―――最後に、誰も居なくなった山門に一人残った老翁の前に、その男が現れる。
「―――ほう、誰かと思えば前回のキャスターだった爺か。まさか今回もまた召喚されるとはな。これも奇縁というやつか」
「………成程。どうも一連の流れに奇妙な作意を感じていたが、まさか御主が裏で踊っていたとはの、ランサー」


深夜の冬木教会。そこに、待ち構えていたかのように北欧の大英雄とかつて衛宮士郎が親友だと思っていた少年が立ちはだかっていた。
「よう、衛宮。まさか生きているどころか仲間を引き連れてやってくるなんてな」
「慎二……!」
「ああ、アーチャーだったら教会の地下に居るぜ。―――まぁ、オマエが来るまで退屈だったからちょっと楽しませてもらったけどな」
「慎二―――――!!」
「ハハハ! 怒ったか衛宮! いいさ、所詮僕もオマエもマスターなんだ。互いに殺しあうのが自然だろ! 行け、セイバー!」

戦いの火ぶたは斬って落とされた。
攻め入るはバーサーカーとキャスターの連合軍。迎え撃つは最強のセイバーただ一騎。

「ひ、ひいっ! せ、セイバー! ここは任せたからな!!」
「―――――慎二!? 待てっ!」
「衛宮、行くといい。お前の目的を果たして来い」
「シロウ、行って。今の貴方はここに居てもただの足手纏いだもの」
「――――ありがとう、イリヤ、葛木先生」
仲間達に叱咤され、逃げ出した間桐慎二を追って衛宮士郎は一人教会の奥へと踏み込んで行く。

「ここが最後の大舞台よ! バーサーカー、存分に狂いなさい!」
「キャスター、君の身は私が守る。己のことは気にせず、攻撃に集中しなさい」
「―――ハイ、葛木さん! 行って! 神獣鏡!!」
「――――面白い! 最早こうなっては最高の戦など望めぬと思っていたが、まさかここまで俺の血を滾らせてくれるとは! 感謝するぞ、バーサーカー! キャスター!」


教会の地下聖堂。突入した衛宮士郎を待ち受けていたのは、慇懃な神父と変わり果てた親友の姿。
「――――言峰! 慎二に一体何を―――!?」
「ああ、彼は戦う力を求めていたからね。与えたのさ。十年前の聖杯戦争にバーサーカーとして召喚されたとある英雄の、忘れ形見を」
「――――エ、ミヤァ…! ボクハ、ボクハァァァァァッ!!!」
「くっ! 言峰ぇぇぇッ!!!」

死闘の果て、遂に崩れ落ちたのはバーサーカー。キャスターもまた力を使い果たしていた。だが、セイバーも既に限界にまで追い込まれていた。
そこに新たに訪れたのは、赤い少女とその従者。
「漁夫の利という訳では無いがな、最初の戦いの決着、ここで着けさせてもらおうか」
「ふん、吼えるなよランサー。お前如き、両手が死んでいても簡単に打倒出来る―――!」
「………承知した。ならば、全力で行かせてもらう!!」
「応! 来るがいい、ランサー!!!」
決着は一瞬。如何に最強のセイバーといえども、瀕死の状態で万全のランサーに敵う筈は無かった。
「感謝する、ランサー。俺に死に場所を与えてくれて―――」
「礼は要らん、セイバー。所詮俺は死にかけの者を殺した外道。賞賛ならば先に逝ったバーサーカーの武勇にこそ与えるべきだ」
「―――そうか。そうだな、すまない、ランサー」
そう言い残し、セイバーは静かに聖杯戦争から消え去った。
「ランサー、貴方」
「何も言うなマスター。事実、彼が万全であれば死んでいたのは間違いなく俺だったのだ。俺とて勝ちを拾えるのであれば何でもする。それだけだ」
「……………そう、ごめん」
「―――――――――全く。今夜は謝られてばかりだな」


地下聖堂の死闘は辛うじて衛宮士郎の勝利に終わった。間桐慎二は力尽き、残るは言峰綺礼ただ一人。
「よくやった衛宮士郎。貴様は己の親友を殺してまで聖杯戦争の勝者になろうというのだな」
「―――違う、俺は、ただアーチャーを助けに来ただけだ」
「アーチャーを救うということは彼女と共に戦争を続けるということに他ならない。――つまり、自分達以外の全てを殺すということだ」
「違う!」
「違うものか。事実貴様は今親友をその手で殺した。この先どれだけ正義を掲げても、貴様が目的の為に間桐慎二を殺したという事実は残る!」
「―――――あ、ああ、ああああああああああああああッ!!!!!?????」
神父の悪意に衛宮士郎の正義は汚され、ここに理想は地に堕ちる。

「でも、それでも、私は道具を大切にしている時のエミヤくんの顔、好きだよ?」
不意に聞こえたのは救いたいと願っていた女性(ひと)の声。

「貴様、アーチャー、何故っ!?」
「あの程度の拘束、時間さえあれば何とかできるよ。――仮にも私だって、サーヴァントの一騎なんだから」
「くっ!?」
「そこまでよ、言峰。聖杯戦争の監督役としての役目を逸脱した行為の数々、私がこの目で確かに見たわ」
「遠坂、凛」
「………そうか、私もまた、切り捨てられたということか」
「――――なんですって?」
全ての決着かに見えた瞬間は、しかし神父の言葉によって覆される。

「―――前回のランサーに、聖杯の器の模造品―――!?」
「今頃はマキリの老怪共々柳洞寺の大聖杯で儀式の準備を進めているだろうな」
「でもまだサーヴァントは四騎も残って……!」
「山門のアサシンには勝算があると言っていた。それに―――つい今しがた間で間桐慎二が使っていた剣。アレもバーサーカーだったものだ」
「……………!!」
「これで五騎分。模造品から聖杯の力を一時的に流用するには十分だろう」
神父から明かされたのは驚愕の真実。物語は覆り、聖杯戦争は最終局面へと移行していく………。