以前の雑談の書き込みでドンキー爺さんとハーロットの書き込みを見て、
それハーロットが救済されるフラグじゃねーか原作的に考えて……と思ったので書いてみました。
ハーロットすら救済(精神汚染ともいう)するドンキー爺さんマジパネェ……。
これはフィクションであり、現実とは一切関係ありません。


―――そして、『彼女』はこの世界に降臨した。
マザーハーロット。黙示録の女。
キャスターとしての器を得て、あらゆる『悪』を体現する彼女は
これからどのような悪を行おうか、とにんまりと邪悪に微笑んだ。
桜によって呼び出された彼女だが、
臓硯によってマスターである桜に対して干渉を禁じられる代わりに、
好き勝手にしてもいいという許可を得た彼女は思うがまま悪を行うために活動を開始する。
だが、そんな彼女に対して、一人のサーヴァントは姿を表し声をかける。、

「ドゥルシネーア姫よ!
このような所におられたのですか!」

それはライダーとして召喚されたドン・キホーテだ。
『我、騎士道を邁進す』の力によって凛々しい力溢れる騎士に見える彼だが、
ハーロットを己の妄想の中の理想の姫である『ドゥルネシーア姫』と認識した彼は、
その姫を捕らえていると(彼は思い込んでいる)黙示録の獣に突撃する。

「この怪物め!姫を解放……ぬぉおおおおっ!!」

黙示録の獣の牽制の軽い尻尾の一撃でべちこーんと吹っ飛んでいくドンキホーテ。
それを見てハーロットは思わず呆然とした顔になる……が、すぐに思考を働かせ始める。

どうやらこのサーヴァントは、極めて強力な幻惑の能力を持っているらしい。
その能力は、このハーロットで見抜けぬほどだったのだ。
本人の戦闘能力はほとんどないようだが、これは強力な武器になる。

そう考えて彼女は、にいっと、邪悪な笑みを浮かべた。
とうやら、このサーヴァントは、自分の事を姫だと思い込んでいるらしい。
ならば、それを利用してやればよい。
この老人を利用して、敵がパニックに陥った所で横あいから思いっきり
黙示録の獣で攻撃を仕掛ければ効率よく敵を殲滅できるだろう。
そう考えた彼女はまんまとドンキホーテを丸め込んで、従わせようとした。
だが……。

「姫よ!そのような格好ではいけませぬ!
貴婦人たる者、常に気品を纏わねば!さあ、このドレスを!」

「姫よ!そのような振る舞いではなりませぬ!
貴婦人たる者、常に優雅に振舞わねば!!」

そんな風に口うるさく口出しする彼に対して、流石にハーロットも閉口する。
丸め込むために、試しにワインとして溢れる邪淫を飲ませたり、誘惑を行なってみたりもしたが、
精神汚染A+を所有しているドンキホーテはあらゆる精神干渉を完全にシャットアウトしてしまうのだ。
それは、「騎士が姫に手を出すなど許されぬ」という彼の美学にほかならない。

そんな風に、ドンキホーテの手懐けに悪戦苦闘する彼女。
……だが、何故だろう?
彼がサンチョと呼ぶ衛宮士郎や彼との生活が
どことなく心地よく感じられてしまうのは。

いつからだろうか?
全く彼女の好みとはかけ離れた
ドンキホーテの贈った気品のあるドレスをいつも着るようになったのは?



そんな奇妙な生活の中、襲いかかるはアサシンのサーヴァント。
ヴィシュヌの化身、ナラシンハ。
彼は、その宝具『残陽境界(ウシャ・ナカ)』 を使用して境界から彼らに対して攻撃を仕掛ける。

「くっ……!おのれ!神の化身たる存在が不意打ちなどと……!
《黙示録の獣(アポカリプティック・ビースト》!!」

だが、それに驚愕したのは尻尾の一撃で吹き飛ばされたアサシンではない。
使役者であるハーロットの方だ。
通常ならば完全に実体化しているはずの黙示録の獣がまともに実体化されておらず、
しかも、尻尾をひと振りしただけでその存在が消え去ってしまったからだ。

「ま……まさか……!?
《溢れる邪淫(ルクスリア・チャリス)》!!」、

だが、普段なら杯から溢れ出すはずのワインは一滴も出てこない。
それは、彼女が自らの宝具が使用できなくなりつつあるということだ。
その事実に、彼女は呆然として呟く。

「そんな……私の力が……力が振るえなくなりつつあるの……?
どうして?どうして……?」

それは一種のバグだ。
マザーハーロットは悪であれと願われ創造された存在。
そんな彼女が悪以外の属性になる事など全く考慮されていない。
緻密に構成された機械の歯車が欠けてしまえば、機能不全を起こすのが当然。
つまり、彼女の宝具は、彼女自身の属性が悪だからこそ使用できるもの。
その属性が変化してしまえば、彼女の宝具もその力を十分に発揮できないのだ。
悪でないハーロットなどハーロットではない。
彼女は自分自身のアイデンティティーを失いつつあるのだ。

何とか、アサシン……ナラシンハはドンキホーテの錆び付いた英雄譚の力による
ファンブルの攻撃回避と、により退ける事ができた。
錆び付いた英雄譚はその対象が古ければ古いほどファンブルさせる可能性が高くなる。
中世の英霊ならばともかく、
神代の時代に活躍したナラシンハの攻撃は、ほとんどドンキホーテの前ではファンブルしてしまうのだ。
何とかナラシンハは撃退できたドンキホーテとハーロットだったが、
自分の異変に気づいたハーロットは、その元凶であるドンキホーテにくってかかっていた。

「もう私の事は放っておいて!
こんな感情知らなければよかった!
貴方と出会わなければよかった!
そうすれば……こんなに苦しむ事もなかったのに!
ただ何も考えず『悪』でいられればよかったのに!!」

「貴方の言うことは、魚に空を飛べという事と同じこと!
『悪』に生まれついた人間に!『悪』であれと願われた存在に!
それ以外の道なんて歩めるはずはない!!
もう放っておいて!貴方が一番私を苦しめるのよ!」

だが、そんな風に泣きわめくハーロットに対して、ドンキホーテはそっと手を差しのべる。

「それでも―――貴女は吾輩の姫なのです。
救済という物は例え悪であっても差し伸べられるものなのです。
さあ、ドゥルシネーア姫、お手を。」

笑われるだろうか?
神の敵である邪悪の化身であるこのハーロットが。
この狂気と妄想に囚われたおいぼれ騎士が差しのべる手を、
まるで天国への門に見えたなんて―――。



―――だが、そんな彼らに襲いかかるのは、
ヴィシュヌ最後の化身、バーサーカー、カルキ。
悪の粛清を任務とするカルキが、悪の化身であるハーロットをスルーするはずなどない。

《粛清対象を発見。対象は何らかの事情により宝具の使用不可と判断。
危険度A+から危険度Dへとランクダウン。
だが、危険度は減少したとはいえ、やはりその本質は悪であると判断する。
System K.A.L.K.Iによる戦略判断。
K.A.L.K.I1、粛清許可。 K.A.L.K.I2、粛清許可。 K.A.L.K.I3、粛清許可。
―――System K.A.L.K.Iの多数決により、これより粛清を開始する。》

その言葉と共に、ズシンズシンと足音をたてながらゆっくりと迫り来るカルキ。
そのカルキを、ハーロットは呆然と見守る。
そう、悪は倒されるのが当然。
ましてや、宝具の使用ができない今のハーロットではカルキに対抗できようはずもない。

「―――そうか。貴方が私の宿命か。
それが宿命というのなら従いましょう。
私は、そのために生まれついたのだから。」

マザー・ハーロットは神の正義を象徴するための生贄。
必ず『倒されなければならない』存在だ。
それが彼女の定められた『運命』『存在意義』というものだ。
ならば、それに従わなくてはならない。

―――だけど。

「……嫌だ……。」

―――何故。

「……助けて……。」

―――どうしてあの狂った老騎士との生活がリフレインされてしまうのだろうか。

「誰か……助けて……!!私……消えたくない……ッ!!」

それはあまりにも身勝手な願いだ。
今まで散々好き勝手悪を行なっておいて、
我が身可愛さにいざとなったら救いを求めるなど身勝手にも程がある。
そんな惨めな彼女に救いなど与えられるはずはない。
だが、そんな彼女にも手を差しのべる存在はあるのだ。

「―――そこまでだ!!」

凛、と戦場に朗々たる声が響きわたった。
おいぼれの駄馬にまたがり、ランスを構え、ボロボロの古い鎧を纏った老いぼれの騎士。
……だが、登ってきた朝日に輝くその姿は、涙に濡れたハーロットの目には、
まさしく真実の騎士にしか見えなかった。




「待つがいい!機械人形よ!
ドゥルシネーア姫に出だしをすることは、この吾輩が許さぬ!!」

「騎士道大原則その一!!
騎士は……婦女子の苦難を見過ごしてはならない!!
さあ、駆けよ!相棒ロシナンテ!
この一戦こそ、騎士の誇りを示す大戦ぞ!」

そうドンキホーテは叫ぶと、空に向けていたランスをカルキへと向けると、
そのままロシナンテを疾走させてカルキへと突撃する。
それに対して、カルキは正体不明の敵に宝具の使用を行う。

《宝具の使用を許可する。
《掃星の夜明け(クリタ・ユガ)》 照射開始。》

天空より降り注ぐ眩い光。
それはカルキの宝具、《掃星の夜明け(クリタ・ユガ)》だ。
この光を受けた人間は、自らの罪に応じてダメージを受ける因果応報を象徴した
英雄にとっては天敵とも言える宝具だ。
―――だが。

「この程度の光……何するものぞぉおおおおおお!!」

掃星の夜明け(クリタ・ユガ)の照射を受けて、
ドンキホーテの皮膚の表面のあちこちが弾け、血が吹き出す。
だが、『ただそれだけ』だ。

基本的に、ドンキホーテは騎士気取りの狂気に囚われているだけであり、
誰もほとんど傷つけたことはない。
また、それだけの戦闘能力もない。
いわば、罪の総量としては普通に暮らしている通常の人間とほとんど変わりはない。

しかし、英霊の中では最低の戦闘能力を誇るドンキホーテにカルキを倒せる力などない。
ましてや、ドンキホーテの『錆び付いた英雄譚』は過去の英霊にのみ通用するものであり、
未来の英霊に属するカルキには全く効力を発揮しない。
筋力Aを誇るカルキの通常攻撃を受ければ、耐久Eのドンキホーテなどいとも容易く倒されてしまうだろう。

だがしかし。『正確だからこそ』『過ちを侵さない機械』だからこそ
冒してしまう過ちというものもあるのだ。

《エマージェンシー。緊急事態発生。
対象の戦闘能力鑑定結果、ステータスオールA+。宝具EXと判断。
対象を危険度A++と判定。
こちらの宝具、クリタ・ユガに対するダメージ軽微。
危険、危険、危険。System K.A.L.K.Iによる戦略判断。
K.A.L.K.I1、一時撤退の推奨。 K.A.L.K.I2、一時撤退の推奨。 K.A.L.K.I3、一時撤退の推奨。
―――全System K.A.L.K.Iの多数決により一時撤退の許可を承認する。》

その言葉と共に、白馬形態となったカルキは凄まじい勢いで走り去っていった。
ドンキホーテの《我、騎士道を邁進す(ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ)》は、
完璧にカルキを騙していた。
これが人間ならば、疑問を抱く事もあるかもしれないが、
そんなブレなど全くない、正確極まる機械だからこそ、
己と相手のステータスと戦力を正確に比較して、撤退許可を出してしまったのである。



だが、そんな綱渡りが長く続くはずもない。
ついに、ドンキホーテは、ギルガメッシュの宝具である真実を映し出す神鏡の原型によって、
己自身の真実を暴き出され、その力を失ってしまう。
何とかギルガメッシュから逃げ出せた彼らだったが
重傷を負い、自らの真実を知ってしまったドンキホーテは、もはやただの老人だ。

「……はて?どこかでお会いしましたかな。」

「ド、ドンキホーテ……。
私が分からないのですか?」

重傷を負い、我騎士道を邁進すの力も失った彼は、ただの老人にすぎない。
そんな彼にとって、今までの出来事はまさしく夢でしかない。
この無力に横たわる老人こそが、ドンキホーテの真実の姿、アロンゾ・キハーナなのだ。

「はは……。またまたご冗談を……。
儂はただの老いぼれ……アロンゾ・キハーナ……。
貴方のような美しい女性と縁など……。」

「違います!貴方はただの老人ではありません!
貴方は騎士!誇り高きライオンの騎士!ラ・マンチャの男!ドンキホーテ!
思い出して下さい!騎士様!私の騎士様!
そして、私の名前を呼んでください!
マザーハーロットではなく、ドゥルシネーア姫と!!」

「もったいない……。姫が儂に……いや、吾輩に口づけしてくださるなど……。」

「そうです。ドン・キホーテ様。
貴方が私を救ってくれたのです。
自分を取り戻してください。貴方はキハーナ老人ではなく、
私の騎士たるドンキホーテなのですから!!」

その言葉に、ギンとアロンゾ老人の眼に光が戻る。
そして、傍らに立っている士郎に叫ぶ。

「サンチョよ!鎧を……槍を持て!!
儂は……いや、吾輩は騎士の中の騎士!
そう!我こそがドン・キホーテ!ラ・マンチャの男!
その吾輩が……膝をついたまま倒れているわけにはいかぬのだ!!」

―――さあ!歌おう!
威風堂々たる英雄譚を!光輝く騎士道を!!
吾輩の物語は―――まだこれからなのだから!!

その言葉を最後に、彼の姿は塵に帰っていった。
その塵に帰ったドンキホーテを見て、ハーロットは哄笑を上げる。

「は……はははは!
見なさい!このぶさまさを!最後まで私を姫と妄想して消えていった愚か者の末路を!
とうとう私は最後まで騙しきってあげたわ!
何という愚かさ!何という無様!これが騎士道かぶれの成れの果てよ!」

そんな哄笑を上げるハーロットに対して、士郎は言葉を放つ。

「ならさ、ハーロット。何故―――アンタは泣いているんだ?」

そう、彼女は哄笑を上げながらも、瞳からは一筋の涙を流していたのだ。
その士郎の言葉と共に、彼女の哄笑は止み、
彼女はただ静かにはらはらと涙を流し続ける。

「だって……だって私を姫として扱ってくれるなんて……。
悪である私を救ってくれるなんて……。
そんなの……そんなの始めてだったから……。
こんな感情、教えてくれたの始めてだったから……。」

誰が信じるだろう?
神から邪悪の化身とされた黙示録の化身を救ったのが。
神でも救世主でもなく。
たった一人の妄想に囚われた騎士だなんて。

「―――ありがとう。
ドン・キホーテ。ラ・マンチャの男。ライオンの騎士。
騎士の中の騎士よ。私を―――救ってくれて。」