満月が、地上を照らす。月光が降り注ぐなかで、酒を酌み交わす男が二人居た。
「中々いけるな、東洋の酒も悪かねえ」
赤い髪、黒いマントを羽織った男は、酒を素直に褒め称えた。
「そうだろう。“魔術王ソロモン”よう、現世に来たなら楽しまんとなあ」
子供のように笑う男は、筋骨隆々とした褐色の身体を道士が着るような服に包み、酒を飲んでいた。
「だが、今日の楽しみは酒じゃねえ。そうだろう?“至天帝軒轅”……それとも黄帝の方がいいか?」
「どうでも。どうせ帝位ほっぽり出した身だ。今はただのライダーで十分だ」
そこで、“黒”のライダーは酒を飲み干した。
「大体、俺が今でも皇帝だったら、お前さんは跪くのかよ?」
「するわけねえだろ。俺の主人は俺だけだ」
そうかい、と言うと、ライダーは杯を地面に落とす。陶器の杯は粉々になった。
「俺の相手としちゃ合格だ。それじゃあ始めるとするか」
酒は景気づけのために飲んだ。これより先の決着は剣でつける他には無い。
「ああ、お互いのサーヴァントが何騎も散ったってのに、王様が何もしねえんじゃ、様にならねえ」
周囲に魔力の渦が巻き起こす風が吹きすさぶ。

至天帝の傍らには巨大な車輪と車体を持った龍の引く車が出現した。
それは壮大にして大迫力。『中国』という国の基礎を作り上げた人物の相棒がそこにあった。
「七香指南車、俺が発明したんだ。羨ましいだろ。やらねえぞ」
「荷車如きに用はねえよ。だが、その龍は気に入った。俺が頂く」
応龍を見る魔術王の背後には数多の魔神達が佇んでいた。
異形なるもの、美麗なるもの、強靱なるもの、神聖なるもの、触れてはいけないもの、ソロモンの72柱がそこに居た。
「応ちゃんは俺の相棒だ。口説きたけりゃ誠意を見せな」
魔神達に怯む様子も無く、至天帝は自らの宝具に乗り込み、起動させた。
「そうだな、だが俺の口説き方はちと荒っぽいぜ」
魔術王が腕を一降りさせると、多くの魔神が前進を始めた。


「「行くぜぇっ!!」」


剣戟が舞い、斬光が煌めく。血風が吹き、雷電に似た攻撃が疾走し、閃光が散った。
「ああ、もう!しつこいわよ。この余所者があ!」
遠坂家当主、遠坂凛は、文句を言いながらガンドを連射し、片手で宝石魔術を行使した。
勿体ないなんて、言っている場合では無い。眼前の相手はそれほどまでの相手だ。
その相手もまた片手でガンドを撃ち出し、片手で宝石魔術を行使した。
「ほほほほほ、野獣の本性が出ましたわね。トオサカの当主、いえ、お猿さんと言った方がよろしいかしら?」
「誰が猿だ。この縦ドリルがあああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
縦ドリル呼ばわりされた少女―――エーデルフェルト家当主、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト、先祖の雪辱を果たすためにこの戦争に参加した魔術師は、声を張り上げた。
「トオサカの当主は私が打ち倒しますわ。貴男はサーヴァントの撃墜を!」
「了解した我が主よ」
それに応えたのは、鎧に身を包み、清廉を形にしたような聖剣を持つ青年。
凛もまた、負けじと声を張り上げる。
「エーデルフェルトの当主は私がぶちのめすわ。貴女は敵サーヴァントに集中して!」
「あいよ!凛!」
それに応えたのは、軽装に身を包み、額からは雄々しい角が生えている鬼の少女。
宙に浮かぶ物も含めて三振りの魔剣は、妖しい光を放った。

「「宝具を!」」

「「承知!」」

鬼姫と、聖騎士は高速で互いに突撃する。それは砲弾のような勢いだった。
「『大通連』、『小通連』、『顕妙連』!出番だよ!暴れちゃいな!」
「聖剣よ。存分に怪物の血を吸え!」
突撃が一瞬で交差する。
「『無穢なる清煌(オートクレール)』!!」
「『阿修羅三連(あしゅらさんれん)』!!」

無数の剣群と、いと高き光が爆発した。

「「セイバー!!……え?」」
同時に自分のサーヴァントのクラス名を叫んだ彼等の主は、お互い呆気にとられて顔を見合わせた。


人で無しの戦いだ。
それを目撃した衛宮士郎の感想はそれ一つだった。
空飛ぶ剣が騎士を襲い、聖剣の煌めきが鬼を屠ろうとする。
その後は、脇も見ずに駆け抜け、自宅の土蔵に這々の体で辿り着いた。
だが、その場所すらも最早安全では無い。セイバーと言っていた従者を従える少女の来訪が、運命を決定づけた。

「“黒”のアサシンだ。あんたが俺の大将かい?」

暴風と共に出現した、黒衣に身を包んだ巨漢、しかしその体躯は恐ろしい程の鋭さを連想させる。そして、アサシンと名乗った男は詳しく説明する前に姿を消した。
土蔵の外から聞こえる声に出てみると、アサシンが先程見た少女に襲いかかろうとしている場面だった。

「やめろ。アサシン―――!!」

「つまり大将はこの殺し合いのことなんざ何も知らずに、俺を召喚したと」
一悶着終えた後で、士郎は少女とサーヴァントから、説明を受けていた。
「まあ、ありえない事ではありません。偶然に偶然が重なったのでしょう」
少女―――ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトは、腕組みしながら考え込んだ。
「しかしよ。どうするんだい大将、関わっちまった以上、後戻りはできんぜ」
アサシンの言葉に、衛宮士郎は決意を返した。
「俺は、聖杯なんていらない。全てが終わればアサシンに渡す。俺は戦うよ。誰も泣かなくていいように」
黙って聞いていたルヴィアはお茶を飲み干すと、ふう、と息を吐き出す。そして言葉を紡いだ。
「それならば、提案があるのですが、エミヤシロウ―――」

新都に存在するビル。そこに、魔術師の一族が陣地を構えていた。
ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアは、報告の上がった情報を吟味している。
「御三家は勿論、マクレミッツにエーデルフェルト、それに『大学』からもマスターか」
「相手方は大学の一人を除いて、手強い魔術師ばかりですね」
フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアは心配そうに眉をひそめる。
「だが、退くわけにはいかん。賽は投げられたのだ」
軍服を着込んだ銀髪の女が、召喚の触媒となる物品をマスター候補達に配りながら呟いた。
「奴らも我々が予備システムを起動させたことを既に知っているだろう。幸いなことに私を含め五人に令呪が浮かんでいる。早めに召喚の儀式を執り行うぞ」
大聖杯の予備システムを起動させた張本人にして、ナチス残党組織グラズヘイムから出向したマスター候補、ドイツ第三帝国に協力していた魔女のクローン、ヒルデガルト・フォン・ノイエスフィールは、
自身で召喚する予定の英霊縁の品を手に取りながら、ダーニックに話しかけた。
「グラズヘイムの総意として、これより正式にユグドミレニアへ協力させて頂きます」
ダーニックはにこやかに微笑みながら、返事を返した。
「よろしい。私もかつて帝国の代表として三回目の戦争に参加した身だ。微力ながら協力させてもらおう」
「はい。かつての栄光と、これからの栄光のために、勝利を勝ち取りましょう。ジーク・ハイル」
「その通り。ジークハイル・ヴィクトーリア」
今ここに、勝利を追い求める亡霊と、権力を追い求める怪物の邂逅が成った。


間桐臓硯は焦っていた。
あろうことか、一勢力が多くの駒を従えたときにのみ起動させる本物の非常手段、予備システムが外来の魔術師の手によって起動されたのだ。
「不味い!あまりにも不味い!!」
そもそも、その非常手段がこれまでの四回の戦いで起動されなかった理由の一つは、最悪の場合地脈が枯れ果てる恐れがあることだ。そうなればこの地で二度と聖杯戦争は出来なくなる。
「ユグドミレニアの小蝿どもめ、余計な真似を……」
この事態を引き起こした者達へ気炎を吐くが、起こってしまったものはしょうがない。
「……勝負に出る以外無いか」
臓硯はかつての盟友、遠坂の屋敷を見上げた。

「同盟?」
遠坂凛は、目の前の妖怪からの提案に、嫌悪を無理矢理押し殺して話を続ける。
「然り。この事態は看過できぬ。この上は我等御三家でユグドミレニアを駆逐すべきと考えるが」
「……少し、席を立たせて貰えるかしら」
そのまま隣室に移動し、霊体化していたセイバーを出現させる。鬼の姫は心底嫌そうな顔をしていた。
「……どうだった?あの爺の心を読んでみて」
読心の能力を持つセイバーならば、あの妖怪の真意が分かるはずだと待機させておく作戦を凛は立てていた。
「鼻が曲がるくらいに臭くて、目が腐るくらいに濁ってて、耳を切り落としたくなるくらい雑音だらけ、でも分かったことがある」
「……何が?」
「桜って娘をいざという時は使い潰す気だ」
石を叩き割ったような不愉快な音が部屋に響く。凛の口元からは一筋の血水が流れていた。

「……話は受けるわ」
「おお、流石は遠坂の当主よ。これで」
「話を早く進めましょう。こっちの戦力は?もうサーヴァントは召喚しているの?」
「話が早いのう。まあ、良いわ。アインツベルンとはもう話がついておる。人形にはだいぶ嫌がられたがな。協会の執行者……アイルランドのルーン使いも、盟に加わる旨を明らかにした。
マキリからは儂と孫が出る。そして遠坂、お主を入れてマスターが五名、これで何とか喧嘩になるわ」
かかか、と高笑いする臓硯に、凛は一つだけ質問した。
「あと二人は?」
「一人に関してはもう当てが付いておる。あと一人じゃが……こ奴に期待はしておらん。数合わせよ」
「……?」
凛の怪訝な瞳に、呆れたように話す。
「あれはもう死にかけよ。何が出来るとは思えん」



「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。手向ける色は“赤”」
黒いコートと帽子を身につけた男、老人のような顔をした男、瞳に覚悟と狂気を秘めた男が呪文を詠唱している。
ルイス・ローウェルはただの凡人だ。魔術の才能は三流以下、その手も足も人類の敵を倒すことは出来ない。

だが―――勝てなくても戦うことは出来る。

魔術が使えないのであれば、科学を使えばいい、足を使って逃げ回り、手を使って銃を撃てばいい。
知識を集め、後に続く者達のために残していけばいい。この身が砕け散るまで。
そうやってルイスは戦い続けてきた。そして、これも戦いの一つだ。
令呪が現れ、英霊の召喚に移る際、ルイスは呼び出す英霊をもう決めていた。
ルイスが英霊に求めたのは自分と似た精神性だ。
汚いと呼ばれても、どのような状況下でも生き残る。
悪辣と呼ばれても、いかなる相手にでも勝利を優先する。
たとえ卑怯と罵られても意に介さぬ、泥まみれのそれでも負けないことに特化した精神。
それらを総合すれば、誇り高い騎士やサムライは除外される。
勇敢な戦士も問題だ。無意味な戦いに飛び込む危険性がある。
それならば、たとえ悪党と呼ばれた男でも、呼ぶには『こいつ』が適任だろう。幸いにしてこの国でも知名度はある。
ルイスは魔法陣の中心に置かれた石の欠片を見つめた。
フォート・サムナーから持ってきたある英雄の墓石の一部。
呼ばれるのは、墓の下に居るその本人以外にあり得ない。


ダーニックは、古代中国の物らしい冠を、セレニケは、数千年前の種から発芽したという蓮の花を、フィオレは薄汚れてはいるが、かつては純白だったと思わしきスカーフを、カウレスは大蛇の物らしき皮を触媒に召喚の儀を行っていた。

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」


―――そして、役者は揃う。



女戦士と女騎士が戦斧と槍を交えて戦う。
戦斧が唸りを上げて首を狙えば、槍が轟き心臓を狙う。双方の武器が接触し、爆発する勢いで二英霊は離れた。
「やるわね。騎士」
「貴女もな、アマゾネス」
「でも、ここまでよ。これからは二対一で当たらせてもらうわ」
女戦士の背後からは、魔術協会の執行者としてその名を轟かせた女が現れる。
「令呪を破棄して降伏しなさい。数秒だけ待ちます」
数多の魔術師を葬ってきたバゼットの殺気に、フィオレは蒼白になりながらも睨み付ける。彼女を庇うかのように、かつて愛に生きた女騎士が立ち塞がる。
「まだ、死ぬわけには行かない。私の願いも、マスターの願いもまだ叶えていないのだから。ロジェロにもう一度会うまでは、マスターに立って歩いてもらうまでは、決して私は膝を折らない」
純白の騎士は、その槍の穂先をトロイア戦争のアマゾネスへ向けた。
その姿を見た“赤”のランサーは、気を引き締め、戦斧を女騎士へと向けた。
「……そう、貴女達にも願いがあるように、私にも願いがある。ここで終わって貰うわ」
拳と斧の総攻撃が、槍の騎士とマスターの少女に襲いかかった。


「私はもとより、聖杯が欲しいわけではありませんわ」
“赤”陣営の駆逐のための、同盟締結。ダーニックからの提案を、ルヴィアはすげなく断った。
「ミス・トオサカに勝利し、全力で観客を沸かせられればそれでいいの」
「……そうですか。同盟はしないと、しかし、一騎で戦えば、各個撃破の良い的では?」
ダーニックの質問も兼ねた言葉に、ルヴィアは曖昧な笑みを返し、会談場所となっていたテーブルを離れた。
そのまま夜の街へと歩みを進め、消える。
残されたダーニックに対し、胸元の通信礼装からノイエスフィールの声が響いた。
『どう思いますか?ヘル』
「やはりというべきか、あと一人のマスター……アサシンのマスターと手を組んでいるとみて間違いないでしょう。しかし、中々厄介な手駒を従えたものだ。
エミヤシロウという少年、魔術に関する情報はゼロ。よほど用心深い性格なのだろう。我等の調査にも、まるで魔術師らしさを見せない」
『アサシンですか……その詳細不明のマスターといい、セイバーと手を組まれたら厄介ですね』
「とりあえず牽制はした方がいいでしょう。丁度こちらの誘いに『彼等』も乗ってくれたようです」
その言葉に、礼装から聞こえる声に僅かに驚きが混じる。
『……情報をリークしたのですか?』
「エーデルフェルトの才媛と、アンノウン、小聖杯はアンノウンに興味津々らしい。せめてそれが従える化け物だけでも滅ぼしてくれないだろうか?」
冗談めかして笑うダーニックの目からは、しかし暖かみというものが完全に失せていた。



突然の襲撃は衛宮の屋敷にかけられる。
「こんばんは、いい夜だねお兄ちゃん。死ぬにはいい夜だよ」
「うちの子供達、早く人間を食べたいって聞かないの。だから、精々苦しんで食べられてね?」
銀髪の少女と、“赤”のライダーたる、蛇に似た目をした少女は絶望(バケモノ)を引き連れて笑った。
死者を決して逃がさない地獄の番犬(ケルベロス)。
クレタの牡牛を守る双頭狗(オルトロス)。
大英雄も怪物も殺した毒を持つ多頭毒蛇(ヒュドラー)。
あらゆる武器が効かない装甲獅子(ネメアライオン)。
眠ること無く黄金の林檎を守り続けた百頭竜(ラードーン)。

……判ったのはここまで、百を超える異形どものたかだか数体を理解した程度で、絶望的な戦局は揺るがない。
周囲を囲む魔獣達は、徐々にその包囲を狭めていく。

「セイバー、シェロ、アサシン!気をつけて、この魔力量、現代の合成獣ではありませんわ!」
「じゃあ、宝具か何かか?でもこんな連中を呼び出せる英霊なんているのか!?」
アサシンの疑問に、ルヴィアは一瞬だけ考えた。
「まさか、これら全ての怪物に関係している者など……アインツベルン!『それ』の正体は!」
驚愕したルヴィアの視線は、にこやかに笑うライダーと呼ばれた少女に注がれていた。
「正気ですかアインツベルン!もしそれが暴走でもすれば、この街など数時間で食い荒らされて……」
「それが?」
「……なんですって?」
魔術師として、神秘漏洩の危険性を説くルヴィアに対し、イリヤスフィールは笑顔を崩さない。
「もうアインツベルンは神秘の隠匿だとかどうでもいいの。とにかく聖杯を手に入れられればいいんだよ?」
「……そこまで堕ちましたか」
ルヴィアの背後からは、聖騎士が穢れ無き剣を構える。士郎の前では忍軍の頭領が手裏剣を懐から出した。
「アサシン、貴公はマスター達の退避を」
その言葉に、アサシンは周囲に気を張ったまま答えた。
「あんた、死ぬ気か?」
「ご心配なく、この身は元々死者。たとえ滅べどもこの異形の諸々、一頭たりとも現世には残しません。ここで果てなさい幻想の獣達」
セイバーの言葉に、ライダーは嘲笑で返した。
「言うじゃない。でもこの子達をもう一度殺したければヘラクレスでも連れてくるべきだったわね。その貧相な剣一本でやり合うって言うの?不可能って言う言葉の意味知ってる?」
「あなたこそ、英雄という者を知らないようだ。そう言えばあなたの最期は巨人によるものだったな。英雄とは不可能を乗り越え、栄光を手にした者。不可能という言葉など、とうの昔に聞き飽きた」
そこで、聖剣を『魔物の母』へ向けた。
「英雄の刃、存分に受けよ!!」
「あんたこそケモノの牙で果てなさい!!」
閃光が周囲を包んだ。


間桐桜にとって、ここ数日の全てが不本意だった。
サーヴァントなど召喚したくなかった。バーサーカーは怖いし不気味だ。
アインツベルンの城になど来たくなかった。化け物が何百匹もいる城になど来たくなかった。

―――聖杯戦争など参加したくなかった。死ねば、衛宮士郎や藤村大河と会えなくなる。

だから、間桐桜は一刻も早く祖父の命令で参加させられたこの戦争を終わらせることにした。
「……はあ、もういい加減に降伏してくれませんか?」
「……それは、できません」
桜の呆れを滲ませた言葉に対して、答えたのはサーヴァントの後ろで震えているマスターでは無い。
「バーサーカー!無理するな。お前もうボロボロじゃないか!」
マスターであるカウレスへ、“黒”のバーサーカーは安心させるように微笑むと、ふらつきながらも“赤”のバーサーカーに立ち塞がった。
その身体は幾つもの裂傷が走り、身体中から流血している。右手は動かなくなったらしく、片手で押さえている。美しかった髪の毛も乱れていた。
だが、何故か目を固く瞑る彼女は、カウレスの前を離れようとはせず、敵のサーヴァントに対峙し続けていた。
「■■■■■■■■■■……■■■■■■■■■■……」
絶世の名剣を持つ。かつてのシャルルマーニュ最強の騎士は、眼を狂気にぎらつかせ、時折唸っている。
「貴女ももう分かっている筈です。『勝てない』と。このバーサーカーは歴代聖杯戦争中最高のカードです。何せ魔力供給が殆ど必要無いんですから」
魔力炉の機能を持つ宝具、それが“赤”のバーサーカーを非常に燃費が良い存在としていた。
「私が命令すればすぐにでも―――」
「いいえ、これで終わりです」
瞬間、空気を震わせて澄んだ音が響き渡った。歌声の主は“黒”のバーサーカー、オペラ歌手のように荘厳な音色は、驚くことに口笛で発せられていた。
「―――?もう、いいです。バーサーカー」
桜の命令によって、バーサーカーは突撃した―――敵のいない明後日の方向へ。
「え」
呆然とする桜を余所に、バーサーカーは何も無い中空に向けて剣を振っている。シャドーボクシングに似たそれは、まるでそこに『誰かがいるよう』にいつまでもやめようとしない。その滑稽な姿に、桜は思いついた。
「まさか、幻覚……」
対魔力スキルの無いバーサーカー、おまけに理性が無いとくれば、このような搦め手も効くのかも知れない。
いや、現に効いている。

気がつくと、目の前に口笛を吹き続けている敵のバーサーカーがいた。

「―――あ、いや、だって」
膝が震える。鳥肌が立つ。ライオンの目の前に居る犬のような気分。
死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない―――!!!
それだけしか考えられない無力な自分。手で顔を覆った。
……いつまでたっても何も起きない。

『バーサーカー、何をしているのだね?』

聞き覚えの無い声に、桜は顔を上げた。虚空から聞こえてくるそれが何を促しているのかは考えなくても分かる。
『敵のバーサーカーは混乱している。今が絶好の機会だ。そこにいるバーサーカーのマスターを討ち取りたまえ』
その言葉に対し、“黒”のバーサーカーは、一言だけ呟いた。

「……できません」

『―――何?』
「私は罪を償うために聖杯を求めています。子供を殺めるなど、できません」
『……過去の救命を求めてこの戦争に参加したのだろう?ならば早く……』
「できません……私は既に死者であるサーヴァント以外を殺めることはできません」
そこで、一瞬だけ言葉は切られた。
「ましてや、子供を―――『もういい』」
虚空から響く言葉は、呆れに満ちていた。
『カウレス、令呪で攻撃させろ』
「えっ……」
その言葉に、眼鏡をかけた少年は虚空に目を向けた。
『そこのバーサーカーは難敵だ。令呪一画を使っても、惜しくは無い。早くしろ』
「え、ええ、それは……」

カウレスにとって、この聖杯戦争にかける望みは何も無かった。
姉のスペアとして育てられ、この戦争でもハズレクラスのバーサーカーを召喚させられた。
召喚したバーサーカーが美しい女性だったことには驚いたが、それだけだ。出会って数日も経っていないサーヴァント。何の気兼ねもいらないはずだった。

―――その狂ってしまう程の悲嘆まみれの過去と、強く、それでも甘さを捨てきれない願いを知るまでは。

心の中から声がする。
今までもそうだったのだ。言うことを聞くだけなのに何を躊躇している?
だが、別の声も聞こえてくる。
『彼女』に、そんなことをさせていいのか!?

カウレスが躊躇している理由は、一族の長であるダーニックに命令されているからではない。
自分を守り、敵すらも救おうとする慈母のような優しさと強さを持った『彼女』に対する感情に気づいたからだ。

(……そうだよな)

カウレスの答えは決まっていた。



英霊とは、神話や伝説の中でなした功績が信仰を生み、死後祀り上げられてなった人類の守護者である。

しかし、 “赤”陣営のキャスター―――魔術王ソロモンによって召喚されたアサシンは、間違いなく英霊では無い。悪をなして結果的に人々を救う反英霊であるかどうかも怪しいところだ。
真名は分かっている。攻撃を仕掛けるときに必ず口にするのだから。だが、そのサーヴァントは断じて英霊では無い。伝説(フォークロア)が伝える通りなら、まさに悪霊か怨霊だ。
「―――私、」
「!!『乾坤圏(チェンクンジェン)』」
瞬間、“黒”のアーチャーは自らの宝具を使った。
「大丈夫ですか、マスター!!」
「ええ、まあ、今のところは」
例え苦手でも、自分のマスターであるセレニケの無事に安堵し、暗殺を試みた影への警戒を怠らない。
「まずいわね……まるで諦める様子が無いわ」
流石にセレニケの声にも疲れが溜まっている事が分かった。無理も無い、あのアサシンのしつこさは、ここ二日で数十回以上攻撃されたことで証明されている。退却すらも終わりでは無い。
『混天綾(ホンティエンリン)』の超感覚によってこちらには傷一つ無く攻撃を回避することができたが、いずれまた再攻撃を仕掛けてくるだろう。
事実、遠方の道路からこちらを挑発するように笑いながら、ふらふらと下手なダンスを踊る姿があった。
ボロボロのワンピースと煤けた麦わら帽子を被ったその姿は、使い古して捨てられた人形を連想させた。
「ふふっふふっ、遊びましょう?呪われたテレビゲームがあるわ。綺麗で悲しい童謡を歌いましょう?それとも鬼のいないかくれんぼでもする?占いは好き?天使様でも呼ぼうかしら?でも、なんといっても人形遊びよねえ」
“赤”のアサシンは訳の分からない話をしながら、きゃははははと、無邪気に嗤う。その手に持った出刃包丁がギラリと光った。その姿に、生前戦った者達とのいずれとも違う不気味さを感じる。
アーチャーはたまらずに叫んだ。
「お前も聖杯に招かれた武人ならば、正々堂々と勝負しろ!!」
勿論、期待などしていない。だが、会話に持ち込むことで何かを引き出せないかという狙いはあった。

「まあ、あなたは人形遊びがしたいのね。分かったわ」
そう言うと、アサシンは出刃包丁を手放して、肩からかけている鞄から何かを取り出した。
案の定、支離滅裂な行動に出たアサシンに、僅かながら安堵したアーチャーだったが、アサシンが鞄から取り出したモノを見た瞬間、驚愕に目を見開いた。

「たのしい、たのしい人形遊びよ。みんなで手足が千切れるまで遊びましょう?」
そう言うと、悪霊は手も足も無い血のような色で汚れている人形を持って、哄笑した。いや、狂笑と言うべきか。
アーチャーは絶句している。セレニケは興味深そうに注視している。理解したのだ。あの傍目には廃棄物にしか見えないような残骸が、“赤”のアサシンの宝具だということを。
そして、伝説に語られる通りならば、その機能は―――!!

「ふふふん、ふふふん、可愛い可愛い、私の人形、今にお手々とあんよを持ってきてあげるわね」



軽快で、どこか妙なリズムの音楽。
それを聞いた時、“赤”のアーチャーと、そのマスターはすぐに警戒の反応を返した。
ここは敵地、“黒”の陣営が一騎、キャスターの隠れ家にして、神殿。警戒してもし過ぎることは無い。

―――だから、『そいつ』の出現は、完全に二人の虚を突いた形となった。

「マジカル、ヘリオス、ペルセイス!アイアイエーよりやって来た。愛と月の女神!恋に生きる素敵乙女、スーパー魔女っ娘キルケーちゃん見参なのだぁ~!!ぶいっ」

「「は……?」」

なんだ、そのフリフリヒラヒラしたレースが山程くっついてる衣装は。
なんだ、その手に持っているステッキは。
なんだ、なんでボン、キュッ、ボンのダイナマイトボディの美女がジャパニーズ・コスプレしてんだ。
口から舌を出して、片手でVサインをしたまま、バチコーン。とあからさまにウィンクした。
やめろ。何かいろいろと台無しだ。

「なあ、おい、ルイス。俺たちゃ殺し合いに来て、情報通りならここにいるのは敵のサーヴァントだよな」
「……聞くな。俺も確証が持てなくなった」
自分が狂気に完全に侵された可能性もある、という可能性もあったが、アーチャーが同じモノを見ているのならそれは薄いだろうと結論づけた。とりあえず狂気じみた物体に話しかける。
「お前は“黒”のキャスター、真名はキルケーでいいのか?」
「おおっと、この身は大きなお友達の愛と欲望で編まれた魔法少女英霊!敵に語る名など持っておらんわー!」
さっき、語ってたじゃねえかよ。という疑問は当然の如く無視された。と、いうよりそっちの方が楽だ。
まあ、いい。敵とか言うのなら、さっさと殺し合いに移ろう。アーチャーと視線で会話し、銃を抜く。

瞬間、ルーンで構成された炎がルイス達に襲いかかった。人間のルイスには勿論、対魔力が極端に低いアーチャーにとっても危険だ。バックステップで後方へ逃れ、キャスターに銃口を向ける。
―――あのふざけた恰好は油断させるための罠か!?
「おお、バックファイアー!!時代は萌えならぬ、燃えを求めているのねー!!」
―――それはないか。
もう全てが面倒くさくなって発砲するが、銃弾は全て空中に浮かんだ魔法陣の形状をした光に当たって砕けた。
あれだけの魔術を無詠唱で展開できるとは、ただの馬鹿じゃ無いということか。

「キャスター、真名を軽々しく話すなと言っていただろう」
溜息をついて現れたのは、長槍を持った女だ。その肢体を包む物を見て、ルイスは古い戦争映画を思い出した。
「……ナチス」
その軍服、その軍帽、そして腕章にはハーケンクロイツ。
「それは、劣等共の蔑称。ドイツ第三帝国軍と呼んで貰おう」
銀の髪と紅い眼をした女は、誇らしげに槍を振った。槍は火に包まれ、燃え上がる。事前に収集した情報によれば、ヒルデガルト・フォン・ノイエスフィールというマスターだ。
「キャスター、君はアーチャーの排除を。今まで改造した全使い魔の投入を許可する」
まかせなさい!でも、ヒルデちゃんはどうするわけ?」
「この死に損ないに引導を渡してやる」
槍を突きつけたヒルデガルトに対し、ルイスは、銃を構えたまま言葉を紡ぐ。彼にしては珍しく、饒舌に。
「やってみな、大概の映画じゃナチスは悪役で、ラストで負けるんだぜ」
「ほざくな。流刑者の子孫!!」
ヒルデガルトが床を蹴り、ルイスが発砲した。

炎と銃弾が飛び交う中で、“黒”のキャスターと“赤”のアーチャーは対峙していた。
正確には、アーチャーが対峙していたのは、キャスターの背後の空間から現れた生き物たちだったが。
「魔法少女にはマスコットがつきものでしょ!」
「えらく不細工なマスコットだけどな」
巨大な複眼を持つ蠅の頭をしたライオン。
鎌を六本持つ二メートル近い蟷螂。
二つの頭を持った大蝙蝠。
二足歩行する豚がいる。巨大なヒキガエルがいる。絵本でしか見たことが無い竜らしきモノまでいた。
「ひっど~い、魔法少女が泣いちゃうゾ?」
「いや、だって―――」

あんた、魔法『少女』とかいう年じゃねえだろ。

キャスターが硬直する。
アーチャーにとっては、単なる指摘だったが、キャスターにとってはそうでもなかったらしい。その証拠に、キャスターは肩を震わせ、顔は無表情で固まっている。その手にはいつのまにか先程のステッキでは無く、身長程もある杖が握られていた。
「ムカデ、ゴキブリ、サナダムシ、どれがいい?」
「はあ?」
銃をホルスターに収め、早撃ちの準備態勢をとっていたアーチャーは、紡がれた言葉が呪文では無くただの言葉であったことに、疑問の声を上げる。
「あんたが『なる』生き物、他にも毛虫とか糞虫とか、なんならミジンコとかでもいいわ。選びなさい」
先程まで無表情だったキャスターは、壮絶な笑みを浮かべながら自身の背後で魔力弾を形成する。創造された幻想種の群れも、アーチャーへ飛びかかる体勢をとった。
「楽に殺してなんかやらない。あんたは苦痛と恥辱と諦観を味わいながら、別の生き物になるの」
そこで、キャスターは再びにっこり笑って、ポーズをとった。
「乙女の純情を踏みにじる奴は地獄行き、魔法少女は許さな~い!!」

周囲は改造生物、正面は魔弾。絶望的な状況下で、アーチャーは子供のように笑った。

「やっと、面白くなってきやがった」



―――それは、聖杯の泥が呼び寄せたモノ。

「ううっ……やめて、来ないでよお……」
ファナ・ロレンテ・イグレシアスは、スペインの街角で何かから逃げるように必死で這い回っていた。
見れば、彼女の周囲には野良犬一匹いない。ならば、彼女は何から逃れようとしているのか。
「やめてよっ、『入ってこないで』よ!」
侵略者(インベーダー)は、既に彼女の中にいた。
一瞬、幻視したそれは―――美しかった。
神聖で、正しくて、間違っていない。
真っ直ぐで、当然で、素晴らしい。
それなのに、ファナはどうしてもそれを肯定できなかった。例えるならば、荘厳な宗教画の裏に、何か良くないモノが隠されているような、安心できない感覚。
―――悪魔は常に、美しい姿で人間を誘惑するものだ。
知り合いの司祭が言っていた言葉を思い出した。
『憑依による人格の一時封印及び英霊の霊格挿入開始』
「やだっ!」
彼女は、赤茶色の髪を掻き毟り、必死で自分の中に入ってきた何かがしようとしていることを否定する。
『元人格の同意獲得失敗、霊格挿入続行。元人格の破壊準備開始』
「うぐっ、痛ぁ……っ」
頭蓋を切り開き、内蔵物を切り分けるような感覚に、必死で『ある行為』に全力を注ぐ。
『霊格挿入完了。体格と霊格の適合作業開始、元人格の破壊準備完了』
『クラス別能力付与開始』
『全英霊の情報及び現年代までの必要情報挿入開始』
『クラス別能力付与終了。スキル……奇跡(偽)、カリスマ(偽)、神託(偽)、黄金律(偽)』
「な……何コレ……」
『必要情報挿入完了』
『元人格の破壊開始』
「わあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
最早自分という存在全てがプレスマシンで潰されて粉々になっていくような感覚に、彼女は必死で抗った。
だが、機械的に行われるそれは、ファナの抵抗を紙屑のように引き裂き、彼女を蹂躙していく。
そのまま、肉体は意識を手放し、彼女は仰向けに倒れた。

『適合作業終了』
『全工程完了』

『サーヴァントクラス、ルーラー。現界完了』

冬木で行われる聖杯大戦に、マスターを持たざるサーヴァントとして現界するクラス、ルーラー。
生け贄の羊として選ばれたのは、聖堂教会に所属するシスターだった。
彼女の中に入ってきたモノは、英雄だった。王だった。救世主だった。
人々を救い、導き、慰撫し、『印』を持たない人々は笑顔で見捨てる。真実とは対極の、永遠に救われないモノ。
―――最大最凶の反英雄。


赤茶色の髪を持つシスターが立ち上がった。
自身が信じる神と、永遠に敵対し続けるモノに入り込まれた彼女は―――。

「いたたた、なんだったのよ。もう」

ファナ・ロレンテ・イグレシアスのままだった。
彼女が修得している秘蹟に清浄を司り、呪いの浄化を行うものがあった。
元々無理な召喚であり、現世との繋がりが弱かったことが幸いしたのか、必死に行ったそれは成功し、精神の汚染は殆どされなかった。人格の破壊はされずに、ファナの人格がそのまま残るほどに。

「早く帰らないと……えっ、冬木?聖杯戦争?」
教会へ戻ろうとした彼女の記憶に、知るはずの無い情報が書き込まれている。
それは、基となった英霊の置き土産だった。勿論それだけでは無い。
「……私のクラスはルーラー……ルーラーって何?……えーと、私の宝具は『天より下されし判決の炎(ソドム・ゴモラ)』と、『獣の数字の刻印(ゲマトリア)』……って、なんでこんなんが使えるのおっ!?
……筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A 幸運E 宝具A++……ちょっと、なんで幸運のパラメーターがこんなに低いわけ!?……冬木への飛行機はまだ出るわね……うわーっ!私行く気になってるーっ!!助けて神様ーっ!!」

元来の性格、サーヴァント・ルーラーとしての義務意識、修道女としての責務。それらに後押しされた彼女は、いつも通り愚痴をこぼしつつも、極東の地、冬木に向かうのだろう。
だが、彼女は気づいていない。人間よりも上位の存在を、その中でも最も悪意に塗れた存在を退けたその功績。

―――それが、紛れもなく『英雄』と呼ばれる者達の功績だということに気づいていない。

かくして、ここにサーヴァントの力を持ちつつも、サーヴァントでは無い常識を外れた存在が出現した。



世界最小で、世界最大の『大戦』は、様々な思惑が交差する。

「俺はさ、正義の味方になりたいんだ」
「衛宮の大将、俺はもとより化け物崩れの悪党だ。存分に手足として使っていい」
正義の理想に囚われた者と、悪に堕落したが故に断罪され、新しい栄光を望む者がいる。

「俺は、この戦争で、人類の敵を全て駆逐する」
「喧嘩ができて酒が飲めりゃそれでいいぜ?俺はよ」
復讐に囚われた者と、喧噪と熱気と闘争と勝利を望む者がいる。

「やはり、貴女と決着を付けなければなりませんわね」
「友よ!君は何故……」
誇りを胸に抱く黄金の魔女と、友への贖罪を望む者がいる。

「ええ、こっちにも負けられない理由があるのよ」
「まとめてかかって来な!ぶっ飛ばしてやる!」
残された家族の幸福を望む者と、茨の道を歩もうとする者を放っておけない者がいる。

「俺にとっては、百年先の根源より、今の姉さんだ」
「ええ、それが人間として選ぶ道でしょう」
諦観に囚われていた者と、甘さを捨てきれず、それでも戦うことを選んだ者がいる。

「私は、ランサーの願いも一緒に叶えたいです」
「私は絶対にロジェロと出会う!」
小さく、それ故に強い願いを抱く者と、愛する者ともう一度会おうとする者がいる。

「聖杯を持ち帰ることが私の任務です」
「私は絶対に妹と出会う!」
権力者に道具として扱われる者と、愛する者を生き返らせようとする者がいる。

「シロウ、遊ぼー!」
「来てえ……、私が食べてあげる」
無邪気さと残酷さを併せ持つ者と、大前提を覆そうとする者がいる。

「どうして、あなたの肌はナイフで切れないのかしら」
「敵のサーヴァントはともかく、マスターの方が油断できないって……」
執着と我欲に囚われた者と、英雄の誇りを胸に戦う者がいる。

「私は先輩と先生とご飯を食べられればいいのに、何でそれすらも思い通りにならないのよおおおおおお!!!」
「■■■……■リ■■……■■■……」
ささやかな幸せを望み、それが手に入らない事に絶望する者と、友への贖罪を望む者がいる。

「全ては勝利のために、千年帝国のために」
「衣装を沢山作ったけど、着るような見せ場あるかなあ?」
与えられ、複製された誇りを胸に戦う者と、戦いよりも、聖杯よりも自分の趣味を優先させる者がいる。

「この世界の神秘と奇跡を、千界樹(ユグドミレニア)と、千年帝国(グラズヘイム)が手に入れるのだ」
「俺はもう皇帝じゃ無え、だがな、無惨に死のうとしている民草を放って置けるわけも無え」
『力』を求める者と、自分の気の向くままに、風のように戦場を駆ける者がいる。

「成る!成るぞ!マキリの悲願が今こそ成るぞぉぉぉぉ!!」
「遊びましょ!遊びましょ!バラバラにして遊びましょ!キャハハハハハハハハハハハハ!!」
「これが、聖杯、なのかよ」
奇跡を望む者と、在り方のままに多くの血を流す者と、その叡智ゆえに真実に辿り着いた者がいる。

「サーヴァント、ルーラーの権限を用い、この大戦を終わらせます」
力を持ったが故に、全てを終わらせることを選んだ者がいる。




「御三家、ユグドミレニア、亡霊、狂人、裁定者」
そこで、神父は酒をあおった。
「そして、正義の味方か」
神父は地下の片隅に存在する『誰か』に目を向けた。
「お前にも、出てもらうことになるだろうな」
死臭漂う密室で、前回の戦争より『何か』を追い求め続ける死者は、口を裂いたように嗤った。


ここに、役者は揃い、後にも先にも無い歌劇が幕を開ける。



“黒”のセイバー 
真名はシャルルマーニュの騎士、オリヴィエ。マスターはルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。
性格は生真面目かつ、公正な騎士らしい騎士をイメージしました。触媒は最期に自分の命を奪った槍の穂先。
ロンスヴォーの戦いで不利を悟ったローランが角笛を吹こうとするのをやめさせたことで、多くのパラディンが死んでしまったのではと考えている彼の願いは、ローランに謝罪すること。

“黒”のランサー 
真名は純白の騎士、ブラダマンテ。マスターはフィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。
性格は普段は冷静で、しかし恋人のことになると猪突猛進する恋する乙女。触媒は生前身につけていたスカーフ。
ロジェロを生き返らせ、二人で現世で生きていくことが願い。
恋しか頭に無いように見えて、騎士として、マスターであるフィオレの願いも叶えたいと思っている。
そういうイメージです。

“黒”のアーチャー
真名は蓮の花の化身、ナタ。マスターはセレニケ・アイスコル・ユグドミレニア。
仙人達の教育によって普段は礼儀正しく、しかしやはり熱くなるイメージです。
触媒は、数千年前の種から咲いた蓮の花。
願いは特になく、英雄として無辜の民の被害を少しでも減らそうとしている。
苦手な人物はマスターであるセレニケと、“赤”のアサシン。

“黒”のライダー 
真名は軒轅、もっとも知られているのが黄帝。マスターはダーニック・プレストーン・ユグドミレニア。
発明家で武にも通じ、人望がある。おまけに人間以外にも好かれる。触媒は天に昇ったときに残していた冠です。
天衣無縫で、気ままに生きる人物をイメージしました。
帝位は孫に譲り渡したので、特に自分が皇帝だというこだわりは持っておらず、それでも“黒”の英霊四騎を上手くまとめている姿はカリスマのたまもの。
本人曰く、生きていた頃には働きすぎたので、現世ではレジャーを楽しむために、それから無辜の民を守るために現界しました。

“黒”のアサシン
真名は風魔小太郎。マスターは衛宮士郎。生前、切嗣が用意していた予備の触媒で召喚されました。
アサシン単騎としての能力も高い上、本来は三百人近い自らの兵力を駆使して戦略的に動き回ることを得意とする集団戦の長。切嗣に召喚されたら最悪に相性がいい筈。
しかし、今大戦では士郎に召喚されたため、宝具はもっぱら街中のパトロールに使用されています。聖杯への願いは、盗賊として処刑された過去を恥じているため、聖杯の力で受肉し、もう一度風魔小太郎の伝説を打ち立てること。
そのためにマスターは必要なのと、仕事はこなす主義から、士郎との関係はまあまあいいものの、自分を人間扱いする士郎に戸惑うこともままあります。
皆鯖アサシンの中では、最強なんじゃなかろうか。

“黒”のバーサーカー
真名はラミア。マスターはカウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。
リビアの神殿で保管されていた大蛇の皮で召喚されました。薄幸系若奥様、おまけにお姫様。
理性があるバーサーカーとして、通常の狂戦士と違って多少は扱いやすい。
ただ、それは宝具を使用しなければの話であり、もし使えば令呪以外で再び元の状態に戻すことはできない。かなりリスキーな宝具。
カウレスとは上手くやっていて、彼が向ける感情に対しても知っていますが、答えられないと思っています。
その理由は、死者で、怪物である自分が若いカウレスの歩む道を迷わせてはいけないと思っているため。
救済ルートがあるかどうかは、マスターの采配次第。

“黒”のキャスター
真名はキルケー。マスターはヒルデガルト・フォン・ノイエスフィール
チルチェーオ岬の洞窟にあった釜の一部で召喚されました。
弟子のキャス子さんが可愛い服を作るのが趣味に対して、彼女はその服を着ることが趣味となっています。
おまけに、現界してマジカルなアニメを見たことで、自らを魔法少女(?)と名乗るようになり、それに関する問題を誰かに指摘されると魔力の限り暴れまくる。ライバルはかわいい女の子。好みのタイプは筋肉マッチョ。
大抵の人間は玩具にする悪癖があるが、気に入った人間に対しては協力することもあります。
聖杯にかける願いは、自分が主役の劇場版大長編を作製すること。だが、この願い自体が嘘である可能性もある、煮ても焼いても食えないサーヴァント。
……本気で、こういうキャライメージにしても良いものか悩みました。


“赤の”セイバー 
真名は鈴鹿御前、マスターは遠坂凛。
滋賀県の旧家に保管されていた着物の切れ端で召喚されました。
頭より体が先に行動し、坂上田村麻呂には勢いで求婚したブッチギリの肉食系女子。
元々が鬼で盗賊だったので、大して道徳意識はありませんが、それでも困っている誰かを放っておけない程度には情けがあります。
鬼としての優れた身体能力に加え、神通力まで使うオールラウンダーなサーヴァント。『英雄』と『怪物』両方の面を持っている希有な存在。
あまり深く考えずに喧嘩がしたいことが最初の願いだったが、凛と桜の複雑な事情を知り、何とかしてやれないかとも思っています。

“赤の”ランサー
真名はペンテシレイア、マスターはバゼット・フラガ・マクレミッツ。
トロイの考古遺跡で発掘されたノコギリソウの化石で召喚されました。
相手の連携を崩し、しかし自分は連携攻撃ができるという集団殺しのサーヴァント。小太郎の天敵。
昔、誤殺してしまった妹の蘇生を願い、戦争に参加しました。
性格は基本的には明るいが、戦いになれば容赦はしない生粋のアマゾネス。
バゼットとは同じ戦士同士として相性がいいと思います。

“赤”のアーチャー
真名はウィリアム=H=ボニー、マスターはルイス・ローウェル。
本人の墓石の欠片を触媒にして召喚されました。
喧嘩は好きだが、勝つのはもっと楽しい。勝つためなら姑息な手でも平気で使うアウトロー。
逃げることも得意で、使い勝手の良い宝具は魔力消費も少ない。決して最強では無いが、最強とでも渡り合えるサーヴァント。

“赤”のライダー
真名はエキドナ、マスターはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
スキタイ地方にある、ヘラクレスが立ち寄った洞窟由来の品で、ヘラクレスを呼ぶはずが、生前にその洞窟を住処にしていたエキドナが呼ばれました。
外見は少女で、その実は妖女。妖艶で享楽主義的な性格です。
単騎の性能もさることながら、彼女が生み出す怪物達はヘラクレスでも手こずる程の獣であり、それらが群れをなして襲いかかれば並の英霊では歯が立たない。
その霊格の高さの関係上、現界にも宝具の使用にも大量の魔力を使うものの、マスターがイリヤであるためにこの問題はクリアされています。
順当に勝つにはマスターを狙うしか無く、しかしアインツベルンの城を拠点にして大量の怪物達が守っているため、これも難しい。隙の無いサーヴァント。
聖杯に駆ける願いは一応自分と子供達の受肉ですが、それ以上に生前の運命から、『英雄』が『怪物』を打ち倒すという法則を覆し、『怪物』の手で『英雄』を引き裂き喰らいたいという願望があります。

“赤”のアサシン
真名はメリー。マスターは“赤”のキャスター、魔術王ソロモン。
サーヴァントがサーヴァントを召喚したため、英霊では無く、怨霊に近い性質のモノが呼ばれました。
外見は捨てられた人形を彷彿とさせるボロ切れのようなワンピースと帽子を身につけ、錆び付いた出刃包丁を持って、ぎらついた目をしながら嗤う。不気味そのものの姿。個人的には精神汚染を付加しても良かったかなと思います。
怨霊としての面が強く出て召喚されたため願いは無く、ただ血を流すことだけを望んでいる。サイコ・ゴースト。
しかも、普通に倒しても呪いを置いていくという鬼畜仕様です。

“赤”のバーサーカー 
真名はローラン。マスターは間桐桜。フランスの寺院で保管されていた本人のマントで召喚されました。
バーサーカーらしいバーサーカーであり、しかも魔力炉心付きの宝具を持っているため、燃費は良い仕様。
外見は投稿されたイラストの通りです。
ロンスヴォーの戦いで面子を優先させた結果、多くの騎士達を死なせてしまったと悔やみ続けている彼の願いは、オリヴィエに謝罪すること。

“赤”のキャスター
真名はソロモン。マスターは間桐臓硯。生前に執筆した魔道書の一部で召喚されました。
皆鯖最強クラスのキャスター、魔神を繰り出せば、三騎士とでも渡り合えるはず。
外見は投稿されたイラストの通りです。“赤”の陣営のまとめ役。
神に権能を与えられ、その結果国を富ませた彼ですが、国を運営している途中で、自分の全ては、所詮神から与えられたかりそめの力では無いかと疑い、それが結果として偶像崇拝と財政破綻に繋がりました。
聖杯に駆ける願いは無く、自分自身の力がどこまで多くの英雄に通じるのか確かめることを目的としています。

ルーラー
真名はアンチキリスト。身体は、ファナ・ロレンテ・イグレシアス。
聖杯やキリスト教、統治者繋がりでいいサーヴァントは無いかなと探した結果、アンチキリストに決まりました。
第二次皆聖でのシスターを身体に選んだのは、キリスト教繋がりで。
聖杯の泥の影響でルーラーも悪性の英霊が呼ばれましたが、ファナに憑依するときに自分自身で精神を洗浄したために、ファナの人格はそのまま残り、サーヴァントとしての能力がそのまま残りました。
元々の健気な性格と、サーヴァント・ルーラーとしての役割に引きずられる形で冬木入り。様々な怪異と遭遇する彼女の明日はどっちだ。


?????
クラス、真名は不明。マスターは言峰綺礼。
言うまでも無く、前回受肉した第四次聖杯戦争のサーヴァントです。
嘘予告なので、皆さんがお好きな名前をどうぞ。