冬木の海の上空にそびえる巨大な飛空船。
否、それは最早大型の空中要塞に他ならない。
―――プシュパカ・ヴィマナ
それは太古の昔、インドの空をその威容で支配した空中戦艦である。
プシュパカ・ヴィマナはラーヴァナの強大な幻術により光学迷彩で覆われている。
だが、それでもその強大な魔力は隠せようもない。

そして、その上にそびえたつ異型の悪魔の姿。
かつてインドを支配し、神々すらも打倒した魔神ラーヴァナである。

「ンフファアハハハハハ!!
ラーマ!ラーマァアア!余を、余を覚えておるか!」

「……ラーヴァナ!まさか貴様までがここに!?」

「ンフフフファハハハハ!!
会いたかった……。会いたかったぞ!
やはり貴様だ。余の渇きを満たせるのは貴様しかおらぬ!」

「……オーケイ、ラーヴァナ。それじゃ神話の再来と行こうじゃないか。
その自慢の要塞、熱々のローストチキンにしてやるよ!!」

そう言いながら、ラーマはヴィマナに対して、ギリ、と『天翔る光明(サルンガ)』を弓引く。
いかにヴィマナの強靭な装甲といえど、天翔る光明(サルンガ)から放たれる創世神の光明(ブラフマーストラ)の一撃には耐えられない。
創世神の光明(ブラフマーストラ)は対人宝具ではあるものの、そのA++の収束された貫通力はどんな防壁も貫くのだ。
だが―――。

「ククク……。やはり貴様は甘い。甘いな。
いま貴様と話してる余が本物の余だと思っているのか?」

はっと、その言葉にラーマがふりむくと、今まさに自分のマスターである凛がラーヴァナの本来にさらわれるところだった。

「ンファハハハハハハ!ラーマよ!貴様の姫はもらったぞ!
返してほしくば、来るがよい!
我が城、財振りまく黄金の天城へ!!ンフハハハハ、ハハハハハハハハ!!」

―――そして、ヴィマナの中で凛は茫然としていた。
何故なら、凛の案内された部屋は頑丈な牢獄ではなく、
最高級ホテルのスイートにも勝るとも劣らぬ豪華絢爛たる部屋だったからだ。
もっとも、流石に部屋から外に出られないように厳重な封印はしてあるが。

「これは……どういうこと?」

「フン、余は貴様には興味がない。
貴様の存在価値は「ラーマのマスター」だということだけだ。
貴様が死んでしまっては、ラーマが現界できなくなってしまうからな。
死なれてもらっては困る。死のうとしてもらっても困る。また、逃げてもらっても困る。
この部屋の中でおとなしくしているがいい。」

そのラーヴァナの態度に対して、凛は疑問を抱く。
いや、抱かざるをえない。
聖杯戦争において、敵マスターは殺すべき敵。
それをわざわざ生かしておいて、丁重に扱い、しかも令呪すら奪い取らず、奴隷にもしないなど尋常ではない。

「……どういうこと?貴方はラーマと戦うだけしか興味がないの?」

その凛の言葉をきっかけにラーヴァナはまるで泣き叫ぶかのように
狂気じみた言葉を叫び出す。

「その通りだ!貴様にわかるか!?不死の、無敵の苦しみが!!
誰もが余に平伏し、余に従う!
どのような理不尽を行うと、余と対等に戦おうとすらしない!余を殺せすらしない!
……余が求めていたのはこのような空虚ではない!このような孤独の王座ではない!
……だが、ラーマ。あやつは最高だ。
あやつだけは余を満たしてくれる。あやつだけは余と対等に向き合ってくれる。
余を満たせ……。余を満たせ!余は乾いたり!余は餓えたり!」

その言葉に凛の背筋に寒気が走る。
……狂ってる。最高の権力とは、かくも人を狂気へと導くものなのだろうか?

「早く、早くくるがいい。ラーマ。貴様だけが、貴様だけが余を―――!!」
――1方その頃。下界の冬木の港では、ラーマとマツヤのマスター、衛宮士郎が言い争いをしていた。

「だから、無茶だっていってるだろう!
いくらアンタだからって、たった一人で……!!」

「何をいう。少年。
私はいつだって不可能を可能にしてきた。そしてこれからもそうする。
何故なら―――私はヴィシュヌのアヴァターラだからだ!」

その堂々とした宣言に、流石の士郎も口を大きく開け、
近くの海中を漂う同じヴィシュヌのアヴァターラであるマツヤは(魚でありながら)深々とため息をつく。
……どうも、同じアヴァターラ同士でもやはり性格はだいぶ異なるらしい。

「……ラーマ。あんた属性が秩序なんだろ?紳士なんじゃなかったのか?」

「紳士なのは17時までだ。これからは……パーティの時間だ!」

その誰もが唖然とする言葉を残して、ラーマはヴィマナに向かって疾走しようとするが、
それをマツヤの思念波が押しとどめる。

《待つがいい。……全く実に不本意ではあるが……同じアヴァターラとして、
海を汚すあのような輩を放置するわけにはいかぬ。
私も、お前に力を貸そう。》

「オーケイ、相棒。それじゃ……レッツパーティだ!ビリーヴ・ユア・ジャスティス!!」

その頃、ラーヴァナはヴィマナの上で焦りに満ちながら冬木市を睨みつけていた。

「どうした……どうしたというのだ。ラーマ。
何故来ない、何故来ないのだ……。
貴様のマスターが捕われているだけでは足りぬというのか?
ならば、あの街を灰燼にすれば、貴様は出てくるというのか?」

そのラーヴァナの思念に呼応し、ヴィマナに備え付けてある数百の大小様々な砲台が冬木市へと向けられる。
この火力なら、二時間もしないうちに、冬木市は文字通り壊滅させられるだろう。
その瞬間、ヴィマナの下の海がババババ!と凄まじい水音を立てながらまるでモーゼの十戒のように凄まじい勢いで二つに分かれていく。
冬木の港からヴィマナまでまっすぐ伸びた割れた海の道。
そこから凄まじい勢いで角を生やした巨大な魚が浮かびあがり、空中へと飛翔し、ヴィマナへと突き進む。
ヴィシュヌの化身、マツヤ。
彼は、かつてこの世界に満ちた大洪水の“記憶”を持ち、 そこが例え陸上・空中であっても、水中とみなして泳ぐ事が出来る。
そして、その上で敢然と腕を組みながらヴィマナを睨みつける一人の青年。
同じくヴィシュヌの化身、ラーマである。

「フハハハハハ!!やはり来たか!来たか!いいぞ!それでこそお前だ!!」

そのラーヴァナを睨みつけながら、ラーマは手にしたサルンガを構え、ブラフマーストラを構える。

「オーケイ!なら搭乗手続きをすましてしまうとするか。
熱い正義の搭乗券を食らいな!『創世神の光明(ブラフマーストラ)』!! 」

その瞬間、まさしく太陽そのものが出現した。
それはラーマの構える矢から放たれる光。
神々の手による神造兵器たるその力に抗えるものなど存在しない。。
そのとてつもない強力な光は膨大な光の奔流と化して、大気を引き裂き、ヴィマナの装甲を貫き、
内部を貫き、巨大な要塞であるヴィマナを貫いて、反対の装甲から空へと飛翔する。

《全く世話の焼ける奴だ。だが同じヴァシュヌの化身である以上、手助けをせぬ訳にはいかぬか。
『圧し来る帰滅の海(プラーナム・アーキヤーナム)』!!》

かつて世界全てを浄化したとされる大洪水。
その超高圧による威力はいかなる存在も容易く押し潰し、殲滅する。
ましてや対象に穴が開いていればなおさらだ。
どんな堤防でも一つの穴で決壊することがあるのだから。

ブラフマーストラで空いた穴に、プラーナム・アーキヤーナムによる大洪水の超高圧の津波が襲いかかる。
その津波は穴をまたたくまに広げ、装甲に大穴をあけ、内部構造を大きく破壊する。

そして、マツヤの体が縮まるまでのほんの少しの瞬間。
だが、それで十分だ。
マツヤはそのまま体を縮ませながらヴィマナの空いた穴へと猛スピードで突っ込んでいく。

《行くぞ!ラーマ!このままプシュパカ・ヴィマナに突入する!》

「イィイイヤッハァアアアアアアアアアアッ!!ちょっと要塞に『侵入』してくる!!」

轟音を立て、ヴィマナの内部構造を破壊しながら、マツヤはヴィマナへと突撃し、体当たりする。
そして、ヴィマナの正面に大穴をあけた彼ら……ラーマはひらりとマツヤの背中からヴィマナの内部へとはいりこむ。

「よし、要塞への”侵入”に成功した。」

《……これは侵入とは呼べん気がするが。
まあ、いい。私は魔力を使って体が縮んだので、戻るぞ。ではな。》

そういって、マツヤは外にまた出て行った。
さて、と思った瞬間、凄まじい勢いの矢がラーマに向かってくるが、そんなものは千里眼をもつラーマにとっては見切るのは簡単だ。
まるで拳銃の早撃ちのように、瞬時にラーマは『天翔る光明(サルンガ)』 で迎撃する。
高出力レーザーのように光を纏いながら飛翔する矢は、ラーヴァナの放った矢を打ち砕き、ラーヴァナを貫く。
しかし、それも幻影。
光学迷彩で姿を隠したラーヴァナはこっそりと、真横に近づき、矛を振ってラーマを攻撃しようとする。

『神刃(シャブダ・ベディ)―――!!』

それを予測していたラーマは一秒にも満たぬ間に、次の矢である神刃を放つ。
意思を持つ魔矢は、一度放たれればラーマの意思関係なく、敵を追尾する。
まるで追尾ミサイルのように、曲がりくねった機動を描きながら、神刃は飛翔し、姿を隠して近づいていたラーヴァナへと炸裂する。
己の20ある腕の三本を神刃に吹き飛ばされながら、ラーヴァナは歓喜に叫ぶ。

「貴様は最高だ!最高だぞ!もっと!もっと余を満たせ!余を満たせぇえええっ!!」

槌や剣を振り回しながら、ラーヴァナはラーマへと突進する。
だが、ラーマは突っ込んできたラーヴァナをがっしりと攫むと、そのまま凄まじい勢いでジャイアントスイングを行い、ラーヴァナを空中に吹き飛ばす。

「喰らいな、ラーヴァナ、これがアヴァターラ魂だ!!『創世神の光明(ブラフマーストラ)』!!」

ジャイアントスイングで吹き飛ばされ、空中で身動きのとれないラーヴァナに対して、ラーマはサルンガを引き絞り、ブラフマーストラを発射する。
凄まじい光の奔流。その収束された太陽の光そのものである神造兵器は、身動きとれないラーヴァナの左半身を根こそぎ吹き飛ばす。
左半身から大量の血を流しながら、ラーヴァナはさらに歓喜の声を上げる。

「フハハハハ……。フハハハハ!いいぞ、いいぞ!これほどの興奮!これほどの恐怖!
味わったのは数百年ぶりか!ラーマ、ラーマァアア!貴様だけが、貴様だけが余を……!!」

ラーヴァナの宝具「羅刹王(ラクサーシャラージャ)」は完全な神霊相手であれば首を切られても瞬時に全快するほどであるが
純粋な人間からの攻撃には機動しない。
左半身を吹き飛ばされ、それでも立ち上がり攻撃を仕掛けようとする彼だったが、
その瞬間、彼が足場にしていたラーマとマツヤの攻撃により脆くなったヴィマナの装甲が砕け落ちる。

「ラーマ!ラーマァァァァアアアアア!!」

叫び声を上げながら、落下していくラーヴァナを見て、ラーマは何のためらいもなく、同じように空中に飛び出そうとする。
だが、それを見て、牢獄から脱出してきた凛が叫ぶ。

「ラーマ!まさかラーヴァナを救う気なの!?無茶よ!ラーマ!!」

「無茶ではない!なぜなら……私は、ヴィシュヌのアヴァターラだからだ!」

「彼は倒すべき敵ではあったが、滅ぼすべき邪悪ではない。
そのような彼を見殺しにするなど……私の正義に反するからだ!
ビリーヴ・ユア・ジャスティス!Yeahhhhhhhhhhh!!!」

ラーマは茫然としている凛を尻目に、ヴィマナの穴から大きく空中へとジャンプする。
同じように下に落下しているプシュパカ・ヴィマナの砕けた装甲の一部を掴み、それの上に落下しながら乗る。
そして、装甲をサーフボード代わりにすると、後ろを向きサルンガを空中へと放つ。
反作用により、凄まじい推進力がうまれ、落下速度がさらに上がる。
くるくると独楽のように回転しながら、次々と落下していく巨大なヴィマナの装甲を、サーフボード代わりにした装甲の欠片で滑り落ちていく。
サーフボードかわりにした装甲の欠片で、巨大な装甲を滑りおちながらラーマはラーヴァナに手を差し出す。

「ラーヴァナ!お前はやり方を間違えただけだ!
インドを思う気持ちは変わらん!そんなお前を見殺しにはできん!おおおおお!!」

そして、ラーマはラーヴァナの腕をがっしりと攫むが、ラーヴァナは狂ったように笑い出す。

「ンフファアハハハハハ!!
ラーマよ!正義の力でも救えぬものがあることを知るがいい!!
ハハハハハ!ハハハハハハハ!!」

次の瞬間、ラーヴァナは、ラーマにつかまれている自分の腕を迷いなく切り落とす。
茫然とするラーマを尻目に、高笑いを上げながら、ラーヴァナは水面へと落下し、粉微塵に砕け散った。
飛翔能力のないラーマもこのままでは、同じ末路をたどるだけだ。
ならば、サルンガを放って、その衝撃波と水蒸気爆発で落下速度を相殺しようラーマに対して、海面から猛スピードで上へと飛翔……いや、泳いでくる魚の姿。
ヴィシュヌの化身、マツヤ。
魔力を使った彼は海に潜ることにより魔力を回復させ、人が乗れる程度まで巨大化したのである。

《やれやれ。本当に全く世話が焼ける。
これと同じヴィシュヌの化身とは泣けてくるな。
さあ、乗るがいい。ここで死なれたのでは後味が悪いからな》

「……ああ、では帰るとするか。我々のマスターのもとにな。」