バベル外伝? 11話



~~放課後、衛宮家

前アーチャー「うーむ、何か嫌な予感がする」

凛「嫌な予感?」

前アーチャー「そうだ。何か人生の危機というか、何と言うか……」

イリヤ「命を狙われてるとか?」

前アーチャー「まさか。そんな命を狙われるようなことは、この聖人君子である俺様がやるわけないだろ」



~~同時刻、南米アマゾン

ルヴィア「お、お腹が空いたわ……何で私がこんな目にあってるの」

クラン☆カラティン(シブトイ女ダ……)

ルヴィア「あ、芋虫……貴重なタンパク源ね。あの優男、覚えてなさい」(ムシャムシャ)



士郎「そうなると、病気か?」

前アーチャー「サーヴァントは性病にしか、かからないぜ」

凛「嫌すぎる……最悪だわ」

ライダー「そうなると、日頃の行動パターンから何か割り出すしかないわね」

イリヤ「ライダーさん、さすがだね。頭いいな」

ライダー「それほどでもないわ」(ポッ)

凛「その頭の良さ、イリヤにセクハラすること以外にも割り振りなさいよ……」

前アーチャー「行動パターンね……最近はこんな感じだな」




~~朝、カレンの家

カレン「アーチャー、そろそろ朝ご飯できるわよ」

前アーチャー「んあー、そんな時間か……」

カレン「起きて頂戴」(ゲシッ)

前アーチャー「わかったよ」



~~登校時間

イリヤ「おはよう、アーチャー」

前アーチャー「おはよう、イリヤ。徐々に安産型のいい尻になってきたじゃねえか、げへへ」

イリヤ「きゃっ! お尻触らないでよ、アーチャー」

ライダー「……ロードローラーよ」(ズシン)

前アーチャー「ちょ、待て! ぎゃあああああああ!」




~~日中、幼稚園

前アーチャー「お嬢ちゃん、この年の男は騙し易いから、ほいほい逆ナンに乗ってくるぞ。よく覚えておけ」

復讐の女神「だましやすい?」

エドワード・ティーチ「アーチャー、うちの女神に変なこと吹き込まないで欲しいな」(汗)



~~お昼休み、穂群原学園屋上

アヴェンジャー「はい、あーんして」

前アーチャー「あーん。うめーうめー」(もっちゃもっちゃ)

アヴェンジャー「お弁当、ちゃんと作ってあるから、楽しんで食べてね」

前アーチャー「いつもすまねえな。あーん」

綾子「あれ、完全に餌付けされてるよね」(ヒソヒソ)

凛「アヴェンジャー、やるわね」




~~夕方、茨城童子の家

茨城童子「お帰りなさい、アーチャー。お風呂にする? ご飯にする?」

前アーチャー「いや、だから毎日三つ指ついて出てこなくていいから。とりあえず風呂にするわ」

茨城童子「わかったわ。その間にご飯用意しておくわね」



~~夕食時

茨城童子「はい、アーチャー」

前アーチャー「ビールと枝豆、冷や奴……おまけにテレビは野球中継」

茨城童子「アーチャーの好物でしょ」

前アーチャー「いや、それはそうなんだが……茨城童子って中学生だよな」

茨城童子「どうしたの、急に?」

前アーチャー「何でも俺に合わせて貰ってる気が……」

茨城童子「いいのよ、気にしないで」(にっこり)



~~布団イン

前アーチャー「ほら、早く入れよ」

茨城童子「んー、アーチャー温かい」

前アーチャー「あ、馬鹿、そんなに抱きつくな」

茨城童子「~~♪」



~~就寝

前アーチャー「ぐががががが、しゅぴー、ぬごおおおおお!」

茨城童子「すーすー」




凛・綾子「ダウト」

前アーチャー「嘘じゃねえよ!」

イリヤ「アーチャーってお友達本当にいっぱいいるんだね」

凛「……本当になんでこんな奴が付き合い広いんだろ
    ……まあ、原因はわかったわね」

綾子「アンタ、本当に月の見える夜と背後には気をつけなよ……」



~~夕方、イリヤの部屋

イリヤ「今日は友達の家に行かないの?」

前アーチャー「俺は生まれながらのジゴロだぜ、今日は愛人イリヤの家に泊まるっていう気分だ」

ライダー「………」

前アーチャー「ライダー、黙ってぶぶ漬けを俺に差し出すんじゃねー!」



イリヤ「アーチャー、電話でスキュラさんが家に来て欲しいって」

前アーチャー「嫌なこった。今日はこのセーフハウスで過ごすと決めてある」

イリヤ「家に宅配業者が来て、アーチャー宛ての女子○生援助交際白書ってDVDが届いて困ってるって……」

前アーチャー「何だって!? 注文した覚えは無いが……三分で向かうって言っておいてくれ」

イリヤ「行っちゃった。ライダーさん、あれって……」

ライダー「注文してない品が届くはずは無いわね。
       どうせカメラを回せば女子○生援助交際白書が作れるのだから、問題は無いけど」



~~翌日、凛の部屋

凛「アーチャー、電話で清姫さんがアーチャー宛ての女子○学生痴漢電車っていうDVDが届いて困ってるって……」

前アーチャー「う、嘘だー! 俺様を騙そうとしたって、そうはいかんぞ!」

凛「昨日は引っかかった癖に……」

桜「新しいガーターベルト買ったから、見て欲しいって……」

前アーチャー「や、やめろおおおお! 俺は何も聞こえない、聞こえないぞおおおおお!」(ガタガタ)

凛「正念場ね。アーチャーが誘惑に乗るか、迷惑男撲滅組合が女子力で勝つか……」



~~一時間後

桜「やっと清姫さんの電話が終わりました……」

凛「お疲れ、桜」

前アーチャー「あ、危うかった……夜のお散歩に連れて行ってと言われたときは危うかった」

凛「そういうこと伝言するこっちの身にもなってよね」(げっそり)



桜「でも、こうなると……」

前アーチャー「ふははは、今日は凛のベッドで寝るぜ」

桜「最低ですよ」

凛「とりあえず、とっとと風呂に入って来よう。
     全く、何で桜が泊まりに来てるときに限って、アーチャーが来るのよ」

桜「アーチャーさん、お願いですから覗かないでくださいよ」

前アーチャー「それはダチョウ倶楽部のフリみたいなもんか?」

凛「死にたいと申したか」(チャキッ)

前アーチャー「どうぞ、ごゆるりと……」



~~三十分後

桜「アーチャーさん、上がりましたよ」

凛「おかしいわね、何処にもいないわよ。窓が開いてるから、やっぱり帰ったのかしら?」

桜「何これ? ノート?」

ノート『先程から凛と桜の電話が鳴り止まない。あの着信音は紛れもなく清姫からのものだ。
      俺はベランダに絡みつく炎を切る作業に忙しいが、いつまで持つかわからない。
      地の底から響くような声が、アーチャーと言っているのが聞こえる。
      ああっ、窓に白い影が影が……巨大な蛇の頭頂部に般若の仮面が……いあいあ』

凛「……燃やしておくわね」

桜「そうしましょう。今日はアーチャーさんは、うちには来なかったということに」



~~数日後、登校時


前アーチャー「……イリヤ、ちょっとボツワナに魔法少女を捜しに行ってくるから、後は頼んだぞ」ボロボロ

イリヤ「行っちゃった。アーチャー、しばらく戻ってこないのかな?」

ミユ「半日後には彼女たちに連れ戻されるわね。迷惑男撲滅組合からは、誰も逃れられない」

イリヤ「あはは……大丈夫かな?」(汗)






2/The Tower, La Maison de Dieu backnight Ⅱ Helleborus


 どのくらいの間、ワタシは、動いていたのだろう

 脳はとうに機能していないのに、感覚だけは律儀に働き続けている。
 生存と苦痛は同義。
 たとえ心臓だけであろうとも、在り続けるかぎり心身を痛め続ける。

 長い時間。
 ワタシは、そんな日溜まりに放置される。
 それは極まっている希望で、行き詰まっている絶望だ。

 下らない。唾棄すべき錯覚でしょう。
 何もかも認識不足、経験欠如であるが故の勘違い。

 ……ワタシは、痛みと安らぎを繰り返す。
 北へ南へ、西へ東へ。
 手足の感覚がないのも、段々と欠けていくのも痛くはない。

 ただ、怖い。
 何もないということ。
 何にもなれなくなる不実が耐えられない。
 いずれ、何も実らないというのであれば。
 この苦しみは、苦しむ為だけの苦しみになるでしょう。
 生きているのに、死にかけている傀儡のカラダ。

 がむしゃらに自由を望みながら、しゃにむに、縛られることを望んでいる。
 その背反を。
 古く、彼らは地獄と名付けた。

 告白すれば。
 ワタシは、寂しかったのだ。


 ……音が聞こえる。
 カッチッチ、カッチッチ。
 小石が弾け合うような音はどことなく規則的で、陽気なポルカを連想させる。
 私はぼんやりと、その音だけを聞いていた。
 ……何処だろう、ここは。
 思い出せない。いいえ、思い出す、という行為をしたがらない。
 自分のだらしなさに恥じ入る。
 こうして目覚めたのに、意識、理性が目覚めようとしないなんて。

「っ、ぁ――――――」

 重い頭、重い手足に力を込める。言うことをきかない肉体に鞭を入れる。
 腕を立てて、うつ伏せになっていた体をわずかに起こす。
 ……私はソファーに横たわっていたらしい。

 どのくらい眠っていたのか。
 それを思い出そうとして、いや、そもそもここが何処なのか思い出そうとして、
 ひどいダメージがこめかみを貫いた。
 目眩がする。まるで泥酔後の朝だ。
 ……酒に弱いクセに見栄を張って飲み明かしてしまうのは私の悪癖だが、幸い、体内にアルコールは残っていない。

「―――ここ、は―――」

 目眩でグラグラする意識で状況を確認する。


前アーチャー「―――起きたか」

 明かりがなく、視力が衰えている為、明確に捉えられない。
 それでも人影が男性である事は読み取れた。

前アーチャー「可愛らしい寝顔、いやはや堪能させていだたきやした。
         そら、行くぞ。まずはこの生温い箱庭を案内してやる」

 男はケラケラと笑う。
 耳障りな笑い声だが怒りを感じない。
 私は呆然と、男を不思議そうに見つめている。

「私は、どうして……?」

 とにかく、まずその疑問が優先した。
 自分がどうして眠っていたのか、どうしても思い出せない為だ。
 男は眉をひそめて―――よく見えないというのにおかしな話だが―――部屋の隅を指さした。
 そこには古い、曇った姿見(すがたみ)がある。

前アーチャー「自分で確認しろよ。
         アンタは何でも、自分一人で出来るんだからよ」

「………………」

 おぼつかない足取りで姿見へ向かう。
 明かりはなく、青ざめた月光が闇を際だたせる。
 呆然と私を見る、見間違いようのない私の姿があった。

「あ――――――」

 声が漏れる。
 不可解だ。自分の姿を見て、私は何かに驚いている。
 暗い色を帯びた金の髪と紅い瞳。
 可愛げのない、人を威圧する事しか出来ない不吉で禍々しい刺青。
 女である事を否定するような、鎧めいた男装。
 これは僕だ。今まで通りの、何の代わり映えもしない、アンチキリストの姿である。


前アーチャー「まだ、存在が不安定なようだな。
         まあ、散歩がてら夜の風を浴びていれば自然と落ち着いてくるだろうよ。行くぞ」


 街に出よう、とアーチャーが促す。
 体はまだ不安定だが、町の様子も気にかかる。
 それに―――長く眠っていたからなのか、とにかく、私の体は運動(ジユウ)を欲しているようだった。


アヴェンジャー「……分かりました。細かい方針は、状況に応じて変えていきましょう」




 洋館は高い丘の上に建っていた。
 周りに人家はなく、森の中に隠れるように佇んでいる。
 ……頭痛がする。
 外の空気を吸えば幾分クリアになると思われたが、冷たい夜気はいっそう思考を曖昧にする。


前アーチャー「どうしたよアヴェンジャー。初めての自由に感無量なのか?」


 私をからかうサーヴァントの声。
 頭(かぶり)を振って前に進む。
 意識がゆるやかに回転する。
 明るい月の光に、気が眩んでいるようだった。

 静かだった。
 午前二時を過ぎていると言っても、街の静けさは度が過ぎている。
 ……すこし、まだ見ぬ故郷に似ているかもしれない。
 あのまま深海の底に留まっていたら、誰からも忘れ去られてしまう気がしてならない。
 もう誰も覚えていないという、古い神々と同じ末路を辿る事が、呪いに思えて仕方がなかったからだ。

「……………………」

 そして今、冬木の街も深海に没している。
 私が記憶している冬木とは雰囲気が違う。
 静かすぎる―――これでは廃墟と変わらない。
 にも拘(かか)わらず、生き物らしき気配だけはある。
 きちんと、夥(おびただ)しいまでの息遣いを感じる。
 私の周りには体験した事のない気配が満ちている。


前アーチャー「さて、なにから話したらいいかな。
         俺はあんたとは正反対の頭より手が先に動くタイプだからよ
         先に大雑把にこの箱庭の構造(システム)から説明してから質疑応答っていう
         形にしようぜ。アーユーオーケイ?」

アヴェンジャー「問題ありません。よろしくお願いします」


 そうして、夜道を歩きながらの彼の説明が始まる。


前アーチャー「まずは自分の状況を教えてやるか。
         ―――おい、確認するが。お嬢ちゃんは、昼間の出来事をまだ知っているだけか? 
         実際に見た訳でもなくて、その暮らしを体験してもいない」

アヴェンジャー「ええ。ただ知ってるだけです。夢で見たとか、どこかで聞いたとかいうのもない
          けれど知っている。この町で起きる事なら、なんとなく把握できる。
          けど、今の私はまだ安定してないから思い出せない」

前アーチャー「ヒュー♪こいつあ期待以上のオツムだ。この僅かな時間でそこまで考察がいったか。
         ならその先を補足しよう。それは俺たち英霊様の無様な今の姿
         現世にある本体を模して構成されたあのガキのお人形さんだからだぜ
         勿論、俺たちだけじゃねえ。ここにある物全てが雑な劣化品だ」

 所々におかしな気配を感じる。
 常に誰かに見られている。
 ―――街の至るところに、微妙な綻びがある。

アヴェンジャー「……そうですか、思念を持つ者は我々と、その主催者だけということですか」

前アーチャー「ああ、此処にいる人間ぽいのはみな空っぽの人形だ。 
         決められたシナリオに沿って動くロボットみたいなもん。
         あんたも最初以外は今日まで昼間の間は死んだ魚みたいな目ぇして、ちょこちょこ動いていたぜぇ」

アヴェンジャー「ではなぜ我々だけが?」

前アーチャー「俺様は10年前の聖杯戦争の参加者でな。
         そん時に杯の中身のを浴びて肉の身体と聖杯への回路(パス)を得たんだ。
         で、今回の聖杯戦争が始まる直前にこの箱庭が造られた。
         でもぼっちのガキは肝心の住人をどうしても作ることが出来なかったんだと。
         生きた人間の魂は連れてこれないし、家の自家製人形のデータだけではどうにも味気ない。
         コミュ不足のせいで、自分の力じゃどうにもならねえ。
         悩んだ挙句、ガキは聖杯戦争の関係者のコネを利用して、呼ばれてくるサーヴァントの
         データをコピーしてお友達になってもらったってワケで
         迷惑なことに、そのツテからモノホンの俺様まで間違えて引っ張ってきやがった」

 ケタケタと笑いながら、彼は唐突に横に曲がり
 見ず知らずの人の家にズカズカと入っていく。
 僕も、それに黙って付いていく。

 玄関を抜けてリビングに出ると、人影が3つ見えた。
 光点が6つ。
 ここの住人であるだろう親子……らしい煤けた人間みたいな人形が呆然と中央に立っていたのだ。

前アーチャー「あとアンタは超特殊だからじゃね?なんつーかアンタって現象みたいなもんじゃん
         座から来る過程ってのがさ、周りの環境と条件から発生するばい菌のようなもんっしょ?
         だからアッチに合わせてアンタも魂を持ったんじゃん、いちよーベースはあるわけだし」

アヴェンジャー「……なら彼女も」

前アーチャー「ああ、そういや超糞女(グレートビッチ)も意識あるんだったな。
         アレは気色悪いぐらいにガキに尻尾を振って、正直なに考えてるかわかんねえ
         まあ、お陰でガキの目が緩くなって、こうして寝てる隙間に外に出ることが出来るんだが……
         絶対禄でもない事考えてるだろうからな、注意しとけよ」


 牢獄。
 そう、この箱庭は『牢獄』という事柄に当て嵌まる。
 当然だ。
 意思のある人間が住むことを想定していないのだから。
 彼女にとってはまさに楽園なのだろう。
 争いや諍いのない世界。優しい人々に囲まれ、いつも笑顔に満ちている。

 ……けれど、僕がいた位置はそれとは対極的に違っていた。
 苦しみだけではない。
 此処には永劫と空虚があった。
 どちらも僕の手には届かない、届いたところで意味のないもの。
 それ故に苦しい。
 人権の剥奪、尊厳の剥奪、自由の剥奪。
 そういったもので構成されている死後の世界を、人間なら誰でも聞いた事があるだろう。
 間断なく永遠に続く苦しみ。
 仏教では、それを無間地獄と伝えている。
 結局、いつもと同じだ。



前アーチャー「けど、この箱庭は曖昧で、どこかおかしい」


 家を出て再び夜道を歩きながら
 彼は、忌々しそうに続きを語る。  

前アーチャー「しばらくはただのままごとだったんだが、しばらくしておかしな事が起きはじめた。、
         この街の人間が、日々溢れだしてる“得体の知れない連中”にどんどん減らされていってんだ」

アヴェンジャー「得体の知れない連中……?」

前アーチャー「ああ。この町は大分おかしい。あのガキかライダーの仕業かもしれねーが
         その割にはやり方やクセがバラバラすぎる。
         この世全ての悪(アンリマユ)なら臭いでわかる……たぶんこれは別の奴の仕業だわな」

アヴェンジャー「…………」

前アーチャー「仮に、聖杯を欲しがっている奴がいるとしてもだ。
         こんな、ままごとしか出来ない場所の何が欲しいんだ?
         別にこれじゃなくても、他にもっと良い物はわんさかある」

アヴェンジャー「言っておきますが、僕じゃありませんよ」

前アーチャー「そいつは結構。まあ、別にあのガキがどうなろうと知ったことじゃねえし
         此処じゃあ、そう簡単に死なせてくれねえから、危険も大きくはないだろーしよ
         まあ、やる事ねえし暇つぶしに調べてはいるんだが一つだけわかったことがある」


 くくく、と笑いを押し殺すアーチャー。
 黒い影は、歩を止める。


前アーチャー「在りもしない聖杯戦争を勝手におっぱじめているコト。
         この街の異状は、全てそれを基点にして起こっている、お出でなすったぜ」


 その視線の先には、サーヴァントの姿があった。
「っ……!」
 強い魔力を感知する。
 時代錯誤の戦衣装。
 あれは、この国の「サムライ」という鎧兜ではないだろうか。

「夜分にご無礼を
 初めてお目にかかり申すが、戸次道雪と申すもの。本日は立ち合いに参ってござる
 して、貴殿等の名をいかがか、お願い申す」

 何のクラスかは判別がつかないが、刀剣を下げている以上近接タイプのサーヴァントである可能性が高い。

「―――――」

 茨杖を取り出す。
 なぜ、他のサーヴァントが闘いを望むのか
 疑問が浮かぶが、今はそれどころではない。

 男は礼儀正しく僕らの出方を待っている。
 アーチャーはポイっと投げ捨てるように私に黒い小さな筒を渡し、腰を低く構える。

アヴェンジャー「―――敵の実力は未知数です。貴方は相手を出来ますか?」

前アーチャー「少しはな」



 様子を見る慎重さもなく、彼は敵サーヴァントへ走りだす。
 激突する二つの影。
 僕はその横を通り抜け、側面となる家の屋上へ走り込んだ。

 冴える月下。
 伸びる影は長く、剣と太刀の照り返しは肌に突き刺さるように鋭利。

前アーチャー「―――――――ハ」

 嫌悪を息にして吐き出した。
 まったく、何もかもいつもの殺し合いと同じでうんざりする。

前アーチャー「で、今夜もまたやりあおうってワケか。いっとくけどな、おまえがいくら俺に勝った所で変わらないぜ?。
         俺が殺されるってコトはガキが癇癪を起こしてこの夢が終わるってコトだ。
         なら、その瞬間にこの街もおまえも消え去る。てめえは、意味のない殺し合いをしているだけだ」

 踏み込み、威嚇なしで剣を振るった。

「――――――――――――」
 ヤツは難なく完璧なタイミングで弾く。
 結果として、ヤツは俺の命よりアヴェンジャーの命をとっていた。
 俺が踏みこんだ瞬間、後方に跳び退いたからだ。

 切っ先が交差する。
 幾度にも振るわれる剣線、
 幾重もの太刀筋。
 弾け、火花を散らしあう剣と太刀。 
 ―――数十合を越える立ち会いは、しかし、一向に両者の立場を変動させない。


前アーチャー(面倒くせえ、やっぱ接近戦じゃあ駄目だ。
         すげえ守りは固てぇし、やたらとべったりくっついてきやがる――――!)

 太刀を閃光のように振るい、アーチャーの進撃を防ぎきる敵サーヴァント。
 いや、それは防ぎきる、などという生易しいものではない。
 アーチャーの剣戟が疾風ならば、敵サーヴァントの太刀は稲妻だった。
 直線的な軌跡はアーチャーの一撃を悉く弾き返す。
 そうして返される刃は速度を増し、閃光となってアーチャーの首に翻る。

 ―――その一撃を紙一重で切り払い、踏み込む。
 そして、またも太刀筋が間髪入れずに返ってくるのだ。
 敵の顔は戦の昂揚で自然と笑みが貼り付いてきた。

前アーチャー「―――うぜえ。一人で盛ってじゃんねーよ、蛮族(バルバロイ)」

 ここまでだ。ここに来た理由はもうない。
 闘う理由も何処にもいない。
 視線を送り、アヴェンジャーに合図を送る。
 間髪入れずに、彼女は懐から護身用に闘いの直前に渡された閃光弾(スタングレネード)を取り出す。

 何か、柔らかいものが一緒に取り出された。
 どうしてこんなハンカチを持っているのか、なぜ大事そうに仕舞っていたのか。
 身に覚えはないが、今は疑問を抱いている場合じゃない。
 二人の足元に転がるように投げ込まれ、敵が気が付くと同時に辺りを轟音と閃光が包む。

 一瞬、敵を見失い気配が遠ざかるのに気づき、3秒ほど遅れながら対象を追うため捕捉に走ろうとしたその時
 墨汁のようにねっとりと行く手を遮る暗闇を、
 光芒で切り裂きながら、アーチャーは鋼の猛獣を駆り立て
 真正面の進路を遮ったそれを、揺るがぬ視線で見据え、避けることなく一直線に突進させながら
『千鳥』の迎撃もろとも重く激しくコンクリート塊ごと強打し、軽石のように易々と空中に叩き上げた。



前アーチャー「ざまあみやがれバァァァァァァァァカ!!
         一昨日来やがれヒャハハハハハハハハハハ!行くぜアヴェンジャー、ずらかるぜ!」



 アーチャーの飛行装置に乗り、あっという間に戦地だった道は視界から消えた。
 彼に労いの言葉をかけようと、声をかけようとしたが
 敵を上手く出し抜いたことがとても嬉しいらしく、大声で襲ってきた敵サーヴァントを口汚く罵り哄笑を上げていた。
 宵闇の中、遥か彼方に瞬(またた)く新都の光を遠望し、アヴェンジャーは深い溜息をついた。