─────────────────────────────Another Servant     13日目 終幕へ向けて───────



──────Riders Side──────


 東の空から日が昇る。
 闇夜の群青は陽光に塗り潰され空色に染まり、新たな一日は鶏の鳴き声を開演の合図にして始まった。


「ライダー、庭にこんなものが落ちていた。これはお前の物か?」
 ゲドゥは指先に挟んだ紙片らしき物をひらひらとして見せながら、のんびりと朝風呂に浸かっているライダーに訊ねた。
「……む? なんだそれは? 俺様は知らんぞ、そのような紙切れ。 
 庭に落ちていたと言ったな、今朝の太陽神の舞の最中には気付かなんだが……どこにあった?」
「お前が日課の体───いや、太陽神の舞を踊るのに使っていた庭よりも正門に近い場所に落ちていた。
 見難い所に落ちていたから何時からそこにあったのかはわからんが──……。
 そうか、この手紙はお前の持ち物ではないのか」

 牧師は途中早朝の体操と口を滑らせかかったが、面倒を避ける為やんわりと訂正を入れて再び本題に戻した。
 ライダーが太陽神の舞と主張するのならそれはどんなにラジオ体操であっても体操ではなく太陽神の舞なのだ。
 たとえ白でも黒と言うのがこの英霊と付き合う上で重要な秘訣だとゲドゥはこの十数日の経験で学んでいた。

「しかしこの日本酒とやらは中々に深い味わいがする酒だな。飲んだ事はあるか牧師?
 これはライスで出来ているらしいが…フフまぁまぁの美味よ。
 して牧師、その紙切れの中身はなんだ? ファラオに読み聴かせるがいい」
 湯船にはお盆の船が酒器の乗組員を乗せて浮いている。
 熱い湯に胸まで浸かりながら酒の入ったお猪口をクイッと傾けてその風味を楽しんでいたライダーが手紙に興味を持った。
 ファラオの命令に促されるようにゲドゥ牧師も手紙の中身を検めてみる。
 すると封を開いた途端、手紙にかけられた魔術が自動的に発動していた。
 二人の脳内に響き渡る馴染み深い言語。
 有り難い事に内容の翻訳までしてくれるとは、この手紙の送り主は余程この情報を教えておきたいとみえる。

「ふん、キャスターの奴めまだ生きておったか。存外にしぶとい小虫よな」
 手紙に魔術を施したのがキャスターであると一目で看破した王は不快そうに風呂場の天井を睨んだ。
 彼からすれば殺したと思っていた敵がまだ生きている事自体が冒涜なのだろう。
「いいやキャスターは死んだと昨夜の交戦の際にセイバーのマスターが言っていたろう。
 まあ尤もお前は変貌したセイバーばかりを見ていたから耳に入らなかったかもしれんがな」
「そうだったか? まあそう言われてみれば確かにあの小娘がそのような事を言っていた気もするな。
 それにしてもセイバーめ、昨夜のファラオに対する暴挙だけでは飽き足らず王が罰すべき咎人を俺様の許可なく処断するとは…。
 どうやらそんなにしてまで我が手で死罰を与えられたいらしい」
 天井を仰ぎ見るライダーが微笑んでいる。
 その穏やかな微笑は牧師の眼には不気味にしか映らなかった。

「一応訊かねばならんが、昨夜はそのセイバーに返り討ちに遭いかけただろう。あんな調子で大丈夫なのか?」
「下らん。あれはマグレと言うやつだ。まさかあそこまで奴が化けるとは思わんでな。
 流石の俺様も少々面食らってちょっとばかり手傷を負ってしまったわ」
 油断で大負傷しといてちょっとやマグレで済ませる辺りが何とも豪気な事だが、
 まあ真っ赤な嘘という程でもあるまい。とゲドゥは聞き流した。
 もし昨夜ライダーが本気でやっていればセイバーかファイターのどちらかは彼の宝具で消えている。
 そうしなかったのは敵が二人だった事と、まだ未見だった黒騎士と闘王の奥の手を探っていたからだ。
「だが観察はもう十分だ。連中の保有する宝具に対軍宝具はない。
 次遭う時は手堅く一匹ずつ確実に殺すさ」
「なら結構だ、これ以上私から言う事はない。傷の方も聖布の効果で大分癒えたようだしな。
 朝っぱらから風呂などに入りながら飲酒出来るのなら特に問題もあるまい」
 嫌味らしきものを漏らすマスターを完全無視してライダーはまた日本酒を嚥下した。

「で、どうするつもりでいるんだライダー?
 こんな手紙を寄越したキャスターの思惑はどうだったにせよだ、これは有益な新情報だ。
 ずっと発見に手間取っていたファイターのマスターの根城が分かったのは大きな収穫だろう?」
「そうだな、確かに収穫だ。利用せん手はない。だがキャスターどもの思惑は気にかかる。
 もはや当人は消えたにせよ、こんなものをわざわざ寄越した意図が隠されている筈だからな」
 知略に長けたファラオが敵の思惑を読み取らんと灰色の頭脳をフル回転させている。
 ライダーと同様にゲドゥも自分が思いつく限りの推測を口に出してみた。
「キャスターではファイターを倒せんからではないのか?」
「それは俺様も考えたが恐らく違うな。
 昨夜貴様も見ただろう、ファイターは城に篭って受けに回るタイプのサーヴァントではない。
 キャスターの工房を攻め落とせんから強い俺様に代わって貰おうとしたなら分かるが、送ってきたのがそのキャスターだ。
 これでは道理が合わ───いや待てよ……」
 牧師の言葉を否定したライダーはそう言って何かに思い当たったかのように思考の海へと潜ってしまった。
 どうしたと声を掛けても反応がない。
 仕方なくゲドゥはそのままライダーの思索が終えるのを黙して待つ。

「オイ牧師、今更ながら思ったが聖杯はどうやって手に入れる?」
「いきなりどうした?」
 思考の深海から浮上し《もどっ》てきたライダーは開口一番にそんな疑問を口にしていた。
 意味が分からず面を食らうゲドゥだったか、黙って答えろと急かすライダーを訝しく思いながらも当然の台詞を返した。
「確か聖杯は六人のサーヴァントと六人のマスターを排除すれば手に入るものだった筈だろう。
 まさかとは思うが基本ルールを忘れたとは言うまいなライダー?」
「バカめそれは聖杯を完成させる為の条件だろうが。俺様が言っているのはその完成した聖杯の入手方法だ」
 それは……と口篭る牧師。
 それも当然だ、彼らはその入手方法をまだ知らないのだから。

「クク、俺様とした事が一番肝心な部分の話を考え忘れるとはな。
 恐らく聖杯は物体ではあるまい、俺様達英霊が生きていた神代ならいざ知らずこんな時代にそんな万能器が有る訳がない。
 ならばこの場合聖杯は霊体と考えるのが妥当だろうな。
 となるとだ、同時にきっと完成した聖杯を降霊させる器もこの地のどこかに在る筈だ。
 それから降霊させる為の高い霊格を持つ霊地もな。
 聖杯が英霊を招来するような代物なら召喚地にも相応の格が必要になる」
 しかしライダーはとうにその答えに辿り着いていたようで、困惑するゲドゥを置き去りにどんどん新たな情報を喋っていく。
「ま、待て待て! 少しでいいから待て。話が飛び過ぎだ、これでは理解が追い付かん」
「何を言うか、別に話は飛んでおらん。
 俺様は一貫してキャスターの考えを推理しているだけだからな。
 つまりな牧師、要するにキャスターはファイターとそのマスターの根城に不利を承知で攻め込む必要性が出来たのだ。
 逆に言えばそれはファイター陣営は既に待ちに回れる状態にあるという証。
 即ち、奴らはこの戦争の勝利に必要な鍵を全て握っている。
 その手紙に記される地図の場所こそがこの戦の終着点なのさ。
 まあ大方キャスターどもは俺様達が潰し合ってる間に横合いから漁夫の利を狙う気でいたのであろうよ」
「─────────」
 ゲドゥはライダーの推理力に思わず舌を巻いた。
 名探偵も吃驚な名推理である。
 確かにライダーの話には一本の筋が通っている。それに自分らの抱える大問題点もだ。

「あと残る疑問はではそれならば何故昨日ファイター達と遭遇したのかという問題だが………」
 推理に筋を通す邪魔になる矛盾点を潰そうとライダーが考え込み始めたが、代行者には一つ心当たりがあった。
「それについては私が解答を提示できる。
 町で起きた大虐殺事件が聖杯戦争の関係者によるものなら話は別だ。
 神秘の秘匿は魔術師ならば大原則。特に霊地管理者の家系ならば如何な理由があろうとも無視は出来ない。
 たとえリスクを負ってでも穴蔵から出る必要がある。
 ライダー、お前の推理は恐らく正しいぞ。
 遠坂は聖杯戦争を始めた御三家の一角らしい、なら器の事も降霊地の事も誰よりも知っている筈だ」
「ほうほう珍しく役に立ったな、でかしたぞ牧師。では疑問は全て解決だな。
 さて方針は決まった、本日中にファイターのマスターの根城を攻略するぞ。
 ファイターの、いや闘王ベーオウルフの力量と宝具能力は確認済みだ。
 あれならば普通にやっても俺様の勝ちではあるが────、
 竜殺しの大英雄を過小評価するなど愚かな真似はせん。
 太陽《ちち》の見守る下で確実に消し去ってくれよう」

 そうしてライダーは戦前の高揚感を抑えるようにクイッと最後の酒を煽るのだった。







──────Sabers Side──────


 ぐっすり眠って眼を醒ますと日はとうに昇り切っていた。
 綾香にその自覚はなかったがこの見事な寝坊っぷりを考えると気付かぬ内に相当疲労してたらしい。
 セイバーの狂戦士化で精神をかなり磨り減らしていたのだろう。
 と、寝坊の失態を正当化しつつ綾香はさっさと着替える事にした。
 着替えに手を伸ばし、いつもの洋服を着るかどうかを一瞬だけ真剣に迷ったが、やはり着る方を選ぶ。
 見栄えはどうあれ和服よりも圧倒的に動き易いのは事実だし、この洋服の恐るべき真相も西洋事情に詳しくない者には分かるまい。
 なんて考えながら寝間着を脱ごうとしていると、
「よっす、おはようさんアヤカ!!」
「………ウフフ、まだギリギリ着替え中じゃなくてよかったねセイバー?」
「す、すいません部屋を間違いました」
 騎士が確認も無しにバダーン!と勢い良くドアを開け、少女の顔面を見たと同時にパタン…と逃げ去って行った。

 そんな愉快なやり取りで彼らの一日は始まりを告げた。



「おはようアヤカ。さっきキミの部屋で女怪ハーピーを見た気がしたけど多分気のせいだと思う」
 王宮にありそうな馬鹿長い机の上に広げられた食料をモグモグと口一杯に頬張りながらセイバーが挨拶をした。
「…………オハヨウ。本当ハーピーと出遭わなくてよかったわね、貴方きっと死んでたわ」
 そして彼女の返す小粋な挨拶に騎士は、んぐっ!?と食べ物を喉に詰まらせて苦しんでいた。
「ゴホッゴホッ! ち、窒息死するところだったじゃないか……」
「自業自得でしょ。それにしても……なにソレ?」
 少女の言うソレとは勿論長机の上に無造作に置かれた食料の事である。
 まあ食料なんて表現をするくらいだから当然それは料理とは程遠い。
 一言で表現すれば漫画に出てきそうなワイルドな原始人《おとこ》に似合いそうな骨付き肉の塊(多分マンモス肉)だ。
「ん? なんだアヤカも食べる? これ直火焼きしただけだけど結構旨いんだぜ~?」
「い、いらない…。朝食は自分で何か軽い物を適当に作るからいいわ…」
「──なっ、ずずずズルいぞアヤカーーーー!
 なんでもっと早く言ってくれないんだ! 自分ばっかりうまいもん食おうなんてこの卑怯者!
 日頃キミの為にガンバっている騎士に褒美があってもいいと思うぞ!? いや有るべきだ!
 いえ、言い直しますオレの分まで作ってください」
 セイバーは口角に泡を飛ばして捲くし立てたが、最後にはペコリと頭を下げた。
「はいそれで結構。といってもわたし一昨日作った日本食しか作れないわよ? フランス料理なんて知らないし」
「全然問題ない。アヤカの作るメシはうまいからな!」
 満面の笑みで美味い、美味かったと一昨日の味を思い返しながらうんうん頷く騎士。
「そ、そう? わかった、それじゃあ気合入れてちゃっちゃと作りますかっ」
 そう言って綾香はどこか機嫌良さそうに厨房に入っていった。


 それから小一時間ほどの調理を終えて、二人は長机に向かい合う形で朝食を取っていた。
 終始美味い美味いと褒めながらがっつくセイバーの様子に綾香は少し照れ臭そうにしながら黙々と箸を進める。
 そうして和やかな雰囲気のまま朝食の時間は約30分程で終了した。


「さてと、御飯も食べ終わったし今後の方針を整理しなくちゃね。
 確認すると現在残ってるサーヴァントは、セイバー、ファイター、ライダーの三体で合ってるわよね?」
「おう。ランサーとバーサーカーとキャスターは脱落したからな。
 あとアーチャーは倒したってトオサカが言ってたがこれも本当だと思う。
 昨日アーチャーのマスターだったマトウって奴がキャスターと一緒にいたしな」
「となると………この後わたしたちはどうすればいいのかしら。
 聖杯ってただ単純に残る二組を倒せば勝手に手に入るものなの?」

 綾香の疑問にセイバーは先代マスターがしてくれた話を思い出し首を横に振った。
「いいやルゼリウフの話では確か……あ~、聖杯の器に完成した聖杯を降霊するとかなんとか?」
「なんか頼りない情報源ね……大丈夫なのその話、ちゃんと記憶と合ってる?」
「オウちゃんと合ってるぜ! ……ん、合ってる筈だ。
 それにルゼリウフも黄金の杯を持ってたしアレが多分その聖杯の器なんだと思う。
 でも昨日倒したアーチャーのマスターはルゼリウフから奪った筈の器を持ってなかった。
 なら今聖杯の器を持ってるのは多分アーチャーを倒したファイターたちだぜ。うんきっとそうだ」
「わかった、そこまで言うのならセイバーの記憶を信じて話を進めましょうか。
 じゃあわたしたちが聖杯に辿り着くには絶対にファイターたちを倒して器を入手しないといけない訳だ」
 幾度と刃を交えた強敵二人の顔を思い出して二人は気を引き締めた。
 彼らを倒して聖杯の器を奪取するのは容易ではないだろう。
 だがそれでもやり遂げない事にはゴールさえ出来ないのだ。
「そういうこったな。そして多分オレたちが敵陣に乗り込む展開になると思う。
 ルゼリウフが言ってたんだけど今回の聖杯降霊地は遠坂邸か、え~と確かキャスターの工房があった丘なんだってさ。
 その二つのどちらかの土地じゃないと聖杯を降霊するのに必要な霊格を備えてないから儀式は成功しないとも言ってた。
 数日前にオレらが滞在してた寺も適切な降霊場所らしいんだけど前回の儀式で降霊地として使ったから門が閉じてて云々でダメってよ」
「そうなんだ。ってことは十中八九有利な自分の工房に立て篭もるでしょうね。場所わかる?」
「ふっふ~モチロンだぜ! 地図によるとこの前攻め込んだマキリの工房から結構近い場所にあるっぽい。
 ルゼリウフの話だとあの陰気な洋館よりもう少し山頂の方に建ってるそうだ」
 敵地の場所も把握済みならば一安心だ。
 これで一応はすぐにでも行動を起こせる準備が整っている事になる。

「とりあえず簡単な方針はこれでいいとして、あと残ってる問題は……………ライダーの攻略法ね」
「────────む」
 ピクリと騎士の眉が動く。
 綾香の呟きに場の空気が重い沈黙で包まれた。

 ───ラメセス二世。
 戦争と政治に優れた最も偉大なファラオと讃えられたエジプト最高の大英雄。
 騎兵でありながら騎乗槍だけでなく弓まで使う変わり種で綺羅びやかな戦車に乗って戦うスタイルのサーヴァントだ。
 単身で闘ってもランサーと五分で戦れる実力者だがその本領は戦車に騎乗してからにある。
 そして何よりも一番特筆すべきは彼の宝具だ。
 その破壊力は単発でさえ絶大な火力を誇るのに、かの太陽王はこれを乱発可能という恐るべき特性を有していた。
 本当に底が全然見えない不気味な敵。
 綾香もどこまでがライダーの本気なのか未だ正確に掴めずにいた。

「最大の壁はライダーの宝具だな。
 仮に令呪の援護で瞬間移動とかで躱しても敵が乱発してくるんなら意味がねえ」
 一分程の沈黙を経て、綾香の呟きに答える形でセイバーが口を開いた。
 その表情は真剣そのものだ。
「やっぱりそこが問題よね。セイバーの宝具は対人宝具、それに対してライダーは対軍宝具。
 残念だけど両者の切り札は破壊力の規模が違う。
 まともに宝具の撃ち合いをしたら────まずわたしたちの負けだわね」
 変えようもない仮想対決の結果に綾香はさらに表情を曇らせた。
 祖父の仇と分かっていながら討てない歯痒さ、己の無力感が彼女の内で暴れているのだろう。
 その自己を苛む苦悩は騎士にも理解出来た。
「…………………………なあに心配すんなよアヤカ!
 勝負はやってみなくちゃわからねえぜ。要は宝具なんて使わせなきゃいいんだよ、オレに任せろ!!」
 だから騎士はそんな主の不安を吹き飛ばすように勇んでやる。

 覚悟は決めた。なんなら最悪相討ちだって構わない。
 何としてでも少女に仇を討たせてやるのだと固く心を決める。
 自分はその上で聖杯を獲ろう。
 それくらいも出来ない者に聖杯の慰撫はきっと与えられないだろうから。







──────Riders Side──────


 現在時刻は午前11時頃。
 幸いにして本日は昨日と異なり晴天なり。
 陽光は冬の寒空ながらも燦々と輝き続け地上を暖かく照らしている。
 この太陽が最も高く輝く午前11時~午後13時の時間帯こそがラメセスにとって最大の力を発揮出来る黄金時間であった。

 彼が設置した『王奉る太陽像』の恩恵によって日中は飛び放題の戦車改め飛空艇は一路遠坂邸を目指す。
 ちなみにライダー達がこの時間に遠坂邸へと出陣したのは、太陽が最も高くなる時間帯を狙っての戦略でもあるが、もう一つ理由として勝利を完全なものにする為の下準備を行なっていたからでもあった。
 日が昇ってから午前中の間に新しくライダーが増設した太陽像の数は実に三つ。
 念には念を入れて配置した王像はたとえその内のどれかが破壊されたとしてもライダーに与える影響はない。
 キャスターに発見された石像や敵に破壊された像など、これまでに配置した太陽像は全て破棄。
 そして新しく王像の再配置を済ませ、合計三つのオベリスクが冬木には存在している。


「天候よし、体調よし、地図よし、敵地の確認よし、準備よし、以下略全てよし。本日はよき戦勝日和である」
 太陽船の眼下に広がる深山の町。
 高みから下界を見下ろしている王はいつになくやる気満々の様子であった。
 秘薬で金色に染めた髪毛を逆立たせ、褐色の肌に勇ましい化粧を施し、高貴なる者の証として金銀細工の装飾品を身に付ける。
 人々が思い描く完璧なファラオ像を演出している時のラメセスは本気そのものであり、事実現在の彼には油断も増長もない。
 この瞬間の太陽王はまさしく最強を名乗るに相応しいだけの実力と精神力を兼ね備えていた。

「ところでライダー、聖杯の降霊はどうするつもりだ? 生憎だが私は召喚も降霊魔術も無縁だぞ」
 もう勝った後の話を始める牧師を咎める者はこの場にはいない。
 なぜなら二人は油断するでも慢心するでもなくただ事実として勝利は自分らものであると確信しているからだ。
「興が冷める、下らん心配をするな。安心しろ降霊なら俺様が何とかしてやる。
 貴様は魔力提供などのバックアップを黙ってしてればよい。
 本来ファラオとは統治者であると同時に神官でもあるからな。
 幸い神霊や聖霊など高き霊格の存在の扱いは俺様の習得分野に入っている。なんとかなろうさ」
 そうかならばいい。とゲドゥはそれだけ返すと大空から見渡す限りの絶景を黙って眺め続けた。

 そうして大空を駆け抜ける飛空艇は人里から微妙に外れた位置に孤立するようにして建つ洋館をついに発見した。


「───見つけたぞ、地図的に見ても恐らくアレがファイター達の根城だな」
 思いの外あっさりと見つかってやや拍子抜けしたという表情をするライダーだったが、それもすぐに好戦的な笑みに塗り潰された。
 同じく眼下の邸を見つめるゲドゥが一気にカタを付けるか?とライダーに訊ねてくる。
 日中撃ち放題の宝具を使用して本丸に奇襲を仕掛ければ、それこそ敵は抵抗さえ出来ず一瞬で勝負が決まるだろう。
 だが───、
「聖杯の器まで消し飛ばしては冗談にもならん。まずは器かそれに準ずる物品の確認が先だ」
 殺すのはいつでも可能だと言わんばかりに王が冷ややかに首を横に振った。
 操縦席に座る騎手は敵の城に乗り込む戦士の顔付きで着陸の準備に入ると、
 飛行艇はそのまま緩やかに下降を開始した。

 ライダーは図体の大きい艦でも着陸可能な空き地が遠坂邸周辺に無いか探したが、
 これといって目ぼしい場所も見付からず仕舞いだったので結局庭を着陸場所に定めた。
 敵陣のど真ん中に堂々と戦車を停車させる。
 それは偏に絶対の自信の表れであった。


「やけに静かだな」
 やたらに広い遠坂家の私有地内は不気味に静まり返っていた。
 昼間だというのに薄暗い……。
 そんな錯覚さえ覚えてしまう静けさである。
 野良猫の一匹や二匹くらい居てもおかしくない天気なのに周囲には何もいない。
 当然人の気配など皆無だ。
「…………………」
 ゲドゥも気を張って周囲の気配を探ってみるがその警戒網には何も引っ掛からない。
 そればかりか令呪も反応しないとはどういうことか?
 二人はすぐに妙だと悟った。
 が、敢えてこちらからは何もせずに三分間だけ待ってやったが、やはり音沙汰はなし。

「リアクションが無さ過ぎるな。俺様に怖れをなしたのはよしとするがこれは………」
 そう言いながらライダーは無造作に戦車から飛び降りた。
「お、おいライダー!」

 ゲドゥの呼び掛けなど無視してライダーは邸の正面玄関がある場所まですたすたと歩みを進める。
 ライダーは途中何度か結界らしきモノに行く手を阻まれたが、
 その都度地面に手を当てて何らかの情報を読み取るような動きをした後、大槍を薙いで再び何事もなかったように歩き出す。
 異端狩りのプロであるゲドゥ牧師すらもつい唖然とする程の手際の良さである。

「………驚いたな。一応教えておくがここの工房は言ってみれば城塞のような場所なんだぞ?」
「そんなこと貴様なんぞに言われずとも承知しておるわ。それがその城塞を突破した本人に言う台詞かマヌケ。
 これらの結界を布陣した魔術師が間違いなく一流だというのはお前以上に理解っている」
 しかしファラオはさも当然といった反応で牧師を軽くあしらっていた。
「その一流の魔術師が敷いた結界を軽々と突破しておいて他に感想はないのか…?」
「無い。己の専門分野なのだから当然の結果であろう。そんなものにいちいち感想など抱かぬ。
 貴様にはまだ教えてなかったが、土地や建造物に関する魔術は基本的に建築王たる俺様には通用せん。
 なぜならこのラメセス以上に土地や建物に精通する者は存在せんからだ。
 キャスターならいざ知らず人間風情など競争相手にもならん」

 つまらない事実を告げるように言い捨てて、さらにライダーは奥へと侵入する。
 彼は自らが宣言した設置式の結界なら効かない。を証明するかのようにぐいぐいと前進していく。
 しかしその強引な前進は単に結界を看破し突破出来るだけの知識と技能を持っているからだけではなく────

 こうして太陽王は戦車を着陸させた庭からあっと言う間に邸玄関先まで到達してしまった。


「───────さて、入るぞ」
 此処へ乗り込むまでの間に見せていた闘志はどこへいったのか、
 どこかやる気を感じさせない萎(しな)びた口調でライダーが正面玄関の扉をこれまた無造作に開けた。
 そして邸内へと押し入る。
 だがしかしこれといって何も起こらない。
 魔術師の根城の内部にまで侵入してきた外敵に対してここまで無防備なのは明らかに変だった。
 そして次の瞬間には、無音の邸宅に金髪褐色の王の大声が響き渡ていた。
「おい、ファイターのマスター! わざわざ俺様が足を運んでやった事はとうに察知している筈だ!
 ────やはり貴様、初めから逃げていたな?」

 "───邸内全部を調べ切る前に早々に結論を出すとは流石だね太陽王ラメセス───"

 痺れを切らしたライダーが声を張り上げると、
 天井から呼び掛けられるような、洞窟で反響する音のような、そんな音声がどこからともなく響き渡ってきた。
 反響する声に反応してゲドゥもサーヴァントと背中合わせになって身構えるがやはり何も起こらない。
「どうするライダー? 留守となると予定が少々変わりそうな雲行きになってきたぞ」
「災害を察知した鼠が一目散に逃げ惑うように俺様の強大なファラオーラを感じ取って恐怖の余り逃げ出したと見える。
 くっくくっくっ! まぁ構わぬさ、すぐに見付け出して殺してやるだけよ。
 ところで魔術師よ、一つ……王が直々に問い質そう。
 聖杯の器は貴様が持っているな────?」

 "───無論だ、欲しければ奪いに来るといい。のんびりと待っている───"

 それを最後に邸の主人の音声は霧のように掻き消えてしまった。
 もう話すことはないという意思表示なのだろう。
 邸内は元の静寂しかない空間へと戻った。
「それにしても寺へ小娘の抹殺に出向いた時といい此度の戦はすれ違いがよく起こるな。
 やはり存在感が有り過ぎるのも問題か。恐怖に駆られた溝鼠が毎度一目散に巣穴から逃げ出してしまうわ」
 しかし標的抹殺を空振ったにしてはさして不機嫌になる訳でもなく、
 そればかりかライダーはなぜかむしろ愉快そうですらある。

「ふんっ。だが面白いではないか。このラメセスに知略勝負を挑んでくるとは身の程知らずめ」
「知略勝負だと?」
「然り。どうやら今回の留守は単なる偶然ではないらしいぞ牧師?
 奴らは涙ぐましくも俺様に揺さ振りを掛けているつもりのようだ。
 聖杯の器を奪取させまいとする奴らと聖杯の器を奪い取ろうとする俺様達の知恵比べが今から始まると言う訳さ。
 クククククッ! 奴らが次に出す手は既に読めている。さあてどうしてくれようか?」
 そう愉快そうに笑ってライダーは近場の椅子に腰を下ろした。
 高級な椅子の座り心地にほぅと感心しつつも、瞳は真剣なまま何かを考え込んでいる。

 殺し合い……いや、一方的な滅殺の展開から逃げ延びて対等の心理戦に持ち込んできた敵の手練手管に感心しているのだろう。
 そしてその相当な手練との心理の読み合いを如何にして華麗に勝利し、サーヴァント諸共に屠るかを思案しているに違いない。

「もう一度聞くがどうするライダー? なんならば───」
 自分の部下を使うか?とゲドゥが口にする前にライダーはマスターの台詞を代弁していた。
「…………牧師、貴様の部下全員に通達せよ。
 ファイターのマスターを町中から草の根分けてでも探し出せ、とな。
 案外マヌケにもまだその辺を彷徨いているやもしれんからな」
「了解した。潜伏させている間者全員に伝えよう。民家内も全部検べろとな。
 我々の存在が土地管理者に知れたのならもう隠密行動を続けさせる意味も薄い。
 こちらの持てる性能全てを駆使して標的を発見させる」
「よし。さあせいぜい逃げ隠れてみろ、俺様が暗闇から燻り出してやるぞ野良犬めフフフ…!」

 この聖杯戦争を短期決戦で決着させる。
 そしてこの地に出現する偽聖杯を否定してこの国の退魔組織が出てくる前に国外へ退去する───。

 ライダーとは完全に目的が異なる事をその冷淡な鉄面皮で覆い隠したまま、ゲドゥ牧師は部下全員に狐狩りの命令を飛ばす。
「ゲドゥよりフユキに潜伏する全員に通達だ、コード000を発令───。
 そこそこに広い港町ではあるが何としてもターゲットβを探し出せ。以上だ」

 指揮官自らが発動させた念話と指令。
 すると直ちに冬木各所で斥候達による念話の交信が忙しなく飛び交い合い始めた。
 コード000───。
 これまで潜伏の原則を守らせる為に極力封じてきた魔術の使用を解禁させる命令。

 それ以上後も先もない終わりへ向かうだけの作戦行動を命じたゲドゥは本気の狐狩りに乗り出していた。







──────Fighters Side──────


「────ふぅぅ。たった今ライダーと代行者が我が邸内に侵入して来たよファイター。
 代行者の様子だと相当数の斥候を町に潜ませてるらしいね。タイミング的には本当にギリギリだった」
 本当に危うい所で難を逃れたのを再度実感した刻士が浅い嘆息をついた。
「いやいやお見事。遠坂殿の予想がズバリ的中したな」
 ネクタイ姿の紳士が隣人の称賛に薄く笑って応える。
 ファイターの方にしてもこの結果にややしたり顔になっていた。

 周囲は暗く見渡す限り何も無い。
 そう───何も、ない。
 大気中には濃密なマナが充満しているのを除けば特にこれといって何も無い広大な空間。

 なぜ彼らがこのような場所に居座っているのか。
 その理由を知るには数時間前に話を戻す必要があるだろう。



              ◇                 ◇



 ────数時間前の遠坂邸。

「邸を出る……!?」
「そうだ、何か問題があるかいファイター?」

 起床して早々に刻士の口から飛び出た言葉は驚きを隠せないものであった。
 魔剣で狂戦士化し尋常ではない能力強化が施されたセイバーをライダーとの共闘で辛うじて撃退したのが約六時間前だ。
 あの死線からまだそんなに時間も経過していないというのに赤い紳士は驚くべき台詞を吐いている。

「…い、いや、遠坂殿がそうすると言うのなら私からはこれといって異議は無い、無いのだが………」
「歯切れが良くないね。思う事があればきちんと言って欲しい。それが協力関係というものだ」
 遠慮がちに言葉を濁していたファイターだったが刻士本人の頼みとあらば答えない訳にもいかない。
「………では、遠慮せず述べさせて頂くが…。
 セカンドオーナーとして片付けなければならなかった虐殺事件は解決した。
 鍵となる聖杯の器も貴殿が所持しているし、聖杯降霊地として相応しい土地も既に確保済み、というよりそこに居る。
 そしてこの遠坂邸は何より貴殿が最も力を発揮出来る工房ではないか。
 いや、此処以上に守り易い戦場など冬木にはない。
 ここまで好条件が揃っているのなら普通のマスターであれば籠城の戦法を取ると思ったのだが……。
 どうやら遠坂殿は違ったようで些か驚いたのだ」
「まあそうだね。君の意見は尤もだし、なにより正しい。
 確かに私もこれだけの条件を備えた状態であればきっと迷いなく敵を自陣で待ち構える戦術を取っただろう。
 ただし、この聖杯戦争にあのライダーがいなければね───」

 ───その名称にファイターの表情が一瞬にして変わった。
 微かな驚きと、主に対する隠し事が見透かされてたことへのどこか恥じるような顔だった。

「遠坂殿………それは…」
「君は邸に留まる事が危険を伴うと分かっていたな?」
 心の内を探るような視線。サーヴァントの巨躯を見上げるマスター。
 ファイターはそんな遠坂の視線から逃れるようにふいっと眼を逸らした。
「………………すまない黙っていた。
 確かな証拠や確信がある訳でもなしに魔術師にとって最も安全な城である工房から出るようにとは言えなかった。
 それならば多少危険はあるだろうが、火の粉が降り掛かるよりも疾く私が何とかするべきだろうと。
 誠に申し訳ない、やはり遠坂殿にはきちんと言うべきであった」
 深々と頭を下げてくる闘士に魔術師はやはりそうか。とだけ返すと瞼を閉じたままなにやら考え事をしていた。

「────……、君が神経質になっている気がしたのはやはり私の勘違いではなかったか。
 そういう事情だったのならあれだけピリピリとした気配も納得がいくというものだね」
「まさか遠坂殿……気付いていたのか? 極力不安を煽らぬように気は極力抑えてた筈なのだが………」
「生憎と私も君と似た様な事が出来てね。
 まあ私のそれは君と比べるべくもない粗末な真似事だが────。
 まあとにかくだ、意見が一致しているのなら面倒がなくていい」
 早く家を出る準備をせねばな。と、刻士は言うや否や悠々と支度を始め出した。

「ま、待ってくれ遠坂殿?! 私の話はあくまで主観的なものに過ぎぬ!
 私の行動を理由にするのならその前にもう一度よく熟考し直した方がいい!
 万が一私の勘違いであったら最悪の事態だぞ!?
 わざわざ自ら進んで最強の防衛陣を放棄したようなものではないかっ!」
 無計画で無茶とも思える突飛な行動を取ろうとしているマスターをファイターは必死に考え直すように説得する。
 だが刻士の意思は固く、というよりはファイターの話が決意する最後の後押しになっていた。


「ところでファイター、話は逸れるが君は円卓の騎士の一人で太陽の騎士ガウェインを知っているかな?」
 あまりにこれまでと方向性の違う話題を振られ思わず面を食らう闘士だったが、直ぐ様気を取り直して首肯した。
「えと、まぁ、無論だ。アーサー王伝説は世界中で有名な伝説の一つであるからな。
 ガウェイン卿なら私もよく知っているが、それが…?」
「そうか、ならば話は早い。ではファイター、かの太陽の騎士の宝具が何であるかは知っているかい?」
 さらに刻士が朗らかに問う。
 ファイターはますます訳がわからず少し訝しそうにしていたが、それでも真面目に考えた。
「う……う~ん、聖剣ガラティーン以外にないであろうな。
 あれほど格も高い聖剣持ちなら他に代替も利くまい。
 ────ああ、それともう一つ、正午で力が三倍になるというガウェイン卿の特殊体質も恐らく宝具の可能性があるかな?」
 これでよいだろうか?と視線で返す闘士に刻士は満足げに頷いた。

「ああ十分だ。そしてここからが本題なのだが……、
 私はライダーもそういう特性を持っているのではないかと推測している」
 刻士の表情と声は至極真面目だった。
 場を和ます冗談や有利な陣地を捨てる言い訳にはとても見えない。
 遠坂が本気でライダーがガウェインと類似した特質を備えていると思っているのがファイターの眼からも分かった。
「し、しかしだな遠坂殿……、ラメセス二世にはそんな特殊体質の逸話は無かったと思うが───」
「まあ恐らくラメセス本人にはそんな異能など備わってないだろう。
 しかし───宝具能力となれば話は別。
 ファイターの宝具であるネイリング、フルンディング、ビオウルフの三つはそれぞれが対人宝具だ。
 魔力燃費が非常に良いネイリングなら二桁。平均的な消費量のフルンディングでも二、三回。
 切り札のビオウルフだと魔力量を満タンの状態でもせいぜい二回の使用が限界だろう?
 普通宝具なら対軍宝具というだけで持ち主がどんなに魔力保有量が多かったとしても二度が限度の筈だ。
 だというのにセイバー達はライダーが対軍宝具を乱発すると言う。
 なら理詰めで考えればそんな奇跡は宝具の力でもない限り不可能だ」
「………………………オベリスクとファラオ像が合わさったようなあの石像宝具にそういう能力があると?」
「私はそう考える。元来オベリスクはエジプトの主神である太陽神ラーのシンボルだとも言われる。
 もしかしたら太陽に関係した能力を保有しているのかもしれない。
 それに……昨夜の戦いでどういう訳かライダーは対軍宝具を使わなかった。
 使えば間違いなく終わってた筈であろう場面なのにだ。
 奴の考えは読めないが、それがもし使わなかったのではなく使えなかったとしたら?」
「───太陽が出ている間しか効果のない宝具…。
 そう言えばセイバーらがライダーの宝具乱発を目撃したのは夕方……まだ太陽は沈んでいない」
「これらを踏まえて私としては太陽王と称されるような英雄と日中に交戦するようなリスクを極力避けておきたい。
 外来マスターの工房ならともかく遠坂家はこの地に根を張る管理者だ。
 既に住所が特定され、いつ乗り込まれたとしても不思議ではない位に思ってた方がいい」
 刻士の説明は拠点移動をファイターに納得させるには十分だった。
 合点がいった風に彼のサーヴァントが大きく頷く。
「…ふむ、わかった。そういった理由で邸から離れるのであれば私からは何も意見はない。
 しかし遠坂殿少々訊き辛いのだが…、行く当てはあるのか──?」
「ああ、それについては任せて欲しい。潜伏するには丁度良いとっておきの秘密場所があるんだ」
 やや心配そうに訊ねるファイターに刻士は自信満々の顔で言い放った。


 そうして彼らは潜伏先で必要な分の食糧や雑貨の準備を整えると、
 聖杯戦争始まりの霊地、円蔵山大空洞へと下ったのであった─────。



          ◇                    ◇



 こうして大空洞に潜伏した二人は自分らの推理がより確かなものであるという確信を得る為に邸を餌に大魚を待った。
 もし推測通りならライダーはこの数日の内、必ず日中に遠坂邸へ攻め込んで来る筈だと。
 そして奇しくも彼らの予想はものの見事に的中した。
 想像してたよりもずっと早かったがライダー達が昼間の遠坂邸に現われたのだ。

「しかし確かに遠坂殿の言うように此処は潜伏するにはもってこいの場所だ」
 ファイターは周囲を見渡しながら改めて感心したように言った。
 光苔の仄かな明かりがある所以外は薄暗いが、此処はマナも豊富で休憩するには最適であり何より知らねばまず見つからない。
「私が言った通りの秘密の場所だったろう?」
 刻士もまるで秘密基地を自慢する童みたいな邪気のない笑顔を覗かせている。

 この秘密の儀式場を知っているのは始まりの御三家の縁者だけだが、その間桐とアインツベルンは既に脱落した。
 残るは刻士と元アインツベルン陣営だったセイバーだが、あの騎士がこの場所の入り口を知っているとも思えない。
 なにせこの大空洞は今回の聖杯戦争には完全に無関係な場所だからだ。
 前回の聖杯戦争で大空洞を門に使ったが為に今回この場所を使う事は絶対にない。
 この場にいる刻士でさえ今回の聖杯降霊地に使用する気など皆無ときている。
 そう言ってみれば今の大空洞は聖杯戦争の関係者全員の眼をすり抜ける死角のような場所になっているのだった。


「さてと、後は地下でのんびりと紅茶でも嗜みながら彼らの様子を観察すればい────なッ!!?」
 こんな場所でも持参した茶器で紅茶を愉しんでいた刻士の指からカップが零れ落ちる。
 カップが地面に当たって砕け散るのと、刻士の魔術回路に異常が発生したのはほぼ同時であった。
「……──む!? どうした遠坂殿、何があった!?」
 刻士は答えない。
 ただ次々に遠坂邸に張り巡らせてある知覚用の結界や魔術式が消滅していくのが感覚で分かる。
 工房内の様子を視覚的に知れる結界が破壊された。
 ライダーの小憎らしい顔を最後に黒画面が脳裏に広がる。
 邸内の音を聴覚的に知れる魔術式が寸断された。
 ライダーの哄笑を最後に無音が鼓膜に伝わる。
 他にも次々と工房内の結界や術式を掻き乱されている。
 このままではマズイと刻士は対抗策として攻性防御を発動させてみたがこれも駄目。真っ先に潰されていた。
 高圧電流の壁や霊体に対する攻撃などなど。
 一応可能な限りの防御措置は取ったが内部情報が全く掴めないのでは効果が実感出来ない。
 まして遠隔操作による直接攻撃など知覚が確保出来てないとサーヴァント相手には掠りもしないだろう。
 
「くそっ、ライダーの奴めやってくれる…ッ!」
 遠坂は為す術なくも増設された知覚領域がブラックアウトしていく感覚を見送るよりなかった。
「………邸内の状況を知覚する為の魔術式は全て破損した。
 やられた、これでは邸内の様子が分からん!
 おのれぇどうやらラムセス大王が優秀な戦略家だと言うのは本当らしいな……!!」
 刻士はファイターに状況を説明するかのように苦々しい声でそう洩らした。
「……では我々はライダー達の様子を知る手段を完全に失ったという訳か?」
「あと残っているは念の為にと放っておいた使い魔だが……。
 く、これもお見通しか! たった今弓で撃墜されたぞ!」
 刻士が声を荒げて自身の膝を殴りつける。
 そして額を手のひらで押さえ諦め混じりの深い溜息を吐いた。
 これでライダー達の情報は何も入って来ない事になる。

 遠坂邸内の情報を司る結界や術式を粗方壊滅させたライダーが今度は邸の周辺を囲うように若干広域の結界を布陣した。
 そして結界の網に引っ掛かった刻士の翡翠の鳥を索敵すると、
 弓矢で野鳥狩りをする気軽さで即使い魔を撃ち抜いてしまった。

「本気で参った、なんて事だ……こちらの想像以上に厄介で手強い相手だった!
 まさかこの局面で振り出しに戻されるとは思わなかった………ッ!!」
 刻士の様子は明らかにおかしかった。
 声を荒げて混乱した様子の彼は、興奮しているというよりもむしろ半狂乱に近い。
 想定を上回る結果を一気に突きつけられたせいか、それとも万策尽きたせいなのか、
 とにかく全く遠坂刻士らしくもない余裕の欠片も優雅さも感じられない無様な振る舞いだった。
 だからファイターは極力真面目な表情と威厳に満ちた声音で、

「……………遠坂殿、私に紅茶を一杯貰えないか?」

 と、お茶の要求をした───。


「こ、紅茶って………ファイター、君はこんな危機的状況で何を暢気な事を──」
「こういう時だからこそ、まるで関係のない事を行ない悪しき流れを強引にでも寸断するのだ。
 幸いにして戦闘中ではないし時間もまだ十分に残されてある。
 真の貴人たる貴殿には一杯の茶でも嗜んで心落ち着かせる方がらしかろう。
 だからしかと聞け遠坂刻士よ、戦局の切り札たる聖杯の器はその手中にあるんだ。
 貴殿の優位は何も変わらぬ、故に狼狽える必要などどこにもありはしない────」

 王の言葉がゆっくりと刻士の荒む心に染み込んでいく。
 その絶対的な余裕。威厳と自信に満ちた佇まいが不思議と自分はまだ大丈夫なのだと安堵させてくれる。

「──────……ファイター。…………ふう、すまない。
 ああそうだ、そうだとも。落ち着け遠坂刻士。この身は遠坂家の現当主、無様はない。
 遠坂たるもの常に余裕を持って優雅たれ。
 ───よし、もう大丈夫だ。また作戦と方針を一から練り直さねばな」

 激しく狼狽えそうになる精神を闘王の堂々とした言葉と態度、それに加えて家訓を唱える事で持ち直した遠坂。
 それから王の要求に応じて刻士は持参した茶器と茶葉で最高の一杯を淹れる。
 砂糖なしでも甘味のある高級茶葉の味と脳に訴えかける豊潤な香りはファイターが言うように心を落ち着かせてくれた。


 こうして完全に立て直しに成功した赤い紳士。
 一服後、彼の手元から三匹の翡翠の鳥が遠坂邸を目指して羽ばたいて行ったのだった────。







──────Riders Side──────


 深山の隣町郊外の丘の頂上にその男はふんぞり返りながら立っていた。
「ふむ、これでよしっと。おお素晴らしい……」
 3m程上を見上げるファラオは満足ゆく出来栄えにうんうんと頷いた。
 相変わらず己が神域の美的センスについ惚れ惚れしてしまう。
 丘の頂上には、まるで美しい芸術品のような尖塔状のオベリスクが堂々と鎮座している。

 ライダーはその尖塔を中心にそこからさらに丘に手を加え始めた。
 地脈の流れを正確に読み取ると、山中から拾って来た大岩を最適な箇所に最適な配置をしていく。
 そしてトンカチや杭のような道具を凄まじい勢いで巧みに操り岩を加工。
 ついでに呪術的な意味合いを持つ象形文字も岩の表面に刻む。
 中心点のオベリスクより遥かに小さい小児サイズの石碑を各所の起点にして陣を敷き一つの結界と成す。

 そうして、全作業はおよそ二時間ばかりで完了した。

「完成だ。実に完璧な出来映え、これでこの土地は俺様の領土だ。
 クフフフ、これを見た狐どもの驚く面が眼に浮かぶぞ!」
 丘一帯を覆うようにして広範囲に展開された結界を自らの領地だと言いほくそ笑むライダー。

 ライダーはゲドゥの部下に狐探しをさせている間、今後の展開と戦略を見越して真っ先にこの場所を占拠していた。
 本命の降霊地だった邸が占領されているのなら行き場を失った野鼠は必ずこの丘へ来るだろうというのが太陽王の読みだったからだ。

 なぜならばこの場所はつい数日前までキャスターが居城となる工房を構えていた土地。
 さらにはライダー自らも召喚早々この土地の霊格の高さや真下に通る霊脈を調べているので承知していた。
 間違いなくここは聖杯を降霊出来る土地だ。


 当然ライダー本人がこの場所へ足を運んでいる間の邸の警戒も疎かにはしていない。
 邸内監視の為に施された結界や術式は全て壊しておいたし、その後慌てて家主が送って来た使い魔も悉く排除した。
 さらに敷地内の様子を外から見え難くする類の妨害結界を逆にこちらが設置しておいた。
 それから念には念をの精神でゲドゥに影武者として自分の格好をさせておいたとあればもう防備は万全だ。
 今頃あの陰気な牧師も気高くなった己の姿に歓喜しながら留守番していることだろう。

 これでもしファイター達がこの丘に侵入すれば瞬時に察知可能となった。
 準備が全て整うとライダーは霊体となり、再び誰にも目撃されぬよう遠坂邸へと戻って行った。



             ◇                  ◇



「留守番ご苦労。ネズミは見つかったか?」
 遠坂邸に帰還したライダーはまず最初に待機中の牧師に状況報告をさせた。
「いや残念だがまだだ。
 そう大きな港町ではないが流石に一、二時間程度でこの町全部を洗うのは不可能だ。
 とりあえずこの殺し合いが開幕してからの諜報活動で得た情報を最優先に捜索させている。
 もしコクシ・トオサカが知人宅に匿われているのならばもうじき見つかるだろう」
 淡々と未発見の報告をするゲドゥにライダーは少し不満そうな顔である。
「急がせろ。もう残り三、四時間前後で日没になる。太陽が完全に沈めば少しだけ面倒だからな。
 夜間は宝具の使用回数も太陽像の備蓄魔力と俺様自身の魔力を合わせて二発までが限度。
 三発目からはほぼ確実に存在を維持出来ん」
「わかっている。日中の決戦こそが我々の目的だからな。部下達には捜索を急ぐよう命じておく」
 ファラオの言葉の意味を噛み締めるように頷く牧師。
 そして即座に部下達の尻を突つく命令を送信した。
 これで捜索のペースは上がることだろう。

「────ところでライダー、お前が帰って来たのならもうこの格好戻してもいいか?」


 そう言ってライダーを真剣に見詰めるゲドゥは、未だ頭の先から爪先までラメセスのコスプレ姿のままだった。







──────Fighters Side──────


「くそ、やはり駄目か………」
 そろそろ数えるのも億劫になるくらい刻士は何度目かの嘆息をした。
 遠坂邸の偵察に放った三羽の使い魔は全て殲滅。
 それが駄目なら遠くから敷地内の様子を探ろうとすれば今度は視覚妨害。
 こちらのやる事なす事の一歩先にはいつもライダーの影がある。
 こうまで上手くいかないと、まるでこちらの思考が完全に読まれているような気分にさえなってくる。

「今は何時なんだ?」
 刻士は懐から懐中時計を取り出した。
 太陽の日差しさえ届かない地下洞窟では時計でもないと正確な時刻を知る事も難しい。
 時計の文字盤は夕方と呼べる時間帯に入ったばかりである。
 当然外界の太陽はまだまだ健在だ。
 ライダーが布陣した結界に絶対引っ掛からない地点にまで後退させた翡翠の鳥はもう監視としての用をなしていない。
 聖杯戦争の終盤で無意味な風景観察に貴重な時間を浪費する方が馬鹿らしい。
 そう思った刻士は頭を切り替えて別の作戦を練るのに集中する事にした。


 そうしてじっくりと考えていると、ふと作戦が一つ、頭の片隅に思い浮かんだ。
「──────これは………いける…か?」
 自分でも少し半信半疑ではあるがこの作戦は案外上手く行くかもしれないといった期待もある。
「その様子では遠坂殿は何か名案が浮かんだかな?」
 魔力節約の為に霊体で待機していたファイターが声をかけると、遠坂は少し自信がなさそうに控え目に頷いた。
「…ん、まぁ一応、かな? 正直あまり自信はないんだがこういう作戦はどうだろうか?」
 そう前置きした刻士は作戦の概要をファイターに教えた。
 闘王も真剣な様子で聞き入っている。

 刻士の作戦はこうだ。
 ライダー占拠された遠坂邸ではなく隣町の丘で聖杯を降霊する。
 敢えてこの冬木第二位の霊格を持つ本命の遠坂邸を選ばず、第三位の丘を選択する事で敵の裏を掛けるのではないかと考えたのだ。
 それに邸周辺に自ら結界まで張っていたライダーは恐らく自分らの拠点だった遠坂邸から一歩も動くまい。
 監視していた間に戦車が何処かへ飛んで行った形跡もなかったし、今もまだ邸内に居座ってるのだろう。
 なら先に出来るだけこちらが有利になるものを抑えておくのが得策かもしれない。

 作戦の概要を聞き終えたファイターは大きく頷いて賛同した。
「うむ。その作戦、私もとてもよいと思う遠坂殿。
 どんな局面であっても選択肢は多いに越した事はない。
 確かに敢えて本命を獲りに行かない事でライダー達を出し抜けるやもしれん」
「そ、そうか!? よしそれならば早速やってみるとしよう。まず使い魔を丘へ飛ばして様子を探ってみる」
 戦経験の豊富な闘王の賛同を得た事が自信に繋がった刻士は早速使い魔の鳥を郊外の丘へと派遣した。

 だが、彼の期待は淡くも打ち砕かれる事となる───。


「な、なん…だって………?」
 刻士は愕然とした。
 異変に気付いたファイターの呼び掛けにも気づかぬ程に狼狽する。
 魔術師はショックを隠せずにいた。
 丘へと飛ばした使い魔の双眸が捉えたモノは広域に敷かれた敵の結界。

「そ、そん……な…」
 完全にこちらの思惑を見透かされてる……!?
 偶然が何度も続けばそれは必然だ。
 たとえ本当の本当に単なるラッキーな偶然が連続しただけだったとしても、
 そんな数奇極まる偶然に直面してしまった当人は素直にそうは思わない。

 その心理は遠坂とて例外ではなく、
 "どう足掻こうとも見透かされるのではないか───?"

 という恐怖《おもい》は人間の冷静さを外壁からじわじわと崩していく。
 刻士は明らかにライダーによって揺さぶりをかけ返されていた。


「しっかりするんだ遠坂殿、何があったのか説明してくれ!」
「あ、ああ……作戦は中止だ。
 これでは…駄目だ、既にライダーが丘の上に陣を獲っている。これでは、駄目だ」
 血色の悪い蒼白な面相で告げる刻士。
 流石のファイターもこれには多少驚いたらしい。姿なくとも息を飲んだ気配が伝わってくる。

 刻士が今後どう行動するべきか本気で頭を悩ませていると───、
 ふと、ある異変に気が付いた。
「─────ん?」

 微かだが身体の奥から音が鳴っている感覚がする。
 刻士は黙ってその音に耳を澄ましてみた。
 これは………………邸内の会話だろうか?
 破壊された筈の術式の通信が一時機能を取り戻している。
 遠坂はもっと集中してその漏れ聞こえる会話に耳を傾けた。
「ファイター、邸内の通信が戻った。奴らの会話が聞こえるぞ」


 "ラ■ダー報告がき■"
 "■んだ? 町の中■■て調べ終え■■か?"
 "ああ。町中■はどこに■いな■らしい"
 "そ■か。では川底■山中も探さ■ろ。あ■寺■寺の付近■だ、■■■■■■■しれん"


「────ッ!!?」
 …寺!? 寺だと…ッ!!? しかも最後の方はなんて言った?!
 偶発的に聴いてしまった敵の会話には信じられない単語が混ざっていた。
 背骨に氷柱が捩じ込まれ心臓が凍りつく。
 遠坂の全身から嫌な脂汗がじっとりと滲み出てきた。動悸も一気に速くなった気もする。
 なぜ寺を調べる? しかも寺の付近だって?
 なぜ我々が大空洞にいると分かる? …まさか書庫か、書庫の記録を調べたのか!?

「マズイぞファイター潜伏場所がバレている! ライダー達が寺の周辺を調べ始める気だ!」
 赤い正装の紳士は自分でも知らず知らずの内に大声を出していた。
「待て落ち着くんだ遠坂殿! まだバレたとは限らない。
 この場所は入り口からして魔術偽装が施されてる上に、そもそもまず発見され難い場所にある。
 それに通信が突然回復したのにも作為的なものを感じる。ライダーの罠かもしれないぞ」
 遠坂とは対照的に使い魔を介して直接情報が入っていないファイターは比較的冷静に状況の検分に努めていた。
「し、しかしだ……もし万が一にも本当にバレていたら……?」
「──────────」
 ファイターは何も答えない。
 その沈黙はもし万一にも居場所を突き止められていた場合は逃げ道すらない袋小路に追い込まれる事を雄弁に物語っていた。

 闘士の無言につられて刻士自身も重たい沈黙に包まれる。
 判断ミスは恐らく死という結末を齎すだろう。
 重苦しい空気が容赦なく二人の間を支配する。
 プレッシャーに殺されそうな人間の面相。
 それは果たして如何ほどの苦しさなのか、強き王にそれを知る術はない。

 だからそんなマスターの様子を見かねたファイターはどこか励ますように、
 "決断を下すのは貴殿だ。ただ、如何なる事態になろうとも私は私の役目を果たす"とだけ告げた。


 刻士は焦燥感と重圧で押し潰されそうになる心を必死に抑えて考える。
 ファイターの言う通りなら、これはライダー側が仕掛けた罠。高度な駆け引きが要求される心理戦だ。
 だが自分の言う通りなら、此処に留まっているのは危険大。どう転んでも敗北する確率が格段に高くなる。


 ────ここが我慢所だ、大空洞でじっと耐える。
 ────今ならまだ間に合う、すぐに撤収する。


 与えられた選択肢は二つ。
 間違えば恐らく命を落とすだろう。

 それを覚悟した上で遠坂刻士が決めた道は─────。







──────Sabers Side──────


 やや遅めの朝食に合わせるようにやや遅めの昼食を取り、そして町へ出る事もなくそのまま夕食も遅めの時間に取った。
 聖杯戦争も終盤。
 本来ならばこんなにのんびりしてて良い訳がないのだが、それでも綾香は行動を起こす気にはなれなかった。
 少女の口から物憂げな溜息が溢れる。
 もう何度ついたか覚えていない溜め息は彼女が行き詰まる度に吐き出されていた。
 朝からずっと頭を悩ませている案件がある。
 彼女が何も行動を起こす気になれないのは、その悩みに全く解決の糸口が掴めていないからだった。

「あ~ん駄目だぁ! ライダー攻略の良い案が全然浮かばないよぉ……。
 ア"ア"~こんだけ考えても何も浮かばないなんてやっぱりわたしってダメなヤツなんだ~!
 うぅっ、軽く死にたい………」
 長時間ずっと考え込んでいるのにまるで良案が出てくる気配すらしないとはこれ如何に。
 頭を抱えて全力で落ち込んでいる眼鏡少女は柳の下の幽霊みたいな負のオーラ全開であった。
 この聖杯戦争での経験で少しはマシになってきた性格がここ数時間ですっかり元のネガティブ娘に戻っている。
 祖父の仇だからと余計に力が入ってしまい結果空回り。
 そして己の不甲斐なさに全力で落ち込むという悪循環の繰り返し。

 ───と、そこへ、
「おーいアヤカー町へはいかないのかー?」
 ヘコむ綾香がテーブルに突っ伏していると、ゆったりとした歩調でセイバーが書庫に入室して来た。
 騎士の様子を見た感じではどうやら彼は今夜出陣する気満々のようである。
「行かないわよ……行ける訳ないじゃない……だってわたしダメマスターだもん…。
 ライダーの攻略法も禄に思いつかない駄目駄目な馬鹿だもん………だから行かない」
「フオアッ?! ア、アヤカッ! どうしたんだアヤカー!? し、死にかけてないかしっかりしろ!
 暗いって言うか昏いを通り越して黒いぞ! キミの身になにがあった!!?」
 イカ墨のような黒過ぎるマイナスオーラに包まれてネガティブの海を漂っている主君を見た騎士が慌てて駆け寄った。
 しかし少女はうるさーい放っといて~。と、物凄ーーくやる気なさそうに吐き捨てるだけで元気になりそうな感じはない。

「なあアヤカ、無理に攻略法なんて考えなくていいじゃねーか。
 ライダーなんてオレがチョチョイのチョイでやっつけてやるからさ! なっ、だから元気出せよ!」
 落ち込む主人を懸命に励まそうとしてくれるセイバーの気持ちは嬉しいが、それでは綾香の気持ちは晴れない。
「駄目よ、それじゃあ全然意味が無いもの……わたしの力でライダーを攻略しないとお爺様の仇討ちにならないじゃない…」

 机に突っ伏した格好のまま綾香は呻くような声で呟いた。
 そうセイバーの気持ちは嬉しいがそれでは駄目なのだ。
 なにもライダーと一騎打ちして打倒するなんて贅沢は言わない。
 直接刃を交えるのはセイバーに任せるしかないのは誰よりも承知してる。
 だけどせめて、戦いの中に沙条綾香の力も加えた上でライダーに勝たねば仇討ちとしての意味がない。
 だとしたら自分に出来るのはセイバーが絶対に勝てる戦術か作戦を練る事だけ。
 それ即ち魔術師としての知力を己が力として騎士の剣に託すということだ。

「この戦いだけはわたしの私闘でもあるのよ。セイバーにだけ頼り切りになるなんて出来ないわ」

 ───仇との戦いに勝利した先で、せめて胸を張って祖父に仇を討ったと報告出来るように。

 そう言ってまた机に突っ伏した彼女を見て騎士は溜息と共に退室した。
「………………わかった、じゃあ何も言わねえ」


 白黒がハッキリとしているセイバーの前で態度が煮え切らなかったのが良くなかったのだろう。

 その数時間後───。
 綾香が気分転換の小休止に食堂へとやって来た際にようやく気がついた。


 ─────セイバーが洋館内のどこにも居ないという事態に……。










──────V&F Side──────

助けろ!ウェイバー教授!第三十三回


槍「ってあのパラディンまた独断専行でござるかい!」
V「なんという抜群の不安定感! 流石アホの子、そこいらの英霊とは一味も二味も違った!」
F「そこに痺れる絶望するぅ!(AAry」
弓「あやつ多分次回でうっかり地雷でも踏んで死んだな……うん間違いないと思うわい。
  ワシはセイバーが自爆死するに出番を五行賭けるぞ!」
狂「おもしれえ、じゃあおれはファイター陣営が選択ミスして死ぬに五行賭ける」
槍「拙者もライダー組の土壇場の仲間割れで自滅に三行賭けるぞ!」
魔「賭博ですか? 感心しませんね。
  ボクはファイターアヤカ両名死亡で味方が死んでも生き延びる男セイバーとトオサカが再契約に二行です」
凶「チャッカリ賭ケルノカ! アタシモ殺る! もっとヤル!」
狂「あーあー、負けて大人しいと思ったら一番ウルセー人格のが出てきやがった。
  るせーぞティル。オメーはちょっとあっち行ってろシッシッ!」
凶「嫌ダ嫌ダー! 頑張ッタノニ誉メテ貰ッテナイ! 褒めろホメロ!」
狂「喧しいぞ敗者ァ、テメェも戦士の端くれならいい加減物覚えろ!
  褒賞ってのは出すクビ出してから貰うモンなんだよタコ! 負け犬に出す報酬はねえよ」
凶「グギギギ、ドメスティックバイオレンス! オー人事オー人事!」
F「ヘイドレクさん! 一刻も早くその全自動発狂誘発装置を退室させて下さい!」
雨「でも教室内がキティの集団になったらくーるじゃねぇ?」
V「御免被るわ! バーサーカーはさっさとその魔剣を外に放り出せ。
  まだ事故で黒騎士みたいの者が出ても困るし不燃ゴミに出すならダンボールとかで包んでからだぞ」
狂「メンドくせぇなぁオイ」

V「しかし今回は頑張った! ついに一日を50kb以下に抑えたぞー! V&Fコーナ除くだが」
雨「戦闘とキャラ数ないだけでこんなに文章量減らせんだねぇ」
間「一日100kbが基本じゃなぁ。つか戦闘シーンが50kbがデフォになってる時点でおかしいんだろ……」
F「あはははは! 戦闘大好き!(ヤケクソ」
V「だってなあ? 戦闘差っ引いたらぶっちゃけ書く事が何も無いじゃないか……。
  菌糸類だって第一次、第二次聖杯戦争は盛り上がりに欠けるって言ってるくらいに主軸になる話がないようだし」
F「グギギ、帝都物語みたいな戦時下の第三次聖杯戦争が羨ましいです先生…!」
V「だがフラット、第二次は聖杯戦争の態を成してる分まだ第一次に比べればまだマシだと思うぞ?」
F「第一次とか令呪無しで聖杯戦争の態さえ成してなくて冗談抜きにグダグダで終わったっぽいですもんねぇ」
槍「時はまさに世紀末……モヒカンヒャッハーどもが竹馬乗り回しながらファブリーズで汚物は消毒だー!
  ──な感じの世界が広がっておるに相違無いでござるガタガタブルブル」
ア「ファブリーズとは何でしょうか?」
メ「それはですねお嬢様。下々の者は洗濯道具さえも禄に持たぬ為シュシュッと降り掛けて洗濯を済ませるのです」
ア「下々の者は不潔なのですね」
メ「左様でございます」
間「おい、しれっと嘘を教えんなよ……つか今時洗濯物を手洗いとかやってるのお前らの一族位だろ」

V「さてと、この日は知略戦に終始したか。
  各陣営は揃って最終戦に向けての準備期間に貴重な一日を当てたって事だろうな」
弓「なんだかんだで下準備は大事じゃからな」
間「全くだな、下準備出来なかったせいで負けたサーヴァントもいるんだし(キャスターをチラリ」
魔「それにしても今回は珍しくライダーが本気を出してますね(完全無視」
間「あ、俺を無視しやがったなコイツ!」
槍「あれって実は中の人が違うのではござらぬか?」
ソ「確かにな、ライダーが真面目に戦争をしているというのが不正の臭いがする」
間「きたない流石遠坂汚い」
雨「遠坂全然関係ないじゃん!」
間「いいや違わないな。奴は黄金率を持ってるライダーから賄賂を貰って八百長やってんのさ!
  遠坂の魔術は金食い虫だからな。
  ライダーはライダーでここ掘れワンワンやったら前の住んでた住人の隠し財産掘り当てたとか自慢してたしな」
狂「つか隠し財産掘り当てるとかどうなってンだよ黄金率。
  おれも欲しいぜ。ただし呪いの指輪で得られる黄金率はいらねえが」
雨「なるほどそれで賄賂貰ってライダーをヨイショしてるのか、きたないな遠坂!」
V「いや汚いのは君たちの思考回路の方だろう……。
  一体何をどう論理展開すればそんな大海原の孤島に流れ着けるんだ?」
F「でもでもラメセスさんらしくないですよ! あれホントは別人なんでしょ!?」
V「すっぱり本音を言うな馬鹿者! 日本人は本音と建前を使い分ける人種なんだぞ。
  そこはもっとマイルドに、
  "うわぁラメセスさんがまるで別人みたいに活躍してますね!あ分かった変身したランスロットさんでしょ!?
  前回はローランさんがオルランドに変わるイベントで今回はラメセスさんがナニカになるイベントなんですね!"
  くらいの表現に抑えておくべきだろう」
F「先生の方がよっぽど酷い皮肉じゃないですか!」
槍「み、見事な慇懃無礼っぷりでござる」
V「当人曰く"俺様が本気を出せばざっとこんなものよ。"だそうだ。
  どうやら中の人の変更や収賄行為やチート行為は残念ながら無いっぽいな。
  軍略面で言えば待ちに囘るよりグイグイ仕掛けて行った方が調子が上がるタイプなんだろうきっと」
間「マスターから言わせればだったら最初っから真剣にやれって話だよな。
  スロースターターにも程があるぞ。明日から頑張る!じゃないんだからさ」
V「なんて浅く失礼な考えだ間桐。ライダーは常に真剣にやってるぞ。
  真剣に戦い真剣に血塗れになって真剣に風呂に入って酒かっ食らいラジオ体操だって遊びじゃなく真剣にやってるんだ」
ソ「余計に性質が悪いだろうそれ!」
V「さてでは今回はこれにて終業。ではマスター諸君また次回だ」
F「いよいよ聖杯戦争も最終日に突入ですよ皆さん!」