ハチポチパロディシリーズ
           嘘言/負原初のヒト



 一つの戦いが終わり――
 ――もう一つの戦いが始まる……わけがない。


 神殿がある。
 常人に秘匿され、唯一神と零落神の神秘を孕んだ大神殿だ。
 その神殿は宙に浮かび、零落神の咒力を建材に走らせ要塞として機能している。
 その神殿内の廊下。
 王の間――中枢中の中枢、聖厳の聖櫃(アーク)が鎮座する間へ続く通りに影がある。
 人影だ。それも複数。
 複数の人間が神殿内を歩いている。

「――シロウ。無理をなさらないで下さい。唯人の身でこの神殿の聖気は体に毒です」
「大丈夫だセイバー。――ははっ、それに神聖すぎて体調が悪くなるなんておかしな話だな」
「どのようなものにも限度というものがあるのです。魔でも神でも過剰に触れない方が御身には幸いです」
 気遣う剣士。
 嗤ってそれに答える少年。
 セイバーのクラスとして召喚されたアーサー王(アルトリア)。
 セイバーのマスターとして参加する衛宮士郎の一組の主従だ。

「ふん。じっと待つこともできん猪など放っておけばよいものをセイバー」
 鼻で笑う赤の弓兵。
 褐色の肌身に白灰の髪、鍛え抜かれた大柄な肉体を包む聖骸布の外套のサーヴァントだ。
 揶揄に秀麗な眉を顰めるセイバー。
 侮辱に口を開く前に、弓兵の主が口を開いた。
「――二人とも黙りなさい。衛宮くんもキャスターに対しては後ろに下がってて貰うわよ」
 勝ち気な、そして凜とした声音。
 見目麗しい容貌の美少女だ。二つに括られた黒の清流のような髪が美貌に映えている。
 謎の弓兵のマスター、赤い魔術師遠坂凛だ。
「――む、それは」
「あなたは十分に働いた。今度は私とアーチャーの番よ。――借りを返さなくっちゃね」
 最後の台詞には少しばかり茶目っ気が含まれていただろうか。
 爽やかなウインクに少年の動悸が速まる。
 アーチャーの童貞を見るような視線で頭が煮える。
 セイバーの戒めるような視線で胸と頭が急速に冷える。

 衛宮士郎、魔術師見習い。
 開花させた異端の才気によって、至上の四柱の一柱の識能と悟性を憑依させた魔神人形を撃破した功労者だが、ヒエラルキーは限りなく低かった。
 弓兵とどっこいであった。



「――焦臭い。何故何も起こらん」
 黒が口を開く。
 ――侍だ。
 襤褸と見まがうほど着込まれた黒の着物に袴、雑多に纏めて最低限髷の体裁を整えた髪の剣士だ。
 いやクラスは暗殺者(アサシン)だ。
 セイバー以上の剣の技量を持つ二天一流の剣士。
 宮本武蔵であった。

 彼の言葉通りである。
 通路の長さは約二キロメートル、幅は約十メートル。
 曲がり道もなく、延々と続く神聖で静謐な通路。
 ――何も起こらない。
 歩いていた五人に対して何も起こらなかった。
 もう扉は散歩の距離にあるのにも関わらず。

 何かあるのか――
 何かが起こるのか――

 神授の叡智をその脳髄に湛えるキャスター(ソロモン王)の奸計は、誰にも予測できない。
 だからセイバーは直感を研ぎ澄まし、
 だからアーチャーは鷹の目で見張り、
 だからアサシンは無想の境地に心を置いた。

 ――そして、扉は開かれる。




 死体だった。
 否、人形の残骸だ。
 二万七千立方メートルの容積を持つ箱形の部屋に零落神を模った/識能と知性を憑依させた人形が貼り付いている。
 残骸、破壊痕、芥――
 壁に、床に、天井に――串刺しにされ、事切れ(きのうていし)している――!
 小さな人形も大きな人形も等しく磔にされている。
 虫を止めるピンの役割を果たしているのは、鍬に、鋤に、鎌に、鉈――何の変哲もない農耕器具(・・・・)だ。


「――――――な、何が起こったというのですか………………」
「何これ、相打ち? 錯乱? 反乱?」
「うぐぉ」
「むぅ」
「ウワァ……ァ、ァア」
 五者五様の感想。

 驚愕。
 混乱。
 吐き気。
 明鏡止水(やや乱れ気味)。
 恐怖。

 彼らは見た。
 零落神達の無惨な姿を。
 彼らは感じた。
 零落神達の消失した命を。
 彼らは観てしまった――
 人間ではなく、人間的な感情とは無縁の筈の零落神達の――――怖ましく! 怖ましく!!怖ましい!!! 何かを見てしまったかのような恐怖と嫌悪に凝った貌をッ!
 人間の造形の顔立ちではないが、見てしまったものがどれほどの負の感情を想起させるものなのか理解し(わかっ)てしまう。
 動悸が乱れ、身が震える五人に声がかけられた。

 果たして何処にいたのだろうか?
 聖櫃の陰か?
 巨大な人形の後ろか?
 隅か?
 ――否、始めから正面にいた。
 五人は本能的に見たくないと感じ、見なかったことにしたのだ。
「『いいや、相打ちじゃあないよ遠坂凛ちゃん。』『いくら魔神といえども主に逆らって自殺するのは御法度だ』」
 心にでもないことを、心にも響かない声をその男は独り言のように呟いた。
「誰だッ!」
 アーチャーは凛の前に出て、愛用の二刀を剣製する。

「『だからこれは第三者の仕業に違いない。』『一体全体どこの誰がこんな怖ろしいことをしたのか』『神様に問われたってさっぱり答えようがないよ』」
 誰何の声を無視して、彼は進み出でる。

「『まったくなんて酷いことをするんだ。』『地に血潮を振りまき』『命を理不尽に終わらせるなんて最低最悪だね。』『ちなみにぼくは何も知らないよ。』『義憤で胸がいっぱいさ。』」

 男は三間(約五.四メートル)で止まった。
 五人の嫌悪感は最高潮に達する。

「『―――だからぼくは悪くない』」

 木乃伊化したソロモン王の首を右手に、血濡れの鍬を左手に。
 平均的すぎて無個性な顔に、負の感情を催しすぎていっそなにも感じられない笑顔を浮かべた。

「『はじめまして子供の息子の娘の孫の曾孫の玄孫の耳孫のさらに裔。』『カインだよ。』」

 一目見たときから強制認識させられた名と罪を彼は言った。



 聖櫃の間に、筆舌にし難い空気が流れる。
「『ぼくは悪くない。』『だってぼくが悪くないんだから――』」

 カインは無個性だった。平均だった。
 人類全ての顔の特徴を良いも悪いも無しにごた混ぜにしたような、全ての平均を取ったかのような際だって埋没してしまいそうな顔立ち。
 とてもとても大切にしているアベルの育てた羊から仕立てた毛皮のズボンに羊毛の上着は、中肉中背の何の特徴を抜き出すのに苦労するような平均的な体を包んでいる。
 髪は全ての色を混ぜた黒で、瞳もその色だ。肌身も白・黄・黒が混ざっている。
 無個性。
 平均。
 しかし、纏う空気は負臭(・・)を放っていた。

 負(マイナス)。
 英霊には霊格というものがある。
 文字通り英雄としての格だ。高いほど大英雄として評価される。
 アーサー王やシャルルマーニュ、光武帝――名だたる大英雄は至上の霊格を備えている。
 しかしカインの霊格は対極。
 正ではなく、負の方面へ行き着き、落ち込み過ぎている。
 性質によっては英霊ではなく、怨霊と呼ばれる存在もある。ジル・ド・レェやエリザベート・バートリィはそのように評価されるが、彼の場合はさらに下だ。
 高みを目指す道は困難な道であるが、低さに行き着くにも困難である。
 地獄の底よりも低い値。
 人類最罪の、原初の交配によって生まれたヒト。
 原初の咎人カイン。

 カインは、右手の木乃伊を投げ捨て、付いた血肉を拭き取る。その身嗜みを整える動作すら嫌悪感を催す。

「…………レディーの前に立つ前に身嗜みを整えるものじゃないのかしらカインさん」
 精一杯の虚勢。虚仮の一念だ。
「『いやいやそう気取る仲でもないでしょう。』『君とぼくの仲なんだしさ』」
「どういう意味よッ…………ッ!?」
「――――なッ!?」
 いつの間にか接近したカイン。鼻が触れ合わんばかりの距離に男の顔がある。
 その事実に図らずも赤面する彼氏無い歴=年齢の少女。
「『いいんだよ。』『おとうさんの事で衛宮士郎くんに葛藤があっても。』『彼は気の良い少年さ。』『大好きなおとうさんのうっかりで大切な大切な妹が歪んで、純血を散らしたとしても』
『おとうさんの異常な魔術師の性を見極められず』『大火災の一員を担っていたとしても』『きっと神様のように許して下さるさ。』」
「………………………………!!!」
 凛の顔面が彫像のように凝る。
「――――――アァーーーー!!!!」
 激怒の咆哮。弓兵の怒りの斬撃が目と鼻の先のカインに落ちる。



「『やっだー衛宮士郎ちゃん震えて』『小さな女の子の背に隠れて情けなくて弱ちぃ~。』『でも良いんだよ。』『それが君の取り柄なのだから。』『いつまでもトラウマを抱えて』
『歪な純粋さで自己犠牲精神に発起して』『弱い者の味方を』『正義の味方を目指そう☆』『ぼくは応援しているよ?』」
 怒りの声も致死の斬撃もあっさりと無視して回避して、いつのまにかセイバーの背の後ろで震えている士郎に接近する。
「止まれ下郎」
 凜とした喝。
 清浄なる剣士、セイバーの不可視の剣が無個性な顔の先に突き刺さる。
「これ以上その口を開くことは揺るさん。その口今すぐ切り取って火にくべてやろう」
 動揺を押し殺した怒りの声。
 マスターにこれ以上あの声を聴かせる訳にはいかない。
特に父親の、歪みの原因に対する行いを――無個性すぎる声音故にどのような精神防御も貫く言霊を吐かせるわけにはいかない。

「『はいおめでとさんセイバーちゃん』『これが聖杯だよ』」
 粗末な器具のように投げ渡されるそれ(・・)。
聖槍を作った鍛冶師の祖である技量を惜しみなく注ぎ、聖櫃を素材に、零落神の魔力によって見たし、原初の人間の血を注いだその杯は、セイバーの願いだけを叶えるに足る機能だけを有していた。

受け取る。世界は契約を完遂したと判断した。
アルトリア・ペンドラゴンは聖杯を手に入れた。

「『やったね!』『イェイ☆』『これで自分一人だけが満足してやり直しができるね。』
『どこかの誰かが選定の剣を引くのを尻目にキミは綺麗なままで』『おにいさんやおねえさんやらおとうさんやら息子を捨て去って』『戦争に巻き込まれて死ぬと良いよ』」
 心の底から嬉しそうに見えるよう表情筋を動かして笑顔を作り、絶賛するカイン。
「…………」
 絶句し、手に握った杯を、心の底からほしかったそれを捨てることもできず――震える。震え続ける。
 カインは嗤う。
 アーチャーは凍り付く。
 凛と士郎は胸を掻き毟る。
「――待て、かいんとやら。いざこざを知っているようだがオレには関係ない。
だが、オレの戦いをどうしてくれる。未知なる奇怪なる化け物どもとの死闘の機会の喪失の償いをどうしてくれる」
「『えっ?』『だからぼくが悪くないって』」
「ふざけるな!!」
 辛うじて声を出せたのは宮本武蔵であった。カインなんてまったく知らない日本人である彼は、透徹した武の心を持つ彼であるから辛うじて声が出せた。
「『だーかーらーぼくは悪くないって。まあ気持ちは分からなくもないものだし――』」
 左手の鍬を捨て、どこからとも無く鎌を取り出す。
 それを高く掲げ、
「『これで満足して』」
 首を――
 落とした。


「――――――ッ!!??」
「『じゃあぼくは疲れたから帰るよ』『もうすぐこの神殿は落ちるようだけど忘れ物がないように帰ってね』」

 間欠泉のように体の断面から噴き出す血液。
 切り離されても喋り続ける生首。
 バスケットボールのように頭を指先で回しながら、去っていく。

 開け放たれた扉に足を進み、陽気な――気さくな感じに手を振る。

「『――じゃ、また明日とか』」

 鮮血に濡れた背は通路の向こうへ消えていく。
 五人はそれをただ見つめていた。


 The.end.



 後書き。
 名前:カイン
 クラス:ライナー
 属性:該当無し
 スキル:支離滅裂すぎて読解できない。(ナーサリィ・ライムより酷い)
 宝具:七倍返しの恩寵・???
備考:サタンはカインを嫌悪した。アベルのことは一切の後悔もないし、行った行為全て愛のある行為。神を信仰しているし、されたことに対して何一つ恨みはない。

 衝動的に書きたくなって書きました。
 ハチポチなパロディ。
 カインを球磨川にしてみたけど、常に嘘をつくっていう部分は似てそうですね。あと、人類全ての平均をとったような無個性な顔立ちっていうのも。
 色々知っているのは人類で最も罪深いがゆえに、人の罪悪だと感じている部分や罪の意識が見えるからです。あと、追放されてからも長くながーーーーく生きていた為、とても頭が良いのです。



 作者です。
 安心院さんポジは決めてませんね~。というより、構想と執筆に四時間しかかけていませんから、続きも何もありません。
 まあ、アンチキリストもマザー・ハーロットは、めだかの蝶ヶ崎と志布志ポジションだと考えています。
 両者とも黙示録の最低英霊でありながらも、カインの負(マイナス)っぷりに劣等感(じしん)を打ち砕かれ、
自分こそが最低最悪――災厄だと思っていたことが恥ずかしいと思っています。
 能力の規模こそカインはアンキリにもハーロットにも適いませんが、兎にも角にも性格(キャラ)が適いません。
 イエス・キリストの偽物として十二分の実力を持つアンチ・キリストも
 悪魔の住むところを住居とし、殉教者の血を啜るハーロットもあの性格には適わないと思っています。
 三者三様それぞれの個性を持っていますが、共通するところは手を出しても出さなくても数カ国、或いは大陸一つの人々が壊れると言うこと。
 勝負に勝てなくても良く、負けることも良い。兎に角負けて負けて負け続けて、負け難きも負けて周囲に甚大な被害をもたらしてしまうこと。
 そして、人間が大好きだと言うことです。

 追記:ソロモン王の首がミイラ化していたのは、カインの末裔が答え。アーチャーとは会話しています衛宮士郎くん(・・・・・・)と会話していますよ。
 カインに改心イベントは存在しません。