「これまでのあらすじ!
 4月1日のみ起動する皆鯖聖杯システムに干渉すればリメイクしてもらえるんだってさ!
 しかしそのためには立ちはだかる12の関門を突破しなければならない!!
 というわけで頑張れ俺たち! カイン、関羽、ネブカドネザル2世、首なしライダー、源為朝の五人が明日に向かって走る!!」
「(ホントこういう時ノリノリだよなお前)」











「さて、そろそろ最初の関門、牙鼠寺だね!」

 平凡な青年が、五人組の先頭にたって階段を駆け上がる。
 実に平凡な外見を持つ青年である。筋肉質ではあるが、個性らしい個性のない外見。しかしそれでいて、瞳から覗く闇が彼の罪深さを象徴していた。
 彼の名はカイン。皆鯖スレ最弱の一角を担う者。
 報復に特化した宝具を持つ彼は、負けこそないが勝ちもない。ただの厄介な爆弾でしかなかった。

「子の番人で寺を拠点とする……もはや答えを言っているようなものだな」

 そのカインの後ろを駆けるのは、青竜偃月刀を担いだ道服の大男。
 長く美しく蓄えられた髭を見れば、誰でも彼が関羽雲長だとわかるだろう。
 関羽雲長、三国志において呂布に次ぐ実力を持つと呼ばれる武神。
 同期にカレー師匠ことパラシュラーマがいたせいかインフレに歯止めが効かなくなり、結果的に呂布より強くなってしまった悲劇のサーヴァント。
 皆鯖で黒歴史鯖といえば、彼の名は確実に挙がるだろう。それだけに、リメイクにかける想いは大きかった。

「■■■■■■■■ーーーーーーッ!!!」

 同調するように野獣の咆哮を上げているのは、正真正銘の獣人。
 狼のようであり、鬼のようでもあるこの狂戦士は、名をネブカドネザル2世と言う。
 関羽と並ぶ黒歴史鯖筆頭格であり、彼もリメイクへの渇望を燃料にして階段を駆け上がる。
 『王の匣庭(コード・オブ・バビロン)』。
 暗号の域にあるとまで呼ばれたその宝具の説明文が、彼の唯一にして最大の汚点である。

「なぁに、何が来ようと俺の弓の前じゃ木端同然よ!」

 巨大な弓を担ぎ、高らかに笑うのは和鎧で武装した源氏の男。
 その上で左右の長さが違う腕を見れば、候補として上がる英雄はただ二人。
 一人は海上の扇を見事射抜いた射手、那須与一。もう一人は、源平において無双を誇った英雄、鎮西八郎源為朝。
 この男は後者、ただ一本の矢で軍艦を沈めて見せた英傑だ。
 しかしデフレの流れか資料不足か、あるいは不足していたのはモチベだったか、正直微妙なステータスに甘んじている。

「(まぁ、軽くエンジンを温めておこうじゃないか)」

 そして最後尾、バイクで階段を上るという曲芸を披露する首なしのライダー。
 バイク乗り(ライダー)の恐怖が具現化した人外の騎手であれば、この程度は余技と言える。
 彼はただでさえ神秘の希薄な都市伝説系サーヴァントの中にあって、マスター狙いのライダーという妙な存在になってしまった亡霊、首なしライダー。
 下手をすればカインをも超えるほど弱い彼は、せめてもうちょいどうにかならんかという悲願を聖杯にかけた。
 住民に「彼より弱いサーヴァントはいない」とまで言われてしまえば、亡霊とはいえ憤らない訳がない。

 これが、この5人が、聖杯にリメイクの願いを託す選りすぐりの勇者達だ。
 強さのバランスが大分偏っている気もするが、それでも彼らは皆鯖『最悪』のサーヴァントの集まりである。
 もう何も怖くない。カインが胸中でフラグを立てたところで、彼らは牙鼠寺に辿り着いた――――!!


 ◆



「ここが牙鼠寺か……」
「外観や内装は普通の寺なんだな。大分寂れちゃいるが……」
「(だが、この気配の数……やっぱりここの番人はアイツみたいだぜ)」
「うむ……面倒な相手だ」
「■■■■……」

 確認が感想を漏らし、ネブカドネザルがキョロキョロと忙しなく周囲を観察している。
 野生故の気配察知……ではなく、単純に建築王としての魂が東洋の神殿に興味を示しているのだろう。
 理性を失っていようと、その本質はまるで変わっていないようだ。

「まぁ夢の国みたいな場所じゃないから、そこは安心だね! 公式でも言ってたけどネズミーな人達は本当に怖いし……」
「「「「「■■■■■■■■ーーーー!!!!!」」」」」
「うわっ!?」

 警戒心zeroのカインがいつものように冗談を言っていると、突如として無数のネズミが沸いて現れた。
 続々と数を増やすネズミたちは、カインたちを取り囲むようにして鳴き声を上げる。
 床を覆い、壁を覆い、天井にすら届かんとする程の軍勢である。
 その数、八万四千。
 怨念によって鼠へと姿を変じた僧侶、瀬豪阿闍梨。またの名を、鉄鼠――――


「『武神龍突(みち、はばむものなし)』――――!!!!」
「(躊躇いなく無双奥義ブッパしたーーー!?)」

 ――――登場した瞬間、関羽の最終奥義が炸裂した。
 魔力炉心搭載型中華ガジェットである偃月刀と赤兎馬の炉心と、自らの魔力炉心から限界まで魔力を引き出して行う蹂躙突貫。
 雷電を放ち、近付くものを全て消し炭へと変えるその姿は、まさしく稲妻そのもの――――!!



「うわー、せっかく久しぶりの出番だっていうのに、随分かわいそうなことになったねぇ」

 当然、その結果は死屍累々。
 開幕10割コンボを食らったモヒカンの如く、鉄鼠は一瞬にして全滅した。
 ウェルダンどころか炭化している。上手にやけましたーどころか勢い余ってコゲ肉だ。

「まぁ仕方ねぇな。ぶっちゃけこの中で対軍宝具を持ってんのは俺と関羽ぐらいだし」
「(普通にやってたら数の暴力で負けてたのは確かだけどよぉ……)」
「作者もメンバー決めてから対軍宝具持ちの重要さに気付いたしね。対軍宝具無しで鉄鼠とか、コンボイがナゾ解明しちゃうレベルのハードモードだよ?」
「(というか、俺とカインに関しては最弱枠だしな)」

 実際問題次の宮までそれなりに時間はあるので、『武神龍突(みち、はばむものなし)』のデメリットであるオーバーヒートも大した問題にならないのである。
 あと、尺の問題もあるし。
 宝具ブッパはこのチームの基本戦術とすら言える。身も蓋もないことこの上ない。

「おのれ……拙僧も昔は戦争を引っ掻き回す中ボス役として、それなりの出番があったというに……チュウ」
「(……世知辛ェなぁ、皆鯖界)」
「すまぬ、瀬豪阿闍梨よ。それでも我らは、進まねばならんのだ」


 ◆



「いやぁ、チョロいチュートリアルだったね!」
「というより、無理ゲー極まってチュートリアルどころではなくなったのだがな」
「■■■■■■ーーーーー!!!」

 牙鼠寺を後にし、再び長い階段を駆け上がっていくカインたち。
 次に向かうは第二の関門、牛迷宮!!

「(さっきもそうだったが、わかりやすいなオイ)」
「いやいや、ひょっとしたらエイハブ船長のエサとして作られた某御前が出てくるのかもしれないじゃん?
 ……あ、ちなみにこの作品は基本的に過去ssに登場していたりイラスト化されているか、よくネタにされてるサーヴァントしか登場しないルールだよ」
「ん、それってつまり牛御前とかは出れないってことじゃ……」
「……我等のようにネタにされるだけ、幸せなのかもしれんな」
「■■■■……」



 ◆



「迷った!!」
「(堂々と言い張ってんじゃねぇ!?)」

 辿り着いた牛迷宮。
 その名の通り、入り組んだ迷路そのもの。
 満足な明かりすらない迷宮の中で、カイン達は全力で迷子になっていた。
 見かねた為朝が胸をドンと叩き、鼻高々に声を上げる。


「よし、任せとけ! こういう時の対処法はハンター二乗な漫画で学んだ! 迷ったら14に進め!!」
「それは死んでしまうのではないか……?」
「(しかもハンタ関係ねぇし)」
「容赦なく死ぬって点じゃ一致するね!」

 迷宮で迷子になるという割と致命的な状況であるというのに、妙に軽いノリのカイン一行。
 下手をすると一生ここから出れないレベルの空間なのだが、かなり楽観的である。
 もちろん、それにも理由がある。

「大丈夫大丈夫。尺と展開の都合上、ここで迷子になってそのままガメオベラってことは多分無いから!」
「(メタいなオイ!)」

 実に身も蓋もない先見であった。



「……しかし冗談はともかく、どこかにこの宮の番人がいるはずだが……」

 赤兎馬に跨り、先頭を行く関羽。
 なぜ彼が先頭を進んでいるかと言えば、単純に強いのと、現在赤兎馬のナビゲート機能を頼りに進んでいるからである。
 非常に高度なカーナビも搭載している赤兎馬。もちろんライトもキッチリ搭載、ウィンクだってできる。
 中華ガジェット便利すぎだろとツッコミたくなるが、オートブレーキ機能は無い。障害物は全て踏み壊せばいいからだ。


「■■■■■……!」
「(ん、どうしたネブさん)」
「――構えろ、てめぇら。この先だ」

 ネブカドネザルが唸り、為朝が弓を構える。
 先頭にいた関羽も赤兎馬を下がらせ、四人と並ぶ。
 次の瞬間、大地を揺らすほどの大きな揺れが規則的に訪れた。
 来る――――そう確信した瞬間、曲がり角から人影が現れる。
 それはどこまでも大きく、そして大きく、果てしなく大きい――――



「あ、こんにちはぁみなさぁん。おげんきですかぁ~?」


 ――――――――――バスト(おっぱい)であった。










「――――ってエウロペの方かよ!!!!」

 為朝の叫びが迷宮に木霊した。

「ヒュー! みろよやつのバストを! こいつはやるかもしれねぇ!!」

 カインはなんか腕を上下に振っていた。

「あらあらぁ、恥ずかしいわぁ~♪」

 それに対して、仄かに赤く染めた頬を隠すように手を頬に当てている女性。
 彼女こそこの牛迷宮の番人、某下半神が化けた牛に乗ってヨーロッパを駆け抜けた聖母。
 ギリシャ全土に名を轟かせた、名高きクレタ島の王妃、エウロペその人――――――!

「あー、では先ほどの揺れは……」
「(どう考えてもアレだよな……)」

 まぁ、順当に考えれば答えは一つ。
 エウロペが従えている巨人といえば、それはやはり青銅の巨人。

「え~っと、確か貴方たちを倒さなきゃいけないのよねぇ。よぉ~し、行くわよぉ~!」

 気の抜けた掛け声とともに、手元に現れるはなんか黄色いボタンが3つあってレバーが上に2本ついてるメタリックなリモートコントローラー!!

「ちょっと待て!! その手に持ったリモコンはなんだ!!」
「うふふ、それはあの子が来てからのお楽しみよぉ~」
「いやいや、それでアイアンマンMk28とか出されると版権的なアレで困るんだけど!?」

 大丈夫、そもそも二次創作三次創作の域だからこれ。

「地の文さんはちょっと黙ってて!!」

 あ、うん。ごめん。

 ともあれ彼女の手に握られたリモコンのスイッチが押され、そのレバーが押し込まれる!

「さぁ、でてらっしゃ~い!」

 再び響く大震動。
 ズシンズシンと腹に響くこの音の主は、エウロペが呼び出す以上その正体は、青銅の巨人タロスでしか――――――



「■■■■■……」



 ―――――――――――――――――――なんか牛だった。















「そこはタロスじゃねぇのかよ!!」

 別に全然青銅とかじゃなかった。
 牛頭人身の巨体に、これまた巨大な両刃斧を持った怪物。

「ここに来てアステリオス君だね! ナイスフェイント!」

 そう、すなわちエウロペの孫息子たる怪物、アステリオスである。
 彼はエウロペの真後ろに立ち、斧を掲げて雄たけびを上げる。
 それに呼応するようにネブカドネザルが前に立ち、叫び返す。

「■■■■ーッ!」
「■■■■■■ーーーーッ!!」
「(バーサーカーが二人いるとどっちが喋ってんのかわかんねぇな!?)」

 雄たけびなので発言者がどちらだろうと大差はない。問題なしだ。

「…………しかし、素直にヤツは強敵だぞ。狂化によるステータスの向上が強烈だからな」
「あー、筋力A+に加えて怪力Aランクだもんねー。腕相撲で勝てる英霊はいないよね、あれは」
「■■■■ーーッ!!」
「あ、今のはアステリオス君の咆哮ね」
「(ややこしいなマジで!)」
「えへへぇ、アステリオスちゃん、気合いはいってるのねぇ~。それじゃぁガンバろっかぁ~!」
「■■■■■■■■ーーーーーーーッ!!!」

 エウロペの声に反応したアステリオスが再び吠え、斧と巨体を振り回しながら迫りくる。
 そう広くない迷宮の通路だが、壁を破壊しながら進むことができるアステリオスにはなんの関係もない。
 彼にはそれを可能とするだけのパワーがあり、マッスルがあった。
 ボサっとしていれば、あっというまにミンチの山が出来上がるだろう。お茶の間の平穏のためにも、戦わなければならない。
 関羽は赤兎馬の上で青竜偃月刀を構え、為朝は素早く弓を引き、首なしライダーはエンジンを吹かし、ネブカドネザル二世は理性なき頭で一足先に突撃を返し、カインは逃げる!


「(…………………………………………んん?)」
「■■■ーーーッ!!」
「■■■■ーッ!!」

 首なしライダーが疑問を感じるのと、二体のバーサーカーが衝突したのはほぼ同時の出来事だった。
 アステリオスが力任せに振り下ろした斧の一撃をネブカドネザルは野生の直感で避け、腹部に拳の一撃を叩き込む。
 しかし、圧倒的な筋肉の鎧に包まれたアステリオスの肉体はビクともしない。
 歯噛みするネブカドネザルが苛立つように唸り声をあげながら後ろに飛びずさり、入れ替わり前に出たのは赤兎馬と関羽。
 交代の瞬間には為朝が矢を放ち、隙を補完する。
 アステリオスは斧を振り上げることで矢を弾き、馬上から放たれる青竜偃月刀の一撃は、柄の部分を拳で受ける!

 そしてそんなことはともかくとして、カインは全力で後ろに向けて前進していた。

「(うおぉいちょっと待てカイン! テメェなにしてんだよ!?)」
「あっはっは! 逃げるんだよォ~! だって彼のHP、下手すると俺の七倍ありそうじゃん?」

 ……酷い言い草だが、意外と道理だったりする。
 彼の持ち味は七倍の報復による「あ、こいつに攻撃したらダメだな」という躊躇を押し付けることにある。
 ……のだが、お構いなしに殴ってくるバーサーカーや、そもそもHPがカインの七倍以上ありそうな相手にはすこぶる弱いのだ。
 とはいえ仲間になんの言伝もなくノータイムで逃げ出すあたり、原初の殺人者は格が違うと言えよう。
 バカに構っている暇はないとばかりにアステリオスとの戦闘を始めた武人組+建築王を完全にスルーし、三十六計を破却するその姿はまさに流星(シューティングスター)――――!

「というわけでさらばだ明智くーん! 戦闘終わったら教えてねー!」
「(そのまま迷って飢え死にしろ!!)」
「うん、応援ありがとう! キミたちの犠牲は無駄にはしな―――――」
「シンニュウシャ ハッケン イレギュラー ハイジョ」
「ナインボッ!?」

 ――――――そして、流星は空で燃え尽きるものである。

「■■■■■ーッ!?」

 カインは突如現れた何者かに思いっきり吹っ飛ばされ、前線で戦っていたネブカドネザルにキャッチされる。
 死んでは――――いない。残念ながら。もとい、幸いなことに。
 目を回してはいるが、報復の刻印は発動していないのだから生存は確実だ。残念ながら。


「イレギュラー ハイジョ」

 そしてカインを吹き飛ばした怪力の主は、今度こそ。
 そう、今度こそ、本当の本当に、正真正銘灼熱を纏う青銅の巨人!

「シンニュウシャ ハイジョ ハイジョ ハイジョ」
「くっ、アステリオスだけでも厄介だと言うのに……ッ!」
「今度はタロスのお出ましかよ……ッ!」

 その名はタロス。
 青銅の巨人。
 クレタ島を守り続けた、灼熱の守護神!

「(おいどうする! 完全に挟まれたぞ!)」
「■■■■■■■■ーーーーーーッ!!」
「ハイジョ ハイジョ ハイジョ ハイジョ」
「二人ともぉ~! 頑張ってねぇ~!」

 前門の牛、後門の巨人。
 牛迷宮ということで空気読んでラエラプスは不在だが、それでもパワー級のファイターによる挟撃である。
 インディ・ジョーンズが転がる大岩を前に逃げるしかないように、この狭い通路で巨人と対峙するというのは苦境極まる。
 加え、それが挟撃ともなれば状況はより酷いと断ぜねばなるまい。前後から迫りくる大岩を、どうかわせというのか。
 一歩一歩と着実に阻まっていく二体の巨人の間で――――真っ先に動いたのは、関羽と赤兎馬だった。

「お主ら! アステリオスは私と赤兎が請け負う! タロスは頼んだぞ!」
「関羽!」
「■■■■■■ーーッ!!」

 牛人の咆哮。
 常に最適な行動を示し、戦闘を補佐する赤兎馬がいるからこその選択肢。
 少なくとも、抑えるだけならどうにでもなる。

「(……なら、俺たちはこっちか)」
「ハイジョ ハイジョ」
「……やるしかねぇなぁ、これは!」
「■■■■■ーーーーー!!」

 ならば。
 ならば、為朝たちの役目は一刻も早くタロスを排除することになる。
 為朝が乱雑にカインを放り捨て、弓を構えた。
 首なしライダーがエンジンをかけ、稲妻のような排気音を響かせる。
 ネブカドネザルが野獣の叫びと共に手を地につけ、飛び出すための力を溜める。


「――――――ハイジョ!」

 先制攻撃を行ったのはタロス!
 その真紅の灼眼が一際強く輝き、次の瞬間全てを焼き尽くす熱線が顕現する。
 直撃すれば、よほど耐久力に優れた英霊でもなければ即死は免れまい。
 触れただけで全てを溶かす光の線は、まさしく必殺の一撃である。

 しかし、その標的である三名もまぎれもない英霊の身。
 ネブカドネザルは野生の勘で危険を察知する。
 為朝は射手としての経験とセンスで弾道を予測する。
 首なしライダーは仲間の挙動を察知しての反射神経で回避を決行する。
 三者三様の方法。
 三者三様の理論。
 それに従ってネブカドネザルと為朝は左右に跳び、首なしライダーは前進した。

「(行くぜ相棒、速さ(スピード)の向こう側ッ!!)」

 圧倒的、あるいは暴力的な加速。
 稲妻のような轟音を響かせ、ハイウェイの怪物が疾駆する。
 車体を限界まで傾け、足が地面につくのではないかと思うほどの角度での直進。
 もはや曲芸どころが魔技の域にある操騎によって、首なしライダーは熱線の下をくぐってみせる。
 超高温の熱線は振れずとも首なしライダーの肉体を焦がすが、負傷と呼べるほどの物でもない。
 一拍遅れ、先ほどまで三人がいた場所にて爆発が起きる。
 だがそこに誰もいない以上、被害を受けた者も当然いない!

「首なしのォ!」

 後方から、為朝の矢がタロスへと射掛けられる。
 二発、三発と速射される矢の連撃は、しかしタロスが乱雑に手を振って払うと、着弾と同時に焼失した。
 タロスの体内に流れる灼熱は、触れたものを灰燼に帰すほどの凶悪な熱量を誇る。
 伝承に曰く、踵の栓が弱点であるというが…………


「(しゃあねぇ、来い為朝!!)」
「ッ―――――しくじるなよ、首なしの!」

 首なしライダーが、タロスの前で急速にターン。
 極端に傾いた姿勢のまま、直角にカーブする。
 当然、その先にあるのは迷宮の壁。
 正面からそこへ向かえば、待っているのは衝突のみ。
 しかして彼は操騎の英霊。
 これより魅せるはハイウェイの魔物が編み出した絶技!

「あ、あれは!」

 いつの間にか復活していたカインが驚きの声を上げる。

「『壁を走っている』だって――――ッ!?」

 そう、首なしライダーは、迷宮の壁を走破して見せる!!

「(ハッ、俺を誰だと思ってやがる! 世界一のライダーなんだぜ、俺は!!)」

 そのまま天井へと駆け上り、螺旋を描くようにタロスへと向かっていく。
 鈍重な青銅の巨人では、縦横無尽に迫りくる首なしライダーを捉えられない!
 そして見事に首なしライダーはタロスの脇を抜け、背後を取ることに成功し―――――

「(今だ為朝ォ!)」
「応ッ!!」

 極限まで引き絞られた矢が、『首なしライダーめがけて』空を裂く!
 誤射ではない。アーチャーともあろう英霊が、誤射などするわけがない。
 そう、これは必要な工程であり、最適な行動である。
 為朝が矢を射かけると同時、流れるようにウィリーターンを決めた首なしライダーは脳無き頭蓋で思考する。

 重要なのは、集中力とタイミング。
 視覚ではなく、感覚で周囲の物体を感知する首なしライダーだからこそできる技を見せなければならない。
 誰よりもバイクに親しみ、既に体の一部と言ってもいいほどにその扱いに習熟した首なしライダーだからこそできる技を見せなければならない。

 矢が迫る。
 直撃すればバイクごと木端微塵になりかねない、ミサイルのような矢が迫りくる。
 だからこそ首なしライダーは全神経を集中させる。

 矢が迫る。
 次の瞬間にはバイクごと木端微塵にするであろう、ミサイルのような矢が迫りくる。
 だからこそ首なしライダーは――――直撃の瞬間、全力でウィリーしたままの愛機をターンさせた。


「ハイジョ ハイ――――――――――――――――――――――――」

 衝撃音。
 同時に、タロスの体から熱が抜けていく。
 その右足の踵に刺さっているのは、一本の矢。
 無論、為朝が放った矢である。
 なぜ正面から撃った矢が踵に命中しているのか。
 どころか、なぜ首なしライダー目がけて放たれた矢がタロスに当たっているのか。

 理由はそう難しくない。
 そう、ただ曲芸を披露しただけだ。
 バイクの前輪に飛来する矢を絡め、急速なターンによって弾道を180度反転させる――――――――――ただ、それだけの曲芸を。

「■■■■■■ーーーッ!!!」

 直後、動きを止めたタロスの頭部が拳によって吹き飛ばされる。
 ネブカドネザルの強襲だ。これによって完全に機能を停止させたタロスは、壊れた玩具のように力なく倒れ伏した。

「(っしゃあ!)」
「でかしたぞ、首なしの!!」

 高速で飛来する矢を、タイヤの隙間に通してそのまま反転するなど、およそ尋常の技ではない。
 しかしそれをこなしてみせるから、彼らは英霊足りうるのだろう。

「やったね首なしライダー! 俺はキミはできる奴だって信じてたよ!」
「(テメェに褒められても全然嬉しくねぇ)」
「で、それで関羽は!?」

 勝利の美酒に酔う間もなく、為朝が背後を振り返る。
 今でもそこでは関羽がアステリオスと戦っているはずであり、真っ当に考えればかなり苦戦しているはずで―――――




「『武神龍突(みち、はばむものなし)』――――!!!!」
「■■■■■■■■■■■―――――――――――ッ!?」




 ――――――――――――なんかまたブッパで終わってた。

「ああっ、アステリオスちゃん大丈夫!?」
「……強すぎだろあいつ」
「(もう全部あいつ一人でいいんじゃねぇかな)」

 なんかバイクの操縦の腕前とかどうでも良くなる強さであったと、後に首なしライダーは語ったという。



 ◆



「…………で、次は虎だっけか?」
「ああ、虎縞山と言ったか」
「■■■■■ーーッ!」

 牛迷宮で二体の巨神を下し、先へと進むカイン一行。
 次なる目的地は虎の宮、虎縞山!

「でもさー、なんか皆鯖で虎属性っていたっけ?」
「(……獅子ならいくらでもいるが)」
「虎は思いつかねぇなぁ」
「……翼德は豹であることだし、私も思いつかんな。一応私も五虎将軍ではあるが」
「まー虎ってぶっちゃけネタっぽいもんね! 某タイガーのせいで!!」
「(おまえホント恐れる物なんもねぇな)」
「殺されないからね! ありがとう神様って感じ!」
「一応罪の証だろそれ……」
「……筋金入りよな」
「■■■■……」



 ◆



「よく来たな、人間ども!」
「人間じゃないのも見えるけど、まぁ頭領にならってよく来たなと言っておこうかしら」

 カイン一行が虎縞山の門をくぐると、果たして番人はすぐに見つかった。
 大男と童女、まるで親子のような二人組の番人である。

 大男の方は、アステリオスに匹敵するほどの巨体、虎柄の腰みの、そして天高く伸びる一本の角。
 童女の方は、あまりに可憐な容姿、しかし同居する妖艶さ、そして水着のような虎柄の衣服と、額から伸びた二本の角。
 すなわち、日本最悪の妖怪の一人酒呑童子と、その腹心茨木童子である!

「……虎柄って、あれか」
「(…………鬼のパンツはいいパンツ)」

 で、虎柄パンツが定説である。


「うへー、苦し紛れ感が凄いねぇ!」
「ハイそこー、こまけぇこと気にしてんじゃねぇぞ人間共ー」
「まぁ私の場合、そこからもう一つ発展してダーリン浮気は許さないっちゃ! みたいな感じになっちゃってるけどね」
「というかキミたち、犯罪臭バリバリムンムンだよ? お巡りさん呼ぶ? 平安京から対妖怪専門警察機構頼光四天王呼んでくる?」
「……あ? テメー今誰の名前出した? あ? 言ってみろやコラおう」
「頭領、頭領、クールダウンクールダウン」

 なお、現在この二名は狂化していない。
 お祭り企画だからとか、別のクラスで現界してるとか、そういう理由で各自納得して頂きたい。
 というか「■■■■ー!」の使い手が複数いるのはめんどくさいということがさっきの件で分かったので正直もう勘弁願いたいのである。

「…………それで、私たちは貴様らと戦えばいいのか?」
「パワー系二連戦かよ……」
「正直ちょっとおなかいっぱいだよね。もうちょいなんかないの?」
「■■■■■……」
「(真面目な話俺はもうあんなハードワークしたくないぞ。どこぞの関帝のせいで凄まじい虚無感すらあるし)」
「あら、ひなんごーごーね」

 しょうがないわね、と言って後ろに引っ込む茨木童子。
 しばらく待つと、彼女は大きな箱を抱えて戻ってきた。

「よいしょ、っと……」
「(……おい、なんだそりゃ)」
「なにってオメェ、決まってんだろ。俺と殴り合い宇宙以外の方法で戦いてぇんだろ?」
「まぁそうなるが……ではどうやって戦うと言うのだ?」
「そんなもの、決まってるでしょ? 頭領の名前を考えてみなさいな」

 言葉と同時、木箱が開く。
 中に入っていたのは――――――

「ってこれ全部酒じゃねぇか!」
「(一体何本あるんだ、こりゃ……)」
「ああ、酒け呑みと書いて酒呑童子だからな……」
「そういうことよ。つまり――――」

 酒呑童子が一升瓶を高々と掲げ、腹からの大音声を響かせる。
 酒飲みの鬼と人が戦うのであれば、無論方法などただ一つ。
 生前は頼光の神便鬼毒酒にまんまとしてやられたが、そういった例外を考慮しなければ鬼が無敵を誇る競技!

「――――――飲み比べと洒落込もうや!!」

 すなわち、人間側の敗北が割と最初から決まっている出来レースである――――――!!


「あら、失礼な。確かに頭領は死ぬほどお酒に強いけど? それでも底なしと言う訳ではないのだし、ハンデだってつけて上げるわ」
「ナチュラルに地の文にツッコんだことはスルー安定でいいとして、ハンデ? ハンデつけてくれるのかい?」
「ええ、もちろん。貴方たちは五人……首なしのあなたはお酒は飲めないでしょうし、四人かしらね。
 ともあれ、潰れたら次の人にタッチして試合を継続していいわ」
「ふむ。つまり……酒呑童子が我々に対して勝ち抜き戦を挑む、ということか?」
「おうさ! そのぐらいのハンデは付けてやらなきゃ話にもなんねぇからな。ま、これでも楽勝だが!」
「うふふ、素敵よ頭領!」

 そういって笑う大男と、頬を赤らめてしなだれかかる童女。
 どう見ても犯罪だが、これで平常運転だというのだから恐れ入る限りである。



 で。

「まぁ戦闘よりはマシか……その勝負、受けるとしよう。私から行くぞ」
「お、いい度胸だな。ちなみに一升瓶一気のみな」
「えっ」

 突如衝撃の事実が明らかになり。

「翼德のバカモンがぁ! 畜生めぇ、あの野郎、人生ってもんがだなぁ……」
「関羽ーーーッ!」
「はーい一名様敗退ねぇ。くすくす。頭領ったら素敵だわぁ」
「クッ、なら次は俺が行く!」

 あんまりお見せできない感じになってしまった大英雄とか。

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! おらぁ俺の酒が飲めんのかァ!!」
「(為朝ーーーッ!! うわやめろ俺はそもそも酒飲めねぇって!!)」
「二人目も落ちたなぁ! こりゃ話にもならねぇぞオイ!」

 背景で亡霊に絡む平安武士とかが爆誕しつつも。

「おら次は誰だぁ!?」
「ね、ねぇ、あの人もう一升瓶七本目だと思うんだけど!?」
「(怪物かよ! あ、怪物だわ!)」
「くすくす、頭領に飲み比べで勝とうなんて無茶無理無謀の三拍子揃ってるのよ!」
「■■■■■■……」
「い、行くのかいネブさん!?」
「(確かにカインは一発でKOされそうだが、大丈夫なのか!?)」
「■■■■■ーーーッ!」

 勝負の行方は、バビロンの建築王の手に委ねられた――――ッ!


「はっ、ネブカドネザル二世……最初から酔ったみてーなツラしてんじゃねぇか。こりゃまた楽勝か?」
「ふふん、そんなやつ軽く一ひねりしちゃってよ頭領」
「おう、任せとけや茨木!」

「が、がんばれネブさん。真面目な話もうあなたが最後の希望だから……」
「(俺はあんたが負けたらもう逃げるからな)」

「ではお二人、お酒のご用意はよろしくて?」

 堂々と胡坐をかき、片手に一升瓶を持つ酒呑童子。
 対するは、立ったまま一升瓶を持ち、闘気をみなぎらせるネブカドネザル二世。
 音頭を取る茨木童子が両者の間……ではなく酒呑童子にしなだれかかりつつ、両者の意志を確認する。
 無論、異を唱える声は無し!

「よろしい。それでは、せーの……はい頭領の! ちょっといいとっこみってみったい! そぉれいっき! いっき!」

 そして一方的な応援を火ぶたとして飲み比べ勝負が始まった!!

「どんだけ酒呑童子好きなのあの子」
「(やっぱ何度見ても犯罪臭が……ってそうじゃねぇ、ネブカドネザルは!?)」

 グイグイと勢いよく一升瓶の中身を干していく酒呑童子。
 その圧倒的なペースに、関羽も為朝も自らのペースを見失って敗北した。
 しかし今度のネブカドネザルはそんな愚は犯さない。いや、犯すことで犯さない。

「ば、馬鹿な! あれは!」
「(正気かあいつ!?)」
「こ、こいつ、まさか頭領のペースに追従するつもりなの……!?」

 そう、酒呑童子に匹敵する速度でのラッパ飲み!
 これが自分本来のペースだと言わんばかりのハイスピード!
 あっという間に一升瓶は空になり、両者同時に二本目の瓶へ手が伸びる!!

「すごいやネブさん……酒呑童子相手に一歩も引いてない!」
「(だが、このペースで持つのか!?)」
「そ、そうよ! 狂化しているとはいえ、ただの人間があんなペースで飲んで大丈夫なはずが――――」

 ――――否、その身は人でなく英霊である。
 つまり、だから、なればこそ、この無謀な暴飲も勝機があってのこと!


「(お、おい、あれ……ネブカドネザル、ちょっとフラついてきてねぇか!?)」
「ほ、ほんとだ! 流石にあのペースは無茶――――いや!」
「そんな……あの状況から持ち直して……違う、酔いをレジストしてるんじゃない、リカバリーしてるんでもない、リセットしているというの……!?」

 そう、ネブカドネザル二世の宝具、『七つ時越え至る王道(コンカー・ライカントロフィー)』は常時発動型の宝具。
 七を冠する時間の経過によって、あらゆるバッドステータスを無効化する異能。
 かつて唯一神にかけられた呪いを、7年の時を経て弾き返した逸話の具現!

「(だが、あれは魔術かスキルに起因する不利の無効化だろ? ならただの酒には意味は無いはずじゃ……)」
「いや、魔術なんだ。日本三大悪妖怪が保存してた酒だよ? なんらかの魔力に中てられ、酒自体に妖気が染み込んでいる可能性は高いと思う」
「こ、こんなの無効よ! ズルよ! 反則じゃない!」

 茨木童子が喚くことなどお構いなしに、ネブカドネザルは次々と一升瓶を空にしていく。
 酒による酩酊。そのあまりに軽度なバッドステータスの解除に要する時間は、僅か7秒。
 つまり、7秒以内に酔いつぶれない限り、ネブカドネザルが酔いつぶれる瞬間は永遠に訪れないということ――――!

「おいおい、馬鹿言ってもらっちゃ困るな。お互い宝具を使っちゃいけません、なんて決まりを作った覚えはないよ?」
「(……ここぞとばかりに悪い顔しやがってお前)」
「こんの、人間風情が……ッ!」

 文字通り、鬼の形相で童女が歯噛みする。
 だがそうこうしている間にも勝負は加速し続け、次第に酒呑童子のペースが落ち始めている!

「頭領! もうダメ! そいつは決して酔わないのよ!」
「グゥ……俺が……鬼の頭領であるこの俺が、こんなところで終わってたまるかってんだ……!」
「頭領……」
「■■■■■■■ーーーーーッ!!!」

 ネブカドネザル、ついに両手に一本ずつの一升瓶を構える。
 二刀流。単純計算でペースは二倍。
 ここからさらに突き放しにかかるその姿は、弱った得物を追い詰める狼か、あるいは優れた圧政者か。

 そしてついに、酒呑童子が酒を飲む手がピタリと止まる瞬間が――――――

「頭領!」
「すまん、茨木――――――――――――――――――――――――――――――――――――もう無理限界気持ちわるいげろぶしゃあ」
「えっ、ひゃっ、いやまって頭領流石にそれは汚いってうわちょいやああああああああああ!?」

 ――――――決着――――――




 ――ただいま映像が乱れております。少々お待ちください――





「…………なー、悪かったって茨木ィ。でもしょうがねぇだろぉ? お前が俺の顔覗き込むもんだからさぁ」
「ひぐ、えぐ、うぅ、酸っぱい。汚い。ひぐ、汚されちゃったよぅ……」
「な、泣くこたねぇだろうがよぉ茨木ィ」
「(おい犯罪臭さらに倍率ドンだぞ)」
「ともあれ、勝ったね! すごいやネブさん!!」
「■■■■■■ーーーーー!!」
「(あー、じゃあ……酔っ払い回収して次行くか)」
「大体いつの間にか仙人の部下とか増えた私の気持ちをだなぁ……」
「うひゃらひゃらひゃらうひゃひゃひゃひゃ! お、あんなとこに軍艦あるじゃねーかよしうちおとーす!!」
「(…………放置したい)」
「同じく」
「■■■■……」



 ◆


「さて、次は兎平原! ……なんだけど、約二名ダウンしてるからちょっとお休みしようか」
「(まぁ、仕方ねぇな……)」
「というわけで読者のみんなー? 悪いんだけど続きはまた今度! また今度更新するから、ちょっと待っててねー?」
「(は!? ちょ、これ日をまたぐのか!? エイプリルフール企画なのに!?)」
「なぁに、実際これ投稿してる時点で実は4月2日だから遅れは今更だよ!」
「(ひでぇ開き直り方したなオイ!)」
「さてそういうわけだから、続きはまた次回!! 次回弱鯖カイン、首なしライダー死す! をお楽しみに!」
「(死ぬ予定はねぇよ!?)」

 そんなこんなで(エイプリルフールはもう終わっているが)戦え、カイン!
 なにがあろうと(エイプリルフールはもう終わっているが)負けるな、カイン!
 彼の願いは(大事なことだから三度言うがもう終わった)エイプリルフール限定の聖杯に届くのか!?
 見よ、皆鯖の夕日は(特に意味はないが)赤く燃えている!!!!!!