──────Casters Side──────

 コーヒーカップを片手にソフィアリが部屋に入ってきた。
「首尾の方は?」
「先ほどバーサーカー以外の全てのマスターの所在地に対して手紙と使い魔の転送を行いました。
 それからバーサーカーの現在地は調査中です。もう暫らくかかりそうですね」
 キャスターが口にした転送という言葉にソフィアリは口に付けかけたカップを止めた。
「……転送とは空間転移か?」
「ええ」
「もはや呆れるのにも飽きれた」
 そんなことを言ってズズズとコーヒーを啜る。
 勿論この魔術師がキャスターの分なんか用意している訳が無い。
「転送する物が小さかったので簡単でしたよ。
 人間大の大きさになると途端に難易度上がりますけどね」
 キャスターがいつものように小型の眼鏡をクイッと上げる仕草をする。
 恐らく癖なのだろう。

「後は待つばかりか。私たちは召集場所にはどうする?」
「アーチャーに破壊されていない稼動可能な人形を一体、既に配置しておきました。
 あの娘ならここから指示も飛ばせますし他のマスターの使い魔と比べると遙かに強いので」
「ふむそうか。ところで連中、来ると思うか?」
 ソフィアリはコーヒーを啜るのを止めて横目でキャスターを伺う。
「ええ来ますね。まず間違いなく。
 少なくともランサーとファイターのマスターは絶対に来るでしょう」
 キャスターはマスターの問いに対して即答する。
 今彼が上げた名前はバーサーカーの脅威を直接肌で感じた連中だった。
「当人たちが来るのなら我々のように見物していたマスターも来る、そういうことか?」
「はい。そして実際問題として真名が判ったとは言えバーサーカーたちの危険度は依然高いままです」
「確かにな。マスターもそのサーヴァントも問題が有り過ぎる……」
 ソフィアリは雨生たちの愚行を思い返し頭を抱えた。

「ところでマスター。しばらく動きも無いでしょうから今の内に少し休まれては?」
 話が一段落したところでキャスターは休息を提案した。
 霊体であるサーヴァントたちと違いマスターは生身の人間だ。
 体力も消費するし、眠気だってあるし、食欲だってある。
 よって休める時に休むのもこの聖杯戦争では重要な仕事だった。
「そうだな………ああ食事を取って少し休む。後は任せるが何かあったら起こせ」
「ええ。ごゆっくりマスター」
 ソフィアリは部屋から出て行った。
 キャスターの方はそのまま今後の為の作業を続行する。
 魔力の回復とこの工房も早めに完成させなければならない。
 あと出来るだけ早くバーサーカーたちを捕捉しておきたいところだ。
 同盟の集会まで時間を有効に使おう。
 キャスターは集中力のギアを上げ、同時作業に没頭することにした。

 
 ──────。

 そして、約束の時間になった───。







───────Interlude ───────

 1、2、3、4、5体。
 それがこの場に集まった使い魔の数だった。
 キャスターの思惑通り雨生以外のマスターは全員がちゃんと集合してくれたようだ。
 使い魔は翡翠の鳥が1、蟲が1、犬が1、そしてヤドカリが2、人形が1。
 何人かはキャスターの送った使い魔は使わず自前の物を用意してここに送り込んでいた。
 そして、その中心に一際目立つ人形が居る。
 片目が薔薇で出来た人形は五体の使い魔に向かってニタリと笑いかけた。
「ようこそ皆さん。この度は集まってくれてアリガトウ」
 そう言ってちょこんと可愛らしくお辞儀をする人形。
「では早速デスガ同盟についての話し合いをシマショウ」
 その言葉をきっかけに五体の使い魔の空気が変わった。
 各マスターは使い魔の視覚を奪ってこの様子を見ているのだろう。
「まずはミナサンのサーヴァントのクラスを言って頂戴。それが話し合いに参加する資格よ?
 こちらと通信するための使い魔はちゃんと送っている。もしそれが出来ないのなら退出していいわ」
 またもニタリと笑みを浮かべる薔薇人形。
 するとバサバサと翡翠の鳥が翼をバタつかせた。
 蟲がビチビチと跳ねる。
 犬が唸る。
 ヤドカリがカタカタと動く。
 だが誰も帰ろうという気配はない。
「フフ、あら帰らなくてイイノ?じゃあまずは公平にワタシからね。キャスターよ。さあ次は貴方ね?」
 そうして人形は翡翠の鳥を指差した。
 答えろ、ということのようだ。
「…………」
「答えられるハズヨ?出来ないのなら貴方はここまでね。ちなみに嘘の場合でも退場ヨ?」
 そう言って人形は翡翠の鳥に向かって手を振り上げる。
 それは答えなければ使い魔を破壊して強制退場させるという人形の意思表示だった。
「……………ファイターだ」
 しばしの沈黙の後しぶしぶといった風な声音で男が返答した。
「そうファイターね、貴方は?」
「……………ランサー」
 若い女の声がヤドカリからした。
「アーチャーだ」
 今度は蟲が男の声で返答する。
「セイバー……」
 犬が無感情な女の声でセイバーと答えた。
「……ライダー……」
 最後にヤドカリから低い男の声が答えこれで全員のクラスが答え終わった。

「はいご苦労様。アサシンのサーヴァントは今回は居ないのね……ガッカリ」
「それどういうこと?」
 即座にヤドカリの少女が質問する。
「その質問には後で答えて上げるから今度は自分のサーヴァントの性別をイッテネ?」
「今度は性別だと?さっきのといいこれといいそれがどうした言うんだ」
 よく判らない問いを連続して投げてくる人形に蟲も食って掛かった。
「大事なコトナノヨよ?それが判らないと話が先に進まないワ」
 人形はまたしても腕を天井に向かって掲げる。
 その小さな手はしっかりと握り拳が作らていた。
 まるでさながら鉄球のよう…に見えるわけが無い。
 なにせ人形の大きさとビジュアルがビジュアルだからだ。
 しかし仮に答えたくないのなら答えなくてもいいのだろうがその場合は強制退場するはめにはなるだろう。
 それに性別なら特に問題もない。
 そういう思惑の元、人形の言葉に全員がしぶしぶながらも返答した。
 回答は全員『男性』だった。
「アアアなんてコトなのお父様!?女性サーヴァントが居ないワ!!?お姉様達ワタシどうすればいいの!?」
 皆が口を揃えて男性男性と返答したせいなのか人形がオロオロと狼狽していた。
「早く説明をしてくれなくって?」
 だがそんな人形の憐れを誘う姿も知った事じゃないと言わんばかりに犬が女の声で生意気にも上品な台詞をはく。
「同感だ。まさかこれだけとは言わないだろうな?」
 蟲も苛立たしげにビチビチ跳ねながら文句を口にする。
「うんソウネ。ハイお父様ワタシに任せて!ね?ガンバルから私!」
 他の連中の文句を受けてかそれとも主人の命令でも受けたのか人形は突然オロオロするのをピタッと止めた。
 それからくるりと五匹の使い魔たちの方へと向き直り、結論だけを簡潔に述べた。
「まず結論からイウワ。バーサーカーの正体はヘイドレク、宝具は男殺の魔剣ティルフィングよ」
「へ?」
「なっ──!!?」
「───!?」
「ほう……」
「─────」
 突然の発表にそれぞれが違ったリアクションを見せる。
 二人かは驚き、一人はあまりの唐突さに呆け、そして一人は感心し、最後の一人は無言だった。
 しかし人形はそれらの反応を全て無視して話を先へと進める。
「まず各自のサーヴァントのクラスと性別を訊いたのはヘイドレクの弱点が暗殺者で、ティルフィングの弱点が女だから」
「………バーサーカーの正体を言ってからでは駄目だったの?」
「虚言の可能性がある。そうなると話が進まん」
 女声のヤドカリの質問に男声のヤドカリが答えた。
「あ、なるほどね。アサシンのサーヴァントが居ないのにアサシンだって言われても何の解決にもなってないものね」
「そういうコトヨ。アサシンか女サーヴァントが居ればそれで解決だったけど───」
「これでは普通の同盟とそう変わらないわね」
 人形の言葉にお嬢様な犬が口を挟む。
 人形は犬の方へ視線を送った後、改めて全員を見渡しマスターたちが飛び付くであろう問題点を切り出した。
「デモ手を組んでいる方がいいと思うわ。
 バーサーカーのますたーは一般人を生贄にしてさらに魔術を秘匿してないもの」
「オイオイ……それってなあ!マスターヤバいだろ!?無関係な人間に犠牲者が出てるだと!?」
 その問題発言に過剰反応する犬。さっきの女とは別で今度は男の声だ。
「それに魔術を秘匿してないってどういうことよ!?」
 ヤドカリからも女の甲高い声が響いている。
「ダカラその為にも同盟を結びたいと考エテいるノ。
 バーサーカーたちはとてもキケンよ?出来れば早めに排除した方がイイワ」
「それ本当なの?」
「バーサーカーのマスターの凶行は本当だ。それに危険度も本当だろう」
「実際ファイターが負けておるからな。ところでバーサーカーのやつの能力値は判らんかファイターのマスターよ?」
 蟲が相槌を打ちながら翡翠の鳥に問いを投げる。
 いつの間にか蟲の声が野太くなっている。
 こちらの蟲もどうも先程の声とは違う別の男のようだ。
「バーサーカーの能力値は筋B耐C敏C魔D幸D宝Aだった。
 しかし、宝具使用時には筋A耐B敏B魔D幸D宝Aまで跳ね上がっていたのを確認した。
 この数値にティルフィングの属性である男殺が加わると一体どれだけの威力を発揮するか──」
「うげっ!宝具使用時の能力値そんなにあるんかい!?ステータスだけなら一流所の英霊と変わらんぞ!!?」
 そんな鳥の回答に蟲が野太い声の男の声で悲鳴を上げていた。
「どうかしら?みんなにメリットはアルと思うわ。
 ああそうそう、でも同盟の際にはこの書類にサインをして貰うわ」
 人形がポケットの中から一枚の紙切れを取り出し皆に見せた。
「それはなんだ?」
「コレは今回の同盟を成立サセルタメのアイテムよ。お父様であるキャスターも既にサインしテルワ」
 人形は洋紙に書かれたある手書きのサイン文字らしき部分を指で示す。
 なんて書いてある字かは判らないがそのサインには確かに魔力が篭っている。
「具体的に言え」
「端的に言えば裏切りを防止する為の契約書。
 最低でも一度は自分以外の同盟者と共にバーサーカー退治に協力しナイと罰則を負うというものヨ?」
「罰則とは?」
「その人にとって二番目に大切な物を失うノ。それは命だったり身体だったり魔術回路だったりと人ソレゾレ。
 でも一回でもバーサーカーと皆で戦えば何も問題はナイわ。
 契約の期間もバーサーカーを倒シタラそこで契約終了、ネ簡単デショ?」
「本当だろうな?」
 この場にいる全員の胸中を代弁するように蟲の主が疑わしげな態度を取った。
 はっきり言ってかなり怪しい。
 もし怪しまないようなマスターがいるのならそいつはただのアホだろう。
「何ならこの契約書は気が済むまで調べても構わないわよ?」
 だが人形は他の連中のそんな態度など気にも留めていない様子である。
「……少し考える時間を頂ける?」

 その犬の声をきっかけにしばらく場に無言の時間が流れる。
 それぞれが考えるたりや相談したりしているのだろう。
 そして誰からともなく各自それぞれがその契約書に不審なところが無いか丁寧に調べていく。

 ───。
 ─────。
 ────────。

「もういいぞ」
「わたし達も決まったわ」
「こちらもだ」
 そうしてようやく結論が出たのか無言だった使い魔たちが再び言葉を発しはじめた。
「もうイイノネ?じゃあ答えを訊かせてもらおうかしら?
 ───対バーサーカー同盟を結ぶ?結ばない?」

 この会合中初めて耳にする真剣味を帯びた声。
 真剣な音を発する薔薇人形はその声同様に表情も真剣な様子で五匹の使い魔たちを見やった。

「組むわ」
「同盟を組もう」
「同じくだ、組む」
「私たちは降りる」
「同盟を結ぶことにするわ」

 同盟を組むと回答したのが四人。
 そのうち一人が、つまりライダーのマスターのみが同盟を結ばない方向で決定した。
「そう、それじゃライダーのマスターは退場ネ、えい!」
 人形はグシャリとヤドカリらしき形をした使い魔を容赦なく踏み潰した。
 粉々に砕け散るヤドカリ。

「さてとジャア同盟を組むマスターはサインをして頂戴?」
 そうして人形は判子のような物とインクのような物を書類の前に置いた。
 それぞれの使い魔たちはフラフラプルプルとしながらもなんとか契約書にサインを押す。

「ハイじゃあこれで同盟成立ね」
 洋紙にしっかりと刻まれたサインを確認して薔薇眼人形はニッコリと笑った。
「トリアエズ早ければ明日にでもバーサーカーたちを誘い出して皆で集中攻撃して倒す予定にしてるの」
「明日とはまた随分と急な話だな」
「だってジカンが経てば経つほどバーサーカーが力を付けちゃうし、ヒガイも大きくナルモノ。チガウ?」
「………確かにそうね」
「ではその誘い出すのはどうやるんだよ?」
「その辺りの事はお父様に任せて。今バーサーカーのマスターを捜索中だから」
「捜索中って……見つかってないの?」
「バーサーカーのマスター……雨生はどうも特定の場所に工房を建設せずに民家を常に移動して回っているようだ」
 人形に変わって翡翠の鳥が横合いから口を挟む。
「ふ~ん。魔術師の癖に変わった事するのねそいつ」
「なら連絡はどうするんだ?」
「バーサーカーのマスターたちを見つけ次第、即座に行動開始するとお父様は言ッテイタワ。
 だから見つけ次第こちらからまた今日みたいに連絡を入れるわ」

「───他のマスターもその方がイイデショ?」

 最後に人形が含みのある言葉を口にしてこの会合は終了した。




───────Interlude  out───────

 マスターたちの会合が終わると同時にソフィアリが忍び笑いを漏らす。
 だがそれはすぐに大笑へと変わった。
「ふ、ふふふ。くくくくく、は、はははははははははっ!!
 やった!やったぞ!見事に予定通り、思惑通りじゃないか!!ははははは!」
 ソフィアリはまさに自分たちの思惑通りに事が進み愉しくてしょうがないと言った様子だ。
「ですがマスター、本当にあれで良かったのですか?」
 しかしキャスターの方の表情はソフィアリ程晴れやかではない。
「構わん。むしろ真面目に同盟を結ぶ方の頭がどうかしている。
 魔術戦とはすなわち英知の戦い。智謀知略による競い合いでもあるのだ」
「まあそれはそうなのですけど」
 そこまで説明してやってもなおも歯切れの悪いキャスターにソフィアリは少し不愉快そうな表情をする。
 折角の上機嫌に水を差された気分なのだろう。
「他者の力を利用する。そもそもこれは貴様が言い出した事だろう?」
「ええまあ……」
「ならば問題はあるまい。
 他者の力を利用して敵を討つのも、他者を利用して同士討ちを狙うのも同じ事だ。
 私は最後に私が勝つための知略を練っているにすぎん。
 サーヴァント如きにマスターの方針をとやかく言われる筋合いは無い!」
 そうぴしゃりと言い切りソフィアリは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 元々この同盟の主旨は危険因子であるバーサーカーを集中攻撃して早めに潰すという単純なものだった。
 だがマスターであるソフィアリの姦計で裏でマスター達の同士討ちを狙った表向きだけの同盟へと方針を変更した。
 表では対バーサーカー同盟を結んで協力関係を装い、裏ではバーサーカーを餌に他のマスターの足を纏めて掬うという策略。
 殺戮を繰り返すバーサーカーとそのマスターを一刻も早く排除したいキャスターにとってはそれが若干不満であった。
 だがそれも令呪を持つマスターの命令では従うほかに無い。
 バーサーカーのついでに他の連中を纏めて蹴落とす方向で何とかするしかないだろう。

「そんなことより同盟の契約の首尾は?あれでちゃんと契約を結べているのか?」
 そっぽを向いていたソフィアリがふと思い出したようにキャスターの方へ向き直る。
 今の会合の際に魔術師として思うところがあったのだろう。
 その証拠に彼は同盟の契約についての疑問ばかり口にしていた。
「それについてはご心配なくマスター。ちゃんと事前に仕掛けを施してしきました」
 キャスターは眼鏡のズレを直しながら柔和に微笑みかける。
 その表情にはどことなくその質問を待っていましたといったものが混ざっていた。
「あれは書類にサインした時ではなく『同盟を組む』や『同盟を結ぶ』と言ったキーワードを口にした時に契約が成立するんですよ。
 わざわざ会話が出来るように場を調えたのもマスター本人の音声を利用し契約を結ぶためでした。
 マスターの考え通り使い魔越しのサインではとてもあの効力の契約なんて結べませんからね。
 ですが声とはあくまで本人のモノです」
「…………それは……本当か…?」
「ええ。尤も、マスター本人があの場に来ていれば建物に入る際に気付けていたかもしれませんけどね?クスクス」
 そうしてキャスターは口元に手を添えて上品に笑った。
 それはマスター本人が直接その場に来る訳がないと確信を持った上で張られた罠であった。
 マスターたちの心理はものの見事にキャスターに読まれていた事になる。
「いったいあの会合だけでいくつの罠を張ったんだお前は……?」
 ソフィアリの表情はキャスターの微笑とは対称に硬い。
「フフッさて、それは秘密ですよ」

 キャスターの笑みはどこまでも優しく柔らかだ。
 だが、だからこそソフィアリは背筋に寒気がする想いだった。
 誰よりも優しく微笑する癖に、この魔術師は自分よりも悪辣な智謀知略に長けていたのだから。

「……ところで罰則がかなり曖昧だったのだがそういうことも出来るのか?」
 ソフィアリは気を取り直してもう一つ気懸かりだった罰則の件を訊いてみた。
 もうこの際だ。もう訊けるだけ訊いてしまうのがいい。
「罰則で失うものは命ですよ、本当はね。
 ですのでバーサーカー退治を一度は他の同盟者と共に行わなければ命を落とします」
「ならば何故あんな嘘を言った?」
「ある部分に警戒心を煽っておけば他の部分が見えにくくなるからです。
 それに案外こんなもの嘘に決まっていると高をくくってポックリ逝ってくれるマスターも居るかもしれませんよ?」
 しれっと、答えるキャスターにマスターは引き攣った表情を浮かべた。

 そんな強張ったマスターの表情にまるで教え子に微笑みかける師のように柔らかな笑みで返す。
 魔道を極め、その果てに英霊にまで上り詰めた魔術師はこんな事を言って話を締め括った。
「如何にも虚偽とも思える事柄にこそ真実を隠す意味があるんですよ。神秘も同じです」

 
 契約など嘘だと決め付けてくれれば勝手に死んでくれる。
 契約を信じて警戒してくれれば裏で用意しているこちら策略を隠せる。
 これはどちらに転んでも自分たちには良しなのだ。
 つくづくキャスターが敵じゃなくて良かったと思うソフィアリだった。


「それにボクは嘘なんて言ってませんよ。だって魔術師にとって一番大事なものは命ではなく魔道でしょう?」







──────Lancers Side──────

 昨夜から怒涛の展開になったがようやく会合が終了した。
 通信を終了させ沙条綾香は大きく息を吐き出した。

 さて、いま自分たちが置かれている状況を少し整理してみようか?

 まず昨日わたしたちは初陣を果たした。
 戦果は微妙なものだったけど取りあえずは生き残ってるし良しとしよう。
 戦った相手はファイターのサーヴァント。
 英雄らしく立派な顎髭に風格のあるマントに体格の良い長身と見るからに強そうな感じだった。
 ううん実際に怪物みたいに強かった。
 いやこの場合は怪物よりは勇者と言った方が適切だろう。
 なんて言ってもサーヴァントは英雄なのだから。
 ランサーの方もあれだけの能力値の差をもろともせずに本当に良く奮闘してくれた。
 おまけにちょっと押してたんじゃないかなとも思う。
 少し身内贔屓な意見ではあるんだろうけど。
 でも戦いは引き分けに終わってしまった。
 だから……彼の足を引っ張ったのは明らかにマスターである自分だ。

 えと確か……そうだバーサーカーの乱入と入れ違いに自分は倒れたらしい。
 しかも理由はランサーの魔力供給の負担に耐え切れずに。
 これってちょっとマスターとしては論外なんじゃないだろうか?
 流石にちょっと落ち込みそうだけど、とりあえず落ち込むのは後にしよう。

 それからランサーに担がれて寺まで撤退しようとしたんだけど、
 そのまま撤退せずにランサーをバーサーカーの偵察に向かわせたのを覚えてる。
 で、まさかのファイターの敗北をランサーに聞かされてから、その後ようやく龍洞寺まで戻って来た。
 そして肉体的にも精神的にも疲労困憊だったわたしはそのまま気絶するようにダウンした。
 あまりに疲れてたせいでいつもよりも寝入っちゃってて……そうだ、妙な物を持ってきたランサーに起こされたんだ。
 それでランサーが持ってきたよく判らないヤドカリ風な物体と手紙を見ながらああだこうだと言い合って、
 結局話し合いの結果手紙の話に乗ることに決めて会合場所にあのヤドカリっぽい使い魔を送った。
 ───ちなみにあのヤドカリを使ったのは使い魔が用意できなかったからよ、なにか文句ある?

 ……んで。気付けばこんなことになってるんだっけ?

「主殿ー?おーい主殿ー?あるじどの~」
「ハッ!?しまったボーっとしてた!」
 霊体化した状態のランサーが話しかけてくる。
 そのおかげで意識がこちら側に戻ってきてくれた。
「なにランサー?」
「大丈夫でござるか主殿?ちゃんと話に頭がついてきているか?」
 少し心配そうな声でランサーが聞いてくる。
 連続でバタバタしてたからランサーの方もついていくのが大変なのかもしれない。
「そういうランサーは?」
 だから確認の意味も込めて逆に聞き返してみた。
「拙者の方は大丈夫でござる、こういうのは生前に何度かあった故」
 流石は徳川きっての侍大将。実に落ち着いたものである。
 こういったてんやわんやにも馴れたものなのだろう。

「ま要点だけ纏めると対バーサーカー同盟を結んだことになるんだけど……さっきの話し合いどう思った?」
 綾香は素直にランサーに感想を求めてみた。
 変に自分一人で考えるよりはランサーにも訊いた方が絶対にいいというのはこれまでの経験でもう判り切っていた。
 もしかしたらこの侍はこういうことにも頼りになるかも知れない。
「むむむ~若干きな臭い感じはする……。
 しかし拙者たちだけではバーサーカーを倒すのが至難なのもまた事実。
 よって一時手を組むのは妥当でござる」

 ランサーは魚の小骨が喉に引っかかったような腑に落ちないものを感じてはいるようだが、
 とりあえずこれで正解だと言ってくれた。
 その言葉に綾香の表情も穏やかなものになる。

 さっきの密会で判明したバーサーカーの正体とその能力。
 確かにランサーの直感通り男性であるランサーでどうにかなる相手じゃない。
 あの魔剣を使われた時点で能力差的にも相性的にも敗北が確定してしまう。

「そうよね。……あそうだ!バーサーカーの相手をわたしがするのじゃ駄目かしら?」
 不意に頭に思い付いたアイディアを口に出してみる。
 これぞ発想の逆転!
 男が駄目なら女が戦えばいいじゃない!
 西洋のどこぞの王侯貴族様ありがとう。
 今は幸運なことに米もパンもどっちもあるわ。
 アンタの時は米が無いのにパンが有る訳無いだろうボケ!!な状態だったらしいけどさ。
「はぁ………………本気で言ってるんでござるか主殿?」
 しかしそんなナイスアイディアにランサーは呆れたような声で溜息をついている。
 忠実な家臣殿は当然のように却下と言いたいらしい。
「でもバーサーカーの魔剣は女が弱点なんだから女のわたしが相手をするのが一番良いんじゃない?」
 綾香も負けじと言い返した。
 発想自体はそんなに悪くない筈だ。
 多分ランサーが難色を示しているのは男の誇りとか女人戦うべからずみたいなものからじゃないだろうか。
 しかしその予想は全く的外れだった。
「なぁ主殿……真面目な話、主殿が相手なら魔剣を使うまでも無くバーサーカーのパンチ一発で死ぬと思うのだが?」
 ランサーはその後、只でさえ狂化して攻撃力が上がってる上にスキルの恩恵で格闘能力まで上がっているのだから……。
 とも付け加える。
「あ……。あちゃぁ…それじゃ駄目よね……」
 綾香は自分のマヌケなアイディアについ手で顔を覆った。
 穴があったらお爺ちゃんと一緒に埋まりたい。
 ランサーも綾香の様子に苦笑いしているのが気配でわかる。

 つまるところいくら女性だろうとマスター程度が相手ならばハンデにすらならないって事だった。
 なにせ冗談抜きで綾香がバーサーカーの相手をしたらジャブで死ぬであろう事が容易に想像が付くからだ。

「それよりも主殿。拙者的にはこちらの方が気になっているよいか?」
「え?なに?」
「あのキャスターとの契約だが、安全なのでござるか?」
 不審気な面持ちでランサーは先の会合で一番気になっていた事を主人に問う。
 同盟の契約。しかも条件を守れない場合は罰則で何かを失う契約だ。
 ランサーは魔術関係の話には強くない分、聞ける時にちゃんと聞いておかなければならない。
「ん~………たぶん?」
 だが当の綾香本人は首を傾げて少し自信なさそうにしていた。
 いやどちらかと言うと、まあ何とかなるんじゃない?な感じの印象だ。
 その微妙に開き直った感が漂う表情がなんともランサーの不安を煽る。
「た、多分ってあ、主殿ぉ!!?それ本当に大丈夫なんでござるかぁ!!?」
 ランサーが素っ頓狂な声を上げて詰め寄る。
 あ、ランサーが珍しく変な声出してる面白いなぁ。
「大丈夫大丈夫。大体あの契約適当すぎるのよ。
 ただ判子押すだけで何か大事なものを取られるほどの強制力を発揮出来るわけないじゃない?
 自分の血液でサインしたり、自らの手で判子押したわけでも無いんだし。
 強制系の魔術って実はかなり難しいもんなのよ?」

 綾香の方も自分の中にある魔術理論を元にあの契約が如何にお粗末であるかをランサーに説明する。

「はぁ……しかし相手はキャスター……」
「だから大丈夫だって。契約書にも妙な所も妙な文章も無かったんだし。
 わたし様子を見る為に最後にサインしたんだけどさ、他の連中だって同じようにサインしてたわよ。
 仮にもし契約が成立してても一回でも他のマスターとバーサーカー退治に協力すればそれもチャラよ」
「少々迂闊過ぎではござらんか?」
 あまりに迂闊すぎる行動を取るマスターにランサーは少々ご立腹の様子だ。
 もっと慎重に行動してくれなければ何が命取りになるか判らないのが聖杯戦争だ。
 おまけにランサーには魔術師たちと魔術戦を行うだけの力は無い。
 もし魔術による搦め手を受けた場合いざという時にどうしようもない。
 だが綾香の方も負けてはいなかった。
「何言ってるのよ?あの場面で手を結んでなかったら逆にこっちが危ないわ。
 只でさえバーサーカーとは相性最悪な上にわたしたちは方針上の問題で調査中にバーサーカーに襲われる可能性も低くないんだし。
 もしあそこで蹴ってたら後から同盟を結ぶ時に絶対こっちに不利な条件を突きつけられてたわよ?」
「……それはそうだが……しかし!」
 なおも言い返そうとするランサーに綾香は止めになるであろう言葉を突きつけた。
「それに!バーサーカーのマスターは関係ない人間を襲ってるわ。
 誰がなんと言おうとバーサーカーたちは早めに叩くのが正解よ!
 それともランサー、まさかあんたバーサーカーのマスターの凶行を知らんぷりする気?」
「む……。そう…でござるな。ふぅ、あい判った、拙者主殿の方針に従うでござる」
 そんなことを言われたらランサーが折れるしかない。
 やはり彼としても無関係な人間が殺されるのは放っておけないのだろう。
「うんよろしい!それじゃとりあえず今日の予定なんだけど───」
「今夜は当然無しでござるよ?まず回復するのが先決也!」
「ちぇっ」
「……ぷっ…!」
 その掛け合いがおかしかったのかどちらともなく笑い合う。

 とにかくまずはバーサーカーの問題を片付けるのが先決だ。
 複数のマスターが協力すれば流石のバーサーカーもイチコロだろう。
 そのためにはランサーが言うようにまず魔力の回復をしっかりしなければいけない。
 幸いこの円蔵山は極上の霊地だ。
 おかげで魔力の回復速度が沙条の家のそれとは雲泥の差だ。
 これならきっと短時間で回復出来る。
 だから今はしっかり休息を取ろう。
 すぐにでも訪れるであろうバーサーカーとの戦いに備えて。







──────Sabers Side──────

 アインツベルンは会合が終えると同時に通信を終了した。
「妙な事になったな。マスターどうする?」
 犬の使い魔を送り出してからずっと眼を瞑っていたアインツベルンがようやく眼を開らきセイバーの方を見やった。
「貴方の意見はセイバー?」
 貴婦人の真紅の瞳が聖堂騎士の碧眼を見つめる。
 彫刻のような美貌を持つ二人が見詰め合う姿はとてもに絵になっていた。
「一刻も早くバーサーカーを倒す。罪無き人々を殺すなど赦して良いことではない!!!」
 セイバーはきっぱりと断言した。
 その言葉には明確な怒りが籠められている。
 彼ら真っ当な英霊からすると雨生たちが行っている事は言語道断な悪なのだろう。
「ですがまだバーサーカーの居場所は掴めていないそうですが?」
 しかし感情を露わにするセイバーとは対照的にアインツベルンの方は相変わらずの表情だった。
 セイバーがまるで火のようならば、アインツベルンはまさに氷といった具合だ。
「なら自分で探すとか!」
「それは却下します。まだ外は明るいですし、そもそも貴方は探索用の魔術などを持っていないのでしょう?」
「ああそんなもの持ってない」
「ならばなおのことキャスターたちからの連絡を待ちます」
「しかしこうしている間にも誰かが──!」
「駄目です。連絡と入れ違いになったする場合もあります。
 それにセイバー。もし貴方が人に見られた場合、目撃者を排除する必要性があるのは判っていて?」
「う……」
 騎士はなおも食い下がろうとしたが、流石のセイバーもそれを言われては押し黙るしかない。
 魔術師が目撃者に対して徹底的な隠滅活動を行うのはローランも知っていた。
 もしセイバーが誰かに見られればアインツベルンは冗談ではなく証拠隠滅をするかもしれない。
 セイバーはこの美しいマスターが無関係な人間を殺めるところは絶対に見たくなかった。
 
「……でもさそのキャスターって信用出来るのか…?」
 まだ納得がいかないのかセイバーは不満げな顔でぼやく様に呟いた。
 だがその眼は表情とは裏腹に真剣そのものだった。
「というと?」
「なんかかなり胡散臭い感じがするじゃないか。マスターは感じなかったのか?」
「いえ私は特には」
 同意を求めるセイバーにアインツベルンは首を横に振った。
 どうやら彼女は特にこれと言って不審なところは感じなかったらしい。
「また勘ですか?」
 アインツベルンの方もセイバーの傾向に慣れてきたものですぐに彼の考えを察した。
「うん。なんか引っ掛かるんだ。なんか罠臭い気がする」
「ですが話の内容や契約の内容も特に問題は見られませんでした。
 同じく契約書にも不審な点はありませんでした。ですからそれは貴方の気のせいではなくって?」
 セイバーの不信感を拭う様にアインツベルンは断言した。
 ホムンクルスであるアインツベルンはこと魔術に関しては折り紙付きである。
 その彼女が特にこれと言ったものを感じなかったと言う以上は気のせいなのかもしれない。
「う~んそうかなぁ?」
「それにこの同盟は私たちにも組む利点が一応あります。
 バーサーカーへの共同戦線を張ればこちらの危険度を減らせます。
 場合によっては他のマスターにバーサーカーの相手を任せてしまっても構いません」
「そういう卑怯な真似は駄目だマスター。大丈夫!バーサーカーの奴はちゃんとオレが倒すから安心してくれ!」
 マスターの案をさっくり拒否してセイバーは一人気炎を上げる。
 その燃え上がりっぷりは無駄にやる気満々といった具合で、
 放っておけば自分一人でもバーサーカーを倒してやると言い出しかねない勢いであった。
「とりあえず連絡が来るまで待機です、いいですね?もし勝手に動くようでしたら令呪を使用します」
「お、おう……」
 いつもより強気なアインツベルンにセイバーもコクコクコクと首を縦に振る。
 それで話し合いは終わりセイバーたちの方針は決まった。


 先ほどセイバーはこれを罠かもしれないと言った。
 もしかするとそれは当たっているのではないだろうか。
 なにせマスター達が考えそうな事をたった今アインツベルンも思い付き、
 その思惑通りに動いてくれそうな駒がアインツベルンの目の前にいるのだから……。

 だが、その事実にアインツベルンは気付いていなかった───。







──────Fighters Side──────

 サプライズはあったがトラブルは特になくマスターたちの密会は終了した。
 遠坂は自分の使い魔に帰還命令を出して嘆息を一つ。
「やれやれ。まさかキャスターに先手を打たれるとはな」
 キャスターがバーサーカーの真名をああもあっさり他のマスターに洩らすとは予定外だった。
 おかげでバーサーカーの情報を有効利用して他のマスターよりも優位に事を運ぶ計画が台無しになってしまった。
 しかしその代償に得られたものもあった。
 なら細かいことは言いっこなしにするべきであろうか。

「この後の方針はどうする遠坂殿?」
 遠坂の傍らに霊体状態で控えていたファイターが声をかけた。
 会合中の遠坂陣営は特にこれといった相談もせずにマスターである遠坂が一人で話を進めた。
 一方のファイターも特にこれといった口も挟まずに己のマスターの行動を見守っていた。
「とりあえずはキャスターの連絡を待つつもりだ。
 こちらはどうせ今すぐに動けるような状態ではないからな。
 連絡の内容次第でその後の行動を決める。
 ところで───ファイター傷の方はどうだ?」
 そこまで口にした後、遠坂はあれからずっと懸念していた事項をファイターに訊いてみる。
 本当なら夜が明けてからすぐにでも訊かなければいけない事だったが、出来ればあまり聞きたくない話でもあった。
 なにせもし全く変化がないと言われでもした場合、次に打てる手が特に無いのだ。
 とは言っても、これ以上先延ばしにするのも無理だろう。
 聞きたくは無いが聞かなければならない。
 その回答次第によっては令呪を使って援護する必要も出てくる。
 いくらタフネスとはいえファイターの体力にも限度はある。
 ほんの僅かでも事態が改善されていなくては困る。
 さて、ファイターはなんと答えるだろうか?

 だがそんな遠坂の不安を消し飛ばすようにファイターは問題なしと力強く言った。
「順調だ。見事に遠坂殿の予想通りだったよ。夜明けと共に呪詛は薄れていった。
 あれは夜間に効果のある呪詛だったのだろうな。
 昔は日中に戦争し夜は休憩な形式だったからこの呪詛は実に合理的だ。
 今は魔剣の呪詛による治癒阻害効果が無くなったおかげで今は傷自体は大分塞がっている。
 あとは消費してしまった魔力の方を回復出来ればそれで元通りだ。
 そうだな──現状だと三割程度、と言ったところかな?」
 どうやら推測は当たってくれたらしい。
 それを聞いて遠坂はほっと胸を撫で下ろした。
「ならよし。下手すると明日にでも行動を起こさなければならなくなる。
 三割程度ならば一応は動けるだろう?」
「ああ。戦闘もまだ十分いけるラインだ。いざとなれば戦闘続行スキルのバックアップもある」
 流石は怪物退治のスペシャリストたる闘王様。
 三割程度の状態でもまだまだご健在の様子だった。

「ところで遠坂殿あのような契約を結んでよかったのか?相手はキャスターなのだぞ?」
 自分の現状を説明し終えると、ここで初めてファイターはマスターの決定に口を挟んだ。
 だがそれは異議と言うよりは確認と言ったニュアンスが強い。
 そのことを察した遠坂はやんわりした口調で返答する。
「虚偽は無いだろう判断した。そもそも契約内容に虚偽があれば契約が成り立たないからな。
 それに契約書や印鑑にも特に問題は見られなかった。あれでは何の魔術効果も持たない。
 キャスターとそのマスターも一体何を考えてあのような無意味なことをしたのか私には理解できん」
 そう答えながら遠坂は紅茶をカップに注いで一口つける。
 実際特に問題が無いから他のマスターもサインしたのだろう。
 よって断定しても良いあれは無害だ。
「まあ遠坂殿がそう判断するのなら構わないのだが……あの罰則の方は?」
「仮にあの罰則が本当だとしても消耗している今の我々には好都合だろう。
 これでバーサーカー相手に切り札を晒す事無く、状況次第では無傷で倒せるチャンスが出来たのだ」
「確かに他のマスターと協力して闘えば切り札を使わずともバーサーカーを倒せるとは思うが……」
 果たして素直に共闘することになってくれるだろうか?
 腑に落ちない様子のファイターに遠坂はピシャリと話を打ち切り別の話題に持っていった
「ならば問題はないさ。
 しかし少々予定外の出来事ではあったが全てのクラスを知ることも出来た。
 その点だけはキャスターたちの行動に称賛を贈ってもいい」
 顎の髭を指先で遊びながら遠坂はその情報を素直に喜んでいた。
 この聖杯戦争にアサシンクラスが居ない。
「───アサシンが今回居ないのは我ら遠坂が勝つ為の最大の後押しになるだろう。
 これで今までのように背後と影を警戒して動く必要も無い」
 なにしろアサシンが居ないことで自分たちが暗殺される可能性がガクンと減ったのだ。
 この話を喜ばないマスターはまずおるまい。
 遠坂がキャスターたちを褒めたくなる気持ちもよく判るというものだった。

「しかし逆を言えばアサシンか女性サーヴァントが今回居たらバーサーカーは簡単に倒せたと思うと少々複雑だな」
「なに自分で召還していない以上はアサシンや女サーヴァントが居ても居なくても結果は同じだ」
 だが少々複雑そうなファイターの言葉を遠坂はアッサリと否定した。
「私がアサシンのマスターだったならばバーサーカーは放っておいて別のマスターを叩くだろうからな。
 バーサーカーの宝具が強力な分、雨生たちは利用価値がある。
 おめおめと自分たちのアドバンテージを殺してまで他のマスターの走狗になるマスターなど居るとは到底思えない」
「そういうものなのか?」
「フッ。ファイターいいかね、魔術師なんてものは皆、利己的な生き物だよ。
 それは──私も含めてね」

 遠坂は最後に、さもつまらなそうにそんなことを吐き捨てた。







──────Archers Side──────

 会合はとりあえず無事終了した。
 なにかどことなく胡散臭い感じがしないでもない密会だったが
 それでも参加してみたおかげで十分過ぎる見返りも手に入った。

「まさかこんなに早く他のサーヴァントの正体が判るとはな。
 にしてもバーサーカーのマスターはどうしようもない無能だね本当に。
 魔術の隠匿や死体の処理を忘れたりするか普通?」
「さてのぅ。狂人の類がマスターになったんじゃないか?魔術師なんてそんな奴ばっかりだろう」
 雨生の行動に呆れを通り越して失笑する間桐。
 一方のアーチャーは頭をボリボリと掻きながら興味なさそうにしていた。
 他のマスターとの通信に応答する為に実体化を許可したがこの男は今もそのままである。
 つかさっさと霊体に戻れ魔力の無駄だろ。
「興味無さそうだなアーチャー?」
「胸糞が悪いだけじゃ。それにどうせ貴様もバーサーカー退治には非協力的なんだろうに?」
 アーチャーはジトリとした視線を間桐に送りつけた。
 切れ長の眼が如何にも不服だと言っている。
「当たり前だ。そんなものやりたい奴がやればいい。俺が協力する必要は無い」
 間桐の方もしっかりとした口調で断言した。
 町の人間がいくら死のうが彼には全く関係の無い話だ。
 協力するどころか感心すらない。勝手にやっててくれな態度である。
「ふん、だから興味無いんじゃい。ワシは出来んことには関心を持たん主義だ」
 アーチャーは苛立たしげにそっぽを向く。
 マスターがこの様子では関心を持ってもバカを見るのが判り切っている。
 なら見なかった聞かなかったことにするのがベターな行動だ。

「だが同盟時に交わした契約の方はどうする気だ?
 たしか一度は他の連中と協力しないと二番目に大切なものを失うとか言う話だったろ」
「ふん馬鹿馬鹿しい。あんなもんハッタリに決まっているだろ?
 あんなデタラメな形式の契約が効力を発揮するわけが無い」
 間桐はあの話を完全に嘘だと決め付けているようだった。
 しかしアーチャーの方は間桐と違いそこまで楽天的な考えではないらしい。
「ワシは油断せん方がいいと思うがな。相手はキャスターだぞ?」
 キャスターという単語に間桐はピクリと反応した。
 見る見る顔が紅潮してゆく。
「キャスターのマスター如きが何をしようが俺の敵じゃないだろうが!?
 ハ、大体あの密約はキャスターのマスターのアイディアじゃないのか?
 だとしたらお笑いだね!あんなもんが奴の策だと言うのなら奴の実力など高が知れてるさ!」

 間桐は血走った眼つきで先ほどの会合の内容を、キャスターのマスターを嘲笑った。
 それだけでは足りないとばかりにさらに声を荒げて聞くに堪えない罵詈雑言で相手を罵倒する。
 一度完敗して大いにプライドを傷付けられた相手なだけあって過剰反応もいいところである。

「ふぅやれやれ喧しいのう。
 じゃがキャスターから連絡が来たらワシはバーサーカー退治に協力するぞ?」
 ヒステリックな声を上げるマスターを無視してアーチャーは珍しく物静かな口調でそんな方針を口にした。
「あん?」
「色んな意味で奴らは早めに倒しておいた方がいいわ」
「おい!勝手な真似を──」
「わあっとるわ。あくまで軽く協力……そうだな他の連中の援護射撃をしてやる程度だ。
 そもそも元から前面に出てバーサーカーを倒そうなんていう気は無い。
 なんて言っても相性上真正面から戦っても勝てそうにないからな」
「まぁその程度なら別にいいか……いやでもな……」 
「じゃあ決まりじゃな。キャスターの連絡があれば出るぞ、いいな!」
 アーチャーは煮え切らない間桐にズイっと顔を近づけて有無を言わさぬ語調で同意を求めた。
「あ、ああ……」
 こくりと頷く間桐。
 今回はアーチャーの迫力に押し切られる形で間桐陣営の方針が決定した。
 流石のアーチャーも雨生たちは放ってはおけないということなんだろうか?
 アーチャーの真意は定かではないがとりあえず妙にやる気があるようだった。







──────Riders Side──────

 ───グシャ……ぶつん。
 嫌な音を最後に密会の通信は強制的に終了させられた。
 それは彼らが使っていた使い魔が潰された音であり、同時に交渉決裂の音でもあった。

「やれやれ。貴様本気か?せっかく意気の良い駒が手に入るところだったというのに」
 牧師の傍らで今の会合の話を聞いていたライダーがさも呆れかえったとばかりの口調で牧師を非難した。
 まったく話にならない。
 今のは同盟を組んで他者を利用する場面だったのだ。
 それなのにこの牧師は事もあろうが断った。
 協力者としては文句の一つも言いたくなるのだろう。
「ふん。我々は教会の代行者だぞ?薄汚い異端である魔術師どもなどと手を組める筈が無いだろう」
 しかし牧師はライダーの態度以上に話にならないといった風な仕草で断言した。
 これは牧師からしてみればもう理屈以前の問題なのだろう。
 嫌なものはどれだけ利点があっても嫌。
 シンプルイズベストの極地である。
「ならばどうして会合に参加したのだ?それも俺様のクラスを勝手に明かしてまで」
「お前はまだランサーとしか対峙していないだろう。
 それに私自身もまだ他のマスターには感知されてはいまい。
 ならあの場でクラスを明かす程度なら大したデメリットは無い。
 いやむしろ明かす事で得たメリットの方が多かったくらいだ。
 その結果、全クラスの情報とバーサーカーの正体を知ることが出来たのだ」
 一応デメリットが無かったからクラスを明かした。
 牧師は堂々とライダーの問いにそう答えた。

 牧師は初めは敵の情報を集める程度の軽い気持ちで会合に参加したのだが、
 まさかバーサーカーの正体を早くも探り当てたマスターが居るとは思ってもみなかった。
 その手際の良さに牧師は会合の最中なのにも関わらず素直に感心を示していたほどである。
 だがそれと手を組むのは別問題だったのだろう。
 敵の正体についての情報を知るだけ知って相手の提案は切り捨てるという選択をゲドゥ牧師は選んだ。

「男殺の魔剣を手繰るバーサーカーか。ふん狂戦士の分際で運気だけはそれなりにあるらしいな。
 アサシンも女サーヴァントもこういう時に限って都合良く居ないとは」
 ライダーは相手の運気を誉めているのか貶しているのか微妙なニュアンスだ。

 バーサーカーの正体が判明した事でその特徴や弱点も露呈した。
 そうなった以上はバーサーカーのマスターもオチオチとはしていられまい。
 もっとも、バーサーカーのマスターはその事実を知るよしも無いだろうが……。

「ところでライダー。聞きたい事があるのだが、なぜ今回はアサシンが居ない?」
 お前も一応警戒を促していただろう。とも付け足す。
「そんなもの簡単だ。エクストラクラスであるファイターのクラスが入っているためだ。
 ランサーとバーサーカーの二人と戦っていたあの男がそうなのであろうよ。
 ……否、本来ならば奴はセイバーかな?」
「それはどういう意味だ…?」
 牧師はライダーの物言いによく判らないといった反応を返した。
 そんな様子のマスターにライダーは腕を組みながら諭すようにレクチャーを始めた。
「よかろう俺様の講義しかと聞け。
 一人で複数の該当クラスを持つという英霊が偶にだがいる。
 そう言った英霊は特殊であったり多芸である場合が多いがこのラメセスⅡもその一人だ。
 あのファイターも本来ならばセイバーに該当しそうなところだが、
 今回は何らかの理由で適正があったファイターとして呼ばれたのだろうよ」
 ライダーはそれで言葉を切った。
 次に出てくる言葉を待つがライダーはそれ以上何も言わない。
 どうやらそれで講義終了らしい。
 授業料一分五万円のスペシャルな授業だった。

 だが途中ライダーが妙な事を言っていたのを牧師は聞き漏らさなかった。
「お前もその一人?何かの冗談かライダー?」
 変なことを自信満々に言っていたライダーに顔を顰める牧師。
 この男が多芸であるわけが無い。まさにそんな態度である。
「あまり戯けた事を言っているとファラオに対する侮辱罪で極刑に処すぞ貴様?
 俺様ほどの英雄にもなると該当クラスも複数あるのは当然であろうがっ!?」
 牧師のあまりに無礼な物言いに失礼千万とばかりに唾を飛ばして怒るファラオ。
 どうやら冗談ではなかったらしい。
「ならお前はライダークラス以外のクラスだった可能性があるのか?」
「当然だ!俺様はライダークラス以外ではアーチャーにも該当する。
 その場合の宝具は───神弓だ」
「神弓?それはお前以外には扱えなかったと言われる強弓の事か?」
「ほう?飛び入り参加の割には俺様の伝承をちゃんと把握している様だな中々感心な奴め。
 左様。その強弓だがな、あれは正確には俺様以外の者では使えないのではなく、
 俺様以外の者では弓矢に拒絶される、というのが正しい」
「弓矢に拒絶される?」
 牧師が自分の伝承を知っていたためかライダーは機嫌が治ったらしい。
 牧師の質問にも素直に答えている。
「そういう能力なのだアレは。神の弓自身が神の血が混ざらぬ者を嫌い拒絶するのだ。
 よって神性を持たぬ者ではまともに引くどころか触れられぬし、もし矢に当たれば肉体が拒絶され霧散する。
 高い神性を持つ者に対しては効果が著しく落ちる文字通り人間を罰するための神の弓矢なのだ。
 どうだ素晴らしかろう?」
 ライダーは腰に手を当て得意そうにニッと笑みを浮かべた。
 その様子からもよほど弓の腕前にも自信があるのが窺がえる。
「その神弓は持っていないのか?」
 だが牧師は得意そうなライダーを完全無視して自分の知りたい事だけを訊く。
 自分にとってどうでもいいことは見なかった聞かなかったことにする方針なのだろうか?
「騎兵に無理を言うなうつけ、弓を持つのは弓兵であろうが。
 今回は通常の弓と騎乗槍しか持っていない。その代わりにとっておきの戦車があるのだ文句を抜かすな」
「不憫だな」
「英霊をクラスという役割に填めてサーヴァントとするとはつまりそういうことだ。
 複数のクラス適正と宝具を持つ英霊はどれも大抵そんな感じだろうよ」
「どのクラスでも同じではないと言うことか」
「その英霊にとって一番適切なクラスを選ぶというのもマスターの重要な仕事なのだ」

 以上のように一人の英霊が複数のクラスに該当出来る適正を持っていたりする。
 この第二次聖杯戦争においてはラメセス二世がライダーとアーチャー、ローランがセイバーとバーサーカー、
 そしてベーオウルフがセイバーとファイターに該当できる適正を持ち合わせていた。
 
「ならもし今回アサシンか女サーヴァントが居たらどうなっていた?」
 講釈が一段落すると牧師がそんな疑問を口にした。
 するとライダーは少しだけ考えるような仕草をするとつまらなそうにまた解説をはじめてくれた。
「まずバーサーカーはひとたまりもあるまい。
 サーヴァントにとっての弱点とは即ち相性の悪さの度合いだ。
 その度合いは致命的なものもあれば単に相性が良くない程度で済むものと様々だ。
 つまり弱点の度合いの違いはあれどどんな英霊でも相性の悪いモノは存在すると言うことだ」
「そしてバーサーカーにとってのそれがアサシンと女サーヴァントと言う事か?」
「そういうことだ。その点で言えばヘイドレクの弱点は大分致命的な部類だな。
 ゆえに我ら英霊は真名を隠すのだ。
 別にこれといった弱点が無い者でも手の内が判れば対抗策があるかも知れないからな」

 弱点を隠すだけでなく手の内や特性を隠すためにも真名を秘す。
 その上で敵の真名を暴き、弱点や特性さらには手の内を知る。
 これが今後の聖杯戦争でも鉄則となる暗黙のルールだった。

「なるほどな。今回の一件でこの闘いがよく判った。こちらの情報を精々洩らさぬ様に注意しよう」
「そうしろ。で牧師。今後の方針はどうする気だ?」
 そこで一旦話が完結するとライダーは別の話を切り出した。
「私は傍観するつもりだったが……ライダーまさか手を貸す気か?」
「さてな」
 牧師の言葉に素っ気無く答えライダーは外の景色に目をやった。
 外は特にこれといった面白い風景はない。
 ショートボブの髪を掻き揚げて腕を組み変え暫しの無言の間を作る。
 それからまるでこの世の真理でも語るかのように静かに口を開いた。
「民とはファラオを崇め奉り、ファラオに尽くし、ファラオに捧げるために存在する。
 そしてファラオとは即ち現世界における神と同義であり、神とは人間を救う存在である。
 ───神々と俺様のものを許可無くに弄り殺して愉しむなぞ言語道断也。
 なれば父の代行でもある俺様が見逃してやる訳にはいくまいが……まあ直ぐに処罰を下す必要もなかろう」
 そんな言葉で締め括ると再び牧師の方に顔を向き直した。
「それはつまり、私と同じく傍観するという事でいいのか?」
「いいや、そのうちラーに代わってあの下衆どもには神罰を下す。
 他にも何匹か猟犬がいるのだ。俺様が今すぐにと急く必要は無いというだけだ。
 まぁもっとも───俺様の気分次第では即刻裁くことになるだろうがな」
 そうしてライダーは不愉快そうに目を細めた。
 ラメセス二世がどんなに尊大で傲慢であっても英霊は英霊。
 やはり人間の味方であるという事なのだろう。
 だからこの高慢ちきなライダーですら雨生の凶行を不快に感じている。
 そんな気配がありありと感じ取れた。
 そのせいか珍しくどちらともなく口を閉ざす。
 牧師以外の代行者も近くに控えてはいるが皆無言だ。
 いや元から無駄口を叩くような連中でもないか。
 和風の室内が静寂に包まれる。
 しかし、そんな静寂を打ち破る第三者の声が唐突に室内に響き渡った。

 ”ライダーのマスター聞えるか?君に折り入って話したい事がある”

「ん……なんだ…?」
 その異音に室内全員が反射的に臨戦体勢に入っていた。
 何人かは既に武器を装備している。
 突然の事態でもそれが当然のように誰も顔色一つ変えない。
 サーヴァントであるライダーはともかく牧師や他の代行者たちも大したものである。
 流石は修羅の巣窟に棲む神の代行者といったところか。
 牧師たちは警戒したまま周囲の気配を探る。
”私の声が聞えるか?ライダーのマスターよ。私はキャスターのマスターだ”
「ああ。聞えている。同盟を蹴った相手になんの用だ?」
 牧師は感情を抑えた声で応答する。
 この突然の異音の正体はキャスターのマスターであるソフィアリだった。
 だが姿は見えないし気配もしない。
 ならばコレは何かの魔術なのだろう。
 魔術師とはそういう連中だ。この程度いちいち驚くにも値しない。

 ”単刀直入に言おう。手を組まないかね?”
 キャスターのマスターは本当に単刀直入な物言いだった。
「どういうことだ?」
 ”あの同盟を断った君達は見所があると言ったのだよ。
  明日──バーサーカーを餌にファイターやセイバーを含めた四名の同盟者たちも側面から叩きたいのだ。
  なので是非君たちの力を貸してくれないかね?これは君たちにもメリットがあると思うが?”
「バーサーカーと同盟軍が戦っている所を背後から襲うというのか?」
 ”理解が早くて有り難いことだ。そういうことになる。
  上手くいけばバーサーカーと強力な三騎士クラスのサーヴァントもまとめて蹴落とせるぞ?くっくっ”
 くぐもった笑いを洩らすソフィアリの声に牧師は心底不快そうな顔つきだ。
 それはまるで耳が穢れるから声も聞きたくないと言わんばかりの表情だった。
 代行者は薄汚い魔術師と手を結ぶことなどまずしない。
 よって牧師は当然の結論を出した。
 却下と侮蔑の意味を込めて口を開く。
「断───」
 いや開こうとした。
「良かろう。その話、受けてやろう」
「な───おいライダー貴様!?」
 横合いから勝手に話を承諾するライダー。
 その勝手な行動に食いかかろうとするマスターの鼻っ面にライダーは二本指を突きつけて黙らせた。
「貴様は黙っていろ。キャスターのマスターよ、確かにそれは旨味のある話だ。
 いいぞ。その話この俺様が乗ってやるから光栄に思うがいい」
 そう言いながらライダーは本当に嬉しそうな声で答えた。
 そのライダーの喜ばしそうな返事にソフィアリも上機嫌な調子である。
 ”それは良かったやはり君たちは見所があるな。
  では作戦の詳細を決め次第また連絡を入れる。しばらく待て”

 それを最後にソフィアリの声は聞こえなくなった。
 再び場に静寂が戻る。
 いやそれも一瞬だった。
 すぐに牧師は不快さを隠す事無くライダーを睨め付ける。
「なんのつもりだ?」
「それはこちらの台詞だ。この話を断るなぞマヌケにも程があるぞ牧師?」
 だがライダーはそれに対し失笑を以って牧師を嘲笑った。
「罠の可能性だってあるんだぞ?」
「ファラオに対して罠を張ろうなどと言う莫迦者には宝具を以ってこの世から消し飛ばすまでだ。
 それにそもそもキャスターの話には筋が通っている。罠の可能性は極めて低い」
「筋……だと?」
 ほぼ断定するような口調のライダーの言葉に牧師は目を細めた。
 なにかライダーなりの根拠があるのだろうか。
「ああ、表向きの同盟で油断させておいて裏から手を回すなど策略としては中級だ」
「それのどこが筋が通っていると言うんだ?」
「まあ最後まで黙って聞くがいい牧師。
 この場合では着眼すべきところは策略そのものではなく”誰が”どういう話を持ちかけてきたのかという部分だ。
 キャスターでは強力な対魔力を持つ三騎士クラスのサーヴァントとは相性が悪い。
 さぞ三騎士クラスにはさっさと退場して欲しいところだろうよ。
 だが一人でやるにはキャスタークラスの特性上あまりに無理がある。
 一人での奇襲が心許無いなら同盟を結ばなかった者と手を組みたいとも思うのも当然よ」
「…………」
 確かに話の筋は通っている。
 だがそれで納得のいく牧師ではない。
 魔術師と手を組むくらいならライダーとの関係を破棄した方がマシである。
 ランサー戦の様子ではライダーの力量は口ほどにもない筈だ。
 いま協力関係を破棄したところで任務達成は出来ないことも無い。
 なら令呪を使うか?
 どうせ使うのなら精々有効に使おう。
 ライダーには何体かのサーヴァントを道連れに死んで貰うのもいいかもしれない。
 そんな牧師の胸中を察したのかライダーは滑稽そうに噴き出した。
「ふん!ククク。そんな怖い顔をするなよ牧師?
 元から俺様はキャスターどもと組むつもりなど毛頭ないのだ」
「──ナニ?」
 ライダーの突然の宣言に牧師はしばらく固まってしまった。
 理解がちょっと追いつかない。
 ナニを言っているんだこいつは?
「まだ気付かんのか?お前にしては珍しく血の巡りの悪いな。
 表向きの同盟で油断させておいて裏から手を回すなど策略としては中級だと言っただろう。
 キャスターが他の連中を背後から叩きたいと言うのなら叩かせてやればよい。
 俺様はさらにその後ろからキャスター諸共纏めて連中を叩いてやるつもりでキャスターの話に乗ったのだ。クク」
 口を歪めて笑いを洩らすライダー。
 そんなライダーの姿に牧師はしばし呆然とし、それから……笑った。
「くっ、くっくくくっく、はははははは!なんだそういうことか!
 いや見直したぞライダー!ククッ。まさかお前がそういう手を考えるとは思っていなかった!」
 思わずライダーへ喝采を贈る牧師。
「この程度の策略など俺様の時代では当然だ。
 特にヒッタイトどもの姦計と比べればあの同盟話など児戯にも等しいぞ?」
 ニヤっとニヒルな笑みを作るライダー。
 予想外過ぎるライダーの思惑に牧師は大笑する。
 まさかこの男がこういう方面の闘争にここまで対応出来るとは嬉しい誤算にも程がある。
 キャスターのマスターの誘いにさも嬉しそうに飛びついたのが演技だったとは。
 ライダーは戦闘だけでなく権謀術数も難なくこなせるだけの器を持っている。
 流石は戦争と政治に優れたエジプト最高のファラオと讃えられるだけの事はあった。

 ライダーのその策に牧師は考えを改めた。
 協力関係の破局は無しだ。ライダーは任務達成に十分に使える。
 やはり令呪はせいぜい有効に使おう。
 ライダーの意に沿わぬ方向で使用するよりも意に沿った使い方をして最後に切り捨てるのがベストだろう。

「だがいいのか?一般人を襲っているバーサーカーの方はどうする気だ?」
 ふと思い出したように牧師がライダーの方を見る。
 先ほどライダーはそんなことを言っていた。
 直ぐには動くつもりはないがいずれ処罰を下すと。
 ならばやはり他の連中よりバーサーカーを倒すのを優先するのか?
 だが牧師の予想は外れた。
「ふん、見ず知らずの土地の民どもよりも我妻の亡骸の方が遙かに重要に決まっている。
 如何な手段を以ってしても俺様は聖杯を手に入れねばらん。
 ──────邪魔立てする者は全て地獄へ墜とす」

 その執念が篭った台詞に牧師たちは緊張した。
 他の代行者も同様に硬直している。
 それはお前たちも例外ではない。と言うラメセスⅡの明らかな意思表示。
 ライダーの煌々とした瞳が牧師たちの眼を射抜くのだった。






 ───こうして聖杯戦争三日目が終わった。
 それぞれのマスターはすぐに訪れる次の戦いに備えて力を蓄える。
 この日だけはきっと剣戟音も爆発音も無い静かな夜になることだろう。
 そして何事も無く冬木の町は朝を迎えるのだ。

 マスターたちも一時の休息を取り。
 そうして次の夜を待つのだった─────。










──────V&F Side──────

助けろ!ウェイバー教授!!第八回


V「第七話八話、話の流れ的に分割しない方がいいと判断し二話連続でお送りしたが如何だっただろうか。
  一応分割したのはまとめサイトでの都合の為だ。
  流石に100KBを超える文章を載せるわけにはいかなかった……だって読むのも大変だからね」
F「あ~……ばれちゃった…」
V「しかしあー……まさかいきなり全マスターにバーサーカーの真名バラすとはちょっと予想外だったな。
  普通はもっと勿体つけるものだが、キャスター自身はバーサーカー退治を優先したがっていたから当然なのか?」
F「あああー雨生さんにヘイドレクさんそれに善良な一般市民の皆さん早く逃げてくださいー!」
V「もうご愁傷様としか言いようが無い。自業自得とはまさにこのことだぞ?オーディンがさぞ喜んでいるだろうな」
F「まさに北欧主神狂喜乱舞の巻ですね!」
F「それにしても三日目はなんか情報戦な一日でしたね!これを情報戦と呼ぶのかは判りませんけど」
V「それよりどのマスターも見事にキャスターたちに騙されたな。
  間桐なんかにいたっては契約無視してそのままぽっくり逝きそうだぞ」
F「あの人慎二+鶴夜+雁夜で構成されてるスーパーマトウ人ですからね!
  超絶捻くれ者ですんでこういうのは絶対信じそうに無いですし。
  さり気なくまたピンチなのかあの人……死なないでーアン・ズオン・ヴォンさん頑張ってー!」
V「本人は一応協力する気のようだが、もしアーチャーの気が変わろうものなら……」
F「いや!止めて先生!フラグを立てようとするのヤメテー!」
V「遠坂やアインツベルンたちの様な典型的な魔術師は契約書の方にばかりに眼が行って気付かない。
  沙条のような新米魔術師では感知しようも無い。間桐は端っから信じてない。
  もしマスターが場に姿を見せようものなら薔薇目人形が襲い掛かる、か。
  これじゃどうしようもないな」
F「うわどう転んでも駄目じゃないですか!」
V「ここはキャスター陣営にお見事と賞賛を贈るべきだろうな」
F「流石ですローゼンクロイツさん!カッコいい!」

V「さて三日目の状況を纏めてみよう。
  まずラメセスⅡが宝具を設置し、ファイターが戦闘のダメージで大分消耗しているが呪詛は消えた。
  それからキャスターが対狂同盟を持ち掛け同盟成立。さらにその裏でキャスターがライダーと手を結んだ。
  マスターの方は皆それぞれそれなりに持ち直してるようだな」
V「各自の標的を簡単な図にするとこんな感じか。狂←剣槍闘弓←魔←騎」
F「現状だと宝具を設置したライダー組と策が成功しているキャスター組が若干有利でしょうかね?」
V「場を荒らす男殺狂戦士に場を混乱させる聖人魔術師か。
  ようやくFateASもバトロワっぽくなってきたな」
F「なってきましたねー!じゃあ今回はここまでです!」
V「では次回。くれぐれも皆鯖マスターたちは雨生のような軽率な行動は取らないように」