……戦況は混乱を極めていた。
バーサーカー、カルキを殲滅したラーヴァナは戦いを求め、ヴィマナを駆って冬木市へと侵攻しようと目論む。
これだけ派手なことをすれば、他の隠れているサーヴァントも牙を剥くに違いない。
その中に余を満足できるものがいればいいのだが。
そんな風に思っているラーヴァナの前に一人の騎士が立ち向かう。

「まてい!魔王よ!
貴様の狼藉、もはや許し難い!
邪悪の前に膝を屈するなかれ、正義を躊躇う事なかれ!
この騎士王であるライダー、ドン・キホーテが相手する!」

その強大なステータスに、放たれる凄まじい重圧感。これは並の英霊などでは断じてない。
だが、そんなものは些細なことでしかない。
その邪悪に立ち向かおうとする意思。
敢然と邪悪と闘わんとする正義たる気高き誇り。
そのライダーの威風堂々たる姿は魔王ラーヴァナですら畏怖させた。

「く、くくく……!
面白い、面白いぞ!この余を畏怖させるとは!
貴様こそ、余を満たせるかもしれぬな……。
だが、ここではあまりに舞台が整っておらぬ。
それではせっかくの楽しみが損なわれてしまうからな。
ここはいったん引こう。さらばだ!」


ライダー……ドンキホーテの活躍により、一度はラーヴァナは退けられたが、
ラーヴァナはライダー、ドンキホーテとランサー、ヴラド以外全てのサーヴァントを葬っていた。
そして、最後の第八番目のサーヴァント、英雄王ギルガメッシュがついに動き始めた。
古い英雄にとって天敵であるドンキホーテの欺瞞能力、『我、騎士道を邁進す(ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ)』
だが、その能力も、ギルガメッシュの宝具《偽り破る真実の鏡》とルールブレイカーによって打ち砕かれていた。

「吾輩は……吾輩はもうダメだ……。
騎士道など……騎士など……どこにも存在しない……存在しないのだ……。」

そう呟きながら地面に膝をつくライダー、ドン・キホーテ。
そこに存在しているのは、ラーヴァナにさえ畏怖された英雄狂ではなく、ただの夢破れた老人にすぎなかった。

「愚かな道化め。道化が騎士王を名乗るとはその罪、万死に値する。
大人しく―――!!?」

膝をついたライダーにむかって剣を振りおろそうとしたギルガメッシュに対して、魔力弾の砲撃が襲いかかる。
それは、巨大な空中戦艦、プシュパカ・ヴィマナから放たれる支援砲撃である。
ヴィマナの上で腕を組んで下を見下ろしているラーヴァナはライダーに向かって叫ぶ。

「どうした!立て!立つがいい!英雄狂よ!
屈するのか?貴様は屈するのか!?余を畏怖させた英雄が……たかが幻想が破れたぐらいで屈するのか!
ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャよ!―――真の騎士よ!」

ぴくり、とその言葉に膝をついていたライダーの肩がふるえる。

「ステータス?宝具?戦闘能力の高さ?
くだらぬ……全てくだらぬ!
最も大事なのは正義たらんと、騎士であろうとするその意思だ!
ふるえながらも邪悪に立ち向かおうとするその気高き誇りだ!
そう!魔王を滅ぼすのは、いつだって勇気あるものたちだ!!」


そうライダーに向かって叫んだラーヴァナは、ぴらりプシュパカ・とヴィマナから飛び降りると、
通常の人間なら瞬時に心臓が止まりそうなほどの邪眼めいた視線で英雄王を睨みつける。

「英雄王よ。真の騎士であるこやつを愚弄するとは……もはや許さぬ!」

英雄の頂点に立つ英雄王は神代の魔王に向かって怒気をむける。

「王を詐称する愚か者が我に意見をいうか。
たわけが。王を名乗るその不遜、己の死で購え。」

「よかろう、英雄王よ。相手になろう。
だが心せよ。魔王を倒せるのは勇気あるものたち……勇者だけだ!
王ではない!邪悪に立ち向かう気高き意思が無き高慢たる王に……余は殺せぬ!」

「黙れ!出し惜しみはなしだ……。食らうがいい!天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!」

かつて混沌から天地を切り離したその剣が発生する暴風は、擬似的な空間断層すら引き起こす。
その暴風による空間断層に耐えられる存在はない。
だが、とっさにラーヴァナの前にヴィマナが舞い降り、己の盾になる。
ヴィマナはその機体の三分の一を砕かれながらも、まだ機能は停止せず、その暴風を食い止める
全てを素粒子へと打ち砕く死の暴風はラーヴァナを粉微塵にし、
周囲の10mの地面すらも完全に抉りとり大きなクレーターを作り出す。

もはや、ラーヴァナのいた痕跡は、足首の一部分だけにすぎない。
ヴィマナの強靭な装甲はエヌマ・エリシュですら軽減したのだ。

『なるほど。乖離剣エアか。確かに凄まじい威力だ。素晴らしい威力だ。
さすがに天地を切り開き、混沌から秩序をもらたした剣だ。』

「―――!!?」

その空中から響き渡る声に、さすがの英雄王も狼狽する。
なぜなら……その声は今彼が打倒した敵そのものだったからだ。

『だが……その剣は神が振るった神剣!
そして、貴様はランクこそ下がっているが最大の神霊適性を持つ英霊!!
それでは余は殺せぬ……。殺せぬわ!王では余は殺せぬわ!!』

そう、ギルガメッシュが振るう乖離剣エアは、かつて知恵の神がウルリクンミの両足を切り落とした
天地を切り離した神剣である。

最高位の神エアが振るった神剣に、ランクこそBに下がっているものの、最大の神霊適正を持つ英雄王。
その攻撃は耐神性を持つラーヴァナに通用するか。
その答えは、今やほぼ完全に肉体を再生しつつあるラーヴァナ自身が答えそのものだ。

「英雄王よ。貴様の敗因はただ一つ。貴様は乖離剣に頼りすぎた。それだけの話だ。」

……もはや分かり切った結末を語ることはない。
光り輝く英雄王は、漆黒の魔王に飲み込まれるだけなのだから。

その間に脱出したライダーと士郎。
だが、もはやライダーには戦う力が残っていないことは、本人が一番知っていた。

「どうするんだ?
ライダー。もうアンタの宝具は使えない。なら……。」

「いいや、サンチョ、いや、少年よ。
それでも、吾輩は騎士なのだ。
騎士たるもの、強大な邪悪を見過ごすなかれ。虐げられるものを見過ごすなかれ。
……吾輩は偽物の、ただの道化だ。それでも、その誓いだけは、嘘でも偽物でもない。」

ああ。そうか。この人は狂ってなどいなかったのだ。
ただ、真実の誇り高き騎士であらんとしていただけなのだ。
……そんなものは、最早どこにもないというのに。
そして、いま再び風車に突撃したように、彼は風車よりはるかに巨大な敵に立ち向かおうとしている。

「ならば、私が貴様に力を貸そう。英雄狂よ。」

その瞬間、どこからともなく大量の蝙蝠が空中より飛来し、ざざざざと一か所に収束する。
そこに存在していたのは、蝙蝠の塊ではなく、一人の血塗られた杭を持つ長身の男だった。
ランサー、ヴラド・ツェペシュ
串刺し公として恐れられた彼がついに本格的に参戦したのだ。

「……串刺狂。何故、そなたは吾輩に力を貸すのだ?」

「理由だと?そんなものは一つだけだ。
奴は、ラーヴァナは悪だ。私は悪の存在を許すことはできぬ。断じてな。
あのような邪悪によって犠牲にされる市民を見捨てるわけにはいかぬ。」

そう、かつてヴラドは征服王メフメト2世の侵略に対して、
大軍に対して立ち向かった経歴のある英霊だ。
ならば、メフメト2世よりはるかに無慈悲で残忍な殺戮を行うであろう魔王ラーヴァナを放置できるはずもない。
その意思だけは、疑う余地はなかった。

そして、とうとうヴラドとラーヴァナの戦いが始まった。
英雄王の最後のハルペーによる攻撃によって彼の胸には大きく傷が走っているが、そんなことは問題で花い。
しかし、神代の魔王と恐れられた
ラーヴァナと、中世の英雄であるヴラドでは、神秘の蓄積が違いすぎる。
まともに戦っては勝ち目はない。
だが、彼の固有スキル:軍略D+は不利な情勢やゲリラ戦を行うときにも有利な補正を得られる。
何とか、敏捷で勝るヴラドは必死の回避により、筋力Aの膨大な破壊力を持つラーヴァナの攻撃を回避し、
手にした長槍のような血塗られた魔杭で剣や矛の一撃をそらしていく。
だが、ついに、ウラドの左腕の傷からまるでパイルパンガーにように突き出された血液で構成された魔杭がラーヴァナの腕を貫く

「喰らえ!『餓え渇く鮮血の粛杭(カズィクル・ベイ)』!!」

ヴラドの宝具、餓え渇く鮮血の粛杭
それは、この杭で傷つけられた者の血液を媒介とし、次なる杭を生成する。
魔杭によって傷つけられたラーヴァナの血液は鋭い無数の杭と化し、ラーヴァナを体内より爆裂させる。
体内から生えた杭によってハリネズミのようになった彼はそれでも動じない。

「なるほど。串刺狂よ。確かにそなたは吸血鬼の属性は持っているが、同時に人間としての属性も持っている。
それならば、余を多少なりと傷つける事もできよう。だが……。」

伝承上で語られる吸血鬼の能力を再現する能力があるとはいえ、
彼は本来何の因子も持たないただの人間であった。
それならば、ラーヴァナの宝具「羅刹王」は発動しない。
だが……。

「愚か者め。人である事を捨て去り、魔へと堕落した半端者が余に勝てるか!
貴様と余では、魔としての純度が違いすぎるわ!!」

だが、しょせんそれは再生速度が遅くなるというだけの話。
もはやヴラドは通常の人間ではなく、吸血鬼としての属性が付与されている。

それに後天的に吸血鬼としての属性を付与された中世の人間であり半魔と呼べるヴラドと、
神代の時代に魔王と恐れられたラーヴァナでは魔としての純度があまりに違いすぎる。
同じ属性ならば、より純度が高い方が勝利するのが絶対の法則。
ヴラドでは、ラーヴァナには決して敵うはずがない。
そして、ラーヴァナの無慈悲な一撃はヴラドの心臓を貫く。
だが、心臓を貫かれながら、彼は不敵な笑みを浮かべた。

「確かにな……。もはや人から外れた私の攻撃は貴様には通じない。だが……。」

「だが……貴様の行動を封じることはできる!」

その瞬間、ラーヴァナは気づいた。
彼の足元。そこには彼自身が流した血。
そして、ヴラドがこっそりと地面に流し続けた大量の血によって彼の地面は血の海になっていることを。

「吼えろ!『餓え渇く鮮血の粛杭(カズィクル・ベイ)』!!」


その瞬間、ラーヴァナの地面の血の海から大小無数の鋭い杭が飛び出て
彼の腕を、脚を、胴体を、顔をあらゆる場所を串刺しにする。
心臓を貫かれ、肉体を失いながらも、宝具を維持するため必死で肉体を維持しながらヴラドは叫ぶ。

「行け!ライダー!見せてみろ!貴様の誇りを私に見せてみろ!」

その瞬間、今まで隠れていたライダーがロシナンテに跨り、ランスを構えながら、
串刺しにされ、身動きの取れないラーヴァナに突撃する。

「騎士たるもの、悪を前に膝をつく事勿れ、正義を前に果たさざる事勿れ。
我こそは騎士ドンキホーテ! 騎士道を為す者!
魔王よ!吾輩の槍の前に倒れるがいい!!」

「第七のマスターが令呪の名の下に命ずる。
ライダー!奴の心臓を貫け―――!!」

瞬間、士郎の令呪の力により、ライダーはまさしく彗星となった。
ペルレフォーンとほぼ同じ速度でロシナンテは大地をかける。
そのランスを構えて突撃する姿に、杭に刺し貫かれて身動きが取れない魔王は再び恐怖を覚えた。

「プシュパカ・ヴィマナ支援砲撃要請!撃てぇ!!」

プシュパカ・ヴィマナから放たれる無数の魔力弾や魔力レーザー。
そして、ラーヴァナは力づくて腕の部分の杭だけ破壊し、弓を引き絞り撃ってくる強弓。

一本目の矢がライダーの兜を破壊し、もう一本が鎧を破壊し脇腹に深く突き刺さる。
魔力レーザーはライダーの左腕を切り落とし、魔力弾が右肩の鎧を破壊し、ロシナンテの脇腹を大きくえぐる。
それでもなお、ライダーには致命傷を与えられない。
ライダーの固有スキル:錆び付いた英雄譚(ラスト・ファンタズム)
それは、英霊が近代より古いものであればあるほど、アロンソ・キハーナに対する行動のファンブル率が上昇する。
さらに幸運:A+の力により、彼の攻撃は全て致命傷には至らない。

そして、ヴラドが完全に消え去る寸前、杭によって身動きの取れないラーヴァナの心臓をライダーのランスが貫く。
英雄王のハルペーによって胸に大きな傷を負っていたラーヴァナでは、その攻撃に耐えうるはずもない。
それを見て、ヴラドは満足そうに無言で消え去り、ラーヴァナも心臓を貫かれながら満足そうに高笑いする。

「く……くくはははは……ははははは!
貴様が、貴様こそが余の死か……。
最高だ、お主は最高だぞ、英雄狂。
そうだ。化け物を滅ぼせるのは人間だけだ。魔王を殺せるのは勇者だけだ」

ラーヴァナの宝具「羅刹王」は純然たる人間には通用しない。
そして、ドンキホーテは妄想に生きたただの人間でしかないのだ。
さらに、サーヴァントは心臓を破壊されれば消滅する。それは宝具の加護を失ったラーヴァナであろうと例外ではない。

「感謝する魔王よ。我が妄想物語に付き合ってくれて。」

「何を……いう……。そなたの信念は、妄想などでは……ない。
胸を張れ……。そなたこそが、魔王を倒した騎士なのだから……。」

「礼をいうぞ……。余を救ってくれて……。そなたこそが……真の……騎士……、」

ラーヴァナは風になった―――
ドンキホーテが無意識のうちにとっていたのは『敬礼』の姿であった――――――
涙は流さなかったが 無言の男の詩があった―――
奇妙な友情があった―――