──────────────────────────────Another Servant     六日目 プライド───────


──────Lancers Side──────

───────Interlude  ───────


 ────鍋之助、立派な武士になるのだぞ────

 その願いがこの侍の魂の芯となった。

 忠勝の父、本多忠高は1549年、安祥城奪回戦で誇り高く散った。
 予想外の織田軍の守りの堅さに阻まれた自軍の膠着状態を打破する為、
 忠高は大手門へ単騎駆けを決行し、見事味方に攻撃の糸口を与えることに成功した。
 だが、その代償に迎撃してきた織田軍の無数の矢を浴びる事となった。
 被弾での大量出血によって薄れゆく意識の中、想うは息子鍋之介の未来。
 ここで果てる事になる父が息子へ残してやれるものが何か無いものか……?
 しかし今の死に体の身では出来ることなど何も無かった。
 彼はあと一分後には死ぬのだから。
 ならばせめてと、祈った。だから願った。誇り高い息子の姿を。

「ふ、ふふ………鍋之助、りっぱな武士に、なるのだぞ………」


 その父が子を想う心は────確かに子へと届けられた。


 父の遺言を密かに胸に秘めて鍋之介逞しく成長してゆく。
 槍の鍛錬も欠かさない。
 乗馬の鍛錬も欠かさない。
 弓の鍛錬だって欠かさない。
 ひたすらに忠節に励む。

 ──立派な武士になる──。

 その誓いが鍋之介をめきめきと成長させていった。


 この厳粛な誓いの形は、忠勝が初首級を獲った時には既に片鱗を見せていた。

 戦場で忠勝は彼の叔父と供に行動していた。
 叔父はまだ戦に慣れていない忠勝に手柄を立てさせてあげようと首級を譲ろうとしたが、
 忠勝は「人の力添えで功名は立てたくない」と断った。
 それは立派な武士の行為ではと思ったからだろう。
 そうして彼はその後、単独で別の首級を見事上げてみせた。

 月日が流れ彼は元服した。
 元服するなら名前を改名する必要がある。
 彼は考えた。立派な武士に相応しい名前。
 ───忠勝。
 そうだ。平八郎忠勝にしよう。
 立派な武士とは父のような死を恐れない猛者のことだ。
 ただ勝つのみ。
 どんな敵であっても恐れずただ勝つのみ。
 うん立派な武士に恥じない名前だと思う。
 あとは自身がその名を体現出来る人間になるだけだ。
 この日から本多平八郎忠勝と名乗ろう。
 この名を名乗るに恥じぬ武士になろう。

 それが元服で胸に抱いた誓いだった───。


 こんなこともあった。
 姉川の合戦での話だ。
 徳川家康の本陣に迫る朝倉軍一万の大軍。
 それに対して彼は無謀とも思える単騎駆けを敢行し、真柄直隆と一騎打ちを果たしたのだ。
 この無謀な突貫を行なう忠勝を必死に救おうとした家康の行動が味方の反撃の狼煙となって朝倉軍を討ち崩し、
 ついには味方の勝利へと繋がることとなった。

 そうやって武勲を次々に打ち立ててゆく忠勝。
 ……忠勝は今や父が望んだ立派な武士として恥じない男となっていた。
 だが彼はそれだけではまだ満足しなかった。
 槍の如く真っ直ぐにひたすら忠道を邁進する。
 立派な武士とは敵であっても慈悲の精神を忘れてはならない。
 そのことに気付いた忠勝はそれ以来、大数珠を首にかける様になった。
 己が戦場で討ち破った敵が安らかに成仏出来るようにと願って。

 そんな彼の慈悲の深さを象徴するこんなエピソードがあった。

 1600年。関ケ原の戦後処理での話だ。
 忠勝は西軍・石田三成らと共に死罪となるべき真田昌幸・幸村父子の助命を
 忠勝の娘・小松の夫である真田信之と共に家康に願い出た。
 それは敵であったとは言え娘の夫の家族死なせるのは忍びないと考えたからである。
 だが一度ならず二度までも真田家に苦渋を舐めさせられた家康は断固してこれを受け付けない。
 そこで忠勝は「ならば殿と一戦仕る!」と啖呵を切った。
 娘の夫の家族の命を救うためなら本気で主君と一戦交える事も辞さない。
 と言う忠勝の覚悟に唖然とした家康──ついでに信之も唖然としていたが──は、
 真田父子の死罪を取消し、高野山へ蟄居という異例の処置を取ることで場を収めることとなった。


 こうして心身共に己が志す『立派な武士』で或るために忠節に励み続けた忠勝。
 そんな彼を多くの者が勇猛なる士と讃えた。
 かの織田信長も”花も実も兼ね揃えた武士”と忠勝を讃えたほどであった。
 そんな彼を多くの領主が欲し誘いの言葉を投じた。
 その中にはあの豊臣秀吉の誘いすらあった。
 だが忠勝はそれら全ての誘いを断った。
 秀吉の誘いも丁重に断った。

「父祖代々徳川家に仕えてきました故、徳川の武士として死ぬのが忠道と心得今日までやって参ったで御座る。
 ゆえなにとぞ拙者の志を察してくださりますようお願い申し上げまする」

 彼の志は変わらない。
 立派な武士になる。
 立派な武士とは即ち、どんな敵も恐れぬ勇猛果敢さと慈悲深さを併せ持ち、厚く忠節に励み、そして主君と共に死ねる士だ。

 ───さて、拙者はそのような武士になれただろうか?


 忠勝の人生は英雄にしては幸福な人生だったと言えよう。
 正室に於久。側室に乙女を娶った。長女の小松は真田信之に嫁いだ。
 妻を娶るという男子としての幸福と、父親としての幸福を得ることが出来た。
 そして何より……。

 志し続けた『立派な武士』になるという幸福を掴むことが出来た。

 駆け抜けた戦場の数、実に五十七。
 忠勝はその全てを”無傷”という後世に残る偉業を成し遂げた。



 ───それから多くの月日が流れ───。

 彼は隠居し、好きな彫刻を愉しむ穏やかな日々を送っていた。
 いつものように腰を降ろし小刀を使って木を削る作業をのんびりと楽しむ。
 木を小刀で削る音が室内に響いている。
 シャッシャッシャッ……。
 シャシャ──シャッ…。
「………痛!?」
 うっかり指を小刀で切ってしまってたらしい。
 指から流れる血を見つめながら刀傷はこれが初めてだったかもしれない。などと考える。
 あれから随分と長い時間が経ったのだなぁとしみじみ思う。
「そうか。呵呵、拙者も随分と歳をとったで御座るなぁ……」
 そんな当たり前の事に、ついおかしくて笑ってしまう。
 苛烈な日々を過ぎ去って穏やかな日々を享受する暖かな余生。

 観が良い彼は自分の死期をそれで悟ったのだろう。
 ならば残された時間で何を残そうか?と真剣に考える。

 ……そうだ武士の精神を遺そうか。

 残される者のために父上と同じく願いを遺そう。
 墨を用意して筆を持つ。

 遺書には”命惜しまず忠節に励め”と残される者達への激励と願いを残した。

 これで憂いる事は無し。

 いやはや幸福な人生で御座った。



 その数日後。
 本多忠勝という立派な武士は穏やかにその幕を閉じるのであった────。



───────Interlude  out───────



「なんか…物語を読んだ気分だわ……」
 目を開けて最初に思った感想がそれだった。
 綾香は自分のサーヴァントの人生を、つまりは本多忠勝の人生を夢で見ていた。
 ランサーは傍には……うん大丈夫。居ないようだ。
 きっと部屋の外で見張りながら魔力の回復に努めているのだろう。
 他人の記憶を覗き見てしまい、やっちゃったという気持ちはある。
 だがそんなに悪い気分では無かった。

 なぜなら───ランサーは実に満足そうに幕引きを迎えていたから。

 だから物語を読んだ気分という感想が沸いたのだ。
 父の遺言を胸に残された一人の少年が奮迅奮闘して目標を達成し立派な侍になって幸せになるハッピーエンドの物語。
 お話としては…うん、まあ結構良い部類だと思う。

「ま、そりゃ凄いわけよね」
 夢と昨日のセイバーとの戦いを思い返しながらそんな感想を口にした。
 このランサーとだったらきっと最後まで生き残れる。


 そう心から確信出来た朝だった─────。







────Servant Side キャスター────

 冬木の町のある民家。

「ごほっ、ごほっ!!」
 そこには苦しそうに咳き込む小さな幼子が寝かされていた。
「うっ、うぅぅう!!なんで、なんで俺の娘が!俺じゃなくて……娘なんだ!」
 父親らしき男は涙を流しながら自身の膝を殴りつける。
 この今にも死にかけている幼子の体は不治の病に侵されていた。
 医者からはもはや助ける術無しと見放されし、それ以上に治療するだけの金も無かった。
「……おっとちゃん。ないちゃだめよ」
 泣いちゃ駄目、とそう言いながら幼子は父親に微笑んだ。
 だがその幼くも尊い気遣いが彼女の両親の胸を一層苦しめる。
「ごめんね。ごめんね?お時ちゃん、ごめん、なさない───」
 母親らしき女はいつまでも涙を流し謝罪し続ける。
 最愛の娘にこのような苦境に立たせた事を、助けられなかった自分たちに。
「おっかちゃんも……ないちゃ、め……」
 娘の声がもう聞き取れなくなる程に小さくなってゆく。
 それに比例して両親の悲痛な声は大きくなってゆく。

 ────もうじき、この親子に終わりが訪れる。
 それは避け様の無い人の営み。
 病で苦しみ、病で死ぬ。
 それも人間の営みだった。
 だから決して親子は終わりを回避出来ない。
 回避出来ない。

 そう────この瞬間までは。

「失礼します」

 その男はとても優しい声で突然親子の前に姿を現わした。
 ───え?と三人が硬直する。
 それは死に掛けた幼子すらも例外では無かった。
「勝手に入ってきてしまい申し訳ありません」
「なんだ、あんた───」
 突如現れた暖かな表情をした男は、困惑する父親をやんわりと手で制止し、布団に横たわる幼子の枕元に腰を下ろした。
「可愛らしいお嬢ちゃん、こんにちは。
 君は残念だけど……もうすぐ死んじゃうことになるでしょう」
 そう真摯に幼子の未来を宣告した。
「きっ!き、貴様───!!」
 男の発言に激怒した父親が掴みかかる。
 だが男は父親の腕は一切気にも留めず、女の子の眼だけを見つめて優しく『その質問』をしていた。

「お譲ちゃんはこのまま死にたいですか?
 それとも───生きたいですか?」

「─────な……っ?」
 父親の乱暴な手が止まった。母親は呼吸が一瞬止まった。
 小型の眼鏡と簡素なローブを着込んだ男は、少女だけを見つめて言葉を続ける。

「あなたはまだ生きたいですか?」

 その質問に、死に瀕した少女は最後の力を振り絞って力強く頷いた。

「………わかりました。その願い、その命、確かに救いましょう───」
 
 にこりと暖かな笑顔でそう言うと男は少女の胸に手を置いた。
 すると───眩しくも暖かな光が部屋を照らし上げる。
 それから数秒輝いていた光がゆっくると消えていく。

「病魔の治療は無事に完了です。良く頑張りましたね。
 もうお外で遊んでも平気ですよお譲さん?」
 ローブ姿の男はそれこそ神の使いだと言わんばかりのとても、とても優しい笑顔で少女の頭を撫でた。
「なんとか間に合ってよかった。では、私はこれで失礼します」
 それだけ言うと男は立ち上がろうとする。
「え?え?あ、あの!……家にはお礼を出来るようなお金が………」
 俯きながら言い淀む両親の声を遮って、

「おにいちゃんありがとーー!!」

 と少女の元気なお礼の言葉が聞えてきた。
「くす、どういたしまして。
 それと、折角治ったのですからあんまりはしゃぎ過ぎて怪我をしないように注意してくださいね?
 ああそれとご両親もお礼は結構です。たった今、ちゃんと受け取りましたので」
 少女のお礼の言葉に柔らかい表情で応え、両親にお礼はいらないとだけ言うと再び立ち去ろうとする。

 今は聖杯戦争中だ。
 町の監視途中に死病憑きを発見してそのままこの家までやって来た。
 なるべく時間は有効に使うべきだ。
 他にも病魔に侵されている者や怪我人がいるかもしれない。
 特にアーチャーの宝具での大惨事に巻き込まれて怪我を負った人間は確実に居るだろう。
 死んでしまった者はどうしようもないが重軽傷者なら十分に治癒可能だ。
 キャスターはそれらも全て廻ってしまうつもりでいた。


 あのベッドの上から始まった祈りは今でもずっと続いている。
 人々を癒やす。
 そのために各地を放浪し病人の治療を行ない。
 薔薇十字団を結成し。
 彼の元を訪れた者を弟子に取り。
 弟子達にも各地で怪我や病気に苦しむ者達を治癒させた。
 あのときの自分と同じ様な絶望を抱く人が他にもいる筈だ。
 例え人々に受け入れられなかったとしても。
 教会から追われようとも。
 協会から狙われようとも。
 その病魔に侵された絶望から救おうという祈りはまだ生きている。


 英霊となったクリスチャン・ローゼンクロイツが。
 ───ナニヲ見せ付けられていたとしても───。


 だから行かなくては。
 怪我人の癒やそう。
 病人を治そう。
 そして聖杯戦争に勝つのだ。
 人類の霊的進化のため、人類のさらなる幸福な未来のために───。

 ……しかし。そんなキャスターの決意を遮って。
「おにいちゃんあそぼー?」
 キャスターのローブの裾を引っ張ってくる感触がする。
「え、えーっと………?」
 感触のする方に目を下ろすと少女がニコニコと笑っていた。
「そ、そうですよ!そうだ母さん直ぐに食事の支度をしろ!
 何もお礼は出来ませんがせめて、せめて食事ぐらいしていって下さいお願いします!」
 あまつさえ父親のぶっとい腕にまで拘束された。
「ね、あそぼー?」
 と無邪気に言ってくる元気になった少女と。
「せめて食事くらいのお礼は!」
 と土下座までして必死で懇願してくる両親。
「ふぅ───まぁ仕方がありませんね。
 これも神の意向なら有り難く頂戴させて頂きましょうか」


 ───その後キャスターは。
「あんた、法術とか妖術みたいな力を使えるのかね?」
「もしかして、徳の高い旅の僧侶様ですか?」
「ん~まあ魔術も法術も、僧侶も修道士も根底は同じモノですかね?
 徳が高いかはわかりませんが私にはそのどちらも当てはまりますし」
「おにいちゃんどこからきたのー?」
「あるお仕事のため遠い外国からこのフユキにやってきました」
「うわー!がいこくだってーすごいねーっ!!」

 笑顔を取戻した親子から質問攻めにあいながら、
 庶民にしては大判振る舞いとも言える料理の山を御馳走になったのだった───。







──────Sabers Side──────

 セイバーは夕日に照らされる世界を見つめながら何をするでもなくぼんやりとしていた。
 キャスターの工房から令呪で強制撤退させられ、ランサーと鉢合せになり、それから自分達の拠点に戻ってきた。
 あれ以来マスターとは口を利いていない。
 何となく口を利き難いと言うのが本音だと思う。
 自分に任せてくれていればキャスターもランサーも倒せていた筈だ。
 だが彼のマスターはそれを許さなかった。

「ちぇっ……なんだよー」
 唇を尖らせて拗ねる。
 あれは少しだけ自尊心が傷付いた。未だにあの行為を少し恥だと感じてる。
 だって逃走なんてしたのは初めてだ。
 そんな真似をしたことが無かった分余計にモヤモヤしてしまう。

 でもなんか……~は恥だが~恥ではない?だっけ?

 なにかが頭の中で引っ掛かっている。
「あーでも……なんか昔似たような事があった気がする」
 なんだっけ?そう誰かに何かを言われたんだ。
 シャルル王?いやルノーかな?それともティルパン大司教?
 もしかしてジェフロワ?あるいはネーム大公かも…。
 ……いや、オリヴィエだった気がする。
 いつも自分の横に居たのはオリヴィエだ。
 頭も良かったし名門の長男だったから騎士の礼儀作法なんかもある程度オリヴィエから教わった。

「オリヴィエってなんて言ってたっけなぁ?」
 頭の引っ掛かりを解消するべく少し昔のことを思い出そうとする。
 楽しかった、そして苛烈な思い出。
 ローランは懐かしい記憶を蘇らせていた……。



───────Interlude ───────


「……吸血鬼が出たって?」
 眉を顰めてルノーの話に相槌を打つ。
 吸血鬼とはまた珍しい単語が出たものだと思う。
 吸血鬼は実在するとは言え闇に隠れているためそうそうにお目にかかれるような連中ではないのだ。
「そうらしい。シャルル大帝の許へ使者が来ていた。話では町が酷い状態になってるらしい」
「でもさなんでルノーが知っているんだ?」
「丁度王に御用があったからさ。偶々使者と鉢合せになったからチョロっと耳に入ったんだ」
「もしそれが本当なら直ぐにでも行動しないと拙いよな」
「だな。吸血鬼は死者と亡者を増やす穢れた生き物だ。我等の教義に対する侮辱とも言える」

 そんな事を二人で話しているとオリヴィエがやってきた。

「二人ともここに居たか。丁度良かった、先ほど陛下よりパラディン全員の召集がかかった。来てくれ」
「なあオリヴィエ、それって吸血鬼の件でか?」
「ん、なんだもう知っているのか二人とも?だったら話は早い。
 どうやら”本物”らしい、よって至急対策を練らなくてはならない。行くぞ」
 ……本物。
 つまりハッタリや勘違いの嘘による偽者ではなく本物の吸血種だとオリヴィエは言う。
 ローランとルノーは肯くとオリヴィエの後へ付いて行った。



 戦陣会議室。
「既に一つの町が死都と化しておるようだ。
 このままでは被害が拡大し我等が国フランクの平和を脅かすものとなろう。
 よって十二騎士諸君は直ちに組織編制を行ない吸血鬼討伐へと向かって貰いたいのだが、よいか?」
 立派な髭を扱きながらシャルル大帝が臣下全員を見渡しながら意見を求めた。
 この偉大なシャルル王は常に会議で家臣の意見を訊き総合的に判断出来る王であった。
「陛下一つ宜しいでしょうか?」
 オリヴィエが挙手して発言権を求めた。シャルルが肯く。
「うむ。オリヴィエよなにか」
「はい。吸血鬼が相手であるのなら我らパラディンが召集されるのは分かるのですが。
 ───全員、なのですか?」
 パラディン全員を投入する。
 つまりそれはフランク王国の切り札を投入しなければならない程の事態だと言うことなのだ。
「左様、全員じゃ。使者の話では駐在させていた騎士団が全く歯が立たずに全滅したそうだ」
「なっ全滅!?」
 会議室にどよめきが広がる。
 その死都となった町に滞在させていた騎士団は国境沿いの町である分かなり強力な戦力だったはずだ。
 それが全滅するなど通常ではちょっと考えられなかった。

「騎士団長のジルベルトもですか!?」
 ローランがガタンと音をたてて立ち上がった。
 シャルルは目を瞑りこくりと首を縦に振った。
「お、おのれぇ……!!」
 ローランが顔を真っ赤にして歯軋りする。
 ジルベルトはルノーの妹であるブラダマンテと同様に女ながらに軍の長を張っている豪傑だ。
 気立ての良い活発な性格の女性でローランやオリヴィエも彼女のことをとても好ましく思っていた。
 それが……殺された。
「王!直ぐにオレに御命令を!然らばオレが即座に奴等を滅ぼしてみせます!絶対に仇を討つんだ!」
「落ち着くんだローラン。敵は強大だ。
 だからこそ我ら全員が力を合わせねばならないという事を忘れるな」
 いつものようにオリヴィエがローランをなだめる。
 オリヴィエの口が堅く引き結ばれていた。
 ローランは戦友の目を見つめてから肯いた。
 彼女が殺されて悔しい思いをしているのはオリヴィエも同じなようだ。

「敵は非常に強力な吸血鬼じゃ。よってここに非常事態令を発令する。
 パラディンの力を集結させ神の教義と我等の国を犯す悪魔を討ち滅ぼせ!」
「──ハッ!!」
 戦陣会議に集った全員の声が重なり合う。
 その後。
 彼らはすぐに行動を開始し目的の町へ向かった。


 ……深夜。
 パラディン率いる特別選抜部隊は町に到着した。
「酷いな……これは……」
 町は瘴気に包まれていた。
 これは結界だろうか?
 異様な気配が町の外輪を覆っていた。
「こうしていても始まらない。いこうローラン、オリヴィエ。先陣は俺達が切るべきだ」
「待った!入る前に僕がなんとかしてみるよ」
 足を踏み入れようとしたルノーに静止をかけたアストルフォが『蔵知の魔書』を取り出した。
 魔書を開きパラパラと何かを調べた後。
 アストルフォはここをこうやって。と呟きならが結界を解除した。
「よし出来た!アハッハ~流石は僕だね!完璧さ~!」
 髪の毛を手で撫でながらいつもの調子でアストルフォが自分を誉める。
「でかしたアストルフォ。よし皆聞いてくれ。
 私を含むローラン、ルノー、テュルパン大司教、アストルフォを隊長とした一番から五番部隊がまず町の中心部へ一気に進軍する。
 我々が原因を叩く隙に六番から十二番部隊はここから徐々に解放区域を広げながら中心部まで進軍してくれ」
「サンソン大公やアンセイス公がいるなら後方は安心だもんな」
 作戦内容を伝えるオリヴィエにローランが相槌を打つ。

「ではそれぞれの部隊の編制を確認してくれ」
「え~ブラダマンテにグィドーネ、リッチャルデット、マラジジ達は俺の部隊か。
 妹、末弟、次男、従兄弟……なんか俺のとこだけやけに身内が多いんだが……?」
「頑張りましょうね兄上!」
「こらグィドーネあまり兄様を困らせてはいけないわ」
「はーい」
「なんだルノーよ。貴様そんなに年の離れた従兄弟が嫌いかな?」
 ルノーの部隊は何故か親族ばかりだった。
 その横で豪勇と謳われた初老の騎士アンセイスがテキパキと指示を与えている。
「ジュランとジュリエのチームは連隊を組んだ方がよいじゃろう。
 アンジュリエ、ゴーチェ、オートン、ベランジェ、イヴァン、イヴォール、ルッションのジェラールは──。
 …………………して、アクティランテとグリフォーネはどうする?
 やはり父のオリヴィエの部隊に参加するか?」
 力強く肯く二人の子供。
「ではお前たちは私の指揮下に入れ。危険は覚悟しろ?」
「はい父上!!」

 一通りの編制確認が済むとオリヴィエがテュルパンにいつもの洗礼を頼んだ。
「よしテュルパン大司教、洗礼をお願いしたい」
「任されよ─────我らが大いなる主よ。この主の剣達に天の御加護があらん事をアーメン」
 テュルパン大司教が祈ると騎士達の肉体を暖かな光が包み込んだ。
 聖人である彼は奇跡を担う一人。
 彼らフランク騎士は戦の前にはこうして大司教より祝福と洗礼と加護を得て自軍の力を一時的に高めてから戦に臨むのだ。
「大司教の洗礼により我らは神の御加護に守れた───では先陣部隊はこれより町の中心部へ侵攻する!」
 ウオオオオオ!!っという怒号と共にローランたち主力部隊は進軍を開始した。


「オリヴィエどう思う?」
 襲い掛かってくる死者の群れを叩き斬りながらローランが背後の戦友に話し掛ける。
「死者の質が異様に高い。
 放っておけばこの死者たちを生み出した吸血鬼は将来……王の一人となるかもしれない」
 オリヴィエが不吉なことを言う。
 ──吸血鬼の王の一人とは即ち死徒の王。
 つまり死徒二十七祖の一角に他ならない。
 オリヴィエの見立てでは祖としての位を継承出来るかもしれないような階位の吸血鬼がこの町に潜伏しているらしいのだ。
「いいえ有り得ませんよ」
 槍と聖杖を振るいながらテュルパンが否定する。
「なんで大司教?」
 あまりにはっきりと言う大司教にローランがそちらへと顔をやる。
「そんなの当然ですよ。なぜなら我々が今から浄化してしまうのです、からっ!」
 聖杖で死者の頭部を粉砕しながら大司教は断言した。
 オリヴィエも死者を纏めて三体斬り捨てる。
「ローラン!この討伐と浄化が終わったら久しぶりにオードに逢いに行ってやってくれないか?」
「オードに?ああ勿論!むしろこっちから頼みたいくらいさ」
 呑気な会話をしているがこっちはこっちで五体の死者を事も無げに切り伏せてゆく。
 彼らはこの時代で最強の戦力を誇るフランク王国の騎士達の中でもさらに最強と誉れも高い選ばれしパラディンだ。
 どれだけ死者の質が良かろうと所詮は雑兵、雑魚に過ぎないというわけである。


「ローラン殿!オリヴィエ殿!あちらの主力がそろそろ出てきたようですよ」
 テュルパンの注意する方向へ目を向ける。
 屋根の上には四体の人型がいた。
「ひひひ!獲物を見ぃぃつけたっと」
 忍び笑いを洩らす男。その汚れた目は愉悦で歪んでいた。
「自我があるな……どうする?」
 間違いなく奴らは死徒だ。
 その辺にいる傀儡に過ぎない死者とは存在の格が違う。
「オレがやるよ。オリヴィエとテュルパン大司教は部隊を率いて先行してくれ。すぐに追いつくから」
 二人を先に行かせ、ローランだけがその場に残った。
 その余裕ある行動に四体の死徒たちは不愉快そうに騎士を睨め付けている。
「ところで一つ訊きたいんだけどさ」
 ローランは普段と変わらない口調で屋根の上に怪物たちに話しかけた。
 だがそれも一瞬のことに過ぎない。

「────ここに居た騎士団を全滅させたのは誰だ?」

 彼にしては非常に珍しいくらいに低く押し殺した声で問うた。
 すると唐突にゲラゲラと下品な笑い声が木霊す。
 嘲笑だった。
「おれたち以外に誰がいるんだ馬鹿が!」
 異常に長い二つの犬歯を剥き出しにして一番前にいた死徒が嘲笑う。

「そうか。じゃあ……ここで騎士団長をしていた女騎士を知ってるか?」

 怪物の返答に対し不気味なほどに平坦な声でローランが再度問う。
「ああ、知ってるぜぇ?良いオンナだったよ色々と、な!」
 それと同時に一際下劣な笑いが四体から轟いた。
 つまり………”そういうこと”なのだろう。

「もう質問は済んだが?じゃあ早速だが死んでく───」

 スパン…………ボトリと。
 あっさりとした音だけが残った。
 屋根の一番前に立っていた死徒の首が無くなっている。
「……は…?」
 死徒たちが驚くのも無理はない。
 何故か目の前にはさっきまで地上にいた騎士がいるのだ。
 屋根の上にはいつの間にか聖剣を薙いだ格好で残心しているローランがいた。

「ああもう十分だ。────今すぐにこの世から消え失せろ穢れた悪魔どもめ」

 騎士は前にいるだけで切り刻まれそうな殺気を放っている。
 冷たく言い放つと同時に首無し死徒の身体が細切れになる。
 満月の日でもない夜にここまで完璧に殺せば復元呪詛の力といえどまず助かるまい。
 ましてやローランたちパラディンが装備しているのは聖剣なのである。
 この程度の死徒では助かる見込みすらない。
「な…てめ!いつのま───」
 さらにその近くにいた死徒も頭から真っ二つにして殺す。
 純白の外套に返り血を一切浴びる事無く次の標的に狙いを定める。
 三体目も心臓と脳を瞬時に破壊され絶命した。
 言葉を話すのも赦さない。
 身構える余裕さえ与えない。
 反撃など認めない。
 逃亡するのも許さない。
 息をするのも許可しない。

 なにより、お前たちが生存していることを赦さない───!

 逃げるどころか反撃することも喋ることも出来ずに三体の死徒が死ぬ。
 そしてとうとう一番遠くにいた死徒も反撃すら出来ずに身体を×字に斬られて解体された。
 本気になったローランにより四体目の死徒もこうして絶命した。

「違う……こいつらじゃない。この程度の奴らにジルベルトたちが負ける訳が無い」
 消滅してゆく化け物たちを尻目にローランは考える。
 やはり違う。この程度の連中に騎士団が全滅させられる筈が無い。
 彼女達の仇は別にいるのだ。
 もう用が無くなった屋根からさっさと移動を開始する。
 屋根伝いに行けばオリヴィエたちと早く合流できる。
 そう決めるとローランは屋根の上を走り出した。




 ───第三部隊方面。
「ヤァ!バヤール背後だ!」
 ルノーの言葉に反応してバヤールが嘶きと共に後ろ足で死徒に蹴りを喰らわせる。
 パン!っと快音と共に怪物の頭が無くなり、そして動かなくなった。
 後方を攻撃した後は前面に群がる死者を踏み殺す。
 かつては騎士すらも一撃で蹴り殺す怪馬だったバヤール。
 しかしルノーを真の主と認めた現在、バヤールは怪馬から名馬として讃えられ名声を欲しい侭にしていた。

「よーしよし。良い子だバヤール!」
 ワシュワシュと愛馬の鬣を撫でてやる。
 ルノー隊はローランたちとは別ルートを辿っていた。
 こちらの侵攻具合は順調だ。
「ブラダマンテ!リッチャルデット!死徒がいた場合はすぐに知らせてくれ!」
 応!という返事と共に部隊が散開する。
「知らせる必要はないよ。……随分と派手にやってくれるね騎士ども」
 バヤールに跨ったルノーの前に女が立ち塞がっている。
 女には全てが死に絶えたこの死都において自意識がちゃんとある。
 つまり死徒ということなのだろう。
 その推測を裏付けるように口元から長い牙が覗く。
「当然だ。元々はお前たちが派手にやってくれたのが原因だろうが」
「兄上援護します!!」
「下がっていろグィドーネ。俺がやる!」
 ルノーは末弟を制止させるとナイトがよく装備しているフルフェイスヘルムの顔面部を下ろす。
 頭部がスッポリと鋼鉄に覆われた。
 それから手にした騎兵槍ではなく炎の聖剣を鞘から抜く。
 高熱が秘められているせいか陽炎の様に刀身が揺らめいて見える。
 しっかりと刀身を見定めないと幻惑されてしまいそうになる。
「俺が相手だ化け物め」
「ふんあんたが?あたしは別にいいよ」
 女は余裕の態度だ。長い爪をレロレロと舐めている。
 奇声をあげて死徒がルノー目掛けて高く跳躍した。
「ハイヤァ!バヤール!」
 合図と共にバヤールが俊敏に駆け出した。
 そして死徒の着地予想地点を一度大きく離れ再び元いた方向へと転回する。
 騎士が離れた直後に死徒がそのまま振り下ろしていた拳で大地を殴りつけた。
 バコッと突き下ろされた拳の威力で地面にバスケットボール大の穴が開く。
 怪物の名に恥じない威力だ。
「ちぃっ!!」
 攻撃を外し舌打ちする死徒が背後へ振り返る。
 だがすぐ目の前には馬の蹄が迫っており………轢かれた。
「ぶぎゅい!!!?」
 不細工な悲鳴を上げて死徒が倒れる。
「もう一度だバヤール!」
 愛馬に指示を飛ばす。この馬は人間の言葉が判るのかとんでもなく賢い。
 そのせいかルノーの意思を汲み取り、一方的だが意思疎通が出来る。
 主人の合図に答え名馬は高く跳ぶ。
 馬の跳躍は美しい弧を描く。
 眼下にはバヤールの強烈極まりない蹴りを喰らって地をのた打ち回っている女死徒がいた。
 しかしルノーはそれを完全に無視すると、跳躍する愛馬の背を足場にしてさらに高く前方へ跳躍する。
 ルノーが跳んだ直後、ブギュッバキバキ!と肉と内臓と骨が潰れた音と共に女死徒が死亡した。
 愛馬の着地した場所からさらに数m先まで跳んで行くルノー。
 彼の狙いは女死徒ではなく。
 十数m先にブラダマンテの背後を狙う別の死徒がいたのだ。
「させんぞ下衆め!!」
 気合全開で手にした灼熱の聖剣に魔力を注ぎ込んだ。
 そして剣の真名を解き放つ!

    揺らめく焔天
「───フランベルジュ─────!!!!!」

 蜃気楼のようにユラユラと揺らめいていた刀身が豪炎を撒き散らす炎蛇の様に伸びあがる。
 振り下ろされた剣は鞭の如きしなりを魅せ上空より地表へと鈍間な獲物に襲い掛かった。
 背後を振り向いた死徒は恐怖のあまり目をひん剥いている。
 だがもう遅い。
 怪物の腹の真ん中に深々と炎剣が突き刺さる。
 血液の塊を口と腹部から逆流させる。
 そして────。

 次の瞬間には奔るような勢いで劫火が死徒の体内から噴出していた。

 爆炎とも呼べるようなあまりの業火に死徒が耳を塞ぎたくなる悲鳴を上げる。
 だがその悲鳴も数秒続かなかった。
 肉体と精神、そして魂すらも焼き尽くす焔。
 魔力が低い者がそれを受けて生き残る術無し。
 それがルノー・ド・モントヴァンの切り札たる炎の聖剣の威力であった───。
 ルノーは着地と同時に聖剣を鞘に収める。
「まぁこんなものか」
 軽く息を吐きながらフルフェイスヘルムの顔面部を展開した。
 力強そうな太い眉と丸い瞳が露わになる。
「もう少し西南方面に進軍するついて来い!」
「オオオオオ!」



 ───第四第五部隊方面。
「テュルパン大司教ー!南の方に大きな建物が見えるよー!」
 アストルフォはヒッポグリフで空を飛びながら地上にいるテュルパンへ大声を張り上げている。
 ちなみにテュルパンとオリヴィエの部隊はローランが合流した為は今は別行動をとっている。
「それは真ですかアストルフォ殿ー?」
 こちらも上空で町の様子を偵察してくれている仲間へ向かって負けず劣らずの大声で返事をする。
 こういう時にアストルフォは頼りになる。
 なにせ彼は魔獣で空を飛べるのだ。
 実力的には確かにパラディンの中では劣るがそれでも他のパラディンには無いアドバンテージが彼にはある。

「本当だともー。僕は仲間に嘘はつかないよー」
「わかっていますよーアストルフォ殿ー。それよりその建物の様子はどうなっていますー?」
 少し自意識過剰な悪癖のある仲間に周辺の状態を訊いてみる。
「ん~あれは当たりっぽいんじゃないかなぁと僕は思うねー!」
 そう言ってアストルフォがテュルパンたちの許へ降りて来た。
 着陸と同時に髪の毛を掻き揚げるのも忘れない。
 だってアストルフォは王子様だもん。
「ふぅ流石は僕だね。偵察だってお手の物さ。
 でだね大司教、やっぱり見てきた感じあの建物が一番魔術の形跡が強いよ」
 パタンと蔵知の魔書を閉じて少々嵩張る本を道具袋の中に仕舞う。
「そうですか。では”親”は町の中心部ではなく端寄りの場所に陣取っている可能性が高いと」
「うん僕が言うのだから間違いは無いさ~。とすればどうするんだい大司教?」
「…………我々だけではなくローラン殿とオリヴィエ殿に通達した方が良いでしょうね」
 大司教は少し考えて、最善の選択を選ぶ。
 少なくともあの二人が揃っていればこの町にどんな超級の怪物が潜んでいたとしても何とかなる。
 あの二人はかつて二人で巨人を退治した事もある真の勇者だ。
 さらにローランに至っては単体で魔法庭園に棲まう怪物たちを倒した程の英雄である。
 二十七祖でもない死徒程度が止められる男達ではないのだ。

「じゃあ僕がゆこう。ふっふ~なにせ僕にはヒッポグリフがあるからね!」
「では頼みましたアストルフォ殿。貴方が戻ってくるまでは私が両部隊の指揮を執っておきますから」
「うんそれじゃお願いするよ大司教。じゃ行ってく──」
「テュルパン大司教様!アストルフォ様!囲まれていますご指示を!」
 部下である騎士の砂利を踏み鳴らす音が会話を中断させた。
 周辺を見渡す。確かに囲まれていた。 
 そればかりか死者の数が優に100を超えている。
「あ~やるしかないよねぇこれは?」
 アストルフォがヒッポグリフの手綱を左手で握り、右手に黄金の角笛を持っている。
「ですね。一旦アストルフォ殿の黄金の角笛でこの包囲状態を破りそれから再戦闘とゆきましょう」
「よしきた。じゃあいくよ!塞げーー!」
 アストルフォの合図で騎士達が一斉に耳を塞ぐ。
 聞く者におぞましさすら感じさせる音を奏でる角笛を思いっきり吹きならすと包囲網が徐々に崩れてゆく。
 死者が一時的に撤退を始めているのだ。
 包囲網が崩れると同時に陣形の一角へ向かって突進をかけるテュルパン部隊。
 バッファローの如き怒涛の勢いで死者たちを挽肉に変えると即座に散開して各自の戦闘を開始した。

「さあいけヒッポグリフ!僕の凄さを見せてやるんだ!」
 キュェエエエ!と怪音を吼えるヒッポグリフが宙を自在に舞った。
 天上を大きく旋回し急降下。
 その鋭い嘴を以って死者の頭を喰い千切り、その巨大な翼を広げライフル弾のように回転する。
 魔力による衝撃波を生み出し死者の群れを巨人の手で薙ぎ払うように吹き飛ばしてやる。
「ハッハッー!どうだい僕の騎乗っぷりは!?まだまだいくよ…う、酔った……」
 一方地上ではテュルパンが雄叫びを上げて愛矛を振り回す。
「オオオオオオオオオオオ!!天誅ぞ、邪悪なる悪魔の権化よ!」
「大司教に続けぇぇえ!!我等には神の加護がある恐れるなー!」
 テュルパン大司教は鬼神もかくやという猛戦ぶりで味方の騎士たちをガンガン引っ張っていく。
 敵の援軍がこちらへ向っているのが見えた。
 するとテュルパンはなんと部下も連れずに単騎で死者の軍団に対して特攻をかける。
 腰の聖剣に手をやる。
 敵味方が入り混じる混戦状態では使えないが単騎ならばこの氷の聖剣が使用できる。
「おおおお!ゆくぞ我が聖剣アルマースよ───!!!」
 先頭で死者を先導していた死徒へ手にした剣を斬り付ける。
 すると死徒は凍ったように固まり動きを停止させた。
 その絶好の隙を突き一撃で敵の首を刎ね飛ばしてやる。
 続いて組み伏せようと腕を伸ばしてきた数体の死者に向かって氷剣を振るう。
 組み伏せようとしていた腕がテュルパンに届く事無くピタリと停止してしまった。
「ハァァア!!ジャァ!」
 気合と共に迫る敵全てに対して聖剣を向けて、悉く動きを氷結させてしまう。
 固定し切り伏せた数は既に30。
 テュルパンの周りは敵ばかりだ。
 だが。味方が一人も傍に居ない状態だからこそテュルパンは本当の力を出す事が出来る。
 右足を中心に回転し円形状の軌跡を描く。
 その僅かに遅れてレンジ内に足を踏み入れた死者の動きが一瞬にして固まる。
 空間すらも凍らせてしまう氷の刃は一対多数の状態にこそその真価を発揮する。
 静止している全ての死者を瞬時に血祭りに上げ次なる獲物に襲い掛かる。
 テュルパンの孤軍奮闘によりたった今現れた死徒側の援軍が全滅するのは確定したも同然だった──。



 ───第一、第二部隊。
 こうしてローランとオリヴィエたちの部隊はその建物の前に辿り着いた。
 アストルフォの報せによりローランとオリヴィエはこの町の支配者である死徒の棺らしき建物の存在を知った。
 尋常ではない雰囲気だ。
 腐敗した空気が満ちているかのように感じてしまう。
 親友と目配せする。
「……よし、行くぞ!」
 玄関を蹴破り中へ突入する。
 ローランとオリヴィエに続いて騎士達も突入してくる。
 しばらく進むと背後の騎士達の悲鳴が上がった。
 血を流している者が何人かいる。
 中には腕を引き千切られたショックで心臓が止まった騎士もいた。
「死徒か!!?」
「のようだな。アストルフォの話はどうやら当たりだったみたいだな」
 ローランとオリヴィエは部屋の中央で背中合わせになり聖剣を構える。
 騎士達を何体もの死者と10体ばかりの死徒が取り囲むようにして存在していた。
 階上の踊り場に一際存在感のある死徒が悠々と立っていた。
「ようこそ我が領地へ。諸君らはあのシャルル大帝の秘蔵の虎の子であるパラディンか?」
「そうだ。貴様がこの町を死都に変えた張本人か?なぜこんな真似をした!」
 オリヴィエが死徒たちの領主に問う。
「正解。理由なんて簡単だ。
 王位継承候補ライバルが最近急に力を付けているらしくてねぇ、こちらも対抗策を考えてたんだ。
 王位に就く為の力を得るには手っ取り早いと、のんびりやる今までのやり方から変えてみただけだが。
 しかし……やはり早急に事を運びすぎたらしい。こんな連中が出てくるとは。
 今まで通りのんびりとやるべきだったがまあいいさ」
「お前は何者だ」
「名前など無い。いつか二十七祖の位を継承するただの一候補者だ。
 それでも不満だというのなら名前を考えんといかんな。
 名前ねぇああそうだ、いっそ今から死ャルル魔ーニュとでも名乗ろうかくくくく!」
 邪悪に哂う死徒が一級品であることは雰囲気からもまず間違いない。
 これだけの数の町の住人と駐屯する騎士達を全て喰らったのだ。
 その見返りは非常に大きい。
「我らが王の名を汚らわしい口で呼ぶな!
 いい度胸だ貴様はこの私が討ち滅ぼしてやろう」
 聖剣を握り直して気炎を上げるオリヴィエ。
「なあ一つ訊きたい」
 その横でいやに静かなローランが静かに口を開いた。
「んなんだ?言ってみろ」
「この町に居た騎士団はどうした?」
 声のトーンが沈んでいく。
 普段のローランからは考えられないほど重圧感のある声だ。
「ああそれか。ほれソコにいるだろ」
 合図に合わせて部屋の奥から甲冑を来た人型が幾人も出てきた。
 それはまぎれもなくこの町に駐屯していた騎士たちであった。
「……!!!?…お前……なんということを!!!!」
 無残な姿になった仲間の姿を見てオリヴィエが激怒する。
 だがローランの方は未だに視線を下げたままの状態で不気味なまでに大人しくしている。
「……じゃあ。女騎士団長はどうしたか知っているか?」
「くく勿論知ってるさ中々の美女だったからな。
 ……………おれが十分に愉しんでからから殺したよ。
 面白かったぜ?強い女が泣き叫びながら許しを乞う姿が堪らなくそそってな!
 可愛い声で何度も何度も助けを呼んでやがったよ。えとなんつったっけかな?
 ああそうだ!ローランだかオリヴィエだかいう名を頻繁に呼んでたよ。
 あんまり愛らしいせいで何度ヤっても飽きなかったくらいだ。おかげで一月は愉しめた。
 そうそう安心しろ?お仲間が誤まって自殺しない様にわざわざおれが丁寧に歯を一本一本抜いてやっといたからな。
 歯が無いせいで飯が食えなくなったが代わりにずっとおれのナニでも銜えさせておいたから大丈夫さ!
 いい加減飽きてきた頃に死者にしてその後は仲良く配下のみなに振舞ってあげたっけな。
 ああちなみに今は一番上の階で寝ているぞクククク?
 素っ裸に精液塗れな痛々しい姿で、だがなぁ!ヒャハーッハッハッハ!!」
 狂笑の波紋が凄まじい勢いで伝播してゆく。
 ローランたちの眼前に存在する10体の死徒も、自我のない死者すらも彼女を贄にしたその地獄を愉しんでいたのだ。
 彼らの大事な仲間を嬲り穢し汚し犯し肉体と精神と魂までもよ滅茶苦茶にしてから殺し、なおも辱しめ続けていると奴は言う。
 己の地獄じみた欲望の回想録にうっとりしているのか死徒の領主だという悪魔は狂ったように馬鹿笑いをしたままだ。
 奥歯が砕けんばかりに歯を食いしばるオリヴィエ。
 身体がブルブルと震えていた。
 いつも冷静沈着な智将には珍しいくらいの激情を現している。
 その表情が阿修羅めいて見える。
 だがそれよりも薄気味悪いのはオリヴィエの隣にいるローランの方だった。
 その貌には全くと言っていい程に表情が無い。
 喜怒哀楽の激しい感情屋がこれほどの事を聞かされて歯軋り一つさえしていないのだ。
「はぁはぁふぅ!ああ笑い疲れた。そろそろ殺すか」
 一通り笑い狂ったあと領主と名乗る死徒が階下のローランたちの方へ視線を送る。
 そうして邪悪な悪魔の化身が冷酷な目をしたまま、スッっと指を指して配下に邪魔者を殺せと号令を下した。

「殺すか─────そうだな、死ぬしかないな」

 ローランが顔を上げる。
 騎士と死徒の眼が合った。
 ぞぐりと戦慄した。

 騎士達のその瞳は───────邪悪な悪魔の化身の瞳よりも遙かに強烈な死の色をまざまざと放っていた。

「私も同感だな………死は間逃れない。否───死だけでは足りない」

 そうだ死ぬしかない。
 この場で死ぬしかない。
 この手で死ぬしかない。
 奴は赦されざる罪を犯した。
 この地上において。神罰の代行者が。神の剣が存在すると言う事実を。

 あの外道にとくと教えてやろう───!!

 二人の英雄が腰から己の誇りを抜き放つ。
 加減などしてやるつもりは毛頭無い。
 四体の死徒が二人目掛けて頭上から降って来る。
 階位は先ほどローランが仕留めた奴よりも数段上だ。
 巨大で鋭い爪を振りかざす。
 狙いは動脈。人間である以上は首はどうしようもない弱点。
 ローランたちの背後に居た騎士達には死徒の腕の動きは全く視えなかった。
 ヒトの動体視力程度では決して追いつけない攻撃が首筋を切り裂くために薙ぎ払われる。
 血が舞った。
 そしてその次に血肉の雨が降った。
 ゴミのように床に叩き付けられる四体の死徒。
 どの骸も手足や胴体が見事なまでに切り裂かれている。
 死徒の攻撃は方角もタイミングも全てバラバラだった。
 だが二人の騎士は己の首に迫り来るそれぞれの凶爪を手首、肘、上腕と爪に近い部分から順に輪切りにしていた。
 静寂が場を支配する。
 それは信じられないモノを目撃したと……。
 いや、これは視てはいけないモノを見てしまった。

 決して遭ってはならないモノに遭ってしまったという戦慄だった。

「なあオリヴィエ」
「なんだローラン」 
 二人が前へゆっくりと足を踏み出す。
 二人の歩みに合わせて本能に突き動かされた死者たちが僅かに退がった。
 眼前には残酷にも死者にされた元仲間の騎士達。
 それに上階へ行くための階段。
「あいつはオレがやる」
「それは駄目だな。奴は私が貰う。こればかりはたとえ親友の君にも譲ってやれないな」
 無表情のローランと憤怒の面貌をしたオリヴィエとの死者たちの距離が縮まっていく。
 上にいる怨敵に眼を向けた。
 二人の闘気に気圧され死徒が僅かに後退した。

「「首を洗って待っていろ─────すぐに貴様の許へゆく」」

 宣言と同時に疾風の如き疾走をして死者の壁に突っ込んだ。
 通行の邪魔になる二十体ほどを五秒とかからず粉砕した。
 階段を駆け上る。
 一体の死徒が上階から階段を上がってくるローランたち目掛けて飛び掛って来た。
 ローランとオリヴィエが息ピッタリで同時に剣を突き出した。
 串刺しになった死徒が絶叫をあげて強制停止させられる。
 ついでに鋏の要領で串刺しになった敵を真っ二つに引き裂いてやる。
「邪魔だ!」
 さらに階上へ進む。
 一階では正気に戻った騎士たちが死者たちと交戦を開始したらしい。
 雄叫びがここまで轟いてくる。
 さらに上階へ。
 ローランは死角から襲ってきた死徒の首を全く視ずに落とす。
 今日はすこぶる勘が良い。殺意に反応して身体が勝手に動く感じだ。
 オリヴィエの前にも死徒が立ち塞がる。
 全力で踏み込んで左からの薙ぎ払い。
 死徒が眼をカッと見開いた。
 この怪物の持つ人間とは桁違いな動体視力はオリヴィエの剣筋を確実に視ている。
 それに合わせて聖剣から逃げるように身体を動かし始める。
 だがオリヴィエは左方向から入った薙ぎ払いを身体ごとを反対方向へ回転させ強引に捻じ曲げる。
「───!?!?」
 怪物が驚愕の悲鳴を上げる。
 さっきまで右回転だった筈の太刀筋が突然左回転の太刀筋になっているのだ。
 逃げていた筈の刃が何故か目の前にある。
 豆腐を斬るかのように滑らかに首と頚椎を切断した。
 どんなに強力な肉体の性能があろうと英雄と一介の死徒では経験値が圧倒的に違う。
 二人は切り捨てた敵には眼もくれずひたすら足を進める。
 さらに進撃すると分かれ道になっている通路へ出た。
 二人で頷き合って決める
「オレは右」
「では私が左だな」
「恨みっこ無しの早い者勝ちだぞ?」
「ああいいだろう」
 軽い言葉を交わして右の通路を走る。
 廊下を駆け抜ける。そろそろ奴の所へ着く筈だ。
 速度をさらに上げて疾走する。
 扉が見えた。デュランダルで斬り開けて中に突入した。
 居た────!!

「ようこそ」
 奴の顔が忌々しさで醜く歪んでいる。
「そして、サヨナラだ!!」
 言うと同時に物凄い速度で突っ込んでくる。
 動きが今までの死徒の比ではなかった。
 ローランの顔面に振るわれた爪を聖剣で止める。とんでもなく重い。
 胸板に蹴りを入れて死徒との距離を離させる。
 死徒が奇声を上げて渾身の力を篭めたアイアンクローが放たれる。
 ローランは雷光のような速度でそれを避けながら敵の背後に回りこむ。
 頬が若干切れ血が流れた。
 敵の背後へ回り込みながら全身のバネを使って身体の向きを反転させ、下から上へ半月を描くような軌道で剣を斬り上げる。
 綺麗な太刀筋の一閃。
「があああああああああああああ!!!??」
 右腕が天井近くまで舞い。吹き抜けから一階へ堕ちてゆく。
 死徒は苦痛に喘ぎながらたった今失った腕をあっという間に再生させる。
「それが復元呪詛の威力か」
 敵の腕の数が二本に戻る。
 しかしこの男は甘くはなかった……。
 月の光に照らされた聖剣が闇に何度も煌めく。
「ぎああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」
 今度は反対の左の腕を叩き落としてやった。
 それも今回は手首から肩にかけて七ヶ所を輪切りにした。
 おまけについさっき再生した右腕もしっかり斬り落としている。
 痛みはさっきよりも大分大きいだろう。
 たまらず脱兎の如く逃げ出す死徒。
 それを追って獅子猛然と走り出すローラン。
 廊下に出て通路を駆け階段を上がって最上階に着いた。
 そこには……。

「な…ジルベルト……!!?」
 眼も当てられないほどに穢され抜いた友だった女の姿があった。
 奴はジルベルトを盾にしてローランに対し牽制している。
 既に両腕は再生している。
「ふぅふぅ。そこまでだ!こいつがどうなってもいいのか?」
「貴様………」
 抑えた低い声を発し、一歩前へ踏み出す。
「待て!まだこの女は間に合うと言ったらどうする!
 だが、お前が一歩でもそこを動くなら保障はせんぞ……?」
「貴様はジルベルトを殺したと言った筈じゃなかったのか?」
「くく、あんな下らん話をお前は信じるのかバカか?大体もしそうだとしても元に戻す方法はあるさ。
 然るべき処置をすれば助かる見込みはあるんだよ!」
「……………」
 見た感じではジルベルトは生きている様にはとても見えない。
 傷だらけで血の気が無い。
 心身ズタボロにされた負担で元の美貌も見る影も無い。
 だがもしも…。
 もしも本当に彼女を元に戻す方法があるのなら……オレは………。
 ありえないと判っていながらも悪魔の誘惑にも似た葛藤がローランの心を激しく揺さ振る。
 追撃をかける足が止まってしまった。

「そう、それでいい。く、ククク!騎士なら助けてやろうぜ友をさぁ」
 奴はそう言いながらじりじりと背後の窓へと後退していく。
 窓までの距離は10m前後。
 10m程度の距離ならあの怪物はバックステップで瞬く間に距離を詰める事が出来る。
 だからあと数歩も後退されたらきっと取り逃がしてしまうだろう。
 ローランは自分がどうすべきかを必死で考える。
 仲間を救う奇跡みたいな可能性に縋るか、この地獄を作り出した元凶を逃さずに倒すか。
 せめてジルベルトの生死の確認だけでも出来れば!
 歯を噛み締めて無残な姿のジルベルトから眼を背けるようにして面を下げた。
 すると床の奇妙なモノが眼に入った。
「え……?」
 ウネウネしたミミズのようなモノ。
 町や城でよく見かける線状のもの。
 それは黒ずんだ血で書かれた文字だ。
 そこには。

 ───ローラン、オリヴィエみんなの仇を。それとごめんね───

 ジルベルトの最後の言葉だった。
 眼球が揺れる。
 瞳孔が開く。
 体中の血潮が活性化する。
 頭の中でキン!っと剣が鞘に納まった時のような音がした。
 ……殺す。
 何があっても滅ぼす。絶対に殺す。確実に滅する。
 奴だけは生かしてはおかない。
 お前の死は確定だ。
 獅子の前に現われた兎がどうして生き残れようか?
 世界の摂理が弱肉強食である以上。
 貴様はオレに喰われて死ぬんだ!
 ここに宣言する。

 神意を代行する騎士として────貴様の存在を一切許可しない────!!!

 奴と窓との距離は9mを切っていた。
 それは奴が一発でこの窮地から脱出できる安全地帯に辿り着いたという意味だ。
「は、ははははははははは!!マヌケが死者を元に戻す方法なんぞあるかヴァカが!!」
 嘲笑と共にジルベルトを壊れた人形の様にローランへと突き飛ばして奴は後方の窓へ跳躍しようとした。
 しかしその直前───。
 バリンとその窓をぶち破りオリヴィエが室内に侵入してきた。 
 死徒は信じられないという無様な顔をしていた。
「─────」
 オリヴィエが奴との距離を詰める。
「デュランダルよ……オレに力を……」
 ローランもデュランダルを構えている。
 ただしそれは斬撃するための構えではなく。
 ジルベルトの身体を傷付け無いよう細心の注意を払い。
 しかし絶殺の意志を以ってナイフを投げる如く聖剣を投擲した。
 矢のようにデュランダルが真っ直ぐ飛んでいき……逃げようとしていた奴の腹に深々と突き立った。
 おぞましい絶叫が室内に轟く。
 尋常ではない苦しみ方だ。
 投擲する前に既にデュランダルが持つ第二奇跡を発動させている。
 死徒である奴がただで済むわけが無い。
 否───ただで済まさない為に第二奇跡を行使したのだから。
 極上の苦しみにのた打ち回る悪鬼。
 もう自分は逃げる足止めをすれば十分なのだ。
 なぜなら。

「ここまでだ!貴様が行なってきた所業、今こそ己が痛みを以って受け止めるがいい!!」

 ついに死徒に肉薄したオリヴィエが奴の目前で跳躍する。
 天井高く舞い上がるオリヴィエの身体。
 そして己の聖剣オートクレールを高く高く掲げて構え───。

      天上
「─────オート」

 怨敵の頭上目掛けて。
 いと高き清らかなる聖剣を振り下ろしならが真名を解き放つ───!!

  聖刀
「クレール─────!!!!」

 死徒の頭部を聖なる刃が透過してゆく。
 そうして頭から股下までを素晴しい切断力バッサリと真っ二つにした聖剣が地面と激突する。
 刹那───。
 物凄い光量を放つ柱が地上から天空へ向かって立ち昇った。
 天と地を垂直に繋ぐ白光色の円柱。
 それは天使の階段と呼ばれる現象にも似た神秘的な光景だった。
 月明かりしかない闇夜の世界に出現した白色の光柱。
 その光柱の中に領主と名乗った死徒が地獄のように悶え苦しんでいた。
「あ、ああア、ガ、く、崩、れ、あ、アア。ガア、アアアアアアアアアア!!!!」
 火柱が昇るように勢い良く立ち昇っていく光の中で死徒の肉体が天へ向かいザラザラと崩れ消えていく。

 そうしてこの町を地獄に変えた元凶はまるで昇天するかのように跡形も無く消滅した───。




「終わったな」
「ああ。終わった」
 吸血鬼の棺も破壊し残りの死徒の残党と死者を全て片付けたあとローランとオリヴィエは二人で月を見ていた。
「ジルベルトの亡骸どこいったんだろうな」
 寂しそうな口調でローランが口を開いた。
 僅かだが涙ぐんで鼻声になっている。
 せめて王城へ持ち帰り教会で清めて埋葬してあげたかった。
「彼女の亡骸なら私のオートクレールで一緒に弔ったよ」
 そんな様子のローランに義兄にして親友は大丈夫だと慰めた。
「……マジか?」
「ああマジだ。私の聖剣は属性的に浄化だからな。
 穢されたジルベルトの身体も心も魂も全て洗い流せる。堕ちる事無く主の下へいけたさ」
「そっか。なら安心だ。きっとジルベルトは天国にいけるよ。
 オリヴィエのオートクレールは綺麗だからな。
 あの光の中を昇っていった彼女は天使になったというわけか」
「天使の階段か……そうだな彼女にはよく似合っているかな」
 友の冥福を想い微笑を浮かべる二人。
 ところで少し君に話がある。と前置きしてオリヴィエが少し真剣な表情をしてローランの方を向いた。

「ん?なにさオリヴィエ」
「いいかローラン。確かに君は強い。流石は我が背中を預けた戦友だ。
 だがな、ローラン。君と共に戦う者全てがお前程強い訳じゃないんだよ。
 そこを誤ってはいけない。でないといつか手遅れな事が起きてしまうかもしれないぞ」
 この戦いでローランに感じた危うさをオリヴィエは指摘する。
 ローランはどういう状況になっても逃げないし助けも呼ばない。
 そういう場面が今回の討伐全体を通してチラチラと見受けられたのだ。
「でも自分が危なくなった援軍を呼ぶというのは騎士として不名誉な事ではないのか?」
 自分の考える騎士道を素直に親友にぶつけてみる。
 だがそれを親友はやんわりと否定した。
「確かに自分が危うくなって援軍を呼ぶのは不名誉かもしれない。
 しかし。味方を救う為に援軍を呼ぶ事は不名誉だとは私は思わない。
 味方の危機を助けるのは味方の役割だろう?
 私がローランを助けるようにローランも私を助ける。それは不名誉なことか?」
 真剣な眼をして問いを投げる友にこちらも真剣な表情で答える。
「そんな訳無いだろう。仲間を助けるのは仲間の役目じゃないか」
「ああ。だから出来るだけローランもそうしてやってくれ。
 自分ばかりではなく周りに目を向けてよく見るんだ」
「ん~わかった。オリヴィエがそういうのなら出来るだけそうしてみよう……自信は…あんまり無いけどな……」
「フフ。ああそれでいい。出来るだけ頼む」
 わかってるのかわかってないのか判り難い反応をするローランについ笑ってしまうオリヴィエだった。



───────Interlude  out───────


 気が付くといつの間にか外は完全に暗くなっていた。
 なんだか夢を見ていたような気分だ。
 当然サーヴァントが夢なんて見るわけが無い。
 まどろむ様にぼんやりと懐かしい記憶を思い出していたのだろう。
 だろうということは要するに内容をハッキリとは覚えてないって事である。
 何のためにこんなこと思い出そうとしてたんだっけ?
 ………あっちゃ~忘れてら。
 う~む我ながら困ったものだ。
「さてと」
 尻の砂をはたいてから立ち上がる。
 食堂に置いてあったからくすねて持って来ていた林檎をしゃりしゃり齧る。
 ついでにバナナもモグモグ。
 うんナチュラルテイストで実に美味だ。
 サルやゴリラがバナナばっか食ってる理由がわかる気がするなあ。

「また戦いの時間だ────今夜はランサーかファイターに遭遇出来るといいな」 
 セイバーは夜空を見上げながら目的を果たす決意を再び燃え上がらせた。








──────V&F Side──────

助けろ!ウェイバー教授第12回


F「………」
V「………」
オリヴィエ「………」
テュルパン「………」
ルノー「………」
F「…………」
O「…………」
T「…………」
R「…………」
V「…………すまん、どうやら私は入ってくる場所を間違えたようだ。
  ではな君も阿保な事ばかりやってないで少しは頑張れたまえよフラット!」
F「ちょちょちょ!先生!間違ってません間違ってません!帰らないで!」
O「待って頂きたいエルメロイⅡ!なぜ私たちの顔を見るなり帰るのだ!?」
R「失礼だぞこの野郎!」
T「主よこの者に神罰を与えたまえ!」
V「いやしかし私は助けろウェイバー教授のコーナーに出る筈なのだが……(退室、そして再度入室)」
V「……表の標識にはV教室とあるしな?ふむ場所自体は間違ってはいないようだが」
F「はい。間違ってません」
V「なるほど。SSの内容が間違っていたのか」
O「…………!?」
T「……!!」
R「…………?!!」
F「うわぁ流石は先生です!パラディンの方々すら一撃で黙らせるなんて!仰ることが一味違いますね!」
O「ま、間違い……私達の話が間違い……」
R「お、おい!オリヴィエしっかりしろー!傷は浅いぞぉぉ!大司教ー!」
T「天に召されました」
R「オリヴィエー!!大司教も何を暢気な!
  俺と違ってここで否定されちゃったら悪い意味でネタ鯖扱いされてる大司教にはきっともう活躍の場なんてないんだぞ!
  せっかく氷の聖剣の名誉挽回の機会が来たのに何を悠長な!」
T「……!!?……て……天使のお迎えが見える………」
R「うおおい大司教ーー戻ってこんかーーい!!」
V「というかなんなんだ今回のは?本編は?本編はどうなんたんだ?聖杯戦争は?
  奴はいつの間にシャルルマーニュ伝説のSSなんぞを書いていたんだ?」
F「これ本編で──!」
V「ありえない」
F「そんな即答しなくても……ねえ皆さん?」
聖騎士「「「間違いなんかじゃ───ないんだから!!」」」
F「あ、すいません編集さーん!今のところは色々と拙いんでカットで!」
V「ミニ劇場といいなんだ今回は!?シャルル軍団にFateASが乗っ取られているではないか!」
F「またまたーノリノリで書いてたくせにぃ」
O「そうだそうだ!宝具まで使わせていたくせに!」
R「全パラディンまで出したくせに!」
T「どうでもいいですが我々の頭文字をならべるとORTに!」
V「こんな奴がフランクの大司教なのか……?流石だなシャルルマーニュ伝説はぶっ飛び方の次元が違う」
F「でもあの回想編ノリノリだったのは事実ですよね?」
V「フッ、まあそういうな。作者の内に眠るコスモ(厨二病原菌)が燃え上がっただけのことだ」
F「というかオリヴィエさん強すぎですよ!?ローランさんも!SAMURAIに続いてKISHIまでもが!?」
O「いや騎士とはあんなもんさ」
R「ああそうだぜ。聖堂騎士があのくらい出来なくて何がKISHIか」
T「そうです。割り箸で敵を倒せないと最強フランク兵としては下の下ですから」
F「こんな連中に目をつけられたスペインのマルシル王さんが可愛そうですね……」
V「こいつらは怪物退治した伝承のある英雄だからな。
  おまけにローランが強くなるのに比例してオリヴィエとルノーの実力も増すという」
O「パラディンのナンバー2ですから」
R「パラディンのナンバー3だぜ」
T「パラディンのナンバー4ですいません」
F「なんというKISHIたち!!?」

V「で結局私は何をすればいいんだ?」
F「……ローゼンさんのやっていたことの助言とか?」
V「あれは冬木住民にしかメリット無いだろう。むしろ魔力の無駄使いだ。
  おまけに神秘の秘匿に徹底的ではないのがまた……その内ソフィアリが目を剥きそうだな」
F「無駄遣いじゃないですよ!か弱き家族の平和が守られたのに!先生の鬼畜!
  ですけどまあそういうタイプの魔術師ですもんねローゼンクロイツさんって。なんていうか結果良ければ秘匿なし?」
V「というか本当にすることが無いな。忠勝の過去話、そしてローランの思い出話。話す事といえば…」
F「騎士マジつえぇぇぇえええッス!!よねえ!カッコいいじゃないですか」
R「サインいるか?」
F「是非!オリヴィエさんとテュルパンさんも!」
O「まあ構わないが。大司教の方は?」
T「服がよろしいですか?それとも色紙?手帳?それとも額の方が?」
O「……やけに手馴れてるな大司教…」
V「その位しかないのが悲しいな。見事なほどに話が進展していないとは……」
F「ところで外道死徒さん凄かったですね。外道牧師の名が泣きますよ?
  領主死徒さんの方がよっぽど外道じゃないですか!」
V「いやいや、あの牧師はああ見えてやつはASの外ではやることをやっているんだ。
  異端相手に似たような事をな、こう───ああこれ以上は発禁だからいえない」
O「そうか。そういう輩が存在しているのか……なるほど……」
F「逃げてー!牧師地球の果てまで逃げてー!阿修羅よりも怖い人がー!!」

F「先生一つ、良いですか?」
V「なんだ?」
F「オリヴィエさんのオートクレールって……」
O「私の宝具がなにかな?」
V「作者のコスモの結晶だ!清く高らかという銘を超解釈し、キリスト教の聖剣ってことで宗教的な色をアクセントにして、
  ロンスヴォー血戦での戦いで支障が出ないような攻撃軌道の宝具を考えたらああなった。
  オリヴィエのオートクレールとローランの……おっとこれ以上は言えないな」
O「捏造糾弾を恐れて何が厨二病か───!」
F「ひ、非常に心に染み渡る言葉ですね……!」
V「真面目な話をするが、アインツベルンはオリヴィエを呼んだ方が良かったんじゃないのか?」
R「え?俺は?」
V「お前もローランとそこまで大差ない無茶苦茶ぶりだっただろうに……」
R「アイツに比べれば可愛いもんさ」
T「私は?」
F「………あ、あのテュルパンさん!ちょっとあちらで聖書のお話でも聞かせていただけたらなぁ、と!!」
V「……あのフラットが空気を読むとは………血の雨が降るな。でどうなんだオリヴィエ?」
O「私よりも我が親友のローランの方が適任だっただろうさ。あいつには私には無い人を惹きつける何かがあるからな」
V「まあそう言われればそうだな。君は単体では少々キャラクターが薄い」
O「ああローラン……私はもう駄目だ…先に逝く戦友を許してくれ……パタリ!」
F「せ、先生!いきなりそんな核心を!人が珍しくフォローを頑張ってる傍からなんてことするんですか!」
V「ふん、助言してやったのに倒れるとは軟弱な。それでは次回。今度こそまともにコーナーが回せると良いんだがな」