むかしむかしの話をしよう。

 あるところに、人ではなくなった女の子がいました。

 女の子は、悪い人をやっつけるため、人をやめたのです。
 えらい人たちは自分のことばかり考えて、みんなのことを考えません。
 みんなが苦しむのが女の子はいやだったので、女の子はえらい人と戦っていました。

 あちらに悪い人がいると聞けば、どんな場所へも行きました。
 悪い人を倒すためなら、どんなことでもやりました。
 お父さんが死んだ日も、女の子は戦っていました。

 そんなある日、女の子はふしぎな人に出会いました。
 はじめ、女の子は、その人が悪い人だと聞いて、やっつけに行きました。
 この国のえらい人は、だれもかれも悪い人だとばかり思っていたからです。
 ところが、そのえらい人は――良い人だったのです。
 自分をやっつけにきた女の子をもてなし、さまざまな話をしてくれました。

 女の子は考えます。
 この人とだったら、この国から悪い人を追いだせるかもしれない。
 この人だったら、悪い人をやっつければ笑ってくれるかもしれない。
 女の子は、そのえらい人に仕えることに決めました。
 えらい人も、喜んで女の子のご主人になりました。

 毎日のように、女の子は悪い人と戦います。
 悪人が主人を狙うので、ご主人を守って戦うこともありました。
 国からどんどん悪い人はいなくなっていきます。
 女の子はどんどん悪い人をやっつけていきます。

 でも、ご主人は喜んでくれません。

 女の子を見るたびに、ご主人は悲しそうな顔をするのです。
 女の子には、それがなぜだかわかりません。

 きっとまだまだ悪い人が多いからだと、女の子は考えます。
 あちらに悪い人がいると聞けば、どんな場所へも行きました。
 悪い人を倒すためなら、どんなことでもやりました。
 今までと同じことを、女の子はずっとずっと続けます。
 でも、たった一つだけ、今までと違うことがありました。

 ご主人が病気にかかった時、女の子は戦っていなかったのです。
 女の子はご主人の傍にいました。
 ずっとずっと傍にいました。
 それを見て、ご主人は悲しそうに笑います。

 女の子には、それがなぜだかわかりません。
 きっと自分が悪い人と戦っていないからだと思いました。

 結局、ご主人は悲しそうな顔のまま、死んでしまいました。

 ――女の子には、それがなぜだか、ついにわからなかったのです。





「う、あぁー……。もう、朝、かぁ……」

 障子の隙間から差し込む朝日に眼を細めながら、ゆっくりと夏海は布団から身を起こす。
 ごしごしと眼を擦るが、まるで眠った気がしない。
 昨日は帰ってきてすぐにバッタリと倒れこんでしまったというのに、だ。
 無理も無い、と自分でも思う。
 ――人が、死んだのだ。
 大勢死んだ。
 夏海も、殺す手伝いをした。
 あの名前も知らない僧侶。鉄鼠を率いて、聖杯戦争に参加した男。
 戦ったのは彼女の兄であり、命を奪ったのは彼女のサーヴァントだ。
 しかし――それに協力した以上、夏海が彼を殺した事になる。
 責任逃れをする気はない、が。どうにも心が重たかった。

 あの僧侶が人を殺すように命じ、水上都市に地獄を作り出した張本人なのは間違いない。、
 だが、だからと言って、殺しても良いという事にはならない。
 死んで良い人間なんて一人もいない。

「――でも、あの人。後悔してるようには……見えなかったんだよねぇ……」

 救いと言えば、唯一その点だけか。
 あの僧侶の死に顔は、酷く安らかだった。
 彼を『視る』事はないだろうと思う。
 ……なら、良いのだろうか?
 大勢の人が死んで、その多くを夏海は『視る』事になるのだろうけれど。
 それでも、彼が満足して逝けたなら――良いのだろうか?

「うー……」

 考えても、よくわからない。
 よくわからない以上、考えたって仕方あるまい。

「……うん、よしっ」

 ぴしゃりと頬を叩いて気分一新。
 がばぁっとTシャツを脱ぎ捨てて、着替えを手に取った。
 着替えて、顔を洗って、それから朝ごはんだ。






 ――――テレビをつけると、ニュースでは『水佐波市で暴動発生』となっていた。
 リゾート開発に反対する人々が暴動を起し、集団ヒステリーも相俟って死傷者多数、だとか。
 馬鹿げているとは思ったけれど、死体と鼠の戦争が起きた、なんて言っても誰も信じないだろう。

「……これって、どういう事なのかなぁ?」
「あン?」

 今日の朝食は夏海が作ったものだ。焼いた塩鮭に、ご飯に、味噌汁に、卵焼き。
 もうちょっと手の込んだものにしようかとも思ったのだが、材料が無ければ致し方ない。
 唐突な質問に対し、鮭をほぐして骨を取り除いていた鉄人は小さく首を傾げた。

「うん、正直な事を言っても誰も信じないのは、あたしだってわかるけど。
 でもほら、誰がこういう嘘を考えてるのかなぁーって。不思議に思わない?」
「ああ、そりゃ……監督役だな。昨日あった、あの菅代の坊主だ。っと、醤油とってくれ」
「アーチャーのマスターの殿方でしょうか?」

 はい、とアサシンが醤油を手渡す。やはり文化圏が近いからか、箸での食事も慣れた様子。
 言われて、夏海も思い出した。友達を車で病院まで送ってくれた、ヤクザみたいな人物のことを。

「監督……でもマスターって事は参加者だよね? 良いの、それって?」
「ああ、監督っても、大した権限は無ェよ。いわば、後始末係みたいなもんだ。
 水佐波ってなァ、菅代の土地だからな。厄介を放置すると自分の首が絞まる」
「ふーん……」
「まあ、元々は――っても、何百年か前だが――神社の方の連中が治めてたんだがな。
 権力争いで菅代に負けたせいで、今じゃ神社も一箇所しか残ってねェのさ」

 郷土史で習わなかったか?と聞かれ、夏海はぶんぶんと首を左右に振った。
 水佐波は大好きだったが、歴史についてはまるで興味を持った事が無い。

「兄さん、神社って……志那都神社? あの、八尾比丘尼が建立したとかいうところ」
「なんでェ、知ってるんじゃねェか。 そうだ。あそこが昔の、水佐波の管理者だ。
 しかし八尾比丘尼云々なんて良く知ってるな。碑文も残っちゃいねェと思ったが……」
「あたしの知識じゃないよ。友達から聞きかじっただけ」

 ――その友達の事を考えると、不安になってくる。
 昨日、あれからどうなったのだろうか。病院に行って、それから――……。

「……………………………」
「……どうかしたか、夏海?」

 ――やっぱり、自分でみことに逢いに行こう。
 皆のことも気になるし。
 うだうだ悩んでいたって仕方ないのだから、行動あるのみだ。
 そう決めると、夏海はカカカカカッと茶碗に残ったご飯を掻き込み、パンと手を合わせた。

「ごちそうさまっ! あ、兄さん。あたし、ちょっと出かけるから!」
「あ? あー……アサシンは連れてけよ。昨日の今日で騒ぎを起こす奴がいるとも思えんが」
「うんっ 夕方までには戻る――と、支度するねっ。お皿は帰ったら洗うから!」

 言うなり、立ち上がった彼女は食器を重ねて流しに放り込み、ばたばたと走るようにして自室へと戻る。
 その様を見やり、仕方ないなぁとでも言いたげな笑みを鉄人は浮かべ――。
 今まで沈黙を保っていたアサシンが、じっと此方を見つめている事に気がついた。






「……あン?」
「鉄人様。昨日の戦いを見ていて思ったのですが、一つ……お伺いしたい事があるのです」
「…………………」
「貴方様は――――人間では無い、ですよね?」

 ――沈黙。
 アサシンは何も言う事は無く、鉄人もまた静かに湯飲みを握り、離す。
 ただ時計が針を刻む音だけが、静かな居間に響き――ぽつり、と鉄人が口を開く。

「……………英雄ってなァ、なんだ?」

 アサシンが答えないのを見ると、鉄人は唇の端を歪めて笑った。
 常日頃からは想像もつかないほど酷薄な笑み。
 或いは――普段の表情こそが偽りで、これが本来の顔なのか。

「近代戦争になって英雄が消えた、なんてェのは真っ赤な嘘も良いところだ。
 どんな時代、どんな場所でも、規格外の兵士ってのは出てくるもんさ。
 もっとも――大概は航空兵だったり、戦車兵だったりしたんだが……歩兵だって例外じゃねェ。
 頭を吹っ飛ばされた癖に戦い続けて、敵の基地を吹っ飛ばした奴もいたし、
 独逸の方じゃ、たった一人で戦車部隊を蹴散らした歩兵がいたって話も聞いたな」

 正しく人類の規格外。
 常人には不可能な偉業を成し遂げた者ども。戦場の鬼。
 たとえ泥と土、埃と血に塗れ、這いずり回った結果だとしても。
 不可能を可能にしたのなら――それは、確かに『英雄』だ。

「生憎と、俺の国は負け続けでなァ。
 だから、馬鹿みたいな事を考えた奴がいたのさ。
 『英雄を量産化すれば、この戦局でさえ覆せる』ってな」

 本当に馬鹿げた考えだったと、鉄人は呟いた。
 英雄とは、一つの時代、一つの国に、ただ一人しか存在しないものだろうに。
 それが大勢いたのでは――英雄とは呼べない。それは兵器の域を出ない。
 ただ単に強力な兵器という、それだけの代物だ。

「……ああ。英雄ってのが、たった一人で戦局を覆せる存在だってんなら、確かに英雄は消えた。
 どんなに頑張って戦術的勝利を積み重ねた所で、戦略的敗北は覆せん。
 第一、幾ら剣やら銃やら持ってたって、空から爆弾の山を落とされちゃぁ……」

 そう言って寂しそうに笑い、鉄人は煙管に火をつける。

「つまり、そういう役に立たなかった、英雄もどきの兵器が――俺だ。生憎ともうガタが来てるがね。
 ……だってェのに、また戦争だ。あんなのは……半世紀も前に終わったのになァ」
「……お聞きしたかったのは、その――『ガタ』の部分なのです。
 どうか、あまり御無理をなさらぬよう……。夏海様も心配しております」

 その言葉に対し、鉄人は小さく手を振った。早く行けとでも言いたげな様子である。

「夏海は気が短いからな。とっとと行かねェと、痺れ切らすぞ」
「…………」

 小さく頷き、アサシンは立ち上がり、居間を後にする。
 既に支度を終えた夏海が「早く早く」と急かす声を聞き――鉄人は、息を吐いた。

「――構わんさ。普通に生きたって、そろそろ死ぬ頃合だろうしな」








――――Interlude 6


「…………ここか、マスター」
「ヤー。キャスターが結界を展開したと思わしき拠点です、セイバー」

 水佐波総合病院を見つめる、鋭い視線が二つあった。

 一人は漆黒の軍服に腕章、銀髑髏の制帽を被った少女。
 雪のような髪と肌に、赤い瞳。随分と若い。

 もう一人は、少女の傍らに従っている、赤銅色の肌を持つ美丈夫。
 金髪碧眼というゲルマン民族の特徴がはっきりと現れているが、
 その日に焼けているのとも違う、血に濡れたような体躯だけが異様である。

 はっきりと言えば、常人ではあるまい。
 しかしながら病院の傍を行く人々は、誰も彼女達の姿に気づかない。
 認識阻害の魔術と霊体化――疑うまでもなく、聖杯戦争の参加者である。

 ヒルデガルト・フォン・ノイエスフィール。
 そしてセイバー、シグルド。
 ナチス第三帝国の残党組織、秘密結社グラズヘイムの擁する最強の主従。

 彼女達が何故ここにいるのかを説明するのには、少々時間を遡らなければならない。
 昨夜のことだ。
 水上都市で発生した大規模戦闘に先行するように、病院に結界が張られた事が確認された。
 予め水佐波市内に人員を配置していた為、結界展開と同時に監視を開始。
 その規模と強度からして、まず間違いなくキャスターによるものであると予測され、
 未だ確認のとれていなかった最後の一騎の所在が掴めたことを、単純に喜んだのだが――
 ――問題は、その監視担当者との連絡が、ほどなくして途絶した事である。

「――ツヴァイは、姉妹の中でも気が強い子です。白兵戦闘にも長けていました。
 それがあっさりと敗北したということが、私には信じられません。
 戦闘の痕跡すら残っていません。私は、彼女が囚われたのだと判断しました」

 病院――白亜の壁に覆われた、まるで城のような姿となっている――を見上げながら、ヒルダは呟いた。
 セイバーはその声に怒気が混じっているのを感じ取ったが、黙って頷きを返す。

「私は姉なのです、セイバー。
 ノイエスフィールの娘達の中で、もっとも優れていると認められた以上、
 妹達を守らねばならない義務が私には課せられています。それを実行しなければなりません」

 再び、セイバーは頷いた。是非も無し。
 彼はこの少女が気に入っていたし、信頼に応えねばならない事も良く理解していた。
 義務と権利。約束と裏切り。それはどれもセイバーの生涯に付き纏い、決して離れなかった事柄だ。
 なればこそ、この少女がそれを果たそうとするなら、助力を惜しむ筈も無し。

「これは不確定な情報に基づく任務である以上、貴重な戦力を割くわけにはいきません。
 私が行使しうる戦力は私と、貴方だけです。それで十分だと思っています。何の問題もありません」
「…………………」
「閣下は、『派手にやれ』と仰いました。私はそれを実行に移すつもりでいます。
 ついてきてくれますね、セイバー?」
「――――御意」

 その言葉に、今度はヒルダが頷きを返す。
 水佐波聖杯戦争において最強の主従が、今、最悪の居城に向けて脚を踏み出した。







「さて、それではもう一度仰ってくださいな。あの女の子は、何処の何方?」
「ひゃ、ひゃい……。
 ひるではると、ひょうい、へふ。ははしの、はね……へふ」
「ヒルデガルド……少尉、と。貴女のお姉様なのね。
 男の人の方は――クラスや真名はご存知?」
「ひゃい……。へいはー、へふ……。ひふふと、はっへ……ひっへまひは」
「セイバーの……しくくと?……ああ、シグルドかしら。
 もっとハッキリ言って欲しいですわね。もうちょっと続けましょうか?」
「ひっ!?」

 ――――そして、その光景を見つめる者が二人。
 志那都みこと、ツヴァイ――ツヴァイ・フォン・ノイエスフィールと呼ばれていた少女である。
 真っ赤に彩られた室内で、二人は水晶玉に浮かび上がる像を眺めていたのだが…………。
 部屋と同様、血のように赤いイブニングドレスを身に纏っているみことに対し、
 ツヴァイの、かつてはヒルデガルドと同様に美しく気高かったろう姿は、あまりにも無残であった。
 数々の暴虐を受けた結果、漆黒の軍服はただの襤褸切れと化しており、衣服の機能を果たしておらず、
 雪のようだった頬は無残に腫れ上がり、気力に満ちていた筈の鋭い瞳も、ぼんやりと濁ってしまっていた。

 無論、ただの暴力でノイエスフィールの姉妹達の結束を打ち砕く事などできる筈もない。
 ましてや、このように仲間の情報を口にさせる事など不可能であっただろう。
 しかし――待ち受けていたのは、ただの拷問などではなかった。
 英雄として座に収まり、サーヴァントとして召還される以上、それに見合った伝説が必要となる。
 剣によって達成された偉業。戦場で獲得した武勲。世を統一せんとした覇業。
 それは、時として神に迫ることもあるという程の、他に並ぶ物の無い、絶対不可侵の伝説だ。

 この結界を構築したキャスターもまた、ある種の伝説を備えていた。
 ――六百十二人の少女を拷問し、殺戮したという、恐るべき伝説。

 ただの人が、戦場で英霊と競うことが不可能であるのと同様に、
 英霊ではない少女が、この者の拷問に抗うことなど、不可能であったのだ。
 『やめろ』と叫んでいたのが『やめて』に変わり、やがて悲鳴になるまで、然程の時間はかからなかった。

「ふぅむ……。人外の娘、それも処女ともなると、その血もまた格別よのぅ……。まるで極上の葡萄酒のようじゃ」
「あら、キャスターさん。もう湯浴みは終わったんですの?」

 不意に聞こえてきた声にみことが視線を向けると、其処には豪奢なドレスを纏った貴婦人の姿があった。
 年齢は――何歳ともわからない。病的なまでに白く美しい肌に対し、その瞳は驚くほに老成している。
 十代の少女だといわれても納得できるような面もあれば、六十歳の老女といわれても頷ける。
 その細く長い腕を伸ばし、袖を捲くって見せながら、キャスターはくつくつと哂ってみせた。

「うむ。ほれ、わしのこの肌を見ぃ。一段と白くなったとは思わぬかえ?」
「あら、本当! わたくしも嬉しいですわ。
 キャスターさんが美しくなればなるほど、彼と逢える日が近づくのですもの!」

 ぱん、と両手を合わせて笑顔を見せるみこと。

 全ての始まりは――彼女の恋人が事故にあった夜のこと。
 昏睡状態に陥り、一生目覚めることはないかもしれないと医師に言われた。
 病室で横たわる彼の隣に座ってはいたものの、何も考えられず、
 ただ一心に、誰かに助けて欲しいと願って、祈って、そして――奇跡が起こった。
 まるで御伽噺のように、魔法使いが現れたのだ。

 彼女はキャスターと名乗り、この地でおこる聖杯戦争という儀式について語った。
 みことが望むならば、その聖杯が願いを何でも叶えてくれるだろうと。
 無論、代価は必要である。キャスターは、血を望んだのだ。
 キャスターの望みは若さと美貌であり、それは女性の血液によって叶えられる。
 そして血液を浴びれば、キャスターは力を増し、きっと聖杯を手に入れる事ができるだろうと。

 みことは一も二もなく頷いた。
 悩む余地など何もなかった。
 彼のためならば何でもできる。彼のためならば何でもしよう。

 そう告げると――キャスターは、まるで姉が妹を見るようにして微笑んだ。

「殿方に懸想をするのは女人のみに許された悦び。
 ましてや、相思相愛ともなれば、どれ程の幸福であろうかのぅ……。
 ――わしにも覚えはある。安心するが良い、必ずや、そちに聖杯を授けようぞ」




 そして、今日に至る。
 病院に展開された居城は、多くの少女達の血を啜り、徐々に強固なものへと変化している。
 聞けば外でも戦いは繰り広げられており、幾人かの参加者は既に脱落したのだとか。
 となれば、後はこの城に入り込む敵を迎え撃てば良い。血を集めて、もっと血を集めて。

 そういえば、と過去のことを思い返していたみことが呟いた。

「わたくしの友達はどうなさったのかしら、キャスターさん。昨日、訪ねて来てくださったのですけれど」
「うむ。わしのマスターの御友人であるからのぅ……。
 何か間違いがあってはならぬゆえ、ほれ……こうして、ここに」

 そう言って、キャスターが片手に提げていた鳥篭を掲げてみせた。
 全体に優美な彫刻が施され、煌めく宝石が幾つも使われたそれは、王侯貴族が持つに相応しい。
 しかしながら、内部にいるのは小鳥ではない。一糸纏わぬ姿をした少女達である。
 『羽無き少女の鳥篭(ピジョン・ブラッド)』 と呼ばれるそれこそは、病院を覆う結界と並ぶキャスターの宝具である。
 まるで白魚のように細いキャスターの指先が、愛しげに鳥篭に触れ、そっと揺さぶってみせた。

「やめて、やめてやめてやめてヤメテエェエェエエェエェェエェッ!!」
「死ぬ、死んじゃう、死んじゃうよぅ……アガアアァアアァアアァアァッ!?」
「ヒギャアアアッ! ひぎ、ぎ、ギゥアァアアアァアァァッ!」

 聞くも無残な絶叫である。
 籠の内側に生えた棘が、小鳥のように愛らしい娘達の体を切り裂き、血を絞りとっているのだ。
 苦痛を訴える声を聞けば、誰であろうと『止めてくれ』と訴えるだろうが――しかし、この二人の耳には届かない。

「みんな、すごい声ねぇ……。何を言っているんだか、わからないじゃない。
 でも、この分だと……前の子たちみたいに、またダメになってしまうのではなくて?」
「その心配は無用じゃ。先に用いた娘子は、急場凌ぎに病に侵されていたものを使ったのでな。
 聞けば泳ぎが達者であったり、女だてらに剣を振るっていたのであろう? なれば、数日は大丈夫じゃろうて」
「ああ、それは良かった。 まだ夏海さんが来ていないのよ。折角ですもの、全員いれてあげたいの」
「そうよのぅ……。やはり、仲の良いものは皆一緒にいた方が良かろうて」

 そう言って穏やかに哂う二人をぼんやりと見つめながら、ツヴァイは心の底から必死に祈っていた。
 神でも良い。悪魔でも良い。或いは聖杯戦争の礎となった祖、ノイエスフィールでも良い。
 どうか――敬愛する姉が、自分を諦めてくれることを。一心に願っていた。



 ――Interlude out





**あとがき*********
はっちゃけ第二段。みこっちゃん。順調に黒化進行中。
まあ、あんまりグロいのもあれだけれど、残酷無残は嫌いではなく。
そしてキャスターさんは、こういう事でなければはっちゃけないので! で!
とりあえず正月休みも終わりましたし、連日アップは今日で終了……かなぁ?
ちょっと間が空くかとは思いますが、どうか気長にお待ちいただければ、と思いまする。