クリフトとアリーナの想いは @ wiki

2013.04.05

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kuriari

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クリフトのアリーナの想いはPart12.5
934 1 名前: 1 Mail: sage 投稿日: 2013/04/05(金) 18:37:38.12 ID: b+2l9xf/0

「ひめさま、ぼくはひめさまがだいすきです。
どうかぼくとけっこんしてください」


サントハイム城の脇の小さな丘の上。
いつものように仲よく遊んでいた二人。
あたたかで優しい春の光にはぐぐまれたシロツメクサの花畑で作った花冠を差し出して、
少し顔を赤らめた幼い少年は、同じく幼い姫君に、突然求婚したのだった。

「へ?“けっこん”ってなあに?クリフト」

クリフトよりも幼い姫君は、結婚という言葉をまだ知らなかった。
一瞬戸惑うクリフトは頭をひねる。

「ええと、けっこんというのは、あいするふたりがするものなのですよ。
けっこんすると、ふたりはずっとずっと、いっしょにいられるのです。」

「そうなの?じゃあ、もしわたしがクリフトとけっこんしたら、
いつでもいっしょにあそべるのね?
いまみたいに、ひがくれたらばいばいしなくちゃいけないってこと、なくなるのね?」

「はい。きっと、いちにちじゅういっしょにいられます。
よるねむるときも、いっしょです。」

「まあ、すてき!そしたらどんなにこわいゆめをみても、へいきだわ。」

アリーナは大きな鳶色の瞳を輝かせて、クリフトを見つめた。

「はやくけっこんしましょう、クリフト!
どうやったらけっこんできるの?」

「けっこんしき、というのをするのです。」

「けっこんしきね!じゃあさっそくけっこんしきをしてちょうだい、クリフト!」

待ちきれないというように、クリフトの服の袖をつかんで、
アリーナはぴょんぴょんと跳ねた。

「ちょっとまってください、ひめさま。けっこんしきは、ぼくたちだけではできないのです。
ぼくはきょうかいで、いつもけっこんしきをみているからわかるのですが、
どうやらけっこんしきというのは、しさいさまにしていただくものらしいのです。」

「じゃあさっそく、しさいさまにおねがいにいきましょう!」

「はい!」


ふたりはお城の教会に向かって走って行った。

「これはこれは。ごきげんようアリーナ姫さま。
今日もクリフトと一緒に遊んでいらっしゃったのですか。
お二人は本当に、仲良しですね」

司祭様は、腰をかがめて視線の高さを合わせると、
小さな二人のお客の来訪を喜んで、にっこりとほほ笑んだ。

「しさいさま、きょうはおねがいがあってきたのよ。」

「ほうほう、姫様のお願いとはいったいなんでしょう。」

「しさいさま、おねがいです。ぼくたちのけっこんしきをしてください。」

「えっ?」

司祭様は予想外のセリフに、一瞬驚きの顔をしたが、
すぐにまた微笑んでふたりを見つめた。

「どうして二人は結婚式をしたいのです?」

「けっこんしたら、ずうっといっしょにいられるのでしょ?
わたしはクリフトとずっといっしょにあそびたいの。
だからよ!」

「ぼくもひめさまとずっといっしょにいたいのです、しさいさま」

二人の真剣なまなざしに、司祭様は微笑みながらも、少しだけ悲しげな顔をした。

「そうですか。ふたりはとても仲良しだから、今よりももっともっと
一緒にいたいと思ったのですね」
「そうなの!」
アリーナは元気よく答えた。
「なるほど。しかし二人とも。結婚というのは、
愛を誓う大人の男女がするもの。
まだお小さいあなた方がするには、少し早すぎですね。」
司祭様は二人の頭をなでながら、目を細めた。
「えっけっこんって、おとなにならなきゃできないの?」
「そうです」
「しさいさま、おとなになるにはどうしたらよいのでしょうか」
真剣な表情で尋ねるクリフトに、司祭様はちょっとだけ困った顔をして答えた。
「神への感謝を忘れず、日々清く正しく過ごしていれば、いずれ自然と大人になれるでしょう。」
「えー、それじゃあ、いつまでまてばいいのかわからないわ。もっとよくおしえて、しさいさま!」
「そうですねえ…。わかりやすくいうと、まあ…歳でしょうか…。」
「なんさいになったらおとな?」

「うーん…だいたい、15歳くらいでしょうか。そのくらいの年ごろになると、結婚する若者もおりますから。」
「15さいですか。15さいになれば、ひめさまとけっこんできるのですね」
ぱああと、クリフトの表情が明るくなる。それを見て、司祭様の心はまた、ちくりと痛んだ。
「…クリフト。あなたはひめさまよりも二つ年上でしょう。姫さまが15歳になるには、もう少しかかりますよ。」
「そ、そうか。えーとそうしたら、わたしが17さいになったら、ひめさまも15さいになるから…。あと…10ねんですね!」
「クリフト、10ねんってなに??どうやったらわたしは15さいになれるの?」
「おたんじょうびがあと10かいきたらよいのです、ひめさま」
「えーーーーっ 10かいも!?つぎのおたんじょうびだって、まってもまってもなかなかこないのに、それを10かいもまたなきゃいけないのね」
待つ、ということが苦手なアリーナは、その途方もない時間の長さにがっくりと肩を落とした。

「ひめさま…けっこんするの、いやになってしまいましたか…?」
不安そうに、おずおずと肩をすくめながら、うつむくアリーナの顔を覗き込むクリフトに、アリーナは視線を向けると、ふんっ、と勢いよく胸をはって答えた。
「いやになんてならないわ!わたしはずっとクリフトと一緒にいたいもの!10かいおたんじょうびがきたら、きっとけっこんしましょう、クリフト!」
「はい!」
クリフトは元気よく返事をした。そうして、二人は司祭様のほうを振り向くと、にっこり笑って言った。
「じゃあ、わたしたちがおとなになったら、そのときはちゃんと、けっこんしきをしてね、しさいさま!やくそくよ!!」
「しさいさま、よろしくおねがいします」
司祭様は何も言わず、ただ、微笑んだ。ふたりは勢いよく教会から外へ走って行って、きゃっきゃと追いかけっこを始めた。


司祭様はゆっくりと扉の外へ出て、仲良く走り回る二人の様子をさみしそうに眺めたーーーーーーーーーーー


ゴーンゴーン。

青く澄みきったサントハイムの空に、教会の鐘が響き渡る。
魔族に脅かされた世界はすっかり平和を取り戻し、
失われていたサントハイム城の時間も、再び時を刻み始めてしばらくたつ。
あの春の日の約束から、季節は10回以上めぐっていた。
司祭はあの日の約束を思い出し、目を細めた。小さな子供たちに言えなかった、あの日の真実。
いくら仲が良くとも、姫君と従者。身分の壁がそこにある限り、幼い二人の純真な想いは叶うことがないのだと、心を痛めたあの日。

「……約束を…本当に果たせる日が来るとは、あの時の私は考えもしませんでしたよ」
「え?司祭様何か言った?」
「何のお話ですか、司祭様?」
目の前の、白い衣装に身を包んだ二人は、きょとんとして司祭を見た。
「いいえ、こちらのことです」

微笑みながら、すっかり立派な大人になった二人を眺めた。
約束を果たせるはずの大人に近づくごとに、
その願いは叶うべくもないことを思い知っていく神官の苦悩を、間近で見てきた。
あの日痛んだ心のままに、若い神官が現実にさいなまれてゆくのを。

しかし、自分の予想は覆されたのだ。

世界を平和へと導いた英雄となった二人は、身分の壁を乗り越え、国王からも民からも祝福されて、
今日、この瞬間、幼い日に交わした約束を果たすのだ。


「それでは、二人とも。誓いの口づけをーーーーーーーーー」



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