右も左もわからぬ新米マスターと、力を持たぬ偶像の少女へと襲い掛かる巨人と白い少女。
「キャスター、君は俺が守るから、下がってるんだ!」
「でも、士郎さんっ!」
 だがサーヴァントを庇う異例な主に、男は力強く微笑んだ。
「なかなか骨があるな。気に入った、この場は剣を納めよう」
「ちょっと、ライダー!?」
「怒るな、イリヤ。まだ彼らは強さを知らぬ。この場で討つのは面白くない」
 気紛れに助けられ、命を拾う二人。この出会いが後の運命を変える。
「俺はライダーのサーヴァント、ロスタム! 少年よ、君の名前を聞こう」
「――――衛宮士郎」

 だが、事態は早くも混迷を迎える。僅かな日常を打ち砕いた、巨大な迷宮への招待。
 取り込まれた戦う者達は一時的に協力を決めるが――――。
「■■■■■■――――!」
 バーサーカーの怪力さえ撥ね退けて、武器ごと一刀両断にする騎兵の剣。
 しかし、膝をつき、血を吐いたのは自身であった。
「ラン、サー……貴様ぁっ!」
「おいおい、たかだか一時休戦に過ぎないというのに、あまり儂を信用してくれるなよ。
 そんなに無垢に信じられると――――踏み躙りたくなるだろう?」
 心臓を貫く槍を無念そうに見下ろし、倒れた巨人を嘲う槍兵。
 そのまま、微かに息を残す牛頭の怪物を踏みつけて満足げに言った。
「素晴らしいぞ、バーサーカー。貴様のお陰でアサシンのみならず、忌々しいライダーまで討つ事が出来た。
 感謝の気持ちを込めて――――」
 ぐしゃり、と足の下で牛の頭が砕け散る。思わず喜悦の笑い声が漏れる。
「――――すぐに楽にしてやろう」

 戦う力を失った白い少女を迎え、ささやかに続けられる仮初の日常。
 しかし、今度の襲撃者は、衛宮士郎も良く知る、真紅の少女であった。
「まさか、あなたがマスターだったなんてね、衛宮くん」
「遠坂!?」
 その隣に並び立つは、神に愛されし美貌を持つ弓兵。
 だが、魔を跳ね返す鏡持つ少女と、自身も比類なき射手である少年。そして、イリヤの援護もありかろうじて追い返すことに成功する。

 思わぬ勝利に沸き立つ彼らを突き落とす、策を巡らす外道の手腕と、思わぬ訃報。
「桜、なんで、君が……っ」
 彼にとっての日常の象徴。守りたかった微笑は、もはやそこにはなく。
「セイバー、あなたがついていて、何故」
 問い質され、悔しげに顔を歪める、剣の従者。
「ランサーを追って出た隙に、奴のマスターにやられたらしい。
 ――――奴らには借りが出来た。俺にも手伝わせてくれないか」
 半身を失った二人の、新しい契約。その誓いは、斃れた者への弔いを。

 此度の聖杯戦争を支配するのは、ただ一人の策士の手並み。
 昨日の敵は今日の友。訪れた客人は、思わぬ協力を申し出る。
「まさか、アーチャーだけじゃなく、悉くがランサー一人にしてやられてるなんて」
 従者を失った赤い少女もまた、槍兵への怒りを胸に。
「それにしても、マスターの仇討ちなんて、義理堅いのね、セイバー」
「自身の誇りの為だ、別に、マスターの為などではない!」
「セイバーは素直じゃないのね」
「う、うるさい!」
「別に、からかってる訳じゃないわ。――――感謝してるのよ。姉として、ね」
「…………ふん。感謝される筋合いなどない」
 策謀に負けた者たちの寄り合い所帯は、しかし確かに力を増して。

「何故だ! 何故動かぬ! 奴は裏切りおったのか!?」
 焦燥の浮いた表情で、逃げ場を探すランサー。その正面に立つ、伝説の大英雄。
「運命られし――――」
「おおおおおおっっ!!!」
 叫び声を上げる下劣なる老王に、最強の魔剣が振り下ろされる。
「――――破滅の剣!」
 荒れ狂う炎の刃が外道の身体に喰らいつき、その半身を灼き尽くす。
 癒しの両腕と下半身を失い、無様に這い蹲る仇を見下ろし、セイバーは目を閉じた。
「借りは返したぞ、ランサー」
 背を向け、見守る仲間達の下へ戻ろうとする、その後ろ。あと数秒もすれば消えてしまうだろう英雄の最期。
「我が令呪に命ず」
 その身体を鞭打ち、最期の命令が下される。
「……セイバーを、貫け」
 令呪によって編まれた魔力の腕が隣に転がる槍を掴み、不死身の英雄の急所を刺し貫く。
「ふむ、思わぬ者が残ったものだな」
「言峰――――!!!」
 そして最後に現れた敵の姿。それは、調停者たる男の姿。