「待ってくれ。一緒になって戦ってくれたんだ。あなたにも消えてほしくない」
「……まあ、貴方がそういうなら残ってあげても構わないわよ」
未熟な魔術師が抱える偶像少女と源毒淫婦。彼の、彼女たちの求めるものは何なのか。


「一体何時からここは農家さんに? 士郎困ったことがあったらいつでも相談してね。ところでこの子たちは誰?」
戦争の最中だというのにのんきに始まるガーデニング。衛宮邸の明日はどっちだ!?


「さて……セイバーもライダーも脱落した。そろそろアーチャーにも消えてもらうかのう。……もう十二分にいい目は見たはずであろうからな。ククッ」
闇に張り巡らされる蜘蛛の糸。歴戦の勇士といえど、その蟲毒の前にはなす術もなく……。


「うおあああぁぁぁっ!!」
「そんなっ、なぜっ、なぜ当たらないぃぃぃっ!! 僕の矢は弱点に向かって飛んでいくんだぞぉっ!?」
「いけない、士郎、止めなさい!」
「士郎さんの身体が……剣に?」
未熟な魔術師にサーヴァント二人は養えない。だから戦うしかないんだ。あの二人が笑っていた衛宮の庭を護る為にも。


「はっ、ははっ、人間なんかに僕が殺されかけるなんて……。おい、ランサー。早く傷を治してくれよ」
「はて? 何か言ったかのう。生憎とこの年になると耳が遠くてのう。ククッ」
「う、嘘だろう……? 冗談だよな? お前、言ったじゃないか『どんな傷でも治してやるって』……」
「そんな昔のことは忘れたな」
「う、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ助けて助けてよう兄さん痛い痛い痛いよ助けて助けてオイノネははは死んじゃう僕しんじゃう……よ」
「クククッ。計画通りっ!」
裏切りの果ての、裏切り。他者に依存し、己を磨くことのなかった漢の末路がここにあった。


「士郎さん、士郎さん目を開けてください」
「士郎、しっかりなさいっ! ……貴方なら彼だって癒せるんじゃないの?」
「さぁ……て。どうかな?」
外道王の顔に好色な笑いが張り付いた。反吐を吐きたくなるような、自分以外の全てを見下した顔だった。


「治して! 治してください! ……どうして、どうして治してくれないんですか!?」
「うーん?聞こえんなぁ。おーっとと、治そうと思ったが水が掌からこぼれてしまった。君が大声を立てるからだぞぉ」
「お願い、早く、早く治して……このままじゃ、本当に」
「おおっとっとっと。またこぼれてしまったなぁ。たまたまこぼれてしまったんだから、しょうがないよなぁ」
二人をどうしようもない絶望が襲う。この男は、初めから彼を治す気などないのだ、と。


「んっ……んちゅっ、あんっ……むっ(せめて、せめてこの男だけでも……っ)」
「ククッ、中々いい具合だな……っ、ぐあああああっ!?」
「士郎の仇。死になさいっ!」
「なあんて、な」
「えっ?」
「クックック。忘れちゃあ困るな。傷を癒し万病を治す薬を作り出せるこのワシが、この程度の毒で殺れるとでも思ったか」
「貴方は……最低よ」
「はぁっはっはっはっ! 最高の褒め言葉だ! ついでに教えておいてやろう。この小僧には悪夢の魔術をかけてやったわ。ワシの嫁を寝取った間男の人生を追体験させてやっておるところよ。もちろん配役はお主たちでな。グハハッ」
セミラミスの目に涙が浮かんだ。どこまで、何処まで自分は無力なのだ、と。


私は幼いころ、あの方に憬れていた。それが、まさか、あんな……」
「アンタは……」
「言えた義理ではないが、どうかあの方を止めてくれ」
託された赤槍と黄槍。双槍に込められた思いはどれ程までに深いのか。


「ば、馬鹿なぁっ! それは、その槍はあの男のっ、なぜっ、なぜ貴様がそれを持っているっ!?」
「あいつの思いを……果たす」
「おのれディルムッド! おのれフィオナ騎士団! 貴様等は何処までワシを邪魔をするっ! 何処までワシに従わんっ! 何処までワシに逆らえば気が済むのだっ!!」
槍から削りだした騎士団が一番槍の槍術。今、幻想を超えて現実となす。



「『騎士道』とか『正々堂々』だとか…ディルムッドの忠誠心にも匹敵する、そのくだらない物考え方が命とりよ! クックックックッ。このフィンにはそれはない…あるのはシンプルなたったひとつの思想だけだ…たったひとつ!
『余に恥をかかせた者は許さない』!
それだけよ…それだけが満足感よ!これまでの貢献や……!やむにやまれぬ事情なぞ………!どうでもよいのだァーーーーーーーッ 」
それは、最後の悪あがき。


「そんな、何故治らん。何故癒せない。このワシが……このワシが死ぬはずない。
イヤだ。イヤだ。イヤだイヤだイヤダイヤダ
死にたくない―――逝きたくない―――っ!」
全てを踏みにじった男の、あまりにもあっけない――最期。



庭園で楽しそうに作物の世話をする壱与。その壱与をセミラミスがまるで母のように見守っている。
その姿を、ずっと見つめている。

きれいだ――
そんな言葉が、士郎の心のうちから湧き上がってくる。

手は、いつも作物を労わるように。目に笑顔。小さな鼻と口から、祝詞を紡いでいる。
調べの意味はわからない。士郎の知らない言語、聞いたこともないメロディー。
だが、ほんとうに、きれいだ。

戦争から開放された今の彼女たちほどきれいなものはない。
愛も平和も正義も、すべてが今この理想郷にある。

今士郎の中にある言葉は一つだ。
爺さん――この光景を守り抜けたら、俺は正義の味方になれるかな――