ザミエルと慎二。

 時刻は夜――――死神の鎌によく似た形の白い三日月が中天に掛かっている。
慎二は、自らと契約したサーヴァントであるその男の後について、暗い夜道を歩いていた。
月は皓々と輝き、街灯も灯っている。だというのに、月も街灯もその輝きは、まるで演劇の舞台装置の書き割りのように薄っぺらく、二人の歩く夜道は妙に暗かった。
 慎二は中性の猟師風の格好をしたその男の後について歩きながら、妙な苛立ちを抱え込んでいた。
気分が悪い――――目の前の男が気に入らないのだ、きっと。何故だろうか、自分が契約したはずのサーヴァントが、妙に信用できない。
思わずポケットに突っ込んでいた右手の甲を確かめる。そこには確かに、目の前の男に対する絶対の切り札になるはずの二画の令呪が刻まれている。
「足元に気をつけろよ、坊主」
「うるさいな、そんな馬鹿な真似を、この僕がするわけはないじゃないか!」
 内心を見透かされたような気がして、思わず声が上ずりそうになる。気づかれていないだろうか。そっと相手の顔色を伺ってみるが、しかし、男に何か気づいている気配は見られない。
 影絵の街の暗い道を歩いていく。現実感のない月夜の散歩。その行く道は、やがて、四方からスポットライトのように街灯に照らし出された十字路の上で終わりを告げた。
「よお、久しぶりだな、ザミエル。元気だったかよ?」
 暗い影の落ちた十字路の中央に向けて、軽薄な調子で男は手を振った。舞台の中央に女優の如く立っているのは黒いドレスの少女。
人間離れした美しさ――――明らかにこの世のものではないそれは、しかし、美しくはあれ、禍々しく邪悪な気配、慎二の祖父が持つものと同質のもの。糜爛した蜜を滴らせる、毒の華だ。
その隣には、小さなティーテーブルのような卓が置いており、その上には湯気を上げている黒いティーカップが三つ。その湯気が一瞬、まるでのたくる怪物のような何かに見え、慎二は思わず目を擦った。
「へぇ……その子が次の君のマスターってわけ? 結構敏感なんだ……ふぅん……美味しそうだね、カスパー♪」
 少女はそう言って、口を三日月形に歪めて、笑顔を浮かべて見せた。慎二は直感する――――そこに開いた奈落こそが、この少女の本質だ。



 全く……この程度の鉛球がなんの役に立つのか……投擲武器でもいい……だが、己の手で生み出したものでない威力に何の意味があるのか。
ランサーはひっきりなしに打ち込まれる弾丸を軽く大薙刀で弾き返しながら溜息を突いた。
「この程度の鉛球が、この武蔵坊に通じるとでも思うのなら、そのそっ首、挿げ替えてもらうのだな」
 だが、アーチャーは懲りもせずに弾丸を撃ち続ける。
通じないというのが分からないのか……召喚された偉大なる英雄同士の戦い、それが聖杯戦争だったはずだ。だというのに、これでは完全に期待外れだ。
いい加減腹が立ったので、大薙刀を大きく振り下ろし、飛来した弾丸を地面に向かって叩きつける。
 その時――――べちゃり、と嫌な音がした。地面には、醜く潰れた奇妙な赤黒い肉塊が転がっている。
心臓――――その肉塊の正体に気づき、何故、という疑問が浮かぶのとほぼ同時に、胸郭の奥でぐちゃり、と嫌な音がする。
自分の心臓が潰れる音と共に、ランサーの意識は断ち切られた。