未遠川にかかる冬木大橋を、深山町から新都へと猛スピードで移動する物体がいた。
物体の正体である爆音を放つバイクが一直線に向かう先は教会。
スピードを緩めることなく坂道を駆け上がった勢いによって大ジャンプしたバイクは、乗り手の見事なドライビングテクニックで扉の前に停車した。
身体のラインがはっきりとわかるライダースーツに身を包んでいるおかげで、乗り手がセクシーなナイスボディの持ち主である女だというのは一目瞭然である。
彼女はさっきまで乗っていたバイクを固定させると被っているフルフェイスに手を伸ばす。
フルフェイスの下から現れたのは、妖艶な美貌を兼ね備えたシルバーストレートロングヘアーの美少女だった。
次に胸の半ばまでライダースーツのファスナーを下ろし、爆乳レベルの乳房を外気に晒した後、彼女は教会へと続く扉に向け歩き出した。
そして扉を開け静寂の支配する内部へと入っていったのだが、聖杯戦争が終わった今、この教会の本来の主はもういない。
代わりに新たな主となったのは、外人のシスターだった。
手品で近所の子供達を喜ばせるのが趣味なのもあってか、前任者と比べても評判は上々のようだ。
そんなシスターのいる教会にこの女ライダーが来たのはある意味必然だったのかもしれない。



「わざわざ来てくださりありがとうございます。ミス、マザー・ハーロット」

シスターはそう言うと両手を広げて入ってきた相手を出迎えた。

「今更かしこまって何のつもり?アヴァンジャー。いえ、アンチキリスト」

一方そんなシスターの態度に、銀髪のライダースーツの彼女、聖杯戦争中はライダーのサーヴァントと呼ばれていたマザー・ハーロットは違和感を感じていた。

「その前に本来の姿に戻りませんか?そのほうが話しやすいでしょうし」

瞬間、アンチキリストと呼ばれたシスターの姿が変わった。
その手に収まる茨杖が気になるが、基本的には山高帽子を被った神父服の姿をした男装の麗人にしか見えない。
顔全体に「この世すべての悪」の象徴である刺青が痛々しく刻まれている以外には。
顔以外に素肌が露わになっている手にも刺青がある事から、恐らく身体全体に刺青が刻まれているのだろう。

それに応じるかのように、ハーロットも反射的に姿を変えた。
着ていたライダースーツは跡形もなく消え去り、彫刻家でも再現不可能な美しい裸体を黄金、宝石、真珠の装飾品と極薄の羽衣で飾りつける以外、隠す事無く全て露わにしている。
妖艶さを超えた凄艶さを備えた白皙の肌の肢体は青みがかった銀の長髪とよく似合う他、右手には金の杯を持っている。

「で、妾をここに呼んだ理由はなに?
 わざわざこの姿をさせるなんて、聖杯戦争が終わったのに戦うつもりなのかしら?」
「それは、気分的なものだと思ってください。
 こっちの姿で会話したほうが気も引き締まるでしょうし。
 私にとってはとても大事な話なので」

苦笑いしつつ敵意のないことをアピールしようとするアンチキリストであったが、ハーロットは一向に警戒を緩めようとはしなかった。
その証拠に手に持つ金の杯、溢れる邪淫からワインの鞭剣と無数のワインカッターを生み出し、周囲に浮かべたカッターはいつでも放てるようにしている。
恐らくアンチキリストの奇跡(偽)術によるトラップや攻撃を警戒しているのだろう。
無理もない、目の前にいるのは聖杯戦争に参戦し最後まで生き延びた実力を持つ敵なのだから。

「では本題に入らせていただきます。私はわからなくなってしまったのです」
「わからなくなった?」

先程とは打って変わった表情で、アンチキリストは語り始めた。

「本来世紀末に現れ、キリストの再臨に備えるのが私の使命だった。
 しかし、肝心の黙示録は訪れる事はなく、聖杯戦争でもキリストは現れなかった・・・・・・。
 そして聖杯戦争が終わっても私は無様にも生き続けている。
 この時点で本来なら私は死んでいなければならない筈なのに・・・。
 戦いの中で悪と認識され相手に殺されるならまだよかった。
 キリストの偽者、悪の象徴を演じ続け最後に善に殺される事こそ私の存在意義(レゾンデートル)だというのに・・・・・・。
 教えてください。
 こんな予言が成就しなかった世界で、私が存在し続ける事に意味はあるのですか?
 なぜ貴女は、そうも自由に生きられるのですか?
 私と同じように、悪の役目を与えられた筈なのに」

それは、これからどうすればいいのかわからないという事を表していた。
かつて彼女、アンチキリストは聖杯戦争時に、この聖杯戦争こそ黙示録における終末の時だと確信し、その予言成就に向けて暗躍していた。
彼女は自分が召喚されているなら、救世主キリストもサーヴァントとして召喚されている筈だと信じていた。
しかし、キリストは召喚されず、むしろその活発な行動は前アーチャー・英雄王と今次バーサーカー・カルキの逆鱗に触れる事となり、双方の圧倒的な力に蹂躙される結末に至った。
幸い奇跡(偽)とゲマトリアの能力によって逃げ延び現界し続ける事には成功したが、最早戦う力は残されてなどいなかった。
その後再起を図ろうとしたものの、そのあり方を興味深いと見なされた言峰によって捕獲された後、暫く経たないうちに聖杯戦争は終わった。
運良く聖杯戦争を生き延びられた彼女だったが、その後は抜け殻のようになってしまった。
無理もない、彼女にとっては悪の役目を果たすという使命こそ全てだったのだから。
ハーロットは呆気にとられていた。
聖杯戦争中あれだけ冬木の街を、他のマスターとサーヴァントを翻弄したアンチキリストが、これほど悲痛な表情をしているのだから。
てっきり騙しているのかと一瞬勘繰ったが、これは嘘ではないという何かが今のアンチキリストにあった。
ハーロットはワインの武装を溢れる邪淫内に戻して警戒を解除すると、ゆっくりと自分の考えを語り始めた。

「・・・・う~ん、言わせてもらうけど、それはキリスト教徒に限定されたものでしょ。
 黙示録自体、現実の歴史と照合しても矛盾する箇所が結構あるわ。
 今ではそもそも黙示録はキリストの再臨や世界の終末に関する書物ではないっていう説もあるのよ。
 当時キリスト教徒の迫害を強めていたローマ帝国に反発し、各地の信徒を励ます目的で書かれていたって考えも十分な根拠があるしね。
 それに妾の生きた時代は遥か昔の古代ローマ帝国時代。
 貴女はこの現代の時代の世紀末でいいのかしら?
 妾と貴女の生きた時代の差も無視できないわ。
 つまり妾が言いたいのは、予言が全てじゃないって事よ。

 妾が悪なのは価値観の違いも大きいんじゃないかしら?
 妾の生きていた頃の古代ローマ帝国は様々な宗教が共存する多神教国家で、それが帝国の繁栄にも繋がっていたの。
 でもキリスト教は当時は新興宗教で、一神教でしかも排他的思想だから、最初は受け入れられない存在だったわ。
 自分の神はいいけど他の神がダメなんて、多神教派の反感を買って弾圧されるには十分すぎるから。
 妾は当時の一般的な価値観だと神聖と見なされてた、神殿娼婦系の宗教を信仰していたんだけど、それもキリスト教の価値観から見れば、淫らで汚らわしくて、正に悪に見えたんでしょうね。

 なにより、予言なんてものは妾、大っ嫌いだもの。
 あんなの運命論と何もかわらない。
 だって何か起こった時、それが予言と似たものなら『全て予言通りだ』の一言で済ませられちゃうじゃない。
 未来なんてね、わからないから面白いのよ。
 妾は押し付けられたキリスト教の運命に従うなんてまっぴらごめんなの。
 そんな事するより美味しいものを食べたり、エッチな事をしたり、贅沢したりしたほうがよっぽど有意義だわ。
 まあ、これも反キリストと言えば反キリストね」

ハーロットの考えはアンチキリストにとって予想外のものだった。
同じ悪属性でありながらも自分の思うがままに動く混沌に属するハーロットと、定められたルールに従う秩序に属するアンチキリストの違いがはっきり出た瞬間だった。
もしアンチキリストがこの話を聖杯戦争で敗北する前に聞いても、恐らく歯牙にもかけなかっただろう。
だが敗北し、己の拠り所を見失った状態の彼女には、この話は大きな衝撃だった。
内心では困惑しつつも、アンチキリストはかろうじて言葉を搾り出す。

「私は・・・・そこまで貴女のように割り切って生きる事なんて、できません」
「確かに役目に従って生きるのは楽よ。
 でも、そこで考える事をやめてしまったらおしまいなんじゃないかしら。
 書いてある事が全て正しいわけじゃないのは最初に言った通りよ。
 あの戦争で出会ったアサシンの佐々木小次郎は実在も疑わしい架空の剣豪で、さらには佐々木小次郎本人じゃなくて、燕返しを使えるという理由で選ばれた剣士だったし、アーサー王だって伝承と違って可愛い女の子だったんだから。
 だから貴女も、黙示録の伝承とその役目に縛られるのは、これで終わりにしなさい」

そう言い終えるとハーロットはアンチキリストに背を向ける。

「妾の言いたい事は以上よ。
 じゃ、帰るわね。
 シロウの美味しいご飯が待ってるから」

その言葉を最後にハーロットの姿は宝石で装飾された裸体からライダースーツへと戻った。
そして、もう話すことはないと言わんばかりに教会の出口へと向かって歩いていった。
客人が去った後の礼拝堂に残るのは、シスターの姿に戻ったアンチキリスト。

「役目から解き放たれ、自由に生きる。か・・・・・・」

そう呟いて彼女は思考の海に入り込んだ。
バイクの駆動音が遠ざかっていくにつれ、教会は再び静寂に包まれる。
アンチキリストがハーロットの言葉を最終的にどう受け止めたのか、それは彼女のみが知ることである。



この話は黙示録関係でかっこいい聖杯戦争話を書きたいと思ったのがきっかけでした。
ですが黙示録自体調べれば調べるほど、現世の歴史と照合した際の矛盾が大きくなっていってしまい、そっちの方が気になった結果、こんな最初に考えたものとはまったく違う話になってしまいましたが。
カルキみたいに突き抜けた未来の英霊だったら気にする事はなかったのですがね。
まあ原作でもアーサー王が女なので黙示録も全てが真実じゃないって自分の中では割り切る事にしました。
アンチキリストに関しては、黙示録を読んでるうちに、やってる悪行は結局キリストの引き立て役で、悪く言えばかませ犬なイメージが自分の中だと強くなってしまいました。
救国の英雄であるジャンヌと方向性は違えど、結局アンキリも神に与えられた悪を演じるという使命に翻弄される人なので。
wikiに保管されてる話に出てくるソロモンやザッハークくらい神に対して強烈な憎しみを持っていたり、あるいはラーヴァナのように好敵手と戦った果てに殺される事を望んでいるとからなら、また別だったのですが。
ヤハウェのマッチポンプ(自作自演)のために言われた通りに格好の敵役を演じる傀儡にしか見えなくてしまい・・・・。
当初はラスボスポジションにしようかと考えてましたが、持ってる宝具がソロモンのレメゲトンで使えるやつの強化バージョンにしかならなくて一気に中ボスな感じに、すいません。
基本姿に関しては絵職人さんが投下してくれたあの男装麗人まんまです。
そんな彼女ですがこの話における聖杯戦争だと序盤はかなり活躍しました。
固有スキルフル活用して、どこかのカルト教団の教祖みたいな地位に収まり、信者から魔力を搾り取ったり、洗脳して尖兵にしたりしてましたが、言峰とギルに気付かれギルガメッシュとカルキを相手に戦う事に。
どちらも最高の神性適正を持っているので切り札の宝具も効果激減、二人の性格から見て人質も無意味でした。
ボロ負けで瀕死の状態のところを言峰に見つかり抵抗しようとしましたが、原作でハサンと戦った言峰に近接ステオールEでは勝てず、心の傷を切開されるはめに。
アンチキリストは強固な信念を持っていますが、それ故に一度挫折すると弱くなってしまうタイプにしてみました。
その存在のあり方は例えるなら与えられた指名に準じる生真面目な性格のアンリみたいな感じですかね。
黙示録が否定された世界をアンチキリストがどう感じるのかを書きたかったのもあります。
ハーロットに関してはエロだけじゃないハーロットを書きたいと思ってこうなりました。
愚痴スレで出てきたダークとかは、どう書いても劣化バートリーにしかならないので断念しました・・・・。
というかエログロとかダークは初心者の私では無理がありました。
売春婦達の母、大淫婦という名称のモデルの一つであろう売春巫女の中でも、ヘタイラは高度な知識、教養を持ち、政治にも大きな影響力を持つ者がいたと言います。
だから現代では蔑まれる対象の娼婦が、古代ではしばしば高い社会的地位を占め、彼女たちの持つ学識は尊敬を受けていたという側面、知的面を強調してみました。
ライダースーツ姿に関しては本スレで首なしライダーが製作されていたのを見て、本スレでハーロット製作時に彼女のライダースーツ姿なんてコメントがあったのを思い出したので。
そういうのもあってかライダースーツ繋がりで、私の脳内ハーロットはアトラスのデビルサマナーソウルハッカーズに登場するネミッサの外見を模倣しています。
基本的な姿は有志によるイメージイラストの影響もあり全裸ですが、この話は会話中心なので彼女が出演する他作品と比べてエロ度は低いです。
騎乗A+ランクのスキルを活かしてバイク乗りまくってたり、戦争中はソロモンに黙示録の獣を奪われたという裏設定もあります。
他にハーロットの存在のあり方に関しては原作の佐々木小次郎と似た存在であると個人的に思っています。
では最後にちょっとおまけ話をどうぞ。



ギャグ風アンチキリストVSギルガメッシュ&カルキ
アンキリ「お別れです!『天より下されし判決の炎(ソドム・ゴモラ)』」
ギルガメッシュ「甘いわ。エヌマ・エリシュで掻き消してくれる!」
アンキリ「な、なら動かないでください。彼の命がどうなってもいいのですか!?」
慎二「ぼ、僕はお前のマスターなんだぞ!その僕を盾にするなんて何考えてるんだ!?」
アンキリ「ゲマトリアで単独行動:A+のスキル持ちなので無問題です」
カルキ『問答無用!汚物は消毒だ!!』
アンキリ、慎二「ちょ待っ、ギャーーー」

一方その頃のマスター&サーヴァント達
エルキドゥ「ギル・・・・僕というものがありながらあんな奴とぉ~」
凛「いや、つっこむ所はそこじゃないから(ダメだこいつ、早くなんとかしないと)」

ハーロット「以上の点から、私の時代では最高級娼婦ヘタイラになるには高度な知識、教養が求められたのよ」
士郎「わかった、もう十二分にわかったから、長時間の講義マジ勘弁してください」

ソロモン「あれがEX宝具の威力か。こちらも万全の準備で挑まねば死ぬな」
原作でキャスター召喚した魔術師の代理としてアルバ「代理ってなんだよ畜生・・・・」
佐々木小次郎「原作の雌狐と比べてまともに戦わせてくれそうだからよしとするか」

イリヤ「セイバー、私達の影一番薄くない?」
アルトリア「そうですね・・・・」

サーヴァント一覧
セイバー:アルトリア
ランサー:エルキドゥ
ライダー:マザー・ハーロット
アサシン:佐々木小次郎(マスターはソロモン)
バーサーカー:カルキ
キャスター:ソロモン
アヴェンジャー:アンチキリスト
前回勝利者:ギルガメッシュ