────Servant Side VS ────

「おおっ! スッゲーぞアヤカ! やれば出来るじゃないか! やーい! ざまあみやがれこの変態野郎ー!!」
 二体の狂戦士を相手にしながら騎士はその光景を目の当たりにしていた。
 彼女の掌から炸裂した熱風の竜巻。暴風に飲まれ面白いようにぶっ飛んだ挙句に川に沈んだ狂人魔術師。

 セイバーはやはり自分の勘は正しかった再度肯き、そしてマスターの覚醒に歓喜の喝采を上げた。
 彼女は今まで自分に合わない型に己を無理矢理に嵌め込んでいたせいでずっと上手くいかなかったのだ。
 しかしちゃんと自身と合った相性の良い型にさえ嵌めてやれば御覧の通りあれだけの出力が出るのである。
 陰の魔術は陰の魔術師がやってればいい。沙条綾香は陰ではなくむしろ陽の属性だ。
 ならばこうなるのは必然だったと言っていいだろう。

 やられかかった彼女の元に駆けつけようとして狂戦士たちの妨害にあった時は本気で肝を潰す思いだったがなんとか結果オーライだ。
 これで心置きなくこいつら二体のバーサーカー共との戦闘に集中できるというものだった。

 綾香が魔術のスタイルを変更したと同時に戦局に変化が起こる。
 雨生の圧倒的優位は完全に崩壊し形勢はまさかの初期化となった。
 数合の撃ち合いを経ても天秤はまだどちらにも傾いていない。二人の魔術師による魔術戦は綺麗なまでの互角の勝負であった。
 戦場の運気が今自分達に来ているのが実感できる。幸運の天使が祝福を与えてくれているのが実感できる。
 この流れを完璧に掌握すべくより一層気合を入れて臨もうと二刀の柄を握り締めたとき、

「戻れバーサーカーーーッ!! お前は今すぐにこの小娘を殺せ! てぃるふぃーは少しの間でいいセイバーの足止めをしろ!!」

 バーサーカーのマスターがこちらの予想外の命令を下してきた。
 さらに驚くことに、さっきまで無視していたマスターの命令をバーサーカーが今度はちゃんと効いたのである。
 この身に打ち込んでくる筈だった大斧を途中で止め、あろうことか綾香の方を一瞥した直後に彼女に向かって疾走しやがったのだ。
「────うお、なんだと……こ、この、待ちやがれバーサーカー!! そこにいるのはやべえ逃げろアヤカーーー!!」
 彼女までの距離は五十メートル程しかない。この程度の距離などサーヴァントにかかれば瞬時に詰め切れる。
 バーサーカーが彼女の元に辿り着く前に自分が奴を止められなければ綾香は為す術なく死んでしまう。
 そんなことはちゃんとわかっているのに───

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーー!!!」
「オレの邪魔すんなっつってんだろがバカヤロラァァアァアアアアアア!!!!」

 姫君を守護する騎士の傍には最悪の邪魔者がまだ残っていた。
 10mの距離を縮めるバーサーカー。綾香との距離残り40mメートル。
 驚愕している少女はまだ逃げ出せていない。そして肝心のセイバーも彼女の元へ未だ走り出してすらいなかった。
 まだその場で量産狂戦士が振り下ろした魔刃を聖剣で受け止めている。
 さらに10mの距離を縮めるバーサーカー。残り30m。綾香は反応が遅れて逃げるのが出遅れていた。
 狂戦士による二撃目を防ぐセイバー。
 まだ駆けつけられない。致命的な出遅れ。これじゃ如何に騎士の足が速くとも奴が先に少女へと辿り着く。
 さらに10mの距離を縮めたバーサーカー。残り20m。少女まであと一息。
 そしてようやく逃げ始める綾香。だが遅い。圧倒的に遅すぎた。
 狂戦士による三撃目。
 恐らくこれが騎士たちにとってチェックメイトになるであろう一刀。狂戦士は仮主人の命令を見事完遂しきった。
 避けようが防ごうが何をしようがもはや手遅れだ。騎士が今更主の元へ走ったところでもう遅い、間に合わない。

 だがこのセイバーは仮にも多数の名高い英雄を輩出してきたフランスが誇る最強の英雄にして無敵の聖堂騎士である。
 それは不可能を可能に出来る力があるという証明。
 ヒトでは届かぬ奇跡を実現させられる偉人であるという揺るがぬ証。

 綾香の元にバーサーカーが向かい、ここにこの狂戦士がいるということ───。

 それ即ち、セイバーと量産狂戦士が一対一の状況だということに他ならない。

 ならばこの程度の敵なぞ容易くぶち殺してこそ最優のセイバークラスのサーヴァント─────!

 量産狂戦士が繰り出した魔剣の一刀など鼻で哂ってしまうぐらいの速度差で振り抜かれた騎士の一斬。
 眼にすら止まらぬ攻撃。音速など生温い超音速の一刀が敵の攻撃を最後まで許すことなくその体を両断した。
 綺麗に真っ二つされ無惨に宙を飛ぶ狂戦士の血肉。
 パワーが違う、スピードが違う、そしてなによりも格が違う。
 ものの一撃で妨害者を斬り捨てたセイバーが左手に残った最終手段に打って出る。
 バーサーカーと綾香の距離が間近に迫る。

「こっち見やがれバァァァサァァァアアカァアアアァァァァア─────ッッ!!!!」

 セイバーは邪魔者の葬った際に発生した慣性を利用して左手の魔導剣を全力投擲した。バーサーカー目掛けて豪速で飛来する剣。
 そして同時に剣を追うように走り出す騎士。猛烈な白い神風が戦場を吹き抜けていく。
 奴がこちらの投擲《殺気》に対して明確に反応した。
 バーサーカーは白球をバットで打つように大斧で魔導剣を力任せに打ち返す。
 滑走しながらも己の顔面目掛けて跳ね返された剣を払い落とした騎士。しかし彼はほくそ笑んでいた。

 綾香の所まで残り5mというギリギリの位置でついにセイバーがバーサーカーに追いついたのだから───。

「相棒は倒した! 次は貴様の番だぜバーサーカーーーーーーーッ!!!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーー!!!」

 走っていた勢いのまま相手にぶつかり合う二人の英雄たち。互いの首を絶ちに向かった刃が敵の武器によって阻まれた。
 即座に次撃を渾身の力で打ち込む。剣戟による甲高い金属の轟音と魔力の炸裂光が夜の世界を鮮やかに彩っていく。
 しかし両者の戦況はマスター同士の魔術戦と同じく完全に一変していた。

 バーサーカーが魔剣ティルフィングの操る量産狂戦士の加勢を失ったことでじわじわとセイバーに圧され始めている。
 二対一で互角だった勝負なのだ。
 それが一騎打ちとなった時点で結果など見えたも同然であった。
 騎士の豪快で俊敏かつ卓絶した剣技を前に狂戦士の荒々しいだけの剣舞はまるでついていけない。
 おまけに双方の武器の差も出始めていた。
 ただ厳つくデカイだけの大斧では超一流の宝具たる聖剣デュランダルの強烈な連撃にとても耐え切れない。
 覇者の剣と讃えられた刃に滅多打ちにされ続けるバーサーカーの大斧からはピキピキと嫌な歪みが聞こえている。

 宝具を抜かないヘイドレクではローランには敵わない。
 いくら狂化の力によって基本能力値が底上げされているからとはいえ両者の間には圧倒的な知名度の差がある。
 英霊にとって知名度とは即ち一種の信仰だ。神霊に近しき英霊の力の源そのものであると言っていいだろう。
 それが劣っているヘイドレクではローランには決して届かない。
 その差を埋めてしまえるだけの奇跡でも保有してない限り二人の差は絶対に埋まることはない。

 密着した間合いで超近接戦を挑んで来るセイバーをまるで振り払うかのような狂戦士の腕力任せの大振り。
 まるで凡庸な攻撃。好機の到来を騎士の全神経が察知した。野生の勘が勝負を賭けろと命令を下す。
「勝機────貰った、どりゃああああああああアアアアアアアアア──────!!」
 そこに最大の隙を見た騎士は大斧の斬撃を紙一重の所で躱しきると、そのままの体勢で左下から右斜め上への軌道で剣を斬り上げた。
 浅い弧を描く剣の切っ先に対し、なんとかフォローに入ろうとする斧。
 だが聖剣の凄まじい切れ味によってとうとう耐久力の限界を迎えた大斧が粉砕された。
「────!?? ■■■■■、■■■■ーーー!!!?」
 次いで敵に一太刀浴びせた時の文句なしの手応えを振り切られた聖剣から感じ取った。
 セイバー自慢の豪力のせいで高速回転が加えられた状態で跳ね上げられる狂戦士の体。
 バーサーカーは裂かれた傷口から血を噴き散らし、独楽のように空中でグルグルと激しく回りながら肩から地面に墜落した。

「あああああーーッ!!!? な、なな、なんて酷い事するんだこの野郎! バッサリ斬り捨てるとかそれが人間のやることかよ!?」
 その一部始終を目撃していた雨生がヒステリックに絶叫する。
 狂人のふざけた言い分に騎士と少女は思わずおまえが言うな!と口を揃えて文句の声を上げていた。

「待ってろバーサーカー、そんな傷すぐに治療してやるぞ。────傷人を癒せ湧き水────!!」
 間髪入れずに雨生は敵から受けた傷を治してやるべくバーサーカーに治癒魔術を施してやった。
 傷口が塞がっていく様子はまるでビデオの早送り。さっき自身に施した回復魔術と同じ術とは思えぬ速度差で狂戦士の傷が完治した。

 傷の治癒が済んだ途端にバーサーカーはその場を離れるように遠くへと跳躍した。
 20m程先の地点に蜘蛛みたく着地した奴の足元には妖しく煌めく愛剣ティルフィングが落ちている───。
 再び呪剣を手にしたバーサーカー。乱杭歯が並ぶ口元からは蒸気にも見える熱い吐息が吐出される。
 そして狂気の呪いに侵されて真っ赤に染まった双眸が"まだ終わってねえぞ"と克明に告げていた。

「……ちぇっ、やっぱあの程度のダメージじゃ駄目か。ならもっと何発も食らわせねえとな」
 みるみる傷が塞がっていった敵の姿を眺めながら騎士は顔を顰めていた。

 サーヴァントは魔力に依存する存在である分、生身よりも総じてタフだと言える。
 首や心臓などの現界に必要不可欠な核さえ破壊されなければ普通人間が死ぬような致命傷を受けても助かる場合が十分にあるのだ
 ましてやマスターの援護があればサーヴァントはさらに死に難くなる。
 バーサーカーはその典型的なパターンだった。

「セイバー聞いて! そのバーサーカーはヘイドレクなのよ、そいつの戦闘に賭ける執念は生半可なものじゃない。
 中途半端な攻撃じゃまず倒れてくれないわ。一撃で仕留めるには首か心臓を狙って!」
 セイバーとバーサーカーの競り合いの最中、きっちりその場から離脱していた綾香が離れた所から指示を出してきた。
「ウィ、了解。それとアヤカ、キミはオレの背後に廻れ。ソイツらは卑怯にもこちらとの約束を破りキミを狙い撃ちにする気だ!」
「ん~約束……? なにかしたっけ? なあ覚えてるかいバーサーカー? ………ふむ、そんな覚えはないって言ってるけど?」
 綾香が騎士の背後に廻っている最中に『約束』という単語に反応した雨生が小憎らしい表情で小首を傾げた。
 わざらしくバーサーカーにも尋ねる小芝居が実に腹立たしい。
「ふっざけんな! オレが二対一の決闘を受ける条件としてアヤカは狙わんとそう約束した筈だ!
 よもや決闘での約束事で虚言を吐くとは………恥を知れ魔術師ッ!!!」
 セイバーは烈火の如く一喝した。
 しかし雨生は騎士の神経をさらに煽るような真剣味がまるでない態度で飄々としている。
「オオ怖い怖い! キヒヒヒ。熱血な脳筋馬鹿が恥を知れって怒ってるぞバーサーカー」
「て……テメェ、真面目に聞きやがれ!」
「セイバー落ち着いて! あいつの思惑に嵌ったらそれこそ奴らの思う壷よ!」
「わかってら、わかってるけどさぁ! でも吐いて良い嘘と悪い嘘があるだろ!? 決闘での約束を反故するなんてオレは許せん!」

 真剣勝負である決闘の際に交わした約束事が嘘だったと知りセイバーはかなり激昂していた。これはかなりまずい状態だった。
 元々キレやすい性格をしているローランではあるが、なにより騎士道精神に篤い英雄のため余計に雨生の嘘が許せないのだろう。
 それを間近で見ている綾香としてもハラハラとした心境で成り行きを見守るしかない。

 正直に告白すると……彼女はキレたセイバーの手綱を制御する自信なんて全くなかった。
 ローランという英雄の暴走度は数いる英雄の中でもきっと上位に入るだろう。
 一度走り出したら敵味方全員が倒れるまで止まらないような男が本気で暴走してしまったら自分程度がどうにか出来るわけがない。
 だから綾香としてもこれ以上火に油が注がれてまだ知らぬ危険物に引火する事がないように祈るばかりであった。


 ………だがしかし。
 雨生は鼻息荒く威嚇してくるサーヴァントなどまるで知らぬ存ぜぬといった様子で、

「そういやさあセイバー。君って途中でマスターが変わっちゃんたんだよねえ?
 ねぇ白馬のナイトくん、お姫様の死に様はどうだったかい───?」

 なんてとんでもなく最悪な挑発をしてきやがった────!



 その瞬間──────ビギッと、確かに空気に亀裂が走ったのがわかった。


「─────なんだと? オイ、いま貴様……なんて言った?」

 一触即発の緊迫感が一瞬にして場を支配した。
 メーターは危険域に突入すると同時に振り切っている。騎士から放たれる殺気が尋常ではない。
 さっきまでのセイバーの怒りとは本質的に違う殺意。あまりの威圧感で味方の自分の心臓がつい止まりそうになる。
「ちょ、これ……は、真剣にマズいってば………」
 本気で怖くてセイバーの顔をまともに見ることが出来ない。
 不用意に声を掛けようものなら問答無用で斬り殺される錯覚に陥りそうになるくらいの強烈な極まりない殺気が彼から放出されている。

「だからおまえの元姫君は誰にヤラれちゃったのかって聞いてるのさ。んん~それで誰が下手人だったんだい?」
「…………………………」
 敵はセイバーを激怒させ自分たちのペースに持ち込みたいのだろう。
 わざと粘着質な口調で神経を逆撫でするような訊き方をしてくる。まるで愉しさを抑えられないといった感じに。
 頼むから欧州の火薬庫並に危険な人物にこれ以上不必要な熱を加えるのは本気で止めて欲しい。というか止めろ。
「っていうかなんでアンタがアインツベルンが死んだことを知ってるのよ!?」
「あ、ちょっと静かにしててくれる? お嬢ちゃんにはなんにも訊いてないからさ。
 俺はそこの最高に無様でみっともない自称白馬の騎士様に訊いてるんだよねぇクククッ!」
 綾香の横槍を綺麗に無視した魔術師は騎士に対してだけ視線を向けて下劣な笑みをその貌に貼りつけている。

「で、もう一度訊くけど……誰の仕業だったわけ? 流石に誰か分からないなんてことはないっしょ?」
 笑みを止めて眼を見開き、再度同じことを騎士に聞き直す魔術師。
 どういうわけか今度の詰問には心なしか多少の真剣味が混ざっていたように思えた。

「下手人は…………アーチャーだ。奴は卑劣な手段でルゼリウフを陥れたばかりか命まで奪った卑怯者だ。
 だがな、彼女の仇であるアーチャーはお前達を仕留めた後にオレが必ずや斃──────」

 それは思い出すだけで業腹で昏い気分になる事実。
 セイバーは怒りが再燃してくるのをどうにか押し止めていつか斃す仇の名を口にした。
 しかし、それを聞いた途端に雨生が見せた反応は彼らの想像の斜め上をゆくものだった。

「ア、アーチャーが……仇……? アーチャーが仇だって? ぷっ……プハッ! ふ、ぷはははははははははっ!
 あはっあははっあははははははぎゃははははははははははははははははははっはっはっははは!!!
 こりゃいい、傑作じゃん! アーチャーが仇って、ダーッハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! ひぃーひぃー笑い死ぬぅ!」

 突如憚りもなくゲラゲラと大笑いし出した雨生虎之介。
 まるで最高に面白い傑作ジョークでも聞かされたかのような笑いっぷりであった。
 だが綾香たちからしてみれば今の話の一体どこにそんな笑点があったのかさっぱり理解できないでいた。

「な、な、なにが……いったい何がそんなに可笑しいって言うのよッ!?」
 気が付くと意外にも綾香がまず真っ先に雨生に喰ってかかっていた。
 最も早く反応しそうな白騎士は無言のまま魔術師の侮辱的な大笑いに怒りで身体を震わせていた。

「何が可笑しいってそりゃあこれを笑わずにいられるわけないじゃん?! マヌケとはまさに君達のようなのを言うんだろうなあ!
 よりにもよってアーチャーを仇だと思い込むとは最高の勘違いじゃん! ぷっくく! 本当滑稽過ぎて最高に笑えるよおまえら!
 おまえたちは皆揃って俺達の手のひらの上で都合良く転がされていたにすぎないんだぜぇローラン辺境伯よぉ!!」

 どこまでも騎士らを嘲り哂う魔術師。
 だが、その台詞の最後に一つだけどうあっても無視できない名称が混じっていた。

「─────な……ッ?!! 貴様なぜ、オレの真名を………?」
「ちょ、え? ど、どうして………どうしてあんたがセイバーの真名を知ってるのよっ!!?
 ちょっとセイバー! 貴方もしかしてわたしと再契約する以前にあいつに真名がバレてたの!?」
「いやそんなわけない、バレてねえ筈だ! むしろ逆にバーサーカーの真名がオレたちにバレてたくらいなんだぞ?!
 アヤカだって対狂戦士同盟の会合場にいただろ。しかもオレは正体を看破してくる問答も受けてないんだぜ?!」
「だったらなんで雨生にセイバーの真名がわかったのよ? 誰かと裏で手を結んでたとでも言うわけ……?」

 不可解すぎる謎に困惑の色が隠せないセイバーと綾香。二人は予想外の事態に見るからにも動揺していた。
 一方、雨生はそんな二人の当惑する姿を心底可笑しそうに嘲笑い続けていた。

「くっくっくっく! 本っ当っつくづくローランくんたちはお馬鹿さんだよねえぇッ!! 問答を受けてないからバレてないだって?
 俺達の賢さをちょっと分けてやろうか、マシになるよ? そもそもバーサーカーの『無謬の叡智』の本質をよぉく考えてもみろよ。
 叡智によって弾き出される解答は全て、そうすべてだ! ヘイドレクの頭の中から出たものに過ぎねえ。
 おわかりマヌケちゃん? バーサーカーはなにも自分が識らない解を奇跡の力で出してるわけじゃあないんだよ。
 それじゃ話の前提が違う。正確に言えばヘイドレクは最初っからありとあらゆる知識を識っているのさ。
 その知識の種類は今日の異国の天気なんつーどうでもいい事柄から、英霊の正体に関する高度な事柄まで実に多種多様!
 仮に今晩の遠坂の夕飯やら他のサーヴァントの正体を訊いてもバーサーカーはバッチリ答えてくれるだろうね。
 もう忘れてるのかはしらないけどさぁ、ヘイドレクの頭脳は知恵と魔術の神でもあるオーディンと肩を並べられる程なんだぜ?
 そんなヘイドレクに必要なのはその膨大過ぎる知識量から欲しい解を算出するのにどうしても必要になる"キー"のみだ。
 キーになるのは言葉だけじゃない。物や音や匂いに感触、果ては概念や現象と様々なものが解を得るためのキーワードになる。
 つまりそう例えば、おまえのその真白の外套の下から見え隠れしている鎧の紋章も正体を見抜く立派なキーなんだぜローラン?」

 勝ち誇りながら騎士の胴を指差す雨生。
 そう指摘されたセイバーは己の甲冑に刻まれた紋章に眼を向ける。
 鎧には幼年期の彼らの友情を元にデザインした一風変わった継ぎ接ぎ模様の紋章が誇らしげに刻まれていた。

 これだけ……? たったこれだけのヒントで奴らは自分の正体を見破ったと言うのか……?

「アハハハハハばーか! そんなおまえ独自の紋章を目撃された時点で正体なんぞとっくにバーサーカーにバレてんのさ!
 わかったかアホウくん? だから本来は解を算出すんのに絶対に問答をしなきゃならない、なんてことはないんだよっ!
 あれはあくまでバーサーカーの娯楽であり趣味の一貫でやってることさ。知恵比べが大好きだからな。
 まあ尤も問答には解の正確性をより上げる意味合いや『賢者問答』もあるから行なう利点は十分にあるけどね」

 全マスターが犯していた根本的な勘違いを雨生が声高らかに突きつけてくる。
 ついで馬鹿共めと親指を下に向けるジェスチャーのおまけまで付けて。

「………この紋章でオレの正体がバレた、だって? でもちょっと待て………。
 これをバーサーカーが見れたのは奴に奇襲された日か、他のサーヴァントと協力してバーサーカーを包囲した時しかない………」
「ちょっと待って、それ変よ! ならあんたはどうやってバーサーカーからセイバーの真名を訊き出したって言うのよ?!
 その話だとセイバーの正体を知ってるのはバーサーカーだけってことになるじゃない!」
「ふふん、そこで頼もしいティルフィングのご登場があるんじゃんよお嬢ちゃん?
 俺はバーサーカーからじゃなく、てぃるふぃーちゃんから間接的に情報を得たのさ。
 使用者の脳にアクセスし掌握まで出来る彼女なら宿主の脳に新しく入った情報を共有することも不可能じゃない。
 狂気に塗れた彼女の意識に触れるのはかなりの危険を伴なう試みではあったけど……俺は運がいい、物は試しでやってみるもんだ」

 魔術師が自分の幸運を両手を広げて祝福する。ティルフィングと似たような雨生の狂気じみた精神構造が幸いしたのだろう。
 通常、常人が魔剣の意識と僅かでも接触しようものならばあっと言う間に精神を汚染され、たちまち発狂しかねない。
 しかし雨生は発狂しなかった。
 そればかりか極僅かではあるがヘイドレク以外の者が魔剣との意思の疎通を成功させてしまったのだ。
 彼の秘法───魔剣の能力を利用した狂戦士の量産が可能になった大きな要因の一つはここにあった。

「おまえらが随分前からオレの正体を知っていたのは十分わかった。だがそれがなんだって言うんだ!」
「そ、そうよそうよ! それがどうすればアンタたちの手のひらの上で転がされることに繋がるってのよ!」
 相手の回りくどい言い回しに苛立ち混じりに吠えかかるセイバー。
 そんな彼の勢いに便乗して少女もコクコクと首を振って同調する。
「おいおい聖杯戦争の参戦者がまだ分からないの? 相手の正体を知ることで得られるメリットが大きく分けて二つあるでしょ」

 そんなもの改めて説明されるまでもない。
 サーヴァントの真名を知ることで得られるメリットなんて相手の得手不得手とか能力とか所持する宝具とか─────あ…。

 何かに思い当たり顔色が急変した少女を満足気に眺めながら男はニタリと歪に笑った。
「そう、そうだよお嬢ちゃん。敵の正体が分かれば同時に敵の持つ宝具も分かるじゃんか。
 だから俺ちょっとした思いつきで試してみたわけよ。夢で見たバーサーカーの昔の真似事をしてみようと思ってさ。
 残念ながらそういう事に関して天才的だった当人の知恵は借りられなかったけど……初めての結果としては十分合格点だったよ。
 はっきり言って誰が手を下したか、なんてのは瑣末な問題さ。大事なのは誰の、何が、原因で。誰が死んだのか、じゃねぇの?」
 まるで大手柄を自慢でもする将兵のように語る男の瞳が妖しく灯る。異質な眼の色が嫌な予感を呼び起こさせる。

 彼が語る真相とはつもるところ───


「─────あの夜に死んだ者は全員、俺の謀略によって死んだってことさ」


「──────────」
 雨生の言葉はセイバーと綾香を二人揃って思考凍結させる威力があった。
 一瞬相手が何を言ったのか理解できずにいる二人とは対照的に雨生はどうだと言わんばかりの顔で会心の笑みを浮かべている。

「ローランの真名が判明した時点で保有している宝具は九割方の確率で聖剣デュランダルと角笛オリファンだとわかった。
 角笛オリファンは伝説では援軍を呼ぶ宝具。そして俺達は丁度おまえらに寄って集って虐められてる最中だったからなぁ。
 謀略を練って試してみるには好ましい条件だったよ。それからはセイバー、あの夜におまえがその眼で見た通りさ。
 バーサーカーを使ってセイバーとアインツベルンを強襲し、魔剣の呪力で窮地に追い込み角笛を使わせる。
 後は適当なタイミングでバーサーカーを撤退させればその場に集まった連中が勝手にバトルロワイヤルを開始するって寸法だ。
 勿論それだけじゃ確実に殺し合いが始まるとは限らない、だから確立を上げるための一手をちゃあんと打っておいたぜ?
 下手人がアーチャーってことは一番勝ち方に拘らなさそうな間桐に実行前に密約を交わしておいたのが効いたってことかな?
 う~ん、でもあの場には奴の姿は無かったしなぁどっちだろな。もしかするとアーチャーの独断の可能性もあるしなぁう~ん。
 まあどっちでもいいか大した差異はない。望む結果さえ出てくれば過程に拘る理由もないしね。
 もしヘイドレクに理性があれば俺の策略よりもっと確実で超"くーる"な謀略を考えてくれたんだろうけど、お見せ出来なくて残念だ」

 真相を語るにつれて体の芯から湧き上がる興奮が止まらない。自然と言葉にも熱を帯びる。
 呆気に取られる敵の無様な姿を眺めるのはこの上なく"えきさいてぃんぐ"ってやつだった。
 見当違いの勘違いお疲れ様。あの夜の本当の黒幕はこの雨生虎之介くんですよっ!とね。

「しかしまぁ多少狙いのズレはあったけど概ね俺の計画通りの結果に嵌った!
 最大の不安要素はセイバー、おまえが伝説のようにくだらない意地を張りオリファンを使わないことだったが、それも杞憂だった。
 まったく誰のおかげか知らんけどさ角笛を吹いてくれて本当に有難う! 今更親友の助言に耳を貸す気になったのかい?
 まあおかげでこっちはほぼ計画通り、一組分の敵が俺の策略で無様に命を落としたってわけだ、ククク……ッ!!
 唯一の計算外だった出来事は一つだけだ。
 それはローラン、本来なら真っ先に消えてる予定のおまえが今もしぶとく生き残ってたってくらいか────?」

「──────────────────」

 セイバーも綾香も愕然とした思いの満足に言葉も出なかった。

 じゃあなにか? 奴の話が本当であるのなら、ずっと仇敵だと思っていた人物はあの男の策略にただ利用されてただけ?
 あの夜に自分たちが大切な相方を失う羽目になった本当の原因はこの男の遊び半分の策略ごっこにあると……?

 怒りに任せて強く握り締めている両拳がどうにかなりそうだ。
 爪が掌の厚い皮に食い込んで血が出そう。奥歯もギリギリと軋む音がする。だが言葉は出ない、憤怒のあまり声が出せない。

「全部………あの夜に起こった何もかもが全部、あんたが仕組んだ結果ってわけ──?」
 一時凍結していた思考力をまず綾香が先に取り戻していた。
 セイバーの様子は以前として変わらないままである。
「ク、ヒャーッハッハッハッハ!! いいねいいねぇセイバーにお嬢ちゃん! その表情とても最高だよ! そしてざまあみろー!!
 そうだよ、俺が望んだ俺の"げーむ"さ。ランサーだったっけ? 可哀想に彼も援軍に呼ばれなきゃ死なずに済んだだろうにねぇ。
 それにしてもさ、本っっ当あの馬鹿女《アインツベルン》もドアホの極みだと思わね?!
 どうせパラディンを召喚するんならそんなマヌケなんかよりもずっと使えるオリヴィエの方にしときゃいいものをさ!!
 よりにもよってわざわざそこの最強の馬鹿を選ぶ辺りが救えない脳味噌だ。まさに伝説通り周囲の者を巻き込んで殺す死神だな!
 そんな男を呼んどいて挙句にそれが原因で死ぬとは主従共々大間抜けだぜ! わははははははー!」
「───っ!!? コ、コノォ…ッ!! 言って良いことと悪いことがあるわよ!!」

 魔術師が少女の純粋な怒りを鼻で哂う。
 しかしつくづくいい表情をする娘だと雨生は感じていた。あの娘を玩具にすれば最高の慰み物になることだろう。
 少々勿体ないと未練を覚えてしまうが、あの小娘はここで殺しておいた方が自分の身の為だと割り切った。
「もっと愉しんでいたいところだが、そろそろ遊びは終わりだ」
 既に亡き婦人と純白の騎士へ最大級の暴言を吐いた後、雨生は番犬を呼ぶような仕草で指笛を鳴らした。
 笛の音を聞いた番犬───愛刀の魔剣を回収した上半身裸の狂鬼が主人の前に物言わず馳せ参じる。
 明らかに雨生は勝負に決着を付けるつもりでいる。
 今回の戦闘ではまだ一度も抜いていない男殺の呪いを帯びた最恐の魔剣の力でセイバーたちを屠る気だ。

「ふっくく、いや~たらふく笑わせて貰ったわ。殺す前にわざわざ真相のネタばらしをしといてよかったと思うよ。
 おまえたちのその屈辱を通り越して何とも言えなくなってる顔が見れただけで十分その価値はあったからね。
 そこのお嬢ちゃんが多少"さぷらいず"を見せてくれたけど、俺の陣地に迷い込んで来た時点で君達の敗北は定めなのさ───!!」

 大きく振り上げられる右腕。
 雨生の和服の腰に巻き付けられた魔術礼装『集飲する渦』が広域結界と連動して一帯のマナを一気に収集し始める。
 猟犬は指揮者の合図を待つ奏者ように静かに、指揮棒が振り下ろされるその瞬間をジッと待ち続けている。
 ふと、そのとき。

 誰かが───そうか、と静かに声を漏らした。


「───そういうことだったのか。なら一つだけ、貴様に感謝しなきゃな。
 危うく利用されただけの傀儡を斬って満足するところだった。
 おかげでオレは、本当の仇をこの手で討ち滅ぼせる──────」


 声の主はセイバーだった。
 衝撃の真相を知らされ、ただ憤怒に震えるだけだった聖堂騎士がようやく言葉を発したのだ。
 しかし同時に、その声色を妙だとも綾香は思った。
 怒りも憎悪も悲しみもない声。無表情なのに無表情に見えぬ貌。この人は………誰だ?
 綾香は少し様子のおかしいセイバーを止めようとした。

 だが一足早く、

「───その穢れた首級。我がもう一人の主君ルゼリウフのために捧げて貰うぞ魔術師────!!!!!」

「ハァ?? ぶっははははははははッッ!! 勝ち目もない癖にもよくもそんな寝言が吠えられるもんだなッ!
 いいだろう往生際の悪い愚者に引導を渡してやれ。ティルフィングを解放し奴を惨殺してみせろヘイドレク────!!!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■───────────!!!!!!!!!」

 少女が制止するよりも先に両者の血戦の火蓋が切って落とされてしまった───!!


 駄目待って!と叫ぶ暇すらなかった。
 少女が手を差し伸ばした瞬間にはもう騎士の姿は彼女の視界からとうに消え失せている。
 音など軽く置き去りにする圧倒的な高速で騎士は狂戦士と魔術師の喉元に剣を突き立てに向かったのだ。
 騎士は狂戦士と遜色なく攻撃的だった。完全に怨敵の血を、首を欲していた。
 少女はその獰猛さに違和感を覚えるしかない。そんなのはセイバーらしくない。
 同時に綾香の抱いた感想は極めて核心を突いていた。
 彼女の予感した通りセイバーは既に少女が知っている騎士ではない。
 あれは自己を戦うためだけの存在に意識をシフトした男。
 戦闘兵器としての起動スイッチをハンマーで叩き入れ、敵を殲滅すべく稼動するだけの武人。

 端的に言えば、セイバーは雨生の真相告白で完全にキレていた。
 それこそ喜怒哀楽などの人間らしさを支えている"余分"を綺麗に削ぎ落とし、獣の本能と戦闘機能だけ残して──。
 だがそれはローランという名の聖堂騎士が本気で敵を殺しにいったという何よりの証でもあった。
 敵への憎悪を抱かず、哀れみは持たず、怒りすら感じず、そして怖れも容赦も一切なく。

 セイバーが撃滅すべき敵を刈り殺しに空気と大地を蹴散らしながら疾走する────!

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■───────────!!!!!」
 それを迎え討つはパラディンと同じく幻想の世界を生き抜いた狂乱の戦士だ。
 剣を収めている鞘を左手に持ち、右手は柄を握り締めている。

 怖れなど知らぬ筈の英雄たちが唯一戦慄するであろう邪悪の権化が────主人の命によって今解き放たれた!!

 ついに封印から解放された死の厄災。
 幾人もの強靭な戦士たちを皆殺しにしてきた忌わしき魔刃がこの瞬間を以て抜刀される。
 極彩色に輝く毒々しい暗黒の魔力の光がバーサーカーの肉体をたちどころに包み込む。全身を侵食してゆく呪い。
 まずはティルフィングよりヒトを超えた英雄の力が与えられる。
 急激に増大してゆく筋肉。岩石の如き醜くも無骨な瘤の塊。体の底から圧倒的な暴力が沸き上がってくる。
 バーサーカーの中に極僅かに残留していた理性が最高純度の狂化によって完全に塗り潰されていく。
 常人ならば恐怖を抱いてしまう自我を狂気に飲み込まれるこの瞬間でさえ、ヘイドレクは心の底から歓喜していた。

 これが喜ばずにいられるものか。これが愉しくねえ筈がない。一度殺し損なった敵を再び殺す機会に恵まれた事を神に感謝してやる。
 ずっと願っていた。あの夜以来ずっと。理性がなくとも奴の正体を知ったあの瞬間から………!
 手前らだけが絶対的正義なのだと勘違いした、あの忌々しき腐れキリストの走狗を憐れむ位に木端微塵に粉砕してやると───!

 ティルフィングがヘイドレクの肉体及び脳髄と完全に連結する。
「────■■■■■■■■■■■コ、ロ■■ス■■■、ギ、ギグゲゲゲゲ■■■ゲギギゲゲゲゲゲゲゲーッ!!
 グゲゲゲゲゲゲゲゴロズ! スグ殺シテヤルゾ、キリストノ狗メ───ッッ!!!!!」
 こうして最凶のバーサーカーが歓喜の産声を上げて誕生した────。

 お互いに小手調べは一切ない真っ向からの真剣勝負。
 セイバーは当然ながらバーサーカーにも遊びは微塵もなかった。
 その証拠に狂戦士は礼装『賢者問答』を使用した謎掛けすらしてこない。
 敵よりもさらに速く相手の喉元へ潜り込もうと戦場を駆け抜ける二つの影。咆哮と共に身体中から迸る気合、そして殺意。
 仇敵の姿が目前に迫る。両者の踏み込みはほぼ同時。英霊の踏み込む力に耐えられなかった土が容易く抉れ飛ぶ。

 フェイントもない最速の一刀で敵の首を断ちにいった───!

「一撃で終わりだ─────」
「■■■■■■ーーーーーーーーー!!!」

 同時に振り下ろされた剣。刃同士が激突し鍔迫り合いになった途端に騎士の足がふわっと地から離れた。
 騎士の表情が驚愕で僅かに変化する。怪力の持ち主であるセイバーが完全に力負けしているのだ。
 そこにすかさずバーサーカーが高速の二刀目をぶち込んだ。咄嗟の反応で剣を盾にするセイバー。
「づぉ…………くぁ───ッ!!!?」
 概念的な神秘の力によって護られた狂戦士の二撃目でセイバーは容易く後方へと吹き飛ばされてしまった。
 空中浮遊した状態からなんとかバランスを立て直し着地。しかし体は砂埃を巻き上げながら物凄い勢いで強制後退し続けている。
 それを追うバーサーカー。
 こちらも砂埃を……否、土塊を捲き起こしながら騎士へ突貫してくる。
 騎士の強制後退が止まった。
 が、すぐ目の前には既に凶刃を構えたバーサーカーの姿が……。
 咆哮と共に殺意が重く叩き付けられる。
 魔剣を両手で握り鉄槌の如き重さでセイバーの肉体をそのまま圧し潰そうとする。
 騎士の両足が硬い大地めり込み始めていた。
「お、重い───ぐ、お……かッ!??」

 ……重い。いくらなんでも攻撃が重過ぎる。理不尽すぎだ。
 同程度の能力値であるにも拘わらずこの圧倒的差はなんなんだ───?

「………お、お、ウオオオオオオオオオオオオオオオオリャァッッ!!!」
 全身の力を振り絞った裂帛の気合で辛うじて狂戦士を体ごと押し退けることに成功するセイバー。
 そして痺れる両脚に鞭を打って即座にその場から離れた。
 何がなんでも態勢を立て直す必要があった。体勢は正常、足場も完璧、呼吸は乱れなし、握力も異常なし。
 常にすべてが万全の状態で打ち合い続けなければたちまち奴の持つ男殺の呪詛に飲み込まれてしまう。

「しかし、まさかこれほどとは………計算外だった」
 感情を排除した筈の騎士の言葉には若干の苦味が混ざっていた。
 確かに前回の戦いでは自分は様々な要因が重なり結果として敗北してしまった。
 だが正直現在のような本気の状態で挑めば絶対に勝てない敵ではないとも思っていた。

 しかしその考えは───この敵の相手をしているにしては見通しが大甘すぎた。

「逃ガスモノカ、ソノ血ヲ寄越セーーーーー!!!!」
 以前にも聞いたことのあるヒステリックな絶叫。老若男女とも判別し難い不思議で無機質な高い声を喚き散らして狂戦士が追撃する。
 次の攻撃も恐らくとてつもなく重い一撃だろう。騎士が全身のパワーを集中させ、じきに来たる一発を迎え撃つべく構えた。
 豪速で振るわれる馬鹿正直な太刀筋。速度と力を除外すればなんてことはない狂戦士の攻撃。
 セイバーはこれを紙一重で回避して一気にバーサーカーの胴を両断しにゆくことを選択する。

 ─────だけど一つだけ、彼《セイバー》が失念していた脅威があった。

「────なに!!!?」
 セイバーは二重の意味で驚愕していた。
 まず一つ目に己の脚が勝手に跳躍をしていること。
 何の自覚もなく、ただ卓越したセイバーの危機回避能力が一瞬後の死からまるで逃げる去るようにしてその場から飛び退いていた。
 そして二つ目がその退避の理由だ。
 バーサーカーの刃の軌道が突如常軌を逸した方向に捻じ曲がっていた。
 強いて言えばCの字の軌道。縦一文字に騎士の頭部を狙っていた筈の剣斬がなんといつの間にか胴を薙いでいるのだ!

「なんてことだ……そういえば、こいつにはまだコレが残っていたか───?!!」
「■■■■■■ーーー!! グゲゲゲゲー死ネ死ネ死ネ死ネ!! オマエハスグ死ネ今死ネココデ死ネ──ッ!!!」
 ヘイドレクの狂乱の雄叫びとティルフィングの狂気の絶叫が混ざり合う。
 前回の戦いで散々魅せ付けられたもはや剣術とさえ呼べぬ摩訶不思議な斬撃が騎士を襲った。
 今度はク~ネッ!っとした変化で攻撃が飛んできた。ギリギリの所で聖剣で防御する騎士。
 次いで胴体から首へ狙いを変える、~の字の軌跡描いた斬撃が飛来する。
 セイバーは己が本能に従いこれも辛うじて回避した。しかし完璧とはいかず僅かに魔剣の切っ先が鎧を掠めていく。
 鋼鉄製の甲冑が紙のように斬り裂かれていた。
 流石は前回セイバーを鎧ごと叩き斬って瀕死に追い込んだだけのことはある。
 本当に悪夢めいた恐ろしい切れ味だ。伝承の何でも斬れるというのがブラフではないのをセイバーはその身で体験している。

 騎士は知る由もない話だが、あの時彼はルゼリウフに気を取られた隙をバーサーカーに不意討たれたことで発動した『聖なる天鎧』の護りのおかげで命拾いしたにすぎない。
 だが今回はそうはいくまい。全神経を集中して決闘している今のセイバーには『聖なる天鎧』の加護は微塵もない。
 あの時と同じように斬られればまず助からない。


 終わることのないバーサーカーの攻撃フェイズ。相手には一切の反撃を許さぬと言わんばかりの勢いで攻め立てていた。
 剣戟はより苛烈さを増し続け、繰り出された手数の度に発生する鋼の轟音と魔力の爆光が死合の激しさを克明に物語っている。
 セイバーも不利な戦況をどうにか打破すべく何度も起死回生の反撃を試みてはいた。だが全くどうにもならずにいる。
 狂戦士の攻撃で生じた僅かな隙を突いて一撃必殺を狙ってはいるが、その悉くを滅びを与える呪剣によって叩き墜とされてしまう。
 何度繰り返しても決してバーサーカーには届かない。
 物理的な距離の話ではないがとにかく敵が遠すぎる。どうやろうと届かない。

 そうしてセイバーの届かぬ反撃の後に降り掛かってくるのがバーサーカーの剣打の雨霰である。
 鞭のような軌道を誇り戦斧の如き破壊力を持ち、銃弾じみた鋭さで回避も許さぬ連撃をセイバーは必死の思いで耐え続ける。
 これは嵐。自然災害の類だ。一切の手加減もない死の竜巻だ。
 嵐に抗おうと剣を振るったところで一体何が起こるというのか。
 剣では形無き台風は斬れない。そしてその言葉を再現するかのように騎士の刃は狂戦士の急所を斬れずにいる。
 そればかりか殺戮魔剣の一撃を防ぐ度に騎士の甲冑が徐々に欠け落ちてゆく。
 残存魔力が削り取られて急速に減ってゆく。
 だが相手から言わせれば、男殺という極大の呪いを前にして未だ一撃も喰らわずに耐えられていることが既に奇跡的であるのだ。
 とは言えど実はこの奇跡にもタネはある。
 セイバーが人としての感情を排除し、戦闘行為にのみ特化した肉体にシフトしたのが功を奏した。
 精神と肉体と第一から六感までを含む全神経を戦闘の為に使う事で強力で予測不能な狂戦士の剣撃に辛うじて抵抗していたのだ。

 だがしかし、もし万が一にも敵の一撃を受けてしまったらその時点で己の敗北は決定する。と騎士はハッキリと予感していた。
 これはそういう戦いなのだ。
 相手が死ぬまで斬りつけ合うような戦闘ではない。たったの一撃が命運を別けてしまう極限の勝負。
 しかしそれはあくまでセイバーだけの事情である。
 仮に騎士からの攻撃を受けてもバーサーカーの方はそう簡単には死なないだろう。
 何故なら彼には宝具を解放した時点でAランクの狂化と共に同ランクの戦闘続行も与えられているからだ。
 それに対してセイバーの方はもし一撃でも喰らってしまえば損傷によって生じたその決定的な隙をバーサーカーが見逃さない。
 ティルフィングの男殺の呪詛を全開にして瞬時に彼の生命を飲み干してしまうことだろう。

「■■■■■■■ー! ゲギャガァァアアアーーーーッッ!!!」
 バーサーカーが雄叫びを上げて首筋、心臓、肝臓に標準を合わせた三連撃を撃ち込む。そして攻撃が終わった直後にバックステップ。
 一旦数歩分の間合いを下がってから再び大きく踏み込んで一気にこちらの懐に飛び込んできた狂戦士の一撃を渾身の力で弾き返す。
「ぬッ───────グッ!!?」
 だが何度試そうとも敵の剣圧に負けてしまいズザザザーと大地を滑ることになる。
 死の台風にじわじわ嬲られるように蹂躙されながら、セイバーは己の迂闊さを後悔していた。

 ……なんたる大誤算。別にバーサーカーを過小評価した訳ではない。だがそれでもオレは甘かった。本当に大甘だった。
 この敵は本気で戦えば、なんてそんな単純な話で済む次元の相手ではない。
 こいつには勝てない。何をしようが最後に絶対負ける。男である時点でティルフィングを解放したヘイドレクには勝てないのだ。
 仮に宝具を使用して対抗した所で生半可なものならいずれ訪れる敗北を先延ばしにする程度の効力しか得られないだろう。

 男性であるのなら何があろうと決して刃を交えてはいけない相手。
 戦った時点で最後に必ず敗北する運命にある天敵。
 そういう理不尽で不公平なルールによって護られた怪物《マンイーター》。

 それがこいつらの正体なのだ───。


 ────だがよくよく思い出してみればそれも当然の話。
 あの殺戮剣は彼の北欧の最高神オーディンですら危険過ぎると判断した正真正銘の魔性の凶剣なのだ。
 性別が男であるのなら神ですら喰い殺しかねない極大の呪詛。
 こんな神ですら恐るる真性の邪悪にヒトが挑んだところで勝てる道理など初めから存在しなかったのだ────。



           ◇                   ◇



 直接剣を交える当人たちにとってはあの攻防は瞬きの如き短さで、悠久のような延々たる時間であったろう。

「まずいっ! これ真剣にヤバイわ……このままじゃセイバーが負ける……!!」
 しかし、蚊帳の外からサーヴァントたちの戦う姿を見守っているマスターたちは冷静に状況を把握していた。
 防戦一方になりつつあるセイバーにとってはもうかなりの時間が経過したように思えるだろう。
 しかし何を隠そうバーサーカーが宝具の魔剣を抜いてからまだ一分程度の刻しか経っていない。
 たった一分という短き時間。にも拘らずもう既にセイバーはバーサーカーに敗れかかっているのである。
 宝具使用中のバーサーカーはあまりにも圧倒的過ぎた。傍から見ていても勝負にすらなっていない。
 戦いの余地すらなく、ほぼ問答無用の一方的さで彼女のナイトを蹂躙し続けていた。
 見守っている綾香からしてみれば堪ったものではない。次の一瞬後にも斬り殺されそうな相棒を見続けなければならないのだから。

「やっぱりわたしが司令塔を潰すしか手はない!!」
 このままではセイバーの敗北はほぼ確実だ。
 アレには勝てない。理屈ではなく本能的に勝てないと理解させられてしまう。
 あんなにも強いセイバーがああも一方的にバーサーカーに押されてるんだからそんなの素人でもわかることだろう。

 打倒マスターを英断した少女は素早く敵の司令塔の許へ駆け出していった。
 作戦はシンプルだ。魔力供給源を潰してあの怪物の自滅を誘発させる。
 そのためにはなるべく迅速に雨生を仕留めなければならない。ぐずぐずしてたらセイバーが殺される。

 ────こっちは時間は掛けられないっていうのに、どうやらあちらさんは素直にやられるつもりは毛頭ないらしい。

「────痛……ッ?!! え……?」
 綾香は痛みを感じた部位を手の甲で拭った。
 べっとり朱色に染まる手。そして彼女の頬から流れ落ちる一筋の赤い雫。
 血だ、気付かぬ内に見えない攻撃を受けたのだ……!

「が…はぁはぁはぁはッ!! く、くくくっ! ハァハァ、確かに君の魔道の才は認めるよ。鍛えればさぞ素晴らしい魔女になれる」
 右手をピストルの形にした雨生が少女を狙撃する格好のままで話しかけてきた。
 呼吸が非常に不安定で体の方も時折ブルブルと痙攣している。
 バーサーカーが宝具を使った事で魔力負担が急激増したのだろう。魔剣未使用時とは様子が明らかに違い苦しそうな姿を晒していた。
 マナを集める補助礼装と広域結界のコンボを以てしてもティルフィングの発動は雨生には命がけなのである。
 どうやらセイバーと同じく雨生虎之介もまた時間的余裕はあまりないらしい。
 しかしこれでもまだマシだと言えた。既に二度の戦闘で宝具を使用したがあの時は立っている事すらままならなかったのだから。

「ハァハア……本当に素晴らしい魔力量だ。俺の魔力の総量を大きく超えているのがわかるよ。それだけ魔力があれば威力も高い訳だ。
 おごぅ……!? だ、だがなぁそれも未来での話……生まれ持った才が破壊力を生んでいるだけでおまえの根本は何も変わらない…!
 バレてないと思うなよ。所詮七階位の新米魔術師の小娘が唯一の取り柄で何とか上位の相手に喰らいついているにすぎんぜ!!」
 雨生が今度はさっきとは形が違う人差し指と中指の二本でチョキのようなピストルを作る。
 二つの銃口から二滴の水滴が滲み出てくる。

「大した知識も技術も経験もない"るーきー"風情が魔道の"えきすぱーと"相手に勝利拾おうなんざ思い上がってんじゃねーぞッ!!!」

 発射された二発の銃弾。そして同時に少女の視界からロストする二つの魔弾。
 速度があまりにも速い。おまけに弾が極端に小さ過ぎる。
 無色透明のBB弾がまるでライフルの如き速度で飛来すれば人間の動体視力では絶対に捉えられない。
 だが、魔術師は違う。彼らは敵の業を目だけでは計らない。
 魔術の種類、発動前に感じ取れた魔力量、発動までにかかった時間、そういう視えないモノを全身で感じ取り敵の技を見極める。
 水弾が発射される直前、綾香は全身で雨生から感じ取った死の予感に従う形でほぼ本能的に防護魔術を発現させていた。
 沙条家の魔術刻印に魔力が通る。励起する刻印が宿主を守らんと固定化された魔術を発動させる。

「────出土せよ、地に眠りし土竜───!!」

 雫弾を阻まんと土中から石や土塊を巻き上げた土柱が上がる。
 非常に際どいタイミングだったが敵の魔術を辛うじて遮断できたと思った。
 だが雨生の極小の水弾は推進を止めることなく土壁を貫通し、そのまま彼女の二の腕や太ももを浅く抉っていった。
「うぐっ……!! 痛ったぁ~、なんで貫いてくるのよ!?
 ……っていうかさっきからボコボコと好き放題やってくれて、このぉ乙女の体に傷でも残ったらどうすんのよ?!」
「ふははははははははははは! どうだもう急造のハリボテが剥がれてきたぞ? ご、がぁ……ぁ!? ぐ、はぁはぁ!
 じ、自分の魔力なら俺の魔術を防げると思ったんだろ? 新米の浅知恵だな。君の今の防御魔術の脆弱性など簡単に見破れたぞ?
 ふ、フフ、所詮はその程度の実力だ。どんなに魔力量があろうがそれを最大限に運用できる技術がないのでは意味がないのさ!」
 技術と経験値の差だと言わんばかりに雨生が勝ち誇っている。
 これには流石の綾香もカチンときた。この程度で物怖じするほど彼女は臆病者ではない。

「だったら逆にこっちが攻めればいいだけよ───ッ!!」
 綾香はもう一度自分の肉体に刻まれた沙条家魔術刻印に魔力を通した。数ある中から選択したのは稲妻の魔術。
 高電圧の雷撃で奴を黒焦げにしてやれと掌から放電された一筋の雷。
 瞬きの間に雷電は雨生の懐へ到達した。
「無駄ァ────!!!」
 雨生も同じく雨生家魔術刻印から防御魔術を選択しそれを最速の一工程で発動させる。
 稲妻と雨生との間を分断する形で展開した水膜。
 魔術に使用した魔力量は少女の方がずっと多いというのに雷は男に届かない。
「防がれた?!!」
「ぐ……ぶはっ…! と、当然だろ。例え超常現象である魔術にも自然法則の影響はある。
 無知な君に一つ魔道の先輩から英知を授けてあげよっか。ありがたく頂戴しておけ。
 水というのは電気を通すってのが一般的だろう? だがな極限まで不純物を取り除いた超純水は電気伝導率が極端に悪くなるのさ。
 何を言ってるのか理解出来ないか? ならもっと判りやすく言おうか、俺が本気になれば君の放電魔術は一切通用しない。
 同様に対極属性にある火炎系の魔術も俺の超冷水には通じない。さあどうするお譲ちゃん?」

 バーサーカーへの魔力供給に喘ぎながらも雨生虎之介はこれが魔術師としての階位の差だと言わんばかりに笑った。
 彼のその自信はあながち思い上がりのものではない。
 自身の持つ知識と技術の応用を駆使することで最大の効力を発揮し、現に沙条綾香をほぼ完封に近い形で抑えているのだから。

 冬だというのに焦燥感で嫌な汗が滲み出てくる。
 簡単に倒せるような男ではないと思い知らされてしまった。
「チッ、ごめんセイバー。キツイのは承知の上だけどもう少しだけ頑張って持ち堪えて………。
 苦戦しそうだけどわたしがあいつをなんとかしてみるから──!!」

 相棒の孤軍奮闘を祈りながら、少女は騎士を救うために再度格上の敵に果敢に立ち向かって行った────!






──────V&F Side──────

 助けろ!ウェイバー教授!第二十六回

V「さあ今話は沙条綾香チーム対雨生虎之介チームの中盤戦だ。なんか色々と戦況が変わってるぞ」
槍「序盤はセイバーが圧してて、宝具を抜かれたらあっさりとバーサーカーが優位に立っちゃったでござるな……。
  綾香殿も前回と違って雨生相手に通用しなくなってきておるぞ……まさか奴が結構できる子だったとは人は見かけによらぬな…。
  しかしおんのれぇあの腐れ外道が女子の柔肌に傷をつけるとはこの本多平八郎忠勝の名大槍を喰らいたいのかぁ!!」
V「しかもいつの間にやら雨生が策士になっていたという……どういうことか説明したまえフラット?」
F「あ~策士キャラってカッコイイじゃないですか! ね? ね? 先生もそうは思いませんか?!」
V「微塵も思わん。というか当初そんな予定なかっただろ!」
F「う……物語上の都合でこうしないと困ることになりました。痛い痛い先生! ジルドレアイアンクローで俺の頭がお失くなりに!
  こっちの方が話的に盛り上がるってのもありましたが、ぶっちゃけ大人の都合ですハイ………だ、だから手を離して下さい!」
槍「うぅぅ……おのれぇ! ならば拙者は奴らのせいで今こんな場所にいるのか…! ライダー諸共バナナで滑って死んでしまえ!」
V「こんな場所言うな。結局謀略なんて引っ掛かる奴が全面的に悪いんだ。何でも有りの生存競争なんだぞ聖杯戦争は。
  ヘラクレスを見ろヘラクレスを。謀略?何ソレ美味しいのおかわり頂戴?と言わんばかりのあの頼もしさを!」
ア「流石我らがアインツベルンが喚んだ最強マッチョ父さん。とても頼りになるわ。やはり時代は筋肉ね、筋肉系かっこいい」
闘「ふぇーーくしょん!!」
F「あ、あれ? いま誰か筋肉系がどこかでくしゃみをしたような……?」
槍「ぬぐぅ……ヘラクレス殿のあの見事な筋肉美の前には何も言い返せん……!
  しかし教授殿。雨生の頭が切れるのはわかったでござるが、バーサーカー本人が策謀を練ったらどうなるでござる?」
V「あ~なんだわざわざ聞きたいのか物好きだな?」
F「あ、なんか先生がすっごく言いたくなさそうな顰めっ面になってる!?」
V「そうだな、イメージし易い比喩的な表現をすれば"孔明の罠"って感じだろうか?
  奴ほど軍師のような策士のクラスに相応しい英雄もおるまい。
  全知とも言える知恵者が練る謀略だ、しかもヘイドレクはむしろ策謀で一介の戦士から王位にまで上り詰め、領地を広げた男だ。
  ある意味諸葛亮孔明よりもずっとエグい策略を練って敵を陥れようとする。それこそマスターすらも作戦の餌に使ってな」
槍「………とんでもないやつでござるな。なんでその知恵をもっと他の者のために役に立てられぬのか」
V「さてな、当人が他者に興味がないからじゃないのか?
  だが今更だがヘイドレクがバーサーカークラスで良かったな君達。
  それ以外の理性を持つクラスで現界していれば、セイバー、ランサー、ファイターの天敵になっていただろうよ。
  正々堂々の真向勝負を至上とする英雄には男殺剣抜きにしても最悪の相手だ。まず確実に足下を絡め取られる」
ア「私たち的にはそっちの方がまだ良かったわね。三流魔術師風情に陥れられたなんて聞きたくなかったわ」
F「雨生さんが三流魔術師……流石ホムンクルスのアインツベルンさんはレベルの次元が違います……!」
槍「しかし改めてスペックを見直すと殺戮魔剣といい叡智といい何気に恐ろしい奴でござるな。
  あのセイバーが宝具抜かれた途端にボッコボコに………」
F「そうですよ、物凄く強い! 強過ぎるじゃないですかヘイドレクさん!
  流石はオーディンさんを撃退しちゃったせいで逆恨み気味に暗殺された人は伊達じゃないですね!」
∨「ああ~しかしこれは駄目だなセイバー。死んだ、うん死んだなこりゃ」
槍「ちょっと待たれい教授殿! まだ後半戦が残っておるではないか! もしあやつが死ねば綾香殿が綾香殿がァァァ!」
∨「そこら辺は大丈夫だ安心しろランサー。彼女は別に主人公ではないから死んでも何も問題はない」
槍「それは全然問題大有りでござろう! うおおおなんとかせいセイバー! フレーフレーセイバーァァァ!!」
F「ああ、だから前回パワーアップを果たした筈の綾香さんなのに今回は雨生さんにボコられちゃったわけですか!」
∨「YES。主役でも無い限り目覚めた力で一気に大逆転なんてことはないのだ!
  それを期待したいのなら衛宮士郎でも呼んできたまえ。
  雨生にだってベテランの意地くらいはあるさ、大型とは言え新人如きに遅れはとりたくあるまい」
F「先生! ローランさんに逆転の目はないんですか!?」
槍「そうでござる! まだだまだ終わっておらぬぅぅう!」
∨「いやというかね君達。既にセイバーは必敗パターンに嵌っていることに気付きたまえよ。
  あのバーサーカーを倒したいのならティルフィング使われる前に何があろうとぶっ殺す。これ基本にして絶対条件な。
  男ならこれ以外には勝ち目などないというにそれが出来なかった時点でセイバーはどうにもならんよ。南無南無、アーメンだ」
槍「や、やめろー念仏と祈りを同時にするなでござる縁起悪い!」
ア「彼らに殺された私らとしては彼らが無様に殺されるところがみたい、凄くみたいわ。セイバー死んでも斬り捨てなさい」
∨「女性サーヴァントが一人でもいれば簡単に攻略出来たというにな」
F「あの先生、女性サーヴァントが一人いただけでそんなに違ったんですか?」
∨「そりゃ違うさ。驚くほど簡単に倒せる。アルトリアなどがいた日にはヘイドレクなど瞬殺だな。それこそ一分保たずに倒せるぞ。
  奴に対して特に相性がいいのは前にも言った気がするが女暗殺者だ。
  聖杯戦争で最も召喚確率が高そうなのは女ハサンだろうな。下手すると宝具使わずダークだけで倒せる可能性すらある」
F「な、なんで女性だとそこまでの差が?」
∨「ティルフィングが嫌がるからだよ。あの魔剣は男を完全抹殺できる代わりに女に対して極端に脆くなっているんだ。
  男性なら神霊相手にすら効果を及ぼしかねない呪力を得た反動だろうな。
  女相手だと魔剣の攻撃動作がワンテンポ遅れるのは当然で、酷い時など斬ろうとするとティルフィングが勝手に標的を避ける。
  女の血はとてもマズいからなるべく飲みたくないんだとさ、ハッハッハ凄いなこいつ」
槍「な、なんという我侭駄剣……! バーサーカーがファッキンオーディンとファッキンソードって陰口叩いてるわけでござるよ」
ア「そんな状態でよくもまあ今までやってこれたものね」
∨「まあ昔は戦場に女などいなかったからな。では諸君また次回だ。
  さて今の内にセイバーのお葬式の準備でもしておくかな」
槍「待たれい教授殿! 頼む後生だ後生でござるぅぅぅぅもうちょっと待っててぇぇ!」