──────Sabers Side──────

「アヤカーーー!アーヤーカーーーー!!シャジョーアヤーカサンッッ!!」
 石造建築で建てられた冷たく硬質な廊下を疾駆音とやや興奮した怒鳴り声が喧しく駆け抜けている。
「見つけたっ!見つけたぞーー!」
 はしゃいでるのか騒いでるのかはさておきセイバーが騒がしくも綾香のいる部屋に雪崩れ込んできた。
「セイバーうるさい!調合の邪魔だから静かにしてって数時間前に言ったばっかでしょうが!」
 あまりの騒々しさに部屋の中央で大釜をグツグツと煮滾らせ、まるでそう魔女の真似事らしき事をやっていた綾香が怒鳴り返した。
「ああーーーーッ!また魔女か!魔女がいる!!」
 そんな少女の姿に騎士は指をさしながら非難めいた…というよりは不満めいた声を上げる。
「当たり前でしょ。魔女がウィッチクラフトやってなにが悪いってのよ?」
「ブーブー!魔女反対!魔女反対ー!ブーブー!天国に逝けなくなっちゃうぞ!」
「ブーブー五月蝿いわよセイバー。沙条家は仏教だからいいの。
 だいたいさっきも言ったけどねえウィッチクラフトは中世以前からある歴とした、しかも正統派な魔術なの!
 というかアンタの時代にもウィッチクラフトだってあったでしょうが!ウィッチも居たでしょうが!」
「イヤだイヤだイヤだーウィッチクラフト反対反対ー!マスターがウィッチとかイヤだぁあ!」
 宗教柄なのか兎に角セイバーは綾香がウィッチクラフトを使う事に妙な拘りがあるようで見つける度にジタバタと駄々を捏ねていた。
 これで寺にいた時の分も合わせれば都合三度目である。
 二度目はこの別荘というにはあまりに大き過ぎるアインツベルンのアジトに到着してまもなくの事だった。

 馬車での移動中の会話でセイバーの仇敵たるアーチャーの名を出したのが拙かったのだろう。
 それからはつい仇敵談義に花が咲いてしまい、
 アーチャーライダー憎しの一辺倒でどう倒すとか、どう聖杯の器を奪取してくれようかとかそんな方向に話に展開し、
 アンチライダーな綾香もセイバーの気持ちに心底同意出来るせいかついつい興が乗ってしまい勢い余って、

 ”う~んそうね~それならアーチャーとそのマスターがいる工房を攻めれば一石二鳥で良いんじゃない?
 それで首尾良くやっつけられたら間桐陣営はサーヴァントも聖杯の器も失うわけだからきっと屈辱極まる事間違いなしよね”

 などと軽いノリで返答してしまった。
 無論魔術師の工房へこちらから攻め込むなどと無謀な真似を真面目に実行するほど彼女は考えなしではない。
 ただあくまで会話の勢いで言ってしまったに過ぎない。
 しかしこの何気ない一言によって沙条陣営の方針が決まったと言っても過言ではなかった。

 まあつまり・・・ようするに超特急列車の如く勢いのついたセイバーを綾香が止められなかったわけである。


 それからはこの能天気男の濁流の如き勢いに流されるままどんどん事態は進んでいった。
「貴方本気?あのね簡単に言うけどアーチャーのマスターの居場所なんか判らないじゃない」
「その辺は大丈夫。
 ルゼリウフが前オレにアーチャーのマスターのマキリは御三家の一角だとか言ってたから奴等の住居は既に判明してる。
 地図もどこかにあるだろうから探して来る!アヤカも支度しておけよー!」
「え、ちょ。待ちなさいセイバー!」
 そうして静止の言葉も聞かぬまま勢い良く飛び出して行ったのが数時間後。
 セイバーが万が一にも地図を見つけてきた場合に備えて一応の準備はと綾香が生贄を捧げて魔術行使している最中に部屋へ現れて、
「おーいアヤカー、一階には地図なかったから二階探して来るぜ。だからもう少し時間が・・・ってアアアーー魔女だー!!?」
 一悶着発生。
 そうして今、二人とも懲りずに三度目の悶着をやっている。 
 だが前回の経験から話が長くなることを知っていた綾香は悶着が泥沼化する前にさっさと話の矛先を変えることにした。
「もういいわこの話は今はおいときましょ。それよりセイバー本当に見つけたわけ?というかそんな地図が本当にあったの?」
「む。オレは嘘は言わないぞちゃんと見つけた。ホラこれを見ろ!!」
 少女の疑惑の眼差しを跳ね返すように騎士は手にしていた紙切れを両手で広げて見せた。
 顔の前に広げられた地図をまじまじと見つめる。
 そこには聖杯降霊が可能な霊地らしきポイントとトオサカとマキリの住居らしき地点が×字で記してあった。
 ソコは立地条件を考えても魔術師が根城にするには好都合の場所で、沙条の家の立地条件と照し合せても似通っている部分が多い。
 おまけに同じく御三家の者が持っていた地図とあってはもはやほぼアタリと言ってしまってもいいだろう。
「な?ちゃんとあっただろう?」
「うわぁ・・・ホントに見つけてきたんだ・・・・」
 どうすんのよこれ。と内心やや泣きが入っている少女の心境に気付かないセイバーはある種の達成感を伴った満面の笑顔で言った。
「さあ!敵の位置は知れたぞ、いこうぜマスター!」
 そんな笑顔で言われては綾香は嘆息しか返すことが出来なかった。



 並の馬の走力を優に超えた速度で駆けゆく馬影。
 瞬時に後方に吹き飛んでいく風景を茫然と眺めながら綾香はセイバーの逞しい腰に両腕を回していた。
 一見すると騎士と婦人の逃避行にも見えなくもない状態であるが、

「っていうか度を超えて速過ぎんのよこの馬ーーー!!!」

 実情は前方から襲いくる風圧と荒れ狂う馬の背に吹き飛ばされまいと必死にしがみ付いているだけだった。
 一方セイバーはというと。
「いけいけヤッホーゥ!!ヴェイヤンチーフ!誰よりも速くアーチャーの隠れ家に辿り着くんだーッモンジョワー!」
 久方振りの愛馬と共に新たな戦場を目指しているのを心から喜んでいた。
「どうだアヤカ、オレのヴェイヤンチーフは凄く速いだろう?」
 セイバーは背中にしがみ付いている少女の細い腕と体温を感じながら自慢気に声をかけた。
「は、早過ぎだってばぁ!お願いだからもうちょっと速度落としてよ!め、眼鏡が飛んじゃうから!」
 しかし少女の方には手綱を握っている騎士ほど余裕がある筈もなくただただ悲鳴を上げるだけだった。
「えー?でもここからだとアーチャーの根城までは結構な距離があるぞ?
 町を通り抜けて大橋を渡ってミヤマの郊外まで行かなきゃならないんだからグズグズしてたら日が暮れてしまう」
「どう計算しても暮れないから!よくよく考えたらわたしたちって出発するのは日が暮れてからで良かったんじゃないの?!
 いえ、その前になんでこんな非常識なスピードで走る化物馬があの邸に置いてあるのよ?!!」
「化物馬ってあんまりに酷い物言いだな君・・・。残念だがこれでもルノーのバヤールに比べたらまだ遅い位なんだぞ?」
「これよりもさらに速いって・・・・・ちょっと何馬よその怪物馬は!?っていうかホントに馬なのそれ?」
 馬という生物が出せる時速をとうに超越しているこの馬よりも速い馬がいる。
 それだけで綾香は軽い目眩を起こしそうな心境だった。
 というかもう一刻も早くこの荒れ狂う乗り心地の超特急爆走馬から降りたい。
「でもまあ確かに言われてみればバヤールは馬というには度を超して賢いやつだったなぁ。
 まるで人間の言葉を理解してるみたいに行動するし。
 あと変わった特徴と言えば乗馬した人間の数に応じて体の大きさが変わってたっけ。
 ルノーたち兄弟が三人纏めてバヤールに乗ってても凄ぇスピードで駆けてたし。
 うん流石はフランク王国の最高の名馬なり!
 ああいいなぁバヤールはいいなぁ……・・・あ!いやこれは違うぞヴェイヤンチーフ!浮気じゃないぞオレの愛馬はおまえだけだ!」
「ごめん。もうそれ馬の領域にいないわ」
 愉しそうに語るセイバーには悪いがとても綾香がついていけるレベルの話ではなかった。
 流石は伝説として成立した時代。
 英雄だけに留まらずよもや馬でさえ幻想の領域に踏み込んでいる世界なんて途方もなさ過ぎて想像さえ及ばない。
「っとそうだったそうだった。話が逸れたけどヴェイヤンチーフのことだったよな。
 コイツはオレの召還に合わせてマスターが用意してたんだ。あ、言っとくけどマスターってのはアヤカの事じゃないぞ?」
「アインツベルンが?」
 
 さてこの馬こそはヴェイヤンチーフまたの名をブリリアドロで知られる紛うことなきローランと共に戦場を駆け抜けた軍馬である。
 とは言ってもなにもヴェイヤンチーフが現代まで生きていたわけではない。
 この馬が現世にいる原理自体はサーヴァントとそう変わりないものだ。
 降霊出来たヴェイヤンチーフの霊魂の一部を現世で活動可能な空の器に移しただけ。
 ローランのヴェイヤンチーフはバヤールやブケファロスなど勇馬のように主人と共に英霊化した馬のため、
 座にいる魂全てを現世に降霊することは不可能だった。
 そのため通常の降霊儀式で可能な限りヴェイヤンチーフの力を降ろし、足りない力は器の方で補うという独自の形式を採用した。
 そして残った問題である空の器はホムンクルスの製造に非常に優れた技巧を有していた、
 当代アインツベルン頭首ユーブスタクハイトが難なくクリアしてしまったおかげでかつての名馬は無事現世に蘇る事となったのである。

 力強く疾駆する白色のホムンクルス馬は体格も通常の馬よりも大きい。
 また白を通り越して蒼白過ぎるその体色はまるで生物というよりは冷たい石像を連想させる。
 まさに内外共にこの世のものならざる馬といった風情である。
「なら何で今まで使わなかったのよ勿体無いじゃない?」
 すると綾香が当然の疑問を口にした。
「しょうがないだろ。使うタイミングが無かったんだ。
 最終的にはリゼリウフのみならず侍女達までぞろぞろと着いて来ちゃったからなー。
 彼女達が同行しないならコイツに乗るつもりだったけど同行するならあの馬車に乗る他なかったんだ。
 最初はこっちの方が速いって言ったけど侍女が揃いも揃って野蛮だ危険だ貴人の乗り物に相応しくないだのと文句を言うから諦めた」
「それならこの子には馬車を牽かせれば良かったんじゃないの?」
「いやそれも無理だ。ヴェイヤンチーフは軍馬であって馬車用の馬じゃないんだ。
 こういう駿馬を馬車に繋げても小回りは利かない速度も出ないで大した利点が無いから止めた方がいいってオリヴィエが教えてくれた」
「ふ~ん適材適所ってやつか」
 セイバーも戦いのことならば意外にちゃんと考えてるんだなーなどと思い馳せていると、
「それよりアヤカ、君はちゃんと戦支度はしたのか?」
 とセイバーが今更ながらに訊いてきた。
「あのねセイバー。そういうことは出発する前に確認するものだって理解してる?」
 呆れを混ぜ合わせた声で嘆息を一つ。
「すまん!ドタバタしてて訊くの忘れてたぜ!」
「そんな大事なことを忘れる普通?」
「ナハハハハ、まあそんなこともあると思うぞ」
「絶対無いわよッッ!」
 まあセイバーに言われるまでもなく魔術師の工房で使えそうな魔術品をとりあえず一通り袋に詰めて持ってきてはいる。
 その中には綾香の祖父が生前使用していた魔術品もあるので多少心強い。
 ついでに時間もあったから供物を使いウィッチクラフトで精製した簡易呪法も幾つか用意している。
 あとはそれらが敵地で使い物になるかどうかだが、それは直接現地で確かめるより他にない。

 走る速度は変わらないまま目的地までの距離が刻一刻と縮まってゆく中。
 セイバーは前を見据えたまま珍しく真剣な声で口を開いた。
「あのさーアヤカ?」
「なによ」
「なんでウィッチクラフトを使うんだ?」
「またそれ?あのねいくらセイバーが魔女を忌嫌うクリスチャンだからっていい加減ちょっとしつこいと思うわ。
 魔術師が魔術を使うのは当たり前だし、わたしはウィッチクラフトを専攻してるだけ。それ以外に特に理由なんかないわよ」
 大して面白くも無い話題に綾香は不機嫌そうに返した。
 しかしセイバーはなおも真剣な声色のまま続ける。
「いや文句じゃなくて疑問だってば。
 だってさぁ・・・オレ君がウィッチクラフトでまともに魔術を成立させてるところを見たことが無いんだが」
「失礼ね。あれはちょっと上手くいってないだけで───」

「正直なところさアヤカ、キミって───黒魔術下手だろう?」

 ──────。
 その言葉に何故か心臓の熱が冷めた気がした。
 セイバーが一体何を思ってそんなことを言うのか。
 その真意は不明だがそれはある意味沙条綾香の核心を突いたものだった。
 指摘されるまでもなく彼女は・・・・このかたまともに黒魔術を成功させた例がない。
 形だけのモノなら度々成功したことはあるが所詮は形だけの魔術は形の分だけの効果しかもたらさない。
 いくら彼女が頑張ってみたところで魔道書や師の教え通りの効力が得られたことなど一度たりともないのだ。
「なんで───そんなのがわかるのよ?」 
 渇いた喉から搾り出された声はどことなく弱々しいものだった。
「ん~なんとなく?」
「またそうやって意味深に言う癖になんとなくで済ませるわけ?!わたしをからかってんの!?」
 セイバーの不明確な物言いに思わず声を荒げてしまった。
 一体何がそんなにも気に入らなかったのか自分でもよく判らない。
 いけない落ち着かなくては。と思うも心音だけは早鐘を鳴らし続けている。
 気まずい沈黙。
 セイバーは少女の突然の怒鳴り声にキョトンとした後、わるい。と謝った。

「むぬぅ~そうだなぁ何て言うのかなあ。なんつうかとにかくアヤカからは魔女っぽさが感じられないんだよ」
「魔女っぽさ──ってなにそれ?」
「おう、魔女っぽさだ。そもそもウィッチクラフトあれだろう?
 生贄の流す血や苦痛を凝縮した呪力で相手を祟ったり、相手の人体の一部や持ち物を媒介にて呪いかけたりの陰性魔術」
「まあそうね。大体は合ってるわ」
「オレは異端を討つ為の騎士だったから魔女って連中を良く知ってるけどあんまりにもアヤカの気質とは正反対過ぎてさ」
 魔女とは正反対。
 綾香にとってそんなことを不可解な言われたのはある意味生まれて初めての経験だった。
 女魔術師たる己が魔女とは正反対とはこれいかに。
「正反対の気質って・・・どういうことよ?」
「キミはさ、オレと同じで気に入らない相手にはねちっこい嫌がらせするよりも真っ向からブッ飛ばすタイプじゃないか?と思った」
「─────」
 黙り込んだまま騎士の言葉の意味を反芻してみる。
 セイバーも返答のない少女の顔色を一応窺いながら、それでも話をさらに核心部分へと進めた。
「モージ・・・っとこの場合マラジジって言った方が名の通りはいいのか?
 まあとにかくその宮廷魔術師が魔術は属性や気性に適したものじゃないと力が薄くなる場合があるって言ってたのを思い出してさ。
 正直アヤカは陰気臭いウィッチクラフトよりも派手で直接的な魔術の方が性に合ってるんじゃないのか?」
「───ん?ちょっと待った。アンタそれわたしが手の早いじゃじゃ馬だって遠回しに言ってない?」
「え?い、いやまさか。思うだけだ」
「同じことだっ!
 ったく別にどうだって良いじゃない、わたしがどんな魔術を使おうとさ。
 この際だから言っておくけどはわたしは魔術の中ではウィッチクラフトが好きなの。
 それでもってついでに言っておくと元素変換なんてあんな頭の悪い魔術は使わないってのももう決めてることなの!
 だからこの話はもうおしまい!いいわね?」
 一瞬脳裏をよぎった嫌な思い出をジャイアントスイングで投げ飛ばし綾香は話を強引に打ち切った。

 綾香は今のセイバーの話に対して一応自覚はあった。
 確かに自己を顧みると彼女は敵は正面から叩き潰そうとするタイプであり、裏からちまちまと破滅への手引きするタイプではない。
 そんな彼女の性質はオーソドックスな呪術の一つであるガンドの腕前などを見てみれば殊更に分かり易かった。
 悲しい事に術の比重を調整をしてやらねば彼女のガンドは相手に病をかける呪いの魔術というよりは、
 フィンの一撃として物理的な攻撃力で相手を昏倒させる魔術として運用する方が遥かに効果的なのだ。
 だが本人からしてみればそんな呪術を呪術として使わない方が効果が高いなど実に馬鹿げた話であり長年の不満の種でもあった。

「まあアヤカがそういうのならいいんだけどさ」
 どことなく納得は言ってないような若干拗ねた口振りではあるがそれでもセイバーも少女の意思に一応同意を示してくれた。



 それから二人は特にこれといった衝突もなかった。
 道中はハイパーホースのバヤールの話題や工房攻略の作戦内容などで微妙な温度差がある盛り上がりをみせつつ、
 とうとう誰にも妨害される事無くヴェイヤンチーフは無事に目的地までの道のりを走破し切ったのだった。
 しかし仮に妨害に現れた者がいたとしても何一つ出来なかっただろうと思う。
 そんな感想を抱ける程度には大勢の人で賑わう真昼の町中を疾走するのはそう、ある種の快感だったと言ってもよかった。
 ヴェイヤンチーフを駆るセイバーや綾香の姿をまともに捉えられた人間などいない。
 白っぽい何かの影が猛烈な速度で目の前を通り過ぎて行ったくらいの認識が精々の認識だろう。
 馬上の綾香本人でさえ瞬きの間に遙か後方に掻き消えてゆく人影をまともに視認出来ていないのだ。
 まさか人ごみの合間を縫う様に駆け抜けられる常軌を逸した馬と騎手がいるとも思うまい。
 白い残像は亡霊のように白昼の彼方に消え去り、やがて人々の記憶からも消えていくことだろう。
 そうやって未遠川を挟む両町を横断し最後の坂を駆け上り、マキリの一門が居を構える敷地手前でヴェイヤンチーフの脚を停止させた。

「・・・予想以上に大きい洋館なのね間桐家って・・・」
 彼らの開口一番の感想は驚きとささやかな嫉妬心だった。
「おのれアーチャーの癖に生意気な」
 鬱蒼と生い茂る草木の陰にしゃがんだ体勢で身を潜めつつひそひそと話す。
 綾香とセイバーは間桐家のだだっ広い敷地と洋館を遠目から眺めながらも油断なく周囲の様子も窺がっていた。
 しかし辺りに人の気配は一切無い。否、人だけではなく野犬や野良猫などの動物の気配すらない。
 間桐の工房は予め住所を知らなければまず訪れることはないであろう場所に建っていた。
 民家が集中して建っている町の本道から外れた先に存在する迷路のように入り組んだ道の最奥。
 まるで隠れ潜むという言葉がぴったり合うかのような場所に本当にひっそりと建っているのだ。
 これならばまだ遠坂家の方が判りやすい場所に建っていると言えるだろう。
 なにせここよりもさらに坂の頂上付近に『之ヨリ遠坂家ノ私有地、立入リヲ禁ズ』と日本語で書かれた立て札があったくらいだ。
 堂々と遠坂と名乗っているのは遠坂家が元からこの土地に根付いていた名家だからなのかは綾香達では知る由もないが、
 とにかくあの立て札の先に御三家の一角たる遠坂家の本邸があるのはまず間違いないだろう。
 あそこは気配からしてなにか異質な空気が漂っていた。
 そしてそれはこの場所も同じらしくどこからともなく人の立ち入りを固く拒む暗く湿った嫌な空気が漂っている。
 常識的な神経をしている人間ならば例え迷い人であろうともそれ以上は近付こうとはすまい。
 これなら人間よりも感覚の鋭い動物たちが辺りに一匹も居ないのは当然である。
 ここはまともな生き物がいつまでも居座って良い場所ではない。
 それほどに此処は生理的嫌悪感が無意識に纏わり付く場所だった。

「あそこにアーチャーと奪われた聖杯の器があるのか。
 よぉし見てろよあの野郎めぇ彼女が大事に守っていた宝はすぐに返して貰うからな」
「この場所の雰囲気は間違いなく家のソレと同類よ。此処が魔術師の根城だってのはどうやら合ってるみたいね」
 しかしこの場所に自ら訪れた彼らもまた、常識の枠外に身を置く者達である。
 この程度の陰気な雰囲気で危険を覚える必要性はまるで無い。
 今彼女らが気にしなければならないのはこんな一般人を寄せ付けないための演出ではなく、
 敢えてこの領地に踏み込んできた侵入者に対して実害と猛威を振る可能性のあるトラップの方であった。
「ところでさ・・・それなに?」
 どうしても気になったのか綾香がセイバーの手にしているソレを指差した。
「盾だが?」
「それは一応見ればわかるんだけどさぁ、一体どっから持ってきたのよそんなもの」
「邸の倉庫みたいな所に飾ってあったから持ってきた。魔力が篭ってたから多分なんかの魔術品だ。
 ずっと左手が寂しくて盾なんかが欲しいなと思ってたからホント丁度よかったぜ」
「・・・まあ戦力が強化されることは良い事だからわたしも文句は無いけどね」
 でも町の中じゃ即座に霊体化出来ないから持ってちゃ駄目よ、ととりあえず念を押しておく。
「よし、じゃあ乗り込むぞアヤカ心の準備はいいなッ!」
 馬上では一応念のために脱がせておいた全身鎧を再び装着し終えたセイバーがすくっと立ち上がった。
「ちょ、こら待ちなさいってばセイバー?!来る途中に約束したでしょう!
 まずはわたし主導で工房攻略をやってみてそれでもし駄目だったらセイバーに主導権を渡すって!
 ちゃんと納得して・・・・・ってまさかアンタついさっき話したことを忘れたんじゃないでしょうね?」
「え…?ああいやうん、勿論オボエテルヨ?」
「ねえなんで眼を逸らすのセイバー?」
「なんでもないヨ?あっちに蝶々が飛んでてだな」
 少女は花のような笑顔でセイバーに笑いかけている。
 しかし危機感知能力に優れた騎士には少女の花の笑顔は花は花でも毒花の類にしか見えなかった。
 オレの直感が囁くんだ今アヤカと眼を合わせてはいけないってな!
「まったくもう。とにかくまずはわたしがやるからセイバーは大人しくしてて頂戴」
「お、おう。わかった」
 びしりとセイバーの顔に指を突きつけると綾香は持参した布袋から瓶細工の入れ物を取り出した。
 そして中に収められた御香に火を点け煙を焚き始める。
「御香なんか焚いて何をしてるんだ?」
 テキパキと作業に没頭する綾香の背後から興味津々な風体でセイバーが顔を覗かせた。
「結界が張ってあるポイントをこの御香の煙で調べてるの。
 大丈夫よお爺様お手製の魔術品だからわたしが作った物よりは精度は高いわ」
 質問に答えながらも手は少しも休めず作業を続ける。
 また時折吹く寒風や自らの吐息も利用して香煙のなびく方向も調節する。
「意味あるのかそれ?」
「当たり前じゃないの。工房を攻略したいならまずは外堀を埋めなきゃ話にならないわ。
 真っ向から攻め込むだけじゃ結界に引っ掛かって命取りになる可能性だってある。
 その工房を作った魔術師の力量にもよるけど工房に張られる結界には侵入者を感知する類の物だけじゃない。
 より攻性で凶悪な結界だってあるんだからね。
 それこそ何も知らずに触れた瞬間に感電死なんてヤバいトラップだって多数存在するんだし、
 そんなのが何重にも張られてあって初めて魔術師の工房ってのは要塞としての力を得るんだから」
 御香を頼りに慎重に前進しながらついに綾香は結界の一番外端にあたる場所まで辿り着いた。
「最初の結界の場所はここで間違いないか。
 結界を丸ごと解除するか、一部分に穴を開けるか、とにかく可能な方でやってみるわ」
 綾香はやや緊張した面持ちで布袋から別の道具を色々と取り出してなにやらカチャカチャとやっている。
 だがまともに魔術の手解きを受けた訳ではないローランでは己のマスターが今何をやっているのかなぞ理解しようもなかった。

「・・・」
 セイバーは大人しく待っている。

「まだかアヤカ?」
 イライラ。
 セイバーはそわそわ待つ。

「・・・・・・・・まだかー?」
 イライライライラ。イライライライラ。
 ・・・セイバーは、手持ち無沙汰だが待ってるぞ。
 なぜならそういう約束だからだ。

「マダー?マダー?」
 イライラ。
  イライライライラ。
   イライライライライライラ。
 セイバーは・・・まだ待ってます。
 マスターに任せると言う約束を守るために。

「・・・・・・・・・・・・・・・・!!!」
 イライライライライラ。
 イライライライライライライライライライラ。
 セイバーは・・・・。

 そうして綾香が無言で作業に没頭すること約20分程の時間が経過した。

「やった!できた!無効化までは出来なかったけど穴は空けられたわよ!さあセイバーも早く通って」
「・・・・・とうとう来たか!?」
 結界を突破できた喜びからか少々興奮した様子で綾香はここに結界が張ってあると自分で言っていた境界線を躊躇無く踏み越えた。
 当然なんともない。セイバーも待ちに待ったぜといった闘志滾る表情でズンズン付いて来る。
 そして再び御香の煙を頼りにジリジリと慎重な足取りで前進していく。
「・・・・・なん、だって?」
 まぎれもなくデジャヴュだった。まさについ20分ほど前に見た光景の録画再生だった。
「この先にまた結界があるみたい。少し待ってて今からまた穴を開けてみるから」
 またしても同じ道具をカチャカチャやりながら綾香が再度同じ作業に入った。
「うぅううまたかぁ・・・またなのかあ?なあアヤカー?結界なんて無視しちゃえば良いじゃないか」
 悲しく萎んでゆく闘志にさよならしながらセイバーは愚痴るように呟いた。
「そんなの駄目に決まってるでしょうセイバー。攻撃型の結界だったら命に関わるってさっき言ったじゃない」
 視線は前に固定したまま背後の馬鹿者に再度諭してやる。
 無論手の動きは休めない。あまり愚図愚図していたら建物内にいる人間に気付かれる恐れもある。
 結界の脆弱性のある箇所を探し当てる必要がある。
 虫眼鏡のようなレンズを使って魔力の流れや大まかな術式や組み込まれている魔術の種類を判別する。
 彼女の祖父が愛用していた魔術品の性能はどうにかこの要塞のような工房の守りに喰らいついていけるレベルにはあるらしい。
「だってさあチマチマチマチマと面倒臭いじゃないかぁ。いい加減オレも待ちくたびれちまったい。
 それにオレの対魔力なら攻性結界だって全然怖くもないしさー」
 しかしさっきからセイバーが煩くてかなわない。
 時間もあまり無いってのにこれでは全然集中できない。
「あのねセイバー?仮にアンタは無傷でもわ、た、し、の身が危険なのよ?デンジャーなの最悪死ぬの。
 わたしに任せるって約束したわよね?そうよね?オーライ?」
 唇を尖らせてブー垂れる子供みたいな男に綾香は笑顔で諭すように返した。
 しかしどの角度から見ても非の打ち所の無い満面の笑顔の癖にこめかみに一本の青筋が薄っすらと見えているところが嫌過ぎだ。
 結界があまりに手強いせいで余裕が無いのか鬼気迫る笑みというのは背筋が寒くなる思いである。
「う、ウィ!!」
 綾香の放つ嫌過ぎる美人の気迫に圧されてセイバーは慌てて姿勢を正す。
「よろしい。すぐにちゃちゃっと解除するから大人しく待っててよ」
 セイバーの態度に満足したのか青筋を引っ込めた女の子らしい笑みを浮かべて再度結界の解除作業を再開した。

 そうしてしばらくの間は間桐邸の庭で姿勢正しく直立不動で気を付けするナイト様のオブジェがあったのだった。

 ───イライライライラ。
 イライライライライライライラ。
 イライライライライライラ───。
 まだか?まだなのかアヤカ?

 そうして綾香が第二の結界を解除できずに悪戦苦闘している間にさらに30分経過した。

「う~ん。ここの術式はこっちでいいわけだから、あとはこっち?いやこっちかしら?」
 セイバーはマスターの言いつけを守ってまだちゃんと待っていた。
 しかしその表情はかなりヤバい。先ほどの綾香の面相を軽く凌駕しかねないヤバさだ。
 マジで核爆発起こす五分前っといった感じで臨界点が既にチラチラとチラつき始めている。
「計算は・・・うん合ってる。これで一部分だけ解除出来る筈なのになんで解除出来ないんだろ?
 まさかこの術式って対解除用のダミーだったりする?」
 難問に悩む少女を尻目に騎士はただただフラストレーションを倍速で募らせていく。
 此処に着いてから既に一時間ばかりが経過している。
 怨敵の首とかつて仕えた貴婦人の簒奪された遺品を目前にして何故自分はこんな所で指を咥えて突っ立っているのだろうか?
 それによくよく考えれば突破した結界はまだ一つ。たったの一つだ。
 かつてローランがパラディン達と力を合わせて攻略してきた異端魔導師たちの工房に仕掛けられた罠は最小でも五つはあった。
 平均しても余裕で十は超えていたはずだ。最大だと二十や三十という数では利かない程の仕掛けが存在した。
 少なくとも経験則上最短で残り四つはあるということ。
 しかしマキリはアインツベルンと同じく御三家の一角で名門の魔術師だと言うではないか。
 セイバーの元マスターたるルゼリウフ・フォン・アインツベルンが自身の陣地である邸の周囲に張った防備だって二十近くはあった。
 ならば五つ程度の守りのわけがない。防壁の数は少なくとも十以上は確実。
 しかし実際のところはアインツベルンと同じく二十近くの守りがあるとみていいはずだ。
 つまり自分たちはあと十九近くもの結界を少なくとも突破しなければならないのではないか・・・・。
 たった一つの結界を通過するのに一時間も経ってるのに?それを十九回も繰り返して突破できるまで待つのか?
 仇を目の前にして?おいおいまだ待てと?もう十分待っただろう?
 いやでも仕方ないことだ。敵は討ちたい、でもそのせいでアヤカの身を危険に晒すのは違うと思うぞオレ。
 騎士だろオレ!女子供を守るのは騎士の務めだ。
 でもこうしている間にアーチャーたちが逃げてしまうかもしれないぜ?
 でも無理して押し通ったらアヤカの身が!
 いや待てよ、でもしかし、ぬあああああああああああああああああああああああああ───!!!!

 そしてさらに15分後。
「・・・・・・ああもう!なんだって解除出来ないのよこいつ!このっ!くのっ!
 ええいこうなったら何度だって挑戦してやるんだから───」
 ・・・あぁ神様、オレちゃんと我慢しましたよね?

 ────ぷっちーん。

 ローランの中で大事な大事な何かが切れる音がした。それはとってもとっても大事な袋の緒だった。
 華美過ぎない鞘からスラリと片手剣が抜刀される。
「ふんふんふんふん♪モンジョワーモンジョワ~騎士がゆく~♪西~の王国偉大な王~立派な御髭フサフサ~我らの王~♪
 勇猛果敢な十二騎士~敵は異教徒アホばっか~♪どんな敵でも野望でも~オレ達の正義の刃で真っ二つにしてやるわー!」
 ついに我慢の限界が天元突破した騎士様がご乱心なされてしまった。
 鼻歌を歌いながら剣先をシュンシュン小刻みに震わせて、綾香がしゃがんでいる場所まで歩いていく。
 綾香は綾香でセイバーの様子の豹変っぷりにあんぐりと口を開けて呆けるしかない。
 そしてあっちゃぁっと思わず手で顔を覆っていた。
 どうやら自分はやっちゃったらしい。待たせすぎによるタイムオーバーのようた。
 綾香が話し掛けるのを躊躇うくらいにセイバーは剣気をびりびりと放っている。
「・・・あ~、セイバー?」
「アヤカ、オレ良い事を思い付いたぞ」
 遠慮がちに声をかける少女の声には応えず、騎士は良い悪戯を思い付いた悪餓鬼みたいな調子で近づいてくる。
 綾香はセイバーの体から発する空気と口調の温度差に若干戸惑いを覚えながらも彼が一体何をする気なのか知るために先を促した。
 本音を洩らせばとっても訊きたくないのだが。
「え?あうん、なにかな良い事って?」
「あのさ要するに結界を解除するのってアヤカが怪我をしないようにするために必要な措置なんだよな?」
「え?う~んまあそう・・・なるのかしらね。セイバーだってマスターのわたしがやられちゃったら困るでしょう?」
 やっぱり物凄~~~~く嫌な予感がする。いやもはやこの予感は確定だろう。
 こちらに一歩一歩接近してくる聖騎士の甲冑姿を視界に収めながら
 あーあー絶対何かしでかすんだろうなぁ・・・。と半ば諦めと仏陀のような悟った心境で少女は心の涙を流した。
「うん困る。だからオレどうすれば一番いいか考えたんだよ」
 だからなにを?と綾香が訊こうとするより先にセイバーは己の取るべきアクションを起こしていた。
 だだっ広い間桐邸の庭を吹き抜けていく気合と一陣の風。

 打ち下ろされた白刃はベリリっと歪な破壊音を鳴らしながら第二の結界を完全に切り裂いた。

「ここに仕掛けられた結界やトラップ類を全部ぶっ壊しちまえばアヤカが怪我しないで済むぜッ。
 ホント不覚だ、オレとしたことが戦いに逸るばっかりでこんな簡単なことに気付かなかったとは!」
 ええそうね。わたしとしては出来れば気付いて欲しくなかったわねローラン。
 空しくも少女の心の嘆きは届かない。
「危険の大本を叩き壊してしまえば危険なことなんて起きようがないんだし、ッシャ!!」
 魔術の効力を無効化する概念武装たる魔女の魔導剣の柄を握りしめてズカズカと進軍する一人軍隊。
 そして三つ目の結界が主からの許可がない侵入者に攻撃を加えるその瞬間、それを上回るスピードで横一閃。
 バベリっと薄紙を破り捨てる快音と共に三番目の結界が死んだ。
「ぁぁぁぁぁぁ・・・やっぱり、こうなるわけなのね」
 もうガックリと肩を落として項垂れるしかない。
 ばれた。絶対今ので自分たちが間桐の領内に侵入したのがバレた。
 出来得る限り侵入がバレないようにするためにも敢えて時間と手間のかかる正攻法で攻略しようとしたけれど。
 やっぱり当初の予想通り駄目でしたーテヘッ。
 だってわたしの相棒ローランだもん。そりゃあしょうがないってもんでしょう?
 相手は神様や天使に祝福されたスーパークラッシャーナイト様。
 わたしのようないたいけな眼鏡小娘程度に止められる道理なんかないの。
 うん無理なんですごめんなさい。

 綾香は心の目頭から零れる熱いモノを極力意識の外へと追い出し、あの世の祖父に向けて手紙を綴った。

 ──拝啓、あの世のお爺様へ。
 わたしがランサーに代わって新しく契約したサーヴァントセイバーは度を超えて豪快な英雄でした。
 まさか魔術師の処刑城たる工房に真っ向から喧嘩を売りあまつさえ工房の全壊を企てる輩がいるなんて思ってもいませんでした。
 世界とはとても広く高いものなんですね。この後死んじゃったらすぐに会いに行くので世露死苦マイグランパ。

 トリップする綾香を余所に前方ではさっきほどからバリバリズバズバと小気味良い轟音がする。
 言うまでもなく大巨人の進軍さえも裸足で進路変えて逃げ出すローラン様の進攻である。
 沙条綾香が一時間かけても全く突破出来る気配のなかった壁を進撃開始からたった一分足らずの間にもう六──。
 いやたった今七つ目になったが──結界を魔刃の一撃の下に蹂躙し完全にその力を破壊していた。
 その証拠にセイバーの進攻後をフラフラとした力無い足取りで追っている綾香に降りかかる害意は何一つありはしない。

「セイバーそこに生えてる短い植木って結界の基点になってるっぽいから伐採しちゃってー」
「おう任せろ!」
 微妙にやる気の感じられない綾香の指示に従ってセイバーは斬り切りと働いた。
 スパーンと真っ二つに切断された植木が宙を舞う。
 本来ならば敵を迎撃し殺傷するはずの防衛システムは半ば強制的に停止させられ沈黙した。
 洋館の玄関目指してぐんぐん進んでいく騎士の白い外套を眺めながら綾香はまいったなーと苦笑いを浮かべていた。
 サーヴァントが超常の存在だというのは知っていたし理解もしていたがこうも性能差を見せ付けられては流石にちょっと落ち込む。
 しかも魔道という本当ならばマスターの方が率先して頑張り結果を出すべきジャンルでこの体たらくなのだ。
「ふぅ。でもやり方は無茶苦茶だけど一応結果はちゃんと出してるのよねえ彼」
 吐き出した溜息と同時に結界がまた一つセイバーの魔術を無効化する片手剣によって挽き裂かれる瞬間を見届けた。
 隠密性は皆無だがセイバーは結界が何重にも張られた堅固な護りを着実に突破している。
 おまけにマスターの綾香が全くの無傷なのも両名の希望通りの展開である。

 こうして激しく荒れ狂っていた白刃の竜巻がようやく治まった。

 セイバーの伐採と破壊行為の果てに間桐邸の庭園に配置されていた幾多の結界・罠・防御システムは文字通り根こそぎ引っこ抜かれ、
 軍艦の大砲による集中砲撃でも受けたのかと見紛うほどに荒れ果てた前庭は外観的にも内観的にも甚大な被害を被っている。
 この庭を元に戻す間桐家の人の労力を想えばそこはかとなく同情を誘うがそんなことはセイバーの知った事ではない。
 完膚なきまでに目茶目茶にされた敷地内の哀れな姿が眼に入ってないのか、セイバーは間桐邸の立派な玄関の前に立つと。
 ふん!っと鼻息荒く分厚い玄関を蹴り開けた。否、開けたと言うより蹴り壊した。
 ダンプカーに激突された貧弱な人間の様に玄関扉は邸内の中へ勢い良く飛び込むと廊下の壁に角をめり込ませて停止した。
 一方後から追いて来た綾香は待てと己のサーヴァントに静止をかけるべく手を前に突き出し口を開けた格好のままで静止していた。
「・・・・・あ~んもう待ってって言おうとした矢先にぃぃぃ」
 だがそんなマスターの悲鳴には一切耳を貸さないてセイバーはすぅううっと大きく息を吸い込み、

「セイバー参上──!!!やいやい英霊の風上にも置けぬ野盗もどき共め!
 此処が貴様たちの隠れ家だというのは先刻承知だ。
 今は亡き我が主、ルゼリウフ・フォン・アインツベルンの命宝たる聖杯の器を奪い返しに参った!!
 アーチャーよ!貴様の首と聖杯の器を賭けて我が刃と決闘するがいいーーー!!!」

 そして間桐邸に一歩踏み入ると同時に邸内全域に聞こえるだけの音量で決闘を申し込んだ。
 決闘しろーーー!!!っ闘しろーー!!闘しろー!!うしろー!しろー!シロー・・・。
 どういうわけか山彦までも響いている気がする。
「・・・・・・・?」
 しかしおかしなことに誰もセイバーの前に姿を現す気配はない。というより人がいる気配すら感じられない。
 妙だ。と思いながらもセイバーはしばらくその場で神経をの糸を伸ばし建物内の様子を窺うことにした。
 洋館の中は非常に薄暗かった。だが真っ昼間にも関わらずこの薄暗さは少々異常ではないだろうか。
 仮に洋館内のカーテンや雨戸類を全て閉め切ればこの位の暗さには出来るかもしれない。
 だがそれにしたって室内灯が全く点いていないというのはどういうことか。
「玄関前で立ち止まったりしてどうかしたの?」
 心配した綾香が足早にセイバーの傍まで寄ってきた。
 彼女はてっきりセイバーは扉を蹴破った後はずかずかと邸内に上がり込むと思っていただけにこの進軍停止は些か意外だった。
「いやそれが・・・人の気配がしないんだ。それどころかサーヴァントの気配も感じない。
 アサシンでもないアーチャーに気配遮断スキルは無い筈だからこんな綺麗に気配を隠せる筈はないのに」
 まったくわけが分からないといった具合に首を傾げるセイバーに綾香は自分が思うところを告げてみた。
「居ないってことは・・・じゃあ、逃げたってこと?」
「なっ!?」
 嘘だ!と両目を見開いてセイバーが驚愕した。
 ああなるほど。相手が敵前逃亡する可能性は考えてなかったわけね。
「おのれアーチャー!そこまで墜ちたか!!」
 逃亡の一言で怒りに火が点いたセイバーは一度は警戒して停めた両脚を再度起動させた。
 日没を終えて間もない夕闇にも似た薄暗がりの中をずかずかと躊躇なく大股で進んでいく。
 セイバーは超人ならではの高視力のおかげかは知らないがこの前方もまともに判らない薄闇をものともしない。
 おまけに広大で迷路のように廊下が入り組んでいる間桐邸内の歩き辛さも屁のかっぱといったところか。
 綾香の方も今ではすっかりセイバーの後をすいすいとついて行く。
 最初の内は敵の工房内で無闇に魔術を行使するのは控えていたが壁に顔を三度ほどぶつけた時点で暗視の魔術を使おうと決めた。
 だってこのままでは眼鏡が割れるか曲がってしまう。流石に敵陣でそんなトラブルは困る。

 間桐邸内の防衛設備のレベルは本丸なだけはあってか庭園内のソレとは次元が違った。
 索敵用の仕掛けは当たり前。防性結界や攻性結界なんて序の口。
 普通ならばまともに喰らえば即死するレベルの攻撃魔術が大盤振舞でガンガン飛んでくるし、
 また幻惑魔術の効果のせいで突如怪物がそのエリアに何の脈絡も無く出現したりもした。
 さらには外敵を排除する為か実体のあるマキリの使い魔らしき異形のモンスターすらもわらわらと沸いて出て来ている。

「きゃっ!!?な、なによこいつら!いっぱいなんか出たっ!?今度もまたまた化け物の幻!?」
「う、うおおおおお!!?ば、馬鹿な!チ○ポコだ!?歯が生えたチ○ポコが天井から降ってきたああ!
 しかも多っ!おまけにぬたぬたしててピチピチビクビクと動いてて余計に気持ち悪っ!!寄るなっ来んなシッシッ!」
「チン・・・お下品ナイトはちょっと黙ってくれないかしら!?
 でもあの変なのからは魔力も感じるし幻には・・・あいやでもそういう魔術だったら・・・」
「しっかしこんな気色悪いモノ、オレが生きてた時代でさえお目にかかった事がないぞ・・・どれどれ?」
「こ、こらぁ!まだ検証中でしょが!無闇やたらに触るもんじゃ───」
「うぁうわっ!!?アヤカぁぁ~こいつ盾で押したら蝶々の幼虫みたいに柔らかいぞ!うりうりっぷにぷにオモシレー!」
「止めなさいコラ!噛み付かれたりするわよ!」
「大丈夫だっ・・・ぎいゃああ!強く押したら今『ぷぎにゅぅ』とか啼いたぁあ!やっぱり見た目通り気持ち悪かったぁああ!!」
「コノッ!潰れてしまえコイツめ!・・・・・・ん?うわあああああ今度は謎の汁がデタァアアア!!」
「ゆ、床が溶けてる・・・ねえその汁って強力な酸なんじゃないの!??」
「おのれぇなんて恐ろしい所なんだアーチャーのマスターの工房・・・!!ある意味キャスターの工房よりもずっと恐ろしい・・・」
「ねえちょっとは人の話を聞きなさいよ。今何気に大事なことを喋ってるんだからさ。
 大体騒いでる割には案外余裕じゃない・・・っていぎゃあああああああああ一斉にこっちきたあああああああああ!!!
 来るなーーーーーー!!こっち来るなーーー!ギャーギャー!!」
「ぬうおおお!下劣な成り形をしておきながらオレのマスターに触んなボケーーーーお前ら全員纏めて地獄へいけーーーー!!!!」

 ・・・・・どごーん。


 難所はまだまだ存在した。
 一部が異空間化されているせいでそれ以上は絶対に進めない通路。
 室内を出たと思ったらいつの間にかまた室内に入っている、なんていう同じ場所をぐるぐるとループさせる出入り扉。
 侵入した魔術師を弱体化させる罠もたんまり仕掛けてあったし。対霊対策もきちんと取ってあった。
 流石は始まりの御三家の一角。魔道の名門マキリの牙城だ。名に恥じぬ凄まじい防衛力と殺傷力だった。
 しかし。

 セイバーと綾香のマキリの工房攻略は順調に進んでいた。

「ふぃ~大分ぶっ壊せたな!」
 そうして一息だけ大きくつくとまたセイバーは前進を再開した。
 外敵を圧殺しようと自動発動する魔術。廊下の一部の空間が歪曲し騎士の体を握り潰しにかかる。
 後ろ手に片手剣の概念武装を薙いで己に牙を剥く不届きな魔術を破壊する。
 禍々しい巨大な斬撃痕を廊下の壁に残して防衛網が沈黙した。
 さらにその隙を突くようにして飛来したナイフや刃物は持参した左手の盾で全て受け止めた。
 綾香も黙々とその後をついて歩く。
「なんていうかもうここまできちゃうとお気の毒さまとしか言い様がないわね」
 ふと凄惨たる有様の邸内を見渡しながらこれを後始末しなきゃならない間桐の人間に少し同情した。

 彼らがこの洋館内に足を踏み入れてからずっとこの調子なのである。

 かつて中世ヨーロッパ最強の帝国となったフランク王国。
 その強国を支える無数の強者達が蠢く中で騎士の精鋭たる誉れ高きパラディンに拝命され、
 ついには最強の騎士の栄光まで手にしたのがこの十二聖騎士筆頭のローランなのだ。
 そんな超人の中の超人を敵に回して食い止められるような要塞をヒトの手で造るのはあまりに不可能だった。
 こうして魔道の名門マキリ一族ご自慢の魔術工房は──たった一人の聖堂騎士によっていとも容易く陥落させられかけていた。
 攻性結界や防性結界は歯牙にもかけず一蹴。幻惑も威圧も防壁も全く意味が無く。
 即死級の攻撃魔術と言ってもそれはあくまで魔術師主観のモノであり、一流の対魔力で武装したセイバーには一切通用せず。
 侵入者を齧り殺すべくわらわらと湧き出た魔蟲たちは彼らに接近した順に眼にも留まらぬ剣速で哀れにもなます切り。
 異界化して先に進めない廊下は仕掛けの施された区画ごと吹き飛ばされ崩壊。
 ループしてしまう出入り扉は扉ごと、と言うよりももはや邪魔な壁一面をくり貫いて室外に脱出した。
 基本的にセイバーは行き止まると道が無ければ壊して作る。を実演して見せた。
 魔術師を弱体化させるトラップは・・・奴が弱体化なぞするとお思いだろうか?
 無論マスターである綾香の方は結界の影響をまともに受けてものの見事に弱体化した。
 その弱りっぷりといったらそれはもう陸に打ち上げられてしまい酸素を吸収できずにいる魚といった具合である。
 だが結局はつまらぬ小細工のおかげで余計猛獣を元気にしてしまい工房の破壊活動に精を出す最悪の結果となってしまった。
 対霊攻撃にはさしものセイバーも直感に従い若干警戒したが、所詮警戒止まり。
 これほどの実力者に警戒された時点で勝ち目は既に潰えている。結果は当然のように瞬殺でした。
 セイバー無傷。綾香無傷。だがマキリ一派が長年費やして建設した工房の防備は大破。
 あまりに無情な結果に同情したくもなるがセイバー達だって当初の目的を果たせた訳ではないのだ。
 なぜならば。

 ────目的のモノが見付からないからだ。

 見付からない。みつからない。まだ見つからない。
 いくら部屋中の扉を開けて調べても、だだっ広い洋館内を隈なく探しても、目的の者と物を未だに見つけることが出来ないでいる。
 綾香は焦燥感をなんとかして抑え込みながら現状の異常さを洩らした。
「これはいくらなんでもおかしいわ・・・おかし過ぎる」
「本気で誰も居ないな。魔物の這う気配は時々するけど人間とサーヴァントの気配は全然無い」
 二人が間桐邸内に乗り込んで既に40分以上が経過しているのに未だに誰とも遭遇しない。
 住人の気配がない家屋。夕闇よりもさらに薄暗い廊下。生活感だけは残っている室内。
 どこからともなく水の腐ったような饐えた腐臭が微かに辺りに漂っている。
 これではまるで三流小説の住人が忽然と姿を消した幽霊屋敷そのものではないか。
 魔術師の工房なぞ総じて魔窟と呼べる不気味な処だがここまでくると不気味を通り越して疑惑が生まれる。
 おかしいのはそれだけではない。
 彼女たちは『地下』にまで踏み込んだのだ。魔術師にとってこれが意味するところは非常に大きい。

 邸侵入から暫く経っての事であるが、いくらなんでもセイバーだけに仕事を任せっきりにするのも忍びなかったので、
 自分なりにも何か出来ることは無いかと綾香は持参した魔術品を色々と使い分けて建物内を調べてみた。
 するとその甲斐あってセイバーのやり方では恐らく発見出来なかったであろう地下への入り口を偶然ではあるが発見出来た。
 地下への入り口からはまさしく魔洞への穴と呼ぶに相応しいだけの禍々しい妖気と狂気を漂わせていた。
 セイバーを先頭に二人は地下へと侵入。足元と周囲に気を張りながらさらなる階下へとゆっくり降って行った。
 途中綾香は臭いと嫌悪感で吐き気を催し勢い余って胃液を逆流しそうになったが必死に押し止めていた。
 強烈な腐臭とナニモノかが蠢く気色悪い気配が周囲だけでなく足元にも頭上にもある。
 二人は臆さずにさらなる階下へと足を進めた。
 ビンゴ。恐らくアーチャーたちはこの闇よりもさらに冷たい暗い地下で自分たちを待ち構えているのだろうと二人は思った。
 ・・・・・しかし、敵はここにさえいなかったのだ。
 無数に空いたどこかの闇穴に隠れているのかとも勘繰ったがセイバーがサーヴァントの気配を察知できない以上それは考え難い。
 綾香の令呪の反応も皆無だ。マスターが近くに存在すれば今までと同じく令呪が痛むなどして反応があるはずなのにそれが無い。
 気配からも判るがこの地下は明らかに間桐一族の工房の心臓部と言ってもいい重要な場所の筈だ。
 此処の堅牢さと魔道的な価値を鑑みれば前庭や邸内の護りなぞ比べるに値しない。
 この地下こそは間桐の魔術師が最強で在れる最適の戦場なのだ。にも関わらず居ないとはどういうことなのか?
 釈然としない面持ちのまま二人はその後も捜索を続けた。
 内心無駄と判りつつも陽動の意味も込め、多少の危険を承知で洋館内に留まり続けた。

 それからさらに時間が経過し────現在。

「やっぱりいくらなんでも変よこれ」
 完全に静まり返った廊下の真ん中に佇み綾香は再度同じ台詞を呟いた。
 いくらなんでも自分たちに対してリアクションが無さ過ぎる。
 魔術師が工房最深部まで無許可の人間の侵入を許すなんて考えられない。
 どこか別の、そう例えば屋外に居たとしても自分の工房内で起きてる異常に気付かない魔術師なんてまずいない。
 仮にそんな愚鈍な魔術師が存在したとしても、その程度の腕前ではそもそも工房の建設なんかできっこない。
 これだけ多くの秘術と技巧を凝らした鉄壁要塞を建造出来る腕前ならソイツはまず間違いなく魔術師として一級の筈なのだ。
 そんな一級ものの魔術師が敵をこの工房の最奥たる地下にまで大した抵抗もなく侵入を許したばかりか、
 挙句に地下から出た後ものうのうと居座っている不届き者に対して何も仕掛けてこない理由がどうしても思い浮かばない。
 敵に工房に侵入を許せば自分たちの研究や秘儀の結晶が盗み出される危険性だってある。
 魔術工房というのは敵を侵入させない為のモノではない。侵入した敵を絶対に外に出さないためのモノだ。
 ならば外に出ようとした時に攻撃を仕掛けてくる?いやその可能性もほぼ無いだろう。
 地下から上がった後ももう一度玄関付近も調べた。外の様子まで窺った。だが何も起こらなかった。
「もう雷撃とか爆発とか魔力の紐みたいなもんで体を縛ろうとする罠とかも品切れみたいだ。意外に呆気なかったぜ」
「それはセイバーがやり過ぎなだけ」
 キョロキョロと周囲を見渡して物足りなさそうに言うセイバーに綾香が呆れた風に返す。
 そうかな?ちゃんと加減したぞ?などととんちき発言する男に少女は再度突っ込むのを止めた。
 セイバーの大暴れによって今や間桐邸に設置してあった結界や防御網はほぼ全壊。
 もはや二人に危害を加えようとするものは何一つ残ってない状態と言ってもいい。
「おかしいと言えばもう一つあるわ。わたしたちに攻撃してきたのってトラップや結界の類しかなかった」
「それのどこがいけないんだ?」
「だって罠にしたって自動で発動させるよりも相手の動きを監察して手動で動かした方が成功率は高いじゃない。
 状況に応じて他の罠や結界と連携も取れるんだし。でもそういうのが一切なかった・・・・と思う」
 魔道の造詣にそれほど深くないローランでは気付く術も無いことではあったが、
 仮にも魔道の指南を受けている沙条綾香の見立てでは工房の主が手動で発動させた気配のある魔術は一つもなかった。
 そして奇しくもその予測は正解であると言っていい。
 二人に牙を剥いたのは元々その地点に仕込んだ仕掛けの発動条件が揃った為勝手に可動したある種のオート迎撃によるものばかりだ。
「へぇそうなのか。じゃあ何で手動でオレ達を攻撃しなかったんだろ?もしかしてオレに恐れをなしたとか?
 フフフまあそれも仕方の無いことだぜ。オレが相手なんじゃあ仕方ないなうんうん!」
「それも可能性としてはゼロじゃないだろうけどちょっと考え難いわね。
 あれだけのとんでもない宝具を持ってる奴がそうそう物怖じするとも思えないわ」
 前にアーチャーの古城を間近で観たランサーがあの城を正攻法で陥落させたいなら対城宝具が欲しいと洩らしていた。
 つまりそれだけの攻撃規模を保有するサーヴァントでもない限りアーチャーが尻尾を巻いて逃げる可能性は低い。
「確かにアレは攻撃力も尋常じゃないがそれ以上に護りが莫迦みたいに堅かった。
 下手な勝負をするよりも一発でふっ飛ばした方が良いと考えたランサーの戦術眼は正しい、うむ流石のランサーだな!」

 セイバーの言葉を聞き流しながら綾香はもう一度魔術工房の持つ特徴や特性をよく思い返してみた。
 通常の魔術工房なら工房内の監視や迎撃システムの遠隔操作ぐらいは出来る。
 なのに出来るものを何故かしなかった。
「しっかし変な奴だよなあアーチャーのマスターって。出来るのにしないなんて何考えてんだか。
 とりあえずやるだけやったらもしかしたらラッキーパンチも当たるかもしれないのにさ。まっオレには当たらないけどなーっ!」
「出来るのにしない?・・・・・・いやちょっと待った」
 否、それがそもそもの勘違いではないのか?しなかったのではなく何らかの理由で出来なかったと仮定すれば・・・。
 その瞬間、脳裏に稲妻のように一つの可能性が急浮上した。
「もしかして間桐のマスターが人事不祥に陥ってる?」
 自分でもそうタイミング良く人事不祥など起きるのかと疑心暗鬼気味だがこれまでの状況を考えると一番可能性が高そうではないか?
「あのちゅる毛の身になんかあったってことか?」
「ちゅる毛ってあんた・・・まあいいわ。
 とにかくあの二人の身に何かが起きて工房の侵入者の事に意識を割く余裕が無い状態に陥ってるとすれば全部説明は付くわ」
「でも誰が何を何のためにそんなことするんだ?」
「寝惚けないでよセイバー、そんなの他のサーヴァントとマスター以外に考えられないじゃない!
 現にわたしたちがここに乗り込んできてるんだから他の連中が似た様な真似をしてもおかしくない。
 今は聖杯戦争中でしかもあの二人はアインツベルンから奪った聖杯の器を持ってたんでしょう?
 聖杯の器って位だから聖杯降霊に必要なキーアイテムだと思うけどそんな重要アイテムを所持してれば襲われる可能性も低くはない」
 一気に捲し立てる少女の言葉の意味するところを察し騎士の顔に焦燥の色がありありと浮かんでいく。
「────ッ!!?つまりオレ達は・・・」
「どこの誰だかは知らないけどもしかすると先を越された可能性があるわ。
 だから此処には何も無いんじゃないの?住人らしい人間も居ないし、侵入者に対する反応も無いし、聖杯の器も無い!」
 この工房でなにも見つからないのはそのせいではないのか。
 自分達はとうに終わった場所に間抜けにも遅れて乗り込んで来ては無い無いとある筈の無いものを探していただけではないか。
 言わば彼女たちはとっくに魔王が倒されていた魔王城で無駄な時間と体力を労費しただけではないのか。
 そんな焦りが胸を渦巻きやるせない口惜しさがじわじわと押し寄せる。
「チクショウやられた!おいアヤカ、直ぐにアーチャーたちの手掛かりを探すぞ!」
「うん!」
 そして次の瞬間、二人は屈辱感に後押しされるままに玄関へと駆け出そうとした。
 視えない陰で妖怪が嘲笑う。
 このとき彼らは。

 ─────マキリ一族真の支配者たる間桐臓碩の悪辣さを心底見誤っていたと断言していいだろう。

 セイバーにしても綾香にしても彼らは揃って根本的な勘違いをしていた。
 間桐邸の工房を建造したのはアーチャーのマスターである間桐燕二などではなく間桐臓碩その人であり。
 しかも彼は前回の聖杯戦争の全容をその眼で直接観てきた怪人だ。
 彼の持つその半世紀前の記憶は聖杯戦争を戦う上で非常に貴重で価値のある情報となる。
 この記憶によって臓碩はサーヴァントという存在の力も恐ろしさも重々承知していたし、
 逆にサーヴァントに対して何が有効で何が無効なのかも今回の聖杯戦争に参戦する誰よりも深く心得ていた。
 そのためサーヴァント、特に三騎士クラスのサーヴァントにとって。

 己の工房の力が効果的では無い事なぞ───端っから判り切っていたのだ。

 故に臓碩はサーヴァントが間桐邸に侵攻してきた場合、洋館内全ての防備を捨て駒にすると決めていた。
 最初からまともに通用しないモノならより効果のある有効な一手を指すための布石として利用する。
 敢えてこちらからは何の手も出さない事で相手の疑念を抱かせ心理的に揺さぶりをかけたのも。
 工房全ての防護システムを惜しみなく囮として全滅させる事でもう危険は無いと油断を誘ったのも。
 これだけの莫大な犠牲すらも。
 この老獪な魔術師にはとっておきの隠し玉を必殺の好機まで忍ばせておくための隠れ蓑に過ぎなかった。
 そう全てはこの為だけの布石!

 それがこの刹那、一瞬の隙を見出し歓喜の咆哮を上げた──!

 玄関へと反転を開始した綾香の体と少女の姿を視界に収めるばかりで己の背後には全く無警戒なセイバーの身体。
 白い騎士も眼鏡の小娘も完全に臓碩の策略に嵌まっていた。
 自分たちに害を与えるモノは既に無いと思い込み、さらには偽装された解を真実だと勘違いしたまま慌てて外に向おうとしている小童。
 死に至らしめるだけの致死性を持った凶刃が己の命を狙っているとは夢想だにもせず無防備な背中を晒している。
 その時、後方へと反転している途中で綾香は視界の端に今まで存在しなかった異物を捉えた。
 凝っとして眼を見開き確認すると間違いなくさっきまで何も存在しなかった場所に一本の古びた槍が突如として出現していた。
 しかも自分達にその鋭い穂先は狙いを定めている。
 脅威と戦慄でその表情が凍る。いや違う。狙いは自分ではない。
 槍に対して完全に無防備な背を晒している騎士を狙っているのだと瞬時に直感した。
 危ないと叫ぼうとした。

 だが少女が危険を告げるよりも早く無情にも死神の鎌は振り下ろされた───!!

 サーヴァントを刺殺せんと鎗が剛速で発射される。
 だがよくよく考えれば本質が霊体であるサーヴァント相手に物理的な攻撃手段では傷一つも負わせられない。
 仮に強化や変化などの魔術的な措置で神秘を付加したところで攻撃力など高が知れている。
 非常に高い能力値を誇るセイバーのサーヴァントに通じる道理のない一撃。
 邸内の敵意が完全に沈黙したせいかセイバーは未だに退屈した表情のまま己の身に降りかかろうとしている死神の鎌に気付いていない。

 闇中でほくそ笑む蟲の影。
 少女の洞察は甘過ぎた。

 ただの槍───?

 まさかそんな手緩い処刑道具を用意してくれるほどマキリの魔翁は慈悲深くは無い。
 この古槍こそはかつて周辺国から剣も盾も鎧も斬れる魔法の武器とまで恐れられたヒッタイト製の鉄器武具。
 発掘してから今まで特にこれと言った使い道も見出せずマキリ一族の蔵の肥やしとなっていたものだが、
 対サーヴァント戦の武器としての有効性に気付いた臓碩が蔵より引っ張り出してきた無二の切り札。
 特にこれといった名刀なわけでも業物なわけでも特別な技法で製造されたわけでもない量産品。
 おまけに大した名も無い一介の戦士が愛用していた銘もない鉄槍に過ぎない。
 だが。この古代槍がこの世に生み出されてからこれまでの蓄えられてきた年月を鑑みれば、
 もはや一種の魔術兵装として十分に通用するだけの力を備えた虎の子たる魔槍となる。
 多くの年月を蓄えたこの古槍の神秘の力ならば超常の存在の守りであろうとも突破し打倒するのも満更不可能ではない。

 これぞ間桐臓碩が此度の戦争で工房へと侵入したサーヴァントとマスターを仕留める本命の罠として用意した必殺の魔牙。
 あらゆる犠牲を払った果てに発動させる最凶にして最悪の一手!

 術中に陥っているセイバーに避ける手立てなど存在しない。
 騎士の無警戒な頚椎目掛けて古槍が飛翔し。
 そして・・・最後の最期まで己の身に迫る危機に気付く事無く。

 声なき声で敗北に絶叫する少女。
 声なき声で勝利に哄笑する老翁。


 ────そして無情にも古代の鉄槍は真直ぐにその首に喰らい付いた────。


 槍は完全に騎士の首にクリーンヒットする。
 目の前で起きる血と肉が飛び散る決定的瞬間から思わず眼を背ける綾香。
 首と心臓はサーヴァントがこの世に現界するために必要不可欠なものだ。
 ここを破壊されれば超回復や蘇生宝具などの強大な神秘で護られでもしない限り彼らは現界を保つことは出来ない。
 そんな急所とも言える箇所を無防備な状態で攻撃された。
 いくらセイバーでもこれは死ぬ。助からない。
 彼女も彼女で瀕死の者を一瞬で回復させる奇跡を持ち合わせていない。
 セイバーが消える・・・。
 ランサーと同じ様に消えてしまう。
 それは一度自身のの無力さと相棒との離別の苦味を味わわされていた少女が直視するにはあまりに苦し過ぎる追体験だった。

 しかしこの局面で誰よりもその結果に驚愕し愕然としたのは間桐臓碩その人であった。

 想定外などという言葉ですら生温い。
 それは絶対に存在してはならない結末だった。

 騎士の後ろ首を貫通する筈の鉄槍が、深々と突き立つ筈の古槍が。

 ────派手な音を撒き散らして木っ端微塵に四散した。

 綾香も臓碩も眼前での出来事をにわかには信じられなかった。
 知らぬ間に敵に幻術にでもかけられたんじゃないだろうか?
 そんな有り得ない結末を見ることになるなど、そうとでも考えた方がまだ建設的な思考ではないか?
 そう錯覚してしまうほどに目の前の結果は彼らが想像した結末の正反対のベクトルにあるものだった。
 二人の魔術師はただひたすら訳が分からないと混乱するより他になかった。
 確実に殺されるはずだった敵が生きている。絶対に死ぬはずだった味方が生きている。

「・・・・・・んぁ?」
 呆然とする二人を余所に当の本人は彼らの心情なぞ露知らず間抜けな声を出して呑気に後ろ首をポリポリと掻いている。
「なんだ今のでっかい音?」
 キョロキョロと音の正体を探すセイバーはまるで損傷を受けた形跡が無い。
 流血どころか打撲や掠り傷一つすら見当たらない。
 鋭い穂先もそうだが速度によって発生した衝撃だけでも相当のものだったろう。
 にも拘らず完全に五体満足の様子である。まさに不死身とか無敵としか形容のしようがない。
 そこでふと少女は思い出だした。

 そう言えばローランという英雄は伝説において不死身で無敵の肉体を持つ騎士ではなかったかと───。



 結論から言えばだが、別段彼は特殊な肉体構造をしていたわけではない。
 キッパリと断言してもいい。彼の体はちゃんと人類のソレと同じ構成で造られている。
 筋肉や皮膚細胞が鉄で出来てなどいないし、硬い鱗で覆われているわけでもない、呪いを受けてもいない。
 仮に普遍的人類の体との差異をあえて挙げるならば聖堂騎士というだけはあって全身がみっちり鍛え抜かれているという程度だ。

 しかしにも拘らず彼の体は鋼の肉体と比喩され、傷付く事のない不死身の聖騎士と称された。

 それがローランの纏う何者にも侵されない聖性の鎧。
 不死身の肉体と呼ばれたモノの正体。天上者の御加護。


 スピリットアーマー・ロラン
 ───『聖なる天鎧』───。


 天からの祝福によって与えられたその聖なる絶対防護の護りはローランに降りかかる不浄な凶刃や凶弾または魔術や凶運や災厄など、
 ありとあらゆる脅威を物理的、概念的に相殺させシャットアウトするか、あるいは偶然や幸運という形を以って回避させる力を持つ。
 加護を与えた天上者の意思なのか、あるいは正々堂々を信条とする騎士道の体現者故なのか、
 とにかくこの天鎧の特徴は尋常な真っ向勝負による戦いを強要する為に存在するような宝具で、
 この奇跡は特にローランの防衛意識の外から降りかかる脅威に対して絶大な効果を発揮する。
 つまり彼が無防備状態であればあるほどに聖鎧の堅固さは絶対となり、逆に警戒すればするほどに護りの堅固さは失われるのである。
 加護によって護られていない箇所は天上の世界とは違い、不浄にまみれてしまった地上と絶えず密接する足の裏のみ。
 それ以外の箇所は全身隈なく『聖なる天鎧』の力によって覆われている。

 そのため聖騎士は生前このように畏怖され称えられた。

 ”ローランを暗殺で斃す事は叶わず、不意打ちで討ち取る事も叶わず、偶然を以って害する事も叶わず、呪殺する事も叶わない。
 決闘を以って正々堂々と真っ向より打ち斃す以外他になし、されど決闘によってローランを倒す事不可能なり。”

 大勢の敵味方の騎士達が入り乱れ、剣が槍が矢が嵐のように飛び交う乱戦の中にあっても全く傷つく事無く。
 名のある武人を相手にした決闘の中でも全く傷付く事が無く。
 背後からの突然の凶刃に晒されようともそれでもなお傷を負う事が無い。
 そんな聖堂騎士の絶対的な勇姿に、かの勇者はまさに天すらをも味方に付けている選ばれた英雄だとすら謳われた。
 だがそれは決して間違いでも誇張でもない。
 あらゆる局面で危機に晒されながらもなお傷付かず、死にさえ到らない彼は己の実力と幸運のみに護られていたわけではない。

 ローランは真実────天意によって護られているのだ。




 古槍が爆散して残骸が床に墜落し耳障りな騒音を掻き鳴らす。
 そうして数秒後には周囲に残っていた騒音の残滓も消え失せた。
 残ったのは形状も用途も完膚なきまでに破壊されもはや用済みとなった鉄屑が一つあるのみ。
 あまりに一瞬の出来事で何が起きたのか解析する余裕すらなかったが、
 どうやらまだ引っ掛かっていなかったトラップに足を引っ掛けてしまったらしい。
 元の人の気配がない沈黙の洋館に戻った廊下からは追撃の気配は微塵も感じられない。
 どうやらとりあえずは大丈夫と言っていいみたいだ。
 それが分かった途端に綾香は安堵でどっと肩の力が抜けた。
「・・・・・・ハアァァァ本っっ気でびっくりした。
 まったくもう・・・そういう防御宝具があるんならあるって予め言っておいてよねッ!
 こっちは心配と驚きで心臓止まるかと思ったじゃないのよ分かってんのセイバー!!」
 騎士の鼻っ面にビシッと人差し指を突きつけて文句を言ってやる。
 寿命が縮む想いとはまさにこういう事を指すのだと心底実感した。
「へ?なんのことだ?」
 だがぷりぷりと怒りながら文句を言う少女に男は頭の上にいつまでも?マークを付けたまま訳がわからんと聞き返した。
「だからセイバーが持ってる防御の宝具のことよ!」
「ハァ?なにを言ってるんだアヤカ?オレはそんな宝具持ってないぞ?」
 気のない返事と一緒に騎士の頭上の?マークの数が増えた。
 そんな青年の様子に少女の頭上にも?マークがつく。
 お互いとぼけているようには見えないので余計に?な状況になっている。
「は?セイバーこそ何言ってるのよ?たった今槍の攻撃を防御した上に木端微塵にしたじゃない。残骸だってあるわよほら」
 セイバーは指差された残骸を見下ろしながらそれでも、
「へ??オレが?」
 と目を丸くしている。
「え??」
 そしてとうとうお互いに目を丸くして意味不明だとばがりにじっと顔を見合わせた。
 そこで仕方なく綾香は見合わせたついでに目の前にいるサーヴァントの能力を透視してみる。
 マスターにはいつでも相方の能力が確認できる力が与えられているのだからこういう時こそ有効に使わなければ勿体無い。
 確認終了。やはり間違いなく『聖なる天鎧』はローランの宝具能力として存在している。
「あのさ、セイバーってさ、生前は不死身だったり無敵だったりしたわよね?」
「んん~まあ一応周りからはそういう風に言われてはいたけど・・・それはきっとオレがキリストの騎士だからじゃないか?
 キリストの教えを守り広めるオレたちの働きを見ている神様が護ってくれてるのさきっと」
 などとなんとも微妙な事を言っているが、とてもセイバーは嘘を言ったり誤魔化したりしている風には見えない。
 本気で自分が神の御加護に護られてるから程度にしか思ってないようである。

 ”まさかとは思うけど、もしかしてセイバーのヤツ自分の宝具の存在に気づいてないの?”

「・・・・・・。じゃあもう一つ訊きたいんだけど伝説では足の裏が無敵じゃないのは?」
「う~ん・・・それは多分足の裏が不浄な時があるからじゃないか?う○こ踏んだりし──てブギッ?!」
 グシッ!という小気味良い快音と共に騎士の言葉は強制的に中断させられた。
 そして鼻血こそ出てないがまるで世にも怪奇な怪人ゴリラ女との遭遇を果たした探検隊員のような戦慄した顔付きで言葉を絞り出す。
「じょ、女子がいきなり男子に拳骨とは・・・な、なにを考えてるんだアヤカ乱心したか!!?
 騎士に手を上げるなんて下手すると処刑されても文句は言えないような暴挙だぞキミ気は確かか?!」
「そういうアンタの気が確かか!大体それいつの時代を基準にした話よ!?
 っていうかそういうアンタこそいきなりその女子の前でう──の話をしだすとか何考えてんのよ!?
 しかも微妙に正解とも言えなくもないあたりがさらに腹立たしいさを無駄に増幅させるわこのアホッッ!」
 だが乙女心を全く解さぬまま鈍感男は何が気に食わなかったのかと口をアヒルにしてただブーブーと不満を垂れた。
「なんだよーだって本当のことだぞー?不浄なところは神様も天使も加護を与えてくれないんだぞー。
 教会や聖堂を清潔に保つのだって出来るだけ穢れを付けないためだしさー。
 大司教だって言ってたんだぞ?糞尿は悪魔の王の一角たる地獄の蝿王の地上卵で限りなく不浄なものだって。
 その証拠にオレが軍用犬の散歩中ついでに大司教の家まで遊びに行った時の話なんだけどな?
 その犬が大司教のお気に入りの花壇で○んこしてさぁ、そしたら大司教が悪鬼の如く激怒した、犬相手に。
 流石のオレも大司教のあまりの怒り狂いっぷりにちょっとビビっちゃったよ。
 大司教ったら聖剣アルマースまで抜刀してさ軍犬を追い掛け回すんだぜ?
 あれはきっとテュルパン大司教の神の使者として魔王ベルゼブブを憎む怒りの念の表れだなウンウン。
 アァ怖いなんて恐ろしいんだ。
 フランク軍で最も怒らせてはいけない人№1のテュルパン大司教を怒り狂わせるなんてうん○マジ怖ぇ・・・流石は蝿王の地上卵!
 でももしそんな地獄の魔王が孵化して地上に出てきたとしてもオレが神様に代わって斬り捨ててやるぜ!なっアヤカ?」
「やゴメン同意を求めないでくれる?蝿退治なんて一人でやって頂戴わたしはイヤよ。
 それにわたしからしてみればベルゼブブよりアンタたちのフランク人の頭の中身の方がよっぽど怖いわよ・・・」



「さてこれからどうしよう?」
 とりあえずあれ以上間桐邸に残っていても時間の浪費にしかならない為ひとまず敷地内から外へ出た。
 勢いで乗り込んできたとはいえ一番の当てが外れていきなり手詰まり状態になってしまったのが痛い。
 あの工房内の防備態勢の緩さから考えて拠点をここから別の場所に移している可能性だってなくない。
 発想が柔軟なマスターなら選択肢としては有り得る話ではないだろうか?
 土着のマスターだからと言って自宅を拠点にしなければいけないルールなどどこにも無いのだから。
「この洋館にアーチャーとそのマスターが戻ってくる可能性も0じゃないでしょうけど、もし戻って来なかったら手痛いロスタイムだし」
「時間を無駄にするのは嫌だな。その間に他の連中がまた悪事を企むかもしれん」
 聖杯戦争において時間は金塊よりもなお勝る価値がある。
 そんな価値の高いものを指令塔役として無意味に浪費するわけにはいかない。
 綾香がうんうん頭を捻ってどうしようかと悩んでいると、
「う~ん居ないものはしょうがねえな。ヨシ、ここは一つ天使にアーチャー達の居場所を聞いてみるのが一番だな!」
 とセイバーが一筋の光明が差すような嬉しい事を言ってくれた。
 途端少女の表情がパァっと白色電灯よりも明るく光り輝く。
「え!?セイバー敵の居場所がわかるの?
 なによもうそれならそうと最初っから言ってくれればよかったのにぃ」
「オウ!オレに任せろ!」
 そうしてセイバーは頼もしく返事をすると淀みない動作で腰に吊るした鞘から聖剣を抜く。
 それから切っ先が地面に突き刺さらないように注意して刀身を立たせ、
「天使よ天使。悪の使者であるアーチャーとそのマスターの居場所はどーこだー?」
 ───ゆっくりと剣に添えた手を離した。
 パタリ。
 重力に吸い込まれて倒れたデュランダルの柄は南の方向、つまり未開の山中の方角を指していた。
 そうやって愛剣が指し示した方角を鋭い眼光で見通し、
「むむ御告げが下った。やつらはあっちの方向だぜ!」
 指差しながら自信満々に断言した。
「・・・オイ」
 対照的に少女の白色電灯よりも明るかった笑顔はみるみるドブ川よりも濁ったものへと変貌してゆく。
 ちょっとでも期待した自分がとんでもなく恥ずかしくなった。
 よくよく考えればセイバークラスのローランにそんな遠距離からの索敵なんてキャスターじみた真似が出来る訳がない。
 しかしそれでもこれはどうなんだ?こんなもん靴天気占いと同レベルではないか。
 と綾香が暗雲たる気持ちで脱力感に打ちひしがれていると。
 極上の無礼者がレディに対して極上の無礼を働いてくれた。
「ん?どうしたアヤカ?まるでベルゼブブの地上卵みたいな変な顔し───てぶぉん!!」
 騎士はマスターの攻撃によって再び強制閉口した。
「花も恥じらう乙女の顔に向かってぇ・・・言うこと欠いてそれかあ!!?」
 だが今度は拳骨ではない。ローランの顔面には日本人が大好きな白い粒々の塊が満遍なく張り付いていた。
「・・・マスター・・・コレ・・・ナニ?」
「日本の魂、おにぎりよ」
「な、なんでこんなものが?」
 握り飯の存在は一応知識としては知っている。
 しかし何故そのおにぎりがこんな所にあってしかも己の顔に張り付いているのかがセイバーには理解できなかった。
「食べる機会があるかはわからなかったけど一応お昼ご飯にと思って作ってきたの。
 でもわたしお腹減ってないし折角作ってきたからセイバーにあげるね?」
 理解不能な状況に困惑するセイバーに綾香は背筋が薄ら寒くなるようなニコニコ笑顔と甘えた猫撫で声で応えた。
「アヤカ・・・いくらなんでもこれは酷いと思うぞ?
 男子に対するこの乱心っぷりも酷いがさらに言えば食べ物を粗末にするのも感心しない。
 特に戦場での食糧の有無は戦の勝敗さえも左右しかねない大事な要素なんだぞ?
 オレも昔こんな経験がある、食べ物の恨みは怖いと実感させられる恐ろしい記憶だ。
 昔戦場で頑張り過ぎたせいであまりに腹が減ったから腹一杯メシを食ったらつい食い過ぎてしまい他の者の分の食糧も空にした。
 するとどうだ!?パラディンや他の騎士達が鬼の様に怒り狂いオリヴィエと大司教には逆さ吊りにされた上にこっ酷く叱られた!
 それほどまでに戦場での食糧は大事なものなんだ。わかったか?いやモグしかしムグムグ、味は悪くないモムモム」
 顔面を白米だらけにしたローランが悲劇っぽいジェスチャーと共に口をモグモグしながら抗議らしき事を言っている。
 があまりに間抜けな格好のためあまり説得力はない。
「どう考えても今のもソレもアンタが悪いでしょが。それに無駄にしたんじゃないわ。
 これは工房攻略で不必要に奮闘してくれた騎士様に対するご褒美よ。
 わたしがお昼用にと作って持参したおにぎりを特別サービスでセイバーにも食べさせてあげただけ。美味しいでしょ?」
「それなりに美味いけど口にぶち込む前にまず食べるかどうかを先に聞いて欲しかったな、オレとしては」
「それじゃ訊くけどオニギリを顔にブチ撒けられるのと令呪の強制謝罪切腹でハラワタをブチ撒けられるのとどっちがよかった?」
「もちろんオニギリだ」
 即答だった。
「結構。あーあ~にしてもそれじゃまた振り出しかぁ。あいつらが行きそうな場所なんて知らないしどうしよう」
「ん?何を言ってるんだ?だから奴らはあっちの方角だってば、ほらさっさと行くぞ!」
 するとセイバーは綾香をひょいっと小脇に抱えるとズドドドと砂埃を巻き上げて馬の元へと向かった。
「ハァ!?ちょ、ちょっとまさかアンタあんな方法で行き先決めるの?!いないから、絶対いないから!」
「いやいる!間違いなく居る!天とデュランダルとオレの勘が奴らはあっちだと叫んでる!」
「それ幻聴あるいは勘違いだから!お願いおーろーしーてーー!っていうかこの場合普通お姫様抱っこでしょ!?
 なんでこんな米俵抱える様に女の子を抱えてんのよっ!オードさんにもこんな扱いしてたわけ!?」
「まさか!オードは当然お姫様抱っこだ」
「アンタ本気で令呪で謝罪切腹させるわよ!!?
 うわっうわっ本気!?本気で行くの?っていうかこの格好のまま!?
 いーーやーーだーー!だ、誰かこいつをとーめーてー」
「ハイヨー!ヴェイヤンチーフ!あっちの山を目指して駆け抜けろー」
「キャアアアアアーーーーー」

 こうして騎士と少女は悲鳴と効果音だけをその場に残して颯爽と?去っていった。
 滅茶苦茶に破壊された哀れな間桐邸を置き去りにして。






──────V&F Side──────

助けろ!ウェイバー教授!第十九回

V「ようやく次話を投下できたぞ諸君、そして久しぶりだな!マスターV教授の補習授業の時間の始まりだ。
  とっとと席に着けファッキンジャップとファッキンジョンブルのマスターどもー」
F「ご無沙汰しております!フラット・エ、エ、エ・・・あの~先生?俺の下の名前ってなんでしたっけ?」
V「なんだったかなお前のファミリーネーム・・・えーとな・・・・・あ~・・・・・・忘れた」
F「酷い先生!仮にも一応教育者でしょう生徒の名前を忘れますか普通!?エ、エ、エート・・・」
V「だったらそういう自分はどうなんだ、えぇ?普通忘れるか自分の名前を。
  っとああ、そうだそうだ、思い出したぞ。お前の名前はフラット=エスカルゴだったろう確か」
F「ああー!先生それですそれ!ご無沙汰しておりますフラット=エスカルゴです!
  ・・・・・・・・・アレ??」
V「・・・・なんか暫らく見かけない内に随分と食欲をそそる名前になったなフラット・・・」
F「あれれ??」
槍「御二方揃ってやれやれでござるのぅ、フラット殿の名前はフラット=エスカルゴドスでござろう」
V「それだランサー!」
F「それですよ流石は忠勝さんっ!改めましてフラット=エスカルゴドス・・・・・・ん?」
V「なんか途端に似非京都人っぽくなったなフラット・・・」

V「まあそんな事はどうでもいいさ。それよりもこっちの方が重大だ」
F「そうッスねぇ~またやっちまいましたからね~。やっちまったZE!」
V「いやぁやってしまったなぁ。流石の私も頭を抱えている。
  当初からあれ?ローランな~んか足りなくね?なんだろ?何が足りないんだ。まあいいかそのうち思い出すだろっ。
  とか思っていたが結局思い出せないまま足りないまんま突っ走って中盤でようやく気付いたという・・・」
F「ぬおおおお~~ローランの無敵肉体宝具をしっかり忘れとるがなっ!」
V「うのぉぉおお~なんてコッタイ!『恋するオルランド』でも鋼の体って言われてるのに!
  原典になる『ローランの歌』でも普通に無傷なのに!シャルル伝説全編通して損傷受けた描写が無いのに!
  合戦最中に弓矢や投げ槍とか喰らってるのに何故か甲冑だけが壊れて中身は綺麗に無事な癖に!
  致命傷受けて目が見えなくなったオリヴィエに敵と間違われて背後からオートクレールで脳天から兜割り喰らっても無傷なのにぃ!」
F「それだけの無敵っぷりを伝承中に炸裂させてるのに見事に忘れていたなんてちょっと怠慢過ぎませんか?」
V「うるせえこのベルゼブブの地上卵野郎め」
F「おわドサクサに紛れてなんて暴言吐くんですか!ちなみに今のは意訳すると・・・」
V「意訳せんでいいわっ!」
F「でも先生ーこの宝具ってぶっちゃけ二三話辺りで出てたとしてもあまり関係無くないですか?
  奇襲殆ど受けてませんし、大体ローランさんの戦闘って真っ向勝負ですし」
V「ウン、ぶっちゃけな。他の無敵宝具の差別化とローラン伝説を内容を踏まえてこういう表現で無敵を再現してみたとさ」
槍「そもそも常時無敵キャラは扱いが大変でござるからなぁ。
  まともに戦わせればワンサイドゲームにしかならんでござるよ」
F「それにローランさんってそもそも心眼(偽)スキルのおかげで元々から不意打ちの類は効き難いじゃないですか。意味あるんですか?」
V「意味が無いものなら最初からつけない。意味があるから用意したんだ!
  ・・・・用意してたのをすっかり忘れてたけどさ・・」
槍「それでは全く意味無いでござる。そんなもんネットに繋いでないパソコンと同レベルよ」
V「・・・ぐすん」

V「さて今回は魔術師の工房攻略についての話をしよう。メインだったしな。というか」
ラ「セイバー組ばかりが目立っているではないかーーー!!!俺様の出番はどうした!!」
V「おい衛兵、馬鹿が約一名侵入した直ちに摘み出せ」
槍「はいはい出口はこっちでござるぞー。ここは敗者の楽園。こんな所まで出張ろうとは図々しいにも程があろうに」
ラ「ええい離せ!離さぬか無礼者が!俺様を誰と心得るかー!」
V「エジプト最強の目立ちたがり屋」
槍「エジプト最大のエロ大王」
F「エジプト最多のピラミッドとか建てさせたがるヒト」
ラ「キサマらーーー!!覚えてーーーおーーーれーーーーよーーーーーーー」(ポイッ)
V「ランサーご苦労」
槍「お安い御用。ちゃんと石棺に詰めて王家の谷底に放り捨ててきたでござる」
F「拾ってくださいって張り紙でも張っておけば良かったですかね?」
V「誰も拾わんだろあんな可愛げのないもん・・・」
F「・・・雨に濡れながら傘を持った通行人と眼が合おうものなら
  ”特別にファラオを拾う事を許す。さあ持ち帰るがいい下衆よ”
  とか真顔で言い出しそうですしねあの人」
槍「ところでヴェイヤンチーフなんて出して良かったんでござるか?」
F「何を言ってるんですかランサーさん!騎士といったら馬でしょ?!馬!武士といったら刀でしょ!」
V「この時代にバイクなんて無いからなあ。折角だから騎乗スキルも有効に使いたいし、同意見で忌々しいがやはり騎士には馬だな」
F「それよりも本当にヴェイヤンチーフって英霊なんですか?」
V「アーアーキコエナイー。聞くな、聞くんじゃない。
  正直ドの付く位にグレーだと書き終わって気付いたが後で使う予定があるのでこのままいく事にする」
槍「白じゃなくてグレーなんでござるか?」
V「まあなぁ。実際の話シャルル伝説においてヴェイヤンチーフは大した活躍をしていない。ローランの愛馬というだけだ。
  ルノーのバヤールのような逸話があるわけでもなく、何かしらの能力があるわけでもない」
F「なら白じゃないですか」
V「普通はな。だがよ~く考えて欲しい。あのローランの馬だぞ?
  シャルル伝説では十二騎士全員分の名前は残ってない癖にヴェイヤンチーフの名前はバッチリ残ってる訳だ。
  その上オルランドシリーズではブリリアドロって名前で登場してる。オリヴィエの馬の名前なんて中々出てこないのに」
F「・・・・それ人間の場合だと一応英霊化の条件満たしてますよね。偉名として伝説に名前が残ってるわけですし」
槍「人間だったらクラスの問題さえクリアすればサーヴァントとして召喚する事も可能でござるな。力量の問題はさておき」
V「だからグレーと判断した。動物の場合も偉大な功績云々が条件だから人間と同じ条件でいいのだろうか・・・」
F「まあ気にしてもしょうがないですし次いきましょう次!」
V「・・・ん、まあそうだな。次いくか」

F「戦じゃー工房戦じゃ工房戦じゃー!」
槍「折角綾香殿が祖父殿無しで一人頑張っておったというのにセイバーめ・・・忍耐力の足りぬ御仁だ、けしからんッ!」
V「ちなみに劇中のあれは非常に間違った攻略法だから良い子のマスターは真似しないように!一歩間違えば普通に死ぬぞ」
F「地雷原だろうが毒の沼地だろうがお構い無しとばかりに直進してましたからねローランさん」
槍「いくらサーヴァントでも普通あそこまで強引な強行軍はしないでござるよ・・・」
V「何気に耐魔性能抜群だからなあの男は。生前身に付いた抵抗力+付与された対魔力スキル+対魔概念武装+天鎧。
  ハッハッハ硬いのなんの。ここまで来るとメタルキング並みに固い硬い!」
F「先生メタルキングってなんですか?」
V「しかしお爺ちゃん惜しかったなホント。マキリの翁はきっと今頃枕を濡らしてるな。
  ASマスター陣の中であそこまでサーヴァントと張り合えるのはお爺ちゃんだけなんだぞ!?
  相手が違えば上手く仕留められてた可能性もあったかもしれんのに。例えばアーチャーとかな」
槍「それじゃ全然意味が無いでござろう・・・。でもライダーなども案外足元掬われてコロッと逝くタイプでござるわな。
  ところでメタルキングってなんぞや?」
F「隙が無いように見えて隙だらけですからねあの人。しかしなんか急にお爺ちゃん大プッシュですね先生?何か裏があるんですか?」
V「アホか君は。これはプッシュ以前の問題だろう。性根は最悪だが普通に間桐さん家の糞爺は有能だ。
  魔術師としての知恵や能力が他のASマスター連中とはハッキリ言って比べ物にならん。
  それにこの頃は第五次の時と比べればまだ腐敗の進行が緩いから魔術行使するだけの魔力的余裕もあるしで。
  正直もっとお爺ちゃん活躍させたいけど歴史的な制限あるから出来ないんだよなぁ。
  五次での会話内容的にあくまで目立った動きもない裏方の爺っぽいし。それに奴をあまりハッスルさせたらAS臓碩ルートに凸する」
F「誰が得するんですかそんなシルバールート・・・」
槍「拙者が同じ条件であの古槍を首に喰らっていたら恐らく死んでたでござろうなぁ。
  流石にアレの神秘はサーヴァント相手にも通る。まあ無論拙者が気付かなければの場合に限るでござるがなカッカッカ」
F「やってもいないのに遠回しに自分には当たらんって言ってますよこの人ー」
槍「拙者だってセイバーと同じく無傷の男でござるからなぁかっかっか!」
V「きっと過去の聖杯戦争でにこういう苦い経験をしたから第五次であれだけ厭らしくハッスルしたんだろうなぁ」
F「しかし本気で何を考えてるんですかローランさんは?」
V「さあなぁ、何かを考えてるんだろうさ。きっと常人には理解出来ん何かをな。私では理解できんが。
  しかしまあセイバーの場合だと強行軍はある意味正解だったのかもしれん」
F「先生さっき間違った攻略法って言ったじゃないですかこのウソツキ星人!」
V「人をきのこ成人呼ばわりするな!嘘など言っていない普通のマスターなら大間違いだ。普通のマスターならな。
  ただこの場合セイバーのマスターは新米のミス沙条だ。彼女の力では正攻法でマキリの工房を攻略するのはまず不可能だった。
  彼女と臓碩爺では魔術師としての力量に差が有り過ぎる。マキリの工房で戦えばさらにその差は顕著になる。
  だから彼女に魔術勝負させない方向で工房を攻略したのはある意味正しいんだ」
槍「勝てない勝負なら勝てる方法で勝負するのも戦略のうち、でござるか?」
V「さすがは大将だなランサー。真っ向勝負だけが聖杯戦争のやり方じゃないということさ」
ラ「うむその通りだ。戦争とは己の持ち駒を出来うる限り有効かつ最大効果を発揮するようにやるものだ」
V「お前は王家の谷へ帰れ!スタッフゥゥー!」
槍「お主また・・・一体どっから沸いて来たでござるか!」
ラ「ファラオは滅びぬ!何度でも───」
F「王様におにぎりの差し入れでーす、えい!」
ラ「うぐぁおあああ!!?塩握り飯が眼にぃぃぃい!!あぁぁあ眼が!眼がぁぁ!
  オオォネフェルタリーー俺様の尊顔に塗りたくられた塩握り飯を取ってくれぇぇ塩分利きすぎで眼が痛くてかなわんのだ」
F「この人自分で取ろうとはしないんですね」
V「なにせぱんつの着替えさえ他人にさせる王家の人間だからな」
槍「しかし今回のことでフランク王国にはろくなのがいないということがよぉく分かったでござる。
  あんな連中のブレーキ役をやらなくちゃならぬオリヴィエ殿も大変でござるな」
F「オリヴィエさんと並んで唯一まともそうなテュルパンさんもアレでしたしねぇ」
槍「しかしセイバーもセイバーでござる。大司教なんて位の高い聖人が育てた花壇に犬のうんピーさせるでござるか普通?」
V「テュルパンはきっと綺麗好きで繊細な奴なんだよ。
  毎日水をあげ世話して丹精込めて育てたお気に入りの花壇の花にうんピーされればそりゃ温厚な大司教がキレてもしょうがないさ」
F「先生今かな~り適当なことを適当に言ってますよね?」
V「テュルパンは奇人変人超人揃い踏みのフランク軍で怒らせてはいけない人№1だそうだから覚えておくようにテストに出るぞー」
弓「お気に入りのものに犬の糞垂らされればそりゃあワシだってキレるわい」
V「・・・・・」
槍「・・・・・」
F「・・・・・・」
槍「なんでアーチャーがここに?」
ラ「簡単なことよ。あやつが俺様の棺を開けてくれたのだ」
弓「そういうことじゃ───」
V「なんて余計な真似しタートルブロー!(※金的ブロー)」
弓「はう!!!?うぐぐぐ・・・き、キサマ・・・この世で最もデリケートで繊細な男の亀を叩くとわ・・・卑怯・・・者!!」
V「亀なら亀らしく縮こまってればいいと思うぞ」
槍「というかおぬしらはこんな楽屋裏まで何をしに出てきたのだ?」
弓「何をしにだと!?そんなもんきまっとるじゃろうが!
  ワシの出番は!?ワシはもうかれこれ数ヶ月はお茶の間に顔を出しておらんぞ!?
  このままじゃそこにおる♭=エスカルゴどすえ~と一緒で作者と読者に忘れられてしまうわ!
  全国三億人のアン・ズオン・ウォンファンが待っとるんじゃからさっさと出番をよこさぬかこの糞山の王どもがーーッ!」
V「やかましい!次回まで待ってろこのファッキン短小亀め!」
ラ「大体今回は俺様の出番が一度も無いという時点でファッキン!」
槍「おぬしらはまだ劇中で出番が残ってるでござろうが!その癖拙者の数少ない出番まで奪おうという腹かー!」
F「そもそも俺は食用カタツムリでも似非舞妓さんでもないんです!エスカルドスですよ!エスカルドス!・・・・多分」
一同「「「ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ!!」」」
V「ええい今日はもう解散だ!次回だ次回!」

槍「ああー!そうでござった!一つ言い忘れておったでござる!」
V「なんだまだ何かあるのか?今日はもう終了だ。チャイムだチャイム次回にしろ。キンコンカンコンは鳴ったんだ」
槍「おんのれ腐れセイバァァ!拙者の主殿に・・・あの可愛らしい面貌に向かってうんこ面とは・・・ぶちころすぞーーー!!!」
F「あーー!ちょちょ忠勝さん駄目ですよ!ピー入ってませんから!修正音出てませんから!モロに言ってますから!」
V「ミス沙条が来ない内に私は逃げる!」
F「あ、先生待ってくださいよ!置いて行かないで!」