――Interlude3

 で。

 なんかサムライがカレー食ってる。

「―――――――――」

 理解できない。
 何で喫茶店にサムライが居るのか。
 なんであんな煮立った釜みたいなカレーを食っているのか。

 それも凄い勢いで。
 額に汗を滲ませて、水などいらぬ、
 一度手を止めれば二度とさじが動かぬわ、という修羅の如き気迫。

 というか意地になってないかコイツ。食べるスピードが尋常じゃないぞ。
 もしかして美味いのか。
 あのスパイスとカレー粉と野菜を百年間ぐらい煮込んで合体事故のあげく
 インド人を右に!とか気合で避けろ!みたいな料理が美味いというのか。

 だとしたらまずい、カレーもまずいがこの店もまずい。
 アレ、絶対やばげな量のスパイスを入れてる。
 そうじゃなくちゃ色合いが説明できない。

「どうしたで御座る。さっきから一言も喋ってないで御座るよ、御舘様」

 にっこにっこと喜色満面の表情でサムライは言う。

「…………………………」

 用心しながら……いや、もう何に用心しているのか僕にも解らないが……ともかく用心して頷いた。

「――――――――――――――」

 じっと奴の動きを観察する。
 ……あ。スプーンがどんどん動いてる。
 コイツ、このカレーを完食する気なのか……と、喉を鳴らした時、
 不意にカレーの乗ったサムライのスプーンがこちらにゆっくり伸びてきた。

「――――――――――――――――――――――――」
「――――――――――――――――――――――――」

 視線が合う。
 サムライは腹が立つくらい楽しそうな表情で僕を見やって、

「御舘様も折角だから―――――――――――」
「―――――――――――――遠慮しておく」

 サムライはわずかに眉を寄せて、さっくりと「美味で御座った」とカレーをたいらげた。
 ……って。
 もしかしてコイツ、本気で僕に喰わせようと思ったんだろうか?


「いやあ、カレーライスは日本人の魂に根付いた食事でござるなぁっ」
「……実体化して街を散策したいとか言って、やる事が喫茶店でカレーかよ。ふざけんな、死ね」
「御舘様、食事を馬鹿にしてはいけないで御座るよ! 腹が減っては戦は出来ぬと昔の偉い人が言うくらいであるからして!」
「お前が昔の偉い人だけどな」

 食事と言うのは一人で静かに孤独に食べるもんで御座るとか言い出す侍――
 ――即ちサーヴァントの一騎、アーチャーを眺めて、管代優介は盛大に溜息を吐いた。
 もしかしなくとも選択を誤ったのは確実かもしれない。この先生きのこれる自信が欠片も無い。

「まあ、其処まで慌てる必要も無いんだろうけどな。幾ら聖杯戦争が、数日間の短期決戦とはいえ。
 ナチスはともかく、基本的には外来のマスターばかりだ。素人でもなければ、昼間っから暴れるような真似はしないだろうし」
「本音は?」
「ぶっちゃけ面倒臭ぇ……」

 そもそも、冬木市で行われる『本来の』聖杯戦争においては、複数勢力の思惑が絡み合っている為、
 教会から派遣されてきた監督役が、いわば審判のような形で介入し、全てを取り仕切っている。
 神秘が表沙汰にならないよう隠匿するのも、その監督役の仕事なのだが――今回は違う。
 ナチスドイツの残党などという、B級映画でしかお目にかかれないような連中と、
 この土地の管理者――よりにもよって優介の祖父が、勝手に手を組んでおっぱじめた儀式なのだ。
 当然、協会と教会からは睨まれているし、マスターであるにも関わらず監督役として奔走しなければならない。
 一番嫌いな言葉が「努力する」で、二番目が「頑張る」である所の男には、荷が重過ぎる。
 口から魂が出そうな具合だった。

「昨夜も森の奥でドンパチやらかした奴がいたみたいだしさぁ……。
 騒ぎになってないから、巻き込まれた奴はいないっぽいけど。初日からだぜ?」
「ふぅむ。よほど好戦的な御仁が集まったので御座ろうなぁ……」
「勘弁してくれ……」
「あ、小向日殿!もう一杯お願い致す!」
「はぁいっ。ちょっと待っててくださいーっ。
 源さんって、ほんとーに美味しそうに食べてくれるから、あたしも嬉しいんですよぅ」

 心底から落ち込む優介と対照的に、にっこにこと笑いながら厨房に向かってかけていくウェイトレス。
 いつのまに仲良くなったんだというか、真名を明かしている辺りに問題を感じないのかというか。
 頭痛を通り越して胃痛さえ感じ始めた優介に、からからとアーチャーは笑った。

「それで、どーだったんで御座る? その、もう一人の魔術師ってのは」
「ああ、まあ率直に言うと、可能性は無いと思う。
 うちの御先祖さんとの権力争いに負けてからは衰退して、もう魔術師でも何でも無いしな。
 末の娘が魔力だけ持ってるのは前に確認してるけど――聖杯戦争には参加しないだろう」
「と、言いますと?」
「親は大企業の重役。家族関係は良好。学校でも特に問題は無いし、友人関係にも恵まれている、と」
「……満たされまくってて逆に腹立ってくるで御座るな」
「ついでに言えば、惚れた腫れたの騒ぎに街中巻き込んだ挙句、現在は恋人と大はしゃぎだ。
 これだけ揃ってて、聖杯がわざわざ選んでマスターにする事は無いだろう。
 仮に選ばれたとしても、戦って死んだら元も子も無いからなぁ……」
「じゃあ、まあ、一から歩き回って探すのが一番って事で御座るか」
「だな。……面倒臭ェ」
「仕方ないで御座るよ。諦めて地道にやるっきゃ無いって事で」

――Interlude out