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──────Lancers Side──────


 ランサーは夜の町を風のように走り抜けていた。
 出来るだけ背中の綾香に振動が伝わらないように滑るような足捌きで疾走する。
 目指すのは自分たちの拠点である龍洞寺である。
 現段階で逃げ込むなら、自分達の陣地であるあの場所が一番安全な筈だ。

「拙者が傍に付いていながら……何たる様だ!まことに申し訳ござらん主殿!」
 ランサーは自分でも知らないうちにさぞ無念そうに心から謝罪の言葉を口にしていた。

 もっと気を配っておくべきだったのだ。
 そんな簡単なこともお前は出来ないのか?
 それで忠義の士気取りとは笑わせるなよ愚か者が!

 ランサーの胸中には自嘲する言葉がいくつもよぎっては消えていく。

「とまっ、て、ランサー」
 その時、意識を取り戻した綾香がランサーに制止の声をかけた。
「主殿?!良かった気が付いたのでござるな!もう少し待って貰いたい、直ぐに寺へ帰還する故に───」
「だから、まって」
 だがランサーの言葉を遮って再び制止をかける綾香。
「な、何故でござるか?!いやそうはいかぬで御座る。今は一刻も早く戻らねば!」
 しかし、だからといって綾香の言葉を訊く訳にもいかないのはランサーとて同じことだった。
「駄目よ。はぁ、ふぅ。ランサーが戻るのはファイターの所よ。新しいサーヴァント……確認しなきゃ」
「そんなことを言ってる状況では無いで御座ろう主殿!!?」
「そんな事を言わなきゃいけない状況なのよ。だから確認しなきゃ。……あのサーヴァントが持ってた剣、ランサーは見た?」
「な………主殿……?」

 ───何故こんな状況でこの少女はあの剣のことを言うのだろうか。

「チラッとだけど、わたしは見たわ。ランサーは、見た?」
 真剣な様子で綾香は同じ質問を繰り返した。
「……………うむ確かに見た。正直、拙者でさえ薄気味悪いと感じる剣でござったよ……」

 そう感じたからこそランサーはあの場から綾香を連れて撤退したのだ。
 彼が持つ第六感があの場に居てはいけないと是非も無く告げていたから。
 ランサーは自身が死ぬのを恐れていないし、敵を前にして逃げる気も無い。
 だがしかし、可愛らしい主人であるこの少女を死なせるなど───彼の武士としての誇りが絶対に許さない。
 あの離脱は自力で動くことも出来ない彼女をあの場に居させてはいけないと頭よりも体が反応した結果だった。

「ランサーもやっぱりそう感じたんだ。わたしもアレを見た瞬間に、正直ヤバいと思ったわ……。
 だから、出来るだけ早めにアレが何なのかを確認しておかなきゃ……後悔する結果になる気がするの」
「………しかし……」
「うん、ランサーの言いたい事も判ってる。だからこうしましょう?
 ランサーはさっきの場所に戻ってあのサーヴァントをよく見てきて。ただしわたしの魔力がもう無いから戦闘はしない。
 で、その間わたしの方はどこかに隠れて身を守ってる。偵察の方はランサーに全面的に任せるわ。
 もし危険を感じたら令呪を使えばランサーはすぐに戻ってこれるのよね?」
「むむぅ………確かに令呪を使えば離れた場所からでも瞬間移動する事も可能でござるが……」
「ね?じゃあそうしましょう」
 綾香の提案にランサーは少し考え込んでいた。
「本当に拙者に内緒で勝手に動いたりしないでござるな?」
「当たり前じゃない。あのサーヴァントが現われてないんならさっさとお寺に戻ってるわよ。
 ……こっちだって本当はクタクタなんだから」
 口を尖らせて抗議するマスターにランサーは仕方ないといった表情で降参のジェスチャーをした。

「では嫌な予感がした段階で頭の中で拙者を強く呼ぶのでござるぞ?そうすればマスターの危機が拙者にも伝わる。
 そしてもしも危険を感じた場合は即令呪を使用する。いいでござるな?」
「うんわかった、ランサーも気を付けて。いいわね?あくまで様子見だけよ?」
「うむ御意。では行って来るでござる」

 綾香に挨拶するとランサーは霊体化してバーサーカーたちの元へ再び戻っていった。





──────Fighters & Berserkers Side──────

「イィィィヤッホウ!!!蹂躙しちまえ!バァァァアアアアサァアアアアアカァアアアッ!!!!!」
「■■■■■■■■■■■ーーー!!!!!!!!」
 新たに現われた二人の刺客が吼え猛った。
 逞しい闘牛のような躍動感と勢いでファイターとランサー目掛けて突っ込んでくるバーサーカー。

「ファイターすまぬで御座るな、主殿を非難させるために少々席を外させて貰うぞ?」
「───フッ。やれやれこれでは私はバーサーカーの相手が忙しくてランサーを追えないな」

 ランサーには一切目もくれずバーサーカーの方へ向かって討って出るファイター。
 激突地点へと目掛けて駆ける二つの巨体。
 身長ではベーオウルフの方がずっと高いが体格の良さだけならヘイドレクも決して負けてはいない。

 両者の距離が縮まる。
 振りかざされる二振りの剣。
 0に埋まる二人の距離。
 ズガン!という衝突音。
 鍔競り合うファイターの尖剣とバーサーカーの剣。
 だがその光景には決定的におかしい部分があった。
「な、なに?」
 その妙な光景に僅かだが動揺するファイター。
 それもその筈だ。
 何故ならバーサーカーの剣は鞘に収められたままだったから。
 これでは刀剣として全く役に立たない。
 せいぜい鈍器が良いところである。

「■■■■■■■ーーー!!!!」
 雄叫びを上げて襲い掛かるバーサーカーが鞘込めの剣を力強く振り下ろす。
 ファイターは咄嗟に一歩後退して攻撃を回避した。
 ボゴン!!という音と共にファイターの足元の地が抉れる飛ぶ。
 すかさず剣の振り下ろしで出来た隙をフォローするように今度は空手の左拳が突き出される!
「!!」
 左ストレートがファイターの顔面を捉えた。
 打撃の衝撃で数歩分後退する。
「痛っ、こやつ肉弾戦も出来るという事か!」
「ガァア■■■■■■■■■■■ーーー!!!!!!!!」
 またしてもファイター目掛けて突っ込んでくるバーサーカー。
 即座に態勢を立て直し迎撃するファイター。

 そして周囲を振動させる凶器同士の衝突音。

 ファイターはランサーに続いてまたしても手強い敵を相手にする事になったようだ───。



「ハッハー!見たかー行けイケ逝かせバーサーカー!!おおっとそれはストレートじゃなくてジャブだぜ!?くっく!」
 離れた場所でファイターとバーサーカーの戦いを大興奮な様子で見守る雨生。
 一方の遠坂も二人のサーヴァントの戦いを黙って見守っていた。

 ここで雨生を攻撃しても良いがそれでは折角身を隠匿しているというメリットを捨てることになる。
 おまけにバーサーカーの能力値はファイターよりも低い。
 順当に行けばファイターの勝ちは揺るがない。
 ならば余計な手出しはファイターの邪魔になるだけだ。
 恐らく能力値的にもあのサーヴァントはマイナーな英雄を強化したセオリー通りのバーサーカーなのだろう。
 今は生意気にも大英雄クラスの格を持つベーオウルフとまともに張り合っている様だがそれも時間の問題のはずだ。
 というのが遠坂の出した両者の戦闘の結論だった。

 再びこの戦場に轟く爆裂音。

「……無様だな」
 遠坂は哀れみを込めた感想を漏らした。
 この戦場一帯には結界を張っているためどれだけ音を立てようが誰かに聞かれる事は無い。
 よってここならいくら暴れようとも心配は要らないのだが……。

 昨日のセイバーとファイターの戦いも激しかったがこの戦いはあれとは根本部分が違った。
 ───遠坂の観点から言えばだが、今の二人の戦闘は汚らしい戦いと言えた。
 主に汚らしいのはバーサーカーである。
 あの狂犬はファイターに襲い掛かるだけでなくファイターの周囲も破壊していた。
 二人が激突した結果周囲が破壊されたセイバー戦とは違い、バーサーカーはファイターだけでなく自身の周囲にある大地も木々も石も破壊対象としている。
 ただ破壊する為に暴れるだけ。
 まるで食べ物を食い散らかす駄犬のようで育ちの良い遠坂は見てて不愉快な気分になる。

「■■■■■■■■■■■ーーー!!!!!!」
「ハアァァ!!」

 両者の吐く気合に比例して破壊が増えてゆく。
 撒き散らされる木々。抉られる大地。砕かれる岩。
「やはり問題は無い。徐々にファイターが奴の動きに慣れ始めたみたいだな」
 そんな二人の戦いを安心した心境で遠坂は見守っていた。
 元々強力なセイバーやとんでもない俊敏性を持つランサーに比べると実に直進的で御しやすい相手だ。
 自分が睨んだ通りこの戦いはファイターが勝つ!
 まもなく手に入るであろう勝利を前に遠坂の口元には薄っすらと笑みが刻まれていた。



「ふっ!でぃヤ!!」
 何度目かの攻防でファイターは敵の傾向が判ってきた。
「■■■■■■■■■■■!!!!!■■■■■ーーー!!!!!!!!」
 もう何度目なのかわからないバーサーカーの強攻撃が繰り出される。
 このバーサーカーは常に一撃必殺の攻撃が主体になっていた。
 攻撃時の隙も大きいが、もし万が一にでもまともに直撃されれば一気に形勢を持って行かれる。
 まさに狂戦士の名に相応しい荒々しい諸刃の戦闘方法だ。
 しかし、一方のベーオウルフとて数多の怪物や敵を打ち倒してきた正真正銘の勇者だ。
 この程度の敵に決して苦戦はしない。
 ファイターは既にバーサーカーに対して致命傷では無いがある程度のダメージも与えている。
 だがファイターはなかなかバーサーカーを倒し切れずにいた。

「ぬ───っとっ!またかっ!!狂戦士の割にはずいぶん器用な真似が出来るなバーサーカーよ!」
 ファイターの両目を狙ったハンドクローをスウェーバックで避ける。
「ウォ■■■■オオオオオオオオオオ!!!!!」
 そして絶叫しながらまた右手に持った鞘込めの剣を渾身の力を以って振るう───と同時に丸太の様に太い脚から蹴りが放たれる!
 ファイターはその両方をバク転しながらかわしバーサーカーから距離を離した。

 右手の武器を渾身の力で叩き付け、それにより出来た隙を左の腕や両足による格闘攻撃でフォロー。
 それがこの狂戦士の戦闘のやり方だった。
 重く強い鞘込めの剣を捌いても軽いが鋭い格闘攻撃が飛んで来る。
 ファイターが実力的にも格下のバーサーカーを未だに倒しきれない理由がここにあった。

 離された距離を助走にしてさらに勢いよく剣と格闘の二連撃を叩き込んでくるバーサーカー。
「もはや器用とか賢いとかそういう次元の問題ではないな。
 あのバーサーカーの動き……明らかに頭で考えてやったり、スキルの恩恵を受けてやっている行動ではない───!」

 その真相に気付いたファイターがバーサーカーの見事なまでの闘争本能に驚嘆する。

 実際問題としてバーサーカーの戦闘法というのは限りなく原始的で単純なものになりがちだ。
 理性を奪われた英霊はその持ち前の技能を失い本能で戦うしかなくなる。
 より速く手にした武器を振るい、より強く手にした武器を叩き付ける、ただそれだけだ。
 もっとも狂化スキルによる強化があるため、力そのものはより強力になっていはいるのだが。

 だが雨生のバーサーカーは少し違った。
 攻撃の隙のフォローをするなんて小賢しい真似をやってくる。
 それはヘイドレクが狂戦士として生き、死してなお守護者として戦い続ける人生の果てに肉体に魂に染み付けた闘争本能。
 まさに、頭で考えなくとも肉体が勝手に動く。の体現であった───!

 バーサーカーのこの闘争本能がベーオウルフを驚嘆させ、手こずらせ、倒しあぐねている、という結果に繋がっていた。

「あはははははは!どうだ遠坂のサーヴァント!俺のバーサーカーはすっげえだろう!さあバーサーカーそんな奴捻っちまえ!」
 雨生はバーサーカーとファイターが剣を振るい合うたびに歓声と野次をあげて観戦していた。
 しかし、そんな彼にイエローシグナルを暗示する変調が起き始める。
「はは!っ……ごあ!?か、は……魔力が消費キツくなって……町の人間をバーサーカーの。餌にして貯金したのに……もうか!?」
 ついに雨生はバーサーカーが無遠慮に消費する魔力量に苦痛の声を上げた。

 この戦場に来る前に雨生はバーサーカーに人間を襲わせてその魂を喰わせていた。

 サーヴァントは魔力を貯めれば貯めるほど魔力貯蔵量が上がりタフになる。
 どんなサーヴァントであったとしても魂を喰わせても能力値や最大魔力貯蔵量は上がったりはしない。
 とは言え、それでも召喚時の強さと比べるとサーヴァントをより強く出来るのはまぎれもない事実である。

 召喚時に受けた苦痛の経験からバーサーカーへの魔力供給は自身の魔力量だけではまず足りないと判断した雨生は町の人間を襲いバーサーカーに魔力を貯めさせた。
 ────だが現在。
 バーサーカーの戦闘によって魔力消費が激しくなり、その魔力貯蔵量の余裕がなくなってきていた。

「はぁはぁ!このままじゃ、マズイな……よし!『ふぃにっしゅ』をかけてやる!」
 残りの魔力残量を計算に入れて雨生がバーサーカーに取っておきの命令を出す。
「バーサーカー!!!!宝具、すたんばい!ごー!!本気で殺せ!!ハハッ!くーるに殺せぇええ!!!」
 殺意を伴って発せられた雨生の命令と狂笑が戦場中に響き渡った。
 その言葉に荒ぶっていたバーサーカーの動きがピタリと停止する。

「「───宝具!!!?」」

 雨生が口にしたその単語の意味にファイターと遠坂は身構える。

 ”ファイター!バーサーカーの宝具が来る気を付けろ!”
 ”ああ。奴の宝具が広範囲な単純威力系の宝具の可能性もある、遠坂殿もその場から離れられる準備を!”
 ”わかった。くれぐれも油断するなよファイター”
 ”それは愚問だマスター。バーサーカーのあの見事なまでの闘争本能は決して油断していいものではない”

 念話でのやり取りを終えるとファイターはすぐに精神を極限まで集中し来たるべき必殺に備える。

 振り上げられていたバーサーカーの両腕がゆらりと降ろされる。
 右手に握られていた武器はいつの間にか左手に持ち直していた。
 バーサーカーは左手で剣の鞘を握ったまま、右手で剣の柄をゆっくり握る。
 両目には先よりも爛々とした殺意。
 
 ────────。

 バーサーカーの殺気にファイターも遠坂も雨生さえも口を開かない。
 無言の静寂がその場を支配する。

 高まっていく緊張感。

 そしてついに。 

 その鞘から魔剣が抜き放たれた────!!!!






──────Riders Side──────

「バーサーカーの剣、何の宝具かは知らんがあのサーヴァント…最悪負けるな……」

 その男はファイターとバーサーカーの戦場から南西に500m離れた上空に霊体化した状態で存在していた。
 ライダーのサーヴァント、ラメセス二世である。
 ランサーとの敗北の一件で方針を変更した彼はこうして他の組の観察をしていた。
 ファイターとランサーの戦闘も最初から全て確認済みだ。

 ファイター、あのサーヴァントは強い。
 あのバーサーカーの方も決して弱くない。
 その前のランサーだって同じだ。
 にも関わらずファイターにはまだ余裕があるようにラメセスⅡには見える。

「ふん。まあいいさ。弱者が強者を喰う大番狂わせなどこの聖杯戦争ではそう珍しい事でもない」
 忌々しい限りだがな。と呟きながら自分の受けた屈辱を思い返す。
 つい先日地力では上のはずのラメセスⅡがランサーに敗走させられると言うこの上ない屈辱を味わったばかりだ。
 単純な力関係だけでは決してこの闘争は計れない。
 それが英霊の持つ宝具による力だ。
 例えどんなに最弱のサーヴァントであったとしても宝具次第では幾らでも勝利する機会があるのだ。
 バーサーカーが持つアレはまさにその類の宝具である。

 あの剣の能力など知らないがラメセスⅡには漠然とした予感がある。
 あの剣を見た瞬間にふと頭に浮かんだ事柄がある。

 ”───こういう時に起こるものよ。大番狂わせと言うやつはな”

 バーサーカーの剣はどちらかと言えば美しく見える。
 それも恐ろしくが付くほど美しさだ。
 だがラメセスにはその美しさを気色が悪いと感じた。
 その嫌悪感にも似た感覚がラメセスⅡに告げるのだ。
 大番狂わせがあるかもしれないぞ───と。


 ライダーは上質な見世物を見るような気分で二人の戦いを観戦する。
 彼にしてみればどちらが残ろうと、どちらが消えようと関係ない。
 なにせ最後の勝利者は自分なのだ。

「フフフ、下郎は精々一生懸命に踊って俺様を愉しませていればそれでよい」

 折角滅多に見られるものでもない稀少な戦いだ、なら今は見世物を愉しまないと勿体無い。
 口元に微笑を浮かべながら引き続き両者の戦いを観戦するライダー。

 それは『王の格』を持つ英雄たちだけが纏える絶対的な自信と余裕であった。







──────Fighters & Berserkers Side──────

 始め、それが何の音なのか誰も理解できなかった。

「───────なん、だと?」
 ファイターが思わず訊き返す。
「だから第一問だ。殺し合いは人間の喜びである。是か否か?」
 ”そいつ”が再び同じ音を発する。
 狂気に侵された面貌のまま、楽しそうな声で。
「馬鹿な………バーサーカーが……」
 流石のファイターも呆然した声を上げるしかなかった。
 同様に遠坂も雨生も唖然としたまま声が出せずにいた。

 ”ば、馬鹿な……有り得ない……バーサーカーが…狂戦士クラスが言語を操る、だと?ハッ……ファイター聞えるか!?”
 いま目の前で起きている事態は理解不能だがとりあえず遠坂はファイターに念話で指示を送る。
 ”と、遠坂殿?これは……一体?”
 ”理解不能な事態ではあるが、とりあえず奴の質問には答えるな!様子を見るのが先だ!”
 ”りょ、了解した”

「…………」 
「どうした?回答は無いのか?ふんまあいい。……………………………………………では第一問は時間切れだ」
 バーサーカー?がそう言った瞬間。
 彼の身に着けている装飾品が怪しい光を発しファイターとバーサーカー?を照らした。
「う?……なんだ?腕が重くなった気が…?」
 さらに理解不能な重さがファイターの腕に加わった。
「貴様何をした!!?」
「私は何もしていない。お前が勝手に招いた事態じゃないのか?クスクスクス」
 ファイターの狼狽具合がさも可笑しいとばかりに忍び笑いを浮かべる謎のバーサーカー。
「さあ次はお前が問題を出せ……と言いたいところだが第二問も私が出そう。第二問、怪物に人間は勝てる。是か否か?」
「………っ!!?」
 この不可解な事態にファイターの本能が危険信号をガンガンと鳴らす。

 ”遠坂殿!黙秘は拙い!良く判らないが問いに答えなければ何らかのペナルティを負う!私はどうすればいい!?”
 ”ペナルティだと!?ファイター何をされた?!”
 ”腕の感覚が若干ではあるが重たくなった。気のせいの可能性もあるが……私は気のせいとは思えない”
 ”突然喋りだしたとおもったら今度は問題を出してきて挙句答えられなければペナルティを負うだと?なんなんだ奴は!?”
 ”遠坂殿!”
 ”くっ、問題に答えろファイター!”

「否だ……人間では怪物には勝てない。怪物に勝てるのは我ら英雄だけだ」
 ファイターは一拍の間を置いて出題された問題の回答を口にした。
「正解だ。では次はお前の番だファイター問題を出せ」
 正解を告げられると今度は謎の負荷がファイターの身体に加えられる事は無かった。
 どうやら正解さえすれば謎の重りを負わないで済むらしい。

「今度は私に問題を出せ、か。では第三問、貴様は何者なんだ?」
「バーサーカーのサーヴァントに決まっている。クック、お前のそれは問題ではなく質問だ。出題権を無駄にしたな」
 失笑だとばかりに呆れた声でバーサーカーが回答する。
 顔は依然狂気に侵されたまま変わらない。
「では第四問。英雄であるならば竜種であっても打倒する事は可能だ」
「当然だ。それが英雄だ」
 今度の問題は力強く即答する。
「……なるほど、フフ正解」

 そうして二人は問題の出題を交互に行ない互いに回答していった。
 時にファイターは解答を間違え肉体に僅かな重さを加えられる。
 ”わけがわからない。なんなんだこれは?遠坂殿!私は誰かの魔術を受けているのか!?”
 ”いや、雨生は魔術を使っている様子は無い!まさかバーサーカー本人の魔術なのか…?”
 ファイターたちの困惑を余所にバーサーカーは愉しげにファイターの出題する問題を解いてゆく。

 ───唐突ではあるがファイターの予想はズバリ正解していた。
 何故なら今、バーサーカーはとある魔術を行使している最中なのだ。
 条件を満たすことにより使用者を含めた対象者に何らかのペナルティを強制的に掛ける魔術。
 ペナルティは単発だけでは効果が弱く大した意味をなさない。
 それがバーサーカーの唯一扱える魔術───ヘイドレクの持つ魔術礼装『賢者問答』の魔術効果である。

 生前彼が好んでよく行ったと言われる知恵比べは魔術的な形式で行われていた。
 それは王と民と言う立場の違う両者を公平にする為でもあり、ヘイドレクがよりスリリングにゲームを愉しむ為の措置でもあった。
 知恵比べを始めた以上はヘイドレクが解答を間違えばヘイドレクがペナルティを負い、
 相手が解答を間違えば一つペナルティを強制的に負わせると言うシンプルなルール。
 その公平さを以ってヘイドレクはある時には罪人の罪を、ある時には財産を、ある時には女を、ある時は両者の命をも賭けた。
 そしてヘイドレク王はその知力勝負の全てに勝利した。

 魔術礼装は宝具と同じくある特定の神秘を行うための道具であるため魔力さえ流せば発動させられる。
 礼装に必要な魔力はバーサーカーが喋りだした時点で既に流し込まれている。
 ペナルティ発動条件は問題の不正解。
 賭けられるペナルティは身体の自由。
 ゆえに解答を間違えたファイターの身体は呪術的ペナルティを受けていた。


「次は私だな。ん……そうだな、アーサー王と呼ばれる英雄が活躍した場所を現在の国名で答えろ」
 今度は遠坂邸で呼んだ地図に書いてあった国の名称を出題してみる。
「イギリスだ」
 またしてもあっさりと即答された。
「第十問。シグムンドやフィンの歌は北欧の一部にのみ伝わっている。是か否か」
「否。多くの吟遊詩人に語り継がれる程の歌だ。かなり広く伝承されている筈……では次は私の番───」
「ふふふ、ふふなるほど。生存時代、活動地域、戦闘経験、その他情報の範囲の絞込み完了。以上の条件化に該当する英雄は約一名」

 続いて問題を出そうとしたファイターの声を遮って狂戦士は表情の変わらない貌のままボソリと、
 ───本当に愉しそうに声だけで哂った。

 同時に、ぶわっと一際強い突風が二人の間を駆け抜ける。
 その刹那。奴は、本当に有り得ないモノを口にした。

「───いいや、君の情報はもう結構だよ。”闘王”ベ ー オ ウ ル フ」

 その名称にファイターの動きが強制的に静止する。
 強風の鼓膜を叩く音が喧しくて耳が良く聞えなかったが。
 だが間違いなく。
 奴は。
 確かに。
 ファイターの真名を口にした─────!!?

 もはやファイターも遠坂も心臓が凍り付くような感覚に身を委ねるしかなかった。
「───────」
「──────」
 今度こそ驚きのあまりファイターも遠坂も口を開く事が出来ずにいた。 
「ぐげげけけげげげ!!ひゃ、ひゃは、ヒヒヒヒヒ。正答まで所要時間約一分弱!あははははははははっははあははああ!!」
 そんな中ただ一人狂ったように笑う狂気のサーヴァント。
 誰も動けない舞台に轟く不快な音。

 そして、一頻り笑った後。

「───お腹すいた。もう、食べちゃおうっと」
 そいつは狂戦士の厳つい見た目には不釣合いなまでの可愛らしい声を出すと、極彩色の妖気を魔剣から破裂させた!
 渦を巻くかの如く猛る黒色の魔力。
 狂のサーヴァントの肉体を侵食する魔。
 狂化される事によって膨れていたバーサーカーの肉体がさらにもう一回り大きく膨れ上がる。

 理性は完全に塵となり、自己はその存在を明け渡し、スイッチを切り替えるように入れ替わる。
 檻に封じられていた殺戮の悪鬼がとうとう舞台上へと登場する。

「ウゥゥウウ!!オァ、ァァアア、オ、オ、■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
 歓喜と悲哀と狂気の咆哮と共に悪鬼が生贄へ向かって猛然と襲い掛かった。

 ”まずいファイター!この場から撤退しろ───!!”

 だが遠坂のその指示は、決定的に遅すぎた。





───────Interlude  Fighter───────


 一瞬、黒い突風が自分の方に吹いて来たと思った。
「ごぁっ!!!??」 
 体が軋むくらいの衝撃を受ける。
 死を拒絶した体が反射的に防御行動を取ってくれた。
 体をよろめかせながらもファイターの両眼はしっかりとソレを見つめていた。
 振り下ろされた凶器は今度は剥き身の剣だった。

 それは……とても、本当に、神々しいまでに美しい───魔剣。

「■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
 再び意味をなさない狂戦士特有の音を吼えながら手にした魔剣をファイターに叩き付ける。
 辛うじて手にした尖剣で護りに入っているがこれは明らかに───。
「さっきとは全然違う!!?が──ぁ!!!」
 雷じみた速度で打ち下ろされた斬撃の衝撃を受けて鋼の肉体が悲鳴を上げる。
 そして突然襲う浮遊感。
 ファイターの決して軽くない体が羽の様に宙に舞い上がって地面に堕ちる。
 バーサーカーは獲物を追い立てる狩猟犬のように即座に追い討ちをかけて来た。
 黒い妖気で侵されて迫るその姿はまさに悪霊といった具合だ。
 雷光の様に速く、地震の様に激しく魔剣が襲ってくる。
「痛っ……ぐあ!!!」
 ファイターはまたしてもボールを打ち返すみたいに軽々と数m打ち飛ばされる。

 今度のバーサーカーは、攻撃力も、速さも、鋭さも、動きも、そして強さまでもが全てが違った。

「がっ、ぬぅぅ……ぶは!!!」
 台風に翻弄される木の葉のように地面を転がされるファイター。
 ファイターとバーサーカーの能力値的にはファイターの方が圧倒的に上の筈なのになぜか一方的な展開になっている。
 ここまで来るともはや強い強くないの次元で済む話ではない。
 どういうことか理解できないが今のバーサーカーは、明らかにセイバーよりも強かった───!

 こちらの脳天を喰らいに来る魔剣を必死に尖剣を合わせて打ち落とす。
 弾かれる魔剣。
 脳天直撃の軌道から魔剣が逸れた。
 だが、魔剣はカクリと軌道を変えて今度はファイターの胴体を目掛けて飛んでくる。
 鋼鉄ともいえる強度を持つ肉体が浅く切り裂かれた。
「───っな!!!?」
 さらに旋風の勢いで次弾が放たれる。
 ファイターも負けじと渾身の一刀を放つ。
 脳味噌にも響きそうな甲高い音を鳴らして両者の腕が後方に弾け飛んだ。
 二人に一拍の隙が生じる。
 しかし、バーサーカーの魔剣はまるで逆再生するかのように剣の軌跡を巻き戻して襲い掛かってきた!
「うおおおお!!?」
 頭を下げるように体を折ってなんとか回避した。
 続いてバーサーカーは普通では考え難い攻撃体勢で魔剣を振るってくる。
 足元から襲い来る三撃目を弾き落とそうとファイターは尖剣に力を込める。
 瞬間、首筋を襲う不快な寒気。
 身体ごと後方に跳躍し首を全力でその場から遠退けた。
 直後──ファイターの首のあった場所を有り得ない軌跡を描いて魔剣が通り過ぎていった。
「──────っ!!!?」
 まさに間一髪。
 あと僅かでも後退が遅ければ首を落とされて即死していたであろう。

 焦燥感で暴れそうな心を鎮める努力しながらファイターはバーサーカーの姿をじっと観察する。
 バーサーカーの肉体には魔剣から滲み出た黒い妖気のようなものが模様の様に幾重にも絡み付いている。
 奴が帯びている魔力はさっき戦った時とは雲泥の差だった。
 おまけに能力値も明らかに上昇している。
 まず間違いなく宝具であろうあの魔剣の能力に違いあるまい。
 だからこそファイターは不可解だった。
 突然軌道を変えて飛んでくる刃。
 徐々に切り刻まれていく肉の鎧。
 魔剣が放つ圧倒的な不快感と威圧感。
 そして何より魔剣の動きとそれの操り手であるバーサーカーとの動きが噛み合っていない事。
 これではそうまるで……。

 ”そうだ────まるであの魔剣と戦っているような気分だ───!”


 バーサーカーの斬撃にファイターが応戦する。
 本来ならばここで両者の剣が噛み合い、力が拮抗する。
 セイバーの時だってそうだった。
 だというのに。
「うぅぅううっ!!何故だ……なぜ力負けする!!?」
 激しい激突音と苦痛の色を帯びた声と共にファイターの剣を持った右腕が後方に押し飛ばされた。
 『尖輪猟犬』の刃はとうの昔に回転させ攻撃力を上げている。
 だがどうしても力負けする。
 どう打ち込んでもバーサーカーに力負けしてしまう。
 それどころか剣速でもバーサーカーの方が圧倒的に速かった。
 あの問答の際に腕や身体に掛けられた微妙な重りがもどかしく感じる。
 危機的な場面と困惑の二重苦から焦りだけが募っていく。

 ───馬鹿な。なんなんだこのバーサーカーは───?!
 ファイターはもう何度目になるか判らない答えの出ない自問を繰り返す。
 マスターの遠坂殿もきっと同じ心境だろう。

「はっ、はっ、はっ───!おのれ!戦い難い……強い弱いではなくここまで”戦い難い”のは何故なんだ!!?」
「■■■■■■■■ーーーー!!!」

 魔剣と名剣が鉄の演奏を奏でている。
 轟く激しい音。
 それと同時に、血も撒き散らしながらまたしてもファイターが吹き飛ばされる。


 この戦いは誰がどう贔屓目に見ても───ファイターが一方的に押されているようにしか見えなかった。




───────Interlude  Fighter out───────



「くーる!!バーサーカーお前はうるとらくーるだぜ!!
 ボハッ!!ゲホッごほごほ!あ~糞内臓が…でもまあ良いや……あと少しだ。
 そうだそれでいいぞ!は、はは!あはははははっ!!!良いぞそのままぶっ殺せぇぇえええ!」
 ”ファイターこれ以上はもういい!命令だ!一旦この場から離脱しろ!!”
 一方的な戦況に二体のサーヴァントの主人が最後の指示を飛ばす。

 吹き飛ばされて距離が離れているファイターへ真っ直ぐに突撃するバーサーカー。
 ファイターはバーサーカーが距離を詰めるより速くこの場から離脱するために後方へ大きく跳躍した。
 バーサーカーとファイターとの距離を開く。
 
「くっ、命令ならば仕方ない!一旦離脱す────」
 そしてファイターはそのまま霊体化して撤退しようとした瞬間。

 ざしゅっ────。

 っと水気を含んだ肉を裂く音がした。
「───る、……っ?」
 なぜかファイターの目前にバーサーカーの飢えた両眼と禍々しく輝く魔剣があった。

 バーサーカーは離脱しようとしたファイターを通常では有り得ない動きで追撃したかと思うと、
 そのままファイターの右肩から胸辺りまでをバッサリと魔剣で切り裂いていた。

「ぐ──が、あ”ああああ”あ”ああああぁぁあ!!!!!?」
 あれほど頑強だったファイターが。
 何度吹き飛ばされても即座に立ち上がったファイターが。
 肩を押さえ苦痛の声を出しながら。
 ついに。
 ついに、地面に膝を屈した───。

 ファイターの肩から大量の血が零れ大地を汚していく。
「なん■■■て■■■美味しい、血■■■■■■気持ちい■■■声■ーーーーーー!!!!!!」
 その光景を見つめ、天に向かって歓喜を上げるバーサーカー。
「もっと■■■血■■チョウダ■■■ーーーーーー!!!!!」
 ファイターの血の味に興奮したかの様にバーサーカーは魔剣を渾身の力を込めて振るう。
 ゴギャ──!!!
 今までで一番強烈な当たりだった。
 錐揉みで吹っ飛ばされる。
 咄嗟の防御も空しく宙に高く舞うファイター。
 ファイターの体の吹き飛び方が今までの比ではなかった。
 肩から流れる鮮血が尾を引いてそれはまるで流星のよう。
 それを追うように高く跳躍するバーサーカー。
 そして地面に向かってスパイクでも打つかのような強烈な攻撃が続けて加えられた。
 ファイターは姿勢制御もままならず、ぐしゃっ!という鈍い音と共に地面に叩き付けられる。
「あ─────く……ぁ」
 すぐさま起き上がろうと腕を上げようとするが上手くいかなかった。
 ランサーとバーサーカーとの連戦で消耗しボロボロにされた身体は思うように動いてくれない。
 倒れ伏したまま頭だけは何とか上げようと努力する。
 視界にはバーサーカーの姿が映っていた。
 バーサーカーは野獣みたいな格好で着地を決めると倒れたファイターに止めを刺そうと猛然と駆け出した。

 これで正真正銘の最期になる一撃。
 三秒後にはファイターは血に餓えた悪鬼に食い殺されて死ぬだろう。
 縮まる両者の距離。
 同時に0に向かって加速してゆくファイターの命。
 
 ”マズイ!───御三家の一角たる遠坂の名において令呪を以って命ずる!ファイター撤た───”

 遠坂の反応と同時に振り上がる腕。
 首を目掛けて振り下ろされる魔剣。
 
「ど───『止まれぇぇぇぇええバーサーガァァァアアアアアアアアアアア!!!!!』」

 だが遠坂の令呪よりも、バーサーカーの魔剣よりも速く。
 何故か地面に倒れ吐血している雨生が僅かに速く令呪を発動させた─────。

 振り下ろされた魔剣が令呪の強力な強制力によりファイターの首に触れる直前で急停止する。
 令呪に抗ってもう少しで届く凶刃を振り下ろそうとガタガタと震えて抵抗を試みるバーサーカー。
 そんなバーサーカーの姿に血反吐と共に苦笑を浮かべながら雨生は即座に魔力の供給をカットした。
 バーサーカーに供給される魔力が無くなりサラサラと霊体化してゆく狂戦士の肉体。

「ハァハァ!くそ、あと一歩だったけど、あれ以上は、俺が死、ぬから無理か………。宝具使用は本気で死ねる……な。
 はぁぁはぁはあ…と言うわけだから、今日は、見逃してやるよ遠坂?…ゴホッ、ハァハァ、ハア……がふ!ヘッ」
 地面に倒れていた雨生がゆっくりと体を起しながらにやりと笑う。
「へへ。それじゃあな、遠坂。次は殺してやるからな、シーユー」
 そう言い残して去っていく雨生。
 吐血はしていたが思いのほか雨生の足取りはしっかりしていた。


 そうしてバーサーカーと雨生が去った。
 敵が居なくなった戦場には血の臭いだけが漂っていた。







──────Fighters & Sabers Side──────

 その光景の一部始終をセイバーは信じられない心境で見つめていた。
「マスターに黙って出てきて正解だったな」
 いつもの動物的な直感で何となく一人で来た方が良いような気がしたため、
 マスターに黙ってここまで出向いたセイバーだったがどうやらそれは正解だったらしい。
 もし彼女がここに居たら色々とややこしい事になっていたのは間違いなかっただろうから。

 戦いの残り香がする戦場に堂々と足を踏み入れる。

 ”なっ───!!?セイバーだと!!?”
 重傷のファイターを回収しようとしていた遠坂が愕然とする。
 この最悪のタイミングで最強の敵が現れてしまった。
 セイバーが相手ではとてもじゃないが逃げ切れまい。
 かと言って激しく損耗している今のファイターでも勝ち目が無いのは目に見えて明らかだった。

「……せ、セイバー…?」
 血塗れて地面に伏せていたファイターとセイバーの瞳が合う。
「………く、少し待ってくれ。今、立つ」
 そう言ってまともに動かない体を起こし、なおも萎えない闘志で闘おうとするファイター。
「無理に動くなファイター。オレはお前の首を横取りする、なんて騎士の礼に反する真似をするつもりは無い」
 だがそんな闘士に騎士は戦闘放棄を申し出た。
 それどころか───、
「おい!ファイターのマスター!出て来い!アンタを家まで送ってやる」
 ───なんてことまで言い出す始末だ。
「……どういう、つもりだセイバー?」
「そのまんまの意味だ。今だと弱ってるところを他の連中に襲われないとも限らないだろう?
 それじゃオレが困るんだ。お前を仕留めて勝ち残るのはオレなんだから」
「フッ…なるほど。貴殿らしいな」
「そうか?まあいいか。オラぁぁ!!他の連中もいるんだろうがぁあ!出て来ーい!!」

 辺り一帯に響き渡る大声。
 まもなくして一人の侍が戦場に姿を現した。

「意外過ぎる展開になったな。まさかファイターが負けるとは思っていなかったでござる」
「ラン、サーか」
「すまぬなファイター。バーサーカー戦では拙者も助太刀してやりたかったがそういう訳にもいかぬ緊急事態でな」
 ランサーは倒れたファイターに謝罪の言葉を述べる。
「いや構わん…謝罪される謂れが無い。むしろ私がマスターに謝罪せねばならんくらいだ……フゥゥゥ」
 大きく息を吐くファイターに続いてセイバーが口を開いた。
「へえお前がランサーか。ところでランサーお前、ファイターを討つ気だったりするか?」
 セイバーはジッと真正面からランサーの眼を見据える。
「御主がセイバーでござるか。成る程なファイターに負けず劣らずの猛者とみえる」
「ふふん。でもオレの方がファイターよりも強いけどなっ!で?どうするんだ?」
「拙者にもファイターと戦う気は無いでござる。今戦う理由も無い。そもそも手柄の横取りは好かぬな」
「お、同意見~♪」
 ランサーの言葉に嬉しそうな声を上げるセイバー。
 そんな様子の騎士を見ながら侍は張っていた気を萎める。
「セイバーがファイターを討つ気が無いと判れば拙者もこれ以上の長居は無用。では、ご両人さらば、次の戦場で逢おうぞ」
 それから二人に挨拶を済ませるとランサーはすぐに霊体になってどこかへ消えてしまった。

 そうか、どうやらランサーはオレの出方を見張っていたらしい。
 もしここでファイターの首を取ろうとする輩が居た時は横から妨害する気だったのだろう。

 ランサーが去った後、セイバーはじれったそうにファイターに話し掛けた。
「でよファイター?さっさとマスターを呼び出してくれないか?」
「いやそれには及ばない。大丈夫だ、私も今日脱落する気は無いからな。それに流石のマスターも貴殿と一緒では落ち着くまい?」
 ようやく倒れた体を起こしたファイターが言葉を返した。
「ん~まあそれもそうか。ならオレも今日は帰るが、間違っても───誰かに討ち取られるなよ?」
 そう言ってセイバーは爽快なまでの覇気をファイターに向けると自分も霊体化してこの場から離れていった。
「フッ、セイバーの奴……いまのは激励、のつもり……かな?…………痛っ!」

 バーサーカーの魔剣で斬られた傷がどうも普通じゃない痛みを発している。
 とにかく一旦帰還して回復に努めなければ。
 セイバーが去った後、ファイターも霊体化する。
 他のマスターの監視や追跡を避ける為にもどこか適当な場所でマスターと合流しよう。

 肉体の損耗具合が激しいがその気になればもう一戦くらいなら何とか大丈夫な筈だ。
 否、そうでなくてはいけない。
 でないと何のためにセイバーとランサーが退いてくれたのか判らなくなってしまう。

 もし敵が襲撃してくるなら好きにすればいい。
 その時こそ力の温存も何もなくベーオウルフ死に物狂いの反撃を見せてやろう。


 ───今日の私は誰にも討ち取られる気は無い。
 それでいいのだろうセイバー、ランサーよ?






──────Archers Side──────

 その戦場より800mほど離れた地点。
 弓兵の鷹の目のような視力が死闘の一部始終を余す事無く見つめていた。

「おいおいおいおい。なんじゃいあのバーサーカーは……」
 ありえん。ちょっと有り得んぞあの強さは。
 おまけになんか喋ってた気がしないでもない。うむやっぱりありえんわい。
「いやいやいやいや」
 事態のありえなさから思わずもう一回同じような言葉を口にしていた。

 あのバーサーカーはもう一体の方のサーヴァントを一方的にボコボコにしてしまった。
 しかもそのボコボコにされた方は間違いなく実力のある英雄だと言うのに、だ。

「どう考えても決め手はあの宝具だわなぁ………。まさかバーサーカーが一番要注意クラスになるとはのう」
 参ったとばかりにボリボリと頭を掻く。
「ファイターに追い討ちを掛けたいところだがセイバーとランサーやその他の連中がどう出るかわからんしな」
 もしも追撃をしたとして、それが手負いのファイターをおとりにしたセイバーとランサーの挟撃作戦だった場合が最悪だ。
「今回は見送るのが無難か。他にも監視してるやつはおるだろうし、ワシが手を出さずとも他の連中が手を出すじゃろ」

 それで結論付けると自身も間桐邸に帰還しなければならない。
 バーサーカーの戦闘を観た連中の胸中は恐らく同じだろう。
 あれをどうするか?
 同盟なり作戦なりの対策が必要だ。


 とりあえずマスターの馬鹿にバーサーカーの脅威を教えてやらんとなぁ。
 いろいろと喧しそうで激しく気は進まんが………。







──────Casters Side──────

「ボクの占星術通りの結果が出ましたか……。
 占いの結果が出た時は流石にまさかとは思いましたが本当にバーサーカーの圧勝でしたね。マスター観ましたか?」
 水晶玉を覗き込みながらキャスターは溜息をついた。
 同様に水晶玉を覗き込んでいたソフィアリも深い溜息をつく。
「………観てたさ。しかしなんなんだ奴は……?」
 眉をひそめながらソフィアリは当然の疑問を口にする。
「これはすぐに調査する必要性がありますね。あのバーサーカーと宝具の正体を出来るだけ早く知らないと命取りになりそうです。
 いくつかあのタイプの魔剣に心当りはありますが現在の情報量ではまだ特定するまでにはいきません」
「出来るか?」
「やってみます。それから他のマスターと協力して対狂戦士網を張りましょう。あのバーサーカーは危険過ぎる。
 相手をしたサーヴァント、恐らくファイターか何かのエクストラクラスでしょうが、その彼がああも一方的に負けるとは思ってもいませんでした」
「それは同感だが……他のマスターと協力して対狂戦士網を張るだと?」
 ソフィアリは訝しげな表情でキャスターを見つめた。
「はい。……まさかとは思いますが、マスターは個々であのバーサーカーと戦う気ですか?」
「冗談じゃない。あんなもん他のサーヴァントに戦わせれば良い」
 実にくだらないとばかりにソフィアリは吐き捨てる。
「ええ、ですから他の方の力を少々利用しかと思いまして───」

 キャスターはマスターの顔を見つめながらニッコリと微笑みを浮かべた。


 我らは魔術師、策を弄し、智謀知略で戦うもの也────。







──────Berserkers Side──────

 戦場から百m程度離れた辺りで雨生の平気な振りは限界だった。
 あの場所で自分のこの状態を見せるのは拙いと判断し、しっかりとした足取りで退場した甲斐もあってか遠坂は追って来ない。
 まあもっともあれだけの力の差を見せ付けられたら追うに追えまいが。

 体を引きずるように歩く。
「ごぼっ!!ああ、ばぁはぁが、あ、うあ。はぁはぁはあ!」
 だが誤算はこちらもあった。
 まさかコレほどまでに早く魔力貯蔵が潰されるとは計算外だった。
 通常の戦闘でも魔力はあの異常な減り具合だったが、宝具を使用した時の魔力消費速度は尋常ではなかった。
 本当にあっという間だった。
 そのせいで本当に後一歩と言う所まで遠坂たちを追い詰めたにも関わらず倒しきれなかった。
 遠坂め、どうやら悪運だけは強いらしいな。
「はぁはあぁ、だが、まあ……これで俺の最強は証明、されたも同然ごほっごほっ!!」
 先程の戦闘を思い返す。
 それにしても、自分のバーサーカーは強かった。
 なにせあの『闘王』ベーオウルフを打倒したのだ。
 怪物殺しで有名な大英雄、しかも”王の格”を持つ相手すらも倒せると判った以上もはや敵などいない。
 バーサーカーがいきなり喋りだした時は心底驚いたがまさか敵の正体まで看破するとは嬉しい誤算にも程がある。
 喋る、強い、くーる。俺のサーヴァントは最高にくーるだぜ!

「く、くく、ふ、あはは、ごほっ!はははは!」
 雨生は気分がハイになってきた。
 何度も先の戦闘を思い出しては笑みを浮かべる。
 あのファイター相手に圧倒的なまでの完全勝利だった。
 魔力消費量は尋常ではないがバーサーカーの魔剣は最強無敵だ。
 これなら最後まで勝ち残れる。聖杯が手に入るんだ。
「はぁはぁはぁ。新しい獲物。探さなきゃな。
 魔力収集効率上げる礼装はちゃんと持ってきてるからとりあえず、二三人獲物を探して回復しなきゃな」

 とりあえず新しい贄を探す必要がある。
 まず著しく消費した魔力の回復に努めよう。

 さあさあ羊さん、今からこわ~い狼さんがお家にお邪魔しますよ?







──────Lancers Side──────

 ファイターたちと別れた後、ランサーは全速力で主の下へ戻った。
 そうして、約束通り物陰に身を潜めていた綾香にそっと声を掛ける。
「主殿。ランサーただいま帰還した」
「ランサー?いま戻ったの?」
 そう言ってガサガサと茂みの中から綾香が姿を現した。
 真面目に回復に努めていた結果なのか綾香の顔色は先と比べると多少は落ち着いていた。
「ふむ、約束通りジッとしててくれたのでござるか」
「当たり前じゃない、約束なんだから。そういうランサーこそ戦闘はしてないわね?」
 顔を見合わせると同時に二人して似たような事を笑みを浮かべて言い合う。
「無論。助太刀してやりたい状態ではあったがちゃんと主殿の命を厳命したでござる」

 綾香は助太刀という単語に目を細めると真剣な声で状況を問うた。
「そう、でどうだったの?」
「ファイターがバーサーカーに敗れた。それもほぼ一方的に」
「うそ!!?あのファイターが!?……本当に!!?」
 綾香はまさかのファイターの敗北を聞かされて目を見開く。
「真でござる。最初はファイターが優勢で戦いを進めていたが暫らくしてから、
 バーサーカーがあの剣───恐らく宝具だと思うがアレを抜いた途端に一気に形勢が逆転した。
 それまではまあ互角と言ってもよかった戦いが一方的な展開に変わり最後はファイターが倒れた。
 もしバーサーカーのマスターが令呪を使用して戦闘を強制的に終了させていなければそのまま殺されていたでござろうな。
 一応ファイターは死んではいないがかなりの損害を受けたのは間違いない」
「バーサーカーのマスターは令呪を使って止めたのね。宝具とサーヴァントに送る魔力が足りなかったんだきっと」
「恐らくそうでござろうな。狂戦士クラスだけでも大変なのに宝具の魔剣まで使ったのだから」
「で、その魔剣の正体は……なんだったの?」
「拙者では詳しくは判らぬが恐らく魔剣と呼ばれる類の刀剣でござろうな。否、呪剣と言った方が良いかもしれぬ」
 その後、ランサーはそれほどに圧倒的な魔力と威圧感を纏っていた。と付け足して言葉を締めた。
「ファイターが一方的にやられたとなると───」
「アレを使われた場合、拙者では勝てぬでござるな」
「………ちょっとぉ普通そこは任せろ!とか男らしく強がる場面じゃないの!?」
「いやぁ無理なものは無理でござるよ~かっかっか。
 おっと、いやいや待たれよ主殿。そんな怖い顔をしては折角の愛らしい顔が台無しでござるぞ?」
「うるさいわね!元々わたしなんて大して愛らしくないわよ!喧嘩売ってんのアンタ!」
 そう言って綾香はくわーっ!と威嚇する猫みたいな顔をした。
「いや正直な話、拙者の直感が無理だと騒いでおるのだ。多分……頑張れば勝てる、と言うタイプの相手ではない」
 ランサーは突然真面目な顔をして自分が受けた印象をそのまま口にする。
「その直感、ちょっとその魔剣の正体を暴くヒントになりそうね」
「まあとりあえず今は帰還しよう主殿。本当は疲れているでござろう?
 ──本日は真に申し訳なく、主殿には謝罪をしなければ」
 ランサーは臣下の礼をとって深く深く頭を下げる。

 この忠臣からしたら今日のは大失態以外のなにものでもないのだろう。
 例えどんなに主人側が悪くてもフォロー出来なかった家臣側の失態になる、そういう理屈なのだ。
 だから綾香は何も言わずにランサーの謝罪を受けた。


 心の中でごめんねランサー。と頭を下げながら。


 





──────V&F Side──────

助けろ!ウェイバー教授!!第六回

F「嘘だっっっっっ!!!!!!!(AAry」
V「残念だがどう見ても本当だ。なに聖杯戦争ではこんな事態なんて良くある事さ」
F「うわぁぁああん!俺のベーオウルフさんがぁぁああ!!」
G「ハッハー!文章力に対して自信なんぞ無いんじゃ!あの手この手の展開で頑張って盛り上げるしか無いのじゃー」
V「爺さんまだ居たのか……しかも本当のことをさり気なく言ってくれて……」
G「このコーナー正規の初仕事じゃしのぅ。なあファイター?」
闘「………しょぼーん」
F「ああ!あのベーオウルフさんが膝を抱えて寂しそうにしてる!!?」
V「しかし膝を抱えて座っててもまるで岩みたいな大きさだな……座ってるくせに私と変わらんとはどういうことだ……!」
闘「なぜ私はここにいるのだろうか……?ああ、そうか夢か。遠坂殿のお茶が飲みたい……」
F「ああ!あのベーオウルフさんが混乱しているっ!?」
V「なぜここに居るのか?そりゃお前は敗者第一号だからな」
闘「え!?次回死亡宣言!?しかも予告死亡宣言か!?それは些か新し過ぎないか!?
  フラグって臭わすものやお約束であって次回、お前死にます。と宣言するようなものではないだろう!?」
F「おおっとベーオウルフさんが珍しく取り乱しているぞぅ!!」
V「いや、お前は今回で死んでいただろう。もし選択肢式だったらファイター君は、脱落者第一号だった、のだぞ?」
闘「う……それはまあ、確かに……くっ、すまない遠坂殿……私は…………私はっっ!!」
F「うわぁぁぁああ!!待った待ってください!自害しようとしないでください!」
闘「離してくれ少年!私は!私はせめて自害して責任を取らないと遠坂殿に顔向けできん!」
F「まだどうなるかわかんないじゃないですかぁぁぁあ!」
V「そうだぞファイター落ち着け。まだ結果は出ていないだろう」
闘「マスターV……そうだな、すまない落ち着───」
V「次回の冒頭で死ぬかもしれんだろう?」
闘「おおお遠坂殿ーーー!!!不甲斐無い私を赦してくれーー!!」
F「先生なんてことするんですかっ!!」
V「他人の心を蹂躙しているだけさっ」
F「爽やかにえげつない事言わないでください!チンギス・ハンですか貴方は」
蹂躙王「む?呼んだか?」
F「忙しいんで帰ってください!あ、でもサインは置いて行ってくださいね?」
蹂躙王「爽やか蹂躙☆フローラルれ・い・ぷ♪byチンギス・ハンっと(カキカキ)
    それと絵師殿には褒美を取らせよう好きな女を持って行くが良い。ではさらばだ」
F「ヤター!これで征服王と蹂躙王のサインゲットです!俺のヒーローズサインコレクションが増えました」

闘「───で、私はどうすればよかったのだろうか?良ければ助言なぞを頂ければ私も嬉しいのだが」
V「反省する気持ちは立派だが、まああの状況では仕方が無い結果だったと思うぞ?あまりに運気が無さ過ぎた」
F「いきなり槍、狂と相手の手の内が判らない敵に怒涛の宝具&スキルコンボを喰らって訳も分からずにやられましたからね……」
V「宝具の使用が限定されていた状態では手の打ち様が無かったからな。
  おまけに宝具で反撃する余裕すらなかったのも痛い。
  戦闘続行スキルのおかげでまだ死んでないだけでも幸運と思うべきだ」
闘「…そうか……そうだな」
V「今回はマスター側の遠坂とサーヴァント側のファイター両方の責任だな。二人とも格下だと油断するからそうなる」
F「最強無敵のギルガメッシュさんを見るべきですよねぇ」
闘「うむ。深く反省しもし次に続くのならもうこんなことにならない様に努力しよう。助言、感謝する。では私は戻ろう」
F「謙虚だ、真面目だ、律儀だ、丁寧だ、いい人だ……ホロリ」
V「まったくだ。某英雄王や某征服王や某ファラオにも見習わせたい謙虚な姿勢だぞ」


~ヘイドレクについて~

V「さて、なにか弁解があるなら聞いてやらんでもないから言ってみろ」
F「ワシは間違ったことはしちょらんわっ小僧!……いえ嘘です!すいませんごめんなさい」
V「まあとりあえず説明くらいはしておけ」
F「あれはですね~話を作ってる最中にふと思った事なんですが……。
  ヘイドレクの問答に無理して付き合う必要性って無くね?って疑問にぶつかりまして」
V「…………まあ、そうだよな」
F「……ですよね~?普通相手の問答に答える必要って無い訳ですし、戦闘中にいきなり謎掛けやる方も変だし、でも強制力は特に無いしで」
V「で、ああいう強制参加型に仕立て上げたと?」
F「だって折角皆で作ったスキルなのに使えない、使わないなんてのは勿体無いでしょう?
  スキルを出来るだけ作中で使うのが目標でもありますし、まあそういう理由からです。
  まあ一応判ってるんですよ?あれは流石に自分でもどうかなっと。でも代案も特に思い浮かばなかったテヘッ☆」
V「殴りたいほどにいい笑顔だなフラット(タバコジュゥゥゥゥ!」
F「額が焼け焦げる程の愛の鞭。ありがとうございます先生」
V「ASのヘイドレクの無謬の英知は相手との問答で相手の問題内容や解答や反応を参考に脳内データベースから正体を特定する、
  という方法を取っている。ま医者の問診や心理学みたいな感じのやり方だな」
F「そんな感じですハイ」
V「では次回!どうなる次回!」
F「ファイターさんが次回冒頭でイキナリ死にませんようにっ!死にませんようにっ!!」