた。
それを・・・ワシは自ら追い出したのだ。もう2度と、あんな生活は帰ってこない。
そして、あの人間も・・・
「う・・・うぐ・・・うぐぐ・・・・・・」
あの人間がくる前までは何十年もの間たった独りで暮らしていたというのに、今、ワシはこの孤独が辛かった。
一向に眠れそうな気配も感じられぬまま、ワシは更けてゆく夜の帳をただただ寂しく眺めているしかなかった。

「む・・・うむ・・・」
結局一睡もできぬまま、ワシは白々と明けてきた早朝の森に足を踏み出した。
不眠というものがこれほど辛いものだったとは・・・
あの人間は、一体どこへ行ったのだろうか?
ワシは肌寒い森の冷気を浴びながら辺りを見回したが、もう人間の気配はどこにも感じられない。
不安と眠気と、そして自責の念に苛まれながら、ワシはフラフラと人間の国があった方角へと向かった。
ワシも愚かな者だ・・・
白く曇った空から降り注ぐ光をその背に感じながら、ワシは己を罵った。
自分であの人間を追い出しておきながらそれが忘れられず、今もなおこうして探し出そうとしておるとは・・・

1時間も歩き続けた頃だろうか、ワシは前方に聳え立っていた1本の大木の根元に目を瞠った。
その陰から、人間のものらしき片手が覗いている。
ま、まさか・・・
突然、ワシは胸の鼓動が跳ね上がったのを感じた。足を早めるのも憚られ、息を殺してそっとその手へと近づく。
「う・・・」
恐る恐る大木の裏側に回ったワシが見たものは、寒さに動けなくなり意識を失って横たわっていたあの人間の姿だった。
人間の手の先を掴んでみると、まるで氷にでも触れたかのようにヒヤッとした冷たさが伝わってくる。
だが、どうやらまだ息はあるようだった。

急いで人間を広い道の真ん中まで移動させると、ワシはその上にガバッと覆い被さった。
ワシの胸に、腹に、そして人間の肩を抱える両腕にまで、冷え切った体の震えが伝わってくる。
「馬鹿者が、こんなところで眠りおって・・・」
ワシはフサフサの体毛で包むように人間を抱き上げ、ユサユサと体を揺すって冷たくなった体を懸命に暖めた。
「頼む、死ぬな・・・ワシが悪かった・・・ワシが浅はかだったばかりにお前をこんな目に・・・」
だがどんなに必死で暖めたところで、蒸散の気化熱で冷やされていく森の中では冷たい空気が次々と人間の体温を奪っていった。
ここでは助からない。ワシはその事実を悟ると、22年前にそうしたように人間の体に長い尻尾をグルグルと巻きつけた。
そのまま、20倍に成長した息子をグイッと持ち上げる。
「ぐぐ・・・重くなりおって・・・待っておれ・・・お前を絶対に死なせはせぬぞ」
尻尾で包んだまま人間を背に乗せると、ワシはヨタヨタと洞窟に向かって歩き始めた。

暖かい・・・そして柔らかい感触が背中に伝わった。これは・・・そうだ、いつもの寝床の感触だ。
それに、上に何かがのしかかっている。フサフサした毛に覆われたこの体は・・・あのドラゴンの体だろうか。
僕は、薄っすらと目を開けてみた。もう20年も見続けてきた洞窟の天井が、視界の全てを覆い尽くす。
ふと視線を腹の方へと移動させると、グッタリと疲れたような表情でドラゴンが僕の体の上に覆い被さったまま眠っていた。
「と、父さん・・・?」
呟きにも満たぬようなか細い声だったにもかかわらず、ドラゴンはそれで目を覚ました。
そして、僕の顔をじっと見つめ返してくる。
「・・・まだ、ワシを父さんと呼んでくれるのか?お前をここから追い出したこのワシを・・・」
「当たり前だよ・・・だって、僕は父さんとずっと一緒に暮らしたいんだ・・・だめ、かな・・・?」
感情の昂ぶりを抑えていたのかドラゴンはずっと無表情を保っていたが、ついにその眼から一筋の光が零れ落ちた。それを隠すように、ドラゴンが僕の腹の上にサッと顔を伏せる。
「いいとも・・・それほどワシとともに暮らしたいというのなら・・・ワシも、暖めてくれぬか?・・・息子よ」

深い森に隠された洞窟の奥で、人間とドラゴンは親子の絆を確かめ合った。
だれにも知られぬまま、彼らはこれからもひっそりと暮らしていくのだろう。
空を覆っていた薄い白雲はいつのまにか跡形もなく消え去り、煌煌と燃え上がる太陽が森の洞窟に祝福の光を投げかけていた。



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