「汝こそ巻物を受け取り、その封を特に相応しきもの。
 汝は屠られ、その血でもって、あらゆる種族と言葉、あらゆる人々と国家から、我々を神の為に贖ったからである。
 そして、我らを神の為の王とし、祭司とした。
 そして、我らは地上を治めるだろう。」
ヨハネ黙示録 五章九~十節




ARCHER


 「この聖杯戦争とやら―――どうにもキナ臭ぇな。」
 「……?何言いだすのよ、急に。」

 深夜、ダイニングルーム。
 赤い服を纏った魔術師の少女―――遠坂凛は紅茶を飲む手を止めて、怪訝な表情でテーブルの向かいに座る青年を見た。
 彼に目を向けてから凛は、『あぁ、そう言えば今飲んでいる紅茶の産地は彼の故郷だったか』―――などと益体の無い事を考えた。

 そこにいたのは若く、そして逞しい男だった。
 二mを超えるその巨体は筋肉によって覆われ、西洋風のダイニングルームを途方もない存在感で埋めつくしている。
 着ている服は簡素な脚絆に裾の長い明るい色の外套のみで、浅黒い肌と鍛え抜かれた筋肉を惜しげもなく曝していた。

 この尋常ならざる気配を纏う男は当然ながら尋常の存在ではない―――冬木において五度目が執り行われようとしている聖杯戦争、それに参戦する遠坂凛によって召喚されたサーヴァントである。
 彼のクラスは『弓兵』―――アーチャー。
 地下の工房で儀式が行われたにもかかわらず、屋敷の天井をぶち破って召喚されるというトラブルこそあったものの、サーヴァントが記憶を失って真名すら忘れてしまうといったような致命的なトラブルは避けられた。

 無論、そのとき多少のドタバタこそあったものの、それも一段落つき、凛とアーチャーは紅茶を飲みながら交流を持っていたのだが―――。

 「キナ臭ぇ、まったくもってキナ臭ぇ。」
 「臭い臭いって、だから何がそんなに臭いってのよ。」
 「だから言ってんだろ……この聖杯戦争ってぇのがどうにも臭うんだよなぁ。」

 そう言ってアーチャーは渋面を作り、紅茶を一口啜った。
 アーチャーが聖杯戦争の何が気に入らないのかはわからない―――しかし、聖杯戦争は遠坂家を含む三家の作り上げた儀式。
 そしてそれに参加するために十年に渡り準備を進めてきた凛は、自分の大事なものを否定されたような気になり、その瞳に険のある光を宿らせた。

 「あらあら、そこまで気に入らないことがあるんだったらちゃんと言葉にして言ってくれないかしら?私はマスターとしてサーヴァントの不安要素を取り除いてあげる義務があると思ってるのよ?」

 そう凛が猫なで声で囁くと、アーチャーは顔を焦りの表情で引きつらせて弁明した。

 「い、い、いやその、俺は気になることがあったってだけで、別にマスターが気に入らないとか召喚のときに頭う打ったのを根に持ってるとかそういうわけじゃねぇんだって!!」
 「ふーん……。…………ふーん。」
 「いや、だからその笑顔やめろって目が笑ってない!!」

 歴戦の戦士たるアーチャーが震えあがったところで凛はそのあくまスマイルをようやく収めた。
 一息ついた所でアーチャーは言葉を選びつつその説明を始めた。

 「これは……根本的な問題としてだな。『俺が召喚された』という事実、それが異常事態じゃねぇか、って考えてんだ。」
 「………?それが問題なの?あなたは私が狙って召喚した英霊だし、召喚した英霊をサーヴァントとして使役するのは冬木の聖杯戦争の根幹で、なにもおかしいところはないわよ?」
 「まぁ、そうかもしれんがな……。」

 凛としては何も問題はない。
 召喚の際に些細な事故が発生したが、大筋の所はすべて理想通りに事が運んでいる。
 奇跡的な確率で手に入れることが出来た英雄の聖遺物、完璧な召喚陣の設置、魔力のピークとなる時間帯に合わせた召喚の儀式。
 すべてが恐ろしいほどうまくいっている。

 彼女が手に入れた聖遺物にゆかりのある人物は掛け値なしに最高位の格を持つ大英雄。
 召喚されたアーチャーの名はパラシュラーマ、ヴィシュヌ神六番目の顕現体であり、すべてのクシャトリヤを単騎で二十一度殲滅したという規格外の傑物。
 後にはビーシュマ、ドローナ、カルナといったインド神話に名を残す英雄を育て上げたという。
 その身は武術に精通し、魔術を修め、あらゆる武具を使いこなしたと言われる。
 まさに天下無双の大英雄である。

こうしてサーヴァントとして召喚され、凛はそのステータスを読み取り確信した。
 『この戦いは私の勝利だ』と――――――。

 「……そう期待されてるところ悪いんだが、そう簡単に行くとは限らねぇなぁ。」
 「だから、どういうことなのよ……。」

 だが、凛の前に座るアーチャーは彼女の確信に対して疑問を呈している。
 凛がみる限り、アーチャーの能力値には一部の隙も見当たらない。
 正直なところ、対抗できるサーヴァントがいるとは思えなのだが―――?

 「まぁ、自慢じゃねぇが、普通なら俺は誰にも負けねぇよ。その辺の名のある英雄なら、一山幾らで消し飛ばす自信がある。ただ―――、」
 「ただ―――?」
 「この聖杯戦争には、もう一人『俺』がいる。」

 その瞬間、部屋の空気が凍りついた。

 「なん…ですって?」

 凛の声が知らず、上擦る。
 無理もない話である。
 パラシュラーマが自分と同一視する相手がどのようなものなのかは決まりきっている。
 つまり、同じ維持神ヴィシュヌの顕現体(アヴァターラ)に他ならない―――!

 「……誰が来てるのか、わかるの?」
 「そこまではわからん。ただ、なんとなくわかるんだよ。『いる』ってな。」

 アーチャーは虚空を睨むようにして、視線を遠くへ向けた。
 凛は考えこむようにしてカップの中の紅茶の波紋に目を落とした。

 インドの神話において世界を維持する神とされるヴィシュヌ神は十の化身をもって地上に降り立つとされる。
 その姿や役割は様々で、大洪水を予言する魚であったり、生命の真意に辿りついた解脱者であることもある。
 しかし、聖杯戦争にサーヴァントとして召喚されたということは当然、戦うことを前提とした化身が召喚されているだろう。
 だとするならば―――その中にはパラシュラーマを制しうる者もいるかもしれない。
 少なくとも―――――この聖杯戦争は楽勝ムードで終わることのない、一筋縄ではいかないものとなるだろう。
 そこまで凛が考えていると、アーチャーが口を開いた。

 「俺――――――いや『俺達(ヴィシュヌ)』の役割は世界のあり方を維持することだ。だから、地上に顕現するということは世界そのものに大きな危機が迫っているということと同意義なのさ。」
 「……………。」
 「いや、本来地上に用の無い英霊を呼びだすのが冬木のサーヴァントシステムだってぇのはわかってる。けどなぁ、それでも考えざるを得ないんだよなぁ―――『俺達(ヴィシュヌ)』が同じ場所に二人も召喚されることの意味ってやつをよぉ……。」

 まさかラーマーヤナでも始まるんじゃねぇんだろうなぁ、とアーチャーがおどけた庄氏で言う。
 凛は茶々を入れることも、口を挟むこともなく、無言でそれを聞いていた。

 何か得体の知れない、大きなモノの予感を感じて―――――。




LANCER


 「今夜はここを野営地とします。」
 「―――いや、それはどうかと思う。」

 寒風吹きすさぶ、冬木市の某日。
 スーツ姿の若い女性が河川敷でそう宣言した。
 すると、その横に虚空から簡素な貫頭衣を纏った人物が現れる。

 「何か、問題でもありますか、ランサ―?日本に入国してからというもの、こうして野営をしてきたではないですか。」
 「うん、そうだね。それは分かっているけど―――折角目的地に到着したんだからちゃんとした宿を取ればいいんじゃないかと、僕は思うんだ。」
 「不要です。」

 ランサ―と呼ばれた貫頭衣の人物の提言をスーツ姿の女性はばっさりと切り捨てる。

 「最小限の生命活動が維持できるのでしたら、宿に泊まるのも野宿するのも大して変わらないでしょう?」
 「それはそうかもしれないけどね……。」

 女性の声音は何が問題なのか分からない、という純粋な疑問が込められていた。
 ランサーはそれを見て中性的な顔に諦めの表情を浮かべた。

 「わかったわかった……。幸い近くに川が流れていることだし、僕は魚を取ってくることにするよ。夕食はそれでいいね?」
 「はい、ありがとうございます。では私は調理の準備をしておきましょう。」

 そう言うとスーツの女性は鞄を地面に置いてから、足もとの石を拾い集めて円形の囲いを作り始めた。
 どうやら即席の炉を作って焼き魚にするつもりのようである。
 自分の生きていたころと違い、文明が発達しているのだからその恩恵に預かればいいのに――――――そう思いながらランサ―は知覚を研ぎ澄まし、水の中を泳ぐ川魚に狙いを定めた。



 スーツの女性の名はバゼット・フラガ・マクレミッツという。
 まだ若い身でありながら魔術協会において歴代最強の封印指定執行者と呼ばれる戦闘特化の魔術師である。
 彼女は魔術協会から派遣され、この冬木の聖杯を征して聖杯を回収するという任務を帯びている。
 その彼女が派遣されるあたり、魔術協会が彼女の為に選定した英霊こそが現在の彼女のサーヴァント、ランサーである。

 ランサー見た目の印象を一つ上げるのならばその中性的な美しさが上げられるだろう。
 若草色の長い髪とごくごく単純な衣服がその美を際立たせている。
 しかし、その一方で端正な顔立ちはどこか無機質で作り物めいたものも感じさせる、奇妙なものであった。
 そう、もとより彼は英霊である以前に人ではない。

 彼の名はエルキドゥ。
 神の手により形作られた泥人形。
 そして、最古の英雄王がその隣に並び立つ事を認めた唯一無二の存在―――。


 協会が誇る最強の執行者と最古の叙事詩に名を残す英雄。
 間違いなく無双の実力を有するであろう主従である。
 そしてその主従は今――――――


 河川敷で魚を食っている。




 「それで―――これから先の予定など、訊いてみても構わないかな?」

 ガツガツガツッ!ハフッ、ハフッ!!ハムッ!!

 「えぇと―――、」
 「ゴクン――――――。え、あぁ、すいません。もう一度お願いします。」

 バゼットは口の周りに食べかすをつけたまま、ランサーに訊き返した。

彼女が先ほどまで食べていたものは、ランサーがとってきた川魚の丸焼きである。
 それを串に刺さったままのそれに丸ごとかぶりつくワイルドさは大自然の中ではさぞかし絵になったであろうが、生憎とここは現代日本の地方都市であり、少なくともスーツ姿の麗人がするような食事方法ではないだろう。
 とはいってもそのような『瑣末なこと』を気にかける細やかさとバゼットは無縁であり、栄養に不足がないのであれば高級料理店のフルコースもカ○リーメイトも彼女の前では同じものだろう。

 その色々な残念ぶりに苦笑しながらも、ランサーはもう一度同じ質問をした。

 「こうして冬木市についたわけだけど、まず最初に何をするんだい?」

 さっそく他のサーヴァントやマスターについて調べるということでも構わないけど―――とランサーはそう言った。
 彼の『気配察知』のスキルは最高ランクであり、少し見て回るだけで冬木市全体を把握することも容易である。
 命令があれば彼は即座に敵を補足し、戦いを仕掛けることができるだろう。
 しかし、バゼットは首を振った。

 「いえ――――――まずは聖杯戦争の監督役に会いに行きます。」
 「監督役?」
 「はい。冬木の聖杯戦争には聖堂教会から監督役が派遣されるのですが―――その監督役が私の旧知の仲なのです。」

 そう言って、バゼットは今まで引き締めていた表情を少し柔らかくした。

 「私が封印指定の執行者として魔術師狩りをしていたように、彼は聖堂教会の代行者として魔術師を狩っていました。たまたま任務で一緒になることもあり、度々共闘もした仲でした。」
 「なるほど―――とはいってもねマスター。」
 「わかっています。監督役と知り合いだからといって何か便宜を図ってもらおうとは思っていません。」

 ランサーが少しからかうような口調で言うと、バゼットはむくれて反論した。
 いつも真面目な表情ではなく、そう言った顔をしていればもっと綺麗なのだろうけど、と彼は思ったが口には出さなかった。

 「その、監督役の名前は何と言うんだい?」
 「言峰綺礼、と言います。良い人ですよ。」
 「良い人……か。」

 ランサーはその端正な顔立ちを少し傾かせて考える仕草をした。
 それを見ながら、バゼットは二本目の焼き魚の焼き加減を確かめている。

「どうかしましたか、ランサー?」
 「いや、マスターの世間知らずはよく知っているからね。はたして人を見る目はどの程度のこなれているのだろう、と心配になっただけだよ。」
 「……………。」

 たっぷり数秒かけ、その言葉の意味を咀嚼して飲みこんだバゼットは顔を赤くして生きを荒げた。

 「だ、だだだだだ誰が世間知らずですかランサーっ!!マスターに対する侮辱ですよそれはっ!!」
 「いや、正直なところ心配にもなるよ。ひょっとすると森生まれの僕より世俗に明るくないんじゃないかと――――――。」

 バゼットはそんなことはないと弁明するが前科があるので仕方がない。
 冬木来るまでに電車を使おうとして、切符の券売機を使えず拳で破壊し、警備員に御用になったのは他でもない彼女である。
 結局、器物破損の罪に問われる前に逃げおおせて徒歩とヒッチハイクを駆使して冬木市に入ることが出来た。
 正直、聖杯に知識を与えられただけの自分の方が現代に順応しているのではないかとランサーなどは思っている。

 「と、とにかく、明日の朝に監督役に挨拶をして、私たちの聖杯戦争の本格的な開始はそれからとなります。いいですね?」

 バゼットはそうピシャリと言うと、焼き魚にかぶりついた。
 この話はもうおしまい、ということだろう。

 「良いということにしておくよ。」

 そう言ってランサーは実体化を解除した。
 若草色の長い髪が端から光の粒子になって消えて行く。
 霊体化しきる直前にランサーはふと思った。

 ――――――わざわざ野宿しなくても監督役の下に行けば一晩の宿くらいは貸してくれたのではないのか、と。

 やはり自分のマスターはどこか抜けているな、と思い、ランサーは改めて自分がマスターの面倒をみるという決意を固めたのであった。





ARCHER from previous war


 ―――ジリリ…ジリリ……

夜の冬木教会に電話の音が響く。
 既に時間は丑三つ時を回っており、こんな時間帯に教会に連絡を取る人間などよほど切羽詰まっているのか、あるいはよほど神に対して敬意を払っていないかのどちらかであろう。

 ―――ジリリ…ジリリ……

 なんにせよ、先ほどからその電話の音は鳴り止まず、教会の一室でいささか時代遅れの感のある黒い電話がけたたましく音を立てていた。
 やがて、部屋の戸がガチャリ、と音を立てて開き、僧服の男が姿を見せた。
 男はこんな深夜に電話をかけてきた相手になんの苛立ちを見せることなく、受話器を手に取った。

 「言峰綺礼だ。」
 『我(オレ)だ。』

 電話の相手は名を名乗るでもなく、尊大にそう一言告げた。
 その声は電話越しにもわかるほどに、抗いがたい威厳を感じさせた。
 言葉でなく心で、心以上に本能で格の違いを理解させられるような威厳だった。
 しかし、電話を受け取った神父―――言峰綺礼はそんな相手のことはもう慣れたものだと言わんばかりの平常心だった。

 「お前か―――連絡をよこすとは珍しいな、ギルガメッシュ。」
 『はっ、この我が久々に、直々に連絡をしてきたのだ。王に対する不敬だな。お前でなければ首を撥ねていたかもしれんな。』
 「そうか、それで用件はなんだ。」

 ギルガメッシュ、と呼ばれた電話の向こうの人物は物騒な事を口にした。
 そしてそこには撥ねると言ったら、実際に撥ねるだろうということがわかる呵責の無さがにじみ出ていた。
 だが、綺礼はそういった言葉は無視して簡潔に言うべきことのみ言うように、と相手を促した。

 『まったく、生真面目な所は変わらんな言峰。そんなところが面白いのだが――――――まぁよい。用件を言うとだな、我も近いうちに冬木に戻ることを決めた。』
 「――――――ほう?」

 ギルガメッシュの言葉を受けて言峰の声に戸惑うような、楽しそうな感情が混じる。
 今の冬木市にやってくる―――それは聖杯戦争に参加するということ。

 そして、前回の聖杯戦争で召喚されたアーチャー、英雄王ギルガメッシュが帰ってくるということに他ならない。

 「ふむ―――音沙汰が無いのでなてっきり興味が無いと思っていたのだが。」
 『勝手に我を推し量ろうなどと思うなよ、言峰。』

 あくまでギルガメッシュはその尊大さを崩さず続ける。

 『まぁ、前回の聖杯戦争で聖杯というものがどんなものかは知った。確かに碌でもないものだが、宝は宝……そして、宝である以上は我のもの。他の雑種どもの手に渡してやる道理はない。』
 「なるほど、変わらんなお前は。」
 『それに、だ。物は使いよう。聖杯が満ちた暁には何かに使っても良いかもしれん。』
 「聖杯の使い道―――か。」

 言峰は興味深そうに相手の言葉を反芻した。

 前回の聖杯戦争でも、英雄王ギルガメッシュは聖杯にかける願いはもたなかった。
 なぜなら彼は世界が一つだったころの、無二の王。
 世界は彼の庭であり、人々はすべからく彼の臣民であり、すべての財宝は彼の所有物だった。
 時代が下り、国や文明が興っては消え、現代にいたっても、彼に言わせればいまだ世界は彼のものである。
 そして財宝と名のつくものはそれがどのようななんであれ当然、彼のものであり、聖杯とて例外ではない。
 故にギルガメッシュは宝物を奪わんとする雑種達に誅を与えるために聖杯戦争に参戦したのである。



 そして、彼がその様に召喚された第四次聖杯戦争は十年前のこと。
 綺礼と契約し最後まで勝ち残ったギルガメッシュは、聖杯戦争の終わりに『聖杯の中身』を浴び、受肉した。
 以来、綺礼とそこそこに連絡を取り合いながらこの十年、現世で生活していた。
 そして、現在、第五次聖杯戦争が開始される段になり、ギルガメッシュが『聖杯を使う』という言葉を口にした。
 綺礼は一抹の興味に駆られて質問した。

 「お前の口からそんな言葉が出てくるとは面白いな。何か願いでも見つけたのか?」
 『おいおい、勘違いするなよ綺礼。我はあくまで使ってみるのもいいかもしれん、と言っただけだ。具体的にどうこうするまでは決めておらんよ。だが、あえて言うならそうだな――――――、』

 そこでギルガメッシュは一旦間を置いた。
 少し考える程度の間が空いて彼は続けた。

 『そうだな、少し人間を間引いてみるのもいいだろう。幸い、『あの』聖杯はそれにおあつらえ向きではないか。』
 「間引き―――――か。悪くない考えだな。」

 間引き。
 それを人間達に対して行うという事がどういうことなのか、それがわからない言峰綺礼ではない。
 だが、この神父は聖杯が行うだろう『間引き』の行程を頭の中で思い描き、是とした。
 悪くないと――――肯定した。

 『この時代は我が治めていた時代に比べていささか余計なモノが増えすぎた。本来はその様なことは庭師の仕事なのだろうが――――――丁度いい道具があるのだ、ここは王である我が動いてやろう。』
 「なるほど、動機は理解した。―――で、いつぐらいに来るのだ?」
 『数日もかからん。―――あぁ、そうそう。帰ってきた時の為に酒を用意しておけ。精々我の口にあう逸品を見繕うのだな、綺礼よ。』

 そうギルガメッシュが言い終わるとガチャン、という音が立ち通話が切断された。
 相変わらずの傍若無人ぶりだな、と思いながら綺礼も受話器を元に戻した。
 そのまま部屋を出て、教会の廊下を歩きながらこれからのことを思案する。

 ――――――言峰綺礼は破綻者である。

 万人が美しいと思えるものを美しいと思えず、万人が悪とするものにこそ強く惹かれた。
 彼の心を満たすものは誰かの幸福でなく不幸であり、笑顔でなく苦痛だった。
 聖職者の下に生まれ育ち、道徳を理解していたがゆえにその本質から目を背け、空虚を味わい続けた日々もあったがそれはもう昔の話だ。

 今、言峰綺礼が求めるものはひとえに愉悦。
 悪たる己の心を満たす悲哀と悲嘆と不幸と苦痛。

 ――――――そして問わねばならない、悪たるものの生まれた意味を、生きる意味を。

 それは求道者として彼が抱き続けてきた、命をかけた問いかけ。
 人の魂にとって善しとなるものが快であり、それを求めるものが道徳のはずだ。
 ならば自分は何なのか、悪を求め、苦しみをもって悦となす自分は何者なのか。

 ―――如何なる理が自分という歪みを産み落としたのか、それを問わねばならない。

 そして、その答えは目に見える所まで来ている。
 おそらくはそう、この聖杯戦争の、その先に。

 「……『この世すべての悪(アンリ・マユ)』」

 大いなる期待を込めて、その名を呟く。

 言峰綺礼の口元は、静かに深く、嗤っていた。





CASTER


 「……さながら地獄の釜だな。」

 地の底深く、心底憎々しげな青年の声が地下の空洞に響いた。
 本来は光などない地下だが、彼の魔術で作りだされた照明が幾多も宙に浮かび、内部を照らし出していた。
 同時にその明かりは青年の姿もまた照らしだしていた。

 歳のころは不明である。
 一見したところ二十代といった風に見えるのだが、若者というのは憚れるような威圧感と強い眼差しが彼に大賢者もかくやという深みを与えていた。
 纏う服は黒地に紫の刺繍を施した、王侯貴族の如きローブと金銀玉石の装飾品。
 だが、見る者が見れば彼の服飾品はいずれも尋常ならざる魔術的技法の下に制作された逸品であると理解できるだろう。

 彼はキャスター。
 第五次聖杯戦争に召喚されたサーヴァントの一騎。

 また彼の真名に敬意を表してこう呼ぶべきだろうか。
 『魔術王』――――――ソロモン。
 ダビデの子、イスラエルの王。
 神に授けられし叡智と魔法の指輪をもって七十二柱の大悪魔を使役したとされる、最大の知恵者。
 確かに彼ほどキャスター(魔術師)のクラスに据えられるに相応しい英霊もいないだろう。

 だが、彼がサーヴァントだというのなら、それを従えるマスターはいかなる人物なのか?
 答えるなら、マスターはいない。
 いや、正確にはいるのだがマスターの態を成さず、彼の傀儡となっている。

 キャスターは召喚された当初から彼のマスターとは折り合いが悪かった。
 最終的には彼のマスターがキャスターの魔術の技量に嫉妬を抱くというありさまであり、それを受けてキャスターは自身の主を見限った。

 それを可能としたのが彼の宝具『神約の指環(リング・オブ・ソロモン)』である。
 対象に触れながら真名を開放することで、対象に対して絶対の命令権を得るこの宝具はマスターとサーヴァントの主従関係すら容易く覆す。
 現在彼のマスターはただの現界の為の依り代として生かされているにすぎない。

 愚鈍なマスターの制御から離れたキャスターは早速行動を開始し、冬木市でも随一の霊地に陣地を設けた。
 つまり、柳洞寺である。
 現在、キャスターと彼の使役する使い魔達は急ピッチで陣地を更に拡張し、柳洞寺と円蔵山一帯を要塞化している途中である。

 他の陣営に対する準備も抜かりなく進められている。
 キャスター自身の手で召喚されたアサシンが諜報の任務を帯びている。
 サーヴァントによるサーヴァント召喚という反則の上に成り立ったアサシンは非常に特異な存在であり、気配遮断のスキルを差し引いても『アレ』をサーヴァントと看破できるものはいないだろうと、キャスターは考えている。
 今、アサシンは冬木市中に『拡散して』情報収集に当たっている。

 そうして、聖杯戦争の準備を整えている最中に、キャスターは異変を察知した。
 彼が急速に要塞化している円蔵山の地下に何かが眠っていることに感づいたのである。

 そして、彼は調査の末に見つけ出した地下大空洞の中であるものを発見してしまったのである。

 「汚らわしい……このようなモノが私の足元に眠っていたとはな……。」

 彼はドーム状の空洞の縁に立ち、眼下のモノに侮蔑の視線を向けた。

 それは魔力の塊だった。
 心臓の鼓動のように一定のリズムを刻んで脈動するそれは数十年かかってこの冬木の土地の霊脈から吸い上げてきたエネルギー。
 しかし、ただの魔力の塊ならば無色であるはずだ――――――しかし、ここに溜まっているモノは違う。
 その色は黒――――――底なしの呪詛を思わせる邪悪な黒だった。
 キャスターはその魔術師としての観察眼から、それがいったい何なのかを理解してしまった。



 「これが聖杯か――――――だが、しかしな……」

 そう、これが大聖杯。
 冬木の聖杯戦争の中枢、莫大な魔力でもってあらゆる願望を実現する万能の杯。
 だが――――――

 「だが、こんなものは願望器として機能しえない。あそこに溜めこまれている魔力はすべて呪いによって汚染されている。あんなものに願い(カタチ)を与えた所で、もたらされるのは破壊と殺戮以外にありえない………。」

 大聖杯を見下ろしながら、キャスターはそう苦々しげに呟いた。

 彼の言葉は正しい。
 そう、冬木市の聖杯戦争は既に歪んでいる。
七十年前の第三次聖杯戦争、そのときに召喚されたサーヴァント、アヴェンジャーこと『この世すべての悪(アンリ・マユ)』が大聖杯に取り込まれたときから。
 今やアヴェンジャーにより汚染された大聖杯は願望器としての機能は発揮しない。
 聖杯が完成した暁には、『この世すべての悪(アンリ・マユ)』はかつてそう望まれたように、真に悪を体現する厄災として生まれ堕ちるだろう。

 今、この場にやってきたばかりのキャスターはそこまで解析したわけではない。
 しかし、聖杯とは彼が思っていたような都合のいいものでも何でもないということは十分に理解した。

 しばらく脈動を続ける大聖杯を見下ろしていたキャスターだが、やがて踵を返してきた道を戻り始めた。
 その歩調には新たな彼の決意が込められていた。

 「生まれたくば生まれよ!!溢れたくば溢れよ、地獄の釜よ!!そしてそのときにこそ貴様は神の御業の偉大さの前にひれ伏すのだ!!」

 彼の指の上で、神より賜りし指環が鈍く光る。
 唯一なる主、イスラエルの父たるヤハウェの恩寵は地獄の最も恐るべき悪魔さえ従える。
 ならば、聖杯より溢れる邪悪が如何なる何者であろうとも、神意の前に跪くだろう。

 「知るがいい邪悪よ、罪悪よ。貴様らはこの世界の影に過ぎぬ、神の威光の眩さを引き立てるための影に過ぎぬ。そのことをこのソロモンが教えてやる!!」

 ソロモンの叡智は神の叡智。
 ソロモンの栄光は神の栄光。
 彼の前にこの世すべての悪が跪くのなら、そのとき神の前にはあらゆる悪徳が跪くと言うことが証明されるだろう。

 踵を鳴らし、キャスターは大空洞から立ち去っていく。
 彼が去るとともに明かりも消え去り、再び大空洞は闇に沈んだ。

 その闇の中で呪われた聖杯は胎動を続けていた。






ASSASSIN


 一見したところ、冬木市の今年の冬は例年と変わりのないように見えた。
 いつものように空は青錆色の中にくすんだ色の雲を漂わせ、海から吹く潮風は寒さとともに吹きぬけて人々の服の裾を揺らしていった。
 道を行く学生たちは年度末の悲喜こもごもに追われ、町に出れば間近に迫ったバレンタインデーの広告でも打ってあるだろう。

 そして人々はその中に紛れた異常に気付かない。
 否、気付けない。
 だが、それは責めるべきことでもないだろう。
 町を人知れず漂う『それ』は見るべきものが見て認識できるかどうかがまず怪しい。

 「………………?」

 通学路を行く高校の制服を着た赤毛の少年が視界の端に何かを捉えて立ち止まった。
 その黒い小さな影は音も気配もなく、彼のすぐ横を通り過ぎて行った。

 「………虫か?」

 彼は周囲をきょろきょろと見回すが、その影をもう一度捉えることはなかった。
 何か釈然としないものを感じながら、彼は鞄を担ぎ直して通学を再度歩き始めた。

 「そういえば最近、虫が多い気がするな……。」

 彼の呟きは正しい。
 それは現在冬木市を覆う異常の一端である。
 だが、本質にはまだ遠い。

 先ほど少年の横を通り過ぎていった小さな黒い影は、やはり人々の認識を避けながら道を飛翔していく。

 その影は―――蝗(いなご)だった。
 一匹の蝗がその羽を広げて冬木市の町を飛んでいく。
 いや、一匹というのは正しくない。
 その蝗が進むにつれて、徐々にその数は増えていく。
 まるで巣の周りの蜂の群れのように。
 少し昆虫に詳しいものが見ればその異常さがわかるだろう。

 蝗の成虫は夏から秋にかけて現れ、卵を残す。
 そして卵は冬を越した後、春を過ぎたころに孵化して成長していく。
 つまり、冬に蝗が編隊を成して飛ぶようなことはあり得ない。
 ましてや、稲を主食とする蝗が海沿いであるがゆえに田畑の少ない冬木の町に現れることなど前代未聞である。
 だがその異常を認識する人間はいない。

 誰が予想しうるであろうか――――――この蝗の群れこそがこの聖杯戦争においてアサシンのクラスで限界したサーヴァントであることなど。

 この蝗の群れ―――アサシンは気配遮断のスキルを用いて飛びまわり続けるがゆえに、人間には限りなく認識され難くなっている。
 視界に入ったとしてもすぐに飛び去ってしまうが為に、人にはただの黒い影にしか見えないだろう。
 アサシンは無数の蝗によって構成される群体であるという利点を生かして冬木市全土を回り、情報を収集し続けていた。

 そして今、合流を続けたアサシンの群れは雲霞のごとく膨れ上がり、一カ所に集結しつつあった。
 ざわざわと黒い蝗の大群は重力に逆らう雪崩のように恐ろしい速度で山中の階段を駆け上がっていく。
 その長大な階段を駆け上がっていけば山門が見え、その山門を抜ければ寺に行きつくだろう。
 すなわち、彼―――そう言っていいのか定かではないが―――の拠点である柳洞寺である。



 やがて階段を上りきった蝗の群れは、山門の前に固まり始めた。
 その虫により形作られた黒雲は、やおら動きを止めると大きく渦を巻くような動きを始めた。
 その蝗の群れは回転数を上げるにつれ、中心に向かって引きずりこまれるように徐々にその体積を減らしていく。
 そして回転がおさまったとき、そこにいたのは蝗ではなく一人の人間だった。

 「……………………………………………………………………。」

 その男を形容するのならば『黒』という一言に尽きるだろう。
 一般的成人男性より随分と背の高い体を覆うのは黒い外套と黒い帽子だ。
 それだけでなく、脚絆も靴も外套の下の服も、それどころか裾から覗く手や帽子の下の顔までもが黒一色に塗りつぶされていた。
 さながら黒いプラスチックでできた精巧な人形のような人物だった。

 蝗を固めて人間の姿を形作ったアサシンは、手のひらをニ三度握りしめて体の動作確認をすると、足をゆっくりと上げて山門に歩み寄った。
 すると山門は手を触れてもいないのにゆっくりと開き、アサシンを招き入れた。

 「……………………………………………………………………。」

 アサシンの中に登録されている情報はそれが彼のマスターの使い魔が行っていることだということを把握している。
 そして彼にそれに関する感想はない。
 もとよりこのアサシンは名を与えられた現象をサーヴァントという型にはめたことで形を成しただけの極めてイレギュラーな存在。
 聖杯戦争というシステム内でサーヴァントという役割を全うするだけの機械めいた存在である彼に何かに心を動かすという機能は備わっていない。

 そして彼は山門をくぐり自陣に帰還する。
 本堂に行けば、すでに柳洞寺の全住人を支配下に置いている彼のマスター――――――すなわちキャスターと呼ばれる人物に出会うだろう。 

 現在の彼の役目はアサシンのサーヴァントとして彼のマスターに調査の結果を報告することにある。
 あれのマスターであれば言葉すら持たぬアサシンの中から情報のみを引きだして精査することなど造作もない。


 彼の―――アサシンの真名はブラックライダー。
 ヨハネ黙示録に現れる第三の騎手。
 群れを成す蝗で表わされる、最も多くの人間に静かなる死を与えた災厄。

 すなわち――――――『飢餓』。






RIDER


 間桐家。
 数百年前にアインツベルン、遠坂とともに聖杯戦争という儀式を作り上げた御三家の一角。
 元々は異国から日本の冬木市へと移住してきた魔術師の一族なのだが、現代では素質を持った子孫に恵まれず衰退の一途を辿っていた。

 しかし、その様なことは瑣末事。
 極端なことを言うのなら、ある一人の魔術師が生きていれば間桐は健在である。
 その一人とは間桐臓硯―――かつてはマキリ・ゾォルケンと呼ばれ、最初の聖杯戦争にも立ち会った長き時を生きる妖怪めいた魔術師である。

 臓硯は魔術による延命を通して、耽々とその野望―――すなわち不老不死の成就を狙い続けてきた。
 肉体と魂が腐敗し続けてもなお―――である。
 彼の予定に反して第五次聖杯戦争は早く開催されてしまったが、それは彼が参加しない理由にはならなかった。

 前回は間桐から出せる駒が無かったため参加を渋っていたが、幸いにして今回は経験こそ未熟ながら素質のある魔術師が養子として間桐にいる。
 元々胎盤として扱うだけのつもりであったが、聖杯戦争の開催が早まったのなら是非もない。
 彼はあたれば儲けものという心持で聖杯戦争への準備を始めた。

 そしてサーヴァント召喚の日、間桐臓硯は『ちょっとした思いつき』で、令呪を宿した戸籍上孫娘に当たる少女に『あるもの』をサーヴァント召喚の触媒に使わせた。

 そしてその結果は彼の予想をはるかに上回ったものだった。


 予想を上回って―――――――――最悪だった。


 「………………な、なんじゃこれは………っ!?」

 召喚陣の上、魔力の光と風が止み召喚されたモノの姿が露わになる。
 それを視界に入れた瞬間、臓硯の総身に怖気が走った。
 彼の隣では召喚を行った少女―――間桐桜がへたり込んでいるがそれに気を使う余裕などない。

 そして『ソレ』が口を開いた。

 「これはまぁ、なんとも汚らしい穴蔵で妾(ワタシ)を召喚したものねぇ……。」

 通常、サーヴァントというものは召喚されればまず、目の前にいる人間に自分のマスターかどうかを問うものだ。
 少なくとも、臓硯が知る限りではそうだった。
 しかし、『アレ』には彼の常識は通用しない。

 ――――――『アレ』は呼んではならぬものだ。

 臓硯の脳裏にそんな言葉が浮かぶ。

 「あらぁ………貴女が妾の主(マスター)かしらぁ……?可愛い女の子ねぇ……妾結構好みよ、貴女みたいな娘。」

召喚陣の上に立つ女の姿をしたモノが放心状態の桜に声をかける。

『ソレ』は美しい女の姿をしていた。
女は紫と赤の衣を着て、金と宝石と真珠で身を飾り立てていた。
 その瑞々しい肌は少女のように滑らかで豊満な体は熟女のよう肉付いていた。
 ルビーのように紅い瞳と血のように赤い唇が微笑みを形作れば老若男女が腰砕けになるだろう。

 そして、だからこそ――――――おぞましい!

 「さ、桜―――令呪じゃ!!令呪を使うのじゃ!!」

 臓硯の振り絞るような声が間桐家の地下工房に響き渡る。
 その声で放心していた桜は我に返り、桜をジロジロ眺めていた女は臓硯の方へと顔を向けた。
 かまわず、臓硯は口角泡を飛ばして叫んだ。



 「令呪でもってそのサーヴァントを自害させよっ!!『ソレ』はあってはならぬ英霊じゃ!!否、英霊ですらない!!そやつはお前の手に負えん、手遅れになる前に―――――――――、」
 「……………はぁ~~~ぁ」

 必死の形相で孫娘に命令する老魔術師。
 しかし、女はそれに心底鬱陶しそうな顔を向けて、一言呟いた。

 「邪魔。」

 その瞬間、臓硯が痺れたように動きを止めた。
 女の手の中に杖が現れる。
 否、それは杖のような杯だった。
 ゴブレットの持ち手部分を引き伸ばしたかのようなそれを携えて女が唱えた。


 「『そして我は浜辺に立ち、一匹の獣の海より出ずるを見たり』。」


 その瞬間、空気が震えた。

 女の言葉に従うように、背後の空間に波紋が走る。
 赤黒い邪悪な光を放ちながら波紋が広がり、その中心から姿を現したものは―――――――――獣の頭だった。

 「やりなさい。」

 女が静かに命令を下す。
 獣がゆっくりと顎を開く。
 その一連の絵を間桐臓硯はやけに冷静な気持ちで見つめていた。
 そして、彼は女の姿を見たとき自分の体に走った悪寒の正体に気付いた。

 ――――――――なるほど、これが恐怖というものか。

 獣の咆哮を耳に残して、間桐臓硯の肉体はあっけなく消滅した。





 「ん~~~―――まぁ、こんなものかしらね?」

 魔力の奔流と音とも言えぬ轟き。
 思わず目を閉じて耳をふさいでいた桜が顔を上げると間桐家の工房である地下の蟲蔵は一変していた。

 「――――――――――――っ」

 その惨状に声を失う。
 桜のすぐ横、臓硯の立っていた場所が消滅している。
 より正しく言うならば、床としての原形をとどめていない。
 その破壊は放射状に広がり、蟲蔵の壁と床と天井の約半分がまるで濃硫酸でもぶちまけたがごとく爛れていたのである。

 「まぁ、やったわけじゃないみたいだけどぉ………化けて出てきてもちょっかいは出してこないでしょうねぇ……多分。」

 桜が震えながら首を動かすと、そこには踊り子のような豪奢な衣装を纏った女が立っている。
 桜のみならず、間桐の家の誰もが恐れ逆らうことのできなかった間桐臓硯を消滅させた女が。
 そして、間桐桜が召喚したサーヴァントが。

 「えーっとぉ……ちょっと邪魔が入ったけど、貴女が妾の主ってことでいいのかしら?」

 その女が桜の方へと顔を向ける。
 女と目が合った瞬間、桜はもうその眼をそらすことが出来なくなっていた。
 謎の威圧感に気圧されて、桜は無意識に頷いてしまう。

 深紅の目が、真紅の眼が、桜の心の奥底まで見通すように観察する。
 だが、桜は不思議とそれに不快感を覚えなかった。


 むしろそれが心地よかった。
 まるでその視線は身も心も溶かす愛撫のような心地よさで―――――――――、

 「ん、いいわぁ。色々と面白そうなものを抱えてるみたいだし、ごうかーくっ。」

 あと可愛いしねー、という女の能天気な声で桜は意識を戻した。
 女は妖艶な微笑みを浮かべて座り込んだままの桜に手を差し伸べる。

 「妾はライダーよ。そっちの名前は?」

 桜がその手をつかむとぐい、と引き起こされる。
 不思議といつまでも握っていたくなるような手だ、と桜は思った。

 「桜……間桐桜、です。」
 「サクラね。これから当分よろしくぅ、サクラ♪」

 桜が答えると、女―――ライダーは笑う。
 あくまで、楽しげに笑う。

 その笑みに目を離すことが出来ないまま、桜は言いにくそうに口を開いた。

 「ライダー……さん。私、ちょっと言っておかないといけないことが……。」
 「あぁ、さんなんてつけなくてもいいわよぉ。呼び捨てにして頂戴。で、何かしら?」
 「じゃぁ……ライダー。私、実は………戦うつもりなんて、ないの。」

 自分は元々聖杯戦争に参加しようという気はなかった、しかし自分に令呪が宿ってしまったため仕方なくサーヴァントを召喚した―――――そういった旨を桜は幾分申し訳なさそうに語った。
 それをライダーはふんふん、と頷きながら聞いていた。

 「だから私、あとでマスターの権限は兄さんに譲ろうと思って――――――、」
 「うん、わかったわぁ。それじゃあ、戦うのは無しにしましょう♪」
 「――――――え?」

 申し訳なさそうな表情をしていた桜はライダーの提案を素っ頓狂な顔になった。
 それもそのはずである。
 サーヴァントとして召喚される英霊は、それぞれ聖杯を求めて戦うにたる動機がある。
 そうでなければ英霊ともあろうものが魔術師の使い魔に身をやつすという理由にはならないからだ。

 「え、えぇ……!?ライダー、あなた聖杯は……?」

 驚愕して問いかける桜にライダーは手のひらをひらひらと振って答える。

 「あぁ、いいのよそんなのぉ。一応妾にもやらなきゃいけないことは色々あるみたいなんだけど、それも面倒だからしばらく現世で遊ぶとするわぁ。折角本来とは違う役目で召喚されたんだから楽しまないとねぇ♪」

 呼ばれてよかったわぁ~、役得役得ぅ~、と鼻歌を歌いながらライダーは衣の裾を翻して地上へ向かう階段へと足を向けた。
 桜は彼女の言っている事の詳細はわからなかったが、ライダーは聖杯を勝ち取るために戦うよりも現世で遊ぶことを優先したい、ということはわかった。
 階段へ登る豪奢な衣装を纏ったサーヴァントに桜は首を向けた最後に一つ質問を投げかけた。

 「ライダー……あなた、真名はなんていうの?」
 「真名……?あぁ、知ってて呼んだわけじゃないのねぇ……。ふぅん、やっぱりイレギュラーなのかしら?」

 そう呟くと彼女は手を動かして自身の前髪をかき上げた。
 露わになった額に赫い光が走り、文字が浮かび上がる。


 “MYSTERY, BABYLON THE GREAT, THE MOTHER OF HARLOTS AND OF THE ABOMINATIONS OF THE EARTH”
 〈秘された意味と名、大いなるバビロン、淫らな女達と地上の忌まわしき者達の母〉


 「マザー・ハーロットよぉ。ライダーでも、ハーロットでも、好きに呼んで頂戴。」

 大淫婦(マザー・ハーロット)。
 大いなるバビロン。
 黙示録においてすべての王を誑かし、すべての民を惑わせるもの。
 そして竜より権威を与えられた七頭十角の赤い獣に跨るもの。

 それが間桐桜に埋め込まれたものと同じ、『聖杯の破片』を触媒に召喚された最悪の英霊である。






BERSERKER


 冬木市から西へおよそ三十キロ、郊外の森。
 宅地開拓から取り残されたその森に踏みいる者は少なく、精々が道に迷った旅人か、遊び半分の子供たちかといったところである。
 そしてそういったごくわずかな人々に端を発するある噂がこの森にはある。

 それは森に出現するお伽の城。
 当然ながら公的機関の測量などによっても、そういった建築物の存在が確認された事はない。
 しかし、霧の中森の奥にさながら中世ヨーロッパの時代から抜け出てきたかのような城を見たという人がごくまれにいるのである。
 ただ、その話を裏付ける物的証拠は何もなく、精々そんな物は四十五日も立たずに消える噂の一つに過ぎない。

 だが、その城の正体を知るものは、この森と城をこう呼ぶ。
 『アインツベルンの森』、および『アインツベルンの城』と。


 「それじゃあ、セラ、リズ。行ってくるね。」
 「いってらっしゃいませ、お嬢様。」
 「いってらっしゃい、イリヤ。」

 そして件の城の正門にて、三人の人影があった。
 既に日は落ちて森の霧はやおらその深みを増している。
 城の中から洩れる灯かりがその三人のシルエットを映している。

 「それにしても………本当にお一人だけで行かれるのですか?私は心配です。」
 「心配し過ぎだよ、セラ~。私だって、もう子供じゃないんだから。」
 「うん、セラは心配し過ぎ。目元に小じわが増えるよ?」
 「リズ、あなたは心配しなさすぎです。それでもあなたはメイドですか。」

 三人の人影のうち、二人はまったく同じ服を着ている。
 裾の長い白いエプロンドレスと頭をすっぽりと覆うフード。
 片方のセラと呼ばれた女性は少ない表情の中に厳しさを感じさせ、もう一人のリズと呼ばれた女性は同じ少ない表情ながら純朴さを窺わせる。

 「うん、一応心配してる。でも、セラは間違ってる。」
 「……どういうことです?」
 「イリヤは一人じゃないから。」
 「うん、そうだもんねーっ。」

 イリヤと呼ばれた少女とリズが目配せをして微笑みを交わす。
 それをセラはやれやれといった表情で見ていた。

 イリヤ、とは本名をイリヤスフィール・フォン・アインツベルンという。
 毛皮のコートと帽子を纏った、齢十一、ニといった頃の少女。
 そして、聖杯戦争を始めた始まりの御三家にして錬金術の大家、アインツベルン家が送り出したマスターたるホムンクルスである。

 「私には、バーサーカーがついてるから、何も怖くないもの。」

 イリヤがそう言うと、彼女の背後の空気が揺らぎ、新雪のような長い銀髪が揺れた。
 空気を弾けさせながら、第四の人影が降り立つ。
 人影―――否、それを影と呼ぶのは語弊があるだろう。

 それは光だった。
 人の形に光そのものを押し込めたような、無色の輝き。

 「―――――――――――――――――――――――――――」

 そのモノは何かの言葉を発することはなかったが、その頭部に刻まれたスリット部分から覗く赤い眼光が、ソレの主である少女―――イリヤスフィールを捉えていた。
 イリヤはその赤い眼光を見返して、小さく微笑んだ。

 現れたその存在は外見を見れば確かに人かと見まがうだろう。
 しかし観れば、隠しようもない無機質さを感じ取ることができる。
そこには呼吸の気配も、脈拍の様子も見受けられないのである。

 鎧武者を思わせるシルエットは、色を感じさせない純白の装甲で形作られている。
 顔の表面は無貌の仮面のようにのっぺりとしており、ただ人間であれば眼がある場所に設けられた隙間から赤い光が覗いている。

 「それじゃあ、私はバーサーカーと一緒に行ってくるからっ!留守番よろしくね二人とも!」

 イリヤは彼女の二人のメイドの方に向かって手を振った。
 するとそれに呼応するように、輝くヒトガタ―――バーサーカーに変化が生じた。

 ガキンッ、ガキンッ、という音を立ててその装甲が変形する。
 体を満遍なく覆っていた装甲が組み替わり機能を変じていく。
 やがて、上半身が軽量化され、装甲が下半身後方に集められ、もう一組の足が背後に生成された。
 その姿は人の上半身と馬の体を組みあわせたケンタウルスと呼ばれる幻獣に酷似していた。

 バーサーカーはその体の変形を完了させると、待っていた己のマスターを抱え、馬のようになった自分の背に乗せた。

 「いってきまーすっ!!」
 「お嬢様、お気をつけて。」
 「バーサーカー、あとは任せるねー。」

 笑うイリヤ、案じるセラ。
 リズに声をかけられたバーサーカーはそれに答えたつもりなのか、一度その眼光を光らせた。

 「バーサーカーっ、出発進行―っ!!」

 そして、イリヤスフィールの掛け声とともにバーサーカーは前足を高く掲げ、踏み出した。
 その様はまさに疾風。
 瞬きをするよりも無く、銀髪の少女を連れた機甲騎士は城より離れて行く。


 矢よりも速く森を駆け抜けて行く、四脚のサーヴァント。
 その背中にしがみついたイリヤは振動や揺れを感じることも無く、背後に吹き飛んでいく景色をやり過ごして行く。
 自分の背負うマスターの身に危険が及ばないように、バーサーカーは速度を上げながらも最新の注意を払っている。

 「もうサーヴァントはあらかた召喚されてる……あとはもう一騎っていうところかな……。」

 そして、イリヤがぽつりと呟いた。

 「最後の一騎、誰が召喚するのかな……確かめに行かないと。………お兄ちゃんだったら、いいなぁ………。」

 お兄ちゃん。
 その呟きには余人には窺い知れない感情が込められていた。
 そして、彼女はバーサーカーにしがみつく両手に少し力を込めた。

 「ねぇ、バーサーカー。あなたは私を裏切らないよね。私の騎士様だものね。」

 ――――――私の、お人形だものね。

 「――――――――――――――――――――――――――――――――――――」

 その声が聞こえたのかどうか、言葉を発さないバーサーカーの真意をうかがい知ることはできない。
 ただ、主を乗せた機械仕掛けの従者はすでに森を抜け、国道へとその足を掛けた。
 駆けるその先には夜を迎えた冬木の町明かりが見えている。


 一切の言葉を返さないバーサーカーの心を代弁することは不可能だが、イリヤスフィールが問うたように、彼(?)が最後まで少女の忠実な従者となるかどうかは、ある程度予想することができるだろう。
 答えはおそらく、是である。
 そもそも一切の自我を持たないサーヴァントである彼にマスターを裏切るなどという機能は備わっていないのだから。

 そう、彼はマスターを裏切らない。
 ただ、マスターより優先するべきものがあるだけである。
 それはサーヴァント・バーサーカーである以前に、彼という英霊に架せられた役割。

 彼の名は英霊カルキ。
 維持神ヴィシュヌ最後の顕現体(アヴァターラ)。
 末法の時代(カリ・ユガ)を滅ぼし、黄金の時代(クリタ・ユガ)をもたらす裁定者。
 彼の使命は一切の邪悪を滅ぼし、あらゆる悪徳を葬ること。


 果たして彼女のマスターが彼の滅ぼす悪となるのかどうか。
 その運命の行方は誰にもわからない。






SABER


 「……はぁっ………、はぁ…………っ!」

 そこは何時の時代かの、何処かの戦場だった。
 いや――――――戦場跡だった。

 丘の上で剣に寄りかかり、膝を突く剣士がいる。
 高貴なる青の衣と銀の鎧は返り血と己の血に濡れて見るも無残。
 痛みと嘆きに歪むその顔を上げれば、その翠緑の瞳には絶望が映る。

 「………………………っ………!!」

 躯、躯、躯。
 おびただしい数の躯。
 見渡す限りの大地に鎧が、盾が、槍が、剣が、そしてそれを振るっていたはずの戦士たちの躯が横たわっていた。

 これらは―――彼らは皆、王の臣だった。
 今、丘の上で崩れ落ちる王に仕え、また王が守ろうとした輩であった。

 地は戦士たちの血で赤く染まり、沈んでいく日の光が更にその情景を何処までも赤く紅く赫く染め上げていく。

 「……ごめん、なさい………っ」

 地獄の如き光景を見渡して、王は絞り出すように呟いた。
 その嗚咽は血を吐き出すような苦悩と後悔と自責の念に満ちていた。

 「私が……私なんかが…………っ!!」

 護るべき民があり、愛した友があり、奉じた国があった。
 そして、王の誓いを胸に走り続けた――――――その結末がこれだ。
 今や、王の過ちは明らかだった。
 王はその正すべき過ちと、最後の責務を胸に刻む。


 ―――――――もしも、もしも、この結末を覆す方法があるのなら、私の成すべきことは――――――


 そして、雲間から光が差す。
 その光は天から下る黄金の梯子にも似ていた。
 丘の上で、王は静かに顔を上げた。


 そして『彼女』は、遙かな時の彼方から己を誘う声を聞く。
 運命の誘う声を、聞く。








 かくして役者は出そろった。
 騎士王、刹帝殺し、泥人形、英雄王、魔術王、黒き騎手、大淫婦、粛清機。

 在らざるものが集い。
 在り得ぬものが参じ。
 在ってはならぬものが現れる。
 これを狂気と呼ばずして何と呼ぶ。

 これは狂乱と狂乱が顔を揃える空前絶後の物語である。
 これは破滅と破滅が轡を並べる人外魔境の物語である。
 これは終焉と終焉が手を取り合う驚天動地の物語である。

 これは黙示録である。

 今、運命は扉を叩き、終わりが始まる。




Fate/Revelation






おまけ
もしも本編があったらどうなるの、という場合の為のとても大雑把な役回りの解説とEXランク宝具の相性分析。
当然、サーヴァントは他にも宝具やスキルだのを持っている。
あくまでEXランク宝具を比べた場合での話であり、勝敗や優劣を決定づける者ではないということを念頭に。
なお、この文章は筆者の独自解釈を多分に含んでいます。



セイバー
真名:アルトリア・ペンドラゴン

解説:言わずと知れた我らの騎士王。
例によって例の如く士郎に召喚される予定。当然メインヒロイン。
マスターである士郎と絆を育んだり、イチャイチャするのは原作と同じ。
ただし、戦闘に関してはやはりマスターはへっぽこであるため他のサーヴァントに大きく差をつけられているのが現状。
さっさと士郎の中にある聖剣の鞘を回収しないと大変なことになる。

EXランク宝具・『全て遠き理想郷(アヴァロン)』:
聖剣の鞘。装備しているだけで超回復、真名解放で絶対防御のチート宝具。
その性質上、一撃の威力に秀でる他の真名開放型に対して優位に立てるのが強み。無尽蔵の呪いを吐きだしつづけるライダーの宝具に対しても装備時の超回復で拮抗できる。
ただし、接触も何も無しに問答無用で人間の命を枯渇させていくアサシンの宝具に対しては通用しない。



アーチャー
真名:パラシュラーマ

解説:ヴィシュヌ神第六の化身。カレー師匠。
インド全土のクシャトリアを滅ぼしまくったり、英雄を育てまくったすごい人。
イメージは反骨精神の塊、特攻服のにーちゃん。
凛ちゃんさんという最良のマスターを得たことでその実力は十二分。
大体原作どおりの展開でセイバー陣営と手を組むのだが、そのとき士郎の資質をいち早く見抜いて的確な指導をしたりする。
かっこいい背中を向けて足止めの際、「あいつを倒してしまっても構わんのだろう?」、とのたまっても状況次第で死亡フラグをぶち折ったりできる。すごい漢だ…。

EXランク宝具・『三神よ、永劫へ帰せ(ブラフマーストラ・トリムルティー)』:
三神の力をもつ宝具を融合させて放つ世界を終わらせる一撃、相手は死ぬ。冗談抜きで。
唯一『全て遠き理想郷』のみが対抗できる。それ以外は喰らったら問答無用で即死する理不尽奥義。
ただし使用すると他の宝具も全部失うため、使いどころを選ぶ非常にリスキーな、まさに奥の手。外したら目も当てられないので、使用は計画的に。



ランサー
真名:エルキドゥ

解説:英雄王の唯一無二の朋友。神の手による泥人形。
聖娼の姿を真似たため非常に美しい外見をしている、性別不詳。
今回はバゼットさんをマスターとしている。拠点を定めず、宿なし生活をしているのでフットワークが軽く、ランサーが気配察知で敵を補足するや否や、二人揃ってカチコミを掛けてくる。神出鬼没の引っ掻き回し役ポジション。
あと、英雄王と殺し愛をしたりする。

EXランク宝具・『天命渦巻く混沌の海(ムアリダート・ギムリシュン):
創世槍ティアマトによる生命爆発。濁流にのみこまれたが最後、原初の海に還元されて消えてしまう。人類補完計画かお前は。
生物であるなら何であろうが飲みこむが、当然生物でないものには効かない。したがってバーサーカーには通じない。
また神罰で死んだ経験のあるランサーはバーサーカーの宝具がきっちり刺さるのでそういう意味でも天敵である。




前アーチャー
真名:ギルガメッシュ

解説:説明不要。僕らの英雄王、慢心王、金ぴか。セイバーは我の嫁。
しかし慢心で退場しまくった原作と違い、今回は英雄王の朋友であるランサーの存在に触発されて大ハッスルすることになる。
ルートによってはギルガメッシュ・ネイキッドがラスボスになる……かもしれない。

EXランク宝具・『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』:
乖離剣エアによる空間切断。天と地を切り分ける赤い魔力の奔流がすべてを蹴散らす。
他のサーヴァントのEXランク宝具が幾分ひねくれた性能であるのに対して、「火力で消し飛ばす」というわかりやすい効果。
やっぱり『全て遠き理想郷』には弾かれるが、そうでない限りは全ての敵に平等に通用すると言っていいだろう。



ライダー
真名:マザー・ハーロット

解説:大淫婦。大いなるバビロン。黙示録においてすべての王と民を惑わす存在。
間桐桜の手により召喚された最悪のサーヴァント……なのだが、本人は現世で遊ぶのを優先しており、聖杯戦争には積極的に参戦しない。現在、間桐家を実質的に牛耳り、魅了した人間を連れ込んで酒池肉林に耽っている。
興味のないものは虫けらのように使い捨て、興味のあるものは壊れるまで徹底的に弄ぶ享楽主義者。聖杯戦争の参加者に興味を持ち始めると本格参戦。
ストーリーの展開次第では興味本位で桜を唆して黒桜を爆誕させてしまう。ラスボス候補の一角。

EXランク宝具『黙示録の獣(アポカリプティック・ビースト):
赤き竜よりその権威を与えられ、民を平伏させる七頭十角の獣。
周囲に呪詛を垂れ流して汚染し続けるバイオハザードみたいな宝具。また大地から吸い上げたマナで絶望的な回復力を発揮する。
マスターが黒桜になると呪詛と回復がさらに強化されて手がつけられなくなる。
ただし、回復力以外に特殊な耐性はないのでサーヴァント数体がかりで大火力宝具を叩きこんで木っ端微塵すれば何とかなる。案外『三神よ、永劫へ帰せ』あたりのいいカモかもしれない。
余談だが阿呆みたいに目立つ上に被害が尋常でなく出るため、監督役と土地管理者の胃に深刻なダメージを与えることができる。



キャスター
真名:ソロモン

解説:ダビデの子、イスラエルの王。魔術王とも呼ばれ、魔法の指環で七十二柱の悪魔を使役した。
晩年は国を財政破綻させたりとパッとしない記録が残っているが、民を治めるための知恵を神に求めたりと、良き為政者であったのは確かである。秩序・善だし。
聖杯のなんたるかにいち早く気付くが、『この世全ての悪』を神に跪かせ、神の権威を知らしめるためにあえて聖杯を完成させることを選ぶ。
原作でのキャス子さんと同じく、柳洞寺を拠点にしたり、アサシンを不正召喚したりしている。そのスキルでもって寺どころか山ごと要塞化しているので凄まじい鉄壁ぶりを発揮する。
原作のキャス子さんと同じく、展開次第では搦め手で立ち回り魔術王の恐ろしさを存分に見せてくれる……かもしれない。

EXランク宝具・『神約の指環(リング・オブ・ソロモン)』:
唯一神の命により大天使ミカエルがソロモンに授けたとされる指環。
触れた状態で真名開放すると抗えない強制契約が発生、キャスターは相手に対して令呪ばりの絶対命令権を得る。
神霊クラスでも抗えないので、触れればどのサーヴァントにも効果を発揮する。
そして、触るまでもっていくのが至難の業であることは言うまでもない。
やはり、原作のキャス子さんみたく知恵を絞ってどうチャンスを得るかにすべてがかかっていると言える。




アサシン
真名:ブラックライダー

解説:イナゴ。
主に田畑に生息。かつては貴重なタンパク源として内陸部の農村ではよく食べられていた。
現在では珍味としてイナゴの佃煮などが売られていたりする。
大量発生すると大規模な稲作災害を引き起こす害虫としても知られる。

EXランク宝具・『飢餓の天秤(ブラックライダー)』:
黙示録の第三の騎士が持つ天秤。飢餓による人間の絶対殺害権。
皿の上に載っているレンジ内のすべての人間の命を七等分した七つの銀貨を動かし、生命力を枯渇させる事が出来る。
一日一枚しか動かせないので皆殺しには七日かかるが、逆に言えば七日かかれば人間であるかぎり抗えずに死に至る恐ろしい宝具。
ただし、神性の高い相手(アーチャー、前アーチャー)やそもそも人間でない相手(ランサー、バーサーカー)には通じない。それでもマスターが人間であれば十分致命的ともいえるだろう。
一番危険なのはセイバー。神性を持たないので抵抗できない上、ただでさえ切迫している魔力事情が更にレッドゾーンに追いやられる。



バーサーカー
真名:カルキ

解説:ヴィシュヌ神最後の化身。
マッポーの世を粛清して黄金の世をもたらすとされる。未来戦士、というか機械仕掛けの救世主。
バーサーカーとして召喚され、イリヤスフィールに使役される。基本的に原作のバーサーカーのように分かりやすい脅威として士郎達に立ちふさがったりする。
イリヤにとって絶対に裏切らないナイトであり、忠実なお人形さん。バーサーカーのサーヴァントとしては確かにそうなのだが、それよりも優先すべき英霊カルキとしての役割があり、場合によってはイリヤの意に沿わない事もある。
バーサーカーが生き残っている状態でイリヤを小聖杯としての聖杯降臨の儀式が始まると、イリヤごと『この世全ての悪』を滅ぼそうとするイベントが発生する。イリヤルートとかあったらラスボスかもしれない。

EXランク宝具・『掃星の夜明け(クリタ・ユガ)』:
全ての罪業に対する最終審判宝具、裁きの光。
この光を浴びたものはその罪に応じたダメージを受けるという。英雄のようになんらかの犠牲を持って勇名を成したものに対しては特に強力。まさにインガオホ―。
特にあらゆる悪徳と罪の象徴であるライダーに対しては即死級クリティカル。
ただし、稲作災害の被告人としてイナゴを法廷に立たせるものがいないように、虫の集合体であるアサシンはこの宝具による影響を一切受けない。