雑談を読んでいてラーヴァナVSアキレスの戦いが思い浮かんだので投稿させていただきます。
これはフィクションであり、現実とは一切関係ありません。


―――召喚され、その俊足を生かして聖杯戦争の探索を行なっていた
ランサー……アキレスは猛烈な魔力の波動に導かれ、一人の畏形の姿を発見した。
十の顔に、二十本の腕。その畏形はまさしくサーヴァント。
どうやら、このサーヴァントは強力な魔力を放つ事によって他のサーヴァントをおびき寄せていたらしい。

ランサーは確信した。こいつは神代の魔王の類だ、と。
彼自身も女神テティスの息子、半神であるから理解できる。
その畏形、その膨大な魔力と神秘、どこからどう見ても神霊と匹敵するほどだ。
そして、その畏形のサーヴァントも、ランサーを把握し、言葉を放つ。

「ふむ……。どうやら正英霊の類か。英雄としての純度は『まあまあ』か。
悪くはなさそうだが、実際に試してみんと何とも言えんな。
来いよ英雄(ヒーロー)
貴様が本当を正道を歩む英霊ならば魔王ラーヴァナである余を打ち倒してみせろ!」

―――そう、それこそがライダー……魔王ラーヴァナの望みだ。
『正義の味方に打ち倒される事』
『人々に語り継がれる英雄譚を作る事』
それを望みにしてラーヴァナは今回の聖杯戦争の召喚に応じたのだ。

「舐めるなよ魔王が。
貴様のその余裕面、ひっぺはがしてやる!!」

その言葉と共に呪槍を構えるランサー。
それに答えるように、20本の腕に持たせた槍や剣や弓を構えるラーヴァナ。
いかにランサーの速度が速いとはいえ、20本の腕からなる連続攻撃の迎撃からは逃れられまい。
だが、次の瞬間ランサーはまるで瞬間移動のようにライダーの懐へと飛び込んでいた。

「―――!!」

あまりの速度に20本の腕を持つラーヴァナですら反応はできない。
……無窮の駿足。
一つの時代で無双を誇るまでに到達した神足。
その速度のままアキレスはトリネコの槍を突き出し、ラーヴァナの十の内の一つの顔を貫く。
そして、ラーヴァナにソニックウェーブが襲いかかると同時に凄まじい速度でざざざ、と後方へと下がるランサー。

「ほう?やるな英霊。
中華の地で伝わる『縮地』とやらか?
なかなか素晴らしい速度だな。だが、無意味だ。」

その言葉を肯定するように、しゅうしゅうと凄まじい勢いで、
ランサーに貫かれたライダーの顔は回復していく。
ランサー……アキレスの神性はB。
海の女神テティスの息子であり、半神である事からすれば当然の神性である。
そして、ライダー……ラーヴァナの宝具『ラクサーシャラージャ』は相手の神性が高いほど、再生力が高まる。
アキレスほどの高い神性となれば、霊核を確実に貫くなどといった非常に高いダメージを
与えなければ、ラーヴァナを倒すことはできないだろう。

アキレスはその速度を生かしたヒット・アンド・アウェイ、一撃離脱戦法で
ラーヴァナに攻撃を仕掛けていく。
それに対して、ラーヴァナは20本の腕の武器をふるって迎撃を行う。

アキレスの攻撃に負わされた傷はラーヴァナの宝具によって自己再生していく。
逆に、ラーヴァナはアキレスの速度が速すぎてまともに攻撃を当てる事が難しい。

このままでは千日手だ、と判断したラーヴァナは舌打ちをして言葉を放つ。


「ふうむ……。やはりこのままでは埒があかんか……。
ああいう速度で勝る手合いには、面制圧で纏めて吹き飛ばすのが上策と
どこぞの漫画にもそう書いてあったしな。」

そのラーヴァナの予想外の言葉にさすがのアキレスも呆れ返った言葉を放つ。

「……おい。漫画って……。」

「何この時代の民草に受ける英雄譚について調べただけだ。
「まぁけてぃんぐ」というヤツだな。
どのような英雄譚が好まれているのかを調べねば、良い英雄譚は編み出せない。」

ラーヴァナの思念と共に、彼の上空に存在していたプシュパカ・ヴィマナを被っていた幻覚が解除され、
プシュパカ・ヴィマナに装備されている無数の砲台が姿を表す。
無数の砲台からから放たれる魔力弾による支援砲撃の威力は、
サーヴァントすら手も足も出せずに容易く打ち倒せる威力を持っている。

「プシュパカ・ヴィマナ支援砲撃用意―――!」

ヴィマナの無数の砲身に魔力光が灯る。
あれだけの砲台から放たれる魔力弾による面制圧では、
いかにアキレスの無数の駿足と言えど完全な回避は難しいだろう。

そこまで分析して、アキレスは思考する。
ならばどうする?撤退するか?
否、論外だ。
そんな思考は、大英雄である自分には相応しくない。

なら―――信じろ。
俺はいつだって戦場を駆け抜けてきた。
今までもそうだった。そしてこれからもそうする。
ただそれだけのことだ。

―――俺は。
―――この地上で
―――最速だ!!

「撃て―――ッ!!」

そのラーヴァナの声を共に、アキレスは疾走した。

疾走、疾走、疾走。
加速、加速、加速。

彼の疾走は、瞬時に音速を突破する。
プシュパカ・ヴィマナの無数の砲台から降り注ぐ無数の魔力弾による弾幕。
だが、その魔力弾はアキレスには当たらない。
アキレスは、面制圧の着弾予想地点を魔力弾が着弾する前に疾走しているのだ。

まるで豪雨のように降り注ぐ支援砲撃を引き連れるように、
アキレスのすぐ背後に着弾し続ける無数の魔力弾を無視して、アキレスはただ疾走する。

「ラーヴァナ。貴様には……速度が足りない!!」

《厄刻む不治の樹槍(ペリオン・アッシュ)―――!!》

軽々と音速突破を行い、最速の戦闘機の速度すら超えるマッハ8の速度で駆け抜けながら
放ったアキレスの厄刻む不治の樹槍(ペリオン・アッシュ)の威力は、
ラーヴァナの脇腹を深々と抉っていた。
同時に発生した衝撃波により、呪槍の傷はさらに広がっており、さらにその衝撃波ラーヴァナの全身を傷つけていた。
まさに最速の英雄に相応しい速度である。

「……支援砲撃が着弾する前に面制圧の着弾予想点を駆け抜けるかよ……。
―――怪物め。」

ラーヴァナの宝具『ラクサーシャラージャ』により、アキレスの疾走の衝撃波によって負わされた傷は再生していくが、
アキレスの呪槍によって負わされた呪傷は、再生すると同時にまた傷が付き、
さらに再生し、さらに傷を負うという無限ループの状態になっている。

これがアキレスの宝具、呪槍『ペリオン・アッシュ』の力だ。
この呪槍によって負わされた傷は永遠にふさがる事はなく、
強制的に魔力を消費させ、傷を修復し、さらに傷を負わせ続ける。

ラーヴァナの宝具はあくまで自己再生能力であり、
ペリオン・アッシュの効果と矛盾するものではない。
矛盾する宝具がぶつかり合えば、より神秘の高い方が勝つ。
だが、これは矛盾するものではないので、さすがのラーヴァナであろうが打ち消す事はできないのである。

「ク……クハッ……。
ハハハハ……ハハハハハハ!!
面白い!実に面白いぞ!貴様は!
それほどの神性を持ちながら余を傷つける事ができるとはな!!
流石だ!流石はギリシャの大英雄だな!最速の英霊!!」

「………。」

だが、歓喜するラーヴァナとは対極的に、このチャンスにも関わらず
冷静なアキレスはじり、と距離を取り始める。
どうやら、この魔王は自分の真名に検討がついたらしい。
これほどの速度、そして再生不可の呪槍を所有する英霊と言えば誰でも検討はつくだろう。

―――ギリシャ神話イーリアスに伝わる最速の大英霊、アキレス。
彼自身は強力な英霊だが、明確な弱点が一つある。
それは彼の踵だ。
彼の踵は彼の唯一の弱点であり、そこをやられてしまえばたちまち敗北してしまう。



それを知られてしまった以上、彼が慎重になるのも当然。
それに呪傷を負わせた以上、無理に追い込む必要もない。
どうやら、呪傷により、呪傷による魔力消費だけでなく、
あのラーヴァナの自己再生能力も常に発動されてしまうらしい。

そうなれば莫大な魔力消費になってしまうはず。
ならば、ここで無理に追い込まず、逃げ回って魔力消費による消滅を待つのも手堅い戦法だ。

だが、そのアキレスの思考をラーヴァナは完全に読み取っていた。
主人公が時間切れを狙って逃げ回り、
ラスボスが魔力切れによる消滅などというオチではあまりに面白みがない。

倒される事が問題ではない。『つまらない』事が問題なのだ。
そんな英雄譚を読んで誰が夢を、希望を抱けるというのだ。
『カッコいい英雄譚』を作る事を望みとする彼にとってそんなオチは認めがたいものだった。

「おいおい、まさかここまで来て逃げに徹するなどと興ざめな事を言うなよ?
そんな臆病者などとは、貴様を育てた母親の程度も知れるな?
なあ、ギリシアの大英雄よ?」

その瞬間、ぴしりと空気が凍りついた。

「―――母様の事を侮辱したな。魔王。」

静かだが、猛烈な闘気がアキレスから放たれる。
それは彼が本気で激怒している事の証だ。
アキレスは少々……いや、かなり母親を慕いすぎている部分がある。
それゆえ、母親を侮辱された場合、アキレスは本気で激怒してしまう。
ラーヴァナはその点を的確に突いたのである。

「余の言葉を撤回させたいのならば、その槍を持って撤回させてみよ。
来い。来いよ英雄。その呪槍を余の霊核に突き立ててみせよ!!」

その言葉と共に、疾走を開始する両者。

「ラーヴァナ……ッ!!」

「それが余の名だ!冥府に落ちても忘れる……!?」

だが、二人がぶつかり合う瞬間、ゆらりと地表と大気の『境界』が歪む。
そこから畏形の姿が飛び出し、横あいから彼らに向かって襲いかかる。

―――ヴィシュヌの化身、ナラシンハ。

彼の『残陽境界(ウシャ・ナカ)』 は『境界』と同化する能力であり、
宝具を解除することによって瞬時に実体化することができる。
そして、境界に同化している間は、どんな感知能力も無効化される。
その宝具を利用して、彼らの隙を虎視眈々と狙っていたのだろう。
おまけに、ナラシンハはヒラニヤカシプとの戦いのために、意図的に神性を失わせている。
対ラーヴァナ戦として、まさに最適の相手と言える。

「おのれぇ……!!
余と英雄の戦いに横槍を入れるか!!
随分と興を解しないようになったな!ヴィシュヌ!!
否!『それでこそ貴様』か!!」

ギリリ、と悔しげに歯噛みをしながらラーヴァナとアキレスはナラシンハの一撃を迎撃する。
絶好の一撃を防がれたナラシンハはそのまま境界へと姿を消していく。

「一騎討ちに横槍を入れられるとはな……。
興醒めだ。最速の英霊。今日はここまでだ。
また次の戦いを楽しみにしているぞ。」

その言葉と共に、ゆらりとラーヴァナとヴィマナの姿は幻術によって消えていく。
それが、この戦いの終焉だった。



―――それからしばらくして。
幻術で普通の人間に化けたラーヴァナは街中を歩いていた。

「さて……ランサーとアサシンは確認できた、か。
アサシンは却下として、ランサーは英雄の純度としてはなかなかの物だった。
あれならば、『倒されてやっても良い』か。
だが、どうせなら他のサーヴァントも確認しておくとしよう。
さて、次はセイバーかアーチャーにでも戦いを挑んでみるか……。」

と、何かをラーヴァナは何かを感じ取ったかのように、
ビルの隙間の暗がりへと入っていく。
そこでは、一人の男が女性を脅していた。

「へ、へへへ……。もう何もかもおかしくなっちまっているんだ……。
だったら!俺がおかしくなっても不思議じゃねえよなあ!!」

聖杯戦争によるサーヴァントとマスターの暗躍による不可思議な事件の連続。
いかに事実の隠蔽が行われているとはいえ、
感覚の鋭い人間ならば、その異常な気配と不可思議な事件の数々によって狂気に走ってもおかしくない。

「―――つまらんな。」

そんな狂気と悪に囚われた男性を一瞥して、ラーヴァナはふん、と鼻を鳴らす。

「な……なんだてめえ!!」

その男性の言葉を無視して、ラーヴァナはさらに言葉を続ける。

「そんな不純物混じりの卑小な悪で余の前に姿を表すとは……。
『悪役』として一つ貴様に教えておいてやろう。
悪はより強い悪に飲み込まれるものだ。それを貴様自身の身で味わうといい。」

女性の視界を幻術による慈悲深い暗闇で覆い隠すと、
ラーヴァナは自らの体を被っていた幻覚を解除する。

「―――貴様は餌だ。豚のように泣きわめけ。
そしてその身で悪の末路を知るがいい。」

女性が気を失う中、男の絶叫が響きわたった。