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Locus of Control

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匿名ユーザー

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少しだけおどおどした龍の男の子。
幼馴染のあの子が近くの家に住んでいる。
今日は、ひょんなことからお酒を飲んじゃって、思い切って告白することにしてみた。




僕は、いつもこんな事なんてしないんだけど、
さっき飲んだ果物のお酒のせいかな。
僕の尻尾は、まるで別の生き物みたいに振れている。
そして今、こうして君の家の前で、大切なことを君に言おうとして立っている。
ドアをノックして、君がでてくるだけで良い。
君のきゃしゃな鱗の体を僕の腕で抱きしめて、
「前からずっと好きだった。付き合ってください!」
そういうだけで良いんだ。
それだけなのに、どうしても一歩が前に出ない。
お酒が入って、雲の上を歩いているようなふわふわした感じ。
僕に羽があったなら、きっと月まで飛んでいってしまうだろう。
景色がはっきりと冴え渡って、何でも出来る感じ。
それなのに、どうしてもこの手で君のドアを叩けない。

僕は、両手の爪を合わせながら、帰るに帰れず、行くに行けず困っていた。
そんな僕の前で、突然ドアが開いた。
君は、玄関前においてあった花を家に入れようとして、僕に気付いた。
君は、驚く様子もなく、いつも道端で僕に会うように話しかけた。
「あら、モト。どうしたの?」
僕は、今までこんなに驚いたことは無い。
全身が縮み上がって尻尾が真っ直ぐになって固まった。
ああ、なんて言えばいいんだろう。
「ろ、ローラ!こ、今晩は!」
とにかく、挨拶だけを喉から搾り出すことは出来た。
「今晩は、モト。…こんなところでどうしたの、夜のお散歩?」
「う、うん!今日は、す、涼しい夜だなと思って…。」
ローラは、大きく両手を広げて深呼吸した。
「う~ん、そうね。晴れた夜に、星空を見ながら散歩するのも良いけれど、
今日みたいに曇った晩に、ぼんやりとした月明かりも良いわね。
ねぇ、モト!私も一緒に行って良いかしら。」
「あ、えと、うん、…いいよ。」
願っても無いチャンスだ。
君が一緒に僕と散歩してくれるという。
星が見えるか見えないか、薄い雲が広がっている空の下。
ぼんやりと輪郭を失った月が優しくか弱く地面を照らす。
物を見るのに全然足りない光が、草や木を黒一色で染め上げる。
代わりに、乾いた黄色い道だけがぼんやりと灰色の道を作り上げている。
でも、どこに行こう…。
「え…と、ローラ。どこに行こうか?」
「あら、どこに行くか決めていなかったの?」
「あ、…うん、ぼんやりと歩いていただけだったから…。」
本当は、僕の散歩は君の家の前で終わっていたんだ。
でも、今は僕の夢の中。
お酒が入ってふわふわした雲の感触が、灰色に浮かんだ道にぴったりだ。
隣に君がいる。
僕らは、二人だけ、互いの顔がうっすら見えるような淡い光の中で歩いている。
このまま、このぼんやりとした世界を飛べたらどんなに良いだろう。

「そうね、星空が目的なら山の天辺とか、湖に映った逆さの星たちを見るのも素敵よね。
う~ん、でも、こんな曇った日にどこに行けばいいかなんて、私も分からないわ。
…貴方は、こういう日にお散歩するんでしょう?そういう時、どこ行くの?」
「あ、いや、僕は目的も決めないで飛び出しちゃうんだ。
だから、ぶらぶらして終わり。」
「ふ~ん。そういうのも面白いかもしれないわね。」
君は、何度も頷いたように見えた。
「ねぇ、モト。貴方はお散歩するとき、いつも私の家の前を通るのかしら?」
君がこっちを見て聞いている。
雲って光を失ったはずの月が君の目の中で輝いている。
「と、通るかもしれない。ほ、ほら、君の家の前を通れば、僕の家までぐるっと一周できるだろう?」
「…、ねぇ、今度から私を誘ってもらっても良いかしら?」
「えっ!?」
僕は、裏返ったような情け無い声を出して聞き返した。
「あ、ごめんね。突然。嫌なら無理にとは言わないわ。」
「そ、そんな嫌だなんて、ぜ、是非お願いするよ!」
君は、僕の言動が可笑しかったのか笑った。
「ふふ、私がお願いしたのよ。じゃあ、今度からお願いね。
こんな曇りの晩に、楽しみに待っているわ。」

何処をどう通ったか覚えていない。
僕と君は、たくさんのことを話したかもしれないし、何も話さなかったかもしれない。
でも、ただ僕は、君の話すことに対して、
僕は始終うつむきっぱなしで、
ずっと首を振って相づちを打っていただけのような気がする。
その度に喜んだように振れる君の尻尾を見ていた。

いつの間にか、道の向こうに君の家が見えていた。
「じゃあね、モト。私はこっちだから。」
僕らは、分かれ道に立っていた。
向こうに歩けば僕の家。
一歩踏み出せば、君の家。
僕は、どっちにも踏み出せずに分かれ道の真ん中に立ちながら叫んだ。
「ろ、ローラ!」
君は、振り返って僕の言葉を待った。
「あ、あの、僕…。
ずっと、ずっと前から君のことが…。」
喉に大きな塊りが詰まったように、声がでない。
それなのに、荒い息だけが僕の口から吐き出される。
しばらく、塊りと格闘していた僕に向かって君は声をかけた。
「私もよ!モト。」
「えっ!?」
僕は、何にも考えられなくなって、君の言葉を待った。
少しだけ間が開いて、君が口を開いた。
「私も好きよ、モト。
また、一緒にお散歩しましょうね。」
君はそう言うと、家に向かって走っていった。

今日は、月が輪郭を失って淡く光り輝いている涼しい日。
晴れた晩じゃなくて、本当に良かったと思う。
僕は、きっと熱くて熱くて溶けてしまっただろう。
尻尾の先だけが、踊り狂ったように左右に触れていた。
お酒を飲んだときのようなふわふわした感じがして、
僕は、分かれ道にどっかりと腰を下ろした。
薄く雲がかった空を見ながら僕は、体が外の空気に冷やされるのを待っていた。



君が約束をしてから、もう待ちきれなくなるほど日がたったというのに、
夜になると決まって晴れてしまう。
今日は、朝から土砂降りだった。
案の定、夜は晴れ上がり、月がくっきりと地面を照らしている。
深い影を落とされた草は、昼よりもずっと背が高く見え、
向こうが透けるほどの林は、一瞬にして森になる。
僕は、いても立ってもいられなくなって、外へと出た。
ポケットに、こっそり持ち出した果実酒を持って…。
僕は、本当に散歩のつもりで、あの夜と全く同じ道をなぞった。
分かれ道まで来て、僕は心底驚いた。
家の前には、君がいた。
僕は、自分の前に引き返そうと思った。
君は、何の気なしに夜を見渡して、分かれ道にいた僕を見つけた。
「あら、モト!散歩?私を誘いに来てくれたのね?」
僕は、君の元に駆け寄った。
「で、でも、今日は晴れた晩だから…。」
君は、驚いたように目を瞬かせた。
「え、じゃあ、私とは曇りの日しか散歩しないの?」
「だって、曇りの晩を楽しみにしているって…。」
君は、無邪気に笑った。
「ふふ、やだ、モトったら…。
私、曇りの日がいいみたいなこと言っちゃったけど、
私、モトと別れてから、毎晩家の前で待っていたのよ?」
君は、腕を腰に当てて大げさに怒ったような態度をとった。
「え、そんな、ご、ごめんよ…。」
僕は、本当にすまなく思って頭を落とした。
君は、噴出したように笑って、僕の肩を叩いた。
「なに、モトが悪いなんていって無いわ。
でも、モトったら、本当に曇りの日にだけ会いに来るつもりだったの?可笑しいわ。」
僕の肩を押して、君は歩くようにせかした。
「ほらほら、今日は雨上がりで空がきれいな夜よ。
こんな日は、好きな人同士で星空を仰ぐのって素敵じゃない?」

しばらくして、僕らは小高い丘へとたどり着いた。
二人で芝が繁茂した寝心地のいい地面に寝そべると、
空に吸い込まれてしまうような感覚に浸った。
君は、僕の腰から下げている小瓶に気付いたらしく、するりと手を出して、それを取ってしまった。
月明かりが、小瓶の中の橙色の液体をすり抜け、君の顔に複雑な模様を躍らせる。
「ねぇ、モト。これ何?」
僕は、そんな模様が勝った君の顔に見とれていた。
「へっ?」
僕は、何を聞かれたか分からず、聞き返した。
君は、小瓶の口を開けて匂いを嗅ぐ。
君の尻尾が左右にゆっくりと揺れる。
君は匂いを嗅いだ後、橙の液体を半分ほど飲んだ。
「…お酒ね。」
「うん。」
君は、小瓶の中の液体をくるくると回して言った。
「ねぇ、モトも飲むんでしょ。さあ…、飲んで。」
僕は、君から差し出された小瓶を手に取ると、一気に飲み干した。
お酒独特の喉が燃えるような感じがして、その熱がゆっくりと体の中に溶けていく。
この前よりもかなり多い量を飲んだ。
すぐに雲の上にいるような感じが始まり、体中が溶けたはずの熱で覆われた。
君も僕と同じようにふわふわした感じを味わっているのだろう。
うっすらと目を細めて、星空を見ている。
「ねぇ、素敵な感覚だと思わない?」
「う、うん。」
君は体をずらして僕に近寄ると、僕の胸にそっと手を回した。
「この、ふわふわした感じ。
丘の上からは空しか見えない。
このまま、空に向かって落ちて行きそう。
貴方を掴んでいいかしら?」
「うん。」
しばらく、僕たちは何も言葉を交わさず星を見ていた。
風が吹くたびに、火照った体が心地いい涼しさを感じる。
でも、僕の体は熱を帯びたままだ。
さっきから、君が近くにいるというだけで僕は全身が溶けてしまいそうなほどの熱を感じていた。
そして、雲の上にいるような感覚の中で、
僕の頭の中では、君と僕は交わっている。
不意に、君の手が僕の下半身に滑り落ち、僕の硬直した病に触れた。
僕は抵抗することも出来ず、無防備に君に病を触らせてしまった。
「あ、あの、これは…。」
なんて言い訳したら許してくれるだろうか。
「モト。変なこと考えていたでしょう?」
甘えるような声で君は耳元にささやいた。
「え、いや、決して…!」
「実はね、私も考えていたの。」
君は、僕の手を取ると、君の繊細な部分へと僕の手を運び、そこに触れさせた。
君の持っている病は、深く沈みこみ湿っていた。
「あのお酒のせいね。
私、貴方と一緒になることを想っていたの。
ねぇ、素敵じゃない?」
「う、うん。でも…。」
君は、僕の病を手に取ると、撫でるように手を上下させながら言った。
「どう、感じる?」
「うん…。」
「男の子って、こうされると心地がいいんでしょう?
どんな感じなの?」
君は手を止めて僕に感想を述べた。
僕は、感じるままに君に伝えようと試みた。
いつもなら、恥ずかしくてできっこない。これは、お酒のせいだ。
どうして持ってきたのだろう。
「なにか、スーッとなっていく感じ。
よく分からない、けど、手を動かされた瞬間に不思議な感覚が来て、
それが気持ちいいんだってことだけが分かる。
それで、もっとその刺激が欲しくなる感じ。」
「ふ~ん。私のものもそうなるのかしら。」
君は、一気に僕に覆いかぶさると、反転して僕の病を舌で舐め始めた。
驚いてしまった体が、言うことを聞かない。
痺れたように、君にやられるまま僕はしばらく悶えていた。
君は、僕をじらすようにゆっくりと刺激を続け、代わりに僕の目前で君も持つ病を振り続けた。
僕の舌が、君の病に伸びてしまうのに時間は掛からなかった。
僕が刺激を始めた途端、君はそれに見合うように刺激を強め、速度を速めた。
僕もそれに負けじと舌を動かす。

僕が与えると、君から戻ってくる。
でもいつの間にか、僕に戻ってきて欲しいから、君に与えるように、
僕は君を貪るように刺激した。
僕も君も時折体中を震わせ、そのたびに互いの重なり合う想いを刺激した。

君に刺激を受けた病を中心として、腰の辺りを透き通るような痺れそのものが、
蟲のように僕の神経をなぞり、這い回る。
こそばゆさを覚えた神経が、ほぼ反射的に腰に力を入れさせ、
僕の腰は、ほぼ一定時間ごとに君の口へと打ちつけられる。
君は、そんな僕の動きに文句ひとつも言わずほど腰を続ける。
少し時間を経て、君の腰も僕と同じような動きをし始めた。
でも、僕にとってはそれがいとおしく感じた。
僕によって、君が感じている。
その事実が、神経を這い回る蟲となってさらに僕の動きを加速させる。
蟲は、僕の神経を伝って少しずつ体を上へと登っていく。
背中を通って、蟲は僕の頭へと侵入する。
直接的に頭の中を蟲が這い回った瞬間、
突然、はじけるような感覚共に、神経のもやが全て吹き飛んだ。
靄が吹き飛んで透き通った神経の全くノイズが無い経路の上を、
君から受けた刺激が快感となって、それだけが体中に行き渡っていく。
体全体の輪郭がぼやけていくような感覚。
神経が、快感を吸収しすぎてどんどんと膨らんでいく。
気が遠くなりかけた瞬間、僕の体は反射的に病に力を入れた。
刹那、体中の筋肉は痙攣し、言うことを聞かず収縮した。
力の入った病を君の口に押し付けるように僕の体が反り返った途端、
神経が一気に元の形を取り戻した。
代わりに、逆流した感覚の波が一気に僕の神経をなぞり、
病へと収束、白濁した想いとなり、心臓の鼓動と共に複数回、病から射出された。
しばらく抑えていた君は、3回目の射出のとき口から溢れた病を飲み込みきれず、
病から仰け反るように弾かれ、咳き込んだ。
口から吐き出された僕の想いが、君の体と僕の体に降りかかり、白く染め上げる。

収縮しきった神経は、頭の中も含めて全てが空っぽになり、
僕は考えることも、息をすることさえ許されなかった。

まず、戻ってきたのは呼吸。
ただ消耗、激しい肩の息。
ひとつ息をするたびに、君を持ち上げてしまうほど僕は息をする。
次に吐き出されたのは声。
「ぁ…ぁ…。」
息のついでに器官が回ってしまったような小さな音。
そして、僕の意識。
感覚の波に洗い流され、輪郭を失いぼやけた意識。
「ね、ねぇ。モト、大丈夫?」
焦点の合わない視界に君が写っている。
モト、僕の名前。君の名前は?
「あ、ああ…、大丈夫みたい。それより君は?」
「私も大丈夫よ。」
君もまた、僕よりはいくらか少ないが息を切らし、顔を上気させている。
「ねぇ、男の子って、これが出ちゃうともう疲れちゃうって…。
もう、終わりたい?」
疲れてはいるが、終わりたいという気もなかった。
ただ、じっとしていたい。
「ううん。でも、何か疲れちゃって動けない。」

しばらく息を整えた君は、
僕の槍をきれいに刷るかのように舐め始めた。
ただ、舐められているという感覚。
先程のような蟲も現れない。
しかし、しばらく彼女がそうしているうちに、
神経にまた、1匹2匹と蟲が現れ始めた。
一度現れた蟲は、仲間を呼び合い、僕の中で増殖していく。
蟲に刺激された神経は、敏感に反応すると、
僕の病を起き上がらせ、硬くした。
君は施しを止めると、
僕の病をまたぐ様にして、ゆっくりと僕の上に座った。
君の温かな感触で僕の病が包まれていく。
僕は何も出来ないまま、感覚の波に飲まれた。
君は、僕の胸に頭を置いて寝そべると、僕の鼓動を聞くように動かなくなった。
代わりに、蟲たちはどんどん増えている。
刺激を受けた僕の神経が、また腰を勝手に動かし始めた。
今度は、僕の心臓にまで手を出している。
僕の心臓は、まるで体の動きを指揮するように音を大きく、回数を速めていった。
懸命に堪えても、少しずつ僕の腰は心臓に合わせるように上下を始める。
上下で生じる僕の病と君が擦れ合う感触は、これまでに無いほど蟲を喜ばせた。
心臓がさらに大きな音を立てる。

神経が完全に無視の思うが侭に動かされる。
君を両手で抱くと、そのまま君に打ち付けるかのように僕の腰が動く。
その度に、水がこすれ合いはじける音がする。
君は、時折、息遣いと共に声を漏らす。
深い吐息に混ざった君の声が、僕自身の何かを逆なでする。
僕の尻尾が何かを求めてのたうち狂う。
やがて、その尻尾は君の尻尾を見つけ、求め合うようにらせん状にまき付き合う。
君が、僕の耳元で、吐息混じりに囁く。
君が僕に告げたほぼ瞬間、僕は君の希望を叶えることとなる。
僕と君の病は繋がったまま、しかし僕の想いは射出された。
君の中に向かって、僕の想いが心臓の鼓動と共に…。

息をすることさえ許されない時間。
でも、心臓の大きな音だけが、規則正しく聞こえている。
全く心臓の鼓動と合っていない、肺の息全てを吐き返すような深い息遣い。
君は、小さくでも君にとってはつらそうな荒い息使いをしている。
僕は、やっと自由に動くようになった手、しかし重たく他人のような手を不器用に持ち上げ、
君が落ち着くまで、頭を撫でた。

少し動かせば震えが来てしまう体を前に、僕は君を乗せたまま、上に手を回して、
君を優しく抱いた。
「ぅんっ…。」
寝ぼけたような声を出して、君は寝返りを打つと、僕の上からどさりと落ちた。
君はうっすら目を開け、僕の顔を見ると、微笑みかけた。
僕は、そんな君に向かって自然に笑っていた。
頬を寄せ合うくらい近づいて、互いに腕を回して抱き合ったまま、空を見た。

まだ、そんなに時間はたっていない。
僕らはしばらく休憩した後、手をつないで丘を降り、分かれ道まで歩んだ。
「じゃあね、モト。」
君は少しはなれたところで、手を振った。
「あ、あと、これっ!」
君は、駆け戻ると、大事そうに僕の手の上に小瓶を載せた。
「また、お散歩のとき、…持ってきてくれるかしら?」
君は、それだけ言うと僕の返事も聞かずに帰っていった。

小瓶には、夜の空がそのまま切り取られたように張り付いていて、
まるで、小瓶の中に月が入っているように見えた。
僕は、両手で小鳥を抱くように小瓶を持ちながら、ずっとその小瓶を見ていた。




いつものように朝が来たけれど、僕はどうしても夢から醒めることが出来ない。
どんなに夜風が当たっても、お酒が体から抜け切って、ふわふわした感覚が消えても、
僕の意識の現実を現実と理解するどこかが、ずっと夢の中にいる。
昨日のこと、思い出すだけで体中が火照って、まるでそれは幻想だったかのように思う。
僕は、君に勧められて果実酒を飲んだ後、眠りこけて夢を見てしまったのだ。
そう、君に伝えられたら、僕はそれを信じるだろう。
でも、君に事実を確認できるほど僕は勇気が無い。

僕の体は、命令もしていないのに顔を洗い、命令も指令無いのに朝ごはんを食べた。
そして、気付いたときには君の家の前にいた。
ぼんやりとした視界に君の家が映っていることに気付いたとき、
僕はそのまま倒れてしまうほど息が詰まった。
朝の青が薄い空が映りこんだ窓の向こうに君の姿が見える。
机に座ってぼんやりと窓越しに空を見上げている。
君は、しばらく空を見上げていた後、何の気なしに下を見た。
案の定、僕と君は眼が合った。
君は、目をゴシゴシとこすってもう一度僕を見た。
テーブルから飛び上がると、
次の瞬間には玄関から飛び出て、僕に飛びついていた。
「モトっ!」
僕は、倒れないように君を支えた。
「や、やぁ、ローラ。」
「昨日のこと、覚えてる?」
やはり、夢じゃなかった。
「う、うん。」
「一緒に星空を見て、それから…。」
ローラは、あえてはぐらかすようにそこで言葉を切った。
「ねぇ、あれ何で作ったお酒なの?
とっても美味しかったわ。
また、あなたと飲みたいな。」
二人で楽しそうに話している僕と君を、君の両親が窓から見ている。
二人ともきっと僕らの間に何があったかを知らないだろう。
優しそうな笑みで、僕らをむつまじそうに見ている。
僕の心は少し痛んだ。
もちろん、僕の両親も昨日何があったかを知らない。
君と一緒に夜の散歩をした、それだけが彼らにとっての事実だ。
僕は、君の両親に向かって頭を下げた。
君の両親も頭を下げて、彼らが僕を悪く思っていないことがわかった。
「モト、行こう!」
君が僕の手を引く。
「え、行こうってどこへ?」
「あなたの家よ。
私のお父さんとお母さんに、あの素敵な味のお酒をプレゼントしたいの。」
「でも、それじゃ飲んだってばれちゃうんじゃ?」
「だから、いつもお世話になっている感謝の気持ちでプレゼントするのよ。
私たちがお酒を持っていったところで、それを飲んだなんて思わないわ。」

僕の家に着くと、両親はどこかに出かけていた。
そういえば、今日は二人で狩りをする日だっけ。
狩となると、早くても夕方、
遅ければ、2~3日帰ってこない。
「こんにちわ~。」
いないはずの僕の両親に向かって、君が挨拶をした。
「…、誰もいないの?」
返ってこない返事に肩透かしを受けた君が、僕に理由を求めた。
「今日から、狩りの日だからね。
短くても夕方まではいないんだ。」
「あら、そうなの。」
僕は、大き目の瓶を手に取ると、そこにタルからお酒を入れ始めた。
「モト、ちょっと待って。その瓶じゃないの。」
君は辺りを見回すと、棚にあったひとつの小瓶を取って、僕に差し出した。
それは、昨日僕が持ち出した小瓶だった。
「そ、それに入れてプレゼントするの?」
「この小瓶、いくつかあるのかしら?」
「う、うん、まぁ、それぞれ微妙に形が違うけど、
同じものなら、いくつかあるよ。」
「なら、また一緒に飲めるわね。」
「そ、そうだね…。」
僕は、なぜか震えそうになる手を押さえながら、
慎重にその小瓶に橙色の透明な液体を注いだ。

君に橙色で満たされた小瓶を渡した後、僕は大きな瓶に入ったお酒を戻そうとした。
「待って、一度出した物を戻すと、お酒の風味が変わっちゃうわよ。」
「え、でも父さんいつもこうやって戻しているけど…。」
「戻すと味が悪くなるのは確かなのよ。
ねぇ、お父さんもお母さんも夕方までは帰ってこないんでしょう?
そのお酒、捨てちゃうのももったいないから、一緒に飲みましょうよ。」
「えぇっ。でも、まだ朝だし…。」
「じゃあ、それ捨てるの?」
「いや、だから、ここに戻すって…。」
「あら、そう、残念ね。」
どうして、ここに戻すことが残念かを僕は考えた。
何かを思い出した僕の尻尾が、驚いてピン、と立ち上がる。
一気に昨日の記憶が頭の中をよぎって、僕の体は震えた。
「じゃ、じゃあ…戻すのもなんだし、飲もうか?」
「嫌なら、いいのよ…。」
「嫌じゃないよ。」
僕は、慌てたようにコップを2つ取り出すと半分ずつ、注いだ。
昨日の小瓶よりもちょっと少ないくらいで、コップには半分ほどしか入らなかった。
「さて…。」
君は意を決したようにコップに口をつけた。
一口飲んで味わった後、君は言った。
「なんか、昨日よりお酒の味が濃いわね。
これ、昨日と違うの?」
「ああ、昨日の小瓶は、ずっと入れっぱなしにして隠してあったやつだから、
お酒が飛んじゃったのかも…。」
「え、隠してあったって?」
「だって、僕の両親、お酒は子供に飲ませないっていうからさ。
少しづつ気付かれないように雫を溜めて、小瓶いっぱいにしたんだ。」
君は驚いたように言った。
「え、じゃあ、私が来て、持って行ったら駄目じゃないの!?」
「それは大丈夫だよ、君の両親にはお世話になっているからさ。
お礼だって言って、持って行ったって正直に言えば怒らないよ。
君の両親に確認取られても、本当のことだしね。」
「そう?なら、いいけど…。」
僕は、思いついたように大瓶と手に取ると、
他のタルから液体をいくらか注ぎ、君の前に差し出した。
「これは、僕も飲んでいいやつ。
いろんな果物の汁を絞って混ぜ合わせて作ったんだよ。
これを長い間置くと、お酒になる。」
僕は、コップに液体を注いで、君に勧めた。
君は、お酒と混じりあった液体を飲むと、喜んだように言った。
「あ、昨日とおんなじ味になったわ!」
「たぶん、父さんの言う深みは消えちゃったと思うけどね。」
君はもう一度飲んで、味わった。
味の拍子をとるように、君の尻尾がゆらゆら揺れる。
「深みねぇ…。私は昨日と同じ味にしか感じないけど…。」
「うん、僕も分からない。」
僕と君は笑った。

昨日よりもお酒の飛んでいないものを飲んだせいか、ふわふわというより、フラフラする。
君はまぶたを何度もこすっている。
眠そうに時々、君の尻尾が寝返りを打つ。
「ね、ねぇ、モト。ベッドを借りてもいいかしら。
なんか、とっても眠くなっちゃって…。」
君は僕の返事も聞かないうちに「モトの部屋」という掛札を見つけて、
ドアを開けると、僕のベッドに潜り込んでしまった。
「ね、ねぇ。具合が悪いんだったら、家まで運ぼうか?」
僕が恐る恐る自分の部屋を覗きながら言った。
君は僕のベッドの中で小さく丸くなっていた。
「ねぇ、モト。…私の隣に来てくれない?」
僕の頭の中を昨日の出来事がよぎる。
僕の心臓は君に聞こえてしまうのではないかというほどに、大きく鼓動した。
「でも、でも…。」
「モト…来て…。」
僕は、体中がバラバラになってしまうのではないかというほど震えている。
懸命にその震えを止め、君が横になっているベッドに腰掛ける。
そのまま横にゆっくりと倒れる。
僕の体重が毛布にかかって、君の体の輪郭が浮かび上がる。
「モト…。」
毛布の内側から君の腕が伸びるのが見える。
毛布から出た君の腕が僕の胸の辺りに乗せられる。
君は、僕の心臓の鼓動を確かめるように掌を僕の胸に置いた。
しばらく僕の胸の辺りを撫でていた君は、腕を下へと移動させる。
その手がどこに行くか知っているけれど、
お酒によって少しだけ解き放たれた意識は、止めるという行動を知らない。
すぐに君の腕は僕の病へたどり着く。
君の行動を想像しただけで、僕の病はもう膨らみ硬くなっていた。
君は、小鳥を撫でるように優しく僕の病を撫でた。
強張った僕の体に、君が毛布越しに体を寄せる。
君の腕が僕の病に与える感覚は、僕の体の中の蟲を呼び起こさせる。
いても立ってもいられなくなった僕の体が、
毛布をめくり、その中へと体を滑り込ませる。
君は、それを期待していたかのように僕の体に君の腕を這わせる。
片手では相変わらず、僕の病を撫でながら、
もう片方の手で、僕を形作るかのように手を這わせる。
病からの感覚によって生じた蟲は、こそばゆいという神経を、
心地よいという神経に短絡させる。
いつもならば、決して触らせ続けることの出来ない部分を、君が撫でる。
僕の体は、少々のこそばゆささえ感じるが、
大部分が心地よく、もっと感じていたいという感覚で満たされる。
君とこの感覚を共有したい一心で、僕の腕が君の体を撫でる。
君の喉元に触れる。
それから、僕よりもいくらか膨らんだ君の胸を撫で、
柔らかな君の腹を経て、君の病へと手を滑らせる。
濡れた君の病を触り、水気を帯びた指を、
君の病の中へと侵入させる。
水の鳴る音が毛布の中から聞こえ、
その度に君は深く声の混じったと息を漏らす。
毛布の下で僕の病を撫でる君の手には力がこもり、
その手は病を掴むと上下に強く刺激している。

いつの間にか僕と君の間は縮まり、どちらともなく口付けを始める。
互いの絡み合う尻尾の如く、舌が相手を求めて絡み合う。
僕が息も出来ないほどに互いの口腔を埋めあい、
苦しくなったどちらかが、もどかしそうに口を離す。
その度にはじけた息が上がる。
浮いた感触を楽しみながら口を離し額をつけ、互いの瞳を見つめあう。
いつもより光の帯びた君の瞳を見ただけで、満たされて行くものがある。
君の首に回した腕が僕の頭を引き、口付けは再開される。
先程の間を埋めあうかのように僕と君は激しく…。
いつの間にか、互いの病を刺激しあうことを忘れ、
既にその病は惹かれあっている。
君が体をずらし、僕の病を包み込む。
体をうごめく蟲が、君の体に呼応する。
僕の体の神経を蟲がなぞり、体が自由を奪われ暴走する。
僕の腕が君の背中をもどかしく、行き場を求めて動き回る。
君の体を僕の体に張り付かせるが如く腕を回す。
動き出した腰は、互いの病が擦れ合うことを喜びとし、意を反して動きを早める。
君も僕の背中に手を回すと、強くその手に力を込める。
頭の中まで蟲が入ってきて、もう誰にも邪魔されたくないっ!
このまま、僕らの想いが果てる瞬間まで…。

僕がそう思った瞬間、家の扉が開く音がした。
「両親が帰ってきたっ!」
僕は、ベッドから飛び降りた。
絡まりあった尻尾を、擦れる音を立てるほど乱暴に解く。
君の上から毛布をめくり上げると、急いで僕と君の体を拭いた。
「お~い、モト。いるのか~?」
父さんが部屋をノックする。
「いるよ~。ローラも一緒だよ~。」
父さんは、そのまま無遠慮にあけるような真似はしなかった。
「ほう、彼女を連れ込むなんて、お前も進んだものだな。
まさか、俺達がいない間に、彼女を連れ込んでオイタをしていたんじゃないだろうな?」
いつもの冗談なのに、見透かされたような感覚が走り、背筋が凍りついた。
「あなた、なに言ってるんですか!」
硬いものを何かで殴ったような声がして、父さんのうめき声が聞こえた。
「ごめんねローラちゃん。うちのやつったら…。」
「いえ、大丈夫です。
二人で色々お話していたんです。」
「そう。もうそろそろ夕方だから、夕飯はうちで食べていきなさいな。」
部屋の向こうから、食器などを動かす音が聞こえてくる。
「はい、ありがとうございます。」
「父さん、狩りはどうだったの?」
僕は、二人が早く帰ってきた理由を聞いた。
「ああ、調子がいいのなんのって…。
二日分の袋がもういっぱいよ。」
僕は、想いを果てられなく膨らんだままの病をどうにか縮めようと必死だった。
君も君で、赤く腫れ上がるように露出した病を、落ち着かせようとしているようだった。
両親が帰ってきたことで、
体の蟲たちは、驚きによる心臓の破裂するような衝撃と共に吹き飛ばされてしまったようだ。

蟲たちがいなくなってしばらく経つと、僕らの病はそれぞれ正常な形に戻った。
僕は窓を開け、部屋に溜まった熱気を毛布で仰ぐように外へと追い出した。
「…ど、どうする、ローラ。ご飯食べてく?」
君を見たら、なぜか、急に恥ずかしくなって、僕は顔が真っ赤になった。
君も僕に赤い顔で、声も出さずうつむいたまま頷いた。
僕と君は、ベッドの上にちょこんと腰掛けて互いに会話もしないまま、
両親に呼ばれるまでボウッとしていた。

「モト。継ぎ足そうと思って開けてみたら…。お前、お酒飲んだんだろう?」
間髪いれずに君が答えた。
「あ、いえ。私の両親のプレゼント用に頂いたんです。
モトが、うちに良いお酒があるって言うから…。それで…。」
君が机の上に置いてあった小瓶を指さしながら言った。
「おお、そうか。
…何、君の両親の口に合えばいいがね。
私が作ったやつでよければどんどん持っていきなさい。
なに、有り合わせで作った酒だ。遠慮することは無い。
何なら、タルごと持っていくか?」
「あ、いえ…。タルは持てないので…。」
父さんは、大きな声を立てて笑った。
席について、食事をしている間、僕らは一言も口を聞かなかった。
互いに目を合わせただけで、さっきまで僕らが何をしていたかばれてしまいそうで、
二人とも何かを恐れていた。

「じゃあね、ローラちゃん。お口に合ったかしら?」
「ええ、とっても…。」
「そう、それは良かった。はい、これ。」
母さんは、机に合った小瓶にリボンを回して君に渡した。
「ご両親にプレゼントするんでしょう?
うちにあったリボンだけど、良ければどうぞ。」
「はい、ありがとうございます。それでは…。」
「ほら、今日はやけに暗いな、これ持っていきな。」
君はお辞儀して父さんからカンテラを受け取ると、明かりを頼りに帰っていった。
そんな君の背中を見送る僕の背中を、父さんがその力強い尻尾で思いっきり押し出した。
前によろけた僕に向かって、
「女の子を一人で帰らせるやつがいるか!」
父さんは、送ってやれというジェスチャを見せた。
「え、…あ、うん。」
僕は君を呼び止めると、この前よりも雲って一層暗い夜道を一緒に歩いた。
何の気なしに君を見ると、君も僕を見ていた。
僕と君は驚いて互いに目を伏せた。
さっき追い払われた蟲が、一瞬にして体の中に戻ってきた気がした。
僕の病はもう膨れ上がり、体に反して前に突き出されていた。
でも、僕の体はもう言うことを聞かない。
「ねぇ、ローラ。さっきのことなんだけど…。」
僕がそう言った瞬間、君は僕を押し倒した。
押し倒した君は、僕の病を掴んで、僕の想いが何を求めているかを確認する。
僕も君の病に手を触れて、君の想いを確認する。
誰も通らない光の薄れた道の真ん中で、僕らはカンテラの光に包まれて、
一気に互いの想いを呼び起こした。
ただ…、見果てることが出来なかった何かを求めて、僕らは繋がった。
恥じらいも躊躇(ためら)いもなく、ただ繋がった。
一気に加速した心臓の鼓動が、呼吸に間に合わない。
心臓に送るだけの空気を取り入れるたびに、僕らは喘ぎ交じりの息を吐く。
かすれたような息を漏らし、互いの鼓動を確かに感じながら、
宙に突き出される尾。
僕らは一気に果てた!
暗闇に、一気に世界が満ちていき、
僕らの周りが一瞬だけ、明るい何かに満たされた気がした。

僕らは道の真ん中で硬直し、果てたそのままの格好で、息を切らしていた。
互いの名を呼び合う。
それだけで二人の意志は疎通された。
僕らは強く抱き合った。
意味なんて無い、ただ長い時間。
二人の鼓動が、正常な世界に戻るまでの間。
誰か来そうで、誰も来ない二人だけの空間。
この厚い雲の下では、付きさえ僕らを見ることは出来ない。
僕らの行為を察したかのように、揺れるカンテラの光。
その光だけが僕らを見つめている。

僕らの体が離れる。
さすがに、これ以上一緒にいるのはどちらの両親にも心配をかけるだろう。
僕らは、分かれ道で長いことおしゃべりをした。
いつでもできるような、なんでもない他愛話。
「じゃ、ね、ローラ。」
僕が君に別れを告げる。
「うん、じゃね、…モト。」
君は、僕の額に軽く口付けをすると、大事そうに小瓶とカンテラを抱えて去っていった。

しばらく君の背中を見送って、僕は帰路へと付いた。
厚すぎる雲が、星の光も月の光も遮(さえぎ)っている。
カンテラが無いこの道は、現実と夢の縁すら見失いそうなぼんやりした世界。

君に当てた想いが僕の体を消耗させすぎている。
光の無い道のせいで、半分眠りに入った意識は、夢の縁を見誤っている。
道が、僕をせせら笑うかのように、右へ左へ踊っている。
今来た道が、初めて通った道に見える。
右へ左へ揺れる道に、僕はどうしようもなくなってうずくまると、目を閉じた。

END


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