「我が主よ。忠告する。
 この戦争の未来に勝利はなく、栄光はなく、幻想はない。
 全ての歯車は狂い、理と法は崩れおちる――」
 彼女――アヴェンジャーは、自らのマスターに静かに継げる。
 神に授かりし予言の言葉を。
 先見という災厄が悲運しか招かぬことを知りながら、
 それでも、カサンドラは告げずにはいられないのだ。
 絶望に満ちた未来を。 

「…ほう、貴様は神話にその名を馳せる浮気神。
 隠しても隠し切れぬ駄目親父っぷり、妻の目を逃れてこの地まで指を伸ばしてきたか」
「若き人の子の中にも、貴様のように伝説まで駆け上る女好きが現れるか。
 良かろう、人が年月を重ね、どれほど我が領域まで手を伸ばしたか――確かめて見せよう」
 神話に名を馳せるアサチュンと、人のまま伝説となったアサチュン。
 2人の男達の戦いが夜の闇と光の中火花を散らす。
 そして、そんな男達の戦いを見つめるのは、
 逆さ吊りされた隻眼の男――。
「仮にも主神と呼ばれた神霊が一同に会したというのに、
 あいつはこちらを見る気すらないのか?」
「いや、待っているぞ? 釣られた男。
 貴様が性転換するその時を」
「アッー!?」

「魔女よ。貴様に黙示録の呪いがあるというのなら、
 我ら円卓の騎士にも逃れられぬ宿業がある。
 ――貴様とて、不味く調理してみせよう。ゼリー寄せとか」
「あら。真に聖杯を見出した純白の騎士が、この壊れた聖杯戦争に現れたかと思えば
 ――ふふ、良い男に詰め寄られるのは、嫌いじゃないわ」
 それは、白と黒、聖と魔、高潔と堕落の対峙であった。
 飽食と好色、大罪に塗れた呪いじみた臭気を、赤十字が描かれた純白の盾が浄化していく。
 禁欲、それは騎士の根本にして、今もなお彼の大地を縛るもの。
「貴方のような男こそ、今宵の相手に相応しい。
 愚かしくも狂おしく、我らと共に遊びましょう」

「戦を忘れ、狂気を忘れ、遂に平穏を得ても、
 それは一時のことに過ぎぬのか――」
 湯煙の中、戦いに疲れた戦士が天を仰ぐ。
 その視線の先には炎の翼を持つ戦乙女。
「さぁ、戦いは始まりました。
 アインヘリヤルよ、英雄よ。
 我が主神の名の下に、私とともに戦い、そして死になさい」
「断る。
 すでに、その名は捨てた。
 全ての名は、捨てた。
 ここにいるのは、一介の番台の主、安息の地を守るものだ!」

 海は荒れ狂っていた。
 波が白く泡立ち、凶悪な牙のような暗礁が牙を向く。
 しかし、そのような狂った海を、征服出来ずとして、何が船の英霊か――!
「……いや、流石に危険じゃないか? これ」
「黙ってダンボールでも被っていなさい。
 ――感じるのよ。あいつの、気配を」
 大神が宿る聖樹によって生み出された自分の予感が、外れることなどありえない。
 果たして、彼女はそこにいた。
 波打ち付ける黒い岩の上、楽しげに歌う少女。
「あら? 知っていたのかしら? 英雄の船。
 私が、貴方を呼んでいたことを」
「久しぶりね。
 私が、貴方を征服して以来かしら?」
「そうよ。でも、最早、あの歌の英雄はいない。貴方は一人。
 今度こそ、私が貴方を沈めてあげる」

 夜空を貫かんばかりの、巨大な影。
 それは、全ての男と、そして女にとって、最悪の存在だった。
「馬鹿な。
 この基地の結界が、何の役にもたたない、だと」
 自分の持つものとは違う、圧倒的な存在感を前に、
 同じ剥き出しの名を持つ男は戦慄する。
「さぁ。正義の味方。
 どうするのかしら?
 正義のために死ぬ? それとも、ここで死ぬ?」
「――悪魔め――」
 絶望する男の隣で、
 少女が楽しげに囁いていた。

「何だこれは――! 何がどうなっているのだ――!」
「全てが、狂っています。これでは、計算できない」
 金剛石の剣がまるまると太った男を砕き、
 太陽神の矢がハートのキングを貫く。
 諦めぬ男と、万物を計る男は、
 それ故に物語に捕らえられ、朽ちていく。
「諦めきれるか、諦められるか――!」
「狂気さえも、計算しつくしてみせましょう」
 彼らが物語を砕くのが早いのか、それとも――
「いそがなくっちゃ
 いそがなくっちゃ。
 聖杯を手に入れて、みんな御伽噺にしなきゃ
 悪夢が、目覚める前に」

 しかし、全ては手遅れだった。
 狂乱と没ネタが繰り広げられる戦争に、
 遂に聖杯の中から、
 彼ら全てよりも尚も古い、
 黒い悪魔が
 現れる――。

皆サバ聖杯戦争「ネタ編」
 狂気と絶望の果てに、何が待つのか