―――その夜は、三枝由紀香にとっては最悪の夜となった。
連続する女性行方不明事件。
まさかそれの己が巻き込まれるとは思わなかったのだ。

「あ……う……。」

彼女は、今巨大な鳥籠に囚われている。
その鳥籠の内部には無数の刺がついていて、中にいる女性を傷つけ、
効率良く血を絞り出そうという機能がついているのだ。
彼女は下手に動かないようにしているが、それでも両手両足はすでに
無数の刺によって軽く傷ついてしまっていた。

そして、それを成しているのは、今回のキャスターであるエリザベートだった。

「さあ、素敵な声で鳴くといいわ。私の小鳥。
妾はね、貴女のような女性は大好きなの。
愚かで、無様で、無力で、非力で、何も出来なくて、絶望に泣きわめくしかできない美しい小鳥。
苦痛に泣きなさい、絶望に歌いなさい。そして、その血を妾に捧げなさい。」

彼女は邪悪に歪んだ美しい笑みを浮かべると、
『羽無き少女の鳥篭(ピジョン・ブラッド)』を小型化させて、
己の居城へと帰ろうとする。

「―――そこまでだ。」

その瞬間、ザッ、と漆黒の風がキャスターと鳥籠の間に吹き荒れる。
キンキンキンと金属と金属がぶつかり合う音がしたと思った瞬間、
キャスターの『羽無き少女の鳥篭(ピジョン・ブラッド)』 は見事に三つに分断される。
そして、分断された『羽無き少女の鳥篭(ピジョン・ブラッド)』 はさらさらと塵へと帰っていく。
そこから、籠の内部の無数の刺によって軽く両手両足を切り裂かれた彼女は地面にどう、と倒れ伏す。

「……ッ!?何者!」

そして、そこに存在していたのは―――。

「黒……騎士……?」

そこに存在していたのは、漆黒のフルプレートアーマーを纏い、十字剣を構えたまさしく中世の騎士そのものだった。
だが、その鎧が異常なのは何の紋章もついていないということだ。
通常、騎士の鎧には己の家紋などを示す紋章がついているのが普通である。
だが、この鎧は違う。
この鎧は、己の正体を覆い隠すために作られた特別な礼装であるのだ。

「例え異教徒と言えど……無力な女性を追い詰めるその行為、
俺の中の騎士道が許さぬ!!」

ジャキッ、とその黒騎士は、光り輝く十字剣の切っ先をキャスターへと向ける。
この十字剣によって『羽無き少女の鳥篭(ピジョン・ブラッド)』 を切り裂いたのだろう。
サーヴァントの宝具を切り裂くなど、同じサーヴァントの宝具以外にありえない。
せっかく捕えた美しい女性を開放され、しかも己の宝具を破壊されたバートリは激高して黒騎士に叫ぶ。

「貴様……。大貴族たる妾に刃を向けるなど!無礼な!名を名乗るがいい!!」

「貴様が貴族だと……?笑わせるな!
貴族の勤めたるノブレス・オブリージュも果たさず、騎士道も持たぬ欲望のまま動く者を、俺は貴族とは認めぬ。
この俺が直々に誅伐してくれる!!」

「俺を何者と問うか……。
よかろう。騎士たる者、名を問われて答えざるは騎士道にもとる行為ぞ。」

その瞬間、ガシャガシャガシャ!と音を立てながら黒騎士の漆黒の
フルプレートアーマーが変形を開始する。
正体隠匿の効果を無くす事により、彼の鎧が本来の形状へと変化したのだ。
そして、漆黒だった鎧の表面も変化し、勇壮でありながら優美である彼本来の
フルプレートアーマーが姿を表す。

「俺の名前は……リチャード!
獅子心王、イングランド王リチャード一世だ!!」

「ま……まさか獅子心王本人とは……!!」

その異名にさすがにバードリーも青ざめる。
聖地奪還のために戦い抜き、敵将ですら『間違いなく最も強力かつ偉大なサラセンの指導者』と褒め称え、
イングランド騎士道の華と称えられた彼の獅子心王の異名は、400年ほど後の時代のバードリーに対してすら畏怖の念を抱かせるのに十分だった。

「た……例え獅子心王といえど、妾の宝具ならば……!!
『血に濡れし白亜の虚城(チャフティツェ・フラド)』 !!」

彼女の叫びにより、彼女の居城の一部分が具現化し、無数の拷問器具がセイバーに迫り来る。
いかに彼女と言えど、己の居城を作り出すのは膨大な魔力と時間がかかる。
それゆえ、一部分だけ具現化させるので十分と踏んだのだろう。

全てを噛み砕かんとばかりにセイバーに襲いかかる無数の拷問器具。

だが、彼は一切慌てる事なく、チャキッと己の十字剣を構え直す。
―――彼が持つ剣は、騎士たちの聖なる祈りがカタチとなって作り出された人造聖剣である。
人々が己自身の願望を、希望を形にして作り上げたその剣は。
星から与えられた力ではなく、まさに人類が己自身で作り上げた人類自身の刃である。

そして人々が己自身で作り上げたその聖剣は、星から与えられた神造兵装である
エクスカリバーとは似て非なる力を所有している。

「《獅子吼する勝利の剣(エクスカリバー・ライオンハート)》!!」

その瞬間、周囲を凄まじい光が覆い尽くした。
彼の剣は、所有者の魔力を光に変換し、攻撃力を増加させる。
凄まじい光を纏いながら振るわれたその一撃は、
キャスターの無数の拷問器具を一瞬にして打ち砕いたのだ。
そして、その光が晴れた時、キャスターの姿もすでに存在していなかった。

「……チ。逃げられた、か。
外道め。今度会ったときこそ直々に誅伐してくれるわ。」


……何かこのリチャード一世、「騎士大原則その一つ!」とかいいそうで怖いんですが。(おい)