――――Interlude/1 The Holy Grail War is beginning now.


 遥かな空、広がる海。河は豊かに海へと注ぎ、半ばに架かる橋が木漏れ日射す街並みと立ち並ぶ人工物を峻別する。流れの奏では渓谷に響き、森に沈む。
 水佐波、そこは箱庭に似た街。
 草原と丘が遠き異国を重ね、迷宮の如き地下壕は未明の恐怖を誘う。海には点々と島々浮かび、糸を渡るように船が行き交っている。
 人の手及ばぬ自然の叡智の中、古き営みを残す町が裾野と広がり、世界と同居する彼らの傍ら、自然を征服せんとする者の街が橋の先にわだかまる。海を埋め、張り巡らされた鉄の交差の上に居座る無作法な楼閣ども。
 そこは奇怪な街。膨れ上がった欲望が人々の足元で拍動す。
 されど誰も奇怪さに気付き得ず。其に隠されしは夢と願い、そして強欲の果て。
 平穏な暮らし、急速な発展と歪み、生を謳歌しあるいは嘆く人々の裏側で、半世紀の策謀が形を成した。

 聖杯戦争。
 冬木の異才どもを掠め取った贋作が、ここ水佐波の地で始まろうとしている。


 穏やかな陽気が広場の人々の肌を優しく抱いていた。急いた足運びで進む者もいれば、花々の側で談笑する者たちも居る。
 老若男女、彼らそれぞれに人生があり、その彩りは等しく価値があり興味深い。全てを語り尽くしたいものだが、今は傍らに置いておこう。
 この広場で異彩を放つのは二人の若き女だ。
 一人は若草、開いたばかりの花は優しい色で繊細な肌を覆う。春が恋を告げ、絡ませた腕の先には想い人が恥ずかしげに微笑んでいる。
 一人は薔薇、艶やかな香りと目を奪う華やかさが棘をも隠す。褐色の頬と額は彼女の品性を照らし、潤う瞳は知性を露にする。佇む姿に異邦人の憂いや高揚はなく、自然に街に溶け込んでいた。
 彼女たちはいずれ近似し、あるいは交わることもあろう定めを持っている。一方は忍び寄る運命を知らず、他方は自ら扉に手を掛けた。

 では語ろう、その物語を。
 だが語り部を追う前に選んで欲しい。
 若草を望むなら青い本を、薔薇を望むなら黒い本を。
 頁を繰る指は数あるが、見つめる知性は一つだけである。


――――Interlude out


1:青い本
2:黒い本