時には徒花のように

    

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春の明るい朝日に照らされた古めかしい城壁。
かなり小さな国ではあるものの、この国を治める父には子供の私から見ても王らしい威厳と風格が備わっている。
だが20歳の誕生日を迎えたある日、私は突然父の寝室へと呼び出された。
「なあ娘よ、お前ももう今日で20歳だろう?もうそろそろ誰かと結婚してもいいのではないか?」
「あら、ちょっと前までは迂闊に結婚などするなと言っておりましたのに、一体どういう風の吹き回しですの?」
「ふぅ・・・ワシも正直、求婚のため連日この城を訪れてくる男達の相手に疲れてしまったのだよ」
父はそう言うと、普段国民の前で保っている威厳に満ちた表情を崩した。
「腕の立つ者、頭の賢い者・・・お前が望むのなら、いくらでも素晴らしい男と結ばれることができるのだぞ?」
「どうせ王家の地位と財産が目当てで表面だけを取り繕った方達なのでしょう?それに・・・」
少し迷ったが、私はなおも結婚を勧めようとする父を牽制するために少し声を高くした。
「そんな政略結婚紛いの結婚など、したくはありませんわ」
「ワ、ワシはそんなつもりでは・・・それに、年頃の娘が毎日森の中で遊び回っていてはワシも心配なのだ」
「知りもしない男達と話すより、森の中で涼しい風に当たっていた方がずっと健康的というものですわ」
それだけ言い置くと、私はいつものように出掛ける準備をしようと父の部屋を出た。
「お、おい、また森へ行くのか?」
「どうせ他に行きたい所もありませんから」
「・・・暗くなる前に戻ってくるのだぞ。この季節は獣どもが繁殖する時期なのだからな」
その声に私は閉まる扉の隙間から後ろ手に父へ向けて手を振ると、自分の部屋へと駆け込んだ。

「さて・・・今日はどこに行こうかしら?」
澄んだ水を湛える湖、遥か遠くまで見渡せる断崖、涼しげな飛沫と水音を振り巻く大きな滝・・・
父は知らないのだろうけれど、この国を取り巻く森の中には実に美しい自然が満ち満ちているのだ。
身分のせいか気さくに話し合えるような友人ができることもなく、私はいつからか1人で森の中を散策するのが日課になっていた。
それにもう何年も森の中を歩き回っているが、これまで大して危険な目に遭ったことはない。
森をうろつく獣達は下手に刺激しなければ襲ってくることはないし、毒蛇や毒虫の類など見たこともなかった。
今日は、まだ行ったことのない西の方の森へ行ってみることにしよう。
険しい山々が連なっているせいか、西側の森には全くと言っていいほど人の手が入っていないのだ。
きっと今まで以上に原型を留めた自然の景色を見ることができることだろう。

木々の枝や葉で傷を負わないように少しだけ厚手の服を着ると、私はそっと城を抜け出して西へと向かった。
1時間も歩けば、もう国境が見えてくるような小さな国なのだ。
やがて何の躊躇いもなく草木の生い茂った森の中へと足を踏み入れると、薄暗くなった辺りの様子を見回す。
これまでの見慣れた景色とは違い、初めて見る濃い青と緑と茶色の世界に私は胸が躍った。
知らない誰かと気を揉みながら会話を交わすよりも、ずっと素晴らしい体験が待っていることだろう。
やがて獣道らしい草木が避けて通ったような細い道を見つけ出すと、私はそっと茂みを掻き分けながら森の奥を目指して歩き続けていた。

歩き慣れない道を歩いているせいだろうか、私は時折自分の進んでいる方向がわからなくなることがあった。
いや、そもそも草木が勝手に形作った道を辿っているだけなのだから、単純に森の中を適当に歩き回っているに過ぎないのかもしれない。
それでも、私はこれまでよりも一層濃い森の空気を味わえることに嬉しさを感じていた。
ガサ・・・ガサ・・・
「ふう・・・やっと抜けたわ」
やがて短く生い茂っていた茂みの海を抜け出すと、そこから先はいつもと変わらぬ黒土と木々のトンネルに囲まれた薄暗い風景が広がっていた。
目に見える範囲には鳥や獣の気配は感じ取れなかったものの、これまでとは違うピリピリとした空気が辺りに流れている。
子供を守る母親が周囲を威嚇する時に発する殺気のようなものが、時折風に乗って届いてくるような気がした。
何とはなしに早くなった鼓動を抑えながら更に森の奥へと踏み込んで行くが、初めて味わう不安についキョロキョロと辺りを見回してしまう。

「グルルル・・・」
とその時、突然通り過ぎた大きな木の陰から獣の唸り声が聞こえてきた。
それに驚いてビクッと足を止め、恐る恐る背後を振り返る。
「あ・・・」
そこには、産まれたばかりの2匹の子供に乳をやりながら私の方をギラリと睨みつける1頭の雌の虎が身を伏せていた。
そっとその場を離れようにも、突然出くわしてしまったためあまりにも距離が近付き過ぎている。
「お、落ち着いて・・・私は何もしないから・・・」
私は両手を前に突き出すようにして宥めるようにそう呟いたものの、その虎は鋭い爪の生えた手で子供をそっと押し退けるとほんの少しだけ腰を浮かせた。
明らかに、私に向かって飛びかかるために身構えている。

だがなるべく虎を刺激しないように少しずつ後退さったその刹那、私は地面から突き出ていた岩の角に躓いて後ろへと倒れ込んだ。
「きゃっ」
「ガアァッ!」
短く漏らしてしまった悲鳴を好機と受け取ったのか、それとほぼ同時に虎が私の上へと飛びかかって来る。
そして200キロ以上もある巨体で固い地面の上へと組み敷かれると、私はあっという間に身動きを封じられてしまっていた。
「だ・・・だれか助けて・・・」
恐怖に蒼褪めた私の顔を覗き込んだ虎の口からトロリと唾液が一筋垂れ落ちると、恐ろしい牙を生やした顎がガバッと大きく上下に開けられた。
「きゃ、きゃあああああああっ!」
突如目の前に出現した鋭利な牙の森に、恐怖で意識が遠のいていく。
だが唾液に濡れ光る尖塔の先が私の細い首筋に突き立てられようとした瞬間、何か黒っぽいものが白濁した視界の中からドンという衝撃とともに虎の姿を消し去った。
「あ・・・う・・・」
そして何が起こったのか分からず辺りを見回そうとしたものの、私はそのままフッと気を失ってしまった。

「うう・・・ん・・・」
土の上とは違うゴツゴツした地面の上に寝ている感覚に、私はぼんやりと意識が戻ってくるのを感じていた。
薄っすらと目を開けてみるが、真っ暗で辺りの様子はほとんど見えない。
私は一体どうしたのだろう?確か大きな虎に襲われて・・・それから・・・?
ハッと起き上がって自分の体をまさぐってみるが、別にどこも怪我はしていないらしい。
ただ固い岩の地面に寝ていたせいか、体中の関節がギシギシと軋んだ。
「・・・怪我はないかい?」
その時、暗闇の中から誰かの声が聞こえてきた。
聞いたことのないようなくぐもった、それでいてどこか暖かみを感じる声・・・
「どなた?」
声の主を探して周囲に視線を巡らしてみるものの、誰の姿も見当たらない。
だが、自分がこの声の主に命を助けられたのは確かだった。
「朝になったら姿を見せよう。それまで、ゆっくり体を休めるといい」
どうやら、今の所身に危険はないらしい。
私は暗闇の中にいるというのに心を落ち着けると、再び固い地面の上に横になって目を閉じた。

よほど疲れていたのか、私はあっという間に再び眠りに落ちると翌朝に目を覚ました。
淡い光が瞼越しに入ってきて、陽光から顔を背けるようにして目を開けてみる。
そこは、高い天井に囲まれたどこかの洞窟の中のようだった。
何故私はこんな所に寝かされていたのだろう?
私を救ってくれた人は、家ではなくこの洞窟に住んでいるとでもいうのだろうか?
その時、私は不意に誰かの気配を感じておもむろに背後を振り返っていた。
そして昨夜の声の主を目の当たりにして、思わずゴクリと息を呑んでしまう。
「あ・・・あなたは・・・」
そこにいたのは、全身を黒っぽい灰色の体毛で包んだ大きな蜥蜴のような生物だった。
いや、丸まった背中から生えた1対の巨大な翼が、それが紛れもなくドラゴンであることを示している。
「怖がらないでくれ。君に危害は加えないから・・・」
本能的な恐怖に引き攣った私の顔を見て焦ったのか、ドラゴンは申し訳なさそうに顔を垂れてそう言った。
「ご、ごめんなさい・・・私を救ってくれた方だというのに・・・」

得体の知れないものを見てしまった驚きを何とか抑え込むと、私はドラゴンの姿をまじまじと観察した。
全身を覆う鱗の代わりに灰色の体毛が生えてはいるものの、所々毛が抜け落ちているのか白っぽい皮膚が覗いている。
大きく広げられた翼の縁や裏側にも同じように疎らな毛が生えていて、その色気のない粗雑な様子に私はドラゴンにしてはどこかみすぼらしいという印象を受けていた。
「フフフ・・・醜い姿だろう?」
「い、いえ・・・そんなつもりでは・・・」
「いいんだ。こんな姿のせいで、僕は仲間達からも蔑まれてるんだから。お前なんかドラゴンじゃない、ってね」
ドラゴンはそれだけ言うと、小さく息をついて私から少し離れた所に蹲った。
「少し、僕の話し相手になってくれないか?後で町まで送ってあげるからさ」
「え、ええ・・・」
無事に帰れる・・・その言葉に、私はホッと胸を撫で下ろすと地面の上に足を投げ出して彼の言葉に耳を傾けた。

僕はできるだけ彼女を怖がらせないように体を低くすると、組んだ両手の上に尻尾の先と顎を乗せた。
「なんで君みたいな女の子が1人で森の中を歩いていたんだい?それも、1年で1番危険な繁殖期に」
「それは・・・森で遊ぶのが私の日課ですもの。親しい友人なんて1人もいなくて・・・退屈凌ぎですわ」
その返事に、僕は驚きに眼を見開くと少しだけ顎を浮かせた。
こんなに綺麗な女性だというのに、友人が誰もいないなんて信じられない。
少なくとも周りの仲間達から貧相な外見を揶揄され続けてきた僕に比べれば、ずっと幸せな人生を送ってきた様に思えるというのに。
「友人がいない?そんな・・・すごく綺麗な人なのに・・・」
「あら、ありがとう。ドラゴンさんに綺麗って言われるなんて思わなかったわ」
思わず漏らしてしまった本音を軽く受け流すと、彼女は寂しそうに顔を俯かせた。
「私、これでも王族なの。とっても小さな国だけど、私が王族というだけで周りの人達は距離を取りたがるのよ」
「そうなんだ・・・それなら、僕と友達になってよ。それとも・・・ドラゴンの友達は嫌い?」
予想外の提案だったのか、彼女は僕から外していた視線を元に戻すとちょっとだけ顔を赤らめた。
「そんなことないわ。父以外の方と話したことなんて今までほとんどなかったから、そう言ってくれると嬉しい」
「じゃあ、お互いに初めての友達だね」
「初めて?じゃあ、あなたにも友達がいないの?」

そう言ってから、私はなんだかこのドラゴンに対してひどく失礼なことを言ってしまったような気がした。
「こんな情けない姿だからね・・・僕には、産まれた時からもう母親がいなかったんだ」
一体どれくらい前のことなのか分からないが、ドラゴンが遠い昔を思い返すように洞窟の天井を見上げる。
「だから、母がどんな姿をしていたかもわからないんだよ。僕と同じような醜い姿だったのか、それとも・・・」
「醜いだなんてとんでもないわ。確かに毛は綺麗に生え揃ってはいないけれども・・・立派なドラゴンよ」
口にこそ出さなかったものの、ドラゴンは私に向けた視線に感謝の色を滲ませた。
「だから僕はツヤツヤの鱗に覆われていたり、フサフサの毛を伸ばした仲間が羨ましかったんだ。でも・・・」
うなだれるように組んだ両手と尾の上へ顎を乗せると、ドラゴンは目を閉じて先を続けた。
「彼らにして見れば僕なんて一族の恥だったんだろうね。だって、僕には誰かに誇れるものなんて何もないもの」
「それは違うわ!」

「え・・・?」
突然声高に叫んだ彼女に驚いて、僕は思わず弱々しい声を出していた。
「あなたは虎に襲われた私を助けてくれたんでしょう?それに・・・あなたと話してると私、凄く心が落ち着くの」
僕は今までそんなことを・・・それも人間に言われたことなどなかった。
「見た目がどうだっていいじゃない。あなたの優しさは十分に誇れるものよ」
「・・・ありがとう。それじゃあ、そろそろ町へいこうか。心配している人がいるんだろう?」
僕は体を起こすと、高く昇った太陽が照りつける洞窟の外まで彼女を連れ出した。
そして翼を広げて地面の上へと屈み込み、彼女を背に乗せる。
「ちゃんと掴まっててね」
やがて長く伸びた首を抱き締める力が強まったのを確認すると、僕は彼女を乗せたまま晴れ渡った大空に舞い上がった。
眼下を埋め尽くした深緑の絨毯の向こうに、ぽっかりと穴が空いたような人間達の町が見えてくる。
そして人目につかないように高く聳え立った城の裏側へと飛び込むと、僕はそっと彼女を地面に降ろしていた。
「ありがとう」
「また会えるかな?」
「ええ、会いに行くわ。私達、もう友達なんですもの」
満面の笑顔を浮かべた彼女にそう言われて、僕は嬉しさのあまり勢いよく飛び上がった。
「うん、待ってるよ」
町から離れるごとに彼女の姿はどんどん小さくなっていってしまったが、彼女は僕からも見えなくなるまでずっと手を振り続けてくれていた。

森へ帰るドラゴンを見届けてから城の正面へとまわると、予想以上に大勢の人々が騒いでいた。
まあ、一国の王女が行方不明になったのだから当然といえば当然なのかも知れないけれど・・・
やがて城門の前にいた兵士の1人が私の姿を見つけると、何やら大声を上げながら駆け寄ってくる。
「ご無事でしたか姫様!父上がいたく心配されておりますよ。ささ、早く城の中へ・・・」
そして促されるままに父の寝室へと通されると、兵士は安堵の表情を浮かべた父に向かって一礼して部屋を出ていった。
「お父様・・・」
「ワシがどれほどお前のことを心配しておったかわかっているのか?一体今まで何をしていたというのだ」
「森の中で・・・子連れの虎に襲われましたの・・・」
その瞬間、父の顔にこれまで見たこともないような驚愕の表情が浮かんだ。
「それで・・・け、怪我などはなかったのか?」
「寸での所である親切な方に助けて頂いたのですわ。それで、一晩だけその方の所にお世話になったのです」
まさか相手がドラゴンだなどと言うわけにもいかず、私は慎重に言葉を選んで先を続けた。
「とても優しい方で・・・私に友達になって欲しいと言われましたの」
「そ、そうか、それはよかった。森に住んでいるとは少々風変わりだが、お前がそう言うのなら間違いなかろう」
娘に友達ができたという安心感からか、父はそれ以上のことを深く聞いてこようとはしなかった。
「いずれワシにもその者を紹介してくれんか?」
「ええ・・・いずれ・・・」
私は言葉を濁して父の寝室を出ると、給仕に頼んで遅い朝食を摂った。
今日はもう休んだ方がいいだろう。
疲れた体を大きなベッドの上に横たえ、そっと目を瞑ってみる。
たったそれだけのことで、外はまだ昼だというのに私は深い夢の世界へと吸い込まれていった。

気がつくと、私は暗い森の中をあてもなく歩き回っていた。
どっちにいけば城に帰れるのか、それさえもまるでわからなくなっている。
「ガルルルル・・・」
その時、私は背後から獣の唸り声が聞こえてきたのに気が付いた。
恐る恐るそちらを振り向いてみると、真っ暗な暗闇の中に血走った黄色いネコ科の眼が2つ、不気味に揺れている。
「ひっ・・・」
突然の事態に驚いてドスンと尻餅をついた途端、その恐ろしい影が私に向かって一気に飛びかかってくる。
「きゃあああっ!」
だが悲鳴を上げたその刹那、灰色がかった翼が視界を埋め尽くしたかと思うと私に飛びかかってきていたはずの影が跡形もなく消えていた。

「はっ!」
身の竦むような恐怖と混乱に、私はガバッとベッドから飛び起きていた。
「夢・・・?」
辺りを見回すと、窓の外にはすでに夕焼けの赤い手がかかり始めている。
全身にはじっとりと嫌な汗をかいていて、私は荒い息を整えるのに必死になっていた。
また、あの方に会いたい・・・
薄れ行く意識の中で目に焼き付いたドラゴンに命を救われた瞬間の光景が、今も鮮明に残っていた。
そうだ、今からでも会いに行こう。
恐ろしい目に遭ったせいだろうか。悪夢が怖くて、とても1人きりで眠ることなどできそうにない。
彼に、あのドラゴンに、そばにいて欲しかったのだ。

私はベッドから這い出すと、急いで出かける支度を始めた。
服を別のものに着替え、そっと廊下の様子を窺ってみる。
父を含め城の者達はみな大食堂で晩餐を囲っているらしく、西日の差し込む回廊に人の気配はなかった。
そして食堂や城の入り口に立つ衛兵達に見つからぬようにそっと裏口から抜け出し、西の空を仰いでみる。
そこには、真っ赤に燃えた太陽が山の稜線の陰からほんの少しだけ顔を出して辺りを朱に染めていた。
町の中を走り抜ける私の耳に、時折食卓を囲む人々の笑い声が聞こえてくる。
昨日までの私ならそんな幸せそうな声に己の境遇を呪っていたものだが、今日はなぜだか違っていた。
私にも、待ってくれている者がいる。
外見は多少醜いかもしれないけれど、あの心優しいドラゴンの姿を思い出すだけで私は胸がスッと軽くなるのを感じていた。

「何?また娘がいなくなっただと!?」
晩餐を終えて部屋に戻ったワシは、守衛の報告に驚いて娘の部屋へとやってきた。
整然と片付けられた部屋だというのに、ベッドの上に先程まで娘が着ていた服が無造作に脱ぎ捨てられている。
その上開け放されたクローゼットには焦って何かを物色したような痕跡も残っていて、ワシはすぐに娘の行き先に思い当たった。
「あのお転婆め・・・また森に行きおったな」
これはすぐに娘の後を追ったほうがよさそうだ。
「これ、兵どもに娘の後を尾けさせい」
「し、しかし、どちらの方角に向かったのかもわからないのでは・・・」
「ならば森中を隈なく捜させるのじゃ!娘が無事ならばそれでよいが・・・」
きっと娘は虎から命を救ってくれたという者のもとへと向かったのだろう。
娘の見込んだ男なのだからそれについてはさして心配するほどのことではないのだが・・・
夜になれば獣どもが活発に活動を始めるし、その上森の中は月明かりさえ届かぬ真っ暗闇になる。
とても若い娘が1人出歩いてよい場所ではないのだ。
命令を受けた兵が行った後も、ワシは落ち着きなく娘の部屋の前で腕を組んだままウロウロと歩き回っていた。

昨日と同じように背の低い茂みの海を抜けた頃には、もう辺りは真っ暗になっていた。
淡い銀色の月明かりまでもが厚く生い茂った木々の葉に遮られ、視界のほとんど全てを漆黒の闇が埋めている。
ロクに物が見えなくなったせいなのか、研ぎ澄まされた聴覚が私に周囲で発せられる様々な音を拾い始めていた。
葉の擦れあう音、風の吹き抜ける音、遠くで鳴くフクロウの声、枝の軋む音、小動物が足元を走り回る音、獣達の息遣い、そして・・・闇の恐怖に負け早鐘のように打ち始めた己の鼓動も。
「早く・・・私を見つけて・・・」
うわ言のようにそう呟きながら、私は一寸先も見えぬ黒塗りの世界の中を手探りでさ迷い続けていた。
夢で見た暗き森の様子が、徐々に徐々に私の不安を掻き立てていく。
だが夜の森に踏み入ったことを半ば後悔し始めていた時、頭上から大きな翼を羽ばたくようなバサッバサッという音が聞こえてきた。そう、朝にも聞いた、あの方の優しげな翼の音。
「お嬢さん、何か探し物かい?」
おどけた様子でかけられたドラゴンの声に、いろいろな感情の混ざった涙を目に浮かべながら木の上を見上げる。
暗すぎてよく見えなかったが、そこには確かにあの灰色のドラゴンが断続的な羽音を響かせながら浮かんでいた。

「あなたに会いたかったわ」
空を飛ぶドラゴンの暖かい背中に揺られて洞窟へと向かう途中、私は満面の笑みを浮かべながら彼に抱きついた。
「こんな夜中に森の中をうろつくなんて危ないよ」
「・・・私、夢を見たの。とってもとっても恐ろしい夢。その夢の中でも、あなたは私を助けてくれたわ」
彼は前を向いたまま特に何の反応も示さなかったものの、私の話に耳を傾けてくれていることは感じ取れた。
「でも・・・私はもう怖くて眠れなかった。だから夜が来る前に、またあなたに会いたかったの」
「ははは・・・本当のことを言うとね、僕も君を探してたんだ」
「え?」
予想だにしなかった彼の一言に、思わず呆けた声で聞き返してしまう。
「まさかこんな時間に君がくるはずなんてないと思ったんだけどね・・・僕も、きっと寂しかったんだと思う」
照れ臭さを隠すように、ドラゴンが一層力強く羽ばたきながらグッと頭を下げた。
「これでも、僕は80年以上も生きているんだ。いろんな物を見てきたし、いろんな経験もしてきた。でも・・・」
突如眼下に覗いた森の切れ間に向かって、ドラゴンが降下を始めた。
そのすぐ目の前に、彼の棲む洞窟の入り口が見える。
「孤独を癒してくれたのは君だけなんだ。僕からこんな事を言うのはなんだけど・・・一緒に暮らさないか?」
それは紛れもなく、ドラゴンからのプロポーズだった。
これまでにも私は数多の男性に甘い声をかけられてきたというのに、これほどまでに素直に、そして切実に話を切り出されたことはいまだかつて1度もなかったのだ。
「ええ・・・いいわ。どんな男の人よりも・・・私、あなたなら信じられる」

やがてドーンという大地を揺らすような轟音とともに洞窟の前へと降り立つと、彼は背中から降り立った私にそっと大きな口を近づけてきた。
大きく見開かれた彼の眼に、期待と不安の灯かりがゆらゆらと揺らめいている。
私は一瞬戸惑ったものの、彼の意図を察すると自らの小さな唇を彼の閉じられた巨口に重ね合わせた。
20年余りの人生で初めて味わう、長い長い竜との口付け・・・
胸の内に幸福の波が湧き上がり、それが体中に、手足の指先にまで広がっていくような気がする。
ついに自分で自分を抑え切れなくなり、両手で彼の顔を掻き抱くようにして更に強く唇を押しつける。
それに応えるように、彼の方も大きな手で私の体を抱き抱えるとゆっくりと地面の上へと寝かせ始めた。
なすがままに湿った黒土の上へと仰向けに倒されると、彼が顔を離して切なげな視線を投げかけてくる。

"いいわ"
声に出さずとも、彼は私の目から肯定の意思を受け取っていた。
ゆっくりとスカートの内側に差し込まれたドラゴンの指先が私の下着を捉え、少しずつ少しずつ秘所を覆うシルクの布を引き下ろしていく。
やがて純白に輝いていた下着が完全に取り払われると、彼は恥ずかしさを隠すようにそっと自らの股間へと手を伸ばした。
灰色の体毛に覆われた下腹部に走る、1本の割れ目。
その割れ目の間から隆起した大きな桃色の肉棒を目の当たりにして、私はドラゴンに処女を捧げるという背徳的な興奮に身を震わせていた。

ドラゴンは私の上にそっと覆い被さると、厚手のスカートの裾を捲り上げた。
既に露わになっていた秘所が湿った外気に触れ、ヒクヒクと痙攣を繰り返しては熱い濃蜜を滴らせ始めている。
彼は初めて見る人間の膣にゴクリと唾を飲み込むと、真っ赤に開いた花びらの中にそそり立った肉棒を少しずつ押し込み始めた。
ズニュ・・・グニュ・・・ニュ・・・
「ううっ・・・」
優に私の数倍はあろうかという巨体にもかかわらず、ドラゴンが挿入の快感にブルルッと身震いする。
それ以上奥へ押し込んでもいいものか思案しながらも、性の欲求に目覚めた本能が彼の腰を後押しする。
徐々に太さと固さを増していく竜の雄に膣を拡げられていく感触を、歯を食い縛ってグッと堪える。
「だ、大丈夫かい・・・?」
私が余程苦しそうな顔をしていたのか、彼は唐突に腰を突き出すのを中断するといつもの優しげな声でそう問いかけてきた。
「い・・・え・・・大丈夫・・・よ・・・」
円錐状に尖った彼の肉棒は、まだ半分程度しか膣の中に収まってはいなかった。
これから、更に倍近い圧迫感が襲ってくることだろう。
けれどもそこには、苦痛に対する不安や恐れの感情は微塵も根付いてはいなかった。
未熟な膣壁を擦り上げるドラゴンの肉棒に与えられた快感が、そんな些細な感情の起伏を削り取っていく。
フウフウと荒い息をつきながらも先を続けるように目で訴えると、彼は再び少しずつ肉棒を熱い肉洞の中へと沈めていった。

永遠にも思えるようなじれったい快楽の悪戯に耐え続けると、やがて雄々しく聳え立っていたドラゴンの巨根は根元まで私の中へと埋もれていた。
ギチギチに張り詰めた肉棒から伝わってくる脈動が、なおも切ない快感へと変換され続けている。
処女膜を破られた痛みなど、彼の慈悲深い眼差しの前では蚊に刺された程度の痛みにすら感じられなかったのだ。
私とドラゴンはお互いに息を整えると、そっと相手の体を揺すってみた。
シュルッ・・・
「あっ・・・」
前後へ擦れ動いた肉棒の摩擦に反応し、愛液を滴らせる膣壁がキュッと収縮する。
「あうっ・・・」
初めての経験なだけに最初のうちは恐る恐る相手の反応を窺っていただけだったのだが、慣れてくるにつれて私達は激しく相手を求め合った。
短毛に覆われた彼の巨体を抱き締めた拍子に、彼の巨大な舌が私の口の中へと入り込んでくる。
その肉塊をしゃぶるようにして応えると、彼はようやく口を離して呟いた。
「本当に・・・いいのかい?」
「もちろんよ。ドラゴンであるあなたを受け入れる覚悟は・・・もうできてるわ」
彼は私のその返事に大きく頷くと、次の瞬間恍惚の表情で天を仰ぎながら身を震わせた。
「うああっ!」
「ああ~~~~~っ!」
震えとともに熱く滾った雫が私の中へ放たれ、その衝撃に私自身も至福の絶頂を迎える。
お互いにめくるめく激しい快楽の余韻に浸った後、彼はスッと身を起こして肉棒を膣から引き抜いてくれた。
そして洞窟の固い地面の上に並んで寝そべり、彼のボサボサの腕に頭を預ける。
心地よい夜風が洞窟内にそっと寄り道した直後、私とドラゴンはほとんど同時にフッと深い眠りに落ちていた。

翌朝、私は後頭部に当たる不思議な感触に目を覚ました。
ゆっくりと体を起こし、枕代わりに腕を差し出していたドラゴンの様子を窺う。
そして、私は目に飛び込んできた光景にハッと息を呑んだ。
「これは・・・」
ドラゴンの全身を覆っていた灰色の短毛は全て地面の上に抜け落ちていて、代わりに洞窟内に差し込んでくる朝日をキラキラと反射する艶やかな藍色の長毛がその巨体を包み込んでいる。
何の特徴も無かった彼の頭からは乳白色の雄々しい1対の角が後ろに向かって突き出していて、首の周りから靡いている玉虫色に輝くマフラーのような尾状の毛が美しいアクセントを加えていた。
所々毛が無くてみすぼらしかった彼の翼にも、濃い橙色の羽毛のように柔らかな毛がびっしりと隙間無く生え揃っている。
これが・・・私を助けてくれたあのドラゴン・・・?

私はあまりの驚きにしばし声を失っていたものの、やがて彼のそばに座り込むと肌触りのよいフサフサの毛に覆われた頭をそっと揺すってみた。
「う・・・ん・・・どうしたの・・・?」
まだ自らの身に起こった変化に気付いていないのか、彼が寝ぼけた声を漏らす。
だがそこにあるはずの無い角に触れられた感触に、彼はガバッと飛び起きた。
「えっ?えっ?・・・なんだ・・・これ?」
戸惑いを隠せぬ様子で長い首を巡らして自分の体を眺め回しながら、ドラゴンが呟く。
「きっと・・・それがあなたの本当の姿なのよ。あなたの母親も、そんな風に美しい姿をしていたんでしょうね」
「は、ははは・・・こんなに嬉しいことはないよ。君のお陰だ・・・ありがとう」
彼は表情をいつも私に向けていた穏やかな笑顔に戻すと、洞窟の外に向かって歩き出した。
きっと、あの生まれ変わった姿で思う存分空を飛んでみたいのだろう。
「待って、私も行くわ!」
期待に満ちた顔で晴れ渡った空を見上げていた彼に追いつき、広い背中の上へと攀じ登る。
彼の背を覆った滑らかな長毛の海は、城にあるどんな高級な絨毯も敵わないほど心地よかった。
「しっかり掴まっててね」
その言葉に太い首をギュッと抱き締めると、彼は一気に大空へと舞い上がっていた。

「申し訳ございません・・・朝まで森中を捜索致しましたが、姫様の姿はどこにも・・・」
「そうか・・・もうよい。ご苦労だった」
報告にきた兵長が申し訳なさそうに寝室を後にすると、ワシは再び娘の部屋の前へとやってきた。
昨日と変わらぬ部屋の光景が、ワシの胸にぽっかりと穴を空けてしまったような気がする。
娘が無事であればよいのだが・・・
だがちょうどその時、回廊の柱の隙間から差し込んでいた陽光が何か大きな影に遮られた。
「お父様ーーー!」
同時に聞こえてきた娘の声に耳を疑って外へと目を向けると、深い藍と橙色に染め上げられた艶やかなドラゴンが空を舞っている。
「私はこの方と共に暮らしますわ。私の命を救ってくれた方ですの」
そのドラゴンの背に乗った娘の姿を認め、ワシは驚きの声を上げていた。
「おお・・・なんと・・・」
だが大きな角の生えたドラゴンの凛々しい顔には、確かに心和む穏やかな表情が現れている。
ワシは一瞬迷ったものの、意を決して娘とドラゴンに声をかけた。
「お前が自分で選んだ道だ、止めはせぬ。ドラゴンよ、娘をよろしく頼むぞ」
父であるワシに認められた嬉しさからなのか、ドラゴンが満面の笑みを浮かべながら雲1つない快晴の大空へとフワリと浮き上がる。
そして娘とともに西の森へと飛び去っていくドラゴンの後姿を見つめながら、ワシは愛娘を手放した甘い切なさに1人胸を痛めていた。



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