───────────────────────────────Another Servant 3日目 偽りの同盟─────────
──────Riders Side──────
ファイターとランサー、それに続くバーサーカーとの戦闘が終わった。
全ての役者が去った後、戦場となった広場は見るも無残な有様となっていた。
「ふん、大番狂わせとはではいかなかったか」
霊体状態のライダーが実に面白くなさ気に鼻を鳴らした。
ファイターのリタイアを愉しみにしていただけに少々面白くない。
だがまあそれも想定内だ。
どこの英雄かはまだ判らないがそれでもファイターはかなりの実力者であるのは間違いない。
何故なら、あの宝具を使った状態のランサーがかなり必死な様子だったから───。
「─────チッ」
不愉快な事を思い出し舌打ちする。
宝具を使っている時のランサーは間違いなく弱くない。
それは誰よりも彼が身に沁みていることだ。
だがだからこそファイターと単純に戦闘をした場合、ラメセスⅡの敗北が必至であろうという事も判る。
「それでもまだ情報が足りんな。これでは奴の力量を測り切れん」
その呟きを最後にライダーは次に取るべき行動を思案する。
ファイターに追撃をかけるか止めるか。
時間にして約一分程度の思案。次に取る行動は速やかに決定した。
「窮鼠猫を噛むというしな。俺様が手を下す必要はなかろう。
それよりもそろそろ宝具を仕込んで置くのも悪くは無いか」
実体化はせずに霊体のままで目的地へと移動を開始する。
目的地は深山の小高い丘。
そこは彼が宝具設置のために見つけておいた場所の一つであった。
ライダーはほどなくして目的地に到着した。
周囲には当然ながら誰も居ない。
誰かが残した魔力や魔術の気配も無い。
「設置するのはやはりこの場所で構わぬな」
大まかに必要な敷地面積を計算してから、ある地点の地面にトンっと指を置く。
そこから8mの先の地点で再び指をトンと置く。
さらにその地点から直角に方向転換しまた8m先の地面に指を置く。
その作業を繰り返すこと計四回。
8m四方の正方形の敷地が出来上がった。
ライダーは満足そうに頷くと正方形の各頂点に触れながら呪文を詠唱し始めた。
「これでよし。それから。
我、王の名において───迷彩し、遮断し、秘蔵し、隠匿せん。結界陣形設置、了───」
ライダーの持つスキル『陣地作成』による結界の布陣も滞りなく完了し、次はいよいよ本命である宝具の設置に入る。
結界の中心に立ち深呼吸を一つする。
両手を広げ体中から魔力を集める。
そうして自身が望む造形を想像し、創造する。
「我が父、ラーよ!!今ここにそなたの息子が威光を示す!その許可を与えたまえ!
高き空にも劣らぬ壮大さを!太陽にも劣らぬ輝きを!その姿を以って父の力を子に貸し与えたまえ!!」
そうしてライダーは眼を見開き天に向かって、父に向かって祈った。
「生命の源である輝かしい陽光を我が力に───!!!!!」
ウシャプティ・オベリスク
────王奉る太陽像────!
ほんの一瞬。ほんの一瞬ではあるが………夜の世界だった周辺が昼に変わった。
この眩しいほどの閃光は同時に成功の証でもある。
「………完璧だ……なんと完璧な像か。父もさぞお喜びになってくれる事であろう……」
ライダーはそのあまりの出来の良さに思わず感動してしまった。
見上げる程の壮大さ。後光が差している気がしてくるくらいの輝かしい威厳。
造形も完璧だと言えた。格好良い。美しい。目立ってる。
20%増しくらいには美しくなっている自分がそこに居た。
「…ぁあ………」
そう。だからこそ惜しい。あまりに惜しい!
どうしてここには最愛の妻ネフェルタリが居ないのか??
折角ならばネフェルタリにも見せてやりたいくらいの出来栄えなのだ。
というか是非妻には観て欲しい。
いやいいから見てくれ我妻よ──!
──妻への想いに耽るライダーの視線の先には。
そこには、全長10mを超える規模のラメセス二世の石像が堂々と聳え立っていた───。
◇ ◇
「で、どうだったのだライダー?」
何の前置きも主語も無い牧師の不躾な第一声が飛んできた。
ライダーの方は丁度今、隠匿の結界と宝具『王奉る太陽像』の配置とそれらの最終点検を完了し自陣へと帰還したところである。
「そういう貴様の方はどうなんだ牧師?まさか何の手土産も無いなどとは言うまいな?」
そして、そんな不躾な牧師様以上に尊大な態度で切り返すのがこのファラオ様なのだった。
「いや、残念だがこちらは特にこれと言った出来事は無かった。
二つの町に配置した部下からの報告も特にこれといったものは無い」
「そうか使えん男め。では不出来な貴様の為に一応俺様の方で得た情報を教えておいてやろう」
「なにかあったのか?」
「ああ。まず宝具を設置を今しがた済ませてきた。
それからファイターとランサー、バーサーカーの戦闘を観戦してきたぞ。いや中々の見世物だった」
「ほう?詳しく聞かせて貰おう」
「ふん。己の無能さを噛み締めながらファラオの言葉を聴くがいい。まずはな───」
そうして自分がみてきたものの説明を始めるライダー。
相手を罵倒するがとりあえず協力関係であるというのを忘れないのもこのファラオ様なのであった。
──────Sabers Side──────
オレがマスターの元に戻った時には既に手遅れだった。
……ああオリヴィエ…氷の眼付きをした女王様がオレの目の前に立ち塞がってるよ……。
ついでに濃い形相をした侍女達もいるよ?
うんこれだと顔の濃さ的にもジジョって言うかジョジョだよブラザー?
まるでマスターのスタ○ドだぜ!
ところでス○ンドやジョジョってなんだ聖杯の知識よ??
「…………………ぁ~」
「もう一度だけ訊きます。どこに行っていたのですかセイバー?」
真冬の冷気みたいなプレッシャーが女王様から放たれた。
まずいこのままでは幽霊でも凍死しかねん。
「はい夜の散歩です陛下!」
オレはひざまづいて騎士然と答えてみた。
よし完璧!肘の角度も膝の角度も申し分ない王侯貴族が見ても納得の礼だ。
騎士になってからオリヴィエに死ぬほど練習させられた礼だからな。
これでマスターもオレの騎士っぷりにきっと言葉も出ないに違いない。
「マスターを放って置いて散歩ですか。随分と良いご身分ねローラン?」
すると真冬の冷気が南極の極寒に変わってしまった。
ぐわ寒いというより痛い!?
うわぁおなるほど、これに比べると真冬の冷気って暖かいんだなぁ。
な、なぜだオリヴィエ!?
オレはちゃんとお前の真似して同じ様に答えてみたのに…なにゆえ!!?
あ。しまった…そういえばオリヴィエは散歩じゃなくて夜の見回りとか言ってたっけ?
う~ん流石に散歩と見回りじゃ大分違うな……失敗したな。
仕方が無いのでオレは無駄な抵抗は止めて正直に答えることにした。
「あー……町に行ってた」
するとなんかマスターの眼つきが死んだ魚のような目になった。
ようするに瞳から光が消えた。
人はそれをヤンデレ眼やレイプ眼と呼んだり呼ばなかったりするらしいが今はどうでもいいことだ。
むしろオレの方がマスターに蹂躙されそうなくらいだからな。
オレにはオードがいるし取り合えず逆蹂躙は反対したい。
とにかくマスターのオレを見る眼つきが尋常じゃないぞ?
「あー…なんかさ、今夜マスターを町に連れて行くのはかなり危険だと思ってだな。だから連れて行かなかったんだ」
「そうですか、それで?」
なあマスターが理由を訊く気配がなさそうなのは気のせいだと思うかティルパン大司教?
仕方が無いのでオレは勝手に理由を話すことにした。
「うん。やっぱり連れて行かなくて正解だったぞ。───あのファイターがバーサーカーに負かされたからな」
さらに温度が下がっていくアインツベルンにセイバーは今夜見た最大のニュースを切り出してみる。
するとそれを聞いた途端アインツベルンは眼を丸くして沈黙してしまった。
かなり珍しいことにあの人形のようなアインツベルンが驚いていた。
「えとだな。バーサーカーがファイターに宝具を使ってさ────」
今夜自分が見たものを出来るだけ詳細に、覚えている限りマスターに伝える。
バーサーカー……というよりバーサーカーの宝具の危険性。
バーサーカーのマスターについて。
ファイターの消耗具合。
ランサーとファイターの戦闘には間に合わなかったため、ランサーについては容姿や自分の受けた印象を中心に伝えた。
「というわけだよマスター。わかってくれた?」
オレは一通りの説明を終えると改めてマスターの顔を窺ってみた。
これで駄目ならもう駄目だ。腹を括るしかない。
「……わかりました。今回の件は大目に見ます。
ですが次からはきちんと私に伝達をしてから行動するように、いいですね?」
しかしオレの説明を一通り聞き終えたマスターは今回の行動を不問としてくれた。
「ハーイ!」
オレは元気よく返事をした。
折角マスターが不問にしてくれたんだから素直に返事をしなくちゃな。
それからオレは今後に備えてマスターに伝えておかなければいけないことを伝えることにした。
「とりあえずこの日はバーサーカーと戦うって決めた時はマスターは陣地で身を守っててくれ」
「それは何故です?」
「ん~一人の方が戦い易いと言うか、とにかくあのバーサーカーの魔剣は危険過ぎだ。
そんな危険な戦場にマスターを連れて行くわけにはいかない。これは絶対だ」
あの敵を相手にするとバーサーカーの相手が手一杯でマスターの守りが薄くなってしまう気がする。
そうなると守りが薄くなったマスターが死ぬ危険性が増えてしまう。
戦場で貴婦人を死なせるなど騎士としての誇りに関わる。
オレはマスターがなんと言ってこようがこれだけは譲る気は無かった。
「──────」
「………」
しばらくお互いの眼をジッと見合う。
無言の時間がしばらく流れた。
この沈黙合戦を先に折れたのはアインツベルンの方だった。
「…………はぁわかりました。対バーサーカーの戦略は貴方に一任します。それでいいのですねローラン?」
そうして我が主は自らの剣に全てを託してくれた。
「ハッ。お任せください我が姫君」
だからオレは再び礼を取り、胸を張って力強くその言葉に応えてみせた。
任せてくれた以上はその信頼に応えるのが騎士の務めだ。
バーサーカーが強敵であるのは間違いないが勝てない相手とも思えない。
作戦を練ってから倒すのも良いかもしれない。
作戦……作戦か…う~ん。
さて。これはどう攻略するのがベストなのかねオリヴィエ?
───彼らフランク騎士の間では作戦は基本的に智将オリヴィエの領分だった。
──────Berserkers Side──────
草木も眠る時間にその恐怖は現れた。
「もう9人目だぞぅ、よく食べるなバーサーカー。お前ファイターと戦う前も一杯食べてただろう」
やや呆れた声で雨生がバーサーカーに話しかけている。
現在、雨生たちの居るここはとある民家の寝室である。
寝室は既に凄惨な有様になっていた。
父親と見られる男性と息子らしい男の子はバーサーカーによって刺し殺され、
母親や娘と呼ばれていたであろう人たちは雨生の慰み者にされていた。
「ああーもうこいつも外れだよ……でも娘の内臓の質は悪くないなぁ。ぁぁイイなぁこの感触……はぁあ」
そう言いながら切り開いた腹部をかき回してモツの感触を楽しむ。
先刻のファイターとの戦闘で消費した魔力回復は礼装のバックアップのおかげで順調だった。
雨生の持つ魔術礼装は魔術師をバックアップするタイプの礼装で魔術師ならば誰でも一つは所持している魔術品である。
この礼装は抽出した魔力を増幅させ魔術師の魔力として変換すると言う単純なもので、
これを使って雨生は自分とサーヴァントの回復を行っていた。
そのおかげで雨生は四軒程度の民家を襲撃しただけであの瀕死状態から回復することが出来た。
だが逆に言えばこれで四世帯の罪無き家族が雨生によって皆殺しにされたとも言える。
「だからなバーサーカー?人間の腹の中には根源に繋がるような”びゅーてぃふる”な内臓を持つ奴も居ると思うのよ俺は!
それを証明することが俺が求めているものっていうの?な判るだろ?」
さっきからずっと雨生は上機嫌に自分の魔道研究の話をバーサーカーにしていた。
当然相槌も無ければ返事も無いがそれでも雨生は気にする事無く話を続ける。
「やっぱわかる?うんうん流石だバーサーカーよく判ってるじゃん!くーるだなバーサーカーは!ハハッ」
雨生は血を見るとハイになる性分だが、都合四軒の押し入り殺人で気分はもはや有頂天状態だった。
「え?『くーる』ってどういう意味かって?そうだなぁ……素晴らしいとか最高とかまあそういう感じの意味だよ。
バーサーカーも使うといい、そしたらもっと最高くーるになるさ!」
雨生は召還してから時折自分なりにバーサーカーとコミュニケーションをとり信頼を深める努力をしていた。
時には話しかけ、時には話しかけられたつもりで会話し信頼を深める。
この戦いでは信頼関係は大事なのである。
まあ多分無意味だろうけどさ。
「さてっと、今日はこの家で寝るか。俺もバーサーカーの魔力も十分回復出来たし、後は飯でも食って寝るか」
雨生組は決まった陣地を持たないマスターだった。
彼らは数日おきに移動を繰り返し、一定の場所に居座らない。
あえて工房を作ると言うメリットを捨て去る事で自分たちの現在の居場所の特定を困難にした。
それは若干型破りな感性を持つ雨生ならではの大胆な作戦であった。
「大体工房作ると居場所がバレる可能性が高くなるしなー。
只でさえマスターはサーヴァントを抱えてるせいで魔力が漏れ易くなってるんだから。
おまけに短期間で作った工房なんてたかが知れてるわけだし」
みんな間抜けだよなあ、お前もそう思うだろバーサーカー?そういえば俺たちってキレ者コンビっぽくねえ?
などと笑いながら赤の他人の食料を遠慮なく腹一杯食べる。
そうして食事が終了すると用を足し、布団に入り込む。
血の臭いが充満する寝室最高ー!イヤッホイ!
さてと、寝る前にとりあえずこの後の行動はどうするか考えようかなぁ。
えーっと。そうだなぁ赤ん坊バラしたいなぁ……グ~グ~……zzZZ
──────Fighters Side──────
遠坂邸地下。
ファイターの苦しげな呼吸が反響している。
「ぐっ……ぁ、あ!っは、か、あ!」
ランサーとバーサーカーとの戦闘後もうかれこれ数時間が経っていた。
にも係わらずファイターのバーサーカーに付けられた傷は全く癒えてくれない。
何らかの呪いのためかファイターの傷は治癒効果が阻害されてうまく治癒出来ずにいた。
ランサーおよびバーサーカーとの戦闘後。
遠坂と合流したファイターは何とか自陣である遠坂邸に無事帰還する事が出来た。
再度襲撃があるものと覚悟していた二人だったが、終わってみればトラブルにも遭わずに済み胸を撫で下ろすこととなった。
遠坂邸に帰還した後。ファイターは直ぐに地下の魔法陣の中で傷の回復に専念していた。
だが傷の痛みは一向に消えてくれず現在に至っている。
一方遠坂の方は、ファイターを魔法陣へ押し込むと先の二体のサーヴァントとの戦闘についての会議を開いた。
ランサーと特に敗北したバーサーカーとの戦闘についてファイターから詳細な情報を聞き出すと、
自分は調べ物があるからファイターは回復に専念してくれ、と言い残しそのまま自室へと引き篭もってしまった。
それからしばらくして。
「ファイター、大丈夫か?」
かつかつと足音を響かせながら遠坂が地下へと下りて来た。
「トオサ、カ殿か、すまない……まだ痛みが、引かない」
掠れた声で答えるファイターの容態を診ながら遠坂は眉を顰める。
ファイターの傷は帰還時の状態から全く変わっていなかった。
いやひょっとすると若干悪化している可能性もある。
「そう強力で無いとは言え治癒阻害の呪いまで付いているとはな……あのバーサーカーの宝具は典型的な『魔剣』の類だ」
遠坂は顎の髭を指先で扱きながらそんな言葉を口にした。
───典型的な魔剣の類。
呟かれた言葉には確信的な色が強く篭っている。
遠坂は調べ物があると言って自室に篭っていたがその調べ物の結果がある程度出たのだろう。
「痛っ、これは私の勘ではあるが、遠坂殿のその意見には、同感だな…。
真性の魔剣───魔剣や呪剣や妖刀───の類にはその刃で斬られた者は助からない。
といった類の伝承が数多く残っているがつまりこういうタネなのだろうな。
……確かに、これは普通の者ではまず助かりそうにはない。
私も……無様──痛っぐ!!」
ファイターの自嘲めいた仕草もすぐに傷の痛みで崩れてしまった。
タフな筈のファイターがここまで苦しむ以上は並の人間ではひとたまりも無いのは確かだろう。
「で、実際のところ症状はどうなんだファイター?」
「端的に言えば、痛みと共に僅かずつだが体力が削がれている。普通の人間ならば……一日保たないと思う」
遠坂はファイターの現状を訊くと顎に手を当てしばらく考え込んだ。
そうしてしばらく考えたのち、合点がいったとばかりにコクリと頷いた。
「なるほどな。やはりあの魔剣の正体はアレか」
「───!?遠坂殿はバーサーカーの魔剣の正体がわかったのか!?」
「ああ。先程まで雨生の足取りを調べていたのだがその際に興味深い事が判った」
「興味深いこと……?」
「先の戦闘で見せた雨生の魔力量は明らかに彼の本来の魔力量を凌駕していた。
となると考えられるのは雨生は町の人間を贄にでもして力を付けたのだろう」
平然とした口調で遠坂は語る。
だがファイターの方はその単語に敏感に反応した。
「贄……?まさか無関係な民を生贄にしたと言うのかバーサーカーのマスターは!!?」
「まあそういうことになる。実際に死体も出ていた──それもいくつかは秘匿しよういう痕跡すら見せずに、だ」
動揺するファイターとは裏腹に遠坂の方は実に落ち着いた素振りだ。
「遠坂殿……貴方はこの土地の管理者ではなかったか?なのにどうしてそんなに落ち着いている?」
「魔術師が一般人を犠牲にするのは外法ではない。なにせ我々は元から外れた者なのだ。
その我々にとっての外法とは神秘を世間に漏らす事、つまり秘匿出来ない場合だ」
「ならなおさらではないのか!?バーサーカーのマスターは秘匿の痕跡すら見せていないのだろう!?」
それでもなお落ち着き払っているマスターの態度についにファイターが吼えた。
あまりにおかしい。
どうして彼はそんな平然とした顔でいられるんだ?
無関係の人間が虐殺されていて魔術の秘匿もされてないというのにどうして。
「そうだな。……いやどちらかと言えば殺しが愉し過ぎて秘匿をし忘れた、の方が近いのか?
──フ、クク。どちらにせよ笑える話だとは思わないかね?」
そこで語る遠坂が怒りらしき感情を見せた事にファイターは気づいた。
明らかに遠坂殿は怒っている。
あまりに静かで察し難いが……眼が全く哂っていない。
「…………遠坂殿…貴殿は……」
「話を戻すぞファイター。で、これはその際に気付いた事なのだが。
死体は男のみが長物らしき物による撲殺体や斬殺体で女の死体には同様の凶器で殺害された形跡が一切無かった」
そこで一旦話を切ると遠坂は、まあ変わりに雨生の仕業だと人目で判る有様だったがな。と目を逸らして呟いた。
「男性のみが、同じ凶器で殺されていた……?」
不可解だ。どうして男のみが?
「ああ。そしてファイターの今の状態と先の戦闘の不可解な状況を照し合せると……出てくる解は一つのみだ」
そうして遠坂は勿体つけるように一拍の間を置いた。
「─────バーサーカーの正体は、魔剣ティルフィングを持つヘイドレクだ」
「ティルフィング──!!?まさかアレがあの男殺の魔剣か!!?」
───英雄ヘイドレク。
狂戦士の一族の末裔であり、ただの一戦士からいくつもの戦いを経て一国の王にまで上り詰めた狂王。
手にした魔剣ティルフィングを操りいくつもの戦争と決闘を生き残った生粋の狂戦士。
しかしその凶暴な戦士の顔の裏側にはとんでもない知力を持つ賢者としての一面もあった。
その知力の程は知恵の神とも言われるオーディンとの知恵比べに全くの互角だったと謂われている。
それが遠坂が口にした英雄の名だった───。
「恐らくな。ファイターの正体を看破したあの問答もオーディンの正体さえ見破ったヘイドレクならば可能な筈だ。
おまけにヘイドレクは血筋からして狂戦士の血統。バーサーカークラスとも相性は良い筈だ」
「確かに……奴はバーサーカーにしては妙に小技が利いていたが……」
ファイターは敵の正体を踏まえながらバーサーカーとの戦闘を思い返してみる。
狂気に理性を侵されながらも勝つ為に肉体を稼動させられるだけの闘争本能。
あれは血筋から来る奴の特性だったのか。
「では、私がバーサーカーに敗れたのは……」
「一言で言うなれば、宝具との相性が悪過ぎたため、だな。
……いや、もはや最悪だったとまで言ってもいいか。
こちらの宝具も使わずに戦える相手では……戦っていい敵ではなかった。
今回の敗北は私の指示ミスでもある───すまなかったな、ファイター」
「いや!それについては私の力不足のせいだ!決して遠坂殿の非では───!」
マスターの謝罪に対して異議を唱えようとするファイターをおとなしくさせるため遠坂は説明を続けた。
「あの魔剣はティルフィングの伝承群からも明らかだが男性に対しては異常な特効性を持っている。
これはティルフィングの製作者である黒き小人達がかけた呪いが強力過ぎたせいだろう。
なにしろ小人の言葉通りあの魔剣は抜く度に男が一人必ず死んだ程の威力だ。
女性であったヘイヴォール以外のティルフィングに関わった男は全て例外なく魔剣の呪いで死に絶えている」
そこまで説明すると遠坂殿は首を竦めてやれやれと言うポーズで苦笑していた。
まあ気持ちは判らないでもない。
何しろ魔剣は男に対しては本当に必殺なのだ。
まったくそんなものを相手にしてファイターも良く死ななかったものである。
「ティルフィングの伝承ならば私も知識として知っている。
……男と戦う限りは圧倒的優位に立てる魔剣か。
なるほどな、私の感じたあの妙な戦い難さとバーサーカーの異常な強さは魔剣の持つ属性のせいだったのか」
「それからおまけにもう一つ。
伝承では魔剣そのものが意思を持っているように書いてある。ファイターどう思う?」
ここまでくると遠坂はもうなんとも言えないという風な顔をしていた。
ファイターも同じ様な顔をする。
「───意思を持つ魔剣。有り得ない話ではないと思うが……」
バーサーカーとの戦いを魔剣の様子を出来るだけ明確に思い出してみる。
あの時自分が感じたことは……。
なぜか剣自体から放たれているように感じた威圧感のような殺気。
まるで剣と戦っているような違和感。
剣の意思で動いていたような攻撃軌道。
「そうか、確かにそうだと考えれば私がバーサーカーとの戦闘中に抱いた感想にも納得がゆく…痛っ!」
気が緩んだのか思い出したようにまた痛みがファイターを襲った。
そうだった。魔剣の正体が判明してもこの傷の問題は解決していないのだった。
ファイターは遠坂の顔を窺う。
対策は?この台詞を眼だけで訊く。
それを見た遠坂は相方の疑問に答えるように口元を少し歪ませ笑みの表情を作って見せた。
「伝承では、ティルフィングで斬られた者はみな次の夜明けを拝むことが出来ない。や、日付が変わるまでもたない、だそうだ。
なら逆を言えば、その呪詛の効力も恐らく夜明け頃か長くて一日程度の時間で消えてくれるはずだ。
元々伝承として明確に残っている呪いではない。
ならその呪詛はあくまで副産物であって絶対的な魔剣の能力であるわけが無い!」
遠坂殿は説明の最後の部分をまるで断定するような口調で言った。
それはあくまで推測の範囲でしかなかったがファイターがその言葉を信じるには十分だった。
マスターがそう言う以上はきっとそうなのだ。
魔術関係の話は自分より遠坂殿の方が造詣が深い。
ならばその推察も絶対正しいはずだ。
「とりあえず夜明けまで。それまで何とか耐えられるかファイター?」
「夜明けまで…後三時間程度か。わかった、何とか耐えてみよう」
ファイターは頷くと心身に気合を入れ直した。
出来る限り耐える方向へと気持ちを切り替えよう。
痛いし苦しくもあるがこれならばまだ昔怪物達に負わせられた損耗の方が酷かった。
ならそれに耐えた自分は十分に耐えられる。
それに遠坂殿の話が当たっていれば夜が明ければ傷の回復も可能になるはずなのだ。
仮に夜が明けても駄目だとしても今度は日付が変われば回復出来るはずなんだ。
自分が耐えられればまだまだチャンスはある。
──ならば是が非でも耐えるだけだ!
「それにしても……そうかバーサーカーの正体はヘイドレクか」
ファイターがポツリと呟く。
独り言だったため特に返事を期待していた訳では無かったがその呟きを聞いていた遠坂が相槌を打ってくれた。
「相手の真名が判れば特性も弱点も判明したも同然だ。
これで我々も対策も打てる。まだ終わってないぞファイター」
ファイターの真名もバレてしまったが、これで遠坂陣営の条件も五分になった。
「では遠坂殿はもうバーサーカーの詳細を?」
「ああ既に伝承は調べてある。バーサーカーの弱点はな────」
そうここからだ。
確かに我らは敗北したが敗退してはいない。
だったらここから逆転してみせればいいのだ。
バーサーカー対策会議は聞く方も話す方もより真剣さを増していた。
──────Casters Side──────
「酷い……全軒全て皆殺しですか……」
キャスターの工房『聖霊の家』の一室でクリスチャン・ローゼンクロイツは沈鬱な気分になっていた。
あまりに惨い。そしてあまりにも外道すぎる所業。
このおぞましい凶行にローゼンクロイツは珍しくも怒気を孕んだ視線を遠見の水晶玉に向けていた。
「キャスター……しかしお前も魔術師だろう?これが理解できない事はあるまい?」
キャスターの傍らには机にいくつもの本を広げて座っているソフィアリがいた。
「では逆にマスターに問いますがマスターにはコレが理解できるのですか?」
本当にこの温厚な英霊には珍しく、キャスターは自身のマスターに対しても怒気を孕んだ視線を送った。
「いや、理解できんな。神秘の秘匿を怠るなぞ魔術師としては論外だ。
このような外道には然るべき粛清を与えなければならん」
至極真っ当な魔術師であるソフィアリは一般人の死はどうでもいいとばかりな態度ではあるが、
雨生が神秘の秘匿を怠った事についてだけは憤慨しているらしい。
神秘は秘匿するべし───。
これが魔術師にとってのルールであり唯一の正義である。
その正義に比べれば一般人の命などどうでもいい事なのだ。
よってソフィアリの態度は魔術師からすると当然の態度であった。
むしろ一般人の死に対して憤慨しているローゼンクロイツの態度の方が魔術師から見れば理解不能な姿である。
それが人類の味方である英霊と人との違いなのかは定かではないが……。
「で?キャスターよ、そっちはどうなんだ?」
「……バーサーカーのマスターがこのフユキに来てからの足取りを順に追っています。
結果だけを言うとバーサーカーのマスターは河川を挟んだ両方の町を行き来しているようで、
我々や他のマスターのような特定の場所に潜伏してるようには見えません」
「移動を繰り返すマスターか……現在地を特定するのは意外と厄介かも知れんな」
ソフィアリは敵マスターのその珍妙な行動に眉を顰めた。
もし雨生が工房を構えていればキャスターが簡単に見付けられた筈である。
だがこれで町のどこかにあるであろう魔術師の工房を探し当てればいいという問題ではなくなった。
「まずバーサーカーを召還したのがこのサトウ家ですね。
これは場に残された魔力の残滓から言ってまず間違いありません」
キャスターが魔術で水晶玉の映像を次々に映し変えてソフィアリに状況説明をしている。
「次の日にコンドウ家を初めとする二軒を移動しそこで就寝。
その翌日にはカワグチ家の一家を皆殺しにしてその日の活動は停止してます。
そしてその翌日にカトウ家から始まり、その途中で戦闘を挟んで宝具を使用、令呪を使って戦闘終了、撤退。
それから再び民家を襲い今の段階で判明しているタナカ家を襲撃してそこからさらに移動した模様です。
いま現在のバーサーカーのマスターの所在地は残念ながらまだ判っていません」
そこでキャスターは一旦言葉を切った。
バーサーカーのマスターの行動を説明すればするほどキャスターの不機嫌さが増している。
キャスターたちが行なっているのは雨生とバーサーカーの残した痕跡を追う作業である。
魔術工房を持っていない彼らは魔力の外界との遮断が完璧ではなく、襲撃した民家から魔力が洩れやすくなっていた。
それを追跡する事で雨生たちの現在地、さらには彼らについての情報を手に入れようという魂胆であった。
──そして今。
彼らは雨生たちが先ほどまで居た痕跡が残っている民家の様子を遠見の魔術を使って調べている最中なのだった。
「召還からたった三日で十軒以上の民家を襲撃か。
……おまけにその半数近くが隠匿作業をしていない。何を考えているんだこいつは…?」
「知りませんよ」
憮然とした口調で言葉が応酬される。
キャスターもソフィアリも怒りの焦点の違いはあれど雨生の行いに憤慨しているのは間違いなかった。
「ところでマスター。これどう思いますか?」
キャスターの言葉にソフィアリも水晶玉を覗き込む。
「ん?この女の死体か?弄ばれた形跡があるな」
「いえそっちではなくこっちの祖父と父親と青年の方です」
「…む?そう言えばさっきの父親も首を刎ねられて死んでいたな。
いやどちらかといえば力任せに吹っ飛ばしたといった感じだったか?」
「もしかしてとは思いますがこれらはバーサーカーの仕業では無いでしょうか?
鞘込めの剣でも十分な力と速度があれば物は切れますし刺せます。
死体の傷から考えてもちょっとこれはマスターの仕業とは考え難いのですが」
「確かにバーサーカーのマスターは刀剣の類は持っていなかったな。
ん…………それに礼装や魔術を使って殺した痕跡も無いようだ」
そこで二人は一度水晶玉から眼を離して顔を上げた。
「マスター、西洋圏の魔剣に関して記されている書物は?」
「ああちゃんとお前の言った書庫から持ってきたぞ」
そう言ってソフィアリはさっきまで自分が座っていた席の上にある本を指差す。
そこには伝説や伝承について書かれた本がいくつも山積みになっていた。
「その中で持ち主や周囲を破滅させる程に強力な呪いを持った魔剣の類の伝承を探してください」
「ああそれはいいが、お前の方はどうするんだ?」
「もう少し襲撃にあった民家を詳細に調べるつもりです」
ソフィアリはいくつか持ってきた本をパラパラと捲っていく。
一方、キャスターは水晶玉を注意深く覗き込みその場に残された情報を探っている。
「────」
「──────」
しばし無言で作業をする二人。
気になった点や気付いた事を報告しあう時にのみ口を開く。
そうしながら数件目の現場検証を行っている際にキャスターが口を開いた。
「また斬撃を受けたような痕跡がある男の死体ですね……割腹されているのはまたしても母親と娘……」
「バーサーカーに人間を割腹して喜ぶような理性はあるまい?」
「ええ有りません。ですのでもうコレはバーサーカーのマスターによる凶行ではないかと」
「となるとバーサーカーが殺したのは……男だけか…男だけ?……いや待てよ?
さっき見た本に確か……………っとこれだ、おいキャスター!もしかしてコレではないのか!?」
ソフィアリはとある魔剣を主軸にした伝承が記された本をキャスターに見せる。
キャスターも水晶玉から目を離しマスターが指し示した部分を見た。
そこ記されていた魔剣の名称は───。
「魔剣ティルフィング……黒き小人により作られたこの魔剣は抜く度に必ず一人の男が死に絶えたという…。
───マスターほぼ間違いなくこれですね。ボクの持つ他の英霊の知識とも合致します」
「やはりそうか!?ならこの魔剣の持ち主がバーサーカーの正体という訳だ!」
「ええ。そうなると候補者も数人しか居ません。先のファイターとの戦闘の件を合わせて考えると…」
───そうして彼らはその解答に辿り着いた───。
「───バーサーカーの正体はヘイドレクでまず間違い無いでしょうね」
「だな。ところでさっきバーサーカーのマスターの魔術属性が水である可能性が高いとも言っていたな?」
「はい。それも十中八九当たっていると思います。中でも液体操作を得意としているのではないかと」
それにキャスターが気付いたのは被害者の中に血液を霧にしたり噴水のようにして遊ばれた痕跡がいくつか残っていたためだった。
「後はこの情報をどう利用するか、か?」
「はい。そうなりますね」
「ところでサーヴァントの正体が判ればその弱点も判明するのだろう?こいつの弱点はなんだ?」
「あのマスター……さっきまでその伝承を読んでいたのでは……?」
「私は……お前が本当に判っているかを訊いているだけだ!サーヴァントの分際で口答えするな!」
なぜか突然怒り出すソフィアリ。
そんなマスターの不審な挙動にキャスターはきょとんとしている。
「はぁそうなんですか?えとですね、魔剣ティルフィングの弱点は”女性”ですよ。
あの魔剣は男性に対してはファイター戦で見せたような特効性を持ちますが、
その代わりに相手が女性である場合は著しくその効果が落ちます。
言い換えれば魔剣の持つ必殺性が激減するとでも言うんでしょうか?
伝承でもティルフィングの呪いの犠牲になった女性は一人もいません」
「そういえばヘイドレクの母親である女戦士ヘイヴォールだけは何故か無事だったな……つまりそういうことなのか?」
「はい恐らく。明確な理由までは判りませんが、もしかしたらティルフィング自体の問題なのかもしれませんね。
あの魔剣自体が自我を持つインテリジェンスソードの類だそうですし」
「まさかとは思うがただの男好きなんてオチじゃないだろうな……」
「ボクではそこまでのことは。そしてヘイドレク自身の弱点も伝承からより明らかです」
「暗殺者───つまりアサシンに対して奴は弱い、だろう?」
ソフィアリはキャスターが答えを言う前に得意そうにその答えを口にした。
「クス、ええその通りですマスター」
ヘイドレクの最期は北欧の主神オーディンが放った暗殺者によって幕を閉じている。
これは即ち彼の不得手な事柄を明確に残した記述に他ならない。
サーヴァントの正体を明かされその伝承を紐解かれるという事は、その英雄の全てを晒されるということである。
中には今次のキャスター、クリスチャン・ローゼンクロイツの様に残されている伝承が極端に少ない英雄も居るが、
基本的に英雄は有名になればなるほど残される伝承が増えるものである。
サーヴァントたちが自らの正体を頑なに秘匿しようとする理由がまさにここにあった。
「どういうつもりかは知りませんが今回はバーサーカーのマスターが自身の痕跡をたっぷりと残してくれて助かりましたね。
お蔭様で正体に辿り着くまでの時間が圧倒的に早かった」
「魔剣の正体も調べて正解だったな。これは知らないままでいたら本当に命取りになりかねなかった。
単独で戦うどころの話じゃない、男ではまず奴の宝具には勝てん」
そう吐き捨てるソフィアリは苦い顔をしていた。
無理もあるまい。危うくキャスターの言葉通りの事態になるところだったのだ。
もし魔剣の正体を知るのが遅れていたらもっと面倒なことになっていただろう。
「これでバーサーカーに先手が打てます。自分たちの愚行を悔い改めて貰いましょう」
そんな様子のソフィアリとは正反対でキャスターは本当にやる気満々と言った具合に自分の宝具を取り出している。
「具体的には何をするんだ?」
「やはりバーサーカー以外の全マスターと同盟を組むのが良いと思います。
あの魔剣の能力を話せば同盟を組みたくないと言う者はまず居ないでしょうし。
それにもしアサシンのマスターがいればその者を利用できます」
「なるほどアサシンのサーヴァントならばあのバーサーカーを倒すのは容易と言うことか。
してどうやって同盟を結ぶ?」
ソフィアリは当然とも言える疑問を素直にぶつける。
キャスターの方もさも当然といった感じで答えた。
「他のマスターの召集はボクがやりましょう。
流石に生身で来るマスターは居ないでしょうから使い魔を使って出来る同盟方法を取ります。
その辺はボクに任せてくださいマスター」
「判った。では準備はお前に一任する。手筈が整い次第私に知らせろチェックしてやる。
私としてもバーサーカーのマスターには早めに粛清を下しておきたいところだからな」
キャスターはソフィアリの言葉に頷くとそれから自身の魔道書を開き作戦行動を開始した。
まずは全マスターの所在地を割り出さなければならない。
魔術師の根城探索に一番適した魔術刻印を『世界の書』から探し出す。
その後、彼らの所に同盟の話し合いを求める手紙と必要な使い魔を転送する。
それから彼らにバーサーカーの情報を提供し、バーサーカー退治の協力をさせる。
集合場所は……そうだ襲撃されて空き家にやっている民家で良いだろう。
「いたずらに多くの命を犯したその凶行───後悔させますよバーサーカーとそのマスターよ」
ローゼンクロイツはいつに無く闘志剥き出しの様子で作戦に集中していた──。
──────Archers Side──────
帰ってきてまず文句。
何をして来たのかという質問に解答してさらに文句。
さらに説明しようとしてついでに文句。
フッハー!勢い余って軽くぶっ殺したいわこの腐れマスターめ!
「じゃからさっきから言っておるだろうが!」
「マスターに無断で独断専行。敵が宝具を使ったのに真名判らない。
しかも弱った敵に追い討ちも掛けない。アーチャーマヌケかお前は!!」
「ワシがマヌケなら貴様は無能じゃこのド阿呆め!」
「な、なんだとぉ貴様ー!!」
いま間桐邸は戦争中だった。
ただし飛び交うのは刃でも矢でも攻撃でもなく口撃だが。
とにかく戦争状態だった。
「だからさっきかが言っとろうが!貴様がおったところでどうにもならんかったわい。
ワシらサーヴァントみたく霊体化して空を飛んだり、何百mも遠くから魔術も使わずに戦場を監視したりは出来んじゃろが!」
「そりゃ出来んが俺の指示も仰がずに勝手に行動した事に文句を言っているんだろうが!
大体お前昼間はどこに居た!?日が暮れてからも戻ってきてないだろ!!?」
「口喧しい海藻類の居る家になど居たくないわ!」
「なんだとこの昆布男がぁぁ!!?大体偵察に行く前に一度家に寄るくらい出来るだろが!」
「貴様その時家におらんかったのだぞ!?」
「思いっきり居たわ!ちゃんと探さなかっただけだろうが!
つかお前が!今日はまだダメージがあるから動くなとか言ったんだろが!!」
「とか言いながら貴様今ピンピンしとるではないか!さっさと瀕死にならんか!」
「うわぁぁああもう死ねこの野郎!」
くわーっ!とアーチャーと間桐による口撃の応酬。
弾の代わりに唾と唾が飛び交う。
もうしばし二人は激闘は続いた。
既にお互いの顔は相手の唾でピッカピカである。
「はぁはぁはぁ!じゃあもうええわい。いちいち説明するのも面倒だ」
アーチャーはもう言いとばかりに鼻息荒くそっぽを向いた。
「ふぅふぅふぅ!ふざけるなもう一度ちゃんと最初から説明しろ。とりあえず見てきたもの全部だ」
だが間桐の方は先ほどまでの激怒した表情から打って変わって今度は真剣な表情でアーチャーを見ていた。
「なんじゃ訊く気はあるのか貴様?」
「聖杯戦争では他連中の情報は重要だろ」
「まったく……じゃったら初めから文句を言うんじゃないわ」
「お前のそういう態度が気に入らないんだよ!サーヴァントの癖に!」
「器量の小さいマスターめ。まあいい。
とにかく結論から言えばファイターがバーサーカーにボコボコにされた」
「ファイターのサーヴァント?」
間桐は爺に何度も聖杯戦争について訊かされた自分でさえ聞き慣れないクラスに思わず聞き返す。
「多分エクストラクラスじゃろう。あの場に居た連中がファイターファイターと口を動かしとったし」
「あ?お前口を動かしてたって……それ読唇術とか言うやつか?直接訊いたんじゃないのかよ?」
「当たり前じゃ。普通何百mも離れた戦場の喋り声が聞こえる訳が無いわ。
おまけにその時は強風だって吹いとったしな」
間桐の言葉をアーチャーはきっぱりと否定した。
でも普通何百mも離れた場所に居る人間の唇の動きなんか見える訳も無い。
サーヴァントってデタラメにも程があるぞ。
「オイオイ、どんな視力だよ……」
「視力が良くない者に狙撃を主体とする弓兵が務まるか。
古代の猛者を舐めるんじゃないわ。その気になれば1kmはいけるわい」
アフリカなどの自然の中で暮らす人間は何km先の物も見えるというがアーチャーもそういった連中の一人らしい。
しかも本人はさも当然といった風である。
つまりアーチャーだけが特別と言うわけではないのだろう。
「うわ……古代人ってどいつもこいつもそういう視力かよ!?」
「まあな。ワシらの時代にゃそもそも望遠鏡なんてものもない。
現代とは違い全てが自力だ、っと話が逸れた先に進むぞ。でだな────」
そうしてアーチャーは間桐に自分が見たことを大まかに伝えた。
「───でバーサーカーが宝具を使った……というか剣を鞘から途端にあっという間にやられた、と言うわけだ」
「真名を唱えて発動する宝具じゃなくてある特定の動作で発動するタイプの宝具か」
「じゃろな。そもそもバーサーカーでは喋れんから真名を唱えられん。いやまあ奴は何故か喋っとったがな」
「それはなんて?」
「いや流石に読み取れんかった。バーサーカーの口は動いたり動かなかったりしたからな」
そう言ってアーチャーは残念そうに口を尖らせる。
「口の動きが読めないと流石に読唇術は使えないか」
「そういうことだ。とりあえずバーサーカーについてはこれ以上は判らん」
間桐はあらかた説明を聞き終えると思った疑問を訊いてみた。
「じゃあバーサーカーの方は全部見れたけどランサーの方は良く見てないのか?」
「ああ。ランサーとは入れ替わりになったから最後の方を少ししか見とらん。
じゃから槍が異常に長い、動きがとんでもなく速い程度しか判らんぞ」
「……ならお前、そのランサーとはあまり相性良くないな?」
その言葉にアーチャーは眼を細める。
何故かアーチャーが驚いていた。
それほど間桐に正確な分析能力があったことが意外だったのだろう。
「貴様意外に頭が回るの……。まぁそうじゃなありゃワシが一番苦手なタイプだ。
槍のリーチと足の速さでこちらとの距離をあっという間に詰められる。
そういう手合いは下手なセイバーよりも好きくない相手だ」
自分の特徴とあのランサーの特徴を照し合せて出てきた解答を素直に口にする。
試した事は無いが試すまでも無く結果なんぞ判る。
それも英霊として大事な一つの力だ。
「チッ、ならランサーとは間違ってもバッタリ出会う訳にはいかないな」
「だな。最悪宝具でも使わんと生き残れんかもしれん」
「おいおいそれ本当に最悪だな……。
ただ生き残るだけで宝具使用かよ……大盤振る舞いにも程があるだろ」
「まあとりあえずだマスター。あのバーサーカーの対策は打っといた方が良いと思うぞ?」
「対策って言ってもなあ。簡単に言うが───」
その時、コト。と間桐達の足元に妙な物が落ちた。
ん?と二人揃ってその足元のソレに眼をやる。
なんだろうこれは?
それの形を敢えて形容するならば人の手ほどの大きさはあるヤドカリの様な形をしていた。
「あ?」
「む?なんじゃこれ?」
「お前の落し物じゃないのかアーチャー?」
「いいやワシは知らんが?」
「俺のでもないぞ?」
二人がしばらくそのヤドカリらしき物をマジマジと見つめていると、
突然ブルブルとヤドカリが振るえだして貝殻の中身が外に出てきた。
「おわっ!!?なんだよこれ!?」
「なんじゃこいつ?なんか持っとるな……どれどれ……ん?手紙か?」
アーチャーはヤドカリが持っていた物を拾い上げた。
「手紙……だよな?」
「手紙………じゃな?」
再び二人して互いの顔と足元の巨大ヤドカリに視線を交互させる。
「まこうしていても始まらんな。あ~どれどれ」
すると、考えるのに飽きたのかアーチャーは無防備にも手紙をガサガサと開封し始めた。
「うわっ!!ば、馬鹿野郎!敵の罠だったらどうするんだ!!?」
「敵の罠ならもうちょいマシなモンを送りつけると思うがのう?」
そう言いながら平然と手紙を開封し、中身を読み始めた。
「ん~~~おいマスター。これ丁度今のワシらにお誂え向きの手紙のようだぞ?」
「あ?」
妙な事を言い出したアーチャーに間桐も手紙へ眼を通す。
手紙には要約するとこのようなことが書いてあった。
今回聖杯戦争を競い合う事になったマスター諸君。
突然ではあるが私は諸君らと対バーサーカー同盟を結びたいと考えている。
知っている者は知っているだろうが今回召還されたバーサーカーは非常に危険だ。
よって私と同盟を組んでも良いというマスターは××時にココにある○○家まで来てもらいたい。
もっともそのままの姿で現れたいと思うマスターはまず居まいというのは判っている。
よって君たちの所に手紙と一緒に使い魔を送った。それがこちらと通信も取れる使い魔だ。
この使い魔が信用出来なければ自前でこちらと会話出来る使い魔を用意して○○家に来てくれればいい。
それではいい返事を待っている。
「……誰かは知らんが同盟の誘いか。アーチャーこれは罠だと思うか?」
間桐はこの手紙を受けとったマスターなら誰もが思うだろう疑念をアーチャーに尋ねた。
「むむぅ、いや多分罠ではなかろう」
だがアーチャーはその疑念を否定した。
「それは何故だ?」
「ファイターをアッサリ潰して見せたバーサーカーの奴が本気で有り得ん程に強かったからだ。
あの戦闘を見た連中なら同盟は誰でも思うことじゃろ。
実際ワシだって対策の一つに同盟を考えとったし」
「そうなのか?」
アーチャーが他者と同盟を結ぶのを考えていたのがよっぽど意外だったのか間桐は眼を丸くしていた。
「うむ。それに罠なら使い魔ではなくマスター本人を呼ぶ筈だろ。
わざわざ使い魔まで送り付けて話し合いの場を設ける理由が無い。
それに海草マスターもあれ見てたら絶対そう思うわい。
ファイターの奴がセイバークラス並に強ければなおさら───」
「誰が海草マスター……っておいちょっと待てっ!!そのファイターってそんなに強いのか!!?」
さっきのアーチャーの説明では出てこなかった情報に間桐は驚いた。
そしてすぐさまアーチャーに詰め寄ってくる。
「む?ああ言っとらんかったか?ファイターのやつは糞強いぞ?」
「言ってないわアホンダラ!!」
アーチャーに罵声を浴びせる間桐。
アーチャーの説明はその性格通り大雑把過ぎてその部分が見事に抜け落ちていのだった。
「じゃあ今言うたわ。がっはっはっはっは!!」
しかしその当の本人は一切侘びれもせずに笑っていた。
むしろ開き直ってさえいる。
「糞めっ!セイバークラス並の実力のある英雄がアッサリ負けるなんて冗談じゃないぞ!?
お前程度のサーヴァントじゃ本気で瞬殺じゃないのか?!」
「うむっ!まず間違いなくやられる!30秒もたん自信があるわい!!ガハハハハ!」
まるで面白い冗談でも聞いたように腕を組んで天井見上げ大笑するアーチャー。
「俺のサーヴァントの癖に自信たっぷりに情けない事言うなこの役立たずめっ!!!」
「がっはっはっは!!いやだってな、どう考えてもあのバーサーカーはおかしいわ」
アーチャーは一通り笑うと突然真面目な顔でふとそんな事を口にした。
「おかしいって何がだよ?」
「バーサーカーの癖に喋るし、変に強いし、妙な動きだし、宝具の魔剣は不気味だしで色々妙なんじゃ」
図太い神経をしているアーチャーが珍しく困ったようなもしくは神妙そうな顔をしていた。
こんな表情をするということはそれほどまでにそのバーサーカーは妙なのだろう。
「………おいアーチャーこの同盟の手紙どうする?」
「受けない手はあるまいマスター?折角だし彼奴ら全員の力を上手く利用するわい」
「判ったじゃあこの場所に使い魔を送るぞ」
そう言ってマスターは奥の部屋へと引っ込んだ。
恐らく使い魔と通信用の魔術品を探しに言ったのだろう。
このヤドカリモドキは安全だとは思うが、敵の使い魔を使わないのは用心としては正解だ。
それより問題なのは同盟を組む際に相手が出してくる条件だろう。
単純な利害の一致で手を組むのか、それとも何らかの理由で利用されるか、はたまた一方的な悪条件を突き付けられるか。
こんな事は生前に敵の策略も含めて何度も経験した。
だから結論は初めから決まっている。
「ま、話を聞くだけでも損はせんわなぁ」
聞くだけ聞いて気に入らなければ知らんふりじゃい、がっはっはー。
──────V&F Side──────
助けろ!ウェイバー教授!!第七回
F「ヤター!ファイター生き延びたぁぁああ!!」
V「良かったなフラット。それぞれが警戒し合った結果ま、他の奴が殺るだろ。となったのが生存出来た要因だな」
F「でもヘイドレクさんの真名が早くも遠坂陣営とソフィアリ陣営にバレましたね……」
V「だからミス遠坂がSN本編で言ってただろう。頭が働くマスターなら一般人を贄にはしないと。
つまりこういう事態になるから他の者達もくれぐれも注意して行動するように」
F「はーい。ベーオウルフさんも取りあえず(開幕死だけは)無事でしたし、いやぁ良かった良かった!」
V「この両陣営はこの真名の情報をどう使うかがポイントだな」
F「秘密の情報って人にどう使われるか判ったもんじゃないですよねぇ怖いですね本当に」
槍「で、なぜに拙者がこの場所に呼ばれているんでござろうか?」
綾「……なんでわたしも…?」
F「あれ?なぜ本多忠勝さんと沙条綾香さんがここに……?」
V「ああそいつらは選択肢を間違えていれば前話で死んでいた連中だからな。
ランサーのナイス判断で見事助かったが実はランサーはファイターよりも死亡率が高かったんだぞ?」
綾「うぇ!!?」
槍「む………やはりか?」
V「ああ。もしランサーがあの時沙条を連れて撤退せずにファイターと共に応戦していればそのまま敗退していた」
綾「わたしもしかして……倒れたのって結果オーライ?」
V「そうなるな。もし君が倒れていなければそのままバーサーカーと戦闘になり、魔剣で男殺、ランサー逆レイプで死亡だ。
そうなるとサーヴァントを失い一人残された君もまず無事では済むまい?」
F「ベーオウルフさんと違って戦闘続行スキルも高い耐久力も無いですからね忠勝さんって」
綾「へぇわたしって結構らっきーだったんだ」
槍「いやぁ拙者の勘も中々のものだったんでござるなぁハッハッハッ」
V「そしてそこにもう一組ラッキー野郎がいるな」
雨「なんで俺らが?」
狂「そうだそうだ!ふざけんじゃねーぞ!?」
F「真名バレチームですね」
雨「なにがいけないんだよー」
V「行動全部悪いわ馬鹿者!
これだけハッキリと弱点が残ってる英雄の情報を洩らすような真似をして。普通なら即殺だぞ?」
F「でもセンセー皆鯖のティルフィングの能力に男殺効果は……おまけに治癒阻害も──ぐはっ!!?」
V「そちらの方が特徴があって面白いので可とします。それに一時そういう案も出てたんだい。
それから魔剣の呪詛はゲイボルグの呪詛みたいなものだと思ってくれ。
呪詛の効力はRPG風に言えば毒状態みたいな感じでちょびっとずつダメージを喰らう」
F「は、はぃふぁかりました。とりはへずティッシュをくらはい……ろうも」
狂「オーディン死ねっ!てめぇが舐めた真似しなければこんな弱点なんか!この無能神!バーカバーカッ!」
V「さて今話で探偵たちが言い当てたようにヘイドレクはアサシンが天敵だ。
Aランク以上の気配遮断を持つアサシンならばASのヘイドレクは容易く倒せるだろう。
というか今だけの話、もし居たら倒せるじゃなくて倒してた。それもあっさりさっくりと!」
F「やったー!ハサン先生無双だーい!!」
V「おほん話を戻そう。皆鯖では特に聶隠娘がASヘイドレクにとって最悪の敵となる」
F「聶隠娘さんはえーっとうわっA+ランクの気配遮断に女性サーヴァント。確かに相性超最悪の組み合わせですね」
V「今回は諸事情でアサシンを使えなかったため居ないが、もし居たら真名がバレた時点で即殺されていた事を忘れるなよ?」
雨「メンドクサイなぁもう…べつに適当でいいじゃん?」
狂「てめえちょっとは頭使えや!本来なら死んでんだよ?!ちゃんと判ってるのかおまえ?
つかこの俺のマスターの癖に何でそんなに頭悪いんだよ!?」
雨「そんなことより今日はどの家を襲おうかねぇ。小さい女の子が居る家がいいなぁ」
狂「訊けやオイてめぇ!今しか喋れねんだから今のうちに俺のアドバイスを聞けよっ!!」
V「恐らく雨生は精神汚染スキルを持ってるな……」
F「……絶対持ってるでしょうね。一応設定は第四次聖杯戦争の龍之介さんのご先祖様ですし」
F「ところで先生。ラメセス石像が無駄にでかい……デカイデスヨ……?」
V「流石は目立ちたがり王だな。しかも石像の顔が実物と違う。
本人曰く「なぁに現世で初の建築物だ少々気合を入れただけのこと。これでも手加減はした」だそうだ」
F「うそだ!絶っっ対にこれ通常規格の二、三倍の大きさはありますよ!整形率も!」
V「大きければその分太陽光の当たる面積が大きくなるだろう悪い事ばかりではない。
まあその分色んな要素的にバレ易くなるだろうがな?」
F「それ駄目じゃないですか!」
V「とりあえず今回はここまでだ。では次回」
F「ファラオォォォオ折角ですから俺の銅像も作ってくださいよぅ!」
最終更新:2009年07月01日 15:52