――――――MORNING――――――




 「空気が悪いわね・・・。」

 誰に聞かせるわけでもなく、彼女の口からそんな言葉が漏れた。

 ここはメキシコシティ。
 南米最大級の大都市であり、世界有数の大気汚染地域だ。
 今、彼女がいる空港の窓の外は朝だというのに、スモッグを孕んだ空気のせいで常に靄がかかったようになっていた。

 「私から言わせていただけば、」

 窓の外を見つめる彼女に何処からともなく声がかかった。

 「現在の中国も、このメキシコという国も――――――空気の悪さと言う点では同じように感じられるのですが。」
 「・・・まぁ、貴女のいた時代からすればそうなのでしょうけれど。」

 しかし、彼女の会話の相手はどこにも見えない。
 それもそのはず、『彼女』は自身でそう選択しない限り実体を取ることはないからだ。

 「ぼやいていても仕方がないわ――――――行きましょうアサシン。待ち合わせの時間に遅れてしまうわ。」
 「ではそう致しましょう。」

 そう言って女性は今まで眺めていた窓から視線を外し、踵を返して歩き始めた。

 彼女の名前は黒雲霞(ヘイ・インシィア)。
 中国共産党武装工作員。
 そして―――――サーヴァント・アサシンのマスターとして聖杯戦争に参加する魔術師である。


 その容貌は典型的なアジアン・ビューティと言って差し支えないだろう。
 カラスの濡れ羽色と言うべき、癖のない長い黒髪。
 華奢であっても弱々しさを感じさせない柳のようにすらりとした体つき。
 今は淡い青のワンピースにカーディガンを羽織っているが、夜に彼女が愛用するチャイナドレスを着たときは、よりそのスタイルの良さが引き立つだろう。

 彼女は今、カツカツとヒールを鳴らしながら空港を闊歩していた。
 すれ違いざま、彼女に目を奪われて視線を向ける男性も少なくない。
 ただ、彼女は気づくそぶりも見せず、水が流れるように人の隙間を縫って歩いた。

 やがてロビーの一角、指定された場所に彼女の目当ての人物が見つかった。
 向こうもこちらに気付いたのか、気さくに手を振って声をかけてきた。

 「ブエノス・ディアス、セニョリータ!メキシコへようこそ!」
 「はじめまして、Mr.シボネイ。ヘイ・インシィアです。」
 「お会いできて光栄です。写真で拝見させていただいた時からぜひ一度直にお会いしたいと思っていました。あなたのような美人とお話しできるとはとても光栄なことです。」
 「お褒めに預かり光栄です。」

 シボネイと呼ばれた男が立ちあがり、挨拶しつつ、手で席に着くようにと雲霞に勧めてきた。
 大きな男だ―――というのが霞雲の第一印象である。
 確かに身長200cm、体重100kgという体格は東洋ではあまり見かけない。
 サンライトイエローのジャケットを羽織って晴れやかな笑顔を浮かべている。
 こんなに目立つ男が工作員でいいのだろうか、と余計な心配もしてしまう。

 この男はアデル・シボネイ。
 キューバに所属する魔術的な工作員であり――――――雲霞と同じく聖杯戦争に参加するマスターである。

 「どうぞ、おかけになって下さい。」

 その大男は外見に似合わず気さくな笑顔をうかべて、雲霞に座るように促した。
 彼の一挙手一投足を観察しながら、彼女はそれに従った。

 「メキシコは初めてですか。」
 「はい、今回の仕事で来るのが初めてです。」
 「いやぁ、仕事仕事・・・難儀なことです。実のところ、僕としては仕事でもなければこんな空気の悪いところには来たくなかったですよ。」
 「御心配なさらず。私も同意見です。」
 「本当に?同じ意見の人がいてうれしいですよ。」

 シボネイはアハハ、と屈託のない笑顔を浮かべた。
 雲霞は相槌を打ちながら、その表情を観察する。

 大らかで裏表のなさそうな態度ではあるが――――――ただの馬鹿ではないだろう。
 今回の会談の申し出を受けたとき、雲霞はこの男の経歴を調べたが工作員として一流と評価できるほどの功績を上げていた。

 否、そもそも聖杯戦争に国家の代表として参戦する以上は一流でなければおかしいのだ。

 ならば自分が戦争に勝ち残るため、少しでも敵の人となりを知ることは無駄ではないだろう。
 となれば、敵も同じように考えていてもおかしくはあるまい。
 霞雲はこの会談も一つの闘争と捉えている。

 ただ――――――そう何事も当初の予定通りに行くものではないのだが。


 「ではお喋りはここまでにして・・・・・・そろそろ本題に入りましょうか。」
 「そうですね。あぁ、あと予め認識阻害の結界を張ってあるのでどなたかに盗聴されたりする心配はありませんよ。」
 「有難うございます・・・・・・ただ。」

 霞雲は業務用の笑顔を崩さないまま、視線をシボネイの隣に向けた。

 「そちらの方も席を外していただけるとありがたいのですが。」

 そこには一人の男が、一言も発しないまま黙々と新聞を読みふけっていた。
 グレーのスーツに山高帽、サングラスと赤みがかった黒い髭を茂みのように生やした恰幅の良い男性だった。
 肌の色からして東洋人だろうか。

 話題を向けられてもその男は身じろぎ一つせず、超然とした佇まいを崩さない。
 自分のことは背景の一つとして扱ってくれと言いたいのか。

 それとも――――――自分以外のすべてが背景に過ぎないのか。

 その男を見ていると、雲霞は背筋に細かい針が当たっているような居心地の悪さを感じた。
 最初は同じキューバの工作員かと思ったが、絶対に違う。
 『ただの工作員』がここまでの存在感を放てるはずがない。

 シボネイはその男に代わって雲霞に答えた。
 先ほどまでの笑みを崩さぬままに。

 「彼は僕の仲間です。ご心配なさらず、会談の邪魔はしませんし、敵意もありませんから。」
 「・・・・・・どちら様ですか?」

 雲霞が尋ねる。
 彼女の悪感は的中した。


 「僕のサーヴァント、ライダーです。」


 雲霞が一瞬のフリーズから回復するより早く、
 シボネイが彼女に対して弁解をするより早く、
 この場にいる誰より早く行動したのは、今までその存在を消していた人物だった。

 「――――――動くな、動けば殺す。」

 実にシンプルで解かりやすい脅し。
 雲霞のサーヴァント、アサシンがライダーと呼ばれた男の首筋に背後から五寸ばかりの匕首を突きつけている。


 ライダーの背後に限界したアサシンは女性のようだった。
 闇に溶け込む黒装束を纏った彼女は、その手の中にある匕首のように鋭い殺気をライダーに叩きつける。
 しかし、

 「・・・・・・女か。」

 ライダーはそう言っただけだった。
 アサシンに交渉するでもなく、臨戦態勢を取るでもなく、マスターに助けを求めるでもなく、椅子に座ったまま新聞を読んでいる。

 「興が乗れば遊んでやろう。だが今の余は中東情勢と株価の変動とやらを追うので忙しい。退くがよい。」

 異様な光景だった。
 完全に生殺与奪の権を握られているというのにその男は上から目線でこう言ったのだ。
 『見逃してやる』と。

 「その減らず口、ここで二度と利けなくなって見るか?」

 アサシンの殺気が針のように鋭くなる。
 彼女は機械的な動作で、匕首を持つ手にもう片方の手を添えた。

 そしてそのまま、よどみのない動作でライダーの首を――――――

 「やめなさい、アサシン。」

 雲霞がそれを止めた。
 アサシンは今にも切っ先を動脈に押し込もうという姿勢のまま、主に視線を移した。

 「・・・・・・・・・。」
 「アサシン。そのライダーはあくまでここに同席しているだけ。この場で息の根を止める理由はないわ。」
 「理由ならある。」

 黒衣の暗殺者はよどみのない口調で返答する。

 「この場でライダーを狩れば早くもサーヴァントが一騎脱落することになる。マスターは聖杯に一歩近づける。」
 「・・・・・・・・・・・いいえ、それは得策ではないわ。」

 張りつめた空気の中、雲霞はアサシンと視線を合わせた。
 言葉を選びつつ、彼女を説得する。

 「確かにこの場でライダーを仕留めることはできる。けれど――――――私たちはこの場にいない五騎のサーヴァントを相手取らないといけないことを思い出して。そもそも貴方はそのつもりでこの会談を設けたのでしょう?Mr.シボネイ。」
 「・・・はい。その通りです。」

 雲霞に話を向けられ、シボネイが応じた。
 表情も先ほどまでの朗らかなものではなく、さながら戦いに赴いた闘士のようなものになっている。

 「我々はお互いに国家の威信を背負ってこの聖杯戦争に参加しています。そしてお互いが聖杯という一人の勝者にしか与えられない宝を欲している以上、衝突は避けられません。」
 「・・・・・・・・・えぇ、おっしゃる通り。」

 雲霞はゆっくりと頷いた。

 中国もキューバも、互いに社会主義国家として友好を築いている。
 とはいってもそれはあくまで自身の利益を守るための友好関係であり、どちらかが足を引っ張るものなら切り捨てられても文句は言えない。
 ましてや聖杯という空前絶後のお宝をどちらかが手に入れたなら、『友好関係』においてどれほど対話の優位に立てるだろか。

 シボネイの言葉はアサシンだけに向けられたものではなく、目の前に座っている中国の工作員に対しても向けられている。
 当初の予定とは違う形だが、交渉は既に始まっている。



 「しかし衝突は避けられず、勝者は一人にしかならないと言っても――――――衝突を減らし、勝者になるチャンスを増やすことはできるでしょう。」
 「チャンス?」
 「はい、チャンスです。」

 我が意を得た、と言わんばかりにシボネイはそこを強調した。

 「最終的に敵対することになっても――――――我々が敵対するのは最終段階で良いのです。我々二人が手を組んで、他の五組を倒します。その上で戦う。」
 「フェアプレーがお好みかしら?」
 「はい。フェアである、と言うことはチャンスが平等にあるということを意味しています。確かに今あなたのアサシンは僕のライダの息の根をいつでも止められるでしょう。その上でお願いしています。」
 「つまり――――――こういうことかしら。」

 雲霞はシボネイの提案と現在の状況を頭の中で転がしてまとめた。

 「今ここで敵を一組仕留めて五組を自分達だけで敵に回すか、最終的に戦うことになる一組を見逃して五組を連携して倒すか。」
 「呑みこみが早くて助かります。」

 シボネイが頷く。
 雲霞はそれを見て計算を始めた。

 現在は、自分が圧倒的に有利な立場に立っている。
 ライダーの生殺与奪の権を握っているのは自分達だ。
 だが―――より大局的な視野に立てば、同盟は魅力的だと考えられる。

 戦闘とは勝つことが重要なのではない。
 勝ち続けることこそが、肝要なのだ。

 「・・・・・・・・・。」

 そして――――――なにより、このキューバの工作員は『友好関係』という互いの国の建前の下にある対立関係に、包み隠さず言及した。
 おててつないでみんなでゴールしましょう、などというぬるま湯めいた発想ではなく――――――対等の立場で戦い、納得の上で戦場に立つために。

 彼女は彼のその考えに素直に感心した。

 雲霞は匕首を構えたまま微動だにしないアサシンに視線を向けた。
 彼女の従者は目で、好きにすればいい、と言っていた。



 「受けるわ。」
 「・・・有難うございます。」

 雲霞がそう答えると、シボネイは大きく息を吐いた。
 それとともにアサシンがライダーから刃を引いた。

 「いやぁ、受けてくれて助かりましたよ。正直、生きた心地がしませんでした。」
 「こちらとしても魅力的な提案でした。断る理由がありません。」
 「そう言ってくれて助かりますよ。」

 あはは、とうっすら汗をかきながら笑うシボネイ。
 雲霞もそれに合わせて笑みを浮かべた。

 ただ――――――この同盟は言葉通りのものにならないだろうとも彼女は考えていた。
 ともに闘うということは相手の手の内を見る機会があるということで、最終的な勝者になるにはそこが分け目になるだろう。
 さらに、極端なことを言えば他のサーヴァントとの戦闘中に裏切ることもありだ。

 だが――――――それはお互い同じこと。
 騙し合い、謀り合いの条件が同じだというなら、それは彼が言うように確かにフェアな戦いだ。
 ある種賭けのようなこの同盟だが、元々雲霞はギャンブル好きだ。

 それに、彼女個人としても――――――


 「お互い協力し合うとして―――どのように連携を取りましょうか?」
 「私としてはそうね、表向きは敵同士のふりをしておきたいわ。相手を嵌める余地がそこにできると思うから。」


 そうしてしばらく雲霞とシボネイは打ち合わせを行い、その後彼女は席を立った。




 空港のロビーをコツコツ、とく靴を鳴らしながら彼女は思い返す。
 屈託のない笑顔、一見単純そうに見えてその実、肝の据わったあの佇まい。

 「・・・・・・いいモノ見つけたかも。」

 ちろり、と赤い舌が唇をなめた。
 先ほどの会談では見せなかった妖艶な笑み。

 雲霞は上機嫌なまま、空港を後にした。



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 「ふい~~~・・・。」

 黒髪の美女が立ち去ったのを見届けて、シボネイは背もたれに身を沈めて盛大にため息を吐いた。

 「いやー、びびったビビった。生きた心地がしないってのは正にああいうもんのこと言うのかね?」

 懐から故郷キューバ産の葉巻を取り出し火をつける。
 本人はそんなことを言っているが、その顔には明るい笑みが浮かんでいる。

 まるでジェットコースターを満喫した少年のような笑顔だ。

 「自分で少し経歴調べてみたけど、あの子も本当怖いね。直にあってわかったのは、実物は倍増しで怖いってことだ。アサシンが出てきた時には僕はもう本当、死ぬのを覚悟したよ。」

 ペラペラ、と楽しそうにまくし立てながら葉巻を吹かす。
 そこで今の今まで、周囲を完全に無視していたライダーが顔を上げた。

 「・・・・・・話はもう終わったようだな。」
 「・・・あんた、新聞は読み終わったのかい?」
 「うむ。」

 大仰に頷いて、彼のサーヴァントは新聞をテーブルの上に置いた。

 「この時代の王は政も金回りも貧弱よのう。やはり支配者とは言葉ではなく力で選ばれるべきなのだ――――――余がそうであったようにな。」
 「そういうもんかねぇ。」

 召喚されてからというもの、ライダーは政治や経済、他にも軍事などの情報を積極的に集めていた。
 何故そんなことをするのか?と聞いたことがあるが――――――答えは単純明快。

 『世界征服』。
 それがライダーの目的なのだ。
 そして、それが御伽話でも誇大妄想でもないのが始末が悪い。

 何せ――――――この男は世界史有数の版図を誇る大帝国を築き上げた『蹂躙王』その人なのだから。

 「しかしまぁ、何だなライダー。」

 ライダーが聖杯を獲得して世界征服に乗り出す未来予想図を脳裏に描きながら(楽しいほどにぞっとする)シボネイは話題を変えた。

 「やがて自分が征服する世界のことを知るのも大事だけど、それよりもう少しは助け船を出してくれよ。僕の交渉が失敗してたら僕もあんたも御陀仏だったんだからさ。」
 「ふむ?」

 そう言うとライダーは不敵な笑みを浮かべた。


 「何を言っている、死んでいたのはあやつらの方だ。」



 その声はシボネイの『背後から』聞こえた。

 「・・・・・・え?」

 シボネイが振り返ると彼の背後にライダーが立っていた。
 彼は思わずぽかーん、という間抜けな擬音付きで口を開けてしまった。
 口の端からぽろり、と葉巻が零れるのを反射神経でキャッチして、口を動かす。

 「え、あれ・・・・・・えぇぇぇっ!?」

 首の骨がぐきっ、と音を立てそうな勢いで横を振り向く。
 彼の隣の席にはグレーのスーツに身を包んだライダーが・・・・・・、

 「いや、ライダー・・・・・・じゃないっ!?」

 ついさっきまでライダーだと思っていた男の輪郭が崩れていく。
 グレーのスーツが陽炎のように揺らめいて騎馬民族風の軽鎧になり、
 豊かに蓄えられた黒ひげの顔は生気の抜け落ちた若い男の顔になる。

 「戻れ。」

 シボネイの背後に立つ『本物の』ライダーが厳かに告げる。
 すると椅子に座っていた男が黒い煙になってライダーの手のひらの中にある黒色の球体の中に吸い込まれていく。

 「影武者だ。」
 「・・・・・・一体いつから?」

 ライダーは何でもないことのようにそう言った。
 シボネイは一つ訊き返すのに精いっぱいだった。

 「無論、貴様の気づかぬうちにだ。」
 「・・・・・・それもそうだな。」

 キューバの工作員は考える。
 ライダーは弓の名手でもある。
 今までどこに隠れていたのか知らないが、おそらくはいつでもアサシン組を打ち殺せる体勢だったのだろう。
 今回の交渉が決裂していればそうしていただろう。

 いや、しかし『それ以上』もありえた。



 「一つ・・・・・・確認しておきたいんだが。」
 「何だ?」
 「今回の交渉に俺が失敗していればどうなっていた?」
 「知れたこと。」

 ライダーは先ほどまで自分の影武者が座っていた椅子に腰かけた。
 片手を差し出してきたのでシボネイは葉巻を一本そこに乗せた。

 「貴様もあの女もろとも撃ち殺していた。あの程度の交渉に失敗するような者は余の配下に不要だ。」
 「・・・・・・左様ですかい。」

 つまり、今回の交渉はマスター、いや配下としての自分の腕を試す試金石だったということになる。
 随分な主従もあったものだが、それが今回の聖杯戦争の特色でもある。

 今回の聖杯戦争にマスターがサーヴァントを律する令呪というものは存在しない。
 故にサーヴァントにとってマスターとは限界し続けるための魔力の供給源に過ぎない。
 よってマスターは裏切られたくなければ、サーヴァントにとって自分が『手を組むに値する人間である』ということを示しつづける必要があるわけである。

 (ただ・・・そのぐらいスリルが無いと、やる価値もないがな。)

 シボネイはそう思いながら、ライダーにライターを手渡した。
 葉巻に火をつけて、大平原の蹂躙王は呟いた。

 「今回の件は良い手柄であったな、褒めて使わすぞ。どちらの女も――――――『そそる』。」

 煙を吹かしながら蹂躙王が哂う。
 その横顔が獲物を見つけた狼のように見えて、シボネイはぞくぞくと寒気を感じた。

 「・・・誰を敵に回すことになっても、あんただけは敵に回したくないね、ライダー。」
 「よい心掛けだ。ゆめゆめ忘れる出ないぞ。」

 そう言ってライダーはテーブルの上の新聞を広げた。

 「・・・・・・ひょっとしてまた読むのか?」
 「読んでいたのは影武者だ、この戯けが。」

 葉巻を吸いながらライダーは新聞に目を走らせる。
 一回始まれば後は梃子でも動くまい。
 動かそうとすれば打ち首なのは目に見えている。

 やれやれ、と吐きたいため息をこらえてシボネイは窓の外のくすんだ空を見上げた。

 (まったく――――――頼もしいほどに恐ろしいもんだよ、うちの皇帝様は。他の連中に同情しちまうね。)

 まだ見ぬ五組の敵に思いを馳せつつ、山吹色の魔術師はもう一本葉巻に火を付けた。