クリフトとアリーナの想いは @ wiki

2009.6.08

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kuriari

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クリフトとアリーナの想いはPart10
54 名前: 隣で 1/6 ◆/Vo4sINk9g  Mail: sage 投稿日: 2009/06/08(月) 01:45:07 ID: +8EX44LNO

その町にも、夏が訪れようとしていた。
武器や防具を買い揃えた一向は、また明日からの厳しい旅路に備えて宿をとり、身体を休めることにした。

「……あ」
その一室。その日の支出の記録をつけようと帳面を開いたクリフトは小さく声を洩らした。
「何?どうしたの?」
アリーナはガシャガシャと新しい武器を調整していたが、その声を聞き逃さなかった。
アリーナの好奇心に輝く瞳を見たクリフトは、思わず苦笑する。
「今日、この地方では流星群が見られるはずなのですよ。五十年程の周期で現れるのですが、ちょうど今年がそれに当たるのです」
「じい!見に行ってもいい!?」
「お好きなようになさってくだされ……
 まったく、買い物は戦闘よりもこたえますわい」
窓際の椅子に腰掛けたブライがぐったりと返した。
「えー、ブライは行かないの?」
「ここからでも空は見られますからな。
 ところでクリフト、今回は何時頃から始まるのじゃ?」
「一時間程前に始まっているはずですから、もうそろそろ終わってしま」
「行きましょうクリフト!」
「あああ姫様、お待ちください!」
二人の出ていった扉を見つめて、ブライは溜め息をついた。

「もう、どこ行ったのかしら。せっかくみんなで見ようと思ったのに」
夕食の後、仲間たちは各々宿を出たようだった。町を探し歩くが、その姿は見当たらない。
「仕方ないわ。早く良い場所に落ち着かないと見逃しちゃう!」
「あの丘の辺りはどうでしょう。高い建物がありませんから、きっと空全体が見渡せますよ」
「そうするわ。ほらクリフト、はやく!」
「足下にお気をつけください!」

アリーナは一気に小高い丘をかけ上がり腰を降ろすと、クリフトの方を振り返る。クリフトもその隣にゆっくりと座る。
そわそわと身体を揺らすアリーナを見兼ねて、クリフトが口を開いた。
「一点に集中すると見つけにくいですよ。空全体を、ゆっくりと見渡すのです」
「ありがとう、そうしてみる」
アリーナは足を抱えていた手を地面に付け、後ろへ仰け反った。

「……夜空って大人しくてつまんないって思ってたけど、そうでもないのね。色とりどりで綺麗だわ」
クリフトが空からアリーナに視点を移す。
「色までお分かりになるのですか?」
「え?見えるわよ!」
アリーナは少し驚きながらも、得意気に言った。
「クリフト、目悪いの?」
「良くはないですよ。一応気を付けてはいるつもりなのですが、本を読む機会が多かったもので……」
「そうね。よく図書室に遊びに行ってビックリされたわ……」
楽しそうに語る横顔の端にふと哀惜の影が過るのを見て、クリフトの胸が痛んだ。
「あの星、明るくて綺麗!色はね……青っぽいわ。見える?」
「はい、三つ明るい星が並んでいますね」
「もう片方の端っこは白で……真ん中は赤ね」
「赤ですか。……赤は、大好きな色ですよ」
「へえ、意外。もっと落ち着いた色が好きなのかと思ってたわ」
アリーナは大きな目を見開いた。
「身に付けることが少ないからですかね。私には似合いませんから……
 ですが見ていると励まされて、幸せな気持ちになるのです」
クリフトが穏やかに目を細める。彼の見つめる赤は、もう夜空に向けられていた。

「あ!」
突然、アリーナが叫ぶ。
「今流れたわ!あそこ!見えた!?」
「えっ、申し訳ありません、見えませんでした……」
「また流れるかしら?あんなに速くちゃ三回唱えるなんて絶対無理だわ!」
「唱える?」
「願い事。流れ星が消える前に三回唱えたら、叶うんでしょ?」
クリフトの脳裏に、城の図書室が浮かんだ。幼い頃、活字を読むのが嫌いなアリーナにせがまれて読んだ本に、そんな話があった。
「ええと……多分一回でも大丈夫だと思いますよ。要は願いの強さではないでしょうか」
「分かった。力一杯お願いするわ」
珍妙な言い回しだが、何故かアリーナが言うと違和感がないから不思議だ。
「次に見れたら、終わりにしましょうね。風が冷たくなって来ました」
本当は、少しでも長く凛々しい横顔を見つめていたかった。だがこのままでは、ずっと帰る気になれないだろう。
クリフトも夜空を見上げた。

「あ!」「あ!」
二人の頭上を、白い光が駆けた。

「見えた!?見えた!?」
「はい!見えました!」
上気した顔を見合わせる。
「ああっ!願い事言うの忘れてたわ……!」
「今なら大丈夫だと思いますよ。きっとどこかの流れ星が聞いてくださいます」
アリーナは頷くと、立ち上がった。
一つ深呼吸をすると、胸に手をあて、空を見上げる。
…が、またクリフトに視線を戻した。
「一つじゃないとだめ?」
クリフトはくすりと笑うと、一つだけです、と返した。
アリーナは腕を組んで考え込んでいたが、漸く顔を上げると、言った。

「次の流星群までに、クリフトの目が悪くなってませんように!」

クリフトはしばらくぽかんとアリーナを見上げていたが、慌てて立ち上がるとありがとうございます、と礼を述べた。
「……サントハイムのみんなのことを願おうかと思ったの。でもね、きっとそれは願うことじゃないわ。私が頑張らなきゃ!」
ぐっと拳を握りしめるアリーナに、クリフトは胸が熱くなるのを感じた。
「そうですね。私も粉骨砕身、力の限り闘います」

いつか、世界中の人々が本当の平和を手に入れられるように。
アリーナの大切な人達を取り戻すために。
そしていつか来る別れの時まで ――そう、それがほんの一時だったとしても―― アリーナの傍で穏やかなサントハイムの明日を迎えるために。

次に流星群が現れるのが五十年後であるということなど、アリーナは忘れているのだろう。だが、故郷の次に自分のことを願ってくれた、そのことが何よりもクリフトを励ました。
宿に向かって歩く背中は、一つの国を背負うにはあまりにも小さく見えた。自分にはどれだけのことが出来るだろう。いつまでこの背中を支えることが出来るだろう。……きっとそれも問うことではないのだ。自分が為し遂げなければ。この小さく気高い王女のように。

クリフトが足を踏み出したその時、アリーナが振り返った。
「そうだクリフト!動体視力も鍛えておいてね!
 五十年後は、もっとしっかりさがしてもらわなきゃ!」
「……姫様、それは……」

クリフトは夜空に一礼すると、アリーナに駆け寄った。


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