──────Archers Side──────

 真冬の夜だというのにそう寒くは無い風に晒されながら大橋を渡り切り隣町までやって来た。

「とりあえずここまでは特に異状は見受けられなかったか」
「だからワシはそう言っただろうが、それをマスターが───」
「お前の意見なんか訊いてない」
 間桐はアーチャーの言葉をすっぱりと切り捨てる。 
「チッ。まったくうちのマスター様は───ッ!??どけ!マスターッ!!!!」
 アーチャーはそう叫ぶと即座に実体化し間桐の身体をむんずと掴むとそのまま後方に投げ飛ばした。
 かなり勢い良く放り投げられた間桐は体を地面に打ち付けながらそのままゴロゴロと転がる。
「がっ!き、貴様ぁ、サーヴァントの癖に…マスター、相手になに、を───!!」

 ────瞬間。さっきまで間桐が居た周囲が吹き飛んだ。

 轟音と土塊が八方に飛び散る。
「おわぁああああああああああああああ!!!?」
 悲鳴を上げる間桐の前にアーチャーが爆発から庇う様に立っていた。
「ふうぅぅ……危ないにも程があるわ、かなり紙一重だったぞ。
 しかしなんつー魔術じゃ……こんなもんをなんの気配も感じさせないままぶっ放してくるとなると……敵はキャスターか?」
 突然の奇襲にアーチャーは忌々し気にぼやく。
「キャ、キャスターだと?」
 困惑するマスターに今の状況を教えてやる。

「よかったなマスター。早速念願の 異 常 が見つかったぞ?」

 コツコツと靴音を鳴らしながらその敵は悠然とアーチャー達の前に現れた。

「なるほど。君が御三家の一角である間桐家の魔術師か。ふん、やはり落ちぶれてるだけあって脆弱だな」
 その男は現れると開口一番に間桐に対して嘲笑を浮かべた。
「なんだとお前……?」
 挑発された間桐の声にじわりと殺気が篭る。
「ふん。キャスター奴は私が相手をする。お前は敵のサーヴァントの相手をしろ」
「わかりましたマスター」

 簡素なローブを着たサーヴァントがマスターの声に応え前に出る。

「アーチャー!判っているな?」
「マスターに言われるまでも無いわい。しかし、ある意味幸運だぞ。いきなり最弱のサーヴァントに当たるとは」

 間桐に促されるまでもなくアーチャーは既に臨戦態勢に入っていた。

「おやおや。やはり最弱とされるキャスタークラスでは舐められてしまうものですね。
 良いでしょう、その驕り後悔してもらいます───!」
 キャスターがその場で魔道書を開く。
 同時にソフィアリは素早くその場から離脱しながら詠唱を開始する。
 キャスターから貰った魔術刻印がソフィアリには本来無い筈の魔術を与える。
 
 次の瞬間に二人の魔術師が発動させた肌を飴のように溶かす程の熱風が間桐に向かって叩きつけられた! 

「───無駄じゃわ!」
 敵の魔術攻撃と同時に素早く間桐の前に躍り出たアーチャーが熱風を特に防御もしようとせずに遮断する。
 二人の魔術はアーチャーの持つ強力な対魔力によって無効化された。
 弓兵の右手には既に弓と言うには少々大き過ぎる巨大な弩が装備してある。
 そしてアーチャーはそのまま一気にキャスターとの間合いを詰めるために突進をかけた。

「むっ!?やはり見た目通りCランク以上の対魔力持ちでしたね!ならば行きなさい我が七体の───!」
 キャスターの号令と共に七体の小人が踊り出た。
 首、心臓、目、足を狙ったコンビネーションがアーチャーを襲う。
「うお!!なんじゃ!?」
 キャスターへの突進を一旦止めて小人たちの七連続攻撃の回避に専念する。

 ”人形……あのキャスターは人形師か?
 となるとアレはキャスターの魔力を帯びていると考えるのが妥当か……ならサーヴァント相手でも干渉出来るな。”

 冷静に分析しながらキャスターに狙いを定めて右手に持った弓の引き金を引く。
 打ち出される巨大な二本の牙。
 通常の弓矢の規格とは明らかに違う大型の矢が唸りを上げながら獲物に向かって直進する。
 だがそれをキャスターはまるで氷を滑るような動きでかわした。
 続け様にもう三発射撃する。
 再びキャスターは滑るような動きで回避してゆく。
 しかも今度はそのまま移動し始めた。

「あの妙な動き……何かの魔術を行使しているのか?ぬおわ!」
 キャスターの奇妙な動きに気を取られている隙を突いて一体の人形が手に持った凶器を叩き付けてくる。
 それを左の手甲でガッチリと受け止め、右手の引き金を人形の小さな体に向かって引く。
 巨大な矢に貫かれぶっ飛ぶ半デコ人形の体。
 真っ二つにされて地面に転がった人形はそのまま消滅した。

「ワハハハ!所詮は雑兵よワシの敵ではないわ」
 そのまま距離を取ろうとするキャスターを追って移動する。

 ”───本来ならこんな見え見えの戦力分断の作戦なんかに乗らんでこの場に残ってキャスターのマスターを殺したいところじゃが……”

 アーチャーに突然雨雲も無いのにどんでもない落雷が降り注いだ!
「ごわっ!!?今のはかなりびっくりしたぞ糞っ!!」
 
 ”───これがあるからな。
  下手にキャスターのマスターに近寄ればいくらワシが無事でもうちのワカメマスターまで巻き込まれて死にかねん。”




 キャスターはソフィアリから離れながらアーチャーより射られる矢をヒラヒラと回避する。
「やれやれ今のも大した手応え無しですか。
 ───普通ならば粉々になる威力がある大魔術クラスの干渉魔術ですら殆ど傷付かないとは厄介な……」
 キャスターは敵のあまりに出鱈目な対魔能力に若干呆れたような声を吐き出した。
 先ほどからキャスターが放っている魔術攻撃は高ランクの対魔力を備えているアーチャーには殆ど通用していなかった。

「ならこれならどうです?」
 くすりと忍び笑いを浮かべたキャスターは『世界の書』を開いた状態で別の魔術を発動させる。
 
「連動、高速可動───性能強化」
 残り六体の人形に連携を組ませ、さらに魔術で人形たちのスピードやパワーなどの性能を上げてやる。
「さあ、行きなさい!」
 キャスターが人形達へ向かって吼えた───!
 



「ぬ?突然なんだこいつら!?」
 アーチャーの声に困惑の色が浮かぶ。
 それもそのはず、あしらう程度に相手をしてやっていた人形の動きが突如変わったのだ。
 先よりも鋭く、先よりもこちらの行動の終わりを狙って、速く、正確に動いてくる!
 しかも人形たちの攻撃の迫力も先程とは段違いである。
 いくらアーチャーが硬い部類だと言ってもまともに喰らえば相応の損傷が待っている事は容易に想像できる。

 アーチャーは人形の攻撃を無駄の少ない動作で回避と防御をしながら、手にした弩の矢を射ち込むのだが───上手く当たらない。
「チッ!チョロチョロと!防御力は大して無い癖に素早さだけはサーヴァント並にありおる。
 ───キャスターめぇ、何か人形に補助をしておるなぁ!!」
 アーチャーは苛立ちながら狙いも付けずに今度は引き金を引きっ放しにする。
 するとシュカカカカカカカカカカカカカカ!という風切り音と共に大量の矢が乱射された。
 大きな渦巻きを描く様に撃たれた矢は回避し損ねた一番小さな人形の頭を吹き飛ばし、残りは全弾空を切った。
 これで残り五体……!
「よし今のうちに本体を先に────ヴおっ!?」
 突如眼前で起こる爆発音。
 アーチャーが気を逸らした隙にキャスターが魔術で攻撃を加えたのだ。

 あのキャスターは小癪にも自身の手駒を上手く使いながら自分もしっかりと戦闘に参加していた。
 人形が作った隙を突き、人形に出来た隙をカバーするように、とんでもない速さで魔術行使してくる。
 だが幸いな事に対魔力Bを誇るアーチャーには魔術による攻撃はよほどのものじゃ無い限りまず傷付かない。

 牽制にキャスターに五発ほど矢をぶっ放つ。
 再び弩がキャスターに牙を剥く。
 だがしかし、やはり滑るような動きでするりと回避していくキャスター。
「むぅ完全に暖簾に腕押ししとる……やはり出来るだけ近づかんと駄目か」
 そう判断するするとアーチャーは一気にキャスターへ向かって疾走した。

「っ!?」
 敵が動揺した気配が感じ取れる。

 ───行ける!このまま一気に!

 キャスターまでの距離を一気に詰めようとしたその時。
「どふっ!??」
 鎧の上からにも関わらず背中に強い衝撃を受けた。

 背後の少し離れた位置には赤い人形と黒い羽を生やした黒い人形。
 あの距離から攻撃したという事はあの二体は飛び道具も備えているらしい。

「お、う……痛ぅぅおのれこの玩具め!効いたぞ畜生!」
 紅い人形の左肩を目掛けて矢を放つ。
 撃ち出される銀星は真っ直ぐに紅い人形目掛けて飛んでいく。
 人形はその程度の攻撃避ける事なぞ容易いと言わんばかりに右方向へ跳躍した。

 ────が、その跳躍先には待っていました。とばかりにもう一発の銀星が既に放たれていた。

 片腕がもげて爆散する紅い人形。
「ビンゴ」
 これであと四体!
 紅い人形を仕留めると、身構えている黒い方は相手にせず再びキャスターへ走り寄る。
 そしてそのまま後ろを見ずに矢を撃つ。
 背後から矢が何かに着弾する音と、何かが地面を転がる音が聞こえた。
 これで残り三体。

「よし上手くいったわ」
 やはり睨んだ通りだった。キャスターを狙えば人形は主の護衛に回る。
 となると当然あの黒い人形は無防備な背中を見せたアーチャーに真っ直ぐ襲い掛かり。
 ───そのまま弓兵の作戦通り鮮やかにジャンクにされた。

 アーチャーは一切後方の音には振り向かずにキャスターへ突進する。
 ─────あと少しで至近距離まで入れる!

「光刃よ───!」
 キャスターも一小節の詠唱だけで強力な魔術を発動させ応戦する。
 目が眩むほどの閃光と共にキャスターの方から飛んで来る光の弾。
 バチン!と着弾するが対魔力の阻害によりダメージは無し。
 しかし、若干走る勢いが一瞬だけだが落ちた。
 構わず右手の弓を構える。
「手こずらせおって、喰らえいキャスター!!!」
 人指し指が引き金を強く引き絞る。
 大量に撃ち出される矢の嵐。

 だが、キャスターはアーチャーが駆け寄る勢いを落としたその一瞬の隙をついて霧となっていた。
 霧散するキャスターの肉体。
 一発もまともに命中せずに悉く空を切る矢の嵐。

「くぬぅぅぅぅうううう!惜し過ぎるっっ!!」
 悔しがりながらも素早く敵の位置をその猛禽類のような両目で探る。
 居た……左方30m先にキャスターは現れている。
「…………今の霧化といい、先程から使っている大魔術といい、どうも殆ど詠唱も無しに使用している気がする。
 というより殆どシングルアクションに迫るほどの速さ……。それにあの魔道書、物凄い魔力を放っているが……まさかとは思うが、宝具?」

 いやしかし流石に序盤も序盤でいきなり宝具を使用してくるサーヴァントなど存在するのか?
 宝具を使用するという事はそのまま持ち主の真名へと繋がる致命的な情報となり得る。
 故にサーヴァントは滅多な事では宝具を使用しない。
 使用しないのだが───ならあの魔道書はなんじゃ……?




 アーチャーの困惑をある程度離れた場所でキャスターはほくそ笑む。

 ───やはりこの手にある魔道書が気になりますか。
 まあ当然ですね、何せ宝具を使用するという事は真名を明かすという事と同義ですからね。

「フフ……でもまぁ、それも無駄なことなのですけどね」
 決して言葉には出さずに口の中だけで呟く。

 そう無駄だ。なにせこれは彼のマスターと共に考えた作戦なのだ。
 序盤から他の組は伏せておくであろう切り札たる宝具を積極的に使用して他のマスター達より優位に立つ戦略。
 普通の英雄ならまず出来ない戦略だがこのクリスチャン・ローゼンクロイツはそれが可能な英雄であった。

 ”元々ボクは英雄としての力を持ち始めた辺りからの伝承が全くと言っていい程残っていないんですよ”

 それがキャスターがマスターであるソフィアリに告げた言葉。
 中世の世に存在したというわずかな記録と噂以外は正体不明とされる魔術師の英雄。
 それがこの聖杯戦争で彼に与えられた唯一の強み。

 英雄は自身の伝承を紐解かれる事によりその特性や能力そして弱点を露呈する。
 だが───その伝承自体が不透明なものならば仮に真名が明るみにされてもデメリットは殆ど無い────!
 おまけに彼の宝具の能力は至ってシンプルだ。
 『世界の書』に記された世界中の魔術刻印に記録された魔術がシングルアクションで使える。
 ただそれだけ。
 仮にローゼンクロイツ自身が習得したの魔術が判明したところでこの世界の書があればそれすらも簡単にカバーできる。

「とは言ってもやはり高ランクの対魔力スキル持ちには分が悪すぎますね……せめてCランク程度の対魔力ならまだ何とかなったものを」
 苦虫を噛んだ様な声が漏れる。
 そう、どんなに序盤からの宝具使用による優位を得ても相性という根本的な問題がある。
 恐らくあのアーチャーの対魔力はBランク相当。並の大魔術や儀礼呪法程度じゃまず傷付かないだろう。
 彼にはAランク相当の大魔術を喰らわせないと有効打にはならないはずだ。
 おまけに喰らわせたとしても単発では致命傷にはならない筈だ。二発三発と立て続けに喰らわせる必要がある。

「人形はあと三体。やはり陣地外での単体勝負は圧倒的に不利ですか」
 世界の書のページをめくる。
 こちらの攻撃が通用しないのならば───相手の攻撃を利用するまで。


 キャスターがアーチャーに対して仕掛けようとしたその時───。

 マスターたちの居る方向から火柱と爆発音が轟いた。

「……!!?」
「────なっ!!!?」

 驚愕は一体どちらの方が大きかったのか。
 二人のサーヴァントは音を聞きつけるやいなや、その意味を即座に察知しマスターの元へ疾走する。

「チッ、あのヘタレワカメがっ!だから言わんこっちゃないうつけ者め!」
 アーチャーを焦燥感が襲う。
 これはマズイ。自分のものとは別のラインが危険信号を出している。
 その警報がなんなのか、サーヴァントとマスターとの繋がりで十分過ぎるほどに理解できた。
 今───自分のマスターがかなりヤバい状態にある!!

「アーチャー、そう簡単には貴方を行かせません!」
 マスターの許へ急ぐアーチャーにキャスターとその人形が並走する。
 足の速さでは向こうの方が上だ。
「く!!?」
 横合いから振り下ろされる凶器。
「邪魔を……するなこのゴミ屑ども!!」
 それを左の手甲で逸らし、怒声と共に右の手甲で裏拳を人形へお見舞いする。
 随分遠くまで吹き飛んでいくお人形。
 真横でキャスターが唱える行動阻害の魔術を対魔力に物言わせて完全に無視しマスターの許へ急ぐ。
 勿論足の速いキャスターにしっかり牽制に矢をたらふく撃ち込んでやるのも忘れない。
 まず当たらんだろうがキャスターの足を緩める時間稼ぎにはなる。

 ────居た!
 倒れ伏した間桐に丁度ソフィアリが止めを刺そうと手を伸ばしているところだった。

「させぬわ!」
 アーチャーは自身の前方と後方にいるキャスターとソフィアリに手早く狙いを付けると引き金を引いた。

「アーチャーなぜ此処にっ!!!!?きさま!!!??」
「マスター!!離れなさい───うぐっ!!!!?」
 弩の射出と同時にキャスターは自分のマスターの周囲に防壁を展開する。
 防壁に阻まれ弾かれる矢。
 ソフィアリはキャスターが咄嗟に張った防壁で守られた。
 しかしキャスターの身体にはアーチャーの矢が見事に穿たれていた。

 今の攻防でキャスターが手負いになったのを気配で察すると、アーチャーは間桐の傍まで駆け寄りながらソフィアリの心臓へ目掛けもう一発弩を撃つ。
「っく────!!………ぶっっごっ!!!???」
 キャスターの声に反応して身体を捻りながら回避行動を始めていたソフィアリの脇腹に矢が突き刺さる。

 否、─────それは突き刺さったなどというレベルではなく脇腹を 吹 き 飛 ば し た 。

 ソフィアリは受けた衝撃で数m後方に転がりそのままピクピクと痙攣していた。
「咄嗟に回避動作を取られたせいで心臓は外されたか……だが」
 だがこれでキャスターをマスターの傷の治療の為に足止めさせられる筈だ。
 矢が大きいため、ソフィアリの脇腹にはコブシ大ほどの大きさの風穴が開いていた。
 流石にあの傷の大きさでは『復元』レベルの治癒魔術でもしない限りは治癒出来まい。
 死に掛けの敵マスターを前にして撤退するのは遺憾ではあるが、なにぶんこちらのマスターも死に掛けている。
 これ以上敵に構っている余裕は一秒だって有りはしない状態だ。

「マスター。問答無用だ、離脱するぞ。ここじゃ治療もまともに出来ん」 
 しかし離脱してどうする?
 アーチャーには治癒魔術の心得など無い。
 どう治療すればいい……? 
 ”いや───もしかするとあの爺さんならば治療出来るかもしれぬな。”

 即座にマスターの受けたダメージを回復させられそうな人物を頭の中に弾き出すと、
 アーチャーは間桐を抱え上げそのまま臓碩のいる間桐邸を目指して撤退した。 


       ◇         ◇


 間桐を肩に担いだまま大橋を渡り、こちら側(深山)の町を駆け抜け、間桐邸に続く坂を一気に駆け上る。
 マスターが瀕死になった為、今のアーチャーには魔力提供が一切行われていなかったがクラススキルの『単独行動』がその威力を存分に発揮していた。
 おかげで魔力不足のせいでヘロヘロになる事もない。
 おまけに暁幸なことに敵マスターと遭遇することも無かった。

 間桐邸の敷地内に駆け込むとそのまま玄関をブチ破りそうなの勢いで開ける。
「おい爺さん!!いるんじゃろう!?マスターがヤバいなんとかせい!」
 そして洋館全体に聞えんばかりの大声で臓碩を呼ぶ。

 すると目的の爺さんは建物の影から湧き出たように突然現れた。
「なんじゃ騒々しい。む、アーチャーかどうした?」
「なんじゃじゃないわい。爺さんこのワカメ小僧が死にかけてるから何とかしてくれ。
 正直マスターが死んだところで弓兵のワシならばそこまで致命的では無いが流石に今更新しいマスターを見繕うのも面倒だ」

 アーチャーの切れ長の目が不機嫌そうに細まる。

「ククク、こやつに愛着でも湧いたかアーチャー?」
「つまらん話は良いから治療できるんならさっさとせんかい。こいつ長くは持たんぞ?
 助ける気が無いのならさっさと申告するんじゃな、今から他の寄り代を探しに行く」

 爺さんの下らない冗談にいかにも面倒臭そうにその長髪を掻き揚げる。
「わかっておるわ、地下へ連れて来るが良い」
 臓碩はそれだけ告げるとまた闇に溶ける様に姿を掻き消した。
「げえ地下か……あそこ出来れば行きたくないんだよなあ。臭いったらありゃしないわ」

 文句を言いつつも直ぐにアーチャーは臓碩の言葉通りに間桐を地下へ運び込んだ。

「で、どうするんじゃ?なんかもう息の根が止まりかけとるんだが」
 全く洒落にはなってないが、ぬわっはっはっはー!ととりあえず笑い飛ばしておく。
 割と大雑把な気質のアーチャーは辛気臭いのは好きではないのだ。
「まったくもって情けない限りじゃのう。序盤も序盤でいきなり取って置きを使う羽目になろうとはな。このたわけが」
 ぼやきながら臓碩は一匹の蟲を間桐の口の中に杖で押し込んだ。
 ニュルニュルと間桐の口から腹の中へ入っていく淫猥な形をした蟲。

「…………………うわぁ…マスターご愁傷様……そんなイチモツみたいな形の気色悪い蟲を銜えさせられるとは……同じ男として同情するぞ…」
 アーチャーは心底同情したようにお経のような呪文を唱えている。

「……ところで爺さん、なんじゃ今のアレは?」
「儂が今回聖杯戦争のために用意した切り札だ。
 心臓さえ動いていればとりあえず干乾び掛けていようが全身骨折大火傷だろうが持ち直せる程の…処女の血で練り上げた魔力の塊よ」
 そう説明する臓碩の声は明らかに不機嫌だった。

 さっきまで蚊の鳴くように息をしていた間桐が今では苦しそうに呻き声を上げている。
 ……あの卑猥なアレの形をしたあれって大丈夫なものなんだろうか?
 いやどう考えてもヤバいな。まず形がヤバい。いろんな意味で有り得ない。
 アレで持ち直すような奴は変態に違いないわ。
 などとしょうもない事を考えていると、しばらくしてその苦しげな呼吸が徐々に収まりつつあった。
 心証的にいまいち信じたくはないがどうもあの男根蟲で持ち直したらしい。

 なるほど、ワシのマスターは変態じゃったのか。個人的にはアレを食わされるくらいならば潔く死ぬが─────。


 アーチャーが内心少しアレの効果に疑問を持ち始めた頃、臓碩が質問をしてきた。 

「何があった?」
「あ~ついさっきキャスターと一戦やって来たんじゃが、その時に炎でも使う敵マスターと戦って負けたのだろう」
 まあワシはキャスターの相手をしとったから直接は見とらんが。と付け加える。
「火炎使いか。蟲使いの儂らマキリの業にとって相性悪い敵とまともに遣り合おうとするとは……使えぬ孫じゃな」
 臓碩はその使えぬ孫を横目で見ながら溜息をついている。

「…………ならば何故あの大量の魔力を蓄えた蟲を使った?切り札なのじゃろう?
 ワシはてっきり貴様はマスターを見限ると思っておったがな」
「孫に期待は無くともそのサーヴァントであるアン・ズオン・ウォンにはあるからのう。
 不出来な孫はともかくアーチャーは大事という事だ」
 アーチャーの正直な感想にマキリの老人はそう答えると陰湿そうな忍び笑いを漏らした。

 だがその賛辞を受けた当の本人はというと。
「あ~……今の台詞がこんな陰湿な爺じゃなくて、むちむちな色香を放つ綺麗なねえちゃんなら文句無しだったのに……はぁ」

 などとこの見た目年若そうなアーチャーは、相変わらずの調子でオッサン臭い台詞を吐きながら深く溜息をついていた。







──────Fighters Side──────

 夜。遠坂は寝静まった隣町を霊体化したファイターと共に探索していた。
 家を出てから既に結構な時間が過ぎているが特に成果は上がっていない。
 今日は暖かい冬木の冬にしては寒い。
 まるで夜に蠢いているナニかへの畏怖で先程まで暖かかった町の熱が急に冷めたみたいだった。

「ここも特に異常はなさそうだな、マスター」
「………」
「で、次はどうする?町の中心部はもう見たわけだから大橋の方へ戻ってみるのかな?」
「………………」
「ん?……遠坂殿?」
「……………………………」
 遠坂はファイターの言葉には答えずに何かを探すように周囲をキョロキョロと見ていた。
「マスター?」
 やはり遠坂はファイターの呼びかけに反応を示さない。
「………ふぅ、マスター!」
「───ぉ!!?な、なんだ?ファイター」
「なんだではない。遠坂殿の方こそどうしたというのだ。私の声も聞えていないほど呆っとするなぞ遠坂殿らしくもない」
 少し呆れてマスターを諫める。戦場で呆けるなんて本当に彼らしくない行動だ。

「……ファイター、一つ訊ねるが君は何か視線を感じないか?」
 ボソッと呟かれた言葉に今度はファイターの神経が鋭敏になる番だった。
 ファイターは自身を張り詰めさせ周囲の気配を探る。
「─────」
 だが手応えらしい手応えは無い。
「────いや。私では嗅ぎ取れない。となると……」
「サーヴァントの気配ではなく───マスターの視線、か?」
 恐らく。とファイターも相槌を打つ。
「マスター、視線を感じ始めたのはいつ頃に?」
「確か、こちらの町に入ってしばらくしてからだ。遠坂の家が在る深山の町にいる間は感じなかった筈だからな」
「という事はこちら側の町に根を張っているマスターが居ると?」
「多分な。しかも恐らくそのマスターは複数の駒持ちだ」
「複数か───フッ、これはまたいきなり面倒臭そうな輩に引っ掛かったものだ」
 つまらなそうにファイターは零す。

「ファイターが視線を感じない点と、私が家から『魔力殺し』を持ってきたという点を考えればコレらの違和感は魔術師の魔力に反応したキャスターや敵マスターの網ではなさそうだな。
 私自身も他のマスターの網に対しては細心の注意を払っていたから恐らく引っ掛かってはいない筈だ」

 安全な陣地である自宅から外に出た遠坂はその分敵に対しての警戒をしっかり行っていた。

「しかも令呪が全く反応しないときている……まさかマスターじゃない、のか?」
「しかしマスターではないような者が何故そんなことを?」
「判らない。だが現状だとそれが一番解答としてはしっくりくる……これはどういうことだ?」

 ────困惑する遠坂の予想はほぼ正解だった。



───────Interlude ───────

 遠坂たちから200m以上離れた地点。
 その人影は存在した。
「───標的を捕捉。既に発見より15分は追跡しているがこちらの姿を見つかった様子はない。
 恐らくサーヴァントを霊体化して傍に控えさせていると思われるため、このまま監査aは監視を続けると監査dへ報告」
「伝達b了解───」
 そういうと一人の人影は闇の中を音も無く駆けて行った。

 ───彼らは聖堂教会よりゲドゥ牧師と共に派遣された構成員たちだ。
 魔術師では無い彼らは魔術の力には頼らず鍛え抜いた己の肉体を頼りとする。
 ライダーのマスターでもある牧師が彼らに与えた命令はこうだった。

 ”各自深夜に潜伏した町で何かを探すように徘徊する人間を見かけた場合は、絶対に手を出さずにしばらく追跡し観察しろ。
  この時期の深夜にそんな行動をする人間は魔術師の可能性が非常に高い”

 その命令に従い今もこうして遠坂を静かに監視している。

 標的に張り付く監視員と、監視員が得た情報を他の構成員や牧師へと伝える連絡員に分かれて行動する。
 そういうものに対して訓練を受けている人間ならともかく、そういう事には疎い魔術師ではまず彼らを見つけられない。
 そしてもし標的が全く無関係のハズレだったとしても人手が十分にある彼らには大したデメリットは無い。

 それが牧師が出した聖杯戦争での戦略だった。
 そうして彼らはじっと監視を続ける。
 教会の命令である聖杯の調査の成功の為に───。



───────Interlude  out───────


 遠坂達は何者からかの視線を感じながらの探索を続ける。
「遠坂殿。いっそ周辺を調査・索敵できるような魔術を使って確認をしてみるのは?」
 主人の心理状態を察しファイターが助言した。
「そうしたいところだがまだ駄目だ。私の気のせいの可能性もまだある。
 がそれよりも、もしコレらがただ私に対する疑惑からの監視だった場合は魔術行使は明らかに失策だ。
 せっかく魔力殺しで魔力を遮断しているのに自分たちの情報をこちらから明かす羽目になる……」

 夜の隣町を進みながら遠坂は冷静に状況の把握に努めている。
 ファイターは黙ってマスターの采配に従うことにした。

「……一旦帰還する。恐らくだがこの視線はこちらの町を監視するモノの筈だ。ならば───大橋までは追っては来くるまい」
 遠坂の提案にファイターは頷きで返す。
「同感だ、マスター。仕掛けるのなら何らかの策を用意してからの方が良い。それに何も収穫が無かったわけではないからな」
 そう一応収穫はあった。隣町には正体不明のナニカが居る可能性がある事が判ったのだ。
 方針を決めたら行動は迅速に。
 ファイターたちは素早く大橋を目指した。

 そして、その場所に差し掛かった───。
「遠坂殿ここは───?」
「少し前に間違いなく、戦闘があったようだな……」
 大気中に残る強烈な魔力の残滓。焦げ付いた草花。抉られた大地。そして血痕。

「「キャスターか……?」」
 二人の声が重なる。
 少なくともこの強烈な気配の残滓は並の魔術師とは思えない。
 二人で慎重に辺りを調べていく。

 そうして周辺を調べているとファイターは妙なモノを見つけた。
「ん?これは────羽に足?……いや虫、か?」
 地面にナニかが焼かれた残骸が残っていた。

「何か見つけたのかファイター」
 少し離れた所を調べていた遠坂がファイターの方へ歩み寄ってくる。
「遠坂殿これはなんだと思う?」
 そう言いながら地面に残ったコレを指差す。
「───────焼かれた蟲、の残骸か?」
「少し大きかったから気になったがやはり虫か。大方飛んでいたところを戦闘に巻き込まれたというところか……。
 いやすまない、つまらないものだっ───」
「いや。でかしたぞファイター」

 遠坂が口元に笑みを浮かべていた。

「ん、遠坂殿?」
「いやこれはアタリだよ。なるほど、となるとここで戦闘したのは間桐のマスターか。
 確かマキリのご老輩は際立った蟲使いだ。ならば彼の弟子もその蟲の業を習得していたとしても不思議でもなんでもない」
「マキリ───確か遠坂家と同じく御三家の一角だったか」
「ああ。だが今あの家の後継者にはここまで強力な魔力は無い。
 となるとこの場所にはキャスターのサーヴァントか間桐よりも数段格上のマスターが居た事になるな。いやあるいは両方かもしれん」
「うむ、やはり遠坂殿が自邸で見つけた通り動きがあったか」
「そうだな。いやファイター、君の助言を聞いていて良かったようだ。流石に家に居たのではこの情報は手に入らなかった」
「何を言う。私の助言を聞くと判断したのはあくまで遠坂殿自身だ。ならばこの結果は遠坂殿自身が招き寄せたものだ」
 やはりこの忠実な従者は控え目に主の賞賛を受け止めるのだった。

 一頻りその場所を調べた後は、先程の監視らしきの気配の事も考慮して手早く大橋へ移動する。

「恐らく間桐は負けたな」
「なぜそう思うのだ?」
「簡単なことだ。余程の事でもない限り蟲使いでは炎使いには勝てない。がそれ以前の問題として間桐の相手は恐らく格上だ」
「なるほど───強い者が勝負に勝つのはいつの世も同じであったか」
 二人でこちらの町と深山の町を結ぶ大橋を渡って行く。
 隣町で感じた視線は今は全く感じない。
 やはりあの視線は気のせいだったのだろうか───?

 そうして大橋を何事もなく無事に渡り切り、ファイター達は河口側の広場までやってきた。

「さて、遠坂殿これからどうす───静かに!」
 ファイターは突如耳に入ってきた異音に反応して耳を澄ませる。
 一方遠坂はファイターの意図を汲み素早く臨戦態勢に入った。
 明らかに聞き覚えのある音が遠くから近づいてくる。
 そうこれは文字で表現すればパカラッ!パカラッ!やパカポコ!パカポコ!という類の音だ。 

「──────これは、馬蹄の音?」
 どんどん大きくなっていく快音。
 それに伴ないこちらに真っ直ぐ近づいてくる強力な魔力の気配。

 そして馬の嘶きと共についにその音の正体がファイターたちの目の前に現れた───!

 ズザザザーと砂埃を巻き上げながら豪奢な馬車が停止する。
 馬車の手綱を手繰っているのはどう見ても騎士───否、サーヴァント!?

 騎士が御者台から飛び降りる。
「いや開幕に間に合って良かったぜ。そうだろうお二人さん?」
 と、に騎士が明るい口調でこちらへ声をかけてくる。
 だが緩んだ表情とは裏腹に放たれた殺気は張り詰めていた。
 霊体になっているファイターにも気付いているとなると間違いなくサーヴァントである。

「おっとそうだ。マスターを下ろさないと」
 そう言いながら男は馬車の扉を開けて下車するのに手を差し出していた。
「セイバー、随分乱暴な運転ね」
「うっ、……面目無い。でも急いでいんだからしょうがないじゃないか!あ、お手をどうぞ」
 ……なんかその騎士は主らしい女に怒られながら彼女を馬車から降ろしていた。

 ファイターは実体化し遠坂を庇うように前に立つ。
「マスター、彼らは?」
「………あの今から戦場に向かうものとは考えられないような無駄に派手な馬車はどう考えてもアインツベルンだな」
 一方の遠坂は騎士の方をじっと見やる。
 マスターが持つ透視能力で見た騎士は───世界でも希少価値が非常に高い輝石に見えた。
 奥歯を噛み締める。なんて高ランクの能力値だ……。
 ランク変換しても魔力値以外はBランク越え相当の能力値、だと!!? 
 
 あのサーヴァントの能力値が、筋力A 耐久B 敏捷A 魔力C 幸運B 宝具A+
 一方のファイターの能力値が、筋力A+ 耐久A 敏捷B 魔力D 幸運D 宝具A

 ───なんてことだ。あの白銀の騎士は私のファイターと全くの互角性能。
 マスターはアインツベルンでそのサーヴァントはあの能力値……。
 ここまで条件が揃えばもはや疑う余地も無い。

 間違いない…………あれが、あの騎士が私が手にしようとした、セイバーのサーヴァント────!!

 おまけにアインツベルンのマスターは人外のホムンクルスである。
 遠坂もかなり高いマスター適性を持つ優秀な魔術師であるが、根本から魔術に適した体を持つホムンクルスのマスター適性は人間のソレとは次元が違う。
 その恩恵によってセイバーはその持ち前の性能を存分に発揮していた。

「マスター。よもや止めはすまい?」
 敵の予想外の能力値に奥歯を噛み締める遠坂にファイターは静かに声をかけた。
「ファイター?」
「あの男───姿、武装、闘気、そして能力値、どれをとっても超一流だ。
 どう考えても奴が今回の聖杯戦争における花形───セイバーだ」

 吐き出された声音はまるで静寂な湖畔の如く、だがその声に籠められた感情は噴火する溶岩の様に激しい。
 ファイターは目前の騎士を打倒すべき『敵』と認識していた。

「マスター私は召喚された時に申したな。確かに今の私はファイタークラスだがセイバークラスごときに決して劣らぬと。
 いや実に丁度良い。あの時の言葉、今この場で証明をして見せよう───」

 ファイターが前に歩みを進めながら臨戦態勢に入る。
 その敵意に反応し騎士は女マスターを手で下がらせると、数歩前に歩み出た。

「オレは彼女に仕え聖杯を手にするセイバーのサーヴァント。残念だが真名はまだ明かせん。で、貴様は何のサーヴァントだ?」
「ファイターのサーヴァントだ。だがセイバーよ貴殿の言葉には一つ間違いがあるぞ?」
「ファイター?なるほど、基本枠の7クラスに入らなかった場合に被るエクストラクラスか。
 ───にしても、へえ?オレに一体、何の間違いがあると言うんだファイター?」

 ファイターの視線とセイバーの視線が激突する。

「なに簡単な事だ。聖杯戦争を勝ち抜き聖杯を手にするのは、貴様マスターなどではなく、私の───マスターだ!!!」
 抑える必要の無くなった両者の殺気がついに爆発した。

 セイバーとファイターは同時に腰に下げた鞘から愛剣を抜き放つと猛然と自身の敵を潰しに掛かった────!!
 踏み込みが同時ならば打ち込みも同時。
 両者の初撃は共に会心の一撃同士のぶつかり合いだった。

「っ!!!」
「くっ!?」

 刃が噛み合いその衝撃がお互いに伝わっていく。
 しかし両者共にその場にしっかりと踏み止まり一歩も後退しない。

 一合目の打ち合いが終えるとファイターは即座に愛剣のネイリングに魔力を叩き込む。

 ───ブシュルルルルルルルゥルルルルルウルゥゥウウウウウウウウウ!!!

 猟犬の唸り声のような音を発しながらネイリングが回転し獲物の首筋に喰らい付こうとする。
 しかし敵は猟犬の牙を難なく打ち落した。
 セイバーは敵の剣を打ち払うと即座に手首を返しファイターの首を落としに来る。
 馬鹿みたいに力強い一刀。
 普通ならばシュ!っと鳴る筈の風切り音がヴォ!と鳴っている───!
 ファイターも敵と同様に苦もないかの様に敵の一撃を弾き返す。
 その後二撃、三撃、四撃と攻撃を加える。
 二撃、三撃、四撃と攻撃を防ぐ。

 夜の闇を照らす鉄と鉄が生み出す明かり。
 ファイターとセイバーが剣を叩き付け合うごとに鉄が奏でる爆発音が響く。
 ファイターとセイバーが剣を防ぐ度に淡い明かり灯る。 

 剣士と闘士。共に筋力ランクAを超える超一流の攻撃力を誇る二人の戦い。
 大気が悲鳴を上げ、大地が畏怖し、互いの武器が火花と音による喝采を贈らない方がおかしいというものだ───!
 
 その戦いをアインツベルンは唖然と見ていた。
 その戦いに遠坂は呆然と見惚れていた。
 でもそれは仕方が無いことだ。
 何故ならこの戦いは人間程度では立ち入る資格を得られない戦い。
 ヒトを超えた超人のみが参加できる、この世界最高峰の決闘───!!!

「うらぁあああああああああ!!!」
 セイバーが手にした聖剣を渾身の力で振り抜いた。
 ネイリングを強く握り締めその一撃をこちらも渾身の力で受け止める。
 鍔競り合いの形になる二人。
 ギリギリとファイターの頭に敵の刃が迫ってくる。

 ───ぐっ……重い!!
「っ、く、ぬっ───ああああああああああああああああああ!!!」
 腹に溜めた気合を爆発させ敵を剣ごと弾き飛ばした。
「うお!!……なっ!!?」
 セイバーが驚愕の声を上げたたらを踏む。
 その一瞬を見逃さずに敵へと間合いを詰め───名剣で突きかかる!

 迎撃は間に合わないと悟ったセイバーは剥き出しの頭部を腕で庇う。
 再び唸りを上げて襲い掛かる猟剣。
 ガイィン!とネイリングはセイバーの白銀色の鎧の腹部に命中する。
 だが貫通とはいかなかった。当たりが浅い。

 ”直撃の瞬間咄嗟に飛び退いて当たりを殺したか……こやつ、やるな───!?”

 間髪入れずに右薙ぎもお見舞いする。
「───舐めるなよ!」
 セイバーが吼えた。
 足元から振り上げられた剣がファイターの薙ぎ払いを防ぐ。
 その後素早く後方に飛び退くとセイバーは見事に態勢を立て直した。

 二人の距離が開く。
 その瞬間二人の決闘者の脳裏に浮かび上がる想いは唯一つ。

 ────こいつ、かなり強い───!

「いやいいな。やっぱり戦いってのはこうじゃないといけない。わざわざマスターと一緒に出向いた甲斐もあるってもん……だぜ!!」
 言葉の終わりと同時に突進してくる剣士。
「どちらにせよ倒れるのは、貴様だセイバー!!」
 闘士もそれに応えるように吼え猛りながら突進をかける。
 力強い突進ではためく二つの外套。

 二人が手にした武器が鳴らす風切り音。
 その直後にドゴォ!!っという一際強い音と地面にまで伝わる振動。
 桁外れの力を持つ二人のサーヴァントの激突は本当に地面が悲鳴を上げていた。

 この二人の戦いは殆ど移動が無い。
 ほぼその場に足を留め、手にした武器を荒々しく叩き付ける。
 それはまるで、どちらがより強く、より速く、手にした剣を振るえるかの勝負でもあるようだった。

 何度目かのネイリングによる打突攻撃。
 しかし当然のように敵は防御してくる。

 ───ファイターの持つこの名剣は突きを主体戦法に考えられた武器だ。
 まるでランスのような尖った剣先で、斬るという行為をまるで考えていないような形状をしている。
 しかし勘違いするなかれ。それは決して斬撃が出来ないと言う訳ではない。
 勿論斬撃は出来る。
 だがそれは───

 シュブルルルルルルぅぅううう!!
 という独特の怪音を鳴らしながらセイバーの頭にファイターの剣が打ち下ろされる。
 当然の如く名剣を聖剣で受け止めたセイバー。
 鉄と鉄との噛み合う音がガチガチと鳴っている。
「う、この、メンドくせえ武器だな!!お前……これ、普通の剣じゃ無いだろう!?」
 セイバーが鍔競り合ったまま恨めしそうな怒声を上げる。
「ふん。いやいやこれはちゃんとした、剣ではないかセイバー!」
 セイバーの怒声をさらっと流しながらファイターはジワジワと剣に体重を乗せていく。
「ぐお、重っ……どこがちゃんとした……剣、だぁコノヤロウ。
 ちゃんとした剣ってのはなぁこんな妙な異音は鳴らないし、こんな風に刀身回さないし、何より、抉れた様な傷跡は付かねえぞっ!!!」
 
 ───そう、名剣ネイリングは斬ることは出来る。
 しかしそれは斬るというにはあまりに禍々しい、捻り切るという方法でだ。
 ネイリングの斬撃による傷はセイバーが言うように普通の切り傷にはまずならない。
 大気を捻る類の剣とは違い、魔力で刀身が物理的に回っているネイリングはまるで削岩機にでもかけた様な抉れた傷跡が出来るのだ。 
 
 じりじりとネイリングの飢えた牙がセイバーの頭に迫る。
「ぬぉ……おわわ!このままじゃ……顔が無くなる!!」
「安心してくれセイバー。顔だけなんてせこい事は言わぬよ、ちゃんとその体も全部纏めて───真っ二つに吹き飛ばしてやるさ!」
「安心できるかーーーーー!!」
 さらにファイターは体重と力を込める。
 あともう一押しで決着が付く。

「「フッ───ハッ!!!」」
 
 重なる気合。
 止めを刺しにさらに強く踏み込むファイター。
 抵抗する腕の力を抜きさり、敵の剛力に押されるように自ら地面へ背中から倒れこむセイバー。

 次の瞬間───ファイターは剣に掛かっていた抵抗を突然失いバランスを崩した。
「なっ?───ガフッ!??」
 直後腹を襲う衝撃。
 数m後方に流れていく体。
 だがダメージは全く無い。
 今の攻撃は所詮はファイターを弾き飛ばすために繰り出されたただの蹴りだ。
 ファイターの極限まで鍛えられた腹筋は仮にそれが大砲で打ち出された鉄球であったとしても耐え切れるだろう。
 
「ム!思ったよりしぶといな……それとも、貴様の機転による延命か……」
 仕留め損ねた不満を隠さずにファイターが呟く。
「ふぅ、今のはちょっと危なかったぜ?」
 セイバーは悠然と剣を構え直していた。
「関係ないさ。結果は同じ事なのだから」
 ファイターも同じく剣を構え直す。

 ───今度こそ仕留める!
 二人の闘志が今度こそと燃え盛る。

 蹴り足に強く強く力を込め───

「いやそこまでだファイター。撤退するぞ」
 踏み込みはマスターの言葉に遮られた。

「───!?……何故だマスター?!」
 その言葉に困惑するも、決してセイバーからは目を逸らさずにマスターの真意を問う。
「言葉通りの意味だ。恐らく誰かに監視されている」
「………」
 さっきの奴らがまた?と気は張ったままセイバーから目を逸らし視線で訊く。
 しかし遠坂は首を横に振って否定した。
 となると別のマスターか……。

 流石は戦場の礼儀には厚い騎士というところかセイバーは律儀にもファイター達のこの隙を突くような真似はしなかった。

「あのセイバーは強力だ。このまま戦わせればお前の手の内を他のマスターに無償で曝す羽目になる。私としてはそれは避けたい」
「─────」
 仕留め切れなかった悔いはあるがマスターの命令なら仕方あるまい。

 ファイターは異議を挟まずにマスターの所まで下がる。
「逃げる気かファイター」
 セイバーの不満の声がする。
「マスターの指示に従うと決めているからな。マスターが退くの言うのなら私には是非も無い」
 背後のセイバーには振り返らずに断言してやる。

「そういうわけだアインツベルン。
 私は直接対峙した君にならともかく誰とも知れぬ輩に自分のサーヴァントの力を見せる気は無いのでね」
 遠坂はアインツベルンにそう告げると優雅に身を翻し立ち去って行く。
 ファイターも一度だけセイバーを一瞥すると霊体になって主の後を追った。


       ◇       ◇


 遠坂邸までの道を無言で進む。
 ファイターの胸に残るのはついさっきまで行っていた戦いの余韻と仕留め切れなかったという微かな悔恨。

 ……出来るのなら今夜中にあのセイバーをこの手で倒し遠坂殿に証明してやりたかった。

 そう文句無しに強敵だった。
 あのセイバーの正体が非常に強力な英霊であるのはもう間違いないだろう。
 それに魔術や呪布などで一切隠しもせずに手にしていた、あの見事なまでの造りをした煌く剣。
 神々しいまでの輝きと美しさ。
 気配だけでも十分に感じ取れたあのとんでもない切れ味は恐らく『聖剣』の類だろう。
 
 
「ファイター、随分と無口だな。先程の戦闘が堪えたか?」
 唐突に遠坂殿が声をかけてきた。
「いやそういう訳ではない。ただ……セイバーを仕留め切れなかったのが少し残念なだけだ」

 正直に告白する。隠しても意味の無い事だ。

「──────そうか、貴公はまだ気にしていたのか」
 遠坂殿はなにやら呆れたような声を上げると、おまけにやれやれなんて言ってくる。
「む、別に気にしている訳ではない」
 とりあえず反論はしておく。
「そういうのを気にしていると言うのだファイター。もはや証明なんて必要あるまい?貴公は既にちゃんと証明している」
「───?いや、遠坂殿?私はセイバーを倒せなかったのだが?」
「何を言う。貴公は貴公の言葉通り決して最強のサーヴァントとされるセイバーに劣っていなかったではないか。
 むしろ優勢であったくらいだ。少なくとも通常戦闘において君がセイバー以外のサーヴァントに負ける事は無いと判明したのだ。
 私からすればそれがこんなに聖杯戦争の早期に判っただけでも上々の収穫だった」

 そんな事を口にした遠坂殿はどこか清々しい表情をしていた。
「しかし───!」
 なおも反論しようとするファイターを遠坂はやんわりと制止させる。
「別に良い。何も今夜中に証明して見せろと言うつもりないのだからな。それよりも他の連中に君の本当の力を無償で曝す方が問題だ」
 ファイターにそれだけ告げると遠坂は歩みの速度を少し速めた。
 

 この夜に得ることが出来た収穫は隣町に潜む謎の気配と間桐たちが起こした戦闘、そして先のセイバーとの戦い。
 初戦は両者共に手の内を秘したままだったが、それでも全く互角の引き分け。

 我々の出だしはどうやら中々に順調のようだ。







──────Sabers Side──────

 激戦の気配を周囲に漂わせたまま敵が去っていく。

「ファイターを追わないのですかセイバー?」
「ああ。オレ的には追いたいんだけどそうするとマスターをこの場に残すことになるし、
 ファイターのマスターが言ってた事が本当ならまだ他に敵が居るらしいからな。今奴ら追うのはあまり旨くない気がする。
 ───それにあれだけの強さを誇るような英霊だ。今夜決着を付けるつもりなら宝具戦になると思う」

 やっぱ流石にそれはマズイよな?と一応マスターに確認を取っておく。

「そうですね。初戦からいきなり宝具の使用は避けるべきでしょう」
 うむ、やっぱり思った通りの回答だった。
 逃げられたのは残念だが無理に追わなくて良かった。

「しっかしありゃかなり手強い敵になりそうだ。
 所々で手を抜いていた感はあったけどオレが知ってる限りではオリヴィエ並に強いぜアイツ?」
 おまけに宝具だけじゃなく手の内も隠されていた気がするし。
 む~面白くないぞ。

「オリヴィエ?───確か貴方と同等の力を持ってたといわれる親友でしたか」
「そうだ。ついでにオレの親友にして兄貴でもある漢~」
 軽い口調で返答する。

 実際のところあのファイターの強さは確実にオリヴィエ並かそれ以上のモノを持ってるだろうな……。
 オリヴィエほどの剣技は無かったけどその代わりとばかりにパワーがあった。
 ───オレと同じくチマチマした技よりも一気に力で押し潰すタイプかな。

「ではファイターが私達の最大の障害となる相手ですか?」
「う~んそうだなー。他のサーヴァントはまだ見てないけど、オレの勘では多分あいつが最強の敵になるんじゃないか?」
「…………」
「まあそう心配するなってマスター!オレだってまだ手の内も宝具も見せきってないんだぜ?今夜のところは五分だよ五分!
 次に合ったらファイターなんてボコボコにしてやるからそんな顔しないでくれ。
 ……と言ってもいつも通り人形みたいなあまり変化無い顔してるけどさ……」

 それが不満といったら少し不満なセイバーだった。
 このマスターは絶世の美女だけど人間らしさがとても少ない。
 話によると彼女はホムンクルスらしいが感情が乏しいのはそのせいなのだろうか。
 マスターもオードやアンジェリカみたいに笑えばきっと可愛いのに………ちぇっ。

「じゃあマスター次行こうぜ次。ファイターは逃がしたけど他にも敵がいるかもしれない」
 そういうとセイバーはアインツベルンをいわゆるお姫様抱っこで抱え上げて馬車に乗せてやる。
 途中無礼者と言われた気がしたがさっきの戦闘の後遺症が引き起こした空耳に違いない。
 男なら今の罵倒は鉄拳ものだが女に手を上げるなど男の恥晒しも良いところ。
 それに騎士たる者、婦人奉公は大切だしな。


「それじゃ行くぜ。馬の名前は知らないけど、ハイヨーシルバー!」
 馬に鞭を打って戦場には似つかわしくない無駄に豪奢な馬車を走らせる。
  
 
 二人を乗せた無駄に騒がしい馬車はガラガラゴロゴロパカポコパカポコと夜の町へと走り出した。








──────Casters Side──────

 ──────チッ感付かれたか。
 キャスターの工房の一室で瞑想していたソフィアリは目を開いた。

 ソフィアリが放った使い魔にセイバーとファイターの戦闘を監視させようとしたが、どうも敵の警戒網に近づき過ぎたらしい。
 あの赤いスーツを着たマスターがよっぽどの使い手なのか、それとも単に運が良いだけなのか判りかねるが……とにかく彼の監視は失敗に終わったのだ。


 ───アーチャーとの戦闘を終えた後、彼らは即座にキャスターの陣地に帰ってきた。

 ソフィアリが単独で戦ったマトウの実力はそんなに大したものでも無く、
 悪く評価しても半人前程度の実力なんかではなかったが、かといって良く評価しても平均的な力量しかなかった。
 要するに並も並。その辺によく居るような平均的な魔術師だった。

 ソレに対しソフィアリは曲がりなりにも名門も名門のソフィアリ家の魔術師だ。
 魔術回路面の話だけならその辺の魔術師よりは優れていると言えたし、何より彼には他の誰にも無いようなとっておきの武器がある。
 持ち前の魔道の名門の血肉とキャスターから譲られた複数の魔術刻印は彼をトップクラスの魔術師にまで伸し上げることになった。

 間桐の魔術属性はどうも戒めとか強制とかそういう類のものだったようだが、
 その殆どが複数の魔術刻印で武装したソフィアリの防御力の前には通用せず、
 苦し紛れに襲わせて来た小汚い蟲の使い魔の群れは刻印に記録されていた爆炎の魔術で即座に灰に変えてやった。

 ソフィアリと間桐の魔術戦はほぼソフィアリのワンサイドゲームに終わり、もう一撃とどめの火炎を加えようとした時にあの邪魔者が割って来たのだ。

 ────ギリッ!と奥歯を鳴らす。
 あと少しだった。あともう少しでマスターを一人殺せたと言うのに、あのアーチャーめぇ……!
 一時とはいえ完全に失った脇腹を撫で擦り、戦慄する。

 ソフィアリはアーチャーに撃たれた。
 間桐に止めを見舞ってやろうとした瞬間に巨大な矢が放たれた。
 一射目はキャスターが咄嗟に展開した防護結界により防がれたが、続く第二射目を何とか避けようしたが腹に喰らってしまった。
 その隙にアーチャーは間桐を連れて即離脱し、キャスターは自分の傷もそのままにソフィアリの治療を行ってくれたのだ。

 しかし驚く事もあった。
 キャスターの治療魔術だがあのサーヴァントは『世界の書』を使用した形跡が一切無かった。
 という事はあれはキャスター自身が習得した魔術なのだろう。
 驚いた事と言ったらまさにそれだ。
 キャスターはマスターに治癒の魔術はかけなかった。
 彼はソフィアリの吹き飛んだ腹の傷を『治癒』したのではなく『復元』したのだ。

 ───無くなった肉体を元に戻す魔術は治療ではなく復元の域になる大魔術である───。

 それを容易く行うとは余程治癒魔術に特化しているのか、あるいはとんでもなく高度な治癒魔術を習得しているのか。
 …………クリスチャン・ローゼンクロイツの経歴を考えると恐らく両方である可能性が高いだろう。


 そして、キャスターは腹の治療を済ませると自身の傷にも治癒を施し、退却を進言してきた。
 当然、腹の虫が治まらないソフィアリはキャスターの進言を蹴った。
 ……が。
「マスター。やはり本気でサーヴァントの相手をするのならこちらに有利な戦法を取るべきです。
 申し訳ないですが、正直工房外でのサーヴァント戦……ボクの勝算ははっきり言って低い。
 先程のアーチャーとの戦いで確認が出来ました。そう強力ではないであろうアーチャー相手にもボクは手こずりました。
 もし今日の相手がセイバーやランサーの様な接近戦を主体とするようなサーヴァントだったら……間違いなくやられていたでしょう」

 などと言われては流石のソフィアリも引き下がるしかなかった。

 その後、聖霊の家に帰還した彼らは工房作成の続きに取り掛かるキャスターと使い魔で町の監視をするソフィアリとで役割を分担した。
 ───そうして、町に放った使い魔でセイバーとファイターの戦いを僅かだけ監視したのがついさっきの話だ。

 少しばかりの観察だったとはいえ、アレらがキャスターの言う 強力なサーヴァント だというのは彼にも理解できた。
 キャスターとは戦闘力の次元がまるで違う……。

 サーヴァントの戦闘力は単純にステータスだけで判るものではない。
 マスターが見ているステータスはあくまでそのサーヴァントの能力値だけを表わしている。
 どの程度の身体的性能を持つのか、どの程度の精神的性能があるのか、というのを見ているだけにすぎない。
 サーヴァントの戦闘力とは、そのステータスに各自の固有・保有スキルそして戦闘技能、宝具が加わる事で初めて判るものなのだ。
 故に単純にステータス値の低い高いだけではそのサーヴァントが強い弱いとは言い切れない。

 ───だが、それでもあの二体はキャスターとは次元違いだった。
 単純なステータスの差ではない。
 もっと根本的に戦闘技能があまりに違い過ぎる。
 動きなんて全く見えなかったし、理解出来なかったがそれでも本能的にあの凄さが理解出来る。
 きっとあいつらは幻想種と呼ばれる怪物を相手にしたような英雄や、非常に高名な英雄なのかもしれない。
 そう思える程にあの二人のサーヴァントにはキャスターには無い圧倒的な迫力があった。 


 どうやらキャスターの進言は正しかったようだ。
 もしも今夜。あの場所で遭遇したのがアーチャーではなく、この二体の内のどちらかだったら私は、今頃────。
 万が一の起こり得た死という恐怖が背中を這い回る。
 まあ良いさ。少し腹立たしいがキャスターの言う通りだ。
 一番大事なのは最後まで勝ち残る事だ。勝ち残れればそれで良いのだ。なら経緯を問う必要は無い。
 

 再び送り込んだ使い魔で町の監視に専念する。
 
 自分は野蛮な真っ向勝負の決闘を上等とする古臭い騎士などではないのだ。

 そう、経緯を問う必要は一切無い。
 私は魔術師だ。ならばより魔術師らしい戦いをすればいいのだから────。







──────Riders Side──────

 血だらけの騎兵は寺から撤退した。
 一見まるで堪えていないように見えるがライダーのダメージは十分過ぎるほどにある。
 しかし、そんな彼に傷の痛みに耐えさせているのはファラオとしての自尊心だった。
「ハァ、ハァふぅはあ……くそが」
 傷の痛みを我慢し、屈辱を憤怒に変え体を動かす。

 ───おのれ、これがつまらない戦争だと侮ったツケ、か!

 どうやらあのランサーを少し舐めていたらしい。
 だがその甲斐もあってか奴の力量は大体判った。
 あの不可思議な大槍の能力と広い間合い、槍兵特有の速さにさえ十分に警戒すれば勝てる相手だ。 
 ならば次は即行で殺しに───。

 ”────否、駄目だ。”
 それでは甘いのではないか?
 そのやり方では温いのではないか。
 そんな事では恐らくこの聖杯戦争では勝てない。

「勝てない……だと。ふざけるなよ……ふざけるな!!」
 俺様の敗北は即ち、我が最愛の妻ネフェルタリの奪われた亡骸の永遠の喪失に他ならないのだ───!

 そう。絶対に負けるわけにはいかない。
「いいだろう…………この傷の褒美だ。このラメセスの本気の戦争というものを見せてやろう」

 暫らくは他のサーヴァントの観察から始める。
 その後、各自の力量を見極めた上で神判を下す。
 敵の戦力を完璧に把握・分析し、相手の二倍の戦力を以って敵を情け容赦なく完全に叩き潰す。


 エジプトにおいて最も戦争と政治に優れたと讃えられたファラオ・ラメセス二世がついにその本性を現わし始めた。








──────V&F Side──────

助けろ!ウェイバー先生!第三回


F教授「今回は死者が出なかった……不吉だな」
Vくん「……死んでも駄目。死ななくても駄目。どうしろって言うんですか先生」
F教授「いや言ってみただけだ」
槍兵 「そしてまた拙者の出番が無かった……これは贔屓か?」
雨生 「あと俺の出番は?バーサーカーは俺がいないとどうしようもないから置いとくとしても」
Gさん「おぬしらレギュラーキャラは引っ込んでおかんか!喝ーーーーッ!!」
V「……フラット。成仏用の塩を撒いておかなかったのか?」
F「あれぇおかしいですね?先生に言われた通りにちゃんと撒きましたよ俺?」

V「さて現在の戦況だが今回で聖杯戦争の一日目終了だ。にしても早くもバーサーカーを除く六組が戦闘をしているな。
  槍VS騎、弓VS魔、剣VS闘。脱落者は今の所なし。
  各自戦闘結果は槍VS騎はラメセスの敗走。弓VS魔は弓優勢の痛み分け。剣VS闘は引き分け。
  死傷者の総合状況はラメセス中傷、間桐重傷の後何とか回復、沙条翁死亡、トマスタァ死亡だ」
F「サーヴァントではラメセスさんが、マスターでは間桐さんが一人だけ圧倒的にボロボロですね」
V「ラメセスはたらふく蜻蛉切を喰らってたからな。まさに塵も積もれば山となるの典型だ。ラメセスと間桐が早くも危ない」
F「今の状態で他のマスターに襲われたらかなり危険ですね。どうなるんでしょうか?」
V「さあ?」
F「さあ?って先生……」
V「ネタバレは良くないだろう?」
F「なるほど」


~設定の変更について~

V「さて、今更だがこの『FateAS』を読むに当たって一つだけ注意点があるので気を付けて欲しい」
F「まあ当然の様に気付いている人もいると思いますがこのSSは若干の設定変更があります」
V「まず宝具の扱いについて設定変更がある。ベーオウルフのネイリングやローゼンクロイツの勝利の書がそうだ」
F「ローゼンクロイツなんか思いっきり自分の宝具は世界の書一個だけって言ってましたよね。どういうことですか?」
V「本来の型月世界設定を守るための措置だ。少なくともローゼンクロイツは宝具を二つ持つような強力な英雄ではなかったのでな。
  ベーオウルフでも流石に宝具三つは無理だろうと判断しネイリングと勝利の書をオミットした」
F「全然オミットしてないじゃないですか……特にネイリング」
V「だからあくまで形式上の話だ。
  FateASのベーオウルフは本来なら魔剣と鉄腕しか持ってないが遠坂が外部からネイリングを与えるという形で宝具を三つ所有するという状態にした。
  同様にローゼンクロイツの勝利の書も正確にはオミットではなく、使用形式が変わるだけで勝利の書の能力はちゃんと使用させる。
  ま要するに中身自体はまとめサイトの内容とそこまで極端に変わってないということだ」
F「つまり言い回しが変わってるだけで出来ることは同じと言う事ですねー」
V「そういうことだ。次にステータス値についてだが、ローランとベーオウルフのステータスが若干変化している」
F「さり気なく上がってますね……」
V「ローランはセイバークラスにするに当たってセイバー基準値をベースに、ベーオウルフもステータスの増減を加えて修正した。
  まあ身も蓋も無い言い方をすれば作者側の都合だ。
  理屈を付けるならば本文中にあった様にマスター補正によるステ変動があったものと解釈してもらえれば助かる」
F「ホムンクルスのアインツベルンが凄いのはまあ良いんですけど、遠坂さんはそこまで凄いんですか?」
V「マスターの適性力を図で表すと凛>遠坂>時臣だと思ってくれ」
F「あの……凄いマスターは出ない筈じゃ……?」
V「本当ならそうしたかったんだがzeroで時臣の才能は歴代遠坂家当主の中では割と平均ってのがあったせいでこうなった……。
  遠坂のキャラ造形がパーフェクトトッキーになった背景にはつまりそういうのも含めてだったりする」
F「ところでローランさんが敏捷Aなら忠勝さんの立つ瀬が無くないですかね?」
V「その辺については問題無い。
  体力馬鹿のローランと超長距離走やった場合はローランの方が速いが短距離では軽装な分忠勝の方が全然速い。
  クーフーリンとメデューサと同じ関係だな。まあつまりFateASの最速キャラはランサーだ」
F「妙な部分で拘りますよねー」
V「各クラスや各英雄の特色を別の奴で潰してしまうと面白味が削がれるからな」
V「そうして最後に宝具の和名やカナ名が思いっきり変わっている場合があるが、これは完全に作者の趣味だぁっ!!」
F「おおっと、いきなりぶっちゃけたぁぁ!?」
V「『前進する大幻槍』は本多忠勝の前進や直進と言ったキーワードを使いたかっただけだぁっ!
  いやまあ蜻蛉切ってどういう能力?って質問が本スレであったとき見えない槍が前に進んで喰らう感じと言う説明に感動したってのもあるのだがな。
  もう一つついでに言えば一矢千殺とヘアルフデネの名前が変わっちゃったりするぞぅ!」
F「おおっと先生が開き直ったぁぁぞぉう!イヤッホゥ!」
V「まあこの辺のは先も言ったが完全に作者の趣味がモロに反映してるから見なかった事にしてスルーが正しい対処法だ!」
V「それでは諸君また次回」
F「バイバーイ!」