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黒竜の葛藤2

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rogan064

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ペロッ・・・ペロッ・・・
「う・・・ん・・・」
瞼越しに突き刺さる陽光の眩しさとザラザラした湿った物に顔を擦り上げられる感触に、僕は手放していた意識の糸を探り当てていた。
とても暖かい・・・まるで極上の羽布団に包まっているかのようだ。
ペロッペロッ・・・
再び顔を擦り上げられ、僕はゆっくりと目を開けてみた。
目の前に巨大なドラゴンの顔が見え、大きな舌が僕の頬を駆け上がっていく。
「ん・・・な、何してるの・・・?」
僕が起きたのに気がついたのか、ドラゴンは舐めるのをやめると少しだけ僕から顔を離した。
その眼に、とても心配そうな輝きが宿っている。
下を見ればドラゴンの柔らかくて暖かい腹が僕の体に絶え間なく擦りつけられていて、僕は氷点下の砂漠の夜を裸で過ごしたというのに全く寒さを感じずに済んでいた。

「僕を・・・心配してくれたの・・・?」
少年から投げかけられた率直な疑問に、私は素直にコクリと頷くしかなかった。
「グルル・・・」
初めは自分の命が心配で少年を助けようとしていただけのはずだったのに、私はいつのまにか本当にこの少年の身を案じるようになっていたのだ。
それはこの少年が、私にとっても初めての交尾の相手だったからなのかも知れない。
人間などに・・・そんな考えは、もう捨てることにしよう。
「ありがとう・・・昨日のあれ・・・とっても気持ちよかったよ」
その少年の一言に、私は思わず耳を疑った。
昨日あれだけの目に遭って、彼は私のことを恐れたり恨んだりはしていないのだろうか?
「もしよかったら・・・これからもドラゴンさんに僕と一緒に暮らしてほしいな・・・だめかい?」
さらに予想を覆すことを言われ、私は一瞬戸惑った後に激しく顎を横に振った。

「よかった・・・それじゃあ、村へ行こうよ。この岩地からだったら、今日中には着けるはずだよ」
少年はそう言いながら起き上がって乾いた服を着ると、どうしてよいかわからず呆然としていた私の背中へと登り始めた。
そして何とか背の上へと辿り着き、私の首へ愛しげに抱きついてくる。
「村へ着いたら、美味しいものをいっぱい食べさせてあげるからね・・・」
まるで寝言か何かのようにそっと呟いて、少年は私の背中で再び眠ってしまった。
「ふう・・・まるで体よく使われているような気がするが・・・それも案外悪くはないな・・・」
少年が落ちないように尻尾で固定すると、私は高く昇った太陽に背を向けた。
目を凝らせば西の地平線の彼方に、まるで豆粒のように人間達の居住地が見える。
容赦なく照りつける灼熱の太陽が恨めしかったが、ようやく目的地が見えてきたことに私は黙って歩き始めた。

足の沈む砂丘を乗り越え砂を叩きつける熱風に耐えながら、私はようやく少年のいう村の近くまでやってきた。
空を見上げれば、相変わらず盛んに燃える太陽がすでに西に傾きかけている。
少年はすでに目を覚ましていて、私の上に跨りながら徐々に近づいてくる村の様子を感慨深げに見つめていた。
「グ・・・グル・・・」
それにしても疲れた・・・
少年と出遭ってからというもの、昼の間は休まず砂漠を歩き続けた疲労が私の手足を蝕み始めている。
彼の前で弱った姿など見せたくはなかったが、私はつい荒い息とともに小さな唸り声を漏らしてしまった。
「大丈夫?僕、降りた方がいい?」
情けないことだ。今度は私の方が少年に心配される番だというのか。
私はまだ折れずに残っていた気力で首を横に振ると、後少し、後少しと足を前に出し続けた。

「わあ、着いたぞ」
疎らに建てられた人間達の居住区を前にして、少年が大声で叫んだ。
村の中央には大きな井戸が掘られていて、そこからコンコンと澄んだ水が湧き出している。
村をグルリと囲むように樹木もいくつか生えていて、そこはまるで人工のオアシスのようだった。
「おーい!」
少年の呼びかけに、井戸の周りで水を汲んでいた数人の人間達がこちらを振り向く。
彼らは私の姿を見て一瞬恐れの表情を浮かべたものの、背中に乗っている少年の姿を見て警戒を緩めた。
「おお、帰ってきたのか!・・・荷物はどうしたんだ?それに、そのドラゴンは・・・」
「僕のラクダが逃げちゃってさ・・・困ってたところを、このドラゴンさんに助けてもらったんだよ」
違う・・・少年のラクダを逃がしてしまったのはこの私だ。
それに少なからず恐ろしい目にも遭ったというのに、それをおくびにも出さないとは・・・
「そうか・・・それで、この後どうするんだ?」
「僕と一緒に暮らしてくれることになったんだ。とってもおとなしい性格だし、いいでしょ?」
「あ、ああ・・・そりゃ構わないが・・・」
そう言ってもらえるととても助かる。
大勢の人間達の興味深げな視線にさらされて、私は少しだけ頭を低めた。

夜になって、私は少年の家の中で蹲っていた。
彼の両親はすでに他界し、少年は時折村で採れる作物や香辛料を隣の国へ売りに行って生計を立てているらしい。
その荷物や諸々の持ち物をラクダとともに失ってしまったのは、少年にとっては相当な損失だったことだろう。
だが彼は私を責めるどころか、ともに暮らしてほしいとまで言ってくれたのだ。
しかも村人達のお陰で、私は数日振りに満腹になるまで羊の肉を食べさせてもらった。
「ドラゴンさん・・・もう寝てる?」
人間に対する感謝でむにゃむにゃと睡魔を咀嚼していた時、私は少年に呼びかけられて首をもたげた。
見れば、少年が大きなベッドの上で横になりながら私の方へと顔を向けている。
だがその体には何も服を身に着けておらず、普段は上からかけるであろう寝具の類いも全てベッドの脇へと押しやられていた。
「グル・・・?」
家の中にいるとはいえ、室温を上げるような熱源は何も見当たらない。
寒くはないのかと首を傾げていると、少年が私に向かって手招きをしている。
「一緒に寝ようよ。ドラゴンさんも、寒いでしょ?」
それはとても裸で言う言葉ではないはずなのだが、私はそれで少年の意図を察していた。
のそりと起き上がり、少年の横たわるベッドヘそろそろと近づいていく。
そしてそっとベッドの上へと攀じ登ると、私は少年の体をフサフサした腹の毛皮で包み込んだ。
「ああ・・・」
心底気持ちよさそうに、少年が息を漏らす。
初めは遠慮がちだったが、体の中にほんのりとした熱が篭り始めると、私はガバッと少年の体に抱きついていた。

柔らかなベッドの上でドラゴンの巨体にのしかかられ、僕は肺の中の息を全て吐き出した。
だが、別に苦しくはない。
温もりを纏った布と毛皮に挟みつけられる感触が、少しずつ快感へと変換されていく。
「お、お願い・・・ぐりぐりしてぇ・・・」
あまりの気持ちよさに恍惚の表情を浮かべながらドラゴンにお願いすると、ドラゴンは言われるままに体を左右に揺すり始めた。
グリ・・・グリグリグリ・・・
適度な体重と肌触りのよい体毛で覆われた腹にすり潰され、硬い鱗に覆われたドラゴンの脇の辺りを両手でギュッと抱き締める。
そしてどちらからともなく、僕達はお互いにお互いを求め合った。

ジュル・・・
僕の皮膚とドラゴンの体毛とが擦れ合う乾いた音の中に、不意に飛び込んできた粘着質な水音。
固く屹立した僕のペニスと愛液に潤ったドラゴンの秘所は、半ば必然的に再度の結合を果たしていた。
だがまたあの快感を味わえると身を縮めた僕の顔を、ドラゴンが心配そうに覗き込む。
「大丈夫・・・僕は大丈夫だよ・・・」
ドラゴンを安心させるようにそう呟くと、僕はドラゴンの蒼い瞳に優しげな光が宿ったのが見て取れた。

チュプッ・・・ヌチュ・・・
私は前のように理性を失わないよう己を抑えながらも、膣に咥え込んだ少年の肉棒をゆっくりと締め上げた。
「はぁぁ・・・」
幸せの中で感じる快感に、少年が喘ぎを漏らす。
「グゥ・・・」
私の秘所も先程の快楽の記憶を蘇らせたのか、喜びに満ちた戦慄きで少年を歓迎していた。
チュルル・・・ズチュッ・・・グチュ・・・
腰を動かす度に、少年が身動ぎする度に、そしてお互いが呼吸をする度に、肉棒と膣壁が愛液を纏って擦れ合う。
目の前の無力な少年を一方的に責めているという感覚が、私の中で高揚感となって弾けようとしていた。

「い、いいよぉ・・・も、もう僕・・・限界・・・」
ブシュッという音とともに、少年が先に果ててしまう。
だが膣の中に放たれた彼の熱い滾りが刺激となって、私も一気に絶頂の手前まで押し上げられた。
「ウグ・・・オォ・・・グルォォォォ!!」
射精後の余韻に少年の肉棒がビクンと跳ね、それが私へのとどめとなった。
爪を立てぬように気遣いながらも少年の体を力強く掻き抱き、体中に飛散する快楽の波動にブルブルと震える。
「ああっ・・・は・・・ぁ・・・」
深夜の閨に、少年の弱々しい声が響き渡った。
熱く燃え上がったお互いの体は寝具などなくても寒さを感じぬほどに火照り、素晴らしい伴侶を手に入れたという多幸感が背筋を焚きつけていく。
静かだが激しい少年との行為が終わると、私達は結合したまま抱き合って朝まで眠った。

「起きて、ドラゴンさん・・・」
翌朝、私はユサユサと体を揺すられる感覚と少年の声に目を覚ました。
目を開けると、少年が私の重い体をどけようと必死になっている。
私が慌てて体を浮かせると、少年はのそのそとベッドから這い出していった。
服を着た少年の後について外に出てみると、澄み渡った空に赤い太陽が顔を出している。
そして眩しげに空を見上げた私に向かって、少年が言いにくそうにおずおずと口を開いた。
「ドラゴンさん、昨日の今日で悪いんだけど・・・隣の国まで僕を運んでくれないかな・・・?」

確かに、少年のラクダを奪ってしまったのは私だ。
だからその代わりに私が少年を運ぶのは構わない。
だがあのオアシスに辿りつくまでにも、最低でも2日はかかるのだ。
その後どのくらい歩かなければならないのかは分からないが、少なくとも往復で1週間以上はかかってしまうことだろう。
私は昨夜の幸福を噛み締めると、少年に向かってコクンと大きく頷いた。
「ありがとう!」
パッと顔を輝かせて、少年が商売に使う作物を採りに畑の方へと走っていく。
その間、私は静かにその場に蹲って少年の準備が整うのを待っていた。

しばらくすると、少年は大きな麻袋をいくつか手に持って戻ってきた。
そしてそれを抱えたまま、私の背中へと登っていく。
「じゃあ、行こうか」
丸みを帯びた背中の上にちょこんと跨り、少年が元気よく声を上げる。
その声に後押しされ、私は意を決すると長い尻尾で少年の体をグルリと絡め取った。
「あ・・・何するの?」
突然のことに少年が不安げな声を漏らすが、そのまま畳んでいた翼を大きく広げる。
空を飛ぶことがわかり、少年が荷物を離さぬように自らの体に括り付けて私の首へと抱きついた。

バサァッ!
大きな羽ばたきとともに、ドラゴンの体が宙に浮いた。
僕を乗せているせいなのか初めは少しフラフラとしていたが、それにもすぐに慣れた様子で晴れ渡った空へ真っ黒なドラゴンの体が舞い上がる。
「うわあ・・・」
見る見る内に村が小さくなり、美しい曲線を描く砂丘の稜線が眼下に広がった。
「グオオオオオオオオオン!」
そしてまるで喜びを表現するかのように大きく咆哮を上げると、ドラゴンが東へ向かって翼を羽ばたく。
バサッバサッバサッ・・・
速い・・・まるで風のようだ。
目まぐるしく流れていく眼下の景色に、僕は空を飛んでいるという実感とともに胸を躍らせた。
ほんの1時間程飛んだだけで、初めてこのドラゴンと出遭ったあのオアシスを飛び越えてしまう。
「すごい!すごいよドラゴンさん!」

嬉しそうにはしゃぐ少年の声に、私は胸を張って飛び続けた。
心の通った者とともに空を飛ぶことがこれほどまでに清々しいことだとは・・・
更に1時間程飛び続けると、やがて大きな町が見えてきた。
石造りの建物、砂で覆われた道路、黄みがかった布で身を包んだ大勢の人間達。
どこを見ても淡い黄色で覆い尽くされた世界ではあったが、少年にとっては重要な生活拠点の1つなのだろう。
私は人目につかぬように町から少し離れた所にある岩陰に少年を降ろすと、小さく唸り声を上げた。
「グルル・・・」
「うん、ドラゴンさんはここで待ってて。夕方頃には戻ってくるから」
そう言うと、少年は両手一杯に商売道具を抱えて町へと駆け出していった。
あの小さな村から約150キロ・・・
ラクダに揺られて歩き続けたとしても、砂漠では4、5日はかかる距離だろう。
少年は生きるために、いつもこんな所まで厳しい砂漠を乗り越えてやってきていたのだろうか。
そう考えると、私は少年の身の上がとても気の毒に思えた。
岩陰から少しだけ首を突き出して町の様子を窺うと、大勢の人々が行き交う通りの中に風呂敷を広げて品物を売る少年の姿が見える。
「あんな少年が・・・逞しいものだな・・・」
私は疲れた翼を休めるためにそっと日陰に蹲ると、静かに少年の帰りを待つことにした。

「ただいま・・・ドラゴンさん?」
「グ・・・グル?」
少年の呼びかけに、私はハッと目を覚まして辺りを見回した。
空はすでに真っ赤な夕焼けに染まっており、少年が両手に金貨の詰まった袋を持って私の前に立っている。
どうやら、いつのまにか眠ってしまっていたようだ。
背に乗りやすいように身を低くしてやると、少年が嬉しげに私の背中を攀じ登ってくる。
そして朝と同じようにその小さな体を尻尾で固定してやると、私は西に向かって飛び立った。
上空で吹く風は地上の砂嵐にも似た烈風とは違い、なんとも涼く感じられた。
いや、もしかしたらこの胸の内に湧き上がる幸福感がそう感じさせているのかもしれない。
少しずつ地平線の向こうに沈んでいく太陽を追いかけるように飛んでいると、村に着くまでの2時間近い時間などあっという間に過ぎ去ってしまった。
村人達を驚かせぬように少年の家の前に静かに着地すると、少年が慣れた様子で私の背から滑り降りていく。
やれやれ・・・すっかり乗りこなされてしまったものだな・・・
苦笑にも似た鼻息を噴き出すと、私は少年に続いて家の中に入っていった。


それからというもの、少年は毎日のように町へ出稼ぎに行くようになった。
今までは10日に1度程度しか家の中で夜を過ごすことはできなかったが、ドラゴンのお陰で町から日帰りすることができるようになったからだ。
そして夜になると、彼らはどちらからともなくその身を暖め合い、忘我の楽しみに身を委ねるのだ。
だが・・・蜜月の時が長くは続かないように、当のドラゴンすらもが忘れ去っていた命の契約の期限が訪れようとしていた。


初めて少年と出遭ってから数年後、私はいつものように彼を町へと送り届けると、すっかり私の昼寝の場と化した岩陰で至福の一時に浸っていた。
「う・・・?」
だが昼を過ぎてしばらく経った時、私は胸に妙な違和感を感じていた。
一瞬ポッと胸の内が暖かくなったような感触があり、ほんのりと淡い光が輝いてすぐに消えていく。
「これは・・・そうか・・・もうあれから3年も経つというのか・・・」
命の契約の終了・・・それは、長く心を1つにしてきた少年と決別しなければならないということを意味していた。

すっかり薄暗くなった砂漠の空を村へ帰る途中、少年が私に話しかけてきた。
「ねえドラゴンさん、今日さ、ちょっと不思議なことがあったんだ」
「グル・・・?」
それが何なのか私にはすでにわかっていたものの、私はあえてとぼけた振りをして少年の言葉を待った。
「お昼頃に、何か急に胸の辺りが暖かくなったんだ。それに、淡い光みたいなのも見えた気がしたんだ」
そう・・・この少年は何も知らないのだ。
命の契約すらも、少年が気絶している間に私が勝手に結んだのだから。
私は胸がギュッと締めつけられるような感覚を味わいながら、少年の村へと急いだ。

夜になって、僕はドラゴンをベッドに誘うために声をかけた。
だが深い眠りに入ってしまっているのか、僕の呼びかけにも全く反応する様子がない。
仕方ない・・・毎日毎日砂漠の空を飛び回って、ドラゴンも流石に疲れてしまったのだろう。
僕は潔く諦めると、いそいそと服を着て数年振りにかけるであろう布団に包まった。
いつもと違う夜の過ごし方に僕はなかなか寝つけなかったものの、それでもやがて睡魔に打ち負かされてしまう。
「ふわぁ・・・」
そして大きな欠伸とともに、僕は夢の世界へと落ちていった。

少年が完全に寝静まったのを確認すると、私はそっと体を起こした。
試練が終わった以上、私は里へ帰らなくてはならない。
だが足音を立てないように静かに入り口へと向かいながらも、何度も少年の方を振り返ってしまう。
朝になって突然私が消えていたら、少年は何と思うことだろう。
今の私のように、身が引き裂かれるような深い悲しみに暮れてしまうのだろうか・・・?
「許してくれ・・・」
ボソリとそう呟くと、私は家の扉をキィッと押し開けた。
そして誰もいない真っ暗な村の中をしばらくとぼとぼと歩き回った後、躊躇いがちに翼を広げる。

バサァッ、バサァッ・・・
聞き慣れた翼の音が耳に入り、僕はゆっくりと目を開けた。
開いた扉の隙間から、淡い月明かりが入り込んできている。
そして、さっきまで床で寝ていたドラゴンの姿が忽然と消えていた。
「まさか・・・」
僕は嫌な予感がしてベッドから這い出すと、寝巻き姿のままで冷たい風の吹く家の外へと飛び出していた。
反射的に空を見上げると、大きな満月の中に空を飛ぶドラゴンの影が重なっている。
「そんな・・・待って!待ってよ、ドラゴンさん!」
あのドラゴンが僕を置いてどこかへ行ってしまう。
突然のことに、僕は大声で叫びながらドラゴンの後を追って走り出していた。
「お願い、待って・・・うあっ!」
柔らかい砂に足を取られて転び、僕は四つん這いになって飛び去っていくドラゴンの後ろ姿を見つめながら泣きじゃくった。
「どうして・・・僕のことが嫌いになったの?戻ってきてよぉ・・・うわああああああああん・・・」

背後から微かに聞こえる少年の悲痛な声に、私は目から涙が零れ落ちるのを感じていた。
済まない、許してくれと、何度も何度も心の中で少年に詫びる。
だがやがて愛する者と別れる悲しみに耐え切れなくなって、私は初めて少年を介抱したあの大きな岩場の陰へと着地した。
「う・・・うぅ・・・済まぬ少年よ・・・私は・・・帰らねばならぬのだ・・・」
だがどうしても、私は再び飛び上がろうという力が湧いてはこなかった。
私は彼の人生をただ滅茶苦茶に掻き回してしまっただけではないのだろうか?
私だって、本当はあの少年と離れ離れになどなりたくはないのだ。
「一体、私はどうすればよいのだ・・・うう・・・」
里に帰らなければという思いと少年と離れたくないという思いが葛藤し、私は頭を抱えて蹲ったまま泣いていた。

「う・・・ぬ・・・ここは?」
砂粒を含んだ風が体に叩き付けられる感触に、私は目を覚ました。
どうやら、私は結局ここを離れることができずにあのまま眠ってしまっていたらしい。
あの少年は一体どうなったのだろうか?
私は力強く空へと飛び上がると、少年の様子を見るために村へと引き返した。
「ん・・・どうしたというのだ?」
徐々に近づいてきた村へと目を向けると、村の真ん中で人々が集まっているのが見える。
その人々の輪の中央に、あの少年が倒れているのが目に入った。
「ま、まさか・・・!」
私は村人達が驚くのも構わずドオンという音とともに勢いよく着地すると、私を避けた人ごみの間を縫って少年へと近づいた。
まだ生きてはいるようだが、小さな体が寒さにブルブルと震えている。
私のせいで、寝巻き姿のまま一晩中外に出ていたというのか?

「グルオオオオ!」
私は大きく声を上げて周りにいた村人達を退かせると、すっかり冷え切ってしまった少年の体を尻尾で絡め取って少年の家の中へと飛び込んだ。
そしてまるで破り取るように寝巻きを脱がせ、ベッドの上へと少年を横たえる。
「済まぬ・・・私のせいでお前をこのような目に遭わせてしまって・・・」
そう呟きながら少年の上にガバッと覆い被さり、私は懸命に体を揺すった。
毛皮と厚い皮膚越しにも、少年の体の冷たさが伝わってくるようだ。
「う・・・ぅ・・・」
全身をグッタリと弛緩させた少年の口から、呻き声が漏れてくる。
家の入り口から大勢の村人達が覗いている中、私はただひたすらに少年を暖め続けた。

「あ・・・ド、ドラゴンさん・・・?」
昼過ぎ頃になって、少年はようやく目を開けた。
どうやら、凍死の危機は脱することができたらしい。
「ひどいよドラゴンさん・・・いきなりいなくなっちゃうんだもの・・・」
まだ目に涙の跡を残したままそう言った少年の顔を、思い切り舐め上げてやる。
何度も、何度も、私は少年の頬に残った塩辛い悲しみの結晶を舐め続けていた。
もう里へ戻るつもりなどない。一生、ここで暮らそう。
少年の成長を見守りながら、人間達の中でともに生きよう。
そう固く心に決め、私は少しだけ体を浮かせた。
そして入り口の方をギッと睨みつけ、中の様子を窺っていた村人達を追い返す。
「ありがとう・・・昨日の夜の分、まだだったね・・・」
そう言った少年の小さな肉棒が、喜びにそそり立っている。
私はそれを快く受け入れると、少年の胸にスリスリと顎を擦りつけてこの上もない幸福感に浸っていた。



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