9.


 ――――人通りの完全に絶えた通りを、一台の車が猛スピードで疾走していた。
 はっきりと言って確実に速度違反であろうが、生憎とそれを咎める警察官の姿も無い。
 数十分前のホテル爆発に加え、水上都市全域で発生した「暴動」や、「鼠の異常発生」の対応に追われているのだろう。
 それを考えれば、ハンドルを握って運転している青年が、携帯電話を反対の手に握っているのも致し方ないと言える。
 彼があちこちに連絡をしなければ「死体と鼠の化け物が戦ってる」などという現実を隠すのは、およそ不可能だったからだ。

「あーもう面倒臭ェ。監督役を好き好んで引き受ける奴いたら、絶対にマゾだな。
 ……ともかく、こっちの仕事は終わりだ。あの子達も何とか病院に届ける事ができたし、これで一安心だ」
「………………」
「どうした、アーチャー?」
「あ、やー。なんか、あの病院の傍で妙な気配を感じたんで御座るが……。
 まあ、多分気のせいで御座ろうよ。拙者、そんなに鋭いわけでもなし」

 たははー、と緊張感なく笑うアーチャー。
 飽きれたように溜息を吐くと、優介は自分の腕時計に目を落す。
 漢字や何かが文字盤の至る所に刻まれ、また中央に白と黒が混ざったような図――大極印が描かれたそれは、
 およそ手間隙のかかる事をやりたがらない彼が、唯一自分の手で作り上げた魔術礼装である。
 魔力を通すことによって吉兆を占い、その方角を指し示すという戦闘の役に立ちようも無い代物ではあったが、
 面倒くさい事柄を避けたい優介にとって、何よりも重宝する道具だ。
 肌身離さず持ち歩いていて良かったと心底から思う。幸いにして菅代家はうっかりとは無縁なのだ。
 さて、その占盤時計。短針、長針、そして秒針さえも、全て一様に同じ方角を示している。
 忌々しい事に、どうしたって其方へ行かなければならないらしい。

「するってェと、この針の方角に、あの女人がいるので御座るか?」
「ああ。動物園で反撃の準備をしてるとか言ってたからな。
 つーか、それを僕に手伝えとか手紙に書いてあった。勘弁してくれっての」

 ――ファーティマ・アブド・アル・ムイード。
 初めて逢った時から、ああコイツに絶対振り回されるんだろうな、とは思ったのだ。
 こういう事に関しての優介の勘は、あまり外れた事が無い。そして、今回も外れなかった。





 人っ子一人いなくなった動物園――の貯蔵区画。
 大きなコンテナを背にし、ファーティマは菅代優介の到着を待っていた。

 身に纏っているのは、先達て逢った時の服装ともまた違うもので、
 申し訳程度に肌を隠す分厚い生地と、酷く薄いベールとで組み合わされたもの。
 民族衣装――というより、ベリーダンスの踊り子が纏うようなドレスだが、
 やはりファーティマの持つ気品によるものか、低俗な印象を与えることはない。

 その向かいに立った優介は、目の毒ともいえる姿をした彼女に苦笑いを浮かべるばかり。
 健康な男であるならば、とてもではないが無視する事はできないだろうけれど。
 まったく。客観的に状況だけ見れば、うらやましいと思う者も多いだろうが、
 実態がどれほど面倒臭いことになっているのか、わかる奴はどれほどいるのだろうか。

「さて。ミス・ファーティマ。僕がさっき受け取った手紙によると――敵の攻撃を受けたとか?」
「ええ。父も母もいなくなってしまいましたし。あとは兄と――ライダーだけ。
 でも、ユースケが来てくれたものね。これであのバーサーカーも斃せるわ。確実に」
「ああ、あの鼠はバーサーカーか……成程ね」

 全うな英霊ではないと思っていたが、正解だったか。
 恨み辛みから化け物に成り果てた坊主を当てはめるには、まさしく的確なクラスと言える。
 そして彼女――ファーティマは、その大群に対抗する為に死者の群れを解き放った。
 水産物による収入が多い水佐波では、彼方此方に冷凍倉庫が存在している。
 其処を借り、死体を街中に忍ばせていたのだろう。
 何にせよ、こうなってしまった現状、あまり関係の無い話だ。

「やー。協力したいのはヤマヤマなんですが、僕ァとっとと騒動を終わらせたいんですよ」
「ですから、わたしと協力してバーサーカーを倒しましょうと言っているのです。
 勿論、協力して下さいますわよね、ユースケ。答えはイエス、ノー?」

 蕩けるような微笑を浮かべるファーティマ。
 扇情的な衣装に、露になった黒蜜色の肌。しなやかな肢体。
 女性的魅力に溢れたその姿に――しかし、優介は笑って答えた。

「生憎と僕ァ――NOと言える日本人でしてね! アーチャー!」

 次の瞬間、ファーティマ目掛けて音に等しい速度で矢が放たれた。
 優介の傍らで、霊体と化しながらも弓を引き絞っていた弓兵によるものだ。
 勿論、ファーティマに避けられる筈も無い。
 如何に優れた魔術師であっても、彼女は戦闘者ではないのだから。
 しかし、それ故にまた、優介も彼女を殺す気はなく、アーチャーもまた同様であった。
 狙いはその右手。令呪の刻まれた腕を射抜ければ、それだけで彼女は聖杯戦争から脱落する。
 まあ、甘いと言われても致し方あるまい。が、しかし人殺しだとか面倒臭い事は御免なのだ。
 なのだが――

「……お願いね、兄様」
「わかったよ、ファーティマ」

 ――その矢を、轟音と共にコンテナを突き破って現れた拳が叩き落した。

「な、ぁっ!?」

 思わず眼を剥く優介を他所に、内側から現れたもう一本の手が、穴を広げにかかる。
 その腕だけでも、とてつもなく巨大だ。明らかに人間のものではない。
 その豪腕でべきべきと鉄板を引き裂いて――ほど無くして、その恐るべき怪物が現れた。

 その両腕は、黒い毛に覆われた巨大な類人猿――大猩猩。
 背中には猛禽のものと思われる、これまた大きな翼。
 胴体と両足は、まるで灰色の柱のようで……恐らくは象だろう。
 そして、その頭部。
 獰猛なライオンと――恐るべき事に、額に埋まった人の顔。

 およそ如何なる系統樹にも属さず、ましてや動物とは思えない、畸形の化け物。 
 あれが人間の肉体を用いたものであったなら、フランケンシュタインの怪物とでも呼ぶべきだろうが、
 獣の死体を繋ぎ合わせて生み出された存在である以上、やはりこう呼ぶより他にあるまい。

 つまりは――――キマイラと。

「…………無事かね、マスター?」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう、ライダー。
 それにしても――残念ね。ねぇ、ユースケ。わたし、貴方のこと気に入っていたのですよ?」

 そう告げて、怪物の背に跨った騎兵の下へとファーティマは軽やかに跳躍。
 そしてその
 獅子の顎が開き、その内側に何か明りが灯り――次の瞬間、火炎が吐き出された。

「な、なぁあぁぁあぁっ!?」
「このキマイラ、単に動物の肉体を繋ぎ合わせただけと思われては困るのよ。
 勿論、自然界に火を噴く生物はいないけれど、超高熱の気体を噴射する虫は存在するわ。
 その分泌線に手を加えて大量に移植すれば、この程度の事は簡単に出来る。
 ――ムイード家の人形作りの技、舐めないで欲しいわね」

 もっとも、制御できるかどうかという点に関しては些か以上に不安はあったのだが。
 如何に実兄という縁深い屍人形を組み込んだとはいえ、このキマイラとファーティマに関係性は薄い。
 しかし、そんな不安もライダーサの持つ黄金の手綱にかかれば、あっさりと片付いてしまった。
 様々な生物の混成体であっても、こうして手綱をかけられた以上、一個体の幻獣として完成する。
 如何に歪な造形だろうと完全な生物である以上、そのポテンシャルは完璧に発揮する事ができるのだ。
 慌てて飛びのいた優介とアーチャーであったが、その内心には悪態ばかりが溜まっていく。
 勝てるわけがない。こんな化け物とまともにやりあって、勝てるわけがない。

「って事は――――………」
「三十六計って奴で御座るな……!」

 きびすを返して二人は走り出す。あんなもんとまともに戦ってどうにかなるなどとは思えない。
 だが――やはり、逃げ切れる自信も無かった。

「あら。わたしは逃がしてあげるなんて言った覚えはないのだけど――」
「どうする、マスター? あんな小物を相手にするより、今は先にあの狂戦士を……」
「いえ、先に叩きましょう。ちょこちょこ走り回ってる人がいると、迷惑だもの。
 お願いね、兄様も」
「ああ、わかったよファーティマ」

 その後を追うように、死者の軍勢が迫り来るのだから。







「い、幾ら逃げたって、時間稼ぎにも――……」
「まぁなー……。連中と僕らじゃ数が違うし。
 ――――しかもアイツ、でかい羽持ってたからな。空飛べるぞ」
「滅茶苦茶で御座るなァ……」

 走りながら、二人して会話を繰り返す。
 神代の英霊ならばまだしも、平安時代末期の武将には些か荷が重い。
 向こうの切り札は、あの巨大な合成獣であろうが――此方にはロクなカードも揃っていない。
 こうして動物園の中を逃げ惑ってはいるものの、周囲には続々と死体どもが集まってきているし、
 早いところ片付けなければ、獣に潰されなくとも死体に噛み砕かれて終わってしまう。
 そして死んだ後は――きっと自分も、こいつらの仲間入りだ。

「まともに戦ってかてると思うか?」
「やー、正直言って無理で御座るよ。拙者は其処まで強力な英霊というわけでは御座らん。
 単に運良く化け物を退治した程度で――それも首を撥ねたのは拙者ではなく、友人であるからして」
「だよなぁ……」

 ――――不意に、二人の上に影が差す。

「……ねぇ、早く逃げないと落としてしまうわよ? これ、結構重いのね」

 其処に浮かぶのは、巨大な羽を動かして滞空する異形の獣と、そして、その手に握られた一台の車。
 見紛う筈も無い。つい先ほどまで、ここに来るために乗っていたあれは――『大蛇』。

「た、」

 異常な腕力で持って、キマイラはそれを振りかぶり―――

「高かったんだぞ、それーッ!!」

 地面へと叩きつける。
 轟音と共に金属のフレームがひしゃげ、エンジンが歪み、自動車の原型を留めぬ有様に。
 そして、其処に追い討ちをかけるように――キマイラが火を噴いた。

 ――爆発。

 周囲へと撒き散らされる金属片が直撃すれば、一溜まりも無い。
 慌てて走り出していたた主従であったが、まともにやって勝てるわけがない。
 なら、どうすれば良いというのか。

「――拙者に一つ作戦があるんで御座るがーッ!!」
「――乗った!」

 弓兵の提案した作戦に、主はあっさりと頷いた。
 勿論、無策で挑むより、どんな策でも一つあった方がマシだろう。
 言葉は不要。互いに頷きを一つ交わすと、二人は戦場へと駆け出していった。








 さて、結論から先に述べれば。
 駆け出していった二人は、至極あっさりと追い詰められていた。

 動物園の彼方此方を走り回り、死体どもの数に押されて、じりじりと隅の方へと追いやられ――
 背後から迫り来る爆音、つまりキマイラの豪腕が檻を片端から叩き壊す音が、それに拍車をかけて。
 もはや、誰が見たところで打つ手などある筈も無い。
 十重二十重と周りを死者に囲まれ、更に真正面に顕在するのは異形の怪物。
 黄金の手綱を握る英霊と、その主人である娘もまた、キマイラの背に跨っている。
 完全無欠の包囲網。どう足掻いたって逃げられない。

「もう追いかけっこは終わり?
 折角の英霊だというのに、逃げてばかりじゃあ大した事も無いのね」
「やー……拙者、正直言うと外れだと思うんで御座るよ。自分で言うのもアレで御座るが」

 アーチャーが弓に矢をつがえるが、ファーティマは無意味な抵抗と言わんばかりの様子だ。
 弓を引き絞る顔は、常日頃からは想像もつかないほど緊張に固まっていた。
 彼は掛け値なしに優秀な弓兵であり、成程、確かに射手の英雄の座にふさわしい技量を持っている。
 しかし――それだけだ。戦で活躍したことはなく、活躍したいとは思わない。そういう人物だ。
 日がな一日、歌でも詠んでのんびり暮らせれば、それ以上の幸福は無いと思っている男だった。
 無論、弓の腕は良い。射撃も好きだ。たまに狩りに行ったりするのも良いだろう。
 が、その成否によって自分の友人の運命が左右される。責任が肩に重く圧し掛かっているとなると、話は別だ。
 そう、いつもそうだった。
 ただ単に先祖が鬼だの妖怪だのを叩き殺したというだけで、わけのわからない化け物退治を命じられて。
 お陰で出世したは良いものの、挙句の果てには戦場へと行く羽目になり、負けた責任をとって割腹。
 おまけに祀り上げられてしまった結果、死んだ後だというのに、こうして戦わなきゃならない。
 まったく因果な人生だとアーチャーは溜息を吐いた。
 神も仏もいやしない。或いは見放されてるだけなのか。

「……もし失敗したら、御館殿を叩っ殺して拙者も死ぬで御座る」
「ああ、そりゃ無理だ。失敗したら僕は令呪でお前を自害させて、さっさと降服する」
「そりゃ無いで御座るよ!」

 そして、主従は顔を見合わせて笑った。
 どうせ人生は一度切りだ。
 産まれて、生きて、そして死ぬ。其処に選択肢は存在しない。
 まったく。何の因果か、お互いこんな人生になってしまったが。
 ―――なら、居直るしかあるまい?
 俺達はこんな人間なのだと居直って、腹を括って笑っていこう。

 アーチャーが弓を放つと、つがえられていた鏑矢が、真っ直ぐに天へと飛んでいく。
 流麗な細工を施された鏃が大気を切り裂く度、甲高い――笛の音のように澄んだ音が周囲を揺さぶった。

 だが、それだけだ。

「くだらんな。弓の英霊と聞いて期待していた私が愚かだったようだ。
 アルテミスの想い人や大英雄とまではいかずとも、其れなりの腕前を見せてくれると思ったのだが――」

 侮蔑したような眼で、ライダーはアーチャーを見下ろした。
 極東ともなれば、如何な英霊といえどもこの程度なのだろうか。
 ライダー……ベレロフォンは特段、戦いを求めて顕現したわけではない。
 だがしかし、このように無様な英雄との対決を繰り広げ、満足する筈も無かった。
 このような者は、一撃で葬り去ってやろう。
 酷薄な笑みを口元に浮かべ、ライダーは黄金の手綱を握り締めた。
 ゆっくりとキマイラがその豪腕を振り上げる。
 アーチャーも、そのマスターも、為す術も無く叩き潰されるだろう。
 少なくとも、その筈だった。

 ―――――ぽろりと呆気無く、その右腕が崩れ落ちなければ。

「………ッ!?」

 それだけには留まらない。
 腕に続いて、羽が落ちた。脚が崩れ、地面にぶつかった胴が潰れる。
 振り落とされたファーティマが悲鳴をあげた。
 ごぼりと音を立てて、獅子の口から粘液が溢れた。分泌線とやらが腐り果てたからだろう。
 もはやキマイラなどと呼ぶ事は不可能だった。
 それは、ただの死体へと成り果てていた。あちこちに散らばった獣の部品の塊でしかない。

「お、のぉれえぇえぇぇっ!!」

 騎兵の英雄が怒号をあげ、跳躍する。
 仕切り直す気か、或いは何か秘策があるのか。
 ――――何にせよ、それをさせるつもりは優介には無い。
「アーチャー」
「何で御座るか?」
 そしてそれは、傍らの弓兵も同じこと。
 逃がしてはダメだ。故に、文様の浮かび上がった片手を掲げる。
 ここでライダーを逃せばどうなるか。次は何を用意するだろう。
 車か、飛行機か、爆撃機か?
「令呪を持ってして命ずる」
 はっきりと言おう。
 詰まる所は、二人とも――
「『当てろ』」

 面倒臭い事は苦手なのだった。






「あ、あぁ……っ! わたしの令呪、が……ッ!」
 信じられないという顔をして、光を失っていく刻印を見て、ファーティマは絶望から声を上げた。
 無理もないことだろう。
 父を失い、母を失い、兄も亡く、そして――今正に彼女の眼前で、ムイード家の希望が潰えたのだ。
 キマイラの背から地面に叩きつけられた為か、右足が酷く痛み、息ができない。
 元より荒事に慣れていなかったせいで、ろくに受身も取れなかったのだ。骨の一本か二本は覚悟しなければ。
 だが、それで諦めるなどという事が、どうしてできようか?

 幼い頃から何度も言われてきた言葉だ。
『我が家の誉れと地位を取り戻す者になれ』
 それこそがファーティマだ。その為だけに生きてきたのがファーティマだ。
 それができなければ、自分は、今まで一体、何のために――……。

「………ッ、う、く、ァ……!」

 脳天まで突き抜けるような痛みに耐え、片手を崩れ落ちた合成獣の腕につきながら、辛うじて立ち上がる。

「あー……。僕ァ、もうやる気は無いんですがー……」
「う、るさァい……ッ! わた、し……ぅ、ぁ……わ、わたしは……こんな所で……ッ!」

 視界がぼやける。痛みのあまり気が遠くなったのだと言い聞かせる。
 断じて。断じて――泣いてなどいない。泣くわけもない。自分は、勝つのだ。
 誇り高きムイードの末裔だ。聖杯を手に入れるのは自分なのだ。だから。だから――ッ!

「――あ……」

 だが、その願いは届かない。
 彼女の闘志に答えることなく、死体達もまた、ふらふらと揺らめいた後、次々に倒れていく。

「なん、で……?」
「ああ、や。ようは単純な事でさ。あんた、別に死徒ってわけじゃないだろう?
 だったら『動く死体』なんてのはありえない。あるのは『動かされてる死体』だ。
 ……て事は、動かせなくすれば、残るのはただの死体ってわけで」
「それにじゃぁ――……」

 ――つまりは、そういう事だ。
 水破――文殊菩薩の眼から削りだされたという、霊験あらたかな鏑矢。
 その効果こそは、周囲の場を清め、相手に付与された「まじない」を打ち消すというものだ。
 人間の死体――そして『動物の死体』に施された魔術を打ち消すのは、極めて容易い事だろう。
 そして、優介はライダー=ベレロフォンの持つ宝具の詳細こそ知らなかったものの、
 動物の死体どころか、『動物の死体の部位』に騎乗することは如何に英霊であろうと不可能だと。
 そう計算していたのであった。
 もっとも、分の悪い賭けであった事は間違いないのだが。
 周囲に死体を集めるように走り回っている間、生きた心地などする筈もなかった。
 腕時計が指し示す吉兆の方角へ走ることで、辛うじてここまで策を持ってくる事ができたのだ。

 加えて言えば、ファーティマにとっては不幸な事に、そして優介らにとっては幸福な事に、
 彼女が――そして、ライダーが全くと言って良いほど、知らなかった事がある。
 この水破を持つ弓兵に対してキマイラを向ける事は、どれほど愚かな戦略であったのか。
 重ねていうが、彼女らは知らなかったのだ。
 この極東の地においてもキマイラが存在し、神代の英雄で無いにも関わらず、それを討ち果たした傑物の事を。

 そのキマイラは猿の頭に、狸の胴。尾は蛇であり、手足は虎。声は虎鶫に似ていたという、異形である。
 その名を鵺と言い――
 ――そして誰であろう、ただの人の身にしてそれを射抜いた弓兵こそは。

「――二度も三度も鵺の相手をすれば、慣れるもんで御座るなぁ」

 そう言って源頼政と呼ばれていた弓兵は、呵呵と笑ったのであった。





あとがき*****
…………皆、凄いなぁ(よそ様の作品を読みつつ)

というわけで、ライダーVSアーチャーであります。こんな感じ、で!
BGMは「人として軸がぶれている」辺り。それならばっ!居直れぇっ!

これにてライダーは死亡、ファーティマともども退場です。
割とあっさりですが、爆撃機乗り回してますし、破底魔先生はハッチャケてますし、
息子さんは外道な感じですし、此方にご不満のある方は是非Rebirthをどうぞ!
…………よし、これでファンの人も誤魔化せただろうか。

正直、ベレロフォンはキャラクターが把握できず、割と難儀なキャラでした。
ゴーインもそうなのですけれど、あんまり特徴的な逸話が無いのですよね。
まあ、彼は調子に乗って死んじゃったので、油断スキル持ちかなぁ、とは思ってましたが(笑)
ファーティマは個人的に凄く好きなキャラなのですけれども、
もうちょっと書きやすいサーヴァントと組ませれば良かったかなぁ……。
まあ、今のところ皆聖作品の中では、彼女を一番派手に暴れまわらせる事ができたので、
そういった意味では満足しておりますし、満足して頂ければなぁ……とは。

とはいえ、ベレロの宝具は便利なのですけどもねー。
絨毯は飛ぶし、空母は動かせるし、爆撃機は飛ばせるし、合成獣は一匹の幻獣にランクアップだし。
まあ、そうはいっても「死体の腕」は騎乗できないのでしょうが、いろいろ活用はしてみたかったなぁ。

あと正直なところ、大規模行動を開始した軍団を放置しとくと収集つかんのです。
しかも鉄鼠ともども魔力消費は少ないっぽい感じですしねぇ……。軍団持ちは鬼門だわー。
まあ、物語の風呂敷を畳むための尊い犠牲、という事で。一つご容赦を。

次回はアサシン&鉄人VSバーサーカー&ムドー…………に、ちょっとしたInterludeも加えて。
あっちでは良い子ですが、こっちでは……。
さぁー、はっちゃけさせるぞー!