業火に焼かれる公園。
これを見た者、この地に生を受けて最低でも10年以上生きている者は、口を揃えて言うだろう。
10年前の災厄、そう、またの名を第四次聖杯戦争の再来であると。
この場で繰り広げられた戦いは大火災を引き起こし多くの命を奪った。
そんな因縁がある、荒れ果てた大地に立つ影は二人。
一人は白金。
儚げな銀の瞳に銀の髪は流れるよう、質素な貫頭衣でその身を包む人間。
その背丈も相まってか中性的な雰囲気を身に纏い、一目では男か女か判別できない。
その目に映るは憂い、悲しげな瞳で黄金の男を見つめる。
一人は黄金。
赤き瞳と金の髪を獅子のように立て、黄金の鎧を身に纏う男。
身に纏いしオーラは覇王のそれであり、誰もが彼に平伏すとすら錯覚させる。
その瞳からは何も読み取れない、ただ、目の前の人間をじっと見つめている。

「やはり、最後に生き残ったのはお前だったか」
「まさか君が前回の勝者だったなんて……」

ほぼ同時に二人の口は開かれる。

「……最初から、知っていたんだね?
 僕が……サーヴァントとして召喚された事も」
「ああ、だがこうして直接お前の姿を見るのは、この場が初めてだ。
 それ以前は言峰の集めた情報しか聞いていないがな」
「なら話は早い。
 こんな事はやめてくれ、ギル。
 この世全ての悪を解き放つなんて間違っている!」
「どうやら言峰から聞いたようだな。
 我の真の目的、聖杯の開放を。
 我が友よ、お前はどうしても我の邪魔をするのか?」
「残念だがギル、僕は君と違ってそこまでこの世界に絶望してはいない!」
「絶望? 絶望だと?
 なにを言うかと思えば、見解の相違だな。
 今から10年前、聖杯によって我は受肉すると同時に聖杯の正体を知った。
 実に下らない物だったが、あれほど優れた殺戮兵器もない。
 その時な、我はあれで雑種どもを間引くと決めた。
 この世界は楽しくもあるがな、同時に有象無象の雑種らが溢れかえり醜悪の極みへと達している。
 今も昔も変わることなく、愚者がはびこり続けている。
 だから間引く、この我がな。
 雑種である、この世全ての人間をな。
 それ以上でも以下でもない」
「それは違う!!
 人間は、君が考えているほど愚かなんかじゃない!!」

双方の問答は続く。
白金の人は言葉は熱く。
黄金の王の言葉は冷たく。

「思い出してくれ! あの頃を!」


その言葉をきっかけに二人の意識は過去へと遡る。


まだ世界が一つだったころ。
一人の王がいた。
彼は三分の二は神の、三分の一は人間の血を継いでいた。
王は完全無欠であり、誰も彼に敵う者などいなかった。
誰もが王に従った。
だが、王は常に孤独でもあった。
そして王はそれを当たり前の事と認識していた。
これが心優しき王であるならなにも問題はなかったのだろう。
しかし……王は賢君であると同時に暴君でもあったのだ。
王の執政は民に負担を強いた。
それは民の心に影を落とし、絶望に誘うには十二分だった。
そして彼らは祈った。
王が最も嫌う存在……そう、神に。
ある時噂が流れる。
森に住む神に造られた野人の噂、やがて野人は巫女と出会う。
巫女から野人は人間として生きるため知恵を教わったが、その為に森にはいられなくなってしまった。
居場所を失った野人は人として生きる為、ウルクの都へと向かう。
そこで出会ったのは、暴君として恐れられし王の姿だった。
出会った二人はお互いを認められないものと見なして、ぶつかりあった。
戦いはほぼ互角、永遠に続くとさえ思われたが、和解という予想外の結末で幕は下りた。
この時野人は王に認められ……王の唯一無二の親友、そう、友となったのだ。
王の心は確かにこの時救われた。
友を得て、孤独な王はもう一人ではなくなったのだから。
王の友もまた同じだった。
森という居場所と獣という仲間を失ったが、それ以上に尊い親友・王に出会えたのだから。
それから国は少しずつ変わっていった。
友を得たことにより、王の暴君としての振る舞いは少しずつ収まっていったのだ。

あの頃、全てがあった。
夢も希望もありとあらゆる全てが。
ずっと二人は一緒だと思っていた。
王はそれが当たり前だと信じて疑わなかった。
だが、その思いは容易く砕かれる。
この世にありえないことはありえない。
だから、別れの時はいつか訪れる。
遅かれ早かれ……絶対に。

走馬灯のように思い出は巡る。
あの頃の記憶。
二人の歩んだ歴史が流れていく。
ある時はウルクの都を包囲したキシュの軍勢を撃退した。
ある時は森の番人フンババを二人で協力して倒した。
そして……女神の求婚を王が断った時、全ては終わりに向けて流れ始めた。
誇りを傷つけられた女神は天の牡牛を地に放った。
大地は飢饉に陥り、民は苦しみ、天の牡牛は王と友にも牙を向けた。
だが、そこまでだった。
天の牡牛は返り討ちに逢い死んだ。
しかしその代償はあまりに大きいものであるという事を、
遠くない未来で二人は嫌というほど思い知らされる事となる。

友は呪いに倒れた。
それは神の獣を殺した報い。
呪いを受ける前、友は夢を見た。
それは神々の会議、天の牡牛殺しの罪を犯した二人をどう裁くか。
会議の結果、友は死を、王には生が与えられた。
国中の医者、魔術師、祈祷師が手を尽くしたが全ては無駄だった。
それは、絶対的な神の呪い。
そして、最後に友が王に残した言葉……。


『何故泣く? 
 我の傍らに身を置いた愚かさを、今になって悔いるのか?』

『そうではない。
 この僕の亡き後に、誰が君を理解するのだ?
 誰が君と共に歩むというのだ?
 朋友よ……これより始まる君の孤独を偲べば、僕は泣かずにはいられない……』


―――王にとって最高の理解者は塵に帰った。
―――それは、半身を引き裂かれるにも等しい。
―――そして、王の障害において、彼に勝る理解者は、


    現れることはなかった。


その後王は不老不死の薬を求め手に入れるも失い、人として死んだ。
死の瞬間、王が何を望んだのかは本人にしかわからない。
もしかしたら、心のどこかでは友との再会を望んでいたのかもしれない。
死後、王は英霊となった。
英霊になるという事、それは一種の不老不死とも解釈できる。
生きている時に手に入らなかったものが、死後手に入る、なんという皮肉か。
長い時の流れの果てに、王は魔術師に召喚され戦争へと出陣する。
王が出陣せし戦いは、あらゆる願いを叶える願望器を巡る戦い。
戦いの果て、王は勝ち残り二度目の生を生きる権利を手に入れた。
しかし、王の心は満たされない。
確かに征服王、騎士王との激突は彼を楽しませた。
だが決定的な何かが欠けていた。
それは己の半身、友の存在こそ王にとって必要不可欠な存在、
友のいない世など王にとって価値は半減、いや、無価値に等しいのかもしれない。
そんな中、第五次聖杯戦争で奇跡は起きた。
友が、王が唯一認めた対等の存在である友が召喚されたのだ。
本来ありえない、叶わないはずの再開、しかしそれは叶った。
そして今、王と友は対峙している。
最初に出会った時と同じように。


「思い出してみれば……随分と長い時間がかかったな……。
 お前と再会するまで……数千年か」
「そうだな……。僕も君も元いた時代から随分離れた所に来てしまった」
「フン、我らしくない。
 こんな時に過去の思い出に浸るとは……」
「ギル、もう一度聞くが、どうしても止める気はないんだな?」
「止める? 止める必要がどこにある?」
「君だってわかっているはずだ!
 こんな事をしたってなにもならないって!
 人間が死に絶えた世界に君だけ存在して何の意味があるんだ!?」
「死に絶えるならそれでかまわん。
 自らの罪で消え去るならそんな雑種の存在価値などこの世にない。
 我が欲しいのは地獄の業火の中でも生き延びられる存在だ」
「確かに君の考え方から見れば、それが正しいんだろうな……。
 でも、僕にも譲れないもの、守りたいものがあるんだ!!」
「……これ以上はどこまで行っても平行線のままのようだな。
 ここから先は、言わずともわかるな?」
「なら僕は、あの時と同じように君を止めてみせよう!
 必ず止めてみせる!!
 なにがあろうと、絶対にだ!!」
「面白い、やれるものならやってみるがいい。
 我も慢心などせず、全力を持ってお前を叩き潰そう」

二人は武器を構える。
友、エルキドゥは創生槍・ティアマトを。
王、ギルガメッシュは乖離剣・エアを。
あの時と違うのは素手ではなく武器を持っているという事。
そしてこの戦いはどちらかが死ぬ事でしか終わらないという事を。
しかし不思議と悲壮感はなかった。
むしろスポーツのような、一体感があった。

「いくぞ。我が友、ギルガメッシュ!」
「いくぞ。我が友、エルキドゥ!」

長き時を経て、再び激突する二人。
勝つのは果たして、黄金の王か、白金の人か。