この作品は、『黙示録の救済』の続きの作品となります。
先にそちらの方をご覧になっていただく事をお薦めします。
この作品はフィクションであり、現実とは一切関係ありません。


―――ドンキホーテが消滅した後。
ハーロットと士郎は、ハーロットのマスターである桜を救うべく、間桐邸へと乗り込んだ。
だが、それはどこからどう見ても無謀極まりない行為だ。
普通の強大な力を誇るハーロットならばそれも可能だっただろう。
だが、今のハーロットはドンキホーテの精神汚染の影響に属性が変化し、
サーヴァントとして機能不全を起こし宝具の使用が不可能になっている。
(膨大な魔力を注ぎ込めば強制的に再起動できるかもしれないが、全く実戦的ではない。)

通常のサーヴァントならば、属性が変化した程度でそこまでの影響はない。
だが、『悪であれ』と望まれて誕生したハーロットにとって『悪でない』ハーロットなど存在できるはずなどないのだ。
そんな状態のハーロットがサーヴァントして機能不全を起こすのも当然と言えるだろう。
そして、そんな状態のサーヴァントを連れて敵の本拠地である間桐邸に乗り込むなど
到底正気の沙汰ではない。
……だが、ドンキホーテの志を受け継ぐ彼らがその志に反する事などできはしない。

さらにここは間桐の本拠地である間桐邸。
そんな彼らが見つからないはずもない。

「ははは!いいざまじゃないか!衛宮!
そんな使えないクズサーヴァントを連れて僕の家に乗り込むなんてね……。」

「……ッ!!慎二……!!」

地下に乗り込んだ彼らを待ち受けるは、偽臣の書を持ち、
最強のサーヴァント、カルキを従える間桐慎二。
最早摩耗してしまったが、「この世全ての悪の根絶」を願う臓硯の理想によって召喚されたカルキ。
だが、今の悪と化した臓硯では、カルキを制御する事など到底できない。
それゆえ、彼は(性格には問題はあるが)比較的悪を行なっていない慎二にカルキを与えたのである。

「さあやれ!カルキ!あのサーヴァントは悪だ!そいつを連れている衛宮も悪だ!
やっちまえ!悪をぶっ倒せ!!」

だが、その慎二の言葉を一切無視し、カルキは唐突に無機質な声を発する。

《System K.A.L.K.Iによる戦略判断。

K.A.L.K.I1、苦しむ弱者を救おうとする彼らは正義と判断する。
K.A.L.K.I2、ハーロットの存在が悪とは言え、彼らのその行動は正義と判断する。
K.A.L.K.I3、存在が悪であるならば即時に粛清すべし。
だが、現在は彼らより優先順位の高い悪が存在する。そちらを優先すべし。
条件付きで1,2の意見を指示する。

―――System K.A.L.K.Iの多数決により、エミヤ シロウらの行動を正義と判断する。》

92 :黙示録の終末 :12/05/10 22:44:36 ID:YDrAeRUR
その瞬間、ぼっと慎二の手にあった偽臣の書が燃え上がる。
元々神霊に近い反則ともいえる存在であるカルキを偽臣の書ごときで制御できると思うほうが間違いなのだ。

「なっ……!ど……どういうことだ!カルキ!
僕をマスターと認めない気なのか!悪に手を貸すのかよこのクズが!!」

「カルキ……。もしかして俺達に手を貸してくれるのか?」

《肯定する。System K.A.L.K.Iによる戦略判断により、
エミヤ シロウらの行動を正義と判断する。

仮マスターであるマキリ シンジとの契約を破棄。
正義の名の元に固定名エミヤ シロウをマスターとして承認する。》

「ひっ……!!こ、こんな馬鹿な話があるかよ!!」

ギン、とカルキの瞳が光が放つと同時に、最早マスターでなくなった慎二は脱兎のごとく逃亡する。
気にはなるが、今は桜を救う事が最優先だ。慎二に構う余裕はない。

それにしても皮肉極まりない話だ。
悪を全て粛清のが目的のカルキと、
悪そのものの具現体と言えるハーロットが肩を並べて共闘するのだから。
これほど皮肉な話もそうそうあるまい。
カルキを従え、地下を進む士郎にハーロットが話しかける。

「……正直、サクラをどう救えばいいか考えあぐねていたのだけれど、
カルキがいるとなれば話は別だわ。
いい。サンチョ。サクラは『まだ誰も傷つけていない。』
これをよく覚えておいて。
それが多分、サクラを救う唯一の手段になるだろうから。」

―――そして、間桐邸最深部。
そこでは、無数の蟲の中に存在する桜と、間桐臓硯の姿が存在した。

「カカカカカ!よく来たな小僧!
まさかハーロットとカルキを同時に従えるとは……。
対極のこの二体を従えるとは、貴様はよほどの奇縁に恵まれていると見える。
だが、それもそこまで。貴様らはここで執着じゃ。」

「―――!!サンチョ!周囲を警戒しなさい!
あの老人が堂々と真正面に現れるなど、何らかの罠があってしかるべきよ!」

その彼女の声に答えるように、どこからか声が響き渡る。

「『当たり』だ。ハーロット。だが少し遅かったようだな。」

次の瞬間、士郎の真横からいきなり『何者か』が表れ、士郎を地面に抑えつけ短剣を突きつける。

―――アサシン、ギュゲース。
いきなり現れたのは彼の宝具である『見えざる悪徳(リング・オブ・ギュゲース)』 の力である。

今回、間桐は本気で聖杯を手にするつもりだった。
そのために用意した策は、桜にサーヴァントを召喚させ、
さらに臓硯自身もサーヴァントを召喚する策だった。

だが、桜は予定通り強力なハーロットを召喚したが、
臓硯は偶然にも強力無比ではあるが、非常に使いにくいカルキを召喚してしまったのである。
真っ先に粛清されかけた彼は、罪の総量はほとんど一般人と同様である慎二にカルキを与え、
自らは再びサーヴァントを召喚した。、
そして、呼び出されたのは、アサシンであるギュゲースである。

「おっと、動くなよ。カルキ
いかに貴様と言えどマスターを倒されれば現界し続ける事はできまい?
ああ、後いきなり宝具使用も無しだぜ?
貴様が宝具を使用しようとも、こいつと相打ちする事はできるんだぜ?
なんの罪もないマスターを犠牲にするのが、貴様の正義なのか?」

《―――。》

そのギュゲースの声にカルキは停止する。
カルキの宝具、『掃星の夜明け(クリタ・ユガ)』の前では人質など事実上無意味である。
普通の人間と同じような罪しかない士郎と、悪徳の限りを尽くしたギュケースでは罪の量が違いすぎる。
以前のドンキホーテと同様に、士郎は多少傷つき、ギュケースは完全に消滅するだろう。
だが、消滅する前に士郎の急所を刺し貫く事は可能だろう。
つまりは、事実上の相打ちである。
それはつまり、士郎を見捨てるということに他ならない。
正義の存在であるカルキにとっては自分自身の存在意義を否定することだ。
それは奴は決して行わない、とギュゲースは冷静に分析しているのである。

《System K.A.L.K.Iによる戦略判断。

K.A.L.K.I1、無辜のマスターを犠牲にするのは正義ではない。宝具使用不可。
K.A.L.K.I2、K.A.L.K.I1に同意する。宝具使用不可。
K.A.L.K.I3、敵目標は明らかに邪悪。邪悪を滅ぼすのに容赦は不要。宝具使用許可。

多数決により宝具の使用は不可とする。》

そして、ギュゲースの予想通りカルキは宝具は使わない事を選択する。

にやり、とギュゲースと臓硯が邪悪に微笑むが、次の瞬間士郎は叫ぶ。

「……やめろ!!」

「何だぁ?ついに狂ったか?小僧?」

そんなギュゲースの呟きを無視して、士郎はなおも叫ぶ。

                        ・・・・・
「やめろ!やめるんだ!ドゥルシネーア!!いや、『ハーロット』!」

次の瞬間、皆の視線がドゥルネシーア……いや、ハーロットに集中する。
彼女はドンキホーテから与えられたドレスに身を包み、静かに瞳を閉じる。

「いいえ、サンチョ。私は彼によって救われた。
救われた私が誰かを救わないなんて間違っている。
……悪である私でも誰かを救えるのならば、それはきっと奇跡にも等しい事だから―――。」

そう、かつてこの身が。
あの狂気に囚われたあの騎士気取りの老人に救われた時から。
きっと、私もあの姿に憧れていた―――。

「こんな私でも誰かを救えるというのなら、私は……再び悪夢を見ましょう。」

その呟きと共に彼女から吹き出す膨大な魔力。
それに危機感を覚えて、ギュゲースは叫ぶ。

「……ッ!御託が多いんだよ!このクソどもが!いい加減に……。」

《黙示録の獣(アポカリプティック・ビースト―――!!》

だが、彼女の方が一瞬だけ早い。
彼女は使用不可能となったはずの宝具を、膨大な魔力を注ぎ込む事によって一時的に無理矢理起動させたのだ。
黙示録の獣の巨大な尻尾のみを具現化させた彼女は、その尻尾の一撃でギュゲースを弾き飛ばす。

「なっ……!ライダーじゃとぅ!?
バカな!ライダーの宝具は使用不可のはず……!それがなぜ!?」

マスターからの魔力供給を遮断し、自らに残っている魔力を全てつぎ込む事により、無理矢理、
彼女は使用不可となっていた自らの宝具を再起動させる。
桜にこれ以上負担をかけないため、彼女からの魔力供給を遮断している彼女にとっては、
それは無謀極まりない行為だ。

「やりなさい!サンチョ!!」

「分かってる……!!カルキ!宝具を使用してくれ!!
ドゥルシネーア……ハーロットは巻き込まないようにしてくれ!!」

《了解した。宝具の使用許可承認。
『掃星の夜明け(クリタ・ユガ)』照射開始。》

その言葉と共に、吹き飛ばされたギュゲースは叫ぶ。

「チィ―――ッ!!こんな奴らと戦っていられるかよ!」

ギュケースはマスターである臓硯に見切りをつけて、この場から逃走しようとする。
だが、それも無意味だ。
いくら姿が感知できなくとも、光の範囲攻撃であるカルキの宝具に回避できようはずもない。
もし、ギュゲースが本当に透明になれるのなら、光を受け流す事も可能だったかもしれないが、それも無駄な事。
天空から巨大な光の柱が照射され、ハーロットと士郎以外の全てを包み込む。


「「が……があああああっ!!」」

次の瞬間、裁きの光を浴びて、ギュゲースと臓硯は内側から切り刻まれ、はじけ飛ぶ。
一方、まだ罪を冒していない桜は最小限のダメージを受けたが、
それ以上に重要なのは、裁きの光を受けて、桜の心臓に存在していた臓硯の本体も消滅したという事である。
裁きの光は、桜の肉体を通過し、臓硯の本体を確実に滅ぼしたのである。

「あ……ああ……。」

本体が消滅し、裁きの光を食らってなお、まだ息のある臓硯は無数の蟲によって肉体を再構成させようとする。
だが、それも無駄なこと。
ズン、ズン、とカルキはそんな彼に対して歩んでいく。
だが、滅びを間近にして、臓硯はふと高笑いを上げる。

「は……はははは!!そうじゃ!思い出したぞ!
ワシの望み!そう!この世全ての悪の根絶を!!
何たる無様!何たる皮肉!
この世全ての悪の根絶を願っていたこのワシが悪に堕ちていたとは!
何故じゃ!?何故ワシは忘れていたのだ―――!?」

泣き笑いのような声でそう叫ぶ臓硯は、迫り来るカルキに小声で問いかける・

「カルキ……。聞かせてくれ……。ワシは……悪なのか?」

《問うまでもなく、邪悪であると判断する。》

「は……はは……ははははは!
そうか!ワシは悪か!ははは!はははははは!!」

哄笑を上げる中、カルキの無慈悲な一撃によって彼は粉微塵に粉砕された。
―――1方、そんな中、限界まで魔力を消費したハーロットはその肉体を消滅させつつあった。
それも当然だ。マスターからの魔力供給も無しに、膨大な魔力を注ぎ込んで無理矢理宝具を再起動させたのだ。
こうなるのは極めて当然の結果と言えるだろう。

「ハー……ロット……。」

呆然を呟く士郎と、その腕に抱きかかえられる桜を見て、肉体を消滅させながら彼女は穏やかに微笑む。

「サンチョ……いいえ、衛宮士郎。
その子を大切にしてあげなさい。
私たちのように悪に染まった人間にとっては、
差し伸べられる救いの手は奇跡以外の何物でもないのだから。」

空を飛ぶ魚がいてもいい。
自らの運命や存在意義に逆らう人間がいてもいい。
悪でありながら善になりたいと願う存在がいてもいい。
雨の中、傘をささずに踊る人間がいてもいい。
自由とは―――そういう事なのだろうから。

彼女は消えかかりながらも、ドンキホーテから与えられたドレスのスカートの裾を軽く摘み、
まるで貴族の令嬢のように優雅に一礼する。

「……どうぞサーヴァントという喜劇を演じきったこの私に拍手を。
それでは、皆様、良い終末を―――。」