もとはといえば、私のメイプル友人であるHKF様に「短編小説を書け」といわれたのが発端でした。
さらに色々とご提案がでた中で、結論的に「ピーピーピーでピーな短編小説」という課題になり、拙文ですがひとつのストーリーを書く事となりました。
以下本文です。流し読みでどうぞ。ストーリー自体はほぼ完結したので、気が向き次第アップしてまいります。
なお、実際の葉月の中の人は筆者ですので、あしからず、、。
LastUpdate:2010.06.09
完全に詰まったので、スピンオフを書き直し。
(本編)
(スピンオフ)
1|あたし、葉月
ギルドクエストへの参加の為、私は葉月とぺリオンへの道を急いでいた。
東の岩山は、初心者にとって格好の狩場。ここで狩りをしている彼らを見ると、いつも自分が若かった頃を思い出す。
いくら叩いてもびくともしない切り株の様なモンスター。時々私を追いかけてくるイノシシ。イノシシはやたらと私を追い回してきた。「追われる事が苦手」な私にとっては恐怖以外の何者でもなかった。
その道も──今は何事もなく通り過ぎるだけとなったこの道。今日の足取りが重いのは照りつける太陽のせいだけじゃなかった。
「葉月さー。」
「うん?」
「やっぱりその、お前のその服は・・どうにかならんのかね。前がはだけすぎというか。」
最近の聖魔の方がどんな格好をしているのか知らないけれど、黒いマントに黒のパンツ。黒髪。
覗き込むとひんやりとしてそうな黒い瞳。
聖魔というより黒魔法士といった出で立ち。
そんな風貌でありながら、彼女はアンダーシャツを着ていないので、オジサンにとっては目のやり場がない。
「別に見られるほど膨らんでないからいいでしょ。ってか、ずっとそんなとこ見てたの???」
「いや、そうじゃなくって;」
「変態。」
「違う!」
「変態。」
「うぅ、、」
”
動きやすいからだよ”と、いつか聞いた事があって、そうかー。まぁ着込んでるよりは身軽かもな、とはいったものの、基本的にディフェンスに徹している事が多い上、戦士のスタンスを使えているんじゃないかと思うほど不動のヒーラーなので、実際に戦闘中に色々と動いている彼女を見た事がない。
「誰へのアピールなんだか」なんて事を言うと、「もう疲れた」なんて言って座り込むから黙っている事にする。
ぺリオンの日差しが高くなってきた。ベースキャンプがやけに遠く感じる。
「葉月。こういう時はテレポでさっと走ってドアをだしt」
「こんな危ない道をあたし一人で歩かせるの?;;」
「そうじゃなくて;」
「もう疲れた。座る。」
----
初めて彼女に逢ったのは、神社のたこ焼き屋だった。
「いらったいまてー」
舌っ足らずな口調。大将の横でたこ焼きを売りさばいていた。
彼女のいるチャンネルのたこ焼き屋はいつも盛況で、深夜にもなると焼き疲れた大将がゴミの様にくちゃくちゃになっているのをよく見かけた。
私も買ってみた。
「ジャンボたこ100個、急ぎでね!」
「はいw」
盛況だけあって、味もなかなか美味い。屋台でも美味いたこ焼きがあるもんだなぁと感心した。
よくよく見るとジャンボじゃなかったことに気づいたのは、残り3個ほどになってからだった。
それから私はビシャス、ジャクムへの遠征に出る事となり、神社からも、たこ焼き屋からもしばらく足が遠のいていた。
久々に踏み入れた神社。
ベンチに座るカップル、ペリカンの横でON寝するヒーロー、ガチャポンを一生懸命回すビショップ。「カニクエ行こうぜ!」と叫んでも仲間たちに完全スルーされている20代のマジシャン。「何かいいものください」。
あのたこ焼き屋。
「Jたこ100個ねー。あれっ、大将、今日はひとりかね?」
「あぁー。あの子ね、「行きたいとこが見つかった」っつってやめよったよ。もう随分前になるね。兄さん最近どこで稼いでたのw」
「あぁ、ちょっと遠征にね。そうかー。まぁ、年頃が年頃だしこれからいろんなとこゆきよる時期かな。でもいい看板娘だったね。」
「だろー?w夏の繁盛で年末はいいバカンスが取れそうだよw おっ!おっ!そこのお姉ちゃん夜更かしは肌に悪いよ!たこ焼きどうだい!」
「大将俺のJたこ早く」
大将はまた意味不明な呼び込みの日々に戻っていた。まぁ、広い様で狭いこのワールドだから、彼女ともまた何処かで逢う事もあろうね。と思って、あつあつのたこ焼きを抱え、イノシシにまたがったまま頬張っていると、イノシシのケツが少し沈んだ。ん・・・?
たこ焼きを持ったまま振り向くと、あの看板娘が断りも無く私のイノシシに2ケツしている。振り向きざまに私のJタコを食べ去り、屋台に立っていた時の様な笑顔を見せた。
「あたし葉月。」
聞いてない。
「おっちゃんよく女の子と屋台の前通ってたよね。」
「あぁ、見てたんだ。」
「うん。イチャついちゃってさ。」
初対面で失礼なヤツだなと思ったけど、覆せない事実があるから大人しくした。
「で、何?」
「別に。」
「別に、って、そろそろおっちゃん行かないといけないから、おりてくれんかね。」
「え、え、え><」
「え、じゃないよ。イノシシ走れんから。」
「可愛い子を後ろに乗せて走りたいとか言ってなかった?」
「言ってない。」
「嘘。あたし聞いてたもん。カニングで言ってた。「手をつなぐPアイテムがあるといいね^^」とか、「抱きしめるスキルを下さい><」とか。あとなんだっk」
いい加減イラッと来て言葉の端をブッた切った。
「あのさ、何か用事があるんだったら言ってくれんかね。無ければ私はもう出かけないといけないから。」
「どこに?」
「ビシャス。もうみんな待たせてるし。」
「フーン。」
「じゃぁね。かわいい葉月さん。」
「ばいばい。」
時間も押し迫っていたので、テレポ石を使って一気にルディブリアムの時計塔を下り、皆の待つ時計塔の奥へと急いだ。
少しきつく言い過ぎたかな。まぁ、いいや。
ダブルさんの”ハムスター話”と、モグちゃんの笑い声が高らかに聞こえる。
「でさー、ハムスターみてたらモグちゃん超思い出しちゃって>< つい声かけちゃったよ><」
「こらーーーーーー!!!><」
「ダブルさんwww」
「wwwww」
「ごっめんみんな待たせた!なんか神社で変な子につかまって;」
「あっ、きたきたw おはよーw」
「こん!ふとんさんw」
「こんばんはーw」
「おはようーw」
「あたし変な子じゃないー」
みんなの間に、ごくつい最近見た事のある出で立ちのプリーストが居る。
ダブルさんに内緒を送った。
「ってか、誰ですか彼女・・・」
「あ、ふとんさんに誘われたってゆってたからグル入ってもらったよw こんな可愛い子と知り合いとかヤーネー!」
・・・。
「ふとんさんwwさっきまでふとんさんのハズカシ話で持ちきりだったよw葉月ちゃんよく知ってるんだねーw」
「じゃ、とりま行きましょうかwwふとんさんも入ってw」
「はーいw葉月も頑張りますw」
あれから半年が経った。
2|ばか。
閑散としている夜のベースキャンプ。他のギルドはいつこのシャレニアン遺跡へ入っていっているのだろうと不思議になる。早く到着できたのもあって、ギルドの皆もちらほらだった。
「葉月、ぺぺこちゃんとおちぐちゃんにドア出してあげて。」
「え、いや。」
「いやって言うな。」
「おっちゃんはあたしが寝たあと、よく2人と話してるよねー」
「うんうん。」
「あーやっぱそうなんだ。」
「何;」
「別にー。 あっ、科学さん>< 栗の中のひと見たい><」
「葉月さん中の人は勘弁してください、、、今日もアレやりますか。。。」
「うんw」
葉月はきまって午前1時に寝る。
何故1時なのか判らないけれど、この半年私についてきている中で、1時を超える事は今まで1度も無かった。
時々深夜のジャクムに誘ってみるけれど、「だめ。」の一点張りで、朝まで一緒にいるとか、そういう事が無い。
普段は気がつくと私のイノシシに勝手に座っているので、いつ起きているのか、私が居ない間は何をしているのかも知らないし聞いたこともない。
よく考えると私はそんなに葉月の事を知らないまま、この半年ほど一緒にいる。
そんな考え事から帰ってくると、葉月は栗ハニー・栗ダーリンのカップルの間に入り、「チャンネル変更着地点 ゆで栗地獄」で遊んでいた。
「かつさんすみません、、なんか葉月がぐずっちゃって; ドアお願いします。」
「OKw」
すっかりウインクを気に入った彼に輸送をお願いした。
---
今日は何もかもがスムーズに進み、ネクロマンサーの第5段階まで20分を切る勢いで進んできた。
「うぉぉぉ!まわすぞー!!」
「えっ、ダブルさん上wwww 」
「どう!ヒーローが上とかなかなかないでしょw」
「そっ、そうだね;」
ミスターダブルむし、まさかの歯車回しと相成ったものの、そうやって多少は遊んでも楽々クリア出来るほど、犬小屋の皆さんのパワーでギルドクエストが楽しくなってきた。
私はというと、今日は練習がてらバーサーク状態で挑む事にした。
「じゃ、参りますよ!」
石造と共に姿を現したネクロマンサー。
戦闘がはじまり、ネクロマンサー1本に絞って槍を降り続ける。
「ふとんさんHBくださいw」
気づくとPTの皆にハイパーボディが届いていない。
攻めにかかる余り、前に出すぎた。
「あっ、すまん;うっかり出すぎた;ちょっとまってな;」
折りしも私たちの一斉攻撃を受けたネクロマンサーが、狂った様に召喚獣を沸かせ、今まさに地獄の咆哮を吐こうという態勢に入った。
これではラッシュが間に合わない。そうだ葉月。葉月の基礎体力では咆哮に耐えられない。
なんてことだ!
十分に息を吸い込んだネクロマンサーが、ありったけの魔力を咆哮にして吐きだした。
葉月の姿がまばゆい光に包まれてゆく。
逆に目の前が真っ暗になった私は、ネクロマンサーもハイパーボディもどうでもよくなり、ありったけの声で叫んだ。
「葉月!葉月─────────!!」
私が叫ぶと同時に、ネクロマンサーは本日の主砲、科学さんの前にアッサリと倒れた。
皆が私を見てニヤニヤしている。
「wwwwww」
「は・づ・き!は・づ・き!」
「はづきー♪」
「はづきぃぃぃwww」
「感動的なシーンでしたねwww」
「葉月ちゃん愛されすぎwwwwwww」
「え・・・@@」
目を点にしていたのは私だけだった。
「葉月さん、なかなかの立ち回りでしたね!」
──うつ伏せになった状態から立ち上がり、コートの砂埃を落しながら、葉月はこの上なくキツイ視線と短い言葉を私に投げかけ、次の扉へと歩いていった。
「ばか。」
3|いちご味
ギルドクエストからの帰り道。
すっかり埃まみれになってしまったので、葉月と一緒にショーワの風呂を訪ねた。
「ヒカリ婆ぁ!」
「おー葉月ちゃんや! ん?おや随分日焼けしちゃって。どこいってきたんだい?」
「えっと、ギルドクエスト! でもおっちゃんがぺリオンから歩くとか言うからさー。すごい焼けちゃったよ;」
「おおそうかいw そりゃ大変だったねぇ。さ、ひとっ風呂浴びてきなw」
「はーい!」
私は首を横に振りながら暖簾をくぐった。
「ふとん。」
ヒカリ婆がのれんからヌッと首を出してきた。その姿はそこらへんのモンスターより怖かった。
「あ、はい。」
「あんた、あの子の事ちゃんと知ってるのかね。」
「いえ、あんまり、、」
「守っておやりよ。」
「婆は知ってるんですか?葉月の事。」
「あたしが何十年ここに立ってると思ってるんだね。」
言うが早いか、のれんから首を引っこ抜いた。ちょうちんお化けみたいだ。
守って、か──。
---
男湯の暖簾をくぐると、まだ誰もいない、石鹸の香りもしないお湯の香りに満たされていた。
今日はゆっくり浸かって一杯飲んで寝るか~と思っていると、コートを今まさに脱いでいる葉月がいた。
「あれ、、」
慌てて外に出て暖簾を確かめる。「男」と書いてある。
葉月が男湯に居るからといって「女」の暖簾をくぐれば、それこそワールドを挙げての変態扱いにもなりかねない。
出来るだけ視線をやらない様にもう1度男湯の暖簾をくぐった。
「おい、葉月。」
「うん?」
「なんで俺と同じ脱衣所にいるんだ。」
「え、え、え><」
「え じゃないよ。こっち男湯だろう。メンズが入ってきたらたまげるぞ」
「メンズはダメでもおっちゃんはいいの?」
「いや、そうじゃなくって;とりあえず服きて女湯いってくれ;俺が入れん;」
「もう全部脱いじゃった」
「勘弁してくれよ、、」
意を決してちらっと目を上げると、タオルを巻いて湯煙の中へ消えてゆく葉月が見えた。
普段はコートに包まれているので判らなかったけれど、湯煙の中に消えてゆく葉月の体のラインは、随分細く、小さく見えた。ツインテールをほどいた黒髪の彼女は、ずっと大人びても見えた。
ほうほうのていでようやく浴室に入ると、葉月は湯船につかり、アヒルのオモチャで遊んでいた。
「遅い。」
「入りづらくしてるのは誰だよ;」
「女の子とお風呂とか入ったことないの?」
「いや、有るとか無いとかそういう問題じゃないだろう;」
「フゥン。」
連戦が多かったので、久々に入る風呂は極楽だった。
「なぁ葉月。」
「うん?えっ、ちょっ、ちょっとやめて!そんなの無理!」
「何のリアクションなんだよそれ;読者が誤解する」
「葉月は今おっちゃんに抱っこされてお風呂にはいってます><」
「ややこしいことを言うな。」
2人で入ると意外と狭い風呂だった。
「あたしさー」
「ん?」
「お父様以外の男のひととお風呂入るの初めてなんだよねー」
「まぁ、そのうち葉月に好きな人が出来たら、一緒に入ることになるよ。」
「そんなもんなの?」
「うーん。どうなんだろうな。まぁ、恥ずかしいのは恥ずかしいな。っていうか葉月はそういう人とか居ないのか。」
「知りたい?」
「いや、やっぱりいい。」
「聞きたいくせに。」
「さ、もう茹で上がりそうだし出るぞ。」
「え、ちょっと待って。あたしが先。もう限界。」
「私ももう無理だよ;30分もつかってるんだぞ;」
「やだ、あたしが出てくるとこ、おっちゃんのねっとりとした視線で見られたくない。 あっ、そうだ!」
軽くひどい言われ方をした様な気がするけれど、余り心に来なかったのはこういった葉月とのやりとりに慣れてきたからかも知れない。
「ん?」
急に目の前が真っ暗になった。
「おぁ、なんだ!ってか、タオルか!こらタオル巻いてけ!」
「ベェww」
ドアに鍵をかけられてしまった私が、解放されて真っ赤になって出てきたのは、それから30分近く後だった。
「あ、あっつい、、、」
倒れこんだ私の真上に葉月の顔があった。いちご牛乳を飲んでいるらしい。まだ頭にタオルをかぶったままの彼女を見ながら、そういえば葉月って普段化粧してなかったんだな、とフト気づいた。
「葉月、そのいちご牛乳をくれ。」
「え、だめ。ヒカリ婆におごってもらったんだもん」
「またおごって貰えばいいじゃないか。とにかく少しくれ。」
「いちご味だけでもいい?」
「うんうん。なんでもいい。」
「じゃぁー・・」
「ん?」
葉月が素早く唇を重ねてきた。ほんのりイチゴの味がする葉月の唇は、茹だった私の体温を更に上げた。
「こっこら!」
「だって味だけでいいってゆったじゃんー あっ、ヒカリ婆のとこいってくる!」
「おい! あっあれ、眠い、、、なんだ;」
急に物凄い眠気に襲われ、私はそのまま寝てしまった。
---
目を覚ますと横でヒカリ婆がスイカを切っていた。
外で葉月が話している声が聞こえる。
「はいはい!どうも!湯上り美人(*´д`*)ハァハァ」
あの元気な声はきっとエリケンさんだ。葉月、頼むから余計なこと喋って私の醜態を晒さないでくれよ・・。
「──あ、婆。すみません。こんなとこで寝てしまって」
「そのまま寝たフリをしてお聞き。」
「あはい。」
婆もそんなに葉月の事を知ってるわけじゃなかった。
私が彼女と出会う少し前から、葉月が婆に私の話をしだした事。
それ以前は神社のベンチで1人でじっと座っている様なおとなしい子だった事。
婆の前で時々泣く事。
ほんの少しだけれど、私の知らない事ばかりだった。
「全く。あんたもあんないい子に好かれるなんて幸せなもんだね」
「好かれてるかどうかなんて知りませんよ私は、、」
「ちゃんとあの子の気持ちに答えてやるんだよ。あの子のファーストキスを奪った責任は大きいぞ。」
「え、、奪ったんじゃなくって奪われたんです!あれ、奪われにこられた?、んーまぁいいや;あれは事故です。」
「女心がわからん子だね。ほれ。スイカ切れたよ。はーーーーづきちゃーん!はいっといでー!」
急に叫ぶから耳が割れるかと思った。そこらへんの拡声器より婆の声はでかい。ゲームの様に言うと「全チャなのにピンク帯」だ。
「はーい!」
晩はヒカリ婆の家でご馳走になった。
4|今忙しいの
このところ葉月が一人で居る事が増えた。
一人で居るのか、誰かと居るのかは判らないけれど。
ダブルさんやギルドの皆に呼ばれて遊んでいても、思い出してつい内緒を送ってしまう。
「何してるの?」
「ごめん。今ちょっと忙しいの」
「そっか・・」
探してみると、魔法都市マガティアの地下にいつも居た。確かあそこには祭壇が有ったのを見た記憶がある。あの祭壇では石だったか何だったかを作る様な神器があった様な。
しばらくすると、何食わぬ顔で私のイノシシに乗っていたりする。
「ん、いつから居てたの?」
「さっき。」
「そっか。でさ、葉月。」
「うん?」
「最近マガティアで何してるの?」
「あっ、探したんだ。やらし!ストーカー!」
どちらかというとストーキングされてるのは私なんじゃないかと思ったけれど呑み込んだ。
「そうじゃなくって;」
「そうじゃん。あたしが何してるのか気になるんだ。」
「うん。」
「どうして?」
「どうしてって、、」
「教えない。あ、でも!素敵な彼氏と一緒にいるのかも!」
「もういい。」
「もういいの?」
「何だよそれ;」
不毛な問答に嫌気がさした。このままじゃずっと気になるし、別の話題に変えたい。
「そういえばさ、次のアップデートでヘアバンドが貰えるクエストが実装されるみたいd」
「おっちゃん、あたしのこと好きでしょ。」
不意に葉月が私の言葉を遮った。
「好きとか、そういうのんじゃないよ」
「じゃぁなんなの?」
「ほら、いつも一緒に居るのに、急にこなくなったりすると心配なんだよ。」
「気になってるんだ。」
「気になってるよ。」
「好きなんだ。」
「そうじゃなくて。」
「ロリコンー。」
「意味がわからん;」
「やっぱり若い子がいいか^^」
「自分で言うな。」
「ヒゲ、剃り残ってるよ。そんなじゃモテないよ!」
「いいだろーもう今日は何処にもいかないんだから。」
「あっ、引きこもりだ!なんだっけ。エリン森のかたつむりみたいになるよ!コケが生えてさ。」
「ああやってゆっくり暮らしたいもんだね。」
「ね、船乗りたい。」
船に乗ることになった。
5|二人で
エリニアステーション。
「葉月、船出るぞ」
「待って。」
「何してるんだよ。」
「うぅ、髪が・・・っ入ったっ。今いくっ。」
船積み待ちの木箱の陰から出てきた葉月は、私と同じ白ワッチをかぶっていた。
「白ワッチ?」
「うん。」
「なんで?」
「寒いから。」
「葉月くん。」
「はい。」
「今は何月ですか?」
「8月です。」
「そうです。8月です。こんな8月の暑い日がどうして寒いんですか?」
8月?あれ。もしかして。
「葉月、今月誕生月かね。」
「うん。今日だよ。」
「ぶっ。もっと早く言ってくれよ;」
「聞かなかったもの。うん。だから今日はあたしをご接待するといいよ^^」
「はいはい。葉月お嬢様」
私 はエリニア-オルビス航路が好きで、一人でフラフラしていた頃は結構乗っていた。上りも下りもかなりいい風景で、オルビスへの上りの際は、眼下に広がる広
大なエルナスの雪原と海。エリニアへの下りの際は、とてつもなく巨大な森に向かって悠然と航行する。今日はエリニア発だから、ピーカンの空の下で輝くエル
ナスの雪原と絶壁が見えるだろう。
出航。
控え室に入り、下の展望デッキへ降りる階段へ向かった。
「あれ、葉月。」
姿が見えなかった。いかん。そろそろバルログが出る頃だ。
このエリニアとオルビスを往復する船には、しばしばレッサーバルログという怪物が飛来襲撃してくる。出航直後を狙ってくるのは、何も知らない旅人が眼前に広がる風景を愉しむ為に、早速上の展望台や舳先に行くからだ。
今の私にとっては敵にもならない敵だが、初心者やまだ若い子達はこのバルログの格好のエサになる。1度だけその凄惨な光景を見てしまった事があるけれど、目の前で行われた惨劇はテキストではとても表せない。当時は私にはどうにもならなかった事で、ただただ彼らの叫び声に耳を塞ぐだけだった。
私はフラッグをテポストピリーに握り替え、階段を駆け上がった。最後の段に足を掛けたその時、葉月の叫び声が聞こえた。
「ああああああああ!!」
あの時の悲惨な光景が頭をよぎった。
「葉月!!」
幸いそれらしき光景は展開されていなかった。それどころか警戒心ゼロで甲板に座っている葉月。
「頼むから心配させるな。」
「おっちゃん見て!」
葉月がデンデンを突っついていた。
「何これ。」
「バルログw」
「おいおい;バルログにドゥームかけたのかよ;」
「可愛いでしょ♪」
ドゥームというのは聖魔法のひとつで、敵をカタツムリに変えてしまう効果を持つ。バルログを相手にこの魔法を使う事も、バルログがデンデンに変えられる事も滅多にないと思うが、これでしばらくバルログも船を襲う事は無いかもしれない。
葉月はデンデンを瓶の中に放り込むとコルクでフタをしてしまった。
「1、2の、さんっ!」
魔法が切れ、ドン!という音とともにバルログが元の姿に戻ったが、瓶の中で戻った為これ以上なく窮屈な感じになっている。
「あんまり可愛そうな事するなよ;」
なんか変な事を言った気がする。
---
「葉月、エルナスの雪原だよ」
バルログで遊んでいるうちに、船はもうオルビスへと近づいていた。
「もっと旅行してる感じで言って欲しいなー」
「あはい。すみません。えっと、右手に見えるのがエルナスの絶壁でございます。海抜2200m、気候は年中雪です。絶壁にはライカンスローブやいえぺp」
「カイバツってなに?オンゾーシとかシサンカとかと同じ?」
「そ れは財閥; 海抜っていうのは、あそうか。標高が定義されなおしたから海抜ってもうメジャーじゃないんだな。うん。昔の高さの測り方の言葉で、平均海面
を0mとして図った標高のことだよ。昔は標高の基準点は海面じゃなく水準原点だったから、海抜と標高だと高さが違ったもんなんだけれど、色々議論された結
果結局標高イコール海抜という事になってね。っていうか、そもそもだよ、そもそもの話なんだけれど、メイプルの土地の高さというのは、アクアリウムの平均
海面を基準に測られててね。あ、基準っていうのは標高0mのことね。このアクアリウムの平均海面を地上に固定するために設置されたのがエルナス水準原点。
この世界の道沿いに設置されてる水準点の高さは、このエルナス水準点に基づいて水準測量によって決められてね、この水準点がその地域ごとで行われる高さの
測量の基準に────あれ、葉月?」
少し熱弁が過ぎた。
うっかり難しい話をしてしまったからか、私の砂ウサギクッションにもたれかかって寝てしまった。
「葉月・・。」
葉月とこんな旅行の様な事をするのは、これで2度目だった。
---
──初めての2人の旅行は結構最近だったけれど、とても険悪な雰囲気だった。
「いやーなんかお邪魔しちゃって悪いねwww」
「いえ^^」
「霧ちゃんそんなとこで脱いじゃだめ><」
「エリニアに服忘れてきたwww」
「これ誰のタオルー!?w」
「かつさんのじゃない?w」
「オークション!かつさんの脱ぎたてタオル!1メルから!」
「2メル!2メル!」
「ふとんさーん!たけのこにょっきしよう!」
同じ様に船に乗って旅に出たものの、葉月や私の知り合いがどんどん乗り込んできて、お座敷船の様な状況になった。
「2人でってゆったのに。」
「仕方ないだろう。こうやってみんなが来てくれるのもお前と一緒にいるとみんな楽しいからだろう。」
「もういい。」
「何スネてるんだよ;俺と2人でないとダメなのか?;」
「もういい。知らない。」
その日は結局皆とこのままジャクムへ遊びに行こうze!と云う話になり、私も行く事になったけれど、葉月は船を降りるなり
「もう寝る。」
といって行ってしまった。
---
そう考えると、葉月と2人だけで過ごすっていうのは余り無かったかも知れない。
皆 に囲まれてワイワイするのはいつも楽しかったし、成長が鈍化した私にとってのここでの愉しみの比率は、むしろ皆と遊ぶ事の方に偏っていっていた。葉月はそ
れでも一緒についてきていたけれど、先日の風呂の様な短時間はともかく、旅というクラスの長時間の2人旅はきっとこれが初めてだ。
誕生日──────か。
葉月の次の誕生日も、この船で一緒に居れるといいな。
「あたしも。」
??
───寝言か。
「ふとんさん大好きなのに、、。」
「ねぇヒカリ婆、どうしたらいいかな、、」
───────。
風呂屋の婆さんの何食わぬ顔にだまされた。
「ばか。」
「え? ふふふふふふ^^ やだw」
長い寝言の収まった葉月がふるっと震えた。窓から外をみると、丁度エルナス山頂の横だった。随分冷え込む。
暖炉に薪を足して、少し火を入れ、船員に借りた毛布で葉月を包み、子供の頃私が母親にされた様に、横になっている彼女の背中をゆっくりと、優しく撫でた。
「っ・・・・はぅ。寝ちゃってた。」
「起きたか。まだ冷えるから毛布離すなよ。」
「うん。」
「ほら、これ飲んで。」
「うん。」
寝言だったけれど、葉月の言葉が嬉しかった私は、普段より優しく彼女に接していた。
夢の中での私は、彼女と何をしていたんだろうと考えると少し笑ってしまった。
「あーもう、なんか超変な夢見た;もーやだ最悪;;」
「・・・それは大変だったね。」
何をしていたんだ───;
ともかく、初めての2人きりの旅行、兼葉月の誕生日は楽しく過ごせた。
「なぁ、葉月。次の誕生日も一緒に旅行するか。」
「うん、、」
「なんだよ。気がすすまなそうな返事だなぁ。」
「ううん!一緒に旅行する!」
「じゃ、そうしよう。」
「うんw」
先の事なんて今まで考えた事も無かったのに。そう、先の事なんて判らないんだ。
葉月とずっと一緒に居たくなっている自分に気づいてハッとした。
6|限られた時間の中、ありふれた町で
神社。
葉月がイノシシを背にしてたこやきを頬張っている。
ひとつ食べては私の方を見て笑う。
おでんや団子には全然興味を示さないのが不思議だ。
もっとも私も神社で用があるといえばたこ焼き屋なんだけれど。
「葉月、そろそろ行くから乗りな。」
「あのね。」
「ん?」
「あたし、そろそろ行かなきゃ。」
「どこに?ってか、もうみんな待ってるよ。あっ、風呂かね!」
「おっちゃんはほんと空気読めないんだねw もっとあたしの顔見ててくれてると思ってた。」
「何?どうしたの?」
「ごめんね。」
「なんで謝ってるんだよ;変だよ葉月。」
「うるさいなーもう。たまにはあたしの話聞いてよ。おっちゃんはいつもそうだよ。女の子の話はもっとゆっくり聞くもんだよ。」
「・・・・」
「あのね。あたし、もう一緒にいられない。」
「忙しくなったの?」
「ううん。そんなじゃない。。」
「あっ、彼氏でもできたか!」
「ばか。」
しばらく沈黙が続いた。
知り合いが私と葉月の傍を通りすぎたけれど、みんな素通りしていった。
ダブルさんから内緒が入ってきた。
「ふとんさんーw もう来るー?」
「あぁ、ごめん;ちょっと待ってて。葉月が変。」
「はーいwごゆっくりーw」
---
「おっちゃんはさ、あたしが居なくなっても、きっと泣かないよね。」
「ん?」
「きっとまた他の女の子とイチャイチャするよね」
「何だよ;」
「だからあたしも泣かない。」
「おい、どうしたんだよ。はっきり言えよ。」
「いい。また「葉月ぃぃぃぃ!」って叫ばれたら困る。」
「、、、、。」
「最後の日は、泣かないで過ごしたいって思ってたの。エンディングが悲しいのってやじゃん。」
「もういい。俺と居たく無くなったんだったら別に何も言わないでいい。」
「あぁそうだ。あたしのこと、ブログに書くのとかやめてね。きっとラブラブに書いたりするんだろうけれど、あたしもう見れないし、「葉月ちゃんってこんなだったんだw」とかみんなに言われるのやだし。」
「、、、、。」
「あとなんか言いたいことあったかなー。うん。ない!」
「葉月。」
「うん?」
「ビシャス行くから、後ろ乗れよ。」
「あっ!もう泣いてる!やめて!もー早く行けばよかった。ばか!」
「一緒にビシャス行こうよ、、、」
私はイノシシの手綱を握ったまま顔をあげられなくなった。気づいたらイノシシの鼻先に葉月の足元が見えた。
「ふとんさん?」
「うん?」
目を思いっきりしぱしぱさせて涙を落して顔を上げた。
「好きって言ってほしかった?」
「何言ってるんだよ、、」
不意に顔を私の鼻先に近付けた葉月は、私の首に腕を伸ばし、おでこをくっつけたまま何かボソボソと呟いた。何を言ってるのかよくわからなかった。
「よし、おまじない終わり!じゃ、行くね!」
「えっ」
言うが早いか、葉月は白光と共に姿を消した。テレポの様だったけれど、もう姿が見えない。
「、、、、。」
「ごっめん待たせた!なんか葉月が変で;」
「あれっ、今日は一緒じゃないんだねw珍しいw」
「ふとんさん!そのネックレス何??クエストのアイテム???」
「え。」
胸元をみると、大きな黒い石がついているネックレスをぶら下げていた。
その石はとても透き通っていて、ひんやりとしている。
葉月の瞳の様だった。
「なんかすごいキレイな石だね!葉月ちゃんの目もこんな感じだったかも?」
「あぁ、そうだね・・・・うん。よしよし!じゃ行きましょうか!」
「はーいww」
「じゃ、召喚するよーww」
自分の身に起こっている異変に気づいたのは、ビシャスとの戦闘が始まってしばらくしてからだった。
「あれ、なんか変だ、、」
「どしたの??」
「いや、私へのビシャスの攻撃全部MISSなんだけど;」
「あっほんとだw 物凄い回避が上がってるとか!」
「うーん、なんだろうね、、」
その日から私は、どこへいっても敵からの攻撃を全て回避する様になり、大親分やホーンテイルにもど真ん中で対峙する様な、おかしな立ち回りをする様になった。
葉月は、私の前に姿を現す事が無くなった。
神社でイノシシに乗ったままぼんやりしていても、ケツが沈む事は無かった。
それからホーンテイル討伐隊にしばしば誘われる様になり、拠点をリプレに移した為神社へ行かない日が続いた。
ある日うっかり間違えていちご牛乳を飲んで神社へ飛んでしまった。
「あ、、、ごめんなんか神社に出た;」
「何やってるんですかーww」
「この後ビシャス行くからそこからルディで><」
リプレでずっと過ごしてたのは、神社に行くと葉月に逢ってしまうかも知れないという気持ちもあったからで、私は鳥居の前から恐る恐るたこ焼き屋の前に進んでいった。
「いらったいまてー><」
不意に脈拍が上がり、無言のままたこ焼き屋の前に立ち尽くしてしまった。
「おっ、ふとんさんw 最近どこで稼いでたのw」
大将の声でやっと我に帰った。あのセリフは大将が言わせてたのか。
「あ、うん。ちょっとリプレでね^^;ってか大将、また可愛い子見つけたもんだねー;」
「だろーw 時代はお肌に優しいたこ焼き!コラーゲンコラーゲン!」
「ところで大将、葉月、見なかった?」
よせばいいのに馬鹿な事を聞いてしまった。
「あぁ、葉月ちゃんね!あーそうそう!」
「!?」
またもや脈拍が上がった。
「うーーーーーーーん。最近見ないねぇ・・いい子だったのに。」
「、、、、。うん。とりあえずJたこ100個ね、、。」
「がってん承知のすけとうだら!」
久しぶりのあつあつのたこ焼き。大将のダジャレを完全スルーしながらイノシシの背に逆に座り、もたれかかる様にして頬張っていた。
そういえば、葉月に逢った時もこんな感じだったな。逆向いて座ってなかったけれど。
「ふとんさん?」
不意に後ろで名前を呼ばれた。
聞き覚えのある声。
いつも一緒に聞いていた声。
私をオッチャン呼ばわりした声。
たこ焼きを持つ手が震えて、しばらく身動きが取れなかった。
ようやく震えが取れて、全力で振り向きながら叫んだ。
「葉月!おかえり!今から一緒にビシャス行k」
誰もいなかった。
精一杯神社の雑踏に向かって叫んだ私を、大将と看板娘が笑った。
面をくらっていた私の目の前にダブルさん達が走ってきた。
「ふとんさーんw ビシャスの時間だよー!!」
「あぁ、今行くよ!──よいしょっと! ・・・あれ?」
振り向きなおして、手にもっていたタコ焼きがなくなっているのに気付いた。
「どうしたの?」
「ううん。なんでもない。さ、行くべ!」
「はーいw」
少し苦笑いしながらイノシシを走らせた。
「葉月。あのさ、」
言いかけた言葉を飲み込んで、ルディブリアムへと向かった。
(終)
rollback1:別にー
あの人はやっぱり私の事をすっかり忘れてた。
鈍感なところは変わってなかった。もっといいとこが残ってればよかったのに。
きのこ神社で出逢ったのは今回が初めてじゃなくって。
私はあの人と一緒にいたことがあった。
大好きだった。
--
「──という事なんだ。」
「うん。」
「聞いてるのか?」
「うん。」
「そんなまた片っぽで聞いて。また後で聞いてないとか言うなよ。ってか何してるんだ。」
「うん。大丈夫。」
「船。もうすぐ出るから。着替えて来るんだ。」
「え。聞いてない。」
「おい、昨日言ったろう。」
「今日はおふとんから出たくないー。」
「じゃぁ俺1人で行ってくる」
「どこいくの」
「ヒカリ婆とこで夕飯」
「行く!」
--
夕方に出た船は夕焼けの中を泳いでて。
途中で真っ暗なとこを通るのはマガティア。
「ねぇ」
「ん」
「マガティアのね。ヒュモノイドAっているじゃない」
「ん。」
「あの人は昔人間だったの?」
「あぁ。バカな奴だ。」
「そうなの?てかなんでそんなイライラしてるの?」
「バカの話は面倒くさいからな。」
「フゥン・・」
「あいつは元々俺と一緒に戦ってた仲間だった。」
「え。そうなんだ。」
「誰だって持てる時間は限られていて、遅かれ早かれ当たり前の様に死ぬんだ。」
「うん。」
「大事な気持ちも忘れて、ただただ下らん時間を延々と過ごすくらいなら、その気持ちをちゃんと抱いて早死にした方がマシだと思わんか。」
「・・・」
「でも私、ずっとずっと一緒に居たいって思うかな。気持ちを忘れちゃうのは嫌だけど。」
「相手が大変そうだな。お前みたいに面倒くさいと。」
「面倒くさいのが好きっていう人も居るかもしれないじゃん。」
「変態っぽいなそれ。」
「ふとんさんと一緒にしないで。」
「俺変態かな、、」
「うん。」
「ってか何ニヤニヤしてるんだ」
「別にー。」
半年くらい、一緒にいた。
ヒカリ婆は子供みたいな私の話でもちゃんと聞いてくれる人で、いつも的確な答えが返ってくるから大好き。
勿論まじめなお話だけじゃなくって、面白いお話もたくさん。
「おぉー よく来たねぇ葉月ちゃんー」
「ヒカリ婆ぁ!こんばんは!」
「今日はお世話になります」
「おや、あんたも来たのかい。」
「うわぁ、勘弁してくださいよ;出る前にぐずった葉月を連れ出すのに大変だったんですから;」
「ねーまたあんなウソつくんだもん。」
「おい」
「べぇ!」
お風呂。この世界にはお風呂っていう習慣が基本なくって、ここのお風呂は大好き。
でもいつも人が少ないんだよね。
「おう、遅かったな。」
「うん。髪まとめるのに時間かかっ・・・えぇー!!」
「大きな声を出すな;」
「出す出す!えぇー!何してるの???」
「風呂につかってる。」
「えっと、うん。違う、落ち着いて私。じゃなくって、なんでここにいるのよ!」
「男の子とお風呂入った事ないのか」
「え、ってか有るとかないとかそういう問題じゃないでしょ!?」
「そっか・・」
「もういい; 私向こう行く;」
「んっ。じゃぁ後でな。」
「え、やだ違う。なんで私男湯に行かないといけないの。」
「よし、茹で上がりそうだから先出るぞ。」
「え、ちょっとそのままで立たないで!わっ暗い;何えっタオル;;」
私にタオルかぶせてそのまま出てった。もう無茶苦茶;
ドキドキがおさまらないからしばらく出れなくなって、真っ赤になった;
「あっつー;」
「遅い」
「誰のせいでこうなったと思ってるんですか・・」
ぐったりしてる私の前でなんか飲んでる。
「ねぇ」
「ん?」
「そのいちご牛乳ってね」
「うんうん」
「もしかしてヒカリ婆が私にって持ってきてくれたんじゃないの」
「おや、そうだったかな。」
「もーーーまたとられてるーー」
「またって人聞きが悪いな。」
「ください」
髪を拭きながら手を出してたら、思いっきり目の前に居た
「え」
キスされた;
「え!」
「あれ、違ったのか。いちご牛乳、ここおいとくぞ。」
この時が私の人生初の出来事で、私からした時は2度目だった。なんかもう大変な事した・・って思ったからヒカリ婆にも内緒にしてた。
「おっ、せっちゃんそのグラサン、イカしてるね」
「別に~」
「www 笑ったww エリカ様かよww」
表でせっちゃんの声が聞こえる。お願いだから「今日も葉月とラブラブでねー」とか意味わかんないこと言わないでよ・・・。
ぼんやり鏡台のまえに座ってたらヒカリ婆が横にいた。
「葉月ちゃんや」
「はい」
「あいつの事は、よく分かってきたかい。」
「え、はい。なんとなく・・。余り話さないですけど、少しは。」
「だろうね。」
「あいつの事、好きかい。」
「え。んと、はいまぁ・・。」
急に聞かれるとやっぱり困る;でもヒカリ婆だからなんとなく安心できた。
「じゃぁそのまま座ってお聞き。」
「はい。」
ヒカリ婆も余りあの人の事を知ってるわけじゃなかったけれど。
違う世界から来てること。どこってのはわからなかった。
大事なお友達がロボットになって何もかも忘れちゃったこと。これはきっとヒュモノイドAのことかな。
信じる事を捨てちゃったこと。
私と出逢う前は北の森でずっと1人でいた事。
「あと、しょっちゅう危なっかしいとこへ飛び込むね。”いつ死んでもいいんです”って口癖だったな。」
「そうなんですか。」
「葉月ちゃんと一緒にここに来る様になってからだよ。口癖が無くなったんはね。」
「・・・・。」
「あいつは葉月ちゃんの事を何かの希望みたいに考えてるんじゃないかって思うね。」
「え、でも私そんなのに応えられないです;」
「はっはっはww そのままでいいんやよw なーも気張ることなんか無いんやw」
外でお話が終わってあの人が戻ってきた。
「おっ、何の話ですかw 面白そうですねw」
「ガールズトーク。」
「え?;」
「ガールズトークや」
あの人が「ぶっww」って言うのと、ヒカリ婆が持ってたスイカがヒットするのとほぼ同時だった。
スイカ投げられてる人初めてみた、、、
晩はすきやきだった。美味しかったー;
泊まっていいって言われたから、ドキドキしながら一緒に寝た。
ヒカリ婆とね。
「ん?って、おい。こんなとこまで来たのか。」
「うん。何してるの」
「ストーカーみたいだな。」
「一緒にしないでください。」
「俺がいつストーカーを;」
「いつも。」
「今忙しいんだけどなー。」
「あたしが忙しい時いつも邪魔してるじゃない」
「いつも忙しそうに見えないけどな。」
「で、何してるの」
「あぁ、ライフルのチューニング。」
「チューニング?」
「そう。」
「何に使うの?」
「何って。丸腰で戦うわけにはいかんからな。慣らしてるんだよ。」
「よくわかんない。」
「ちょっと、耳ふさいでたほうがいいぞ。」
「え?」
「M200。大口径ボルトアクションライフル。実際はPDAとかレーザーファインダとか、ハイテクで補助して"寝っ転がって"使うんだけどな。」
「フゥン」
「まぁ、あんまり興味ないだろう。」
「うん。誰かを傷つけるものは嫌い。」
「だろうな。」
「なんで?」
「何が。」
「なんで戦うの?」
「さぁ・・なんだろうな。」
「判らないのに戦ってるの?」
「そういうのを考えるのは」
「うん」
「やめたんだ。」
「何それ。つまんないの。なんかもっと無いの。誰かを守るとかさ。」
「それは・・現実的じゃないな。戦場はもっとバカバカしい。戦う理由が面白かったら大変な事だし、そもそも戦争自体、誰もが被害者で、誰もが加害者だしな。理由なんて有って無い様なもんだよ。つまんなくて当然だろう。安い駄賃の為に好き好んで色男たちが死んでゆく。そんなもんだよ。」
「安いんだ」
「安いな。」
「どれくらい?」
「多分、マナエリや万能薬をフリマで売ってる方が儲かる」
「安っ」
「ってくらい、金の問題でもないんだよ。ってかなんだ、"行かないで;;"とか引き止めてくれるのかい」
「そんなに死にたいんだったら勝手に行ってくればいいじゃん」
「───そうだなw」
そんな事思ってないのにまた言った───
「まぁ、そうだな。とりあえず予定通り明日出るからな。」
「前言っただろう。なんだまた覚えてないのか。」
「うん聞いてない。」
「俺にはあんまり興味ないのは判るけど。ちゃんとヒトの話は聞いておかないとだめだぞ」
「興味なくない。」
「お前と一緒にいる時間は、幸せだったよ。」
言えなかった。