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2006.03.01

    
クリフトとアリーナの想いは Part4.2
388 :ぱふぱふ屋の店長 ◆YdWRYb4NOY :2006/03/01(水) 23:02:50 ID:/EKmUyNy0

コホン、皆の者元気に過ごしておるかの?ワシはサントハイム王国の宮廷魔法使い、ブライじゃよ。
はあ、今日は本当に忙しい一日じゃったわい。何が忙しかったかって?よくぞ聞いてくれたのう。
実はな、我が国の王女、アリーナ姫様の結婚式が行われたんじゃよ。いや、ほんにめでたいことじゃ。
国内外からの貴賓や一般の国民がこぞってお祝いに駆けつけてくれたんでな、
城の周辺はかつてない賑やかさじゃった。もちろん、姫様やワシと共に戦ったかつての仲間らも言うに及ばずじゃ。
遠路はるばるご苦労じゃったのう。ん?誰か一人足りないとな?ああ、青二才の神官クリフトのことですかな。
あのアホタレめが。…まんまと姫様の婿に納まりおって。ふん、うまくやりおったわい。

しかしのう、ここまでくるのに順風満帆…いうわけにはいかなかったんじゃ。
なにせ貴族や議会の一部からは、民間人の聖職者であり、しかも姫様の臣下という立場であるあやつと姫様との結婚に疑問の声が絶えず、物議をかもしたこともしばしばじゃったからのう。それをあっさりと払拭したのは、
まあ、あやつのこれまでの功績と姫様の強固なご意志もあったんじゃが、何よりも「互いに想いあう二人を身分の差という理由だけで引き裂くとは何事だ」という我が国民の強い声があったからじゃよ。
どこからあの二人の恋仲が知れ渡ったのかは定かではないんじゃが、やがてそれは国中をあげての運動にまで発展し、
もはや国王陛下や反対派の者らもそれを無視することはできなくなったんじゃな。
民の力は、時に為政者のそれを凌ぐと言われておる。陛下も結局は認めざるを得なくなったからのう。
というわけで、二人は今日、晴れて慶びの日を迎えることができたわけじゃよ。

姫様は亡き妃殿下の形見であられるウェディングドレスをお召しになり、その面差しはかつての妃殿下がいらっしゃるのではないかと目を疑ったほどじゃ。昔を思い出すのう。あやつもあやつで厳かな儀式用の法衣を着ておったんでな、いつもよりは凛々しく見えたのう。ワシに叱られて半泣きになっていた頃が昨日のようじゃわい。

あんなお幸せそうな姫様のお姿を拝見できて、ワシも思い残すことは…なんてしおらしいことを言うと思ったかの?
お主らは甘いのう。お世継ぎが誕生し、健やかにご成長されるまでは、たとえ死神がワシの前に現れてもこの杖一つで追い返してやるつもりじゃよ、ほっほっほ。
まあともかく、無事に式も終わってほっとしたわい。
ふう、もう夜もすっかり更けたのう。そろそろワシも休むとするかの…


「はあーっ、疲れたぁ。結婚式がこんなに大変だったなんて…もうこりごりだわぁ。」
今日から二人の寝室となった二階の部屋で、アリーナ姫は宝冠を外し、結い上げた髪をほどきました。
「姫様、普通結婚式は一度きりしか行いませんが。それにしても、ずいぶんお疲れのようですね。」
「だって仕方ないじゃない。ドレスなんてめったに着ないから歩きにくいなんのって…」

アリーナ姫は背中のコルセットを緩めて寝室のベッドに腰をかけると、大きなため息をつきました。
法衣の上衣を脱いで姫の肩にそっとかけたクリフトが隣に座ります。
「そうですね。私も気が気じゃありませんでしたよ、姫様がドレスの裾を踏んでしまわれないかと。
そのせいで最初のリハーサルでは三度、その次でも二度転倒されましたからね。」
「…ちょっと、失礼ね。私最初のでは二回しか転んでないわよ!」
「あはは、ちゃんと覚えてらっしゃるなんて、さすが姫様ですね。」
ふくれっ面でこちらを睨む姫をよそに、クリフトは思わず吹き出してしまいました。

「姫様、か。」
「どうかなさいましたか?」
アリーナ姫はまた一つため息をつくと、クリフトの肩に頭をつけました。彼は姫の手を取り、そっと握ります。
「ねえ、クリフト。私たちって…結婚したのよね?」
「はい、そうです。」
「私たち今日から夫婦なのよね?」
「そういうことになりますね。」
「だったら私のこと『姫様』って呼ぶのはおかしいんじゃない?うん、絶対不自然だと思うわ!
だからこれからは名前だけで呼んでくれなきゃだめよ、いいわね?」
「ええっ!?な、名前だけで…ですか?」

これにはクリフトも驚いてしまいました。まあ、ある意味当然と言えば当然でしょう。
何せ今まで敬称をつけて呼ぶのが、彼にとって当たり前の世界でしたから。
「し、しかしですね、まだ心の準備が…し、しかも呼び捨てだなんて。ああっ、そんな…」
「あっそう、わかったわよ。こうなったら、呼んでくれるまで絶対口聞いてあげないもん!」
アリーナ姫は顔をしかめてぷいっと横を向くと、クリフトの上衣を彼に突き返し、
隣のベッドで寝転んでしまいました。
「そ、そんな、姫様ぁ…」
姫はつーんとしたまま寝返りどころか、こちらを見ようともしません。

(確かに姫様のおっしゃることは正論だ。それに私も夫という立場上、いつまでも『姫様』と
お呼びするわけにもいかないだろう。これもいい機会なのかもしれない。そう考えよう…)
少しの間悩んでいたクリフトが、閉じていた目を開くと立ち上がり、ゆっくりとアリーナ姫の方に近づきます。
深呼吸を二~三度繰り返すと、勇気を出して愛しい女性の名を呼ぶのでした。

「…アリーナ」
「ごめん、聞こえなかったわ。もう一回言ってくれる?」
どう考えてもわざとにしか思えませんでしたが、彼は残りわずかの勇気を振り絞り、
もう一度口に出してみました。
「…アリーナ……って、もう勘弁して下さい!心臓が爆発してしまいます!!」

アリーナ姫は起き上がると、彼の胸に飛び込んできました。おかげでクリフトは顔どころか耳まで真っ赤になっています。
「嬉しい!やっと言ってくれたわね、クリフト。私のこと名前だけで呼んでいいのは…
亡きお母様と、お父様と…あなたの三人だけなんだから。」
「では、ご家族以外では…私が初めてになるんですね。それは光栄です。」

二人はしばらく見つめあった後、互いの唇にそっと触れます。クリフトは肩にかかった姫の長い髪を後ろにはらい、右手で背中のドレスのボタンを外し始めました。背中から覗かせる
白い肌と肩のラインが、彼には何よりもまぶしく感じます。そのままの姿勢でゆっくりとベッドに寝かせ、
何度も唇を重ねあう二人。ためらいから吹っ切れるようにクリフトの唇がアリーナ姫の唇から離れ、
首筋からうなじへと伝わります。

しかし彼は気づいてしまいました。姫の両手が震えながらシーツをしっかりと握り締めていたのと、
どうしたらよいのかわからない、何とも言えない困惑した表情を。
ふとクリフトは、初めてアリーナ姫の唇に触れた時のことを思い出していました。嫌悪感とは明らかに異なるものの、戸惑いに満ちた複雑な感情。その時の様子は今でも目にしっかりと焼きついています。

彼は聖職者であり、恋愛の経験こそほとんどありませんが、救いを求める人々の悩みの中には恋愛や結婚に関するものも多々あり、また一般の社会ですから、それなりの情報もいやおうなしに耳に入ります。

しかし、王室という特別な環境で育った姫は、当然ながらそんなものからは一切遮断されてしまいます。
多くの王子や姫君、そして他の王族や貴族たちは恋愛の一つもせぬまま妃を娶り、また嫁いでいくのが昔からの慣わしでした。彼女のように自分の愛する者と添い遂げ、しかもその相手が自分の臣下であった者となれば、極めてまれな事例と言えるでしょう。

クリフトはゆっくりと起き上がり、アリーナ姫も上半身を起こしました。しかし、さっきまであんなに明るく無邪気だった表情は曇り、目を合わせようともしません。彼はドレスの背中のボタンを元に戻し、こう言いました。

「…嫌な時は『いやだ』とはっきりおっしゃってよろしいんですよ。無理はなさらないで下さい。」
「でも…」
「あせる必要はございません。今はこうして私のそばにいらっしゃるではありませんか。今はそれで十分です。
こう見えても私、待つのと辛抱するのは昔から得意ですしね。」

クリフトはアリーナ姫の髪を撫で、肩をそっと抱き寄せました。彼の最後の台詞にくすっと笑った姫はさっきまでの震えもなく、その表情には安堵が見られます。

「ごめんね、怖いんじゃなかったの。でも身体が勝手に震えてしまって…ありがとうクリフト、愛しているわ。」
アリーナ姫は小さく頷きましたが、彼は首を横に振って頭を下げました。
「謝らなければならないのは私の方です。今になって思えば、自分の思いを遂げることしか考えていなかった気がします。どうか私をお許し下さい。私も…愛しています。」

「さあ夜も遅いですし、もう休みましょうか。」
すっと立ち上がって隣のベッドに移ろうとするクリフトの腕を、アリーナ姫が引っ張ります。

「待って、クリフト。私、ここでいい。あなたのそばがいいの。」
「ですが…大丈夫ですか?」
「心配いらないわ、私はもう大丈夫。だからお願い、離れないで。」

それからどのくらいの時間がたったでしょう。気がつくと、自分の隣で寝息を立てていたアリーナ姫が目を覚ましていました。
「おはようございます、よくお休みでしたね。」
「ん…もう起きてたの?早いわね。あーあ、今日からまた窮屈な毎日かあ。ほんと、うんざりだわ。」
「だったら…しばらく二人で旅に出てみませんか?」
「旅に?」
「ええ、以前大聖堂内の書物を読んだのですが…とある世界には、結婚したばかりの男女が二人だけで旅を楽しむ風習があるとか。私たちもそれにあやかってみませんか?
それに、これから私たちは立場上、お城から自由に外出することは以前より難しくなるでしょう。
今こそ好機かと思われますが。」
「あっ、それ面白そう!行きたいなあ。」

アリーナ姫は旅と聞いて、瞳を輝かせます。しかし窓をちらりと見ると、東の空が明るくなり始めていました。もう夜明けが近づいているのです。
「あまり時間がありませんね。すぐに支度できますか?」
「何とかするわ、あなたも手伝ってね。」

二人は大急ぎで最小限の荷物をまとめ、服も着替えました。ドレスから旅人の服に着替える姫の姿が偶然目に入ってしまい、 クリフトは思わず目隠しをします。
「見てません、見てません、私何も見てませんからっ」
「クリフトったら、一人で何ぶつぶつ言ってんの?さあ出発よ。あそこから出ましょ!」
アリーナ姫は部屋の西にある窓を指差します。

「…まさか、窓から出られるのですか?」
「そうよ。私たちの旅はここから始まったじゃない!だからここから出るの。」
「わ、私は裏門からで結構です…では失礼を…」

青ざめた顔でドアの方に逃げようとするクリフトを姫は軽々と抱えて窓まで連行していくと、
カーテンを縛って作った脱出用のロープを握らせました。
「ほら、さっさと行ってよ。後がつかえてるんだから。」
「下さえ見なければ…大丈夫、大丈夫ですよね…ううっ」

震えながら慎重に下りるクリフトを見届けた後、アリーナ姫は軽やかに裏庭へ降り立ちます。
どちらかともなく手を繋ぎ合い、見張りの目をかわして城の外へ出た二人の姿が消えていく頃、
ゆっくりと朝日が昇っていくのでした。

朝になって、二人が失踪したことが城中に知れ渡りました。お昼過ぎにはすでにサランの町にも広まっています。国中にこの話が伝わるのも時間の問題でしょう。
しかし、人々はそれほど驚くこともなく、二人が自分の町や村を訪れるのではないかと、
むしろわくわくしていたくらいです。
かつての仲間たちも、二人の旅の無事を祈りつつ、それぞれの暮らす場所に戻るのでした。

ブライは大聖堂の書庫で失踪のことが書かれた記事を読みながら、一人つぶやいています。
「あのアホタレめが。前回とは状況が違うんじゃぞ。
お忍びの旅などできるわけがなかろうが。まあ町や村の者に見つかって、歓迎と称して
もみくちゃにされるが関の山じゃ。ふん、ワシの知ったことではないがの。
クリフトめ、せいぜい覚悟しておれ。帰ってきたら、たっぷり絞ってこき使ってやるわい!ほっほっほ。」