私、遠坂凛は魔術師だ。心構えはできているし、不測の事態にも冷静に対処できる自信がある。
「……今、なんて言ったの?」
しかし、そうであっても、実際に理不尽な現実を突きつけられれば動揺もする。
『聞いているのか、凛。霊器盤に反応があり、サーヴァントのクラス中、五騎が既に埋まった。
本来なら公平性を期すために、お前に話すことでも無いのだが、まあ、兄弟子としての情けだ』
天敵の神父が発する声に、僅かな苛立ちを覚えながらも、無理矢理押しとどめて話を続ける。
「……で、どのクラスが埋まったの?」
『まずはどのクラスが残っているのか聞くのが筋では無いのか?』
「―――そうね、残り2クラスは何かしら?」
兄弟子―――言峰綺礼のイヤミで苛立ちが更に大きくなる前に、できるだけ平静に努めて聞き返す。
「一つはキャスターだ」
キャスター、聖杯戦争における最弱のクラス。
まず、召喚したくないクラスとして頭に入れておいた魔術師の英霊だ。
「まあ、聖杯戦争でキャスターを好んで召喚したがるマスターはいまい。興味があるのはもう一つのクラスだろう」
次の瞬間、綺礼が嗤ったように思えた。間違いない。この腐れ神父は人が逆境にいる姿を見て嗤うのだ。
「―――喜べ、凛。お前に残されたクラスは戦闘能力において最強のサーヴァント、バーサーカーだ」
思いっきり受話器を本体に叩き付けて電話を終わらせる。
そのまま、テーブルの上に置いてあるこの日のために手に入れる事ができた英霊召喚の触媒を見つめた。

―――さる英雄が自害の際に使用した帯剣。

これを使えば、確かにその自害した英霊本人が呼ばれるだろう。おまけに『狂った逸話を持つ』以上、バーサーカーにこれ以上の嵌まり役はない。
「だけど、バーサーカーかあ」
バーサーカーは、文字通り戦うだけの狂戦士。マスターの意思など無視して魔力を吸い上げては殺し続ける殺人マシーン。
「優雅とは程遠いのよね……」
余裕を持って優雅たれ。遠坂の家訓にこれほど合致しないサーヴァントも珍しいだろう。
「でも、悩んでる暇は無いか」
触媒を持って、工房へ歩き出す。工房では、既にサーヴァント召喚の準備は終わっている。
やるなら徹底的に、バーサーカーならば、それを完璧に制御して勝利する。遠坂凛は揺るがない。

床に魔法陣を描き、凛は詠唱を開始した
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
通常の召喚呪文に更に二節付与する。
「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者」
暴風が部屋の中を荒れ狂い、エーテルが形を為していく。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆―――◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!!!!!!!!!!」
狂戦士の咆吼は、遠坂家の隅々にまで響き渡った。



「……貴男が私のマスターでいいの?」
いつだって、物事というのは『はじまり、はじまり』から始まる。
肝心なのは、それが始まるという事が解っていたか、解っていなかったかということだけで、だからこそ、目の前の光景に俺は驚きしか返すことはできなかった。

彼女のイメージを一言で表すなら『黒』一色だった。
女らしい肢体を包み込む黒いドレスは喪服だろうか、闇色のそれは、彼女の周囲だけ影になったような雰囲気を与えている。
褐色の肌とつややかな黒髪は、息を呑むほど美しい、髪の間から覗いた琥珀色の瞳は、深い知性の輝きをたたえていた。
間違いなく絶世の美女。そんな女性が、今目の前に居る。

衛宮士郎にとって、それはいつもの魔術の鍛錬の筈だった。
ただ、いつもと違っていたのは、いつの間にか片手の甲に入れ墨型の痣があったこと。
何処かにぶつけたのかと、特に気にもせず、いつものように魔術の鍛錬を始めると―――

「サーヴァントキャスター、聖杯の寄る辺に従い、顕現しました。貴男が私のマスターでしょうか」

一瞬の暴風の後に、出現したキャスターと名乗る美女に聞き返した。
「えっと、サーヴァントってなに?」

この日、運命の歯車は動き出した。


―――これより、現れては煌めき消える。流星(シューティングスター)に似たお伽話が始まる。



~運命開幕・流星の英雄達~
開幕。