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 第5章  再会。



……。
静寂を破り、

「ただい――」

美亜が帰宅する。靴を脱ぎ捨て、床に足をつけた途端、落ちていた空き缶に足を滑らせた。
「ま゛っ!?」 ずでーん。

「痛っ…、もうっ、シルバっ! 空か…」
そこでやっと美亜は、部屋の空気が違うことに気がついた。

そして、倒れている銀矢を見つけた瞬間に、彼女は全てを察した。
「たっ…大変っ!救急車をっ!」

ピーポーピーポー…ピーポー…ピーポー……
……


   *   *   *   *


「…うぅ、気持ち……わ、る……ぅ、うぐ」
ベットの上で、銀矢は目を覚ました。
…どうやら病院らしい。

『コンコン』

「失礼するわね」
キィ、と病室らしき入り口の扉が開き、誰かが入ってくる。
――そこには、白衣を着た男性と、女性、の二人。
…幸いなことに、銀矢は、その女性には見覚えがあった。

「みや!」

「…ばかぁ…もう…心配したんだからぁ…っ…。」
「ご、ごめん…」

「おや、お知り合いの方ですか?」
美亜と一緒に入ってきた、男性に聞かれる。
「あ、はい、美亜さんのと…」
「えぇ、色々ありまして。彼、うちに居候してるんです」

オレの言葉を遮って、美亜が笑顔で答える。

「え…」
その途端、男の表情が曇った。
「……あ、では、俺はこの辺で…み、美亜さん、あとはお願いします…… はぁ」
そういうと彼は、恨みがましそうに部屋を出て行った。

ほとんど数十秒での出来事に、あっけにとられてしまって、
それから数分経ってから、のオレの第一声は
「な、なんであんな事っ、言って―――!」

「ちょっと迷惑だったのよ、私にまとわりついて」
「…は?」
「自分の立場利用して、私のことモノにしようと、あの手この手でひっついてきて…
鬱陶しいったらありゃしないわ。

…ごめんね、銀矢。
こんな時に…銀矢のこと利用して…」
「あ… えっと… オレも、ごめん」

前に、メールのやりとりの中で聞いたことがあったのだが
美亜は、普通なら男が選ぶような務めを選んでいるために、殆ど同性の同士がいないとか…。
…彼女くらいの容姿なら、多分ほっとかないヤツもいるんだろう。



「…さーて、それでは、本題に入りましょうか」

美亜が腕を組み、お姉さんポーズを取る。
「とりあえず、今日は一日泊まっていってもらうことになるわ。」
「えーっ!? な、なんで」

「ん、ちょっと、ね。検査入院よ。
…まぁ、何にしろ、私がここで過ごしている以上、即日で帰すわけにいかないみたいだから、
ごめん、我慢してねー。」
「う、うーん… みやがそういうなら…今夜くらいは我慢するよ…うん。」

家出してきて数日だと言うのに、もうこの身体は彼女の家に馴れてしまったようだ。
すこし、恋しくなってきた。

―――と、急に、病室の外が騒がしくなってきた。

――『何やってんだ!早くしろ!』
――『準備をっ、早く!!』
――『950室に―』
――『また例のやつらのしわざかよ…』
――………

「…外、忙しそうだね」

「そうね、もう少ししたら、私も行った方がいいかしら…
…でも、私みたいな下の子が行ったら大変かもね、もうちょっとここに居ることにするわ♪」

そう言って、彼女が、ふふ、と笑ったその時、同時に
パタパタパタパタパタ…と足音が近づいてきて、ついにはオレのいる病室の扉を。

『コンコン』と、ノックの音がして、
「美亜、居るか?」

「いますよー」
返事をすると同時に、ガチャっとドアが開いて。
――其処にいたのは、またもオレの見知った顔だった――


    *   *   *   *   *

「ふぅ… コリーったら、もう…」

チャリン。……ピッ、ガラゴロゴロガラン。
下に落ちたジュースを、私は手早く拾った。

「ふぅ…」
一人、てくてくと土手沿いの道を歩く。
またため息。…今の私って、すごくぼーっとしてるなぁ。
そして、空を見上げた。…雲が、ゆっくりと流れていく。

「……ちょっと休んでこーーっと♪ どうせ、帰っても…コリー居ないしね。」

ばさっ。

「…変わらない日々がこんなに楽しいなんて…。何でかなぁ?
やっぱり、コリーと一緒だからかな…」
ぼーっと空を見上げる。

……。
………。
「切ないなぁ」

風が、揺れた。ひょっとしたら、世界そのものがゆっくり動いてるからかもしれない。
「コリー……」
募る想い。私は目を瞑った。
(好き……大好き……)
以前よりも、その想いは格段に強くなっていた。

ふと、何となく考えてみた。
(もし今、私がコリーを失ったとしたら……)

泊まる家も、何もかもなくなって…
――泣きじゃくる自分の姿が、まぶたの裏に浮かんだ。
(気が狂ってしまうかもしれない……)

………私は、目を開けた。

「…大学、寄っていこうかな。コリーと一緒に帰れるかもしれないし」
バサッ。荷物を持つと、私は歩き出した。
「表通りの方に行かなきゃ…」

……――10分後。
もう大通りだ。更に少し歩いて、
「あっ、大学見えたー♪」

(・・・パッ… パッ…)
進行方向とは垂直に反対の、信号が赤になっていく。
…そろそろ私の渡る方の、横断歩道の信号が青になるだろう。

(・・・パッ)

青に変わった。左右を確認し、歩き出す――その時だった。


ふと、何かを聴いた気がした。
それが誰の呼ぶ声だったのか、誰かの「危ない!」という声だったかどうかはわからない…

ただ、何も感じなくて、気づくと私は空中に放り出されていて、




後頭部に鈍い痛みを感じると同時に意識が飛んだ。


   *  *  *  *  *  *


で、オレの見知った顔、なんてのは、家出した今、そうそう居るわけがなく。

「……つ。月島…さんっ!?な、何でこんなところに?!?!!」
そう、今そこに立っている男性こそ、先日知り合った、月島大樹さんだった。

「あ、あれ?銀矢君じゃないか!?」
オレ達は交互に叫んでいた。


「あれ…うそっ、二人とも、知り合い?」
驚く美亜。まぁ、無理もないだろう。オレと月島さんが知り合ったのは、本当にたまたまなのだから。
「ああ、ちょっとした事情でね… それより、何で月島さんはここに…?」
そう尋ねると、途端に彼は「はっ」として。

「あぁ、そうだった…大変なんだ!
俺の知り合い…、大切な人、なんだ――事故に遭って、運び込まれたんだ!
で、さっき受付で聞こうとしたら、近くのヤツらが美亜を担当に回す、って言ってたから」
「えっ、えぇっ!? 私聞いてないわよ! …仕方ないわね、すぐ行くわ」

そう言って美亜はオレを見て、
「…ごめん。ちょっと行ってくるわね。」

―――月島さんの言葉が何となく、引っかかった。
だから、オレは…

「待って… オレも行っちゃダメですか?!」
「バカ、銀矢、だめに決まってるで―」
「運び込まれたの、もしかして…恵理さん、なんじゃないですか?」

恵理、と口にした途端、月島さんの肩がぴくりとはねた。
「・・・・・ ああ、そうさ…。」
「…!」


「それでもだめよ」

制するように美亜が言う。
「だって貴方、今は患者扱いだから…    ――お願い。お願いだから、今は、じっとしてて」
「うぅ……」

強く、懇願するような彼女の口調に、オレは黙り込むしかなかった…。
「わかったよ…… じゃあ、あとで……オレにも報告してくれる?」
「それくらいなら…いいわ。それじゃ、ちょっと行ってくるから」

『バタン』
急いで二人が出て行く。
…しばらく扉を睨み付けた後、ベットに寝転がって、おとなしくすることにした――。





どれくらい経っただろうか。
外で話し声が聞こえてくる……それと同時に、オレの意識も浮上して…
『キィ・・・ バタン』

「ただいま、銀矢。戻ったわ」
「…………」

「おかえり美亜、月島さん・・・ ……どうしたんですか?」
何やら空気が重い。
美亜は伏し目がちだし、月島さん――彼に至っては、先ほどから一言も言葉を発していない。

そして彼女が、静かに口を開いた――。
「…色々と当たり所が悪かったらしいわ。彼女。 まだ意識が戻らないの…
最悪の場合、意識が戻っても、大樹のコト・・・覚えていないかも、って・・・・」

「え・・・」


恵理が?
…そんなにひどい事になっているなんて。

「やっと、大切なものを見つけたって…言うのに…… 俺は…」

月島さんの呟くような声が、病室に響いた…―――



   *  *  *  *  *  *


しばらく、3人とも無言だった。

それもそうだ…恵理が事故に遭って、入院してて、意識が戻らなくて。
その恵理は、月島大樹の大切な人なのだ。

自分にとって大切、とまでは行かずとも、彼のその悲痛な顔は
オレ達の気を落とさせるには充分だった…