Fate/MINASABA 23th 00ver

プロローグ

 テラスが落ちた。
 男の宝具は城の壁を貫き、広間の壁を倒壊させていく。
「ハハハハハハハハッ、忌々しい英国の絶滅主義者の亡霊め、」
 頭上から落ちてくる瓦礫も知らない。
―――巨大な円形の空間。
 それは広場というより、地中深くに陥没した王国のようだった。
 それが、イリヤスフィールの住処だった。
 森の中に建てられた古い城。
 あの少女が住むには広すぎ、一人で暮らすには寂しすぎる、来訪者などいる筈のない森の孤城。

「この私、世界の王ギュゲースが、貴様らを新世界の手向けにしてやろう!!」
 響いてくる音は、紛れもなく戦いの音だ。
 黒い剣士が、雄叫びをあげていた。
 薙ぎ払われる剣は砂塵を巻き上げ、踏み抜いた瓦礫を灰燼に帰していく。
 そして剣士の背面には、居並ぶ剣郡を従え、敵を迫撃する少年が控える。
 貫く。
 それこそ湯水の如く。
 宝具は敵の攻撃を弾くだけでは飽きたらず、その体を蹂躙していく。
 剣は敵の胴を断ち、頭部を撃ち抜き、心臓を串刺しにする。
 ――――はずだった。
「――――そんな」
 吹き荒れる旋風。
 セイバーたちの剣はことごとく弾かれる。
 広間の中央。
 瓦礫の玉座に君臨する、一人のサーヴァントの“宝具”によって。

 ……その形態は異様そのものである。
 かつて指輪の裏側だった部分が裏返り黒い面を晒してアサシンの身体と入り混じり、更に面と胸部の発光部位も相まって、
 まるで黄金の悪魔が恐ろしい異形の円盤に乗る姿を思い起こさせる姿であった。
 これこそがアサシンが巨人の遺骸から手に入れた黄金の指輪の真髄たる甲冑戦斗形態、
 世界と法則、生命を偽り、己をも騙す悪徳の王の最終戦闘形態であった。

 聖杯戦争は混迷を極めた。
 前キャスター、インドラジットと言峰の暗躍、間桐桜の誘拐と暴走、そして圧倒的な力を有するライダーとアーチャーの襲撃
 自らの理想と次から次へと予期せぬ展開に悩み苦しみながらも勝ち進む士郎と凛は、アサシンの幻惑に囚われ
 舞台を最終局面へと移す。
 士郎とセイバーは襲い掛かるイリヤのバーサーカーを倒した後、突如現れ彼女をさらう言峰。
 そして彼らのその前に立ちはだかるは、メルムナス朝リディア王国の創始者、悪徳の王ギュゲースであった。

「セイバーのサーヴァント、リチャード一世!異教の神の敵を駆逐する!!」

 廃城での死闘は凄惨を極めた。
 圧倒的な火力を有する士郎の剣群と卓越した剣の冴えを有するセイバーの二人掛かりでなお、アサシンと呼ばれる怪物は難攻不落。
 全ての攻撃を防ぐ魔力障壁と尽きることのない莫大な魔力の篭る無数の光弾を放ち、
 かすかに大気が震動し―――階段が燃え上がった。
 地面から揺らめき立ち昇る蜃気楼のように、赤い炎の海が階段を埋め尽くす。
 その余波は吹き抜けとなっている二階のフロアを貫通して天井へと消えていく。

「フッフッフ、その程度でこの『見えざる悪徳(リング・オブ・ギュゲース)』 に対抗しようなど」
 広間の空気が張り詰めていく。
 空間が凝固し、そのままアサシンの殺意によって歪んでしまうのではないか、と危倶するほどの圧迫感。

「片腹痛いわ!!」

 互いの存在をこの世界から排除する為、両者は死闘を開始した。

 天の杯。今度の聖杯戦争において、そう呼ばれた少女がいた。
 黒き聖杯。今度の聖杯戦争において、そう呼ばれる少女がいた。
 ……残る断片は、もはやそれだけ。
 夜が明け、終わりを迎えようとするその一日。
 主なき冬の城で、最後の道が示される―――