───────Interlude  Masters Side───────



 戦闘が開始してから僅か数合のやり取りで遠坂刻士は己の不利を悟ってしまった。
 強い───この代行者はあまりに強すぎる……!
 刻士は額に汗を滲ませながら攻性魔術で応戦するが、ゲドゥはその悉くに対処してくる。
 火炎を鮮やかに躱し、時に手にした黒鍵で斬り裂き、時に呪符を使って威力を削ぎ、時に黒鍵を投擲して発動の出鼻を挫く。
 そして赤い魔術師にとって最大の頼みの綱である礼装『灼光炎舞』が全く戦果を挙げられずにいるのが何よりの痛手だった。
 交戦してみて理解った事だが、代行者が蓄積する経験値が尋常ではない。
 奴は魔術師の攻撃魔術に対する対処法を知り尽くしていた。
 才覚だけで言えばゲドゥよりも刻士の方が圧倒的に上であろう。
 生まれ持った多彩なセンス、肉体が保有する魔術回路の質と数、努力を惜しまぬ勤勉さ。
 正しく天才と周囲に呼ばれ讃えられるだけの資質を赤い紳士は持ち合わせていた。

「───第一曲、闘争のワルツ!!」
「ぬおあああああああああああ!!」

 しかし、それでも遠坂はゲドゥを止められずにいた。
 牧師は舞い踊る火球をその人間離れした身体能力で俊敏に掻い潜ると弾丸のような刃弾を投げ込んでくる。
「第八曲───死のベリーダンス!!」
 津波の様な火の波が壁となって凶弾から術者を守る。
「第二曲、絶望のタンゴ!!」
 さらに連続して指輪から灼熱の舞踏家が送り出された。
 だがしかし代行者を焼き尽くすことは叶わない。
 完全に指輪の攻撃のパターンを見切られていた。

「無駄だ、そちらの攻撃パターンは概ね把握した。
 どんな戦況にも対応出来る広い汎用性は備えているようだが個々の技の自由度は少ない。
 一度見切ってしまえば対処は存外に容易いものだ」
「見切るなどと簡単に言ってくれる!」

 この発言だけで眼の前の代行者が如何に濃密な戦闘人生を歩んできたかが嫌でも分かった。
 鋼の意志が鍛え上げた肉体と死さえも恐れぬ聖堂教会《そしき》への忠誠心。
 同じ教会の者でさえ知らぬ闇底の私兵組織であるが故に、使い捨てられる事を弁えた上でなおこの牧師は戦い続けている。
 そこがこの男の一番恐ろしい所だ。
 ゲドゥは生に全く執着していない。いつ死んでもいいという現在しかない生き方。
 明日を生きようとする真っ当な人間からしてみれば死神の死生観に付き合わされてるみたいでたまったものじゃない。

「この殺戮人間兵器め! お前は人として機能していないぞ代行者!」
「フハ! 結構なことだ薄汚い異端者が! 私の価値は教会が……枢機卿が値付けするッ!!」
 ゲドゥが間合いを詰め切り鋭く踏み込んだ。
 三本の刃を鉄爪のようにして右拳が突き出される。
 刻士に魔力を通された遠坂家魔術刻印が起動。
 身体能力増強を一瞬で施された遠坂の体が野獣のような俊敏さでその場から離脱した。
 両者の距離が再び開く。
 魔術に最適な遠距離で戦いたい遠坂と、白兵戦に最適な中近距離で戦いたいゲドゥ。
 しかしそんな両名の間合いの削り合いに割り込むようにして、

「ファイターのマスター、貴方を援護するわ!!」

 遅れて登場した綾香の爆撃がゲドゥに浴びせかけられた。
 爆発で大いに吹っ飛ぶ硬い地面。牧師が居た場所にはまるでスプーンで抉り取ったみたいな丸穴が出現していた。
「ぐぬぅ、セイバーのマスター!?」
 だが間一髪の所でゲドゥはその場からの退避に成功していた。
 危うく爆破に巻き込まれて手足が引き千切れるところだった癖に、牧師は顔色一つ変えず乱入してきた小娘を眺めていた。
「………これはこれは、こんな可愛らしい犠牲の羊が我が前に置かれるとは──神に感謝せねばな」
「───ひゃっ!」
 肢体にねっとりと絡みつく牧師の視線に綾香は背筋がぞわりと薄ら寒くなった。
 少女は身の危険を感じ思わず全力で逃げ出したくなったが、なんとか踏み止まる。

「セイバーのマスター……今の魔術は、本当に君が…?」
 一方では遠坂が信じられんといった風な呆気に取られた間抜けな顔をしていた。
 まあ無理もない、むしろ正常な反応であろう。
 彼は数日前までの少女の低レベルさを肌で実感している数少ないマスターの一人なのだから。
「説明は面倒だからしないわ。単に上達したの。足は引っ張らないから安心して」
 そう言って綾香は呪文と唱えると全力で風の魔術を代行者に叩き付ける。
 しかしゲドゥは豹のようなしなやかな挙動でその場から離れると、さらに横へ跳躍して爆風の衝撃を最大限まで受け流した。
「え────嘘でしょ!!?」
 そして何事も無かったように立ち上がる代行者。
 あまりに怪人的な牧師の性能に綾香から驚愕が漏れた。

「セイバーのマスターよ、戦う前に一つだけ君に言っておく!
 攻撃は無闇に乱用するな、信じられん話だがあの代行者の戦闘経験値は異常だ!
 同じ攻撃を何度も見せてしまえばあっと言う間に対処してくる。
 死にたくないなら切り札は良く考えて使うんだ」
「へ? ちょ、それ冗談でしょう!?」
「残念だが事実だよ」
 遠坂はそれだけ少女に助言するとなるべく敵との距離を開こうと走り出した。

 綾香は遠坂の話がにわかには信じられず、確認のつもりで同じ魔術攻撃をもう一度試してみた。
 するとさっきの光景を綺麗にリピートしたかのように牧師は少女の魔術を封殺してみせた。

「破壊力は非常に高いが狙いが大味過ぎるな。あの小娘は後に回してもなんら問題はないか」
 ゲドゥは冷静に新手の敵の性能を推し量ると後に回しても問題ないと判断し、まずは走り去る遠坂の方を追った。

 肉食獣《ゲドゥ》が草食獣《トオサカ》を追跡する。
 徐々にその距離を詰めていきながら獲物の喉笛にその歯牙を穿たんと猛然と襲いかかった。
 魔術師が放ってくる火炎舞踊はほぼ全て見切った。
 敵の攻撃は基本的に変化球のものが多い。だと言うのに奴は乱発し過ぎだ。
 技の基本性能を伸ばすのではなくバリエーションを増やすだけの攻撃など恐るるに足りない。
 遠坂の火球演舞を鮮やかにまた躱し、さらに友軍に援護射撃をしてくる小娘の特大の炎も避けると一気に敵へと肉薄した。
 迫る代行者を払い除けるようにして撃ち込まれた炎弾をあっさりと斬り捨ててみせる。
「───なんだとッ!!?」
「貰った───」
 ついに必殺の間合いに到達した神父服の殺し屋がボソリと囁く。
 左右の手には禍々しい鋼の翼。
 遠坂の首と胴体を真っ二つにする巨大処刑バサミ。
 防御する盾もなく魔術による攻撃も間に合わない。
 だからここで魔術師は首を落とされて死ぬしかない。

 死ぬしかなかったというのに───条理は思わぬ理不尽によってねじ曲げられた。

「ガ────ハ…!!!?」
 この時ばかりは流石のゲドゥも自らの眼を疑った。
 己の腹部にめり込む重い拳。
 代行者の鍛え抜かれた分厚い筋肉の鎧を貫いて肺の酸素を強引に搾り出される感覚。

 そしてその直後、
 鉛のような拳打はあろうことか爆発した───!!

「ぶぐがあぁあぁぁぁああああああ───ぶばかっ!!!?」
 牧師の喉から悲鳴が迸った。そして吐き出される血塊。
 信じらないことだが人間兵器が悲鳴を上げていた。
 対魔術戦用僧衣が、皮膚が、筋肉が燃える悍《おぞ》ましい感触に包まれる。
 遠坂が打ち込んだ一撃はゲドゥの体を15mばかり吹き飛ばすと存分に地面に叩き付けて転がした。

「ハ──あぁ、ア、はぁは、ぁはぁはぁ…っ! あ、危な、かった…!!」
 肩で息を吐く遠坂。
 死の直前まで追い込まれた心臓は激しく動悸していた。
 あと一瞬でも遅ければああなっていたのは自分の方なのだと、生死の境界線に触れた事でより強く実感する。
 しかしそれでも勝負は決まった。
 たとえ紙一重であろうとも勝利の女神は魔術師に微笑んでくれたのだ。
 刻士はその絶大な手応えに勝利さえ予感したというのに、

「なん、だっ……て?」
「……グ、ォォ、お、…や、やって…くれ、るッ!」

 ───なんと血に塗れながらもゲドゥ牧師は立ち上がった。

「ば、馬鹿な───そんなバカな!!?」
 足取りこそふらふらしているが、まさかあれを喰らってまだ立つ余力があるとは夢にも思いもしなかった。
「カ、カ、カウンターに近い形で決まった筈だぞ!?
 それでまだ、まだ余力があるなんて…、貴様本当に人間か……?」
「あ、はぁ……はあハァハァ! あの、瞬間…、は、半歩下がれたのが生死を別けたか……。
 だがしかし効いた、とても効いたぞォ…! こ、コロス、絶対に殺してやる魔術師ィッ!!」
 怒りで鬼の形相となった殺戮牧師が遠坂をくびり殺しに走った。
 月光に閃く黒鍵が鎌鼬となって魔術師の喉笛を射貫きに翔ぶ。
 だがそれはあまりに凡庸な一撃だ。
 代行者は激怒のあまり攻撃がらしくないほど大振りになっている。
 遠坂は水面に潜る水鳥を思わせる動作で白刃を優雅に掻い潜ると、超至近距離まで敵に肉薄し再び正拳突きを繰り出した。
 ゴユンとした手応えが遠坂の拳に残る。
 代行者の腹筋はまるで分厚いゴムを叩いてるような手触りがした。

「──ウゴゥッ!!? グハ…、な、なぜ魔術師風情が拳法の真似事など────いやこの動き、真似事なんかではない……?!」
 敵の拳が牧師の横隔膜を正確に捉える。一瞬息が詰まりつい意識がトビそうになった。
 たたらを踏んで腹を押さえながら後退するゲドゥ。機械のめいた代行者の思考が僅かに混乱する。
 牧師の困惑も当然。
 代行者や僧兵ならまだしも武術をこのレベルで修得している魔術師など滅多にいないのだ。
 ましてや戦闘任務を生業としていないこの男のような魔術師なら尚更にこんな達人級の技量を有している筈がない。

 一方で遠坂はゲドゥの反応に一抹の勝機を見出していた。
 なんという嬉しい誤算。
 礼装が通じず出せる札が無くなり最後に残った滓札を苦し紛れで切った結果、まさか思わぬ形で効果を発揮するとは。
 たとえ魔術が通用しなくてもこちらの方は通用する可能性があるのならまだ勝負を続けられる。

「なぜ? 調査が足りないな代行者。我が遠坂家は元来魔術師の家系だったというわけではない。
 元々は我が父、遠坂永人が武術による無の極地を経て根源に触れる事を目指したのが遠坂家の魔道の始まりだったのだ。
 だが目的地が同じである以上は魔道と武道の複数の道を選ぶ意味は無い。
 これから先、我が家にかつて存在した武道はきっと時と血を重ねる毎に廃れてゆくだろう」
 遠坂は宝石を両拳で握り込み、両足は肩幅に開き、半身に構えた。

「しかしだ、だからこそ中にはいると思わないかね?
 無駄を承知で父が目指した道も学んだ物好きな存在《むすこ》が────!!!」

 遠坂は敵の動揺を最大限突くべく一気に畳み掛けに走る。
 掌に握り込んだ宝石の魔力を解放。
 たちまち彼の両拳が固い氷塊のグローブで覆われる。
 ゲドゥが刃のリーチを利点に変えて遠坂の心臓を刺突する。
 それを、遠坂は氷拳を利用して必要最小の動きで逸らした。
「────!?」
「ハァ───ッ!!」
 遠坂が大地を鋭く踏み込む、素早く腰を入れて、肩を連動し、振り抜かれた腕が見事な正拳突きを作り出す。
 ほぼ反射的な運動でゲドゥは片腕を胴体の前で折り畳み氷拳を防御する盾にした。
「ぐ、…!」
 だが恐ろしく拳が硬い。
 直撃を防ぎにかかった片腕が折れそうな軋みをあげる。
 さらに連携して敵の右ハイキック───…!
 続けてゲドゥは本能的に腰と頭を屈めていた。
 代行者の鍛えられた嗅覚が危機を嗅ぎ取り最優先で回避行動を取らせる。
 その直後、牧師は内心で僅かに冷や汗を流した。
 赤い魔術師の右脚がなんと爆炎を纏っている。
 さらに連続してパイルバンカーのように発射された左蹴足には電気を帯びていた。

「この男……普通の拳法使いでもない──!?」
 体内の危険信号に従うようにゲドゥは一旦その場から離脱した。
 何がなんでも一度態勢を立て直す必要がある。
 代行者の眼前にはどう考えても達人にしか見えない堂の入った不動の構えを取る魔術師が立っている。
 しかもこの男、ただの武道家ではなく自分の魔術と武術を独自に組み合わせた珍妙な戦い方をする。
 ゲドゥは己の経験で使えそうな記録を探ったが該当なし。この手のタイプは見た事も戦った事もなかった。
「やはり技が通用している………!
 そうか、どうやら二十を超える歳月は決して安くはなかったと言うことか!」
 殺戮兵器にも等しい敵の微かな狼狽を敏感に察知し、遠坂は大きく息を吸い込んだ。
 この戦い方なら対魔術戦の専門家である代行者とも凡そ五分とみるや、好機をものにせんと一気に攻める。

「な…、私と真っ向から───肉弾戦を演じる気、だと…?
 な、な…、ナメられたものだなァ! 脆弱な魔術師の分際でーーーッ!!」
「誰が好き好んで代行者と肉弾戦を演じたいものか、他に選択肢が無いだけだ!!」
「それが舐めているという!!」

 互い必殺の間合いに飛び込むと同時に最高の一撃を敵に見舞い合い防ぎ合う。
 至近距離で敵の拳を紙一重で避け、蹴りを両腕で受け止め、頭上より降る踵落としと言う名の斧を後退して外す。
 ファイターのソレと比べるにはあまりにもレベルの低い格闘戦。
 しかしそれでも、二人の命を賭けた肉弾戦は見る者の魂を揺さぶる奇妙な迫力があった───。


 刻士が武術を嗜み始めたきっかけは児戯の戯れからだった。
 遊戯感覚の体操。子供心に感じていた魔道修練のストレスを発散させる、それでいて師にも咎められない絶好の遊び。
 そんな軽い気持ちから父の見様見真似で正拳を突いた。
 彼が老いた父親に本格的に武術の師事を乞うのはもう少し後のことである。
 そして月日が流れて、児戯は魔術鍛錬前の準備運動に意味を変え、次第に彼にとっての数少ない娯楽と呼べるものへと変わっていった。
 体内の気《まりょく》の流れを敏感に感じ取り肉体を稼動させる。
 魔術の鍛錬にも通ずるこの動作は日々を重ねる毎に洗練されていった。
 どうやら遠坂刻士には魔道だけでなく父親譲りの武道の才能もあったらしい。
 そんな彼が姉や母親に聞かせて貰った全盛期の父の武術を空想するようになるにはそう時間は掛からなかった。
 亡き父が辿っていた道を夢想しながら拳を打つ。
 魔法使いの弟子だった偉大な父の幻影を追いながら拳を突く。

 そうして気が付けばはや数十年───。
 一日も欠かさず鍛錬を続けた刻士の武術は当然の結果のように達人の領域に達していた。


「──らガッ!」
「ゴ──ぁ! まだまだァーーー!!」
 人間凶器の代行者の蹴りと魔術を組み合わせた魔術師の拳が防御に入った互いの腕に悲鳴を上げさせる。
 生木でさえへし折る破壊力は防御に成功しても内蔵を痛めそうになる。
 両者は少しでも防御力を上げようと肉体に強化魔術を施してはいるが、攻撃力がそれを遥かに上回っていた。
 しかし遠坂に比べてゲドゥの勢いはまだ上がるらしく雄叫びと共に殺人拳を存分に振るい続けている。

「ファイターのマスター、遠くに下がって!」
「邪魔をさせるか小娘が!!」
 綾香が押され続ける遠坂を救うべく魔力をありったけ動員してゲドゥを周囲諸共に消し飛ばそうとする。
 だが、彼女の攻撃魔術が発動するよりもずっと早く、白銀の矢が少女を襲った。
「───きゃあああああああっ!!?」
 代行者の投げ放った凶器に反応出来た時には既に遅く、少女の片腕には無動作で射られた細剣が深々と突き刺さっていた。
「大丈夫かセイバーのマスター!!」
「他人の心配をしている場合なのか魔術師! 次は貴様にああなって貰うぞ!」
「クゥッ───!! このバケモノめ…!」
 遠坂の指輪が無数の炎を吐き出すが鬼人と化した代行者を止めるにはやや頼りない。
 人型の黒き猛獣が爪牙を剥く。
 接近するゲドゥに渾身の一発を叩き込まんと遠坂は拳を繰り出した───。




───────Interlude  out───────



 英霊たちの熾烈な激闘はいよいよ絶頂を迎えていた。
 三者全員とうに流血し、荒々しく吐き出される呼吸が殺し合いの激しさを物語っている。
 ───死力を尽くして戦う。
 三名の大英雄の戦いぶりはまさしくその表現こそが相応しい。

 闘王が宙高く跳躍する。
 狙いは大地を蹂躙するかの如く荒れ狂う砂嵐の化身。
 両手に構えるは決して主を裏切らないとされる赤い魔剣。

「巨人の大刀剣《ヨートゥン・ブラント》─────!!!」

 乾坤一擲で振り下ろされた一撃必殺の大刀は紅蓮の雷閃となってライダーの命を狙う。
 だが巨人の剣で大地は殺せても形無き砂嵐を斬るのは不可能というもの。
 ライダーは車輪を猛回転させてファイターの必殺の強撃をギリギリ躱し切ってみせた。
 両断すべき標的を見失った魔刀はそのままザグン!と硬い地面を真っ二つに分かつ。
 斬撃痕はまるで巨人の攻撃そのものだ。
 しかし太陽王は回避してしまえば恐れる必要などないと言わんばかりに即座に反撃に転じた。
 長い騎乗槍を巧みに扱い船上から闘士の動きを牽制。さらに本命に繋ぐ。土塊を捲き上げて大車輪が唸る。
 丸型チェーンソーみたいな巨大車輪の轢殺を闘王は長剣を盾にすることで防ぐ。
 圧倒的に質量に押される形で強制後退させられるファイター。
 そこへ入れ替わる形で躍り出たのは白銀の聖堂騎士である。
 気合の雄叫びも敵への憎悪も声も無い、あまりに静寂過ぎる無心の攻撃。
 しかしその冷たい鋼鉄の精神は敵を両断することにのみ集中していた。
 頭上から甲板に舞い降りようとする白銀の堕天使を搭乗させまいと騎兵は戦車を即座に滑空させる。

 口数が圧倒的に減り雰囲気までもが豹変したセイバーを一度目視しただけでライダーは戦術を大きく変更していた。
 絶対に奴を甲板に上げてはならない───。
 ライダーはあの白騎士と土俵を剣闘戦《おなじ》にした時点で敗北すると冷静に分析していた。

「チィ、些かしつこいぞクズどもが!!」
 苛立ちまじりの罵声。しぶとく追跡してくる愚者二人を五月雨の矢と戦車砲の業火で迎えてやる。
 ファラオの額に汗が滲む。
 大英雄二人の執拗な猛攻に絶えず晒され続けているライダーも相当な負担を強いられているのはまず間違いあるまい。
 しかしそれでもやはり騎兵は歩兵よりも優位なのか、
 太陽王は敵の利点を封殺する戦法を取る事で、大英雄二人を同時に敵に回しながらも見事互角の戦いを演じていた。

 疾走し続けるライダーの揚陸艦を追撃しながらファイターがセイバーに一つある提案をした。
「このまま攻め続けても恐らく我々はジリ貧で敗れる!
 あの戦車、走るだけでなく飛んだり跳ねたり奇怪な動きまでするなど予想外にも程がある。
 あれでは遅かれ早かれいずれ轢殺されてしまう。
 セイバーよ、貴公は勝負に出る気はあるか────?」

 真っ直ぐに騎士の瞳を見詰めてくる闘士の瞳。
 幾ら英霊とて体力、魔力、気力にも限界はある。
 現に彼らは血を流す程の傷を負い、戦闘を続ける毎に刻一刻と魔力を消耗し、巨大な戦車の攻撃を防ぐ度に気力を擦り減らしていた。
 このままでは闘王の言うように敗北するまでの時間が長いか短いか程度の差しかないだろう。
 だからファイターは、勝負に───危険を承知で宝具による決戦を提案した。

「────いいだろう。こちらの切り札を使わずに斬り捨てられるほど甘い相手じゃないのは確かだ。
 オレはどうあってもヤツを斃す。ならば勝つために負うのリスクなど恐るるに足りない」
「よしそれでは決まりだな。ではゆくぞセイバー!!」

 両雄揃って追跡の足を止めた。
 軽く息を整え、心を一点に集中させる。
 ライダーも二人のこの行動に何事かと戦車を一時停止させ様子を窺っている。


 唄うような祈りの誓言が聖堂騎士の口から流れてゆく。
 聖言はリミッターを解錠する鍵。聖十字を刻む挙動は神意に触れる為の自己暗示。
 清らかなる絶対の信仰心が生み出すものは無我の境地《トランスじょうたい》。
 神の御名の下に神意降臨が行なわれし時、パラディンの肉体を縛るリミッターは全て解除される。
 そして──、

「神の御名のもとに、我は常世全ての邪を斬り裂く神の光刃なり─────」

 天上の主に届けとばかりに天使の聖剣が高らかに掲げられた。
 天の絶対者がローランの祈りに応じるように、神光が聖騎士の全身を照らし染め上げる。



 ベーオウルフが装備していた武器を放棄したその直後、急激に高まる魔力と闘気。
 両腕に紅蓮の夕陽が宿る。暖かで光り輝く黄昏の閃光を放つファイターの王腕が嵐を喚び起こす。
 そして、闘王が裂帛の気合を炸裂させて両拳を打ち鳴らした。

「太陽王ラメセスよ、確かに貴公は太陽神の御子だ。ヒト以上の力を授けられた存在であろう。
 だがしかしだ、ヒトを無力と侮るな。神の子を倒す人間はここにいる────」

 無手の英雄が腕をL字状にクロスする独特の構えを取る。


「───さあ、貴様の邪神に祈れ太陽王。
              オレがおまえへの神罰だ────────ッッ!!!!」


「───ゆくぞ太陽王。そしてしかと刮目せよ。
      ヒトの拳が如何に強く重いのか、その力をとくと知るがいい──────ッッ!!!!」



 セイバーとファイターが両者同時にそれぞれの宝具に秘められし奇跡を解放した────!!


「ほぅ、奥の手《ほうぐ》での賭けに出たか、面白い見せてみろ───!!」
 向って来る二つの宝具を前にしても臆す事無く吼え返すラメセス。
 昼間に設置しておいた予備燃料タンク《オベリスク》から再び魔力を引っ張ってくる。
 太陽戦車の姿がオレンジ色の陽炎で揺らめいた。
 瞬間、激しく焔を纏って燃え上がる翼神の戦艦。
 車体の六つの大円輪が小太陽となって全てを焼き尽くせと廻り出す。
 その姿は火魂の怪物……否、これはまるで火之神が顕現したかのようであった。

 猛る英雄達があっと言う間に待ち構える騎兵との間合いを詰めていく。
 怪物じみた移動速度。特にセイバーの方が尋常ではない。

 吹き飛んでいく風景になど眼中になし。
 肉体にかかる甚大な負荷にも興味がない。
 マスターである愛くるしい眼鏡の少女の安否でも今は関心を払わず。
 己が現世に存在している聖杯に懸ける悲願さえ無意味と化した。
 この瞬間の神の剣《ローラン》が興味を持つ対象はこの世で独りのみ。
 火之神の頭頂で仁王立ちしている邪神の鬼子《ラメセス》を神意に従い撃滅する事だけが現在の騎士の存在理由。
 神意降臨によって肉体のリミッターが外されたことで聖騎士は絶大な戦闘力を解き放っていた。
 神に仕えるパラディンは真の意味で超人へと生まれ変わったのだ。

「ラーが泣いておられる───雨が恵みを齎(もたら)すとは限らず、豪雨よ時に試練となれ」
 流水を思わせる芸術的な連射性を発揮しながらライダーが上空へと無数の矢を射る。
 戦車の焔を引火させた矢が炎を帯びたまま火雨となって周辺一帯に絨毯爆撃の如く降り注ぐ。
 しかし今更こんなものは小手調べにも値しない。
 勇者達の体に矢が届く頃には全て終わっていた。
 人では視認不可の幾重もの剣閃。そして原型を失った矢の残骸が無数に地面に散らばる。
 騎士と闘士は押し寄せる大量の火矢の洗礼を物ともせずに進撃を続ける。
 戦車がすぐ眼前に迫り、残すは船上に乗り込むだけの所までやってきた。

「よい緊張感だ、これぞ戦争の醍醐味よ。さて、貴様達の底を見せて貰うぞ!!」
 ここでついに騎兵が戦車を発進させた。
 急な回転を加えられた後輪が巨大な車体を持ち上げる。二輪立ちする兵器。
 ファラオが狙うのは勿論───。
「───!」
 あとは火之神に跳び乗りるだけという場面で、突如二人の頭上と進路を船底の壁が覆う。
 敵の搭乗を阻むばかりか戦艦の巨重で両名を踏み潰す気でいる。
 はたして一体何トンもの重量があるのか。
 それさえも計り知れない巨大な戦車を、
「ハアアアァァッ! こんなもの、いちいち躱す──までもないッ!!」
 恐ろしいことになんと闘王は真正面から拳骨一発で殴り返した───!!

 王腕が叩き込まれた瞬間、巨大な艦はまるで巨人に蹴り飛ばされたかのように宙に撥ね飛ばされた。
「ふ…、あは、ふはははは! これは驚いた。いざ体感してみるとなんという馬鹿げた怪力だ!
 なるほど闘王の豪力はよく分かった。
 しかしもう一匹の方はイマイチ─────、………ッ?!!!」
 と、ライダーがセイバーの方へ視線を送ったその時──。

 全身を痺れさす毒針のような悪寒が、ライダーに全力で手綱を引かせていた。

 炎天の船が最も安全地帯であろう夜空へと逃飛する。
 その僅かな刹那、淡い光りの一閃と白い影がラメセスには視えた。
 そして、体に虚無な痛みが走る。
 痛くないのでない。痛すぎて、とても痛すぎて痛むことさえ一瞬忘却してしまった激痛。
 鋭利などという次元ではないモノで身を斬り裂かれた痛みが太陽王を襲っていた。

「あがは、セ、セイバァァアアアアーーーッ!!
 オゴ、ふっ…き、貴様ぁ、この代償《いたみ》は高くつくぞ! その命で絶対支払わせてくれるッ!!」
 ラメセスは胸部から血が激しく噴き出る傷口を左手で押さえながら犯人の名を怨嗟を篭めて叫んだ。
 なんという奴だと、フランク帝国最強と謳われたパラディンの真価を太陽王はその身を以て理解した。
 闘王が船体を撥ね返したあの一瞬の間でなんと奴は悪魔めいた速さで戦車の側面に回り込むと、さらに見事な一撃まで加えていった。
 もしあの時ライダーが船を飛翔させていなければ間違いなく即死していただろう。
 しかし真に畏怖し注意すべきはパラディンの異常な身体能力ではなく、聖剣デュランダルの異質な切れ味の方だ。
 聖剣の切っ先がほんの僅か触れただけなのに胴が一刀両断されたのかと錯覚した程である。
 いくら盾の宝具でも生半可な代物ではきっと守りにもならないと痛感した。

「………傷が浅い、退治し損なった」
 聖騎士は白刃に付着した血糊を穢らわしそうにヒュンっと振り払うと、とても人間の眼と思えぬ虚無な瞳で天空の敵を見上げた。
 倒せなかったことへの落胆もない。
 彼の瞳にあるのはただ神に代わって敵を撃滅する意志だけだ。
「しかし太陽王は深傷だ。とは言え少々追い詰め過ぎたか。
 ライダーは間違いなく宝具を解放してくるぞ。
 結局のところ、やはり我ら英霊の戦いは最後には宝具のぶつかり合いになる運命《さだめ》か」
 緊張感を纏ったままそう呟いて闘王が力強く身構えた。


「一撃粉砕、魔滅竜倒───」
 結局ライダーの戦車にダメージの蓄積は殆ど与えられていない。
 よってやるならば一撃の下に太陽王の神艦を粉砕せねばならない。
 だがファイターに悲観も絶望もない。
 一騎討ちによる宝具の撃ち合いならばまだしも今はセイバーがいてくれる。
 一人が駄目でも二人ならきっと活路を開ける事を王は誰よりも良く知っていた。
 ベーオウルフは決して勝てない勝負ではないと右の拳に全ての力を集約させながら自らを鼓舞する。


「その魂に神罰を───────奥義、絶葬天剣」
 聖騎士も奥義を以て神罰を下すべく聖剣を額に当てて構えた。
 敵が何をしてこうようがローランには関係ない。
 ただヤツに、己のありったけを篭めて絶殺するだけ。


「痛む、傷が燃えるように痛む…!
 ゆ、許せん……高貴なる神子の身に…高貴なるこの俺様の体に刀傷をォ…絶対に許さん!!!
 ファラオへの殺傷行為は問答無用で極刑に値する!
 覚悟はいいかカスめ! もう終わりだ! これですべてに幕引きさせてくれるぞッ!!
 冥闇に沈むがいい。さあ死んで償え、神判の時だ─────!!!!」


 太陽王ラメセスが『王奉る太陽像』の貯蔵魔力の全部を総動員して翼神の船に生命を与える。
 群青色の天空に王によって形作られた神の化身が出現する。
 火の粉を降らして燃え盛るその輝きは本物の太陽のように眩くそして何より熱い。
 神域の焔が地上を燃やし尽くさんと轟々と荒ぶっていた。
 神火の権化と竜殺しの魔拳と退魔の聖刃。
 その三つの神秘が放出する攻撃的な魔力の波動は強大な衝撃の波となって地表にしがみつく葦どもを薙ぎ倒す。
 戦闘を中断させる程のこの三重の衝撃波は三人のマスターにも衝撃を与えた。
「く、お…! な、なんだこの魔力は!?」
「きゃぁぁああああ!! ──ッ、ま、まさかライダーの宝具……!!?」
 咄嗟に天を仰ぎ見るマスターたち。
 夜空には突如として出現した場違いな太陽がいた。
 しかもその太陽の真下には、同じように輝かしい英雄の光を放ち続ける二つの勇者の宝具が───!

「い、いかん! こちらの決着がつくよりも先に宝具戦になってしまった!?」
 遠坂の悲鳴には苦々しい誤算の色に染まっていた。
 それとは対照的にゲドゥからは笑い声が迸る。
「ふ、くははははははは! 残念だったな魔術師、どうやら我々の勝利のようだ」
「貴様を殺せればまだ───!」
 危険を承知で遠坂が一か八かの特攻をかける。
 だがそんな破れかぶれで切り崩せる程生易しい代行者ではない。
 ゲドゥは遠坂の魔術格闘にもそろそろ慣れてきたと言わんばかりの堅固な防御能力で敵の猛攻を堅実に防いでいた。


「とうとう最悪の宝具が撃たれる………」
 綾香は太陽の神をじーっと睨み続けていた。
 セイバーの宝具とライダーの宝具では火力が圧倒的に違う。
 対人宝具と対軍宝具はその規模の差からも分かるように、単純な力比べではまず勝負にすらならない。
 あの太陽を打倒したいのならばあれ以上の破壊力を有する宝具を用意するか、または神代を生きた英雄達が持つような特殊な概念で括られた超兵装が必要だ。
 たとえば、必ず心臓を貫く魔槍や絶対に先攻する戦神の短剣。あるいは最強の魔剣や最高の聖剣でもいい。
 つもるところ太陽王の大火力を真っ向から打ち破るか、最初から火力勝負をせず概念の勝負で勝つしかないのだ。

 しかし悔しい事にローランにはそのどちらも保有していない。
 ならばどうする。もはやチェックメイトに近い状況で何が出来る。
 逃げるか?
 論外だ。自分もセイバーも逃げるつもりなんて毛頭ないし、そもそも何をやっても逃げられない。
 宝具を作る?
 それはいい考えだ! そんなモノがホイホイ作れるのなら誰も苦労しない。都合の良い奇跡などない。
 デュランダルとローランを信じて真正面から迎え撃たせる?
 ─────保留。

「───ハ…ァ」
 心臓がバクバク鳴っている。
 つい呼吸をするのを忘れてしまう。
 気付けば無意識の内に腕を上げていた。
 緊張は増す一方で脳を駆け巡る情報は交通渋滞。血液が濁流みたいになって五体を循環する。
 だけど彼女の頭は生まれてからいままでに一度も感じた事がないほど冴え澄み渡っていた。


「死者の国へ消えろ! 神々に楯突く咎人がーーーーーッ!!」
 太陽が堕天する。
 やはり回避は到底叶いそうにない。
 高高度から徐々に速度を倍増させながら天落してくる火之神。
 あれが英雄達の待ち構える地上に直撃すればきっと遠坂家私有地諸共全てを巻き込んで蒸発するに違いない。
 綾香はきっぱりと諦めた。


「─────────太光煌めく《アメン》」


 ラメセスが高らかに真名を叫ぶ。
 紡がれる言霊は古代の神を顕現させるただ一つの呪文である。
 宝具解放を補助する太陽像から怒涛の勢いで大量の魔力が神の船へと殺到する。
 王の神艦を激しく巡る魔力が血肉となって雄大な神翼を生んだ。
 炎の翼を持った戦車はまるで鷹。灼熱の神鳥だ。
 猛禽はファラオにとって最も身近な守護神の現身である。
 故にラメセスは負けることなど微塵も考慮しない。

 日輪を想わす黄金の翼神の顕現がなされたこの瞬間より。

 王家の守護神に護られている王が滅ぶなど絶対に有り得ないのだから─────!!!



「王の神判《ラー》────────────────!!!!!!!」



 小細工も遠回りも手加減も、一切無用の最高の神罰《さつい》が放たれる。
 網膜を白に塗り上げる爆裂が起きた。
 ブーストされてさらに速度を倍化させた黄金の翼神。

 同時に、セイバーが死を届けにやって来た翼神目掛けて特攻する。
 圧倒的破壊力を前にしても神の剣は一歩足りとも退《しりぞ》くことをしなかった。
 否、ここで退くことそれ即ち己が神の神威の否定に他ならないが故に。

 聖騎士がデュランダルの腹を正面に向け、刀身は水平に構える。
「────我がデュランダルは何人にも決して砕けはしない」
 その構えは、いつぞや闘王の紅の猟犬《フルンディング》を完全防御した際に見せた聖盾の構え。
 大きさこそ掌サイズでしかないが、さりとて決して砕ける事を知らない不滅の盾。

 世界最小にして世界最硬の盾でローランは太陽の翼神との勝負に出る────!


 防げるとセイバーは確信した。
 殺ったとライダーが確信した。



「───────」
 ────激突の刹那。
 両雄の一大決戦から眼を逸らさずに見守っていた綾香の思考が真っ白に染まってしまった。

 回避は不可だ。どれだけ策を講じても逃げの道を諦めない限り先はない。
 令呪による瞬間移動で躱させても所詮はその場凌ぎの時間稼ぎ。根本的な解決にはなってない。
 だから一見無謀とも思える純白の騎士の行為も間違ってはいないのだ。
 ここで逃げているような臆病者にはあの強大な王者は絶対に斃せない。
 セイバーは本気で倒すつもりでいる。
 圧倒的不利など知らんとばかりに果敢に前へ進んだ。
 あの恐ろしい悪魔みたいな男を。許し難き仇敵を。悲願の前に立ち塞がる障害を。
 あんな小さな盾に自身の命運も誇りも希望も何もかもを預けてそれでもセイバーは立ち向かった。

 ローランが見せてくれた勇猛果敢な前進が綾香に勇気を与えてくれる。

 そうだ、信じろ、この瞬間だけは沙条綾香《わたし》は誰よりも自分自身を信じなくてはいけない。
 昨日までの自分を信じなくていい。
 今日の自分だって信じなくていい。
 明日からの自分も信じなくていい。
 だってわたしは特別《しゅじんこう》なんかじゃない。
 勝利なんて約束されていない。選ばれた特殊な力も持っていない。
 この聖杯戦争で少しはマシな腕前に成長したけどそれで主人公みたいに劇的に勝利出来た訳でもない。
 あるのは他の者《マスター》でも持っている三画の聖痕のみ。
 こんなの全然凄くもなんともない。全く特別じゃない。所詮は登場人物《だれも》が持ってる標準装備だ。
 自分に与えられたのはこの腕に刻まれた三つの奇跡《れいじゅ》だけ。
 そんなやつを信じろったって無理なのは誰よりも自分が一番わかってる。

 
 だけど────、

                   綾香が天高らかに片腕を振り上げた。

    牧師に潰された腕の痛みを無視して全開で令呪に魔力を叩き込む。

                 命令する奇跡《ないよう》は戦闘前から既に決めていた。

     足りなかったのは成否が不明の綱渡りを命ずる勇気と、

                     それを思い付いた自分を信じる心だけ。



 だけど、この瞬間《とき》だけは……、

 沙条綾香《アナタ》は間違っていないとわたしが約束する────!!


 神の騎士の聖盾と神子の小太陽が衝突し合うその刹那。



「────現世の主君が汝に命じる。
     わたしの騎士よ、一切の抵抗をするな───────!!!!」



 彼らの命運を別ける一撃を撃ち込んだ───!


 その場にいた全ての者の時が止まる。
「───────な」
 特にローランは迫る仇敵を目前にして死ねと命じた少女を空っぽの瞳で睨めつけていた。
 神意降臨《じこあんじ》など一発で醒めてしまった。
 この土壇場で裏切られた───。
 信頼していた主のまさかの裏切りに絶望感と虚脱感が広がっていく。


 なのに、彼の主君の大きな瞳にはただ純粋に、

 ───わたしを信じて───

 という真っ直ぐな意志《キモチ》だけが宿っていた。


「──────あ。う、お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
 直撃を前にしてセイバーが吼えた。
 たとえ令呪の絶対命令だとしても大英雄ローランならばいくらかは抗える。
 何があろうと自分は負ける訳にはいかないのだ。
 この強敵を斃し綾香に代わって彼女の祖父の仇を討ってやり、
 同時に侮辱された愛馬の名誉を守って、
 そして聖杯を手に入れてオードを救わないといけないのだ。

 ───だから、騎士は、

 ドグンと心臓が大きく跳ねた。
 瞬きよりもなお疾く脳裏を通過《フラッシュバック》してゆく少女との信頼《おもいで》。

「───ああ大丈夫、彼女はオレを裏切らない」

 たとえ一緒に過ごした短くとも、思い出《きおく》が訴えかけてくる。
 おまえの心から信じた主君は絶対に裏切ることはないのだと。

 瞼を見開いて聖剣を下ろす──────!!


「信じりゃいいんだなぁぁぁあああああアヤカァァァーーーッ!!!」

 その直後、黄金の翼神の嘴がセイバーの体の真ん中を完璧に捉えた。
 あっさりと砕ける騎士の白銀の甲冑。
 こんなものでは火之神の焔を遮る防具にさえならない。
 否、それを責めるならそもそも聖盾での防御も不正解であったのだ。
 たとえデュランダルは砕けなくとも、対軍宝具が放射する莫大な劫火のエネルギーにローラン自身が耐えられない。

 ラメセスが今まさに砕け散ってゆかんとする敵に笑みを送る。
 決死の表情をした二人の視線が絡み合う。
 さらば、そして死ねと太陽王の両の眼が雄弁に語っていた。

 騎士の腹を大穴が空くような衝撃が貫く。
 セイバーを貫通し走り去ってゆく太陽の戦車。
 大車輪に轢き潰されて四散する手足。
 巨大な車体に蹂躙されて砕け散る存在。
 頑丈な船底に完全破壊されて滅ぶ生命。
 そして神の聖炎で焼き尽くされる魂。
 聖堂騎士の火葬場跡に残ったのは狂信者の原型も留めぬ無惨な死骸。

 ライダーは当然のように敵を粉砕し殺して、当然のように勝利した。




 ────なのに、そこに在る筈の敗者の死体《あかし》がどこにもないとは一体どういうことなのか?



「ば、馬鹿───な……?
 ばかな、バカな馬鹿なバカなばかな馬鹿なバカなバカなバカな、そんなバカな────ッ!!!??」
「─────は、ははっ、すげえ…なんか知らねえけどスゲエぞ! 信じろってコレのことかアヤカッ!!」

 セイバーは死んでいなかった。
 いやそれどころかダメージすらない。

 木っ端微塵に滅殺されるどころか、
 たった一人の騎士が巨大な黄金の翼神の神攻を完璧に受け止めていた───!!!

 聖堂騎士と太陽船の激突は完全に拮抗している。
 衝突の余波で発生した激烈な衝撃波が両者の周囲をズタズタに引き裂いても、騎士は無傷のままそこに存在していた。
 令呪の強権によって無抵抗状態にされている今のローランを傷付けられる者など何一つとして存在しない。

「わたしの勝ちだ!!!」
 綾香がその神話時代のような幻想光景に拳を握り締めて勝ち鬨を上げた。
 これこそが沙条綾香が宿敵ライダーを打倒する為に撃ち込んだ彼らの命運を分かつ奇跡《コマンドスペル》。
 あの強大な仇敵を真正面から打破出来る、彼女だけに与えられた唯一の手段《こうげき》。
 綾香はセイバーを令呪で強制的に完全無防備状態にさせる事で絶対無敵の天使の鎧である『聖なる天鎧』を任意で誘発させたのだ。
 この瞬間のパラディンはまさに不死身にして無敵。
 ラメセスが如何に強力無比な超宝具を保有していようが関係ない。
 ローランが天の聖鎧を纏っている限り、誰であろうが騎士を傷付けることなど絶対に叶わないのだから───!!

「お…、おのれクソガキャァ! おんのれぇファラオに対し小賢しい真似をぉオオオオッッ!!」
 ライダーが烈火の如く激昂する。
 完全勝利していた筈の勝負がたかが小娘一匹の力で完全な互角にされているなどありえない。
 否、己が神々の神判が無効化されるなど決してあってはならない!!
 ましてやこのラメセスが負けるなど、妻のミイラを救出する前に敗れてしまうなぞ、絶対に許されていないのだ!
 ラメセスが瞬きの内に自身に残された手札を模索する。
 すると王の必死の想いが天に通じたのか、
 一枚だけあった───。
 連中にも鬼札が残っていたように、太陽王最強の鬼札が自分にもまだ残されていたのだ。

「────ク」
 思わずライダーの口元が吊上がる。
 勝利の女神と幸運の女神と逆転の女神に同時に愛された気分になってしまう。
 ファラオが手にしたラストカードの名は『力強き太陽神の正義』。
 太陽王ラメセスが持つ攻撃の中で最大にして最強の破壊力を保有する掟破りの禁呪《おうぎ》。
 今この瞬間にもぶっ放している『太光煌めく王の神判』の魔力は『王奉る太陽像』の貯蓄を空にして賄っていた。
 だからライダー自身の魔力量はまだ必要十分に残っている。
 一発なら撃てる筈。いやなにがなんでも撃つ……ッ!!
 だがしかし忘れるなかれ。
 この秘奥が禁呪の類であることを。
 あくまで日中限定での使用しか許されない諸刃の剣だということを。

 もし万が一にも太陽《ラー》の加護下にない夜間で使おうものなら───……、
 その過重負荷に耐えられなくなった貴様御自慢の機体は確実に崩壊し跡形も無く消し飛ぶぞ───。


 脳裏に電流となって走った警告を胸にライダーは視線を一瞬にして巡らせ周囲状況を確認した。
 問題はない。敵は全員有効範囲内に収まっている。
 翼神の戦車が自爆で消えて失くなろうとも、倒すべき敵もこれで全員消え失せるのであればもはや宝具など不要。
 ただマスターである牧師も一緒に攻撃レンジ内に入ってしまっているが?
 それも影響なし、いやむしろ好都合。
 どの道あの男は聖杯降霊前に殺す予定だった。
 聖杯を手に入れるのは王独りだけでいい。
 ならば全行程問題無し───。

「ラーの恒温で何もかもすべて終わってしまえ!!!」
 太陽王は自らの宝具の爆砕を以てこの聖杯戦争に終止符を打つ。

「ファイターのマスターお願い!!」
 綾香が上空に視線を向けたまま友軍に対して合図を出す。
 少女の意図を一瞬で察した遠坂が絶対の好機を逃すまいと手を伸ばす。
 同様に敵の狙いを悟ったゲドゥが絶叫する。
「ライダーーーー!! 上空からだッ躱せぇえええーーーーーーーーッ!!!」


「───御三家の一角遠坂の従えし剣にいま命ずる!
              闘王よ、我らが敵を一撃で沈めろォ─────ッ!!!」


 その絶対尊守の命令は誰がために。
 それは……、

           ───この場においてただ独り───、


「力強き太陽《ウセルマ》───────な、ぁ……」


 その瞬間勝敗は決した。

 竜拳を構えたまま夜天高くより一直線に急降下して来た伏兵《ソイツ》の存在に、

 ────ラメセスの思考は凍結した。


「うおおぉぉぉおおおおぉおぉおお……───幻想砕く《ドラゴン》」


       ────貴き幻想すらも粉々に破砕する勇者のために────!!!


「無双の王拳《スレイヤー》──────────!!!!!!!」


 正真正銘の一撃必殺が神雷となって太陽の化身を穿ち貫いた。
 遠坂が出し惜しみせずに使った令呪の後押しは確かに闘王の速度を上げ王腕の破壊力を倍増させた。
 故に其の一打は問答無用の一撃粉砕。
 力を失い四方八方へと粉々に砕け散ってゆく輝く翼神の船。
 崩れ去る足場から脱出しようともせず、ライダーは軽く舌打ちをした。

 なぜなら、王の赤い瞳には再動した白銀の死神の姿がハッキリと映っていたから───


「絶葬《クライスト》───────天剣《クロス》」

 迫り来る逃れられぬ絶殺。
 白き死神の動きはまるでスローモーションのようで。
 それがあまりに死の直前に視るという走馬灯みたいだったから、つい最愛の女の幻影が視えてしまった。

「すまぬなネフェルタリよ………おまえのミイラを取り戻すのにはもう少しばかり時を要しそうだ。
 だが心配せんでよいぞ、安心するがいい。
 必ずや取り戻してみせよう───たとえ星が滅ぶほどの時間が掛かろうと、必ずな。
 だから我が最愛の妻よ、そなたは夫をただ信じて待てばよい──────」


 満天の綺羅星が輝いている天空を───、
 否、ネフェルタリだけを見詰めながらラメセスはそんな愛に満ちた独白で己が最期を締め括る。

 ───そしてその直後、

 ローランのデュランダルが刻む絶殺剣が太陽王の肉体を十字に両断していた─────。

 

          ◇                      ◇



 ─────ライダーが敗れ去ったのとほぼ同時に、同じくゲドゥ牧師もまた敗北した。

 轟音と高熱を爆裂させる遠坂の魔術拳。
 文句なしの会心の一打。
 直撃を受けたゲドゥは受け身すら取れず錐揉みになりながらゴシャッと大地に沈んだ。
 そしてピクリとも動かなくなった。
「は、ハッ、ハ…ッ、ふぅぅ…押忍」
 荒い吐息を整えながら、遠坂は拳にいつまで残る余韻───会心の手応えに自らの勝利を確信した。

 極僅かな反応の差が遠坂刻士とゲドゥ牧師の明暗を分けた。
 ライダーの敗退を予期していなかった者と、ファイターの勝利を確信していた者の差が結果として現われたのである。
 さらにもう一つ、彼らの勝因を挙げるとすればそれは──。
 ゲドゥが最後の令呪を使えなかった点も彼らの勝敗に大きな影響を与えていた。
 牧師は最後まで勝ち残った暁には偽りの聖杯否定の為、令呪を使用し最後の邪魔者《ライダー》を排除する必然性があった。
 故に代行者は敵対者達が次々に令呪を使って支援する最中であっても最後の一画を残し続ける他なかったのだ。



          ◇                       ◇



 綾香はベーオウルフの聖拳が太陽艦を粉砕すると同時に、
 ラメセスへと肉薄したローランの天剣が敵の長身を見事斬り捨てた瞬間をしっかりとその眼で見届けた。
 しかし最期は驚く程の潔さで消滅していったライダーのせいで仇を討った実感がまるで湧いてこない。
 まだ終わってないような、まだライダーが実は存命しているような、そんな錯覚につい陥りそうになる。
 だが、彼女のそんな妄想を斬り払うかのように、聖剣の鳴らすヒュンという風切音が少女を現実へと呼び醒まさせた。
 今のが紛れもないリアルであった事を証明する白刃に付着した血を払い落とすと、
 純白のパラディンはデュランダルの剣尖を一度だけ少女の方へ向けてから、またすぐに納刀した。
 そして最後に、雄々しい笑みを浮かべて彼女に向かってガッツポーズをした。

「た……倒し、た? ほ、本当に? わたしたちで、ライダーを倒せたの……?」
 未だ信じられない顔のマスターにセイバーは一回だけ大きく首肯する。
 すると、
「────や、やった……やった! やったやったやったぁ!!!」
 彼女の唇から自然と喝采が湧き上がっていた。
 半信半疑だった心も騎士のあの嬉しそうな勇姿を見ればすんなりと納得できた。
 間違いない。自分達は間違いなく仇敵をその手で討ち果たしてみせたのだ。
 自身に胸を張れる成果を成し遂げたんだ。


 万歳までして大興奮する主君の姿は歳相応の可愛らしい少女のようだった。
 それを満足そうに眺めながらセイバーは地面にへたり込んだ。
 緊張の糸が解けたのかファイターもまた騎士と同じように地に片膝を立てて座り込んでいる。

「それにしても………ぷっハアア~、死ぬほど疲れたぁ~」
 セイバーもファイターも両者共に魔力体力気力をごっそりと消耗し尽くしていた。
 まさしく死力を尽くし切った戦い。
 まさにギリギリの極限状態と呼ぶに相応しい大決戦であった。
 マスターの機転の差で勝利を得る事は出来たが、果たして自分等の力だけで挑んでいた場合どうなっていたことやら。
 自分達の力だけでも絶対に勝っていたと断言するほどこの二人の大英雄は愚かでもなければ自惚れてもいない。
 そう思わずにはいられぬまでにラメセスという王はその偉名に恥じないだけの強さを誇っていたのだ。

 しかしそれもなんとか撃破した。
 ふと騎士と闘士の眼が合う。
 ライダーが消滅し、そして最後に残ったのもこの二騎の英霊。
 だから彼らが倒すべき敵はあと一組。
 そう、あと残すは眼の前の一騎のみで聖杯へと手が届くのだ。



「さて、セイバーのマスターよ。おっと、そう身構えなくていい、不意打ちなどしない。
 まずはライダー達との戦いで得られた勝利に感謝の意を表したいのだ。
 君達との共闘がなければ太陽王や代行者をこうして撃破するのは難しかっただろうからね」
 遠坂が涼やかな声と表情で礼の言葉を述べながら、ゆったりと綾香に近づいて行く。
 とりあえず敵意や殺意の類は感じないので彼女も身構えるのを止めて彼の話に耳を傾けた。
「それはお互い様ね。わたし達の方もファイターが居なかったら最後の反撃が出来なかったもの」
 綾香の表情に淡い笑みが浮かぶ。
 ではお互い様だな、と遠坂の顔にも微笑が溢れた。

「────ついに、ついに聖杯に選ばれし者が決定する刻がきた。
 長くそして苛烈な闘争を潜り抜けてこの聖杯降霊の地へ辿り着いたのは我々のみ。
 そしていよいよ残るマスターは私と君だけだ────」


 ライダーが消滅した事で小聖杯に五つの御霊が貯えられた。
 それに伴い閉じていた門が徐々に開かれ始めてゆく。
 遠坂邸の真上、つまり中空にはぽっかりと口を開けた穴が───真白の"孔"が薄らと満月のように出現していた。


「やはり前回と同様に三騎士クラスであるセイバーのサーヴァントを従えたマスターが最後まで勝ち残ってきたか。
 ベーオウルフとローラン。双方共にセイバークラスに該当出来る最強の大英雄達だ。
 だがいくら与えられた剣が最強であっても、使い手が未熟であれば名剣は忽ちナマクラと堕すもの。
 そうだな敢えて言おう、君がまさにそれであった。
 ランサーを従えていた頃の君は名槍を手にするには分不相応なマスターでしかなかった」

 遠坂は少女に対してまるで詫びれる様子もなく淡々と語っている。
 そこに侮蔑や嘲笑といった負の感情はない。
 なぜなら赤い紳士はただありのままの事実を喋っているから。
 なまじ本当の事であるせいか、綾香も何も反論せず黙って聞いていた。

「だがしかし、その分不相応の新米魔術師は数多の試練と死線を突破して、ついに最後の戦いにまで駒を進めて来た。
 しかもそのマスターはただの幸運だけでここまで到ったのではない。
 こちらの想像を遥かに超える急成長を見せて勝ち上ってきた新鋭のマスターだった。
 ああ、こう言うのもなんではあるが……セイバーのマスターよ。
 君は私の前に立ちはだかる最後の相手として、最も相応しい人物なのかもしれない」
「それ、褒め言葉として受け取っておくわ。勿論最も戦いたくなかった相手って意味でね?」
 遠坂の思わぬ本音に綾香は強気な表情で応じる。
 彼女の返事に紳士も軽く笑う。
 そして男は少女に対し右手を差し出しながら爽やかな顔で握手を求めてきた。


「お互い代行者との戦いで激しく消耗してはいるが、これは聖杯に選ばれる為の最後の競い合いだ。
 正々堂々と戦お────あが……───ァ?」
「こちらこそ────え?」


 その一瞬、一体何が起こったのか少女は本気で理解出来なかった。
 相手と握手を交わそうと自分の右手を男に向けて差し出した。
 直後、自分を取り巻く何もかもが豹変していた。
 遠坂の胴体から突然銀色の棘々が複数飛び出し、その尖端からは夥しい紅い雫がポタポタと滴り落ちていて、
 さらに当事者である筈の遠坂は本気でナンダコレ?って顔で呆けながらソレを見下ろしていた。
 ナンダコレじゃない、お腹から飛び出してるそれ……剣だよ。

 しかも明らかに見覚えの凶器───黒鍵。

「ば、バカ…な…」
「な、な、なんで……?」
 遠坂の背後にいた黒い影《ソイツ》に二人は無意識に戦慄した声を漏らした。
 地を這う毒蜘蛛が。
 屍食鬼みたいな生き汚さで。
 生き残った生者を一緒に黄泉へ引き摺り込まんと、

 死した筈のゲドゥ牧師が怨霊のように黄泉返《たちあが》った─────。

「と、遠坂殿ォーーーーーーッ!!!」
 死に損ないの屍食鬼が魔術師へ特攻した。
 マスターの緊急事態を察知したファイターが旋風を巻いて遠坂の許へと飛ぶ。
「な、なんて、失態だ…、最後の最後で、奴の死亡確認を怠る……とはな────がぶはっ!!!」
 紅い魔術師から己の失態を哂う自嘲が零れた。
 内蔵を破壊され、正しい循環が出来なくなった血液が遠坂の喉から逆流する。

「駄目だ間に合わん! 遠坂殿令呪を使えーーーッッ!!!」
 だがファイターの叫びも救出の手も間に合わず、
「シャアアアアアオオアアアアアア!!」
 怨霊と化したゲドゥはさらに五本の黒鍵で遠坂の身体を刺し貫いた。
 過剰なとどめを受けた遠坂はまともな抵抗さえ叶わず、大地に崩れ落ちるようにして沈んだ。

 しかしそれだけの生贄でエクスキューターは止まらない。
 まるで暴走の果てにレールを踏み外し脱線した機関車のようだ。
 牧師の勢いはもはやもう一度死すまでは周囲を巻き添えにし続けるという厄災そのものだった。
 そんな狂牙が今度は綾香の身に襲いかかる───!

「やべえ疾くそこから逃げろアヤカーーーーーーーー!!!」
 セイバーもファイターと同様に迅速に主の許へと舞い戻ろうとしていた。
 しかし距離が絶望的なまでに遠い。
 ライダーとの戦闘の余波にマスターたちを巻き込むまいとしたのが最悪の形で裏目に出てしまった。

 斃れる遠坂を目の当たりにして間に合わないと本能で悟った綾香は早急に最後の令呪を発動させようと───
「セイバーすぐ此処に戻───」
「オ"オ"ア"ア"ア"ア"アアアアアアア"アア"アアア"ァッァ"ァァアア"ア"ア"アア"アア"ッッッッ!!!」
 怨嗟を上げながら怖気のする瞬発力で迫る黒の凶星。
 そして凶人は令呪の使用よりも一手速く、石をも砕く殺人拳で少女の華奢な肋骨を完璧にへし折った。
「────げ、ゴッホブ───……!!!!」
 短く不細工な悲鳴が零れる。
 代行者はさらに逃げられぬように少女の左脚を蹴り砕くと、次いで長めの黒髪を鷲掴みにし頭を地面に力一杯叩き付る。
「きゃああああああああ"あ"あ"!! いぎゃ、うッかは……っ!」
 耳を防ぎたくなる女の痛々しい絶叫を眼の前にしようが、能面みたいに顔色を一切変えない外道牧師。
 殺人鬼はただ血を求めて拳だけを動かしていた。
 死の怨霊は何の感情もなくただただ冷酷かつ丁寧に丁寧に少女の肉体を破壊してゆく。
 なんて残酷な仕打ち。少女は抵抗も許されず嬲られるだけの人形だった。
 片脚は粉砕骨折、片腕は刺し貫かれ、肋も折られ、内蔵は傷つき、口からは血を吐いていた。

 一瞬。本当に、ほんの一瞬の出来事だった。
 そして全てもまた、一瞬で終わった。

「───ぁ、ぉ…、──────ぅ……──」
 半殺しはなんと慈悲深く、そして生温いことか。
 これならばいっそ即死させてくれた方がまだ有り難い。
 拷問の嵐にあっという間に飲み込まれた綾香は虫の息になりかけていた。
 少女が見るも無残な……あまりに凄惨過ぎる状態になっても、それでもゲドゥはまだ手を休めようとはしない。
 返り血を浴びようがお構い無しに凶拳を振るっていた。
 悪魔は少女の魂を完全に道連れにするつもりだった。
 ゲドゥが力無く仰向けに倒れている綾香に馬乗りになる形でのしかかる。
 そして最後の一撃を放とうと岩石より硬い拳骨を大きく振り被った。
「─────、ぁぁ」
 ぼんやりと霞がかった視界の中央に鉄槌みたいな無骨で凶悪な拳骨が見えている。
 きっと次で顔面がペシャンコになるんだろうなあ。
 などと綾香はまるで他人事のような感想を抱いていた。

 と───そこへようやく、遅れてきた白き弾丸が到達した。
「やめろぉぉおおおお!!」
 やっとの思いで彼女の許へと駆け付けた騎士は怒りのすべてを叩き付けるようにして轟雷を振るう。
「うがあああああああああ!!」
 なのに代行者は己に向けられた死すらも意にも介さぬとばかりに最期の一瞬まで少女に対する加撃を止めようとしない。
「いい加減にくたばりやがれテメエーーーー!!!」
「全ては教会の望むままに──────アーメン」
 鉄槌が落ちた。
 人間如きには目視も出来ぬその強烈な剣閃はゲドゥの全身をバラバラに引き千切るほどの破壊力を見せて、
 一度は死した怨霊を再び奈落の底へ突き堕としていた────。





「アヤカ?! アヤカッ! 寝るな、寝るなアヤカ! なあ目を覚ませって!」
 血塗れた女は動かない。
「マスター、マスター! 私の声が聞こえぬのか遠坂殿!!」
 血塗れた男は動かない。

 家臣達の懸命の呼び掛け。しかし主君からの応答はない。
 何度試そうが返事はなく。
 呼び掛けは空しく空回るのみだ。
 へんじはない。
 へんじがない。
 返事は無い。
 何度呼びかけようが返事など───無い。

 それはそうだろう。
 なにしろ彼女たちの心臓の鼓動は─────、


 とっくに停止しているのだから。



「オイ、なあアヤ…カ? ア、アヤカーーーーーーーーーーーーッッ!!!」
「頼むから目を、目を開けてくれ遠坂殿ーーーーーーーーーー!!!」

 何もかもが凍り付いた惨劇の庭。
 朱色のステージには、ただ騎士と戦士の悲痛な叫びだけが木霊していた。









──────V&F Side──────

助けろ!ウェイバー教授!第三十六回


F「ぎゃああああああああーーー! イタチの最後っ屁があああ!!」
槍「ええええええええええーーー! そんな莫迦なーーーーーー!?」
間「確変キタァアアアアアアアアアアア!!」
V「オイオイ…、こちらの予想を上回る数の討ち死が同時に起きたぞ……」
槍「莫迦を申すな教授殿! 綾香殿はまだ死んでおらんでござるよっ!」
牧「いいや、抜かりはない。おまえはもう死んでいる。経絡秘孔を北斗百裂拳で百回は突いた」
弓「用が済めば女子供でも容赦無しとか鬼畜変態紳士の所行じゃな」
ミ「ゲドゥ牧師、任務お疲れ様でした」
ジ「ゲドゥ牧師お疲れ様です!
  最期の怒涛のラッシュで異端どもがバッタバッタと倒れていく様は爽快でしたよ」
牧「ミリル、それにジーンも。ああお前達もご苦労だった。
  任務完遂は果たせなかったが一応最低限の目的は達した。
  マスターが全て消えれば聖杯は誰の手にも渡らないで済む。後は聖堂教会の後任に任せればよかろう」
ミ「あの状況で引っ繰り返すとはさすがですねゲドゥ牧師」
間「でかした代行者! よくぞ遠坂を血祭りに上げてくれた! 胸がスカッとした!」
ソ「でかしたセイバー! よくぞライダーを斬り殺してくれた! 胸がスカッとした!」
雨「でかした死に損ない! よくぞあの小娘をれいぷっぷしてくれた! 興奮した!」
魔「なにやらあちらこちらで嫌な喝采が上がってますね……しかも約一名ド変態がいますし」
騎「おーい給仕! 女給はおらぬのかー!? 運動したからファラオは喉が乾いたぞ」
狂「もう一名の敗者が現われやがったか」
騎「ん? 誰が敗者なのだ? ここは決勝戦の控え室だろう。
  む? 何故に貴様のような狂犬がファラオのVIPルームに居座っている?」
狂「……おいそこのダイナミックバカ。一応教えといてやるがこの場所ぁは控え室やVIP室じゃねーからな?」
弓「ああ現実逃避か。うむ、まあよくあることじゃな。ワシもそうだった」
騎「なんと……あれは夢オチではないと? 牧師ィィィイイ!! どこだ牧師ッ!
  ヒーローが負けるなど打ち切り漫画ですら有り得ぬ展開であろうが誰か説明しろ!」
槍「御主は滅茶滅茶悪役でござろうが……ラスボス扱いされてる時点で敵側の立ち位置ではないか」
牧「呼んだかライダー?」
騎「貴様よくも再び俺様の前に面を出せたな、ええ?」
F「ええええええー!? 今自分で呼びましたよねこの王様!?」
牧「敗れたのはライダーお前の不覚だろう。私に八つ当たりをするな」
騎「いいやあの勝負の結果は完全に貴様のせいだ! そもそもなぜ令呪で援護しなかったこの無能!!」
牧「令呪は残り一画しか無い。あそこで使える筈がないだろう。
  贋物の聖杯を否定か、あるいはおまえを殺すために最後の場面で必要になるのだから」
F「そんなきっぱりと言わなくても…」
雨「ohくーる…。堂々とぶっちゃけたよコイツ…」
騎「ほうほう? それはそれは随分と面白い戯れ言だなあ貴様?」
牧「それにお前だって私を殺そうとしていただろう。ウセルマアトラーが成功していたら私は蒸発していた。
  そっちが先に裏切った以上は私だけ非難される謂れはない」
騎「ファラオとカス一匹の命を同じ天秤に掛けるとは…牧師トチ狂ったのかお前?」
魔「すごいですね、本気で驚いてますよ彼」
間「あの王様発言っぷりだと自分>>>>>>他人がもはやルールになってるなあいつ」
弓「なーんかこやつらもこやつらで仮に最後まで残ったとしても結局自滅しそうじゃなあ」

騎「というわけだ。あの勝負は無効にしろ」
F「うわあ真顔で何言ってんですかこの人!?」
V「無理を言うなライダー! 出来る訳ないだろうそんなこと!
  ザオリクして貰いたければ魔法使いか死者蘇生能力を持つ英霊に頼め」
騎「バカなっ! あんな勝負無効も無効であろうが! 俺様が終始圧倒していたではないか!」
ソ「終始? 圧倒?」
狂「どうやらそういう風に脳内変換されてるらしいな」
V「とにかく駄目なものは駄目だ。というか私ではどうにも出来ん」
騎「イヤだイヤだイヤだもう一回やる! あの戦いは普通に俺様が勝っていた筈だろう!
  外野が余計な真似をしなければ勝ってたぞ、いや間違いなく勝ってたわ」
V「まあそれは私も否定はしないが……。
  確かにマスターの──いやミス沙条の令呪がなければライダーが勝っていただろうからね」
騎「そうであろうが! 見よ実力では俺様の勝ちではないか。流石はラメセス超強い」
V「しかし結果は結果。聖杯戦争はバトルロイヤルだ。せこくても卑怯でも生き残った奴が勝者になるルールだ」
牧「私はマスターの力がそこまで戦況に影響を与えるとは思えんが?
  聖杯戦争など所詮サーヴァントのぶつけ合いだろう」
V「そんなことはない。それを言うなら宝具戦をやった君らがなぜ此処に居るのかと言う話になってしまうからな。
  マスターの機転で結果が変わるなんてことはいくらでもあるさ。
  そしてマスターとはその為の司令塔であり、その為に令呪を所有している。
  今回の戦いはずばりその典型例と言えるかな。
  というかゲドゥ牧師、君が令呪で効果的な命令を出せていればまた結果も変わっていたことだろう」
騎「そういうことだ、外野の横槍が無ければ俺様が勝ってた。つまり牧師は責任を取って今すぐ自害せよ」
牧「………死者がこれ以上どうやって死ねと?」
F「虚弱眼鏡を連れて来るしか無いですね!」

V「いやはやそれにしてもセイバーファイター対ライダーは決着をどうするかで相当頭を悩ませたなぁ。
  事実上の決勝でもあったから派手にやりたかったし、宝具は使わせたかったし、
  ライダーにはどうあってもここで脱落して貰わないとならなかったしで大変だった」
騎「ちょ、待て貴様! どういうことだそれは!?」
V「どういう事も何も三者の宝具の性能差を考えたまえよ。
  ライダーが最後の二人に残った時点で普通に考えれば宝具ストレート勝ちで終了確定になるだろう。
  これじゃ面白味の欠片もない、勝っても負けても微妙なことにしかならん。
  二対一の状況で宝具を使った上で令呪が決め手で敗退する。
  これが物語的には一番盛り上がるぞ? ライダーかっこいい」
騎「フフン、いつだって俺様がかっこいいのは当然」
F「まさか劇中で殆ど活躍の場がなかった『聖なる天鎧』が因縁の決戦で出番なんて!
  先生も意外にちゃんと考えてたんですね! 俺感激しました! 意外と考えてて感激しました!」
V「意外意外と連呼するなフラット!
  そもそもローランの無敵肉体はライダー戦で宝具とぶつける為に付与したんだから考えてて当たり前だろ!」
騎「おい貴様…さっきから聞いてればなんか贔屓くね?」
V「HAHAHA! 何を仰るファラオさん。
  そもそもローランに『聖なる天鎧』付けないとライダーをガチンコで倒せる手段が無いじゃないか。
  それともファラオ的には宝具すら使えず敗退の方がお気に召したとか?」
騎「むぅ~それはもっとイヤだ。なんていうか格好良くない上に散り方としても美しくないぞ。
  そのような演出俺様に相応しくない」
弓「カァ~~流石辞世の句が嫁へのラブポエムじゃった男、ナルシズムが半端じゃないわい。ギップルを呼べい」
魔「ここまでくると清々しい気分になりますよねえ」
V「ならいいではないか。日本には終わりよければ全て良しという諺があるそうだ」
騎「なるほど。終わりよければ全て良しか──────ん? あれ? これ終わり良いのか?」
牧「聖堂教会的には及第点と言った所か」

V「さてと、そろそろかな?」
綾「────へ?」
遠「────ん?」
槍「あ……」
F「あっ!」
遠「こ、此処は………?」
綾「…………え? あれ? え? 嘘、此処って、まさか………」
槍「──あ、あ、あ…、綾香殿ぉぉぉおおお!! ぐおわああああ! なんということでござるかっ!
  何故にかような場末の墓場なんぞに参られた! 来ちゃ駄目でござろう速く帰って! すぐ現世帰って!」
綾「き、きゃああああああああ!! し、死んだ!? わたし死んだわけ!?」
遠「私も、死んだ────?(放心状態)」
間「はーっはっはっはっは!! ざまあみろ遠坂ァ!! ざまあみやがれ!
  いやあ俺今最高に気分がいいぜ、人生最高の気分だよ!」
弓「死んでから人生最高の気分ってのも悲しいもんじゃわなぁ燕二よ」
V「聖杯戦争脱落者の流刑地、ベルベット教室にようこそ。ヴァルハラはここにあるぞ、ってかここだよ」
牧「やはり来たか。北斗○拳でひでぶっ出来ぬ者なし」
綾「う、う、嘘でしょ? わ、わたしが死ぬ筈無いじゃない。
  だってわたし主人公でしょ? 主人公いないと言いつつも実はわたしが主人公だったってオチなんでしょう?
  だってほらASのマスターの中じゃ一番ドラマがあったよ? 一番おいしいポジションってわたしだよ?
  ライダーをわたしの力で倒したのよ?」
V「はっはっは、残念だがミス沙条。どんなにおいしいポジションでも君は主人公ではないのだよ。
  なにせzeroで主人公じゃなかった私が言うんだから間違いない(極上の笑顔で)」
綾「うそだーーーーーーーーーー!!」
F「ぎゃああああ本当に主人公じゃなかったーーーー!!」
騎「ハッハッハッハ! おい牧師、貴様の最後の働きだけは少しばかり評価してやろう。
  この忌々しいクソ小娘がリタイアして俺様ちょっと胸がすっきりしたぞ」
牧「私もだ。この連中がのた打ち回って苦悩する様は見ていて飽きない。いやむしろ愉しいとすら感じるよ」
綾「令呪炸裂で大逆転勝利っていうドラマチックビクトリーなエンディングでしょ? 沙条綾香ルートはどこよ?!」
遠「し、死んだ? 私も? うっかりして死んだ?
  いやいや有り得ない。幾らなんでもそれはない。こんなもの遠坂家の当主に有るまじき結末だ…ッ!」
間「プッゲラゲラゲラゲラゲラ! ざまあうっかりザマア!」
狂「ライバル視してる男が死んでマジに嬉しいンだなコイツ」
F「せ、先生? あの、遠坂さんの死因はなんですか……?」
V「ずばり遠坂うっかりエフェクトの発動によるうっかり死だな。
  ミス沙条はうっかりで巻き込まれ死と言えなくもないか」
綾「ちょ、ちょっと待ってよ! そんなマヌケな死に方ってありえなくない!?」
F「えええええええ? 遠坂さんって今まで一回もうっかり無かったじゃないですか!」
遠「そ、そうだ! そう言われてみればそこの少年の言う通りだ!
  よくよく思い返せば私は今まで生きて来てこんなミスしたこと無いのだぞ!?」
V「それはそうだろう。遠坂刻士という人物の遠坂うっかりエフェクトは普段ではまず絶対に起きないんだから」
遠「なに?」
V「ミスター遠坂の呪いが発動する条件は"超大一番での生死に関わる場面"だ。
  つまり例えば、聖杯戦争の決勝戦とかで致命的なうっかりをする。
  だからアレの死亡を確認しそびれるなんて有り得ないミスをするんだ。
  ゲドゥ牧師が真人間じゃないってことくらい理解っていただろうに勿体無い」
F「ひぃぃ遠坂時臣さんのうっかりよりさらに症状が酷い!」
綾「ちょっと死ぬなら一人で死んでよバカっ! なんでわたしまで道連れにされてるわけ!?」
槍「普段からガス抜きが出来ぬ故、一気に纏めて押し寄せるんでござるか……これは…御愁傷様」
魔「そういえば凛さんの方は普段からうっかりやらかすだけあってか意外と死亡率低いですね」
狂「逆にコイツの死亡率は局地的に100%に近い数字が出てンだが?」
ソ「それでは死ぬのも当然だな」
間「ぶっわッははははひゃっはっはあひゃっひゃっ! なんて間抜けな!」
遠「ば、馬鹿な…、て、てっきり私には遺伝的な呪いは継承して無いものとばかり思っていたのに……」
間「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!」
遠「………………………」
間「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!」
遠「………………………………………………」
間「ゲラゲラゲラゲラ!!」
遠「うるさいぞ間桐燕二ッ!(正拳突き)」
間「ゲラゲラゲラゲラ─────ゲボラアッ!!!??」
弓「おーおー飛んだ飛んだ。生身の人間にしては大したもんじゃ。ま、ありゃ燕二の自業自得じゃな」
F「おおーっ! 人って結構飛ぶんですね先生!」
V「ああそうだな。思ったよりも勢い良く飛ぶものだ」
遠「ふーっ、ふーっ! くそっ! もう少しで聖杯に…根源の渦まであと一歩だったと言うのに…!」
F「それにしても拳法使いだったんですね遠坂さん。武術ってカッコイイですよね!」
遠「気さくに話しかけてくれている所すまないが少年、少し放って置いて欲しい。
  それに敗退したのだから格好など良くはないよ……」
V「実は何話か前にファイターがライダー襲撃を警戒して隠れてピリピリしていたのに遠坂が気付く。
  というかなり分かり難い伏線を張ってたりする。
  そのとき彼が言ってた似たような事が出来るというのはつまり体術由来の気配探索のことなのであったとさ」
狂「本気で分かり難いじゃねーかよ」
槍「体術は極めれば可能性無限大なり!」
ソ「サムライが言うと説得力があるな。そう言えば東洋には中国拳法家という亜人の幻想種がいるんだろう?」
F「アサシン師範はASには出てませんから!」
V「ミスター遠坂も拳法の達人であるとは言え、流石にあれと比べるのは問題があるだろう。
  あくまで個人的見解だが、アレに近いレベルにいるのは彼よりむしろ遠坂永人の方だと思っている」
遠「永人お爺様が?」
ソ「いくらなんでもあんなKENPOU家になんてなれんだろう」
V「だって遠坂永人は魔法使いの弟子だぞ? あのキシュア・ゼルレッチの弟子。
  時計塔の各部門で一番見込みのある天才を弟子入りさせても廃人になって帰って来るという超マゾクソゲーを見事全クリした男だぞ?
  しかも彼は元々魔道出身じゃなかったときてる。どう考えたってまともな拳法家なわけないだろうこれは。
  きっとマジカル拳法家の類に違いない。僕と契約してKENPOUKAになってよとかやったんだ」
F「それヤバイっスね先生。頭パックンチョですよそれ」
V「それに同じく遠坂永人の同志であるユスティーツァ・アインツベルンもマキリ・ゾォルゲンも大魔術師であるのだから彼もまた大人物である可能性は低くはないと思う。きっとバケモンだよ」
遠「お爺様の技は私とは比べ物にならないほどのさぞ素晴らしいものだったに違いない。
  それこそ代行者なぞ瞬殺のギッタギタのボロカスに出来るくらいの!」
牧「ふははははは! 勝負の結果が気に入らんのならもう一度相手をしてやるぞゴミめ!」
雨「しかしなんで拳法使いなん?」
V「あーそれは遠坂刻士のキャラクターコンセプトがパーフェクト遠坂だから。
  zeroが発売した当初、トオサカレッドを愛する者はみな空想したものさ。
  トッキーは宝石魔術と遠坂拳法の使い手で言峰の八極拳の師匠なんじゃね!?ってな。
  だけど現実は残酷だよ。遠坂拳法どころか戦闘シーンも殆ど無いとは…orz」
狂「なるほど、だから二次創作でしかも初代遠坂に近い代の遠坂ならやり放題だぜっ!ってノリでやったわけか」
槍「それにしても派手な拳法でござるの。拳打が爆発するとか……なにそのリアルダイナマイトパンチ」
V「マクレミッツも格闘と魔術を使うんだけど彼女のはなんと言うか魔闘拳ってより腕力なんだよね。
  ───って刺青バンダナが言ってた。命に関わる大事なコトなので二度言うが全身刺青男がそう言ってた」
魔「いくらこの世全ての悪だからって何でもかんでも彼のせいにしてはいけませんよプロフェッサー?」
F「爆発する正拳とかカマイタチで真っ二つにするキックとかカッコイイですよね!」
綾「そんなことよりもマスターVってば、わたしはどうしたらよかったのよ!」
槍「そ、そうでござるぞ。良いから速く主殿にクイックロードをさせい!」
V「と言われても君があの状況で出来ることなんて殆ど無いに等しかったからなぁ。
  強いて言えば遠坂うっかりエフェクトを発動させなければ良かったのだろうが、それは事実上無理だろう」
綾「うううぅ~~! あの時そこの変態牧師の頭蓋骨を金属バットで砕いておけば良かった……!」
牧「くくく! 罪人は皆煉獄に落ちるものだよアーメン」
綾「アンタが言うな破戒僧っ!」
V「さて、ではそろそろ終了の時間だな。
  そしていよいよ次回は最終回だ。諸君には長かった第二次聖杯戦争の結末を見届けて貰いたい」
F「あと一話です、あと一話ですよみなさん! あと一話なんですよみなさんッ!」
V「では最後の教室でまた会おう!」
F「いよいよ最後なんですよぉぉ!(泣)」