命の契約2

    

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じっくりと僕の我慢が限界に達するのを待つように、ドラゴンはただじっと僕の顔を見つめたまま動かなかった。
だがそれでも心臓の鼓動とともにわずかに震える肉襞が、断続的に収縮を繰り返す膣壁が、少しずつ少しずつ僕のペニスに焦れったい快感を擦り込んでくる。
いつその膣が暴れ出して僕のペニスを搾り始めるかわからないというのに、僕はその沈黙に耐えるための心の堤防が徐々に崩れ始めてきているのを感じていた。
ゴクッと一際大きく唾を飲み込むと、僕は屈服しきった情けない表情でドラゴンに聞いていた。
「うぅ・・・ぼ、僕をどうするつもりなんだ・・・」
できることなら、僕はこのまま何事もなかったかのように解放されてそのまま暖かいベッドの上で眠りたかった。
だが一方では、この消化不良の快楽を味わわされたまま生殺しにされるのも辛かったのだ。
もっともこのドラゴンにしてみれば、僕がどうしたところで最終的に行きつく先は変わらないだろう。
なのに僕は今・・・その引き金を自ら引きそうな葛藤に悩まされていた。
「お前はどうして欲しいのだ?望み通りにしてやるぞ・・・」
快楽への欲求に打ち負けそうな僕の弱りきった目を奥まで覗き込みながら、ドラゴンが静かに囁く。
"許してくれ"という言葉と、"好きにしてくれ"という2つの相反する言葉が僕の喉元でせめぎ合いを始めた。

何度も唾を飲み込み、荒い息をつきながら、やがて僕の中で運命を決める一方の言葉が勝った。
いや、負けたというべきだろうか。
「で、できたら・・・優しくしてくれ・・・」
僕の屈服の言葉を聞き入れ、ドラゴンがゆっくりとペニスを締めつけた。
キュチュ・・・
「うぁ・・・は・・・あ・・・」
圧力に耐え切れなかった肉襞がペニスを擦るように前後左右に割れていき、この上もない快感が容赦なく流し込まれてくる。
たったそれだけの動作で、僕は何か熱いものが体内を駆け巡りながら股間に向かって駆け上がってくるのを感じていた。
「うぅ・・・」
「フフフ・・・」
固く目を瞑って射精を堪えようと力を入れる僕を、ドラゴンが満足げに眺め降ろしていた。

ズリュッ
「はぅあっ!」
唐突に与えられた強烈な圧搾に、僕は一気に限界ギリギリまで追い詰められてしまった。
ギチギチに張り詰めたペニスがビクンビクンと脈動しながら、射精の予感に震えている。
「遠慮はいらぬ・・・下手に耐えようなどとすれば却ってやりすぎてしまうかも知れんぞ」
ドラゴンはそう言いながら、こうも付け加えた。
「こんな形でお互いに道連れになるのは御免だからな・・・フフフフ・・・」
それは、ドラゴンが場合によっては僕を誤って殺してしまうという可能性を示唆していた。
契約によって命を共有しているからこそ、僕はなんとかドラゴンの餌にならずに済んでいるのだ。
だが普段ならいざ知らず、第一次的な性の欲求に突き動かされている今のドラゴンは脆弱な人間に対する加減などしたくてもできないのだろう。
僕にとって身を守るためにできることは、ドラゴンの責めに抗わずにおとなしく精を提供することなのだ。
ヌチュッ・・・クチャッ・・・グシュッミチャッ・・・
「うぁ・・・あああぁ~~~~~!」
何の予告もなくとどめの一撃を加えられ、僕はなす術もなくドラゴンの膣内に精を放った。
白濁液を噴出するペニスが根元から肉襞に舐め回され、しごき上げられ、揉み潰されていく。
まるで僕の精を一滴残らず搾り取るかのような激し過ぎる快感に、視界が白く霞んでいった。

半ば白目を剥くようにして悶え狂っていた人間の様子に気がついて、私はなんとか己を制して責めるのを止めた。
だが既に人間はあまりの快感に意識を失っていて、弛緩した両腕がベッドの端から外へ向かって垂れている。
しかたのない奴だ。まあ・・・こんな我慢をしなければならないのもあと少しの辛抱だろう。
私は近々訪れるであろう人間の肉を味わう機会に思いを巡らせると、気絶した人間の上に蹲って深い眠りについた。

「う・・・ん・・・」
体の上にのしかかる布団とは違う重さに、僕は呻きながら目を覚ました。
ゆっくりと目を開けると、僕の上であのドラゴンが蹲ったまま意外と小さな寝息を立てている。
ペニスはまだ膣の中に捕らえられたままだったが、昨日のように微弱な刺激が加えられるようなことはなかった。
恐らく、あの切ない快感もドラゴンが自らの意思で僕に与えていたものなのだろう。
僕はそれに負け、まんまとドラゴンの手の内に落ちてしまったのだ。
とにかく、ドラゴンを起こさないことには僕もベッドから這い出すことができない。
外は既に明るくなっており、空っぽになった腹がゴロゴロと遠慮がちになっている。
「ね、ねえ・・・起きてよ・・・」
なんとか動かせる両手でドラゴンの体を押し退けようとしてみるが、そんなことではとてもドラゴンの体をどかすことはできなかった。
それに、どうやら素直に起きてくれるつもりもないらしい。
仕方ない・・・ちょっと怖いけど・・・
僕は握り拳を固めると、幸せそうな寝顔を浮かべていたドラゴンの顔をガツンと1度だけ殴りつけた。
「ウグッ!」
苦しそうな声が上がり、ドラゴンが目を覚ます。
そして何が起こったのかを理解すると、昨夜のような恐ろしい殺意のこもった眼で僕をギラリと睨みつけた。
「お、起きた・・・?はは・・・」
心臓を鷲掴みにされたような恐怖が一気に噴き出してきて、僕は引き攣った笑いを浮かべてドラゴンの顔を見つめ返すことしかできなかった。

僕はドラゴンがその大きな頭の中で一体何を考えているのかを窺い知ることもできぬまま、殴りつけたことを心底後悔していた。
ドラゴンに怒りのこもった言葉の1つでも投げつけられれば少しは安心できるというものなのだが、僕の処遇をどうするのか思案しているような沈黙が否応無しに不安を掻き立てていく。
だがその沈黙を破ったのは、飢えに耐え切れずに唸りを上げた僕の腹の音だった。
ゴロゴロゴロ・・・
その音を聞きつけ、ドラゴンがズシッと僕にかける体重を少しだけ増した。
「ひっ・・・」
そして突然の動きに驚いて短い悲鳴を上げた僕の耳に口を近づけ、ドラゴンが囁く。
「今すぐ食い物を用意すれば、私を殴りつけたことは大目に見てやる・・・だが、お前が食うことは許さぬぞ」
「そ、そんな・・・僕だってお腹が空いて・・・」
「フフフ・・・お前も腹を満たしたいというのなら、それなりの仕置きを与えねばならぬな・・・」
その言葉とともに、僕はペニスが再び肉襞に締めつけられる感触を味わった。

「あ・・・わ、わかった・・・我慢するから許して・・・」
「・・・だめだ」
無慈悲な返事とともにグシャッという大きな音が鳴り響き、僕はペニスを思い切り押し潰された。
「・・・っ!!」
悲鳴すらも封じ込めるような筆舌に尽くし難い快感に、ベッドに押しつけられて動かぬ体を全力で仰け反らせる。
だがドラゴンは更に追い討ちをかけるように、僕の乳首を手から生えた爪の先でクリッと摘み上げた。
「ひゃあっ!」
「2度と私に逆らえぬように、骨の髄まで地獄の恐怖を擦り込んでやる」
「うあ・・・た、助けて・・・もうしないから・・・ああぁ~~~!!」
乳首を揉みしだかれながらペニスを執拗に蹂躙され、僕はあっという間に絶頂に達してしまった。
だがドラゴンはまだ怒りが収まらなかったらしく、体を少しだけ浮かせると腰を前後に激しく揺り動かした。
白濁液を吐き出すペニスが熱い膣の中で滅茶苦茶に磨り潰され、僕は意思とは関係なく精を残らず搾り尽くされた。

「あは・・・あ・・・ご・・・ごめんなさいぃ・・・」
ようやく声が出せるようになると、僕は大粒の涙を零しながらドラゴンに懇願していた。
もはやドラゴンから与えられる刺激は気持ちがいいなどというレベルを通り越して、精神がガリガリ削られていくような耐え難い苦痛へと変わっている。
「フン・・・とっとと食い物を持ってくるのだな」
ドラゴンはそう言いながらペニスを膣から引き抜くと、僕をグイッとベッドの外へ押し出した。
「う、うわあああん!」
畳の上へドサリと落とされた次の瞬間、僕は恐怖と悔しさのあまり激しく泣きじゃくりながら寝室を飛び出していた。

僕はなんとか寝室から台所まで逃げてきたものの、すぐに作れる料理は昨日と同じく卵焼きしかなかった。
流石に家庭用の小さなフライパンでは1度に10個もの目玉焼きを作るのには難があるし、なにより見た目もそれなりに綺麗に見えなければドラゴンも手をつけてはくれないだろう。
僕は昨夜と全く同じ手順で巨大な卵焼きを作り上げると、何か文句をつけられはしないかと思いながら恐る恐る寝室へとそれを運んだ。
「・・・またそれか・・・」
僕の手にしていたものを一瞥するなり、ドラゴンは溜息にも似た深い息をつきながら言葉を漏らした。
「すぐにできるのはこんなものしかなくて・・・」
「フン・・・まあいい、我慢してやる」
意外と寛容なそのドラゴンの態度に、僕は一抹の不安を覚えた。
何か後にある大きな楽しみのために、今の自分を抑えているような気がしたのだ。
だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
一瞬にして空になった目の前の皿を見つめながら、僕はもう1度自分のご飯のために卵焼きを作ることを考えて暗くなった。

"私のためにたっぷりと働いてもらう"と言った割に、ドラゴンは昼の間はずっとベッドの上でウトウトと惰眠を貪っているだけで、特に僕に対して何をしろだとかというようなことを言ってはこなかった。
ただ外出することだけは許してくれないようで、僕が寝室から出ていこうとする度にドラゴンがジロリと睨んでくる。
結局の所、ドラゴンは日に数度の食事と夜のお楽しみさえあれば、それ以上のことは望んでいないのだろう。
冷蔵庫の中に山積みになっていた卵のパックが物凄い勢いで消費されてはいったものの、何度も懲りずに出されてくる卵焼きにドラゴンが文句をいうことはなかった。

3日目の朝、僕は例によってドラゴンに昨夜の行為で気絶させられたまま下敷きにされていた。
「起きろ・・・起きろ小僧」
そして頬に鋭い爪先をグリグリと押しつけられた痛みに驚き、慌てて飛び起きる。
「う・・・な、何・・・?」
「今日くらいはお前にも自由を許してやる。外へ出ていっても構わんぞ」
「ほ、本当に?」
寝ぼけた頭に聞かされたドラゴンの意外な言葉に、僕はキョトンとした表情で聞き返していた。
「嫌か?」
「え・・・いや、その・・・そんなことないけど・・・」
一体何だというのだろう?
3日目になって、ドラゴンにも情けというか、優しさのようなものが宿り始めたのだろうか?
とにかく、自由にしてくれるというのならまずはあの本を図書館に返しにいこう。
それからこの先数日間分のおかずを買い込んで、と・・・
自由になったという喜びに、僕は目の前のドラゴンの存在も忘れて今日の予定を立て始めていた。

相変わらずベッドの上で蹲ったままのドラゴンを尻目に、僕は本当にでかけてもいいものか半信半疑のまま家を出た。
ドラゴンの朝ご飯を作らずに出てきてしまったけれど、何も言わないのだから多分いらないのだろう。
とりあえず、まずはあのドラゴンを呼び出したこの古びた本を図書館に返してこよう。
1週間しか借りていることができないというのに、あのドラゴンがそう頻繁に僕を自由にしてくれるとは思えない。今の内に返しておくのがいいだろう。
家の前に停めてあった自転車に乗り込むと、僕はあの無人の図書館に向かってペダルを漕いだ。
ほんの数日前にも来たはずの図書館が、何だかひどく懐かしく思えてくる。
家の中でドラゴンという異質な存在に軟禁されていたこの2日間が、僕にとっては何ヶ月分もの長さに感じていたのかもしれない。
珍しく誰もいない図書館の中を適当に散策して本を返却してくると、僕は食料を買い込むために新たな目的地へと向けて自転車を走らせた。

「フフフ・・・今夜が楽しみだな・・・」
口の中に広がる甘い人間の肉の味を想像しながら、私は次々と湧き出してくる唾液を抑えるのに苦労していた。
もうすぐ、命の契約の期限が切れようとしているのを感じる。
恐らく、あの人間は己の血をたったの3度しか儀式に捧げなかったのだろう。
3日目にして早くもご馳走にありつける幸運に見舞われ、私は人間の柔らかいベッドの上でニヤニヤとほくそえんでいた。
あの人間さえ始末してしまえば、後は外を出歩いている若い娘も食い放題になるだろう。
命の契約は、本来ならば竜を呼び出した人間がその竜と心を通わせるために用意する時間なのだ。
多くの人間は竜を己の下僕とするため、竜に何か願い事をするため、或いは竜と友情を結ぶためなどという理由で儀式を行い、竜を説得したり時には戦い合ってお互いを認めるようになるのだ。
だが、あの人間はただの興味本位で私を呼び出しただけだった。
私に対する抵抗の術を一切用意せず、ただただ私の存在に怯えているだけの無力な存在・・・
そんなただの足枷のような鬱陶しい人間との契約も、今夜で切れることになる。
フフフフフ・・・傷んだ本のせいでそんな事実も己の運命さえも知らず、呑気に買い物などに出ていくあやつの憐れなことよ。
私は今夜訪れる至福の瞬間を想像して目を閉じたまま軽く首を巡らせると、人間が帰ってくるまで眠りにつくことにした。

「た、ただいま・・・」
もうほとんど夜と言っても差し支えないほど暗くなった頃、僕は不安げな面持ちと買い物袋をぶら提げながら、そっと玄関から家の中へと入っていった。
寝室を覗くと、朝見たときと同じようにドラゴンがベッドの上に蹲っている。
夜のご飯も要求しない所を見ると、どうやら本当に今日は僕を自由にしてくれる日であるらしい。
買ってきた食べ物で久々にゆっくりとした食事を摂ってお風呂に入ると、僕はさっぱりした体に下着だけを身に着けて寝室へと入っていった。

僕が寝室へ入ると、それまで微動だにしていなかったドラゴンが突然嬉しそうに顔を上げて僕をベッドに誘った。
「ここへこい。早く来るのだ」
時刻は既に午後11時を過ぎていて、僕は本当ならこのままゆっくり睡眠も取りたいところだったのだが、ドラゴンも流石に夜の相手はしてほしいようだった。
「う、うん、ちょっと待ってて」
いつになく目を輝かせたドラゴンの様子を不審に思いながらも、破り取られないように予め下着を脱いでからドラゴンの待つベッドの上へと攀じ登る。
そしていつものように柔らかなベッドの上でドラゴンに組敷かれると、僕はドラゴンの動きを待った。
だがドラゴンは顔にニヤニヤと笑みは浮かべていたものの、いつまで経っても僕のペニスをその膣に咥え込もうとはしなかった。
「・・・どうしたの?」
明らかに、ドラゴンの様子がおかしい。
だが我慢しきれなくなって思わず発した僕の言葉には、ドラゴンの不思議な答えが返ってきた。
「フフフ・・・食事の時間を待っているのだ」
「食事?ああ、今日は何も食べてないんだっけ・・・それなら今すぐ作るよ」
「その必要はない」
あっさりと断るドラゴンの態度に、どこかよそよそしさが見え隠れしている。
まるで、もう僕に望んでいることは何もないとでも言いだけな表情だ。

「じゃ、じゃあさ・・・今日はもう眠らせてよ・・・」
今一つドラゴンの意図が読めず、僕はとりあえず探りを入れてみることにした。何か嫌な予感がする。
「お前は私を呼び出したときに、自らの血を捧げただろう?何度捧げたか覚えているか?」
「え?ああ・・・ええと・・・3回だったかな・・・それがどうかしたの?」
「それはな、命の契約の期限を決めるための儀式なのだ。血を1度捧げる度に、契約の期限が1日延びるというな」
待てよ・・・今日は確か、ドラゴンを呼び出してから3日目に当たるな・・・
そう思った瞬間、僕は心中に渦巻いていた不安が確信に変わるのを感じていた。
「そ、それってまさか・・・」
「フフフフ・・・そうだ、今夜の午前0時に、我々の間の契約は消滅する」
どこか勝ち誇ったような眼で僕を見下ろしながら、ドラゴンが悠然と答える。
「契約が切れたら・・・一体どうなるんだ?」
「さあ・・・どこかの奴隷が餌に変わるのかもしれんな・・・」
そう言いながら、ドラゴンはペロリと舌なめずりをすると僕に向ける視線を一変させた。
狩るべき標的を見る眼ですらない、無抵抗な食い物を見つめるような冷たい眼・・・
「あ・・・あ・・・ま、まさか食事って・・・」
無意識に、僕はそばにあった時計へと目を走らせた。
時報を聞いて正確に合わせた目覚し時計が、11時34分を示している。
「ぼ、僕を・・・食べる気なのか・・・?」
「フフフ・・・娘の肉でないのは残念だが・・・久し振りの人間はさぞ美味いだろうな・・・フフフフフ・・・」
「う、うわああああああ!は、離してくれぇっ!」
僕は突然食い殺されるという恐怖に駆られて、慌ててドラゴンの腹下から這い出そうと試みた。
だがドラゴンの巨体に本気で押さえ付けられてしまっては、とても逃げることなどできるはずもない。
ドラゴンは僕の両手足を大の字に広げてベッドに押しつけると、今度はジュルリという大きな唾液の水音を響かせながら再び舌をなめずった。

腕1本も動かせなくなるほどの完璧な拘束に己の無力さを思い知らされると、僕は抵抗を諦めて涙を浮かべた目で再び時計を確かめた。
11時40分・・・あと20分もすれば、僕はこのドラゴンに食われるんだ・・・
絶対に逃げることができないという絶望感がじわじわと心の中に侵蝕してきては、僕の胸をきつく締めつける。
「あ・・・う・・・ぅ・・・た、助けて・・・」
こんな恐怖を味わいながらただただ食われるのを待つなんて、通常の神経ではとても耐えられるはずがない。
力なく喘ぐ僕を見下ろすドラゴンの顔にも、徐々に愉悦の色が広がりつつあった。

ゴロゴロゴロゴロゴロ・・・・・・
とその時、雷鳴のような音を轟かせてドラゴンの腹が空腹の唸りを上げた。
深い奈落の底で何か得体の知れない物が蠢くような不気味な音と振動が、僕の鼓動をさらに早めていく。
「・・・腹の方が先に音を上げたようだな・・・早くお前をよこせと騒いでおるわ」
「あ、ああぁ・・・」
死へと続くカウントダウンが、刻々と迫りつつあった。時刻はもう11時53分を示している。
「フフフフ・・・待ち切れぬなぁ・・・」
ペロッという音とともに、ドラゴンが僕の頬を舐め上げた。
頬を伝って流れ落ちていた涙がその舌で掬い取られ、分厚い肉塊に塩辛い刺激をもたらしていく。
「ひぃぃ・・・お、お願い・・・食べないで・・・こんなのいやだぁぁぁ・・・」
唯一自由な首を左右に振りながらドラゴンに懇願したものの、ドラゴンはそんなことにはお構いなしに食事の時間を告げる時計に意識を向けていた。
後3分で命の契約が終了し、僕とドラゴンには何の繋がりもなくなるのだ。
あの本の脚注まできちんと読むことができていたら、こんなことにはならなかったかもしれないのに・・・
「フフフ・・・後1分だ。精々覚悟を決めるのだな」
「どうして・・・僕が一体何をしたっていうんだ・・・僕はあんたを呼び出しただけじゃないか・・・」
僕はもうどうしていいかわからずに、咽び泣きながらドラゴンに向かってひたすらに話しかけていた。
「ご飯だって作ったし、夜の相手だってした・・・あんたの言うことはなんでも聞いてたはずなのに・・・」
「ならば、お前に若い娘を用意できるのか?」
「そ、それは・・・」
ドラゴンはそれ見ろと言わんばかりに尊大に顎を持ち上げると、チラチラと時計を気にしながら先を続けた。
「フン、他人を犠牲にしてまで生きたくはないか。どうせお前が死ねば、私はそこらの人間を食い殺すのだぞ」

もはや、人間からは何の返事も返ってこなかった。
ただただ絶望の表情と大粒の涙を浮かべながら、目を瞑って恐怖にカチカチと歯を鳴らしている。
やがてチッという音とともに、ついに待ちに待った契約の期限が訪れた。
一瞬ポッと胸の内が暖かくなったような感触の後、淡い光が輝いては消えていく。
人間もそれを感じていたようで、再びさらなる死の恐怖がぶり返してきたようだった。
そしてガバッという音が自分にも聞こえるような勢いで巨大な顎を一杯に開くと、私は人間に向かって牙を振り下ろすべく一瞬首を仰け反らせた。
「う、うわああああああああああああああああああ―――」
その直後、人間が発した断末魔の叫び声が深夜の闇を切り裂いていった。

だが突然プツリと途切れた悲鳴に、私は思わず動きを止めると人間の顔を覗き込んだ。
あまりの恐怖に限界を迎えてしまったのか、人間が蒼白な顔で白目を剥いたまま気絶している。
最後に絞り出した涙が顔の横を伝って流れ落ち、頬はこの短時間の間にげっそりと痩せこけてしまったようにすら見えた。
数十分もの間食い殺されるのを成す術もなく待たなければならない苦しみと恐怖は、この人間にとって想像を絶するものだったのだろう。
私は頬に残った涙の後をペロリと舐め取りながら、人間の最期の言葉を思い出していた。
"あんたの言うことはなんでも聞いてたはずなのに・・・"
確かに、この憐れな人間はこれと言って私に逆らったことなど1度もなかった。
さすがに赤の他人を私の食事に差し出せというのには難色を示したものの、今日などはむしろ生き生きしていたようにすら思えてくる。
「・・・こやつを食うのはいつでもできるか・・・」
一気に人間の頭を噛み砕こうとした勢いを殺がれ、私はゴロゴロと腹を鳴らしたまま人間の上でしばらくの間葛藤していた。
人間の肉は確かに大好物だが、私は丸1日人間のベッドの上で寝ているのが気に入ってしまっていたのだ。
こやつを殺してしまえば、これからは外へ食い物を探しに出歩かなくてはならなくなるだろう。
それに・・・この人間の作る料理がなかなか美味いのも事実だった。
「ふう・・・腹が減ったな・・・」
私は目の前に転がる"奴隷"を見つめながら、容赦なく鳴り響く腹を抱えたまま無理矢理眠りについた。

「ん・・・」
暗闇の中に、僕は意識が戻ってくるのを感じた。
薄く目を開けてみると、窓から眩しい朝日が寝室の中へと入り込んできている。
そして僕の腹の上では、昨日と同じように穏やかな顔で蹲ったドラゴンが相変わらずスースーと小さな寝息を立てていた。
「ひっ・・・」
これから食われるのかという不安に思わず短い悲鳴を上げて身動ぎした拍子に、ドラゴンが目を覚ます。
「やっと起きたか・・・」
ドラゴンはそれだけ言うと、ズッシリと僕に体重を預けていた体を浮かせて解放してくれた。
「・・・助けて・・・くれるの?」
「お前の泣き顔があまりに憐れだったのでな・・・」
そう言って僕の顔を鼻先がくっつくくらいの間近から見つめながら、ドラゴンが後を続ける。
「これからも私の言うことを聞くというのなら、もうしばらくは生かしておいてやる」
「う、うん・・・人間を食わせろっていうんじゃなきゃ・・・何でも言うこと聞くよ・・・」
ゴロゴロゴロ・・・
その途端、ドラゴンの腹が再び抗議の声を上げた。
ドラゴンは一晩中・・・いや、もう丸1日何も食べていないのだろう。
どうすればいいのかわからずにキョトンと巨大な顔を見つめ返していると、ドラゴンが大声で怒鳴った。
「何をしておる、私は腹が減っておるのだ。さっさとあのタマゴヤキとやらを作って来ぬか!」
「あ、う、うん、待ってて」
僕は慌ててベッドから這い出すと、台所へ向かうべく寝室の入口に向かって駆け出した。
その背後から、さらにもう一言声が聞こえてくる。
「いつもより多く作るのだぞ!」

素っ裸のまま台所へと到着すると、僕は服を着る間も惜しんで昨日買ってきた買い物袋の中から卵の10個入りパックを3つ取り出してその中身を全てボールの中へと割り入れた。
「あは・・・あはは・・・」
たっぷりと湛えられたとき卵の湖を眺めながら、思わず心の底から笑い声が溢れてきてしまう。
食費はかさむかもしれないけど・・・僕はもうしばらくドラゴンと楽しい日々が続けられるような気がした。



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