バベル外伝? 9話



~~ランサーの家

前アーチャー「よう、ランサー。泊めてくれ」

ランサー「アーチャー、うちはホテルじゃないんだが……」

前アーチャー「お客様に茶をお出ししてくれ」

ランサー「自分で、もてなしを要求しないで欲しいんだが。まあ、茶ぐらいは出してやるが」

前アーチャー「うめー、茶菓子うめー」(ばくばく)

ランサー「全く、お前は自由に生きてるな」

前アーチャー「茶菓子のお代わりを寄越せぃ」

ランサー「少しは皮肉という言葉を覚えたらどうだよ?」(ビキビキ)




ランサー「ところで、アーチャーは何でここに?」

前アーチャー「ふっ、スーパーハンサムマスコットは国際的にも敵が多いのさ。
         凄腕ヒットマンに命を狙われたので、とりあえず避難してきた」

ランサー「ミユからアーチャーが迷惑男撲滅組合に殺されそうだから、匿ってくれって言ってたぞ」

前アーチャー「おいー! 早速バラさないでくれよ、俺の嘘!」

ランサー「組合が動くのはともかく、何でまた命まで狙われることに……」

前アーチャー「つまみ食いが気にいらないらしいよ」

ランサー「もしもし、警察ですか? ロリコンがここに……」

前アーチャー「勝手に決め付けて、警察に電話すんじゃねー!」



~~アヴェンジャーの家

アヴェンジャー「ただいまー……って、アーチャーはイリヤさんの家だったね」

アヴェンジャー「……アーチャーがいないと静かだな……」

アヴェンジャー「ふう、夕食の準備しないと……さて、どっこらしょ」

アヴェンジャー「……し、しまったわー!」



~~夕方の公園

前アーチャー「で、思わず『どっこらしょ』なんて言ったことにショックを受けてると」

アヴェンジャー「うん」

前アーチャー「さーて、帰ってイリヤのかーちゃんの尻にセクハラという名のスキンシップしてくるかー」

アヴェンジャー「ちょっと、待ってアーチャー」

前アーチャー「なんだよ! そんなくだらねえことで、この世界一プリチーな妖精を呼び出すんじゃねー!
          俺はミユのために、今日はリアルおままごとの準備しなくちゃいけねーんだ」

アヴェンジャー「だ、だって、『どっこいしょ』だよ。ただでさえ老けてるってクラスで言われてるのに、
           このままだとアヴェンジャーさん(26歳)とか言って笑われるよ!」

前アーチャー「おめえみたいなエグイ刺青まみれの女子高生なんて、この惑星上の何処に存在するってんだよ」

アヴェンジャー「エイメン……」

前アーチャー「ま、待て待て。話し合えば人類みなわかりあえるんだ。だから、振り上げた茨杖を下ろしてくれ」

アヴェンジャー「……誰のせいで学校に通ってると思ってるのよ」

前アーチャー「それで、俺に何をしろっていうんだよ」

アヴェンジャー「こうやって老けちゃったのは、一人で過ごす時間が長いからだと思うんだ。
           だから同年代とかの友達と交流できれば、高校生っぽくなるかなーって」

前アーチャー「アヴェンジャーよー……白鳥はアヒルに混ざっても、所詮みにくいアヒルって思われるだけだぜ」

アヴェンジャー「エイメン……」

前アーチャー「うん、友達との交流なら俺様に任せてよ。
         だからデンプシーロールを打つ前の高速のウィービングをやめてよ」


~~イリヤの部屋

前アーチャー「というわけで、アヴェンジャーさん(高校2年生)が泊まりに来たよ」

イリヤ「そ、そうなんだ」(汗)

アヴェンジャー「すみません、イリヤさん」

イリヤ「いや、アヴェンジャーさんなら大歓迎だよ」

ライダー「……アヴェンジャー、ぶぶ漬けを持ってきたわ」

アヴェンジャー「何でライダーさん、そんなに嫌そうなの?」

イリヤ「でも、意外だなー。アヴェンジャーさんみたいな優しそうな人なら、友達多いと思ってたんだけど」

アヴェンジャー「それが、そういうのってどうも苦手なんだ」

前アーチャー「大体、俺に頼んでイリヤの家に泊めて貰うっていうところからダメなんだよ。自分で言えよ、自分で」

ライダー「全くだわ」

前アーチャー「……ライダー、おめーがそれを言える立場なのかよ」

アヴェンジャー「ライダーさんも、あまり友達多そうに見えないけど」

ライダー「私はメル友が最近増えたわ。携帯見る?」

アヴェンジャー「見せてね……モンティナ・マックス、吉良吉影、戸愚呂兄、飛田展男、
          エリザベート・バートリー、チンギス・ハン……確かにいっぱい登録されてる」

イリヤ「最近たまにメールでやり取りしてるよね。何処で知り合ったの?」

ライダー「アーチャーがSNSを紹介してくれたの」

前アーチャー「おうよ。ソーシャルネットワーク、スプラッタ・フェチズム同好会っていうとこだ」

アヴェンジャー「……な、何だか、関わり合いになっちゃいけなさそうなところだね」


イリヤ「でも、私だってそんなに友達は居ないよ」

アヴェンジャー「えっ!?」

イリヤ「親友のミユちゃんに、ナナキちゃん。スズカちゃん。タツコちゃん。
      それに最近知り合ったリンさん、アヤコさんやサクラちゃんぐらいかな」

ライダー「………」

前アーチャー「うぎゃー! ライダー、いきなり俺をサンドバッグ代わりにするのはやめろー! 
         イリヤ、ライダーが親友以上だって言ってくれー」

イリヤ「えっと、えっと、ライダーさんは親友以上に大事な人だよ」

ライダー「イリヤ……」(ぽっ)

前アーチャー「ち、ちきしょう、今更かまととぶりやがって……俺に何の恨みがあるんだよ。俺のハンサムくんが台無しだ」

アヴェンジャー「そういえば、今気づいたけど、ライダーさんは何でイリヤさんの家に泊まっているの?」

前アーチャー「アヴェンジャーよー。世の中には自分の家に上がりこまれて、そこで発生する監禁事件もあるんだぜ……」



~~翌朝

~~放課後


ミユ「へえ、アヴェンジャーさんが昨日は泊まったんだ」

イリヤ「うん。賑やかで楽しかったよ」

クロ「よくアーチャーとライダーが居る家に行く気になるよな」

ミユ「……そんなに酷いの?」

クロ「あの人たち、世界平和のために風呂を覗かせてよって、いつもセクハラするのよ」

ミユ「……二人とも最初はみんなに避けられてたから、ちょっぴり寂しかったのかも」

イリヤ「そうだ、それなら、今晩はみんなでお泊まりしようよ
      アヴェンジャーさんもみんなとお友達になりたいって言ってたし
      アーチャーやライダーさんのこと本当は凄く優しい人だって知ってもらういい機会だと思うし」

クロ「ふ~、またセラが怒るわよきっと」

ミユ「本当に? 嬉しいわ」



イリヤ「アーチャー、ちょっと来て」

前アーチャー「おう、どうした? 男が急に欲しくなったか?」

ライダー「アーチャーが私達の愛の巣に、頻繁に来るのは好ましくない」

前アーチャー「おめえ、勝手に人の家に上がりこんで、愛の巣に作り変えるなよ……。
         それに、昨日はアヴェンジャーが隣で寝てるから興奮してたじゃねーか」

ライダー「否定はできないわ」

前アーチャー「本人に知られないようにこそこそ盗撮のも、淑女としての醍醐味とか言ってたし
         昨日だって、イリヤの体を洗って、散々見せ付けてたくせに」

ライダー「そうね……アヴェンジャーの前で私とイリヤと士郎が、いかに強く結ばれているかを見せ付けるのはどう?」

前アーチャー「アヴェンジャーの前でする気かよ! 
         おめー、アヴェンジャーや親御さんがショックを受けて倒れてもしらねーぞ……」
         

ライダー「それなら却下だわ」

前アーチャー「おまけにああ見えて、アヴェンジャーは豆腐メンタルなんだよ。
         ショックで何するかわからねーから、穏便にやってくれ」



アヴェンジャー「友達の家に二晩もお泊りできるなんて嬉しい。もう何も怖くない感じ」 ウキウキ

イリヤ「やだなー、大げさですよ」



前アーチャー「ぼっちのアヴェンジャーにとっては、あんなんで大喜びなんだ。少しは我慢してくれ」

ライダー「……分かったわ」


~~衛宮家、リビング

ライダー「………」

セラ「ねえ、アーチャー」

前アーチャー「おう、なんだい若奥さん」

セラ「ライダーさんがさっきからじっと私を見てるんですけど……」

前アーチャー「あれは放課後に家に帰ってきて、おやつ代わりにイリヤたちをまとめて食べたいんだけど、
         邪魔者が居るから出来ないって顔だな」

ライダー「………」(ムフームフー)

イリヤ「ライダーさん、急に息が荒くなったよ。体調悪いんじゃ……」

前アーチャー「現実に出来ないから、脳内でフェステバってるな。
         今頃、イリヤたちは口に出来ないようなあんなことや、こんなことをされてるぜ」

アヴェンジャー「………」(にこにこ)

クロ「アヴェンジャーさんも静かなんだけど……」

前アーチャー「あれは友達の家にお呼ばれして嬉しいんだけど、ぼっち生活が長かったから、
          何を喋っていいかわからねーんだ。クロ、悪いけど話題を振ってあげてくれ」

クロ「えっと、アヴェンジャーさん……さっき途中で何処か寄ってましたけど、何をしてたんです?」

アヴェンジャー「そうそう、ケーキ買ってきたんだよ。皆で食べようか」

イリヤ「わあ、ありがとうございます。紅茶入れてきますね」

前アーチャー「ショートケーキは俺のもんだ!」

セラ「アーチャー、ケーキに指を突っ込まないでください!」


イリヤ「わあ、美味しい。アヴェンジャーさん、いいお店知ってるんだ」

アヴェンジャー「うん、結構いけるでしょう、これ」

ライダー「……もぐもぐ」(ムフームフー)

前アーチャー「ライダー、食ってるときくらい妄想は止めろよ……」

イリヤ「うん、美味しいなー」

ミユ「イリヤ、唇にクリームがついてるわ」

イリヤ「えっ、どこどこ?」

ミユ「イリヤ……」(ふきふき)

イリヤ「わっ、ミユ……ありがとう」



アヴェンジャー「はぁ、二人とも仲いいんだね」

前アーチャー「どうした、さっきからよ。やけにアンニュイじゃねーか」

アヴェンジャー「イリヤさんとミユさん、クロさん三人と仲良くなりたいのに、距離があるように感じちゃって……」

前アーチャー「そりゃ、おめー……公認カップルと、先輩と後輩じゃ、距離が違うだろーよ」


アヴェンジャー「でも、僕はみんなと同じくらいの時期に知り合ったのに、差があるんだよ」

前アーチャー「ライダーはまあ……おまえと目的意識が違うからだよ。
         親しい先輩後輩っていう仲になりたいっておまえは思ってるが、
         ライダーはイリヤたちをモノにしたいっていう感じだからな」

アヴェンジャー「…………」

前アーチャー「他人は他人、自分は自分ってことだ。おまえも自信持てよ。イリヤはおまえが遊びに来て、随分と嬉しそうだぜ」

アヴェンジャー「本当かい? それなら良かったよ」

???『ん、ん、んー!』

アヴェンジャー「何かお風呂場からくぐもった悲鳴が聞こえるような気がするんだけど」

前アーチャー「き、き、気のせいだろう。最近は人の声で風呂が沸いたって教える湯沸かし器があるだろ、多分あれだ」



~~翌日、アヴェンジャーの部屋

アヴェンジャー「ただいまー」

前アーチャー「おうよ、帰ってきたな」

アヴェンジャー「あれ、アーチャー? 遊びに来てくれたの?」

前アーチャー「オレオレ詐欺にあってないか、おめーが心配で夜も眠れなくてよー」

アヴェンジャー「そうなんだ……ふふ、ありがとうね」

前アーチャー「それより腹が減ったから飯作れ。ハンバーグがくいてー」

アヴェンジャー「ハンバーグは無理だけど、何か用意するね。少し待ってて」(ニコニコ)

前アーチャー「……あんなに騙されやすいなんて、少し過保護に面倒みちまったかなー」




1/The Tower, La Maison de Dieu backnight Ⅰ Taraxacum officinale


~~始まりのゲームセンター前



 ――――――――あれ?なんで?
 全身を侵される。海の中に落ちたようだ。
 皮膚という皮膚、肉という肉、細胞のいたるところまで透過していく粘性の水。
 脳天から踵まで、巨大な沼に溶けていくみたい。

「ヒ―――、あ―――!」

 快感に近い拷問。うめき声すら散断される。
 私はキューブ状に分解した眼球で、細切れになっていく灰色の陽射しと海と、
 三日月みたいな笑い顔と、寂しそうにままごとをする少女の幻影を見る。

「あ―――、……れ?」

 そう、幻影だ。
 私は溶解されても分解されてもいない。

 いらっしゃい、と能面の男に挨拶されて眼が醒める。
 声の主はすぐに見つかった。この時間、この場所に存在する人間は彼だけだ。

「……どうも、はじめまして。貴方が私を此処へ呼び出したのかな?」

「はい。この世全ての悪(アンリマユ)と言います。こんにちは、アンチキリスト」

 性別、男。年齢不詳。
 これといって特徴のない、平凡な紳士。とりあえず彼に質問をしてみる。


アヴェンジャー「何で僕を連れ込んだの?」

この世全ての悪(アンリマユ)「呪力の波は日輪の輝きとともに引き去った。
                 血液の流れのように、無限に分岐し、循環し、収束する、無数にしてひとつの運命、
                 永劫の刻のすべてを、永劫を超えた次なる永劫を、無限の永劫の連鎖。
                 泡沫の夢とはいえ、ここは君が夢見た夢の国(ネバーランド)だ。   
                 ここには悪夢はない。たまには息抜きもどうだね?ほら、食うかい?」


 無邪気に笑う黒い悪魔。
 そんな顔はやっぱりどうしようもなく無個性だ。
 


アヴェンジャー「貴方の暗躍を前にして、休暇などとは……まあ、頂くわ」

この世全ての悪(アンリマユ)「間もなく私も君もこの箱庭に身体が馴染むだろう」

 
 言葉とともにあやふやでモノトーンな世界がたしかに輪郭と色彩を持つ。
 記憶にはないが、世界が自分を認識し実体を持った感覚だ。
 これより僕は、この世界の住人となり
 この界域の規範と制約に縛られることになる。


この世全ての悪(アンリマユ)「やはり品質は粗悪なのは否めないな。
                 おそらく観測できる範囲と認識が狭まれ、
                 きみたちには色々と不便をかけてしまうのは真に心が痛い。
                 む?ところで、アーチャーはどうしたんだ?」


アヴェンジャー「……?……ああ、彼のことか。あそこで麻雀ゲームをやってるよ」


向かいの遊技場で、カタカタと画面に食いついている男の後姿が見える。
 おそらく、アーチャーというのは彼のことだろう。




前アーチャー「くくく、脱衣麻雀か……泣きのアシュと言われた俺様が
         二次元ギャルを脱がしまくってヒーヒー言わせてやるぜ!」

チャリーン

コンピューター「天和(テンホー)」

前アーチャー「ぬぐああああああ、どういうことだこりゃあああああ! このクソゲー、ジュースが飲める金返せー!」




この世全ての悪(アンリマユ)「何やってるんだ、あいつは……」

アヴェンジャー「………」

この世全ての悪(アンリマユ)「どうしたんだ? ポッキー、嫌いだったかい?」

アヴェンジャー「これ、彼に使えるかしら?」

この世全ての悪(アンリマユ)「使う……それは食物であって、使うもんじゃない。食べ物を粗末にするなよ」

アヴェンジャー「問題無いわ。場所は違っても口には入るわ」



~~ゲームセンター

前アーチャー「あん?用件は何よ?」

アヴェンジャー「珍しい光景が見えたものでね。忌み疎まれてきた復讐のクル家の王子が、
          俗世に溶けてお遊戯に勤しんでる、随分と滑稽なものさ……。
          研ぎ澄まされた殺意と危うさは、見る影もない。
          彼の家畜にされて牙を抜かれてしまったのかい?」

前アーチャー「……はっ!なんだ~?てめえこそ?そのつまらねー挑発は」



(あ―――、……れ?変な感覚だ。
 そうか、これが認識の欠如か。思念や景色の欠落で、衝動のままでしか行動が出来ない)
 
 …………魚にいきなり陸で暮らせというもんだ。
 別の生き物の身体で呼吸している感覚がとにかく違和感に満たされている

 でも、不快じゃない…………
 そう、落ち着いて、落ち着いて

 ただ流れるままに、
 求めるままに
 
 湧き上がる衝動
 心の望むままに動けばいい。


アヴェンジャー「…………戸惑ってるんだ。たしかに僕は帰りたかった。
          でも眼が覚めたらアレによっ、ていきなり興味本位で、叶えられていて、逆に困ってる。
          それで、そのきみは………どう思ってるの……かなって……」

前アーチャー「どういう意味だ?」

アヴェンジャー「きみは僕と違って、本物の。復讐者(アヴェンジャー)だ。
          そんなきみがほら、そういうの上手くやってるそうじゃないか。
          どうやったら、そういうのが……あの、上手く出来るのかなって思って……」

前アーチャー「何だー!? 格闘ゲームの乳揺れを観察するの邪魔すんな!」

アヴェンジャー「………」

前アーチャー「わかった話を聞くから、その鈍器を仕舞え。簡単なことだ。嬢ちゃん。
         難しく考えなくていーんだよ、此処じゃあな」

アヴェンジャー「………?」

前アーチャー「アレがおまえに値札をつける。あんたのつけた値を見て、カスどもはあんたを値踏みする。
         ここは、そんなしょっぱい現世じゃねえ。ただの甘ったるい童貞野郎とちんまい処女の妄想だ。
         ただお互いの価値を認め合えばこそ、取り引きは成立する温すぎる箱庭。
         まったくの公平かつ対等な関係。人の寄りつかない森。虚ろな揺り籠。あまりにも理想的な閉じた世界。
         ヒャヒャヒャ、まったくなんて意味がない!」

アヴェンジャー「………」

前アーチャー「あんたはちーっとの間だけお役御免だ。
         残念だったな、ここじゃああんたを恨んでくれる人間はいねえよ
         憎悪と求心のないこの閉じた箱庭のお陰様で、
         今じゃあ小心者のきょどった只の美少女(ベイビーガール)だ」

アヴェンジャー「……訊くけど。なんで僕なの?僕みたいなあやふやで面倒なヤツに声をかける時点で怪しいとか思わない?」

前アーチャー「今のあんたには関係ない話だが、そいつは只の偶然だ
         たまたま演劇の主催者(ゲスト)が、前座の追加出演(オーダー)へ無理やり引っ張り込んだだけだ」

アヴェンジャー(……ああ、そういうコトか。
        それならまあ、僕に声をかけるのも筋が通る。
        世の中、誰が好きこのんで「裏切りの偽世主」の世話を見たがるもんか)

アヴェンジャー「……他の出演者は、暴れたりしないかな……」

前アーチャー「むかつくが構造上、指一本動かせねー。
         嬢ちゃんの安全は保証するぜ。まあ、この街の様子を見れば納得できると思うが」



またも好奇心に負ける。僕は細かく話を聞き出す。
 要するに、とりあえずこの箱庭を見学してみよう、という気になったのだ。

 現状には困ってなかったが、仮初めとはいえ自由にありつけて、
 心の底に深く沈められた「夢」が手に入るなんて話、この先まずあり得ない。

 箱庭に割り振られた条件は一つだけ。
 ある子供が住んでいるこの冬木市の郊内に満ちた寂しさを満たしてあげること。
 あとその子は……どうやらとんでもない金持ちの子女らしい。
 それじゃあ明日にでも向かう、と約束して席を立つ。


前アーチャー「ご静聴どうもご苦労さん。では一つ、前任者としてアドバイスを」

 ニコリと笑う。

前アーチャー「……あのガキは自分に優しい人間が大好きだから、どんな無礼な発言も、どんな虐待にも文句は言わない。
         けれど注意しろよ。仮に、あの子とどんなに親しくなっても口にしてはいけない言葉がある」


 背筋がひりつく。温厚で平凡だった男は歪に唇をつり上げて、


前アーチャー「いいか。決して、外に出よう、と言わないことだ。
         その類の言葉を口にした瞬間、おまえは取り返しのつかない、
         完全な敵として認識されてしまうからな」



 ケタケタと、血走った眼で彼は哂っていた。


アヴェンジャー「問題ないよ。それより、契約の代償は何か他にある?」

前アーチャー「そうさなー、おめえが変態……もとい淑女的な振る舞いをしてくれれば、それで十分だぜ」

アヴェンジャー「淑女的な振る舞い?」

前アーチャー「アヴェンジャー、おめえはこの世界でも飛びっきりの大和撫子だ。
         俺の股間のレーダーが、わおーんわおーんって言って、それを教えている」

アヴェンジャー「よくわからないわ」

前アーチャー「それじゃ、また何か聞きたいことがあったら、このスーパーハンサムボーイに言いな。
         AVを見ているとき以外なら、いつでも駆けつけてやるぜ」


 僕はいま楽園にいる――と思っていた。
 ここが楽園であるのも時間の問題だと思うから、楽園が楽園であるうちに訪ねてこないか、
 という提案というよりは、一人言のような内容だった。



~~明け方、アヴェンジャーの部屋


アヴェンジャー「……夢?」

前アーチャー「凄えうなされてたぜ?」

アヴェンジャー「懐かしい夢を見たよ……」

前アーチャー「大丈夫だ、今のところまだ安定している……
         まあ、このエロス仙人にかかれば、アレを騙すなどは容易いことよ」


 あんなにも前向きな心持ちはやはり彼が英雄たる所以なのだろう。
 あの時は自分の異常を此処では弱点と思っていたから聞き流していたけど、今はなるほどって頷ける。
 人間、持つべきものは目標である。


アヴェンジャー「僕、理想の椅子を見つけちゃったよ。気を付けてたけど、ダメだった」


 このままでいいと思ったけど、自分も鍛えるコトにしよう。今までデフォルトの才能に頼りすぎていた。
 どうせ変えるならきめ細かく。中身だけじゃ全然足りない。私は新しいネジを手に入れる。
 存在まで完全に模倣できる、何者でもなく何者でもある、機械仕掛けになってやる。


 ふんだ。今に見てろよ、あのクソガキめ。