わからないことばかりだけど、一つだけ言えることがある。家を壊されてもいいなんて言えない。それはもう絶対に。

「なに言ってるの! 家を壊すなんて駄目よ!」
「えっ」
「とぼけてもダメ!」
「いいじゃないか。どうせただの建物だろう」
「ただの建物なんかじゃありません! 大切なものが一杯詰まってるんだから!」
「ちっ」
「ダメよ! ダメ、ゼッタイ!」

 わたしがはっきりキッパリ禁止すると、アーチャーはタコみたいな顔で腕輪をクルクルさせる。うーん、なんて美少女。こういう表情まで絵になるのは反則だと思う。

「じゃあ、仕方がない。ここから出て、敵を突破しよう」
「突破……って! 相手は爆弾を持ってるのよ!?」
「炸裂攻撃持ってる相手にこんな場所で篭れっていうのか? 耐えられるとは思えないな」

 確かにそうだ。わたしの家は普通の家庭、防犯設備は微々たるものだし、ロボットを駆使するテロリストを撃退なんてできないだろう。ああ、警備会社と契約しておくべきだったのかしら。

「そういうことだ。家を壊すなって言うなら、外で戦うしかない」
「そうかもしれない……けど」

 アーチャーに、わたしより一回りも二回りも小さいような子供に、爆弾を使う大人の相手なんてさせられるだろうか。
 ……できない。わたしが大人だとは思わないけど、この子よりは大人に近いと思う。なら、危険なところへ歩み出るのはわたしの役割だ。このままへたりこんでる場合じゃない。

「……わかったわ。合図したら窓から飛び出すから、ついてきて」
「合図? そんなもの要らない」
「へ?」

 わたしの返事を待つこともなく、アーチャーが窓の外へ飛び出す。バレリーナが跳ねる軽さで、服の裾がきれいな線を描く。
 月光と部屋の明かりに照らされた影は映画のワンシーンのよう。拍手喝采をプレゼントしたくなる見事さで、アーチャーは小高い壁の向こうに消える。
 って、待った。まずい、すぐに立ち上がって止めないと――!

「ま、待って!」

 慌ててたものだから窓の縁にスカートが引っかかる。わたしはずてんと窓の外に落っこちた。濁音がたくさん付きそうな音でロングスカートがミニスカートにアレンジされる。……いろいろ痛いけれど、今はそれどころじゃない。

「アーチャー! 戻って来なさ―――い?」

 顔を上げたわたしを待っていたのは、予想外の光景だった。
 まずは歯車の音の主、いや主たち。てっきりネコ型ばかりで、家の前に魚市が展開されてるのかと思ったけれど、家の外に居たのは人間の形のものばかりだった。
 ネコと変わらないのは精巧さ。一目だけだと、本物の人間と区別がつかない。ただ、どうしてだろう。みんながみんなお手伝いさんの格好をしている。テロリストのユニフォームなのかもしれない。
 歯車の音が何十奏にもなってるように、数は多い。きっと三十から五十ぐらいは居る。全部同じ格好だから、街角で見かけたらデモ行進か何かだと思ってただろう。
 でも、今は絶対にそう思えない。どうしてかというと、なぎ倒された端から機械の部品が転がってくるからだ。
 そして、信じられないことに、そんな破壊行為をやっているのはアーチャーだった。

「うそ……」

 独楽のように回り、小鹿のように跳ねる。腕の一振り、腕輪のきらめく度に工具箱を落としたような音がして、パーツが鈍い光を反射する。それは夜月に浮かぶ波しぶきに似ていた。

「よし、開いたぞ! ついてこい!」

 アーチャーが鈴の声で笑い舞う。機械人形の壁に挟まれた、破片と残骸の道。わたしは小さな背中を見失わないように必死で走る。
 息が切れる。はたと冷静になると、わたしの前には人形の姿はなかった。

「木偶ばかりだ、つまらないな」

 わたしの後ろから、からんころんと部品が転がる。もう立って動くロボットは十も居ない。

「すごい……すごいわ、アーチャー」
「そりゃどうも」
「もしかしてあなた、スパイか何かなの? アーチャーってコードネーム?」
「……もういい、黙ってろ」

 振り返ってもくれない。やっぱり工作員は自分の身元を明かすことはできないみたい。こんなテロリストと戦ってれば、当然なのかもしれないけれど。
 ロボットたちはもう向ってこない。ふわふわフリルのついた服の人形が一体だけ前に出てくる。なんだかやけにスカートが短い。お腹が冷えないか心配になる。

『素晴らしいですな、アーチャー。やはり三騎士は違う』
「わかったなら首を洗って待っていろ、キャスター。すぐに引っこ抜いて振り回してやる」
『いやいや。自慢ではないが、私は面と向った戦いは苦手。そうならないように準備しているのですよ』
「へえ、どんな準備?」
『こんな準備ですな』

 左右の道から連隊を組んだ足音がした。体育祭の入場が始まり、二手に分かれたロボットたちが整列する。
 何だろう。きっとどこかの運命を賭けたテロリストとスパイの決戦なんだろうけど、なんだか緊張感がない。改めて見ると、家政婦軍団と仮装した女の子にしか見えない。

『まだまだこんなものではないですぞ、アーチャー。キャスターが最弱のクラスだということは認めます。が、ハンディキャップは知識と手先の器用さと暇な時間で埋められるのですよ』
「ふん。数だけぞろぞろ居ても、どうってことはないな」
『その言葉、ぜひとも行動で証明していただきたいものですな』
「ぬかせ!」

 アーチャーがロボットたちの中に突っ込んでいく。後を追おうというわたしの気持ちはアーチャーの暴れっぷりでしぼんだ。まるで猪だ。進む先から相手を跳ね飛ばしている。
 ぼうっと見ていたわたしの腕が、後ろから掴まれる。左右に一人ずつ、背後にロボットたちが無表情で立っていた。

「え、え?」

 あれよあれよとわたしは彼女たちに持ち上げられて、すたこらさっさと運ばれる。ふりほどこうにも腕はがっちりと固定されていた。

「きゃあっ! わ、わ、放して!」
『やりましたな、マスター。頭脳の勝利です』
『……あんなの頭脳プレーって言うのか? 相手がバカだっただけだろ。どんだけ視野狭いんだよ』
『どちらにしろ目的は達成できました。しかも殺さずどころか無傷で捕獲です!』
『まあ、結果だけ見ればそうだけどさ……』

 左右のロボットたちがアニメの悪役みたいに喋っている。やっぱりドッキリテレビなのかしら。でも、とりあえず放してもらわないと。

 わたしは――

1:アーチャーに助けを求める
2:そこのお兄さんに助けを求める
3:ロボットの操縦者と話をする