光と闇

    

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~プロローグ~

時は中世・・・各国の臣民が武力にモノを言わせて自らの領土を広げんと活躍していた時代、北欧のあるところに他国からの侵略も全く受けつけなかった大国があった。
民の声を聞き善政を敷くマルケロス王をはじめとして、彼の国民達はみな争いを好まぬ静かな人々である。
そして周囲の国々の中でもずば抜けて広大な領土を持ちながらも他国と不可侵条約を取り交わす王の器の大きさに、固い忠誠を誓う者達が続々と集まってくるのだった。
だがそんな平和を望む王のもとに仕えながら、心中に不穏な企みを宿している者がいた。
マルケロス王の右腕とさえ言われている大臣、バローネである。
彼は子息のいない王を亡き者にして王位の座につこうと画策し、日夜仲間達とその計画を練っては柔和な物腰を装って王の隙を窺っていた。


~第1章~エルガイアの式典

「おはよう、起きたか?」
自分自身も眠気眼を擦りながら、俺は寝室で静かに眠っていた妹のリリィを起こしにいった。
「う・・・ん・・・」
俺への返事なのかそれとも寝言なのか、毛布を巻き込んでベッドの上に転がる彼女の口からか細い声が漏れる。
「ほら起きろよ。今日はエルガイアの式典にいくんだろ?早くしないと遅れるぞ」
「ん・・・あ、お兄ちゃん、おはよう・・・ちょっと待ってて・・・」
ようやく、リリィが目を覚ました。
着替えがあるのだろうからと寝室を後にして、俺も外出の支度に取りかかる。
今日は、隣国のマルケロス王の妃が待望の子供を授かったとして開催される式典を見に行くのだ。
大勢の人々に慕われ、尊敬されている王のことだ。きっと式典もさぞ盛大で賑やかなものになることだろう。

俺は物心つく前、妹とともにこの村の入り口に捨てられていたらしい。
だが村に住むある親切な人に引き取られ、妹はリリィと、俺はレオンと名づけられた。
そして村人達の協力を得ながらお互いに支え合い、なんとかこれまで生き延びてくることができたのだ。
村の人々にはとても感謝しているが、それもこれも隣国のエルガイアが平和な政治を続けているお陰で受けられた恩恵なのだと思うと、偉大なマルケロス王を祝う式典にはなんとしても顔を出したいものだった。
「おまたせ」
ややあって、リリィが美しいドレスに身を包んで寝室から姿を現した。
白と淡いピンクの織り成す柔らかな雰囲気が、ふっと俺の緊張感を和らげていく。
「じゃあ、いこうか」
まだ16歳になったばかりの妹の手を取って家の外へ出ると、俺達はエルガイアへと続く細い林道を目指して歩き始めた。

昼過ぎになって式典の会場であるエルガイア城の前へと辿りつくと、既にそこは溢れんばかりの人々でごった返していた。
城の前に設けられた演壇が、無償で人々に振舞われるピールやワインが、そして楽奏隊が奏でる荘厳なファンファーレが、会場に集まった人々の熱気を際限なく煽り続けている。
やがてファンファーレが鳴り止むと、子を身篭った妃を従えたマルケロス王が民衆の前に姿を現した。
浮かれはしゃぐ人々の騒音にも負けずに、演壇の前に立った王が右手を高く上げる。
その瞬間、会場内が水を打ったようにシンと静まり返った。
「全ての愛すべき民達よ!今日は私の世継ぎを身篭った妻を祝うため、ここに集まってくれたことに感謝する!」
広い会場の隅々にまで行き渡るような王の澄んだ声が、波紋のように人々の間に広がった。
「今日はめでたい日だ。皆存分に浮かれ騒ぎ、日々の疲れを忘れて楽しんでくれ!」
王がそこまで言うと、会場内が再びざわついた。
「マルケロス王、万歳!!」
地鳴のような群集の声に、会場がビリビリと揺れる。
だがその次の瞬間、信じられないことが起こっていた。
辺り一帯を埋め尽くす群集の中から数本のナイフが放たれ、諸手を上げて人々の喝采に応えていた王の胸元に深々と突き刺さったのだ。
「うっ・・・ぐ・・・」
反射的に刺さったナイフの柄を握り締めながら、王が苦痛に呻き声を上げる。
辺りを支配していた喜びの声が全て悲鳴と怒号の嵐に変わるのに、それ程時間はかからなかった。

「ぐ・・・つ、妻よ・・・・・・」
王は一時我が子を孕んだ妃に手を差し伸べたものの、刃に塗られた毒によってそのまま息絶えてしまった。
だが呆然と立ち尽くす妃の元にバローネが現れて彼女を城の中へと下がらせると、彼は阿鼻叫喚のさなかにいる群衆に向かって呼びかけた。
「皆の者!静まれ!静まるのだ!」
王とは違う迫力の篭ったその声に、わずかながら騒ぎが収まる。
「誰か王に向けてナイフを投げた者を見てはおらぬか!?」
途端に、人々が顔を見合わせる。
しばしの逡巡の後、何人かがおずおずと手を上げ始めた。
「一体誰じゃ!?」
バローネの声とともに、手を上げた数人の人々が群衆の中に紛れていた3人の暗殺者を指差した。
「よ、よし、その者達を捕えよ!それと、今逆賊を訴えた者達には褒美を取らせる。後で城へくるがいい」

数分後、周囲の人々に捕えられていた3人の暗殺者が城の中へと連れていかれると、式典の会場に集まった人々は驚きの表情を隠せぬまま帰路へとついた。
中には、愛すべき王の死にすすり泣く者さえいる。
レオンとリリィも目の前で起こったことが信じられないといった様子で、しばらくの間その場から動くことができなかった。
「そんな・・・マルケロス王が・・・暗殺されるなんて・・・」
「と、とにかく・・・村へ帰ろう」
村へ帰る途中、レオンは悲しみに暮れる妹を慰めながら、激しい怒りとともになんとなく釈然としないものを感じていた。

「なあ・・・なぜバローネ大臣は、暗殺者を告発した人々に褒美を取らせるなどと言ったと思う?」
「え・・・?それは・・・暗殺者を見つけたんだから当然でしょう?」
「いや・・・」
俺はそこで言葉を切ると、少し頭の中の考えを整理していた。
暗殺者が見つかる前であれば話はわかるが、見つかった後に褒美を取らせる必要はないだろう。
「もしかしたら・・・この暗殺劇はあのバローネが仕組んだものなのかもしれないぞ」
「ど、どうしてそう思うの?」
「もし暗殺者と大臣が仲間だとすれば、多分妃も無事では済まないはずだ。そして・・・」
妹が、俺の顔を覗き込みながらゴクリと唾を飲み込む。
「褒美をもらうために城へ行った人達は城の中で殺されるか、生涯幽閉されるかのどちらかだろう」
「そんな・・・そんなのひどすぎるわ」
だがそう考えれば、王が殺されたというのに大臣のあの落ち着き払った態度も納得がいく。
「まあ、今にわかることさ。王子がまだ産まれていない以上、いずれにしろ政権はバローネが握ることになる」
リリィはそれきり押し黙ると、ずっと下を俯いたまま村に着くまで顔を上げなかった。


~第2章~暴君の台頭

悪い予感というものほど、正確に的中するものは他にない。
マルケロス王の暗殺から数日経って、実質的に政権を握ったバローネは強大な軍事力を利用して周辺諸国への侵略に着手し始めていた。
前王が万が一の時のためにと自衛的な目的で鍛えていた騎士達が、無辜の民へ向けて牙を剥いたのである。
エルガイアの周辺に点在する町や村は次々と数十人からの騎士隊に襲われ、国家の統合へ賛成し服従しなければ家々に火をつけられて徹底的に蹂躙された。
また仮に服従に応じたとしても、村の資産は奪われ重い課税の苦を受けることになるのだ。

「どうしよう、お兄ちゃん・・・」
「ああ・・・今はまだ距離が離れているからいいが、バローネの軍はいずれこの村にもやってくるだろう」
そう言いながら家の窓から外を覗くと、村人達もいつ残虐な騎士達に襲われるかわからないといった怯えた表情で日々の日課をこなしていた。
「本当にこの村を守るつもりなら、バローネを倒す必要があるだろう」
「あいつを倒せば、元に戻るの?」
「エルガイアの人々は皆温和な前王を慕っていた。バローネの圧政さえなければ、こんなことはしないはずだ」
リリィの顔に微かな希望の色が浮かんだが、それはすぐに立ち消えた。
「でも・・・一体どうやって・・・」
「俺に考えがある。この近くの森に、巨大なドラゴンが棲んでいる洞窟があるんだ」
ドラゴンという言葉に、俯いていた妹が再び顔を上げた。
「そいつに力を借りることができれば、バローネを倒すこともできるはずだ」
「ドラゴンが私達の味方になってくれるっていうの?」
「それはわからない。危険な交渉になるだろう」
俺はそこまで言うと、相変わらず暗い雰囲気を放っている村の様子に目を向けた。
「場合によっては・・・戻って来れないかもしれない」
「そんな・・・だめよ、そんなこと・・・」
「いずれにしても、それ以外に生き残る方法はないんだ。俺達を育ててくれたこの村を、救いたいんだろ?」
それ以来、リリィは極端に口数が少なくなってしまった。まあ、それも仕方のないことだろう。
もしかしたら、バローネの軍に襲われる前にたった1人の兄を失ってしまうかもしれないのだ。
「明日の朝、森へ行ってくるよ。上手くいくように祈っててくれ」
遠くの空に上がる不運な村の黒煙を眺めながら、俺は妹に聞こえるように呟いた。

翌朝、俺は鉄製の胸当てと剣を身に着けると眠っているリリィを起こさないようにそっと家を出た。
これが最期の別れになるかもしれない。だが彼女に引き止められて、その決心が揺らぐのだけは避けたかった。
村の端に着くと、朝とはいえ薄暗い森が眼前に広がっていた。
ドラゴンの話は人づてに聞いたもので、実際にその姿を見たこともなければ、洞窟の正確な場所を知っているわけでもない。だが、やり遂げなければならないのだ。
さもなければ、この村は明日にでもバローネの魔の手に落ちることになるかもしれない。
襲われた村の中には、若い娘が連れ去られた所もあると聞く。
妹を守るためにも、方法はこれしかない。
俺は大きく深呼吸してから意を決すると、鬱蒼と木々の生い茂った森の中へと足を踏み入れた。
日光の届かぬ森の中は、奥へ行けば行くほどその暗さを増していく。
洞窟というからには、どこかの山肌に近い場所にあるはずだ。
そして村から近い場所にそんな岩の隆起がある場所は、精々数ヶ所に限られてくる。
遠くに見える山の稜線を確認しながら、俺は剣の柄を握ったまま慎重に森の中を歩き続けた。

1時間程歩き続けた頃、ようやく森の切れ間が見えてきた。
その奥に高い岩壁が連なっており、いかにも洞窟がいくつかありそうに見える。
逸る気持ちと高鳴る鼓動を抑えながらその岩壁まで辿りつくと、俺は洞窟を探し始めた。
「・・・あの洞窟か?」
見れば、少し離れた所に真っ暗な洞窟がぽっかりと口を空けている。
巨大なドラゴンが棲んでいるというのにこれほどぴったりな場所は、恐らく他にはないだろう。
入口の横に立って洞窟の中を見回してみるが、奥は真っ暗な上に相当入り組んでいるらしく、ここからではその全容を掴むことはできなかった。
「よし・・・行くぞ」
森に入った時のように大きく深呼吸をして気持ちを落ちつけると、俺はなるべく音を立てないように洞窟内へと入っていった。


~第3章~森に棲む赤竜

落ちていた枯れ木に布を巻きつけた即席のトーチを頼りにしながら、俺は真っ暗な闇に包まれた洞窟の中をさ迷い歩いていた。
普通洞窟なんていうのは奥に行くに連れて道幅が狭くなるものなのだが、この洞窟はどこまで行っても広い幅と高さを保っている。
所々鋭利な何かで岩壁を掘ったような跡もあり、この洞窟が自然にできた物でないことには確信を持てた。
もっとも、人が作った物であるという確信には至らなかったのだが。
数分間迷いながらも洞窟の奥を目指して歩き続けると、俺はやがて広い広場のようになった所へと辿りついた。
数十メートルもの高さを有する天井のそこかしこに自然にできた穴が空いていて、そこから明るい陽光が漏れてきている。
そしてその広場の中央に、想像以上に巨大なドラゴンが静かに蹲って眠っていた。
全身を覆う赤銅色の鱗が、躯の大きさに見合った長い呼吸に応じて揺れる太い尻尾が、そして背中から生えた1対の巨大な赤い翼が、見る者を圧倒していた。
「う・・・」
そばで人間がたじろいだ気配を感じ取ったのか、ドラゴンがゆっくりと眼を開ける。
そして赤鱗と対照的なサファイアを彷彿とさせる透き通った青い瞳が、腰に剣を帯びた小さな人間の姿を捉えた。

「・・・何だ貴様は・・・我の眠りを妨げようというのか?」
怒声ではない。だが周囲の空気を揺らすようなその荘厳な声に、俺は心の底から震え上がった。
それでも勇気を振り絞り、ドラゴンに語りかける。
「そうじゃない。あんたの力を貸して欲しいんだ」
「フン・・・何故我が人間などに手を貸してやらねばならぬのだ。命を落とす前にさっさと消えるのだな」
地面に組んだ手の上に顎を乗せたまま、ドラゴンが俺を睨みつける。
仕方ない・・・勝ち目など到底あるはずもないが、ここまで来て退くわけにはいかないのだ。
俺は腰に身につけていた剣を引き抜くと、ドラゴンに向かって剣先を突きつけた。
「ならば、俺と戦え!そして俺が勝ったら、望みを聞くと約束しろ!」
目の前の人間が見せた意外な行動に驚いたのか、ドラゴンが初めて首をもたげた。
「ほう・・・面白い。貴様のような卑小な人間が、我に楯突くというのか」
さも可笑しそうに含み笑いを漏らしながらも、ドラゴンが再び地面の上に蹲る。
「やってみるがいい・・・己の無力さを思い知ることになるだけだろうがな」
嘲りの色を隠そうともしないドラゴンの態度に憤りを感じて、俺は雄叫びを上げながらドラゴンに向かって斬りかかっていった。
ガギィン!
だがドラゴンの顔に向けて振り下ろした剣は硬い鱗に弾かれ、金属の震えが柄を握っていた両腕を痺れさせた。
その瞬間ドラゴンの背後から振り回された太い尾に足を掬われ、その場に倒れ込んでしまう。
「うぐっ・・・」
そして固い岩床に背を打ちつけた痛みに呻いた時には、もう勝負は決していた。
地面に身を伏せていたはずのドラゴンが素早く倒れた俺の上へと覆い被さり、俺の首筋に尖った爪の先を押しつけていたのだ。

「うう・・・」
「ククク・・・口ほどにもない・・・さっきまでの威勢はどこへ行ったのだ?」
ドラゴンが指先に少しだけ力を込めると、鋭い爪が俺の喉に食い込んだ。
「あう・・・ぅ・・・」
「どうした・・・貴様は今絶体絶命の窮地にいるのだぞ?命乞いはせぬのか?」
「も、もとよりそんなつもりはない。あんたの協力が得られなければ・・・どうせ俺達に未来はないんだ」
それを聞くと、ドラゴンは意外にも俺の喉に押しつけた爪を引っ込めた。
喉に与えられていた鈍い痛みの元が消え去り、深く安堵の息をつく。
「ほう・・・殺されるかもしれぬというのに、そんな非力な身で我に何を頼みにきたのか興味が湧いたぞ」
ドラゴンはそう言うと、灼熱の炎を吐き出すその口から熱い吐息を俺に吹きつけて後を続けた。
「聞くだけは聞いてやろう。お前をどうするかはその後に決めてやる」
「お、俺達の村を救って欲しいんだ。エルガイアの大臣、バローネを討ちたい」
視界を覆い尽くすドラゴンの迫力に怯えながらも、俺は何とか声を絞り出した。
「何故だ?あの大国はマルケロスとかいう王の善政で成り立っているはずであろう?」
「王は先日・・・暗殺されたんだ。今は大臣だったバローネが政権を握り、周辺の町や村を侵略している」
「そしていずれ貴様の村も・・・か。ならば、貴様だけでもどこかへ逃げ出せばよいであろうが?」

確かに、俺と妹が助かるためだけならそれでもいいかもしれない。
だが、それは今まで俺達を育ててくれた村の人々を裏切ることになる。
「あの村は・・・孤児だった俺を温かく迎えてくれた村なんだ。だから、自分だけ逃げ出すわけにはいかない」
「フン・・・人間同士のくだらん義理に躍らされて、我に助けを求めてきたというわけか」
ドラゴンはそこまで言うと、再び俺の首筋に爪を突き立てた。
「だが断る。貴様の話には我への見返りがなかろう?人間の為にタダ働きをするほど、我はお人よしではない!」
ググッと、爪先が更に押し込まれた。もう一押しされれば、ドラゴンの爪が俺の喉を突き破るだろう。
「ま、待て・・・こ、事が済んだら・・・あんたに若い娘を1人差し出そう。16歳になったばかりの処女だ」
「何だと?・・・嘘ではあるまいな?」
「ああ、本当だ・・・その娘というのは・・・俺の、実の妹だ・・・」
明らかに、ドラゴンの顔に衝撃の表情が浮かんだ。
「貴様は・・・村の平和のために己の妹を我に捧げるというのか!?」
「どうせ村が奴らに襲われたら、妹も無事では済まない。村のためだと言えば、彼女もわかってくれるはずだ」
ドラゴンは喉に突き刺さる爪の苦痛に喘ぐ俺の顔をじっと覗き込みながらしばらく何かを考え込んでいたものの、やがて静かに口を開いた。
「・・・・・・いいだろう。その望み、叶えてやる」
それだけ言うと、ドラゴンは俺の上からどいてくれた。


~第4章~反撃の狼煙

絶望にも似た暗い雰囲気の漂う村の上空に、突如巨大な影が舞った。
数人の村人達が空を見上げ、その影の正体に気付いて愕然とした表情を浮かべている。
大きく翼を広げた赤いドラゴンが村の上空へ飛来し、激しい羽ばたきに伴う風を起こしながら降りてきたのだ。
「な、何だ!?」
「ドラゴンだ!ドラゴンが襲ってきたぞー!」
「早く!みんな家の中へ入るんだ!」
慌てた男達が口々に叫び、外に出ていた子供や女達を家の中へと押し込めていく。
だが村中を揺らすような地響きとともに村の中央へ着地したドラゴンの背中からレオンが姿を見せると、辺りの騒ぎが一瞬静まった。
「みんな!聞いてくれ!このドラゴンが俺達に力を貸してくれることになった!」
若干の間があって、村人の1人が呟くように声を絞り出した。
「ほ、本当か・・・?」
「ああ、本当だ。みんな、このままバローネのいいなりにはなりたくないはずだ!立ち上がって奴を討とう!」
ドラゴンの背に跨った青年の声に、数人の男達が呼応した。
「そ、そうだ、バローネを討とう。ドラゴンが味方になってくれるのなら心強い」
「よし、みんな、戦の準備だ!奴らは明日にでもこの村へ攻めてくるかもしれないぞ!」
「おー!やってやるぞ!」
にわかに、辺りに明るい活気が満ち溢れた。その様子に、ドラゴンがポツリと漏らす。
「なるほど・・・非力には違いないが、カリスマだけはあるようだな・・・」
ドラゴンの言葉に応えるようにニヤリと笑ったレオンを、リリィが家の窓から見つめていた。
「お兄ちゃん・・・やったのね・・・」
よもや自分の命がドラゴンの捧げられることになっているとは夢にも思ってはいなかった彼女は、胸の前で組んだ両手を固く握り締めながら自らの祈りが通じたことに感謝していた。

その日の夜、リリィを眠らせてから家を抜け出した俺は民家もほとんど建っていない村の端へと足を運んだ。
村人達を必要以上に恐れさせないように、ドラゴンがそこで静かに蹲っていたからだ。
「何か用か?」
暗闇の中で近づいてきた俺の姿を認めると、ドラゴンは首をもたげてそう聞いてきた。
「いや・・・ただ、何であんたが急に俺の頼みを聞いてくれるようになったのか不思議に思ってさ・・・」
「・・・村を守るために妹を我に捧げると言う貴様の覚悟の程を知りたかっただけだ」
ドラゴンは何だそんなことかという様子でそう答えると、少し不機嫌そうに鼻息をついて体を丸めた。
「そうか・・・それはそうと、俺はあんたのことを何と呼べばいいんだ?」
「・・・何故そんなことを聞くのだ?」
「名前がないと、お互いに不便だろ?」
その言葉にしばらくの間俺のことをじっと睨みつけていたドラゴンが、不意に顔を背ける。
「人間などに我が名を明かすつもりはない。どうしても名が必要だというのなら、貴様の好きに呼ぶがよかろう」
「それなら・・・ルースというのはどうだ?西欧の言葉で、光という意味だ」
「フン・・・光か。いかにも人間の好みそうな言葉だが・・・まあ、悪くない」
ドラゴン・・・いやルースは、どこか満足げな表情を浮かべたまま持ち上げていた首を地面に横たえた。
その場の思い付きだったのだが、意外と気に入ってくれたらしい。
「バローネの軍は明日にもここへやってくるかもしれない。その時は・・・頼りにしてるぞ、ルース」
眠りにつくために眼を閉じたドラゴンからは俺に対して何の返事もなかったものの、地面に無造作に投げ出された尻尾の先が照れ臭そうに揺れていた。

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