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2013.05.20

    
【クリアリ】クリフトとアリーナの想いは Part13【アリクリ】
92 1 名前: ヴァルプルギスの夜(中編)1/2 Mail: sage 投稿日: 2013/05/20(月) 21:25:54.42 ID: 9sezZsy10

(何、この暗闇。松明でも持って来れば――)
上下左右も分からない中、アリーナは懸命に走っていた。
「アリーナ」
足掻くアリーナを優しく呼ぶ声が闇に響いた。
(この声は……、そんな筈ないわ。だって…、だって……)
その声の主はもう十数年前に居なくなっていた。
「アリーナ」
「お母様」
振り返ったアリーナの視線の先には、思い出の中のそのままの母の姿があった。
「なぜ、お母様が? お父様は、お城の皆は一緒なの」
「お父様やお城の人達はいないわ。なぜいるのかは、今ここは生と死の狭間になっているのよ。だから貴女と私が一緒にいられる。で
もここは貴女がいてはいい場所じゃないのよ。その手にしているお守りが貴女を守っている内に、元の場所にお戻りなさい」
「ごめんなさい、それはダメなの、お母様。探さないといけない人がいるの。これを作ってくれたその人と一緒じゃないと戻れない」
アリーナは申し訳なさそうに首を振りながら、サシャを握りしめた。
「大切な人なのね」
「まだよく分からないけど……、でも逢えなくなるのは嫌。だから――」
戸惑っているが、決心したような娘の姿に母は優しく笑った。
「分かったわ。アリーナよく聞きなさい。貴女逢いたいと思っている人は、そのサシャがきっと導いてくれるわ。私はそう視えるの。
貴女とその人の繋がりを信じなさい。そして手遅れにならない内に――」
「手遅れ? 」
「貴女の大切な人が死の国の食べ物を口にしない内に、そして夜明けが来る前に、そのいなくなった大事な人と出会いなさい」
「分かったわ、お母様。本当はもっとお母様と話したいけど、クリフトを探さなきゃいけないから――」
 真っ直ぐ母を見る瞳は、もう子供ではなく、恋する一人の少女だった。
「アリーナ、生きなさい。大切な人を守る為に」
「はい、お母様」
 アリーナは振り返りながら、笑顔を浮かべ頷いた。

「確か、私はトルネコさんとヴァルプルギスの夜の話をしていたハズですが――」
ふと気づくとクリフトは闇に飲み込まれていた。それは唐突にあっという間の出来事だった。
(飲み込まれたというより、何かに掴まれ引きこまれた感じですが、しかしこの気配は、あまり良くないモノですよね)
周囲に漂っているのは、ザギやザラキを唱える時に何処からともなく漂ってくる死の気配だった。
「姫様やブライ様や皆様に心配をかけない内にここを脱出し戻らなければ」
自分がいなくなれば、無鉄砲に飛び出す主と、それに付き合わされるであろう老師の顔が過ぎりった。そして自分の心を落ち着かせる
為と魔除けの意味があるベルトにくくりつけているサシャを握りしめようと手をやった。
「あれ? 」
(どこで落としたのでしょう)
本来サシャがあるべきところは、切れた紐が残っているだけだった。それは何か悪い事が起きる先触れのようにクリフトは感じ、身震
いをした。
「魔除けの意味もあるサシャが切れてしまうとは、何も起こらなければいいのですが……」
何も分からない状態でため息しか出なかった。
「クリフト、よく来ました」
聞き慣れない、だが懐かしい女性の声が、クリフトの名を呼んだ。
「ごめんなさい。幼い貴方を残して逝った私達を許して、貴方の悲痛な姿に母はいつも心を痛ませていたのですよ」
振り向けば自分によく似た男女の姿――、それは幼き頃に永遠の別れをした父と母だった。
(父と母がいる筈がない。トルネコさんが言っていたのは、この事ですか)
「貴方の姿を見て、母は居ても立ってもいられなくなり、幼き頃のように貴方の手を引いたのです。クリフト驚いたでしょう」
「ええ、まぁ」
背中に寒々とした居心地の悪さを感じながら、クリフトは曖昧な返事をした。
「もう貴方に苦しい目を母は合わせたくありません。だから、私達と一緒に逝きましょう。今まで一緒にいられなかった分――」
母の手には柘榴の実。それからは死の香りが漂っていた。いや周囲から死の香りがクリフトを押さえつけているかのようだった。
「さぁ、これをお食べなさい」
嫌な圧迫感がクリフトを縛り付けていた。
(姫様!! )
 心の中で叫んだのは愛しい人への呼び声。サシャのオレンジとクローブの残り香が名残惜しげにクリフトを守るように包んだ。

「クリフト!! 」
闇の中で浮かび上がって見えたのは深緑の法衣。探していた人と探していた人とよく似た男女。
かの人が何かを飲み込んだように見えたのは気のせいだっただろうか。

死の国の食べ物を食べたらもう戻れなくなる――