決着はあまりにも呆気無いものだった。
「―――なるほどの。……山門の破壊が狙いだったとは、迂闊じゃった」
「ふん、油断したなキャスター、いや、アサシンよ。私の攻撃が貴様の防御を貫けないことなど前回の戦争で証明されていたろうに」
「………全くじゃ。やれやれ、ワシも耄碌したのぉ」
「早々に消えろアサシン。貴様のような爺、居るだけ無駄だ」

本拠地であった筈の場所から上がる火の手は冬木の教会からでも確認出来るものだった。
「前回のランサー………。まさかそんな奴が残っているとはな」
「そいつはそいつは良いとしても、聖杯の模造品ってなんのことなんだ?」
「聖杯というのは器であると同時に端末でもある存在。本体である大聖杯から奇跡を行使する魔力を受け取る中継器」
「そしてそれを制御するにはある程度の人としての意思が必要となる。だからアインツベルンの連中はその器を人のカタチに模した」
「今回の聖杯の器は私。でも、前回の器―――アイリスフィールの欠片を人の体内に埋め込めれば人工的な聖杯の役割は果たせるようになる」
「言峰の言葉が正しければそのランサーはマキリ、つまり間桐の爺さんと一緒に行動しているんだよな?」
「それはつまりマキリの手元に聖杯の模造品が存在するということ」
「―――――まさか」
「そう、聖杯の器というのは十中八九、マキリサクラよ」

明かされたのは衝撃の事実。そして抗い難い真実。
「そんな、桜が!?」
「受け入れなさい衛宮君。これから私達の前に立ちはだかるのは前回のランサーと間桐臓顕。そして――」
「嘘だ! 桜が敵である筈なんて――――!」
「ヒトのココロなんて幾らでも自由に操作できるわ」

「覚悟を決めなさい衛宮君」
「そんな、俺は、俺には―――」
「………私は、衛宮君がどんな選択をしたとしても最後まで一緒に行くよ」
「―――――アーチャー……」
揺れる衛宮士郎の心を支えたのは、共に戦い抜いてきた女性(ひと)の言葉。


銀の少女を残し、柳洞寺へと戻った彼らを待ち受けていたのは燃え盛る山門とその前に立ちはだかるマキリの老怪。そして百人のアサシン。
「ほう、来おったか此度の聖杯戦争の参加者どもよ」
「間桐、臓顕」
「聖杯が完全に起動するまで後幾ばくの時間が掛かる。その間、この道はワシとアサシンが塞がせてもらおう」
「―――――!? この人達がアサシン!? じゃあ、張さんは………」
「無論、このアサシンがアサシンとして成立する為の糧になって貰った」
「なんて出鱈目な数なのよ! 殆ど反則じゃない!!」
「――――来るぞ! 分断されないように密集して戦え!」

そして始まった凄絶なる死闘。極限まで消耗した英霊達はじわじわと追い詰められていく。
「………キャスター、道を作れ。俺があの老怪を仕留める」
「――-!? でも!」
「問題は無い。今宵最も消耗していないのは俺だ。先陣を切る役目は果たさせてもらう」

かつて祖国を護れなかった槍兵が駆ける。新たに得た、赤きマスターを護る為、そして彼女が護らんとするモノを護る為―――
「愚かな! やれ、アサシンどもよ!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――――――!!」
「ぬうっ、止まらんだと!? 貴様それだけの攻撃を浴びながら何故―――!?」
「貴様には判るまい、これが―――――護るものを持つ者の力だ!!!」

「蒼天貫く(フォー)――――」
「ぬ、うぉぉぉぉぉぉぉッ!?」
「―――――――――護国の彗星(トロイ)ッ!!!」
かつてたった独りで護り続けた槍兵の、魂の一投が老怪を消し飛ばし、数多のアサシンは怨嗟の声を残し消え失せる。

「ランサー、貴方……」
「マスター、そんな顔をするな。所詮俺は死者。死者が死に還る事の何処に異常がある?」
「――――ランサー」
「小僧、お前が未だ正義を貫くのか、皆を護るつもりなのかは知らんが、後悔の無い決断をしろ」
「――――ランサーッ」
「………俺は、最後に己の決断が間違っていなかったと、胸を張って逝ける………」
最後の最後、無愛想だった槍兵は満たされたような微笑を浮かべ静かに消え去った。


「キャスターと葛木先生はここに残ってください。この先は、私達だけで行きます」
「――な、遠坂、お前も」
「私は冬木の管理者よ。この街を護る義務があるわ」
「駄目だよ、エミヤくん。彼女はもう決意した女の目をしているもの」
「――――む」
「さ、行くわよ衛宮君!」
「さあ、行こうエミヤくん」
最後の決戦、衛宮士郎は二人の女性(ひと)と共に柳洞寺の奥、大聖杯への洞窟へと踏み込んだ。

地獄と化した大聖杯の間。その中央にそびえるモノは、地獄の体現と呼ぶに相応しいおぞましきモノ。
「なに、これは」
「なるほど、マキリの爺は死んだか。まぁ、時間稼ぎとしては十分に役立ったな」
「貴様が、ランサーか!」
「如何にも。そしてこれが君達の望む聖杯だ」
「―――これが、こんなものが!?」
「そう、この世の全ての悪。それこそが大聖杯の正体。二世代前のアインツベルンの愚か者共が犯した失態の象徴だ」

明かされるのは大聖杯の真実。おぞましきモノの正体。
「―――じゃあ、桜は」
「当然、この大聖杯の間の中央で聖杯の中身を産み落とそうとしているところだ」
「………そんなモノが産まれたら、全てが滅ぶのよランサー。それでも貴方は」
「私はね、こんな世界滅んでしまえば良いと思っているのだよ」
「――――な」
「決して私の思い通りに行かぬ世界! こんな世界が存在していることそれ自体が罪なのだ! 滅びろ! 滅びろ! 滅びてしまえッ!」
「…………………狂っているわ」

始まった最後の決戦。聖杯の中身であるおぞましき泥を操るランサーに、次第に追い詰められていく三人。
「―――私が突破口を開くよ」
「………!? アーチャー!? けど、それは!」
「うん、今の身体でそんなことをしたらきっと私は自らを保てなくなってしまうだろうね。でも、それでも」

アーチャーの呼び声に応え降臨した大いなる巨神が自らを汚されながらランサーの操る泥を尽く焼き払っていく。
「チィィィッ! これは、厄介な!」
「ランサァァァァァァァァッ!!」
「舐めるな! 私とてサーヴァント! 貴様如きムシケラに後れを取ることなど―――!」

駆け抜けていった己が主の後姿を見送りながら、泥に飲まれ行く巨神の上で、弓兵の女は優しく笑う。
「………私の役目はこれで終わりかな?」
『―――――』
「ごめんね、タロス。キミをこんなに傷つけちゃって」
『―――――』
「もう行こっか、タロス」
『――――――――――――!』
「―――え?」


自らの持てる力全てを用い、迎え撃つランサー。しかし突撃する衛宮士郎のその手に投影したモノは―――
「――――!? それは、囁く凶刃(ティルフィング)!? 馬鹿な貴様死ぬ気か!?」
「ガアアアアアアアアアアア!!!!!!」
「おのれぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

「私を忘れていたわね、ランサー!」
「ぐぅっ!? この威力、なんという魔術!!」
「オオオオオオオオオオッッッ!!!!!」
「し、しまっ」
決着は容易く、振るわれた凶刃は狂気に駆られたランサーの首を容易に刈り取っていった。

役目を終え砕け散る凶刃。そして崩れ落ちる衛宮士郎。
「衛宮君!」
「ま、だだ、遠、坂。桜を連れて、逃げてくれ」
「――――!」
「コイツは、この大聖杯は壊さなきゃならないモノだ。その役目は、俺が果たす」
「………………………………判ったわ。さようなら、衛宮君」
「ああ。またな、遠坂」

残された全ての力を振り絞り、衛宮士郎が投影したものは己の従者が操っていた巨神の腕。
「―――俺の力じゃ、これが限界か………」
「………大丈夫、私が最後まで一緒に居るから、ね?」
「―――――アーチャー」
「ううん、今は、エウロペって呼んで欲しいかな。シロウくん」
「……………エウ、ロペ」
「さあ、終わらせよう、全てを」

そして、一筋の灼熱が全てを焼き払い――――