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第一章 「大沢銀矢」


「どうせ母さんなんて、本当の母さんじゃないんだ・・・キライだっ、何もかもっ!父さんもっ!全部!」
そう言って、数分後、俺は家を飛び出したんだ。
全財産と、必要な物を持って。
・・・「家出」というヤツである。

母さんは水商売人のモテモテ野郎で、父さんは生まれながらのギャンブラー。
そして両方共、飲んだくれ。
今まで何とか耐えてきたけど・・・もう、こんな生活はいやだっ!
そう思ったら、躯が勝手に行動を始めていた。

さて・・・考えもせずに出てきたけど、どこへ行こう?
財布の中身を確かめる。・・・お金は沢山入っていた。
そういえば、いつか家出してやろうと思って、密かに貯めていたんだっけ。
まさか、本当にこんな日が来るなんて思ってなかったな。

・・・そうだ。あの人の所へ行こう!

「あの人」とは、俺のメル友の事である。しかも、ケータイで知り合った。

「あの人」、つまり「彼女」は新潟に住んでいる。
何故「彼女」と言ったのかは、他でもなく、「彼女」が「ヒメ」と名乗っていたからである。
「ヒメ」とは、ここ二、三年前に知り合った子だ。しかも突然。
突然、というのにもちゃんとした訳がある。
・・・俺の、メールアドレスの打ち間違いだ。何て情けないミス。

相手からメールが返ってきたものだから、更に焦った。
もちろん、自分から謝罪のメールも出した。
そして返ってきたメールには、こう書いてあった訳だ。

『もし、よければメル友になりませんか?』

幸い、俺も「ヒメ」もパソコンを持っている。
俺も興味本位で、オッケーの返事を出し。そしてパソコンでのメールのやりとりがスタートした訳である。
・・・ちなみに言うと、俺の偽名・・・じゃなかった、HNは「シルバ」。
名前の・・・「銀」から取ってみた。少し、気に入ってる。


あ、そうそう、すっかり自己紹介を忘れていたよ。
俺の名前は大沢銀矢。
・・・周りからは、「シル坊」って、呼ばれて子供扱いされてる。
まぁ、俺の名前を直訳すると「銀=英読みでシルバー」「矢=英読みでボウ」だからな。
略して「シル坊」。何だそりゃ。
そして・・・趣味はケータイをいじくり回すこと。
・・・笑うなそこ、ほっとけ。


さて、話を戻そう。
一年以上もメールし合っていれば、相手のコトもだんだん見えてくる。
早い話が、年賀状を書き合おうと言うことで、住所の教え合いをしたんだ。
そして。俺は、「ヒメ」が新潟に住んでいることを知った・・・。

さぁ。俺はこれからどうなるんだろうか・・・。
妙な期待を胸に抱きつつ、
俺は新潟行きの新幹線に乗り込んだ・・・。

   *   *   *   *   * 

すっかり、日が暮れてしまった。もう、夜の九時だよ。
ふぅ。以外と新幹線代もバカにならないので、
とりあえず俺は急いで降りると、彼女の家への道を急いだ・・・。

黙々と歩きつつ、地図とメモを見つめる俺。
「住所では・・・この辺・・・だよなぁ・・・」
きょろきょろとあたりを見渡しつつ歩いていく。
「あ、この角を曲がって・・・」
そう呟いた瞬間。
いきなり自転車が飛び出してきた!
「キャァ!」「うおぉっ!?」

どがっしゃ~んっ。見事に接触、ていうか、激突。
「痛~~~・・・」
「いっててて・・・」
俺の手からひらっ、とメモが滑り落ちる。
俺に自転車ごと激突した女性は、急いで身を起こすと
「ごめんなさい、つい急いでいて―――――」
彼女の目がメモに留まる。

「―――!? これ、うちの住所じゃない!・・・ちょっと、貴方、一体何なの?」

いきなり早口で迫られる。
「いっ、いや別におれ別に怪しいモンじゃないっスよ、それに」
そこまで言いかけると。

「じゃあ一体誰なのよ!大体ねぇ、『何なの?』って聞いてるのに『怪しいモンじゃない』って
答えるなんて怪しさ大爆発よっ!・・・あ、まさか私を襲いに・・・?!いやぁー!交番行かなきゃぁー!」
女性の方はもう既に自転車に乗ってしまっている。
早く誤解を解かないと俺がストーカー扱いされてしまう!それだけはカンベンしてくれっ!
焦りに焦った俺は、つい言ってしまった。

「待って下さいよっ!俺はシルバですっ、ストーカーでも何でもねぇぇぇぇぇーっ!」
しまった。『うちの住所』なんて言ってるから、つい勢いで口走ってしまった・・・。

ぴた。彼女の動きが止まる。
そして彼女は、錆び付いて全く動かなくなったロボットの様にぎぎぎぃっ、と首をゆっくりとこちらに向けると。
「あ・・・貴方・・・今、何て」
こ、この反応は・・・もしかして・・・(汗)
「『俺はシルバだ』、って言いました。はい。」
とりあえず、丁寧にお辞儀をする。
「そう、なんだ・・・」
かちゃんっ。彼女は自転車から降りると、深々と頭を下げながら言った。
「ごめんなさい・・・勘違いして・・・私が『ヒメ』です・・・。」

端から見れば、何とも滑稽な感じだろう。
・・・街灯が、ちかちかと音を立ててちらついた。

     *   *   *   *   *

からんからん。・・・かちゃん。
「おまたせ。」
彼女はTシャツにジーンズ、というかなりラフな格好で部屋に現れた。
おそらく、これが彼女の普段着なのだろう。
しっかし、女にしては、随分とサッパリした部屋だなぁ・・・。

――――ちなみに今、俺は彼女の部屋にいる。
礼をしたあの後、俺は、彼女の家に二人で向かいながら、彼女に全てを話したのだが、
断られることなくあっさりと、俺が居候することを許してくれたのである。
・・・ヒメってば、自分が女だってわかってんのかなぁ?(笑)
・・・それとも、俺を男扱いしてないのかなぁ?(笑)
どちらにせよ、自分のあの忌まわしい家に帰らずに済んだのはよかった。
・・・そうだな・・・もう、家に帰ることはないだろうから、この携帯も捨ててしまおうか?

そんな事をおぼろげに考えていると。
「・・・で、何て呼べばいい?」
「へっ?何が?」
彼女は俺を指さして、
「だからぁ。今晩から一緒に住むんだから、シルバのことなんて呼べばいい?、って。」
そんなこと、考えてなかった。どうしようか。
「ん、どっちでも良いよ。その時の気分によって変える、とか。」
「わかった。じゃーそーさせてもらうわ、シルバ。」
「はいはいー」
「それじゃあ、私のことは本名で呼んでよ!
『本宮美亜』だから・・・美亜。『みあ』って呼んでね!」
「えーそれ『みや』って発音しそうだよ。それに、女を本名で呼ぶなんて、何か恥ずかしいよ。」
「ちょっと何それー!キャハハ!」
笑われた。、・・・何でだよ。(涙。)
「男がそれくらいのコトで恥ずかしがってどーすんのよー!(笑)
仕方ないわね、『みや』でいいわよ、『みや』で。」
「あー・・・うん・・・。」

美亜って、ちょっぴりギャル入ってるなー・・・しかも微妙に気が強いし・・・、
俺、シリに敷かれそう・・・。

「んー何か言ったー?」
ぎくり。
「あっ、いやっ、別に何でもないよーぉっ。あっははは。」
慌てて誤魔化す俺。セーフ。
「ならいいけど。・・・シルバー、こっちこっち」
手招きされて、慌てて、された方に行くと。
美亜が何かの部屋のドアを開けるところだった。
「そーいう訳でー、ここがシルバの部屋になるからー。ここで寝るよーにね!」
「あ、わかったー。ありがとー。」
そして、俺に背を向けると。
「んじゃ。あたしも寝るわ。おやすみー☆」
バタン、と音を立てて美亜は隣の部屋に入っていった。
「さて、と―――」
ガチャッ
「あっそーそーシルバー?」
「うおぉっ!?何だぁ・・・ビックリしたぁ・・・。何?」
「えっとね、その部屋、ベットあるんだけど、いくら自分の部屋になるからって、
ヤバいモンはベットの下に置くなよー?怪しいビデオとか本とか」
「誰が置くか!!!!」

あははははははは。
互いに笑い合って。

「んじゃ、今度こそおやすみー」
バタン。

早速部屋に入ってみる。そして中をぐるっと見渡した。
・・・部屋は、割とこじんまりしていてキレイだった。
ビデオデッキ付きのテレビ、ラジオ、小さなテーブルとイス、そしてベット。

・・・まるで、以前この部屋に誰かが寝泊まりしていたかの様に―――――。

「ふあぁぁぁぁ・・・。」
大きな欠伸が口から出た。
疲れていたので、着替えもせずに俺はそのままベットにダイブした。
「・・・おやすみ、なさい。」

深夜、十二時。
(『メル友』、という関係からいきなり『同棲?』という怪しい関係になってしまった・・・―――)
そんな事を考えつつ、俺は眠りについた。

第一章 END